著者
髙橋 甲枝 清村 紀子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.70-76, 2017-12-20 (Released:2017-12-20)
参考文献数
20

三角筋での筋肉内注射は, 腋窩神経損傷の危険性が指摘されるものの簡便性の観点から臨床では頻用されている. 先行研究において, 安全な三角筋筋肉内注射部位を特定するために解剖体から腋窩神経の形態学的データの収集がなされているが, 防腐処理された三角筋を骨格から切離した解剖体でのデータを生体に適応することが妥当であるという検証はなされていない. そこで, 解剖体データの生体への適応可能性を検討することを目的として, 磁気共鳴画像法 (以下MRI : magnetic resonance imaging) を用いて, 肩峰角から腋窩神経と伴行する後上腕回旋動脈までの距離を計測し, 現在までに収集した計44の女性解剖体の結果と比較した. 結果, 被験者5名の肩峰角から後上腕回旋動脈までの距離のMRIデータは解剖体の肩峰角から腋窩神経までの距離のデータと近似しており, 解剖体で得られた結果は, 生体での安全な注射部位を特定していくためのデータとして活用可能性が示唆された.
著者
菊池 和子 高橋 有里 小山 奈都子 石田 陽子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.66-75, 2009-04-10 (Released:2016-08-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

本研究は筋肉内注射部位の皮下組織厚を明らかにし, 注射針刺入深度を検討することを目的とした. 対象者は調査同意を得た男性 174名, 女性 156名の合計 330名. 筋肉内注射部位の皮下組織厚を超音波診断装置で測定し, 皮下脂肪計による測定値等との関連をみた. その結果, 男女で有意差 (p<0.01) があり, 年代別では, 中殿筋部で, 65歳以上と 18~ 64歳で有意差 (p<0.01, p<0.05) がみられた. 超音波診断装置による皮下組織厚 (cm) の平均値は, 三角筋部は, 男性 0.59±0.18, 女性0.71±0.23. 中殿筋部ホッホシュテッターの部位, 男性 65歳未満0.79±0.31, 65歳以上0.58±0.28, 女性 65歳未満1.05±0.41, 65歳以上0.76±0.29. クラークの点, 男性 65歳未満0.85±0.34, 65歳以上0.63±0.25, 女性 65歳未満1.16±0.42, 65歳以上0.92±0.43, 4分 3分法の部位, 男性 65歳未満1.05±0.43, 65歳以上 0.68±0.30, 女性 65歳未満1.41±0.48, 65歳以上1.20±0.68. 皮下脂肪計による測定値と超音波診断装置による皮下組織厚に強い相関関係があり, 皮下組織厚を算出する回帰式を求めた. 算出された数値が注射針刺入深度決定の指標と考えられる.
著者
石井 和美 中田 弘子 小林 宏光 川島 和代
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.17-25, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
14

本研究の目的は, ディスポーザブルタオル (以下, ディスポタオル) を用いた部分清拭が高齢者の皮膚に与える影響を明らかにすることである. 地域在住の65~74歳の高齢者27名を対象に, ディスポタオルと綿タオルを用いて左右の前腕の清拭を実施し, 清拭前後の清浄度, 水分量, pH, 皮膚温を測定した. これらの客観的測定に加えて, タオルの使用感について清拭後に主観的に評価を行った. 結果はディスポタオルによる清拭後の皮膚清浄度は綿タオルと同等で弱酸性を保持していた. ディスポタオルの清拭後15分までの皮膚水分量は高く (P<0.01) , 一方で, ディスポタオルの方が清拭後の皮膚温の低下が大きかった (P<0.01) . 主観的評価ではディスポタオルの「やわらかさ」と「肌触り」に差がみられた (P<0.05) . これらの結果からディスポタオルの清拭においても拭き取り後の気化による熱損失が大きいため, 皮膚上の水分を十分に拭き取る必要があることが示唆された.
著者
柴田 幸子 西之園 絢子 赤崎 美由紀 細田 悦子 正野 逸子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.54-60, 2007-05-20 (Released:2016-10-25)
参考文献数
12

本研究の目的は, 人工膝関節全置換術 (以下TKA) 後においてコールドパックを用いたクライオセラピーの有効性を検討するものである。48例48膝を対象とし, 無作為にクライオセラピー実施群 ・ 非実施群に分け, 体表面温度 ・ 出血量 ・ 下肢の腫脹 ・ INR値 ・ 疼痛を計測した。体表面温度と疼痛は, 帰室時 ・ 術後4時間 ・ 10時間 ・ 24時間 ・ 48時間 ・ 72時間に計測し, 出血量と下肢の腫脹は術後 24時間 ・ 48時間 ・ 72時間の計測, INR (プロトロンビン比の国際正常化指数) 値は術前 ・ 術後4日目の測定とした。結果は体表面温度においては実施群の患肢は非実施群よりも1℃程度経時的に低下し有意差が認められた。出血量 ・ INR値においては両群間に有意差は認められず, 腫脹においても大腿周径 ・ 膝関節裂隙周径 ・ 下腿周径それぞれの部位にて有意差は認められなかった. VASを用いた疼痛評価においても有意差は認められなかった. 今回の研究からコールドパックを用いたクライオセラピーではTKA後72時間においては膝内側体表面温度 ・ 出血量 ・ 下肢の腫脹 ・ INR値 ・ 疼痛に対する有効性はないことが示唆された.
著者
石田 陽子 三浦 奈都子 武田 利明
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.58-65, 2004-04-30 (Released:2016-10-25)
参考文献数
29
被引用文献数
2

薬剤漏出による皮膚組織傷害に対する処置として, アクリノール湿布は日常的に用いられている. しかしながら, その効果を裏づける科学的な実証データは少ない. そこで本研究では, 薬剤漏出による組織傷害に対するアクリノール湿布の作用を明らかにすることを目的に, 実験動物を用いた基礎的研究を行った. 起壊死性抗がん剤であるドキソルビシン (アドリアシン®) と起炎症性薬剤として知られているジアゼパム注射液 (セルシン®) を使用し, ラット背部皮膚にこれらの薬剤を漏出後, アクリノール湿布を4日間施行した. 湿布貼用後, 薬剤漏出部の肉眼的観察および組織学的検索を行った. その結果, 各薬剤を漏出したラット皮膚において, 肉眼的に異常所見は認められなかったが, 組織学的に, 皮下組織に重篤な浮腫や炎症性細胞の浸潤が観察され, 薬剤漏出による組織傷害像を確認した. このような薬剤漏出部において, 組織傷害の程度を, アクリノール湿布を貼用した群と貼用しない群で比較検討した結果, アクリノール湿布の効果を示す知見は得られなかった.
著者
金子 健太郎 熊谷 英樹 尾形 優 竹本 由香里 山本 真千子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.35-41, 2009-12-05 (Released:2016-08-25)
参考文献数
14
被引用文献数
7

若年健常男子 19名 (平均年齢 21.3±3.4歳) を対象に,心拍数と血圧,体表温 ・ 皮膚血流量,心拍変動 (heart rate variability : HRV),圧受容器反射感受性 (baro -reflex sensitivity : BRS) を用い,仰臥位による足浴の生理学的効果を検討した.HRVから低周波成分 (low frequency : LF) と高周波成分 (high frequency : HF) を算出し,副交感神経活動指標を HF,交感神経活動指標を LF/HFとした.足浴 (湯温40℃,15分) は安静仰臥位 15分後に実施し,足浴前から足浴後 30分間 (足浴後 0~ 15分 : 足浴後 1,足浴後 15~ 30分 : 足浴後 2) 連続して測定値の観察を行った.足浴前と比べた結果を以下に示す.心拍数は足浴後1,2で有意に減少した.血圧は,収縮期血圧,拡張期血圧ともに足浴後 2において有意に減少した.HFは足浴後 1,2で有意に増加した.LF/HFは足浴中で有意に増加した.BRSは足浴後 1で有意に増加した.足部,胸部体表温と足部皮膚血流量は,足浴中から足浴後1,2にかけて有意に増加した状態を維持した.足浴は全身循環に大きな負担をかけることなく,かつ末梢循環を促進,維持させ,自律神経活動に関しては,足浴後に副交感神経活動を賦活化させ,交感神経活動を抑制することが確認された.
著者
須賀 京子 渡邉 順子 岩瀬 敏 西村 直記 清水 祐樹 岩瀬 千尋
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.137-145, 2015-08-20 (Released:2016-04-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究の目的は,女性高齢者が継続的に実施するフェイスケア (化粧水と乳液を用いるスキンケア, 以下FC) がもたらす生体への影響について, 前頭前野における組織酸素レベルと自律神経反応から明らかにすることである. 65歳以上の健康な女性高齢者18名 (平均年齢68±4歳) が,3週間のFCを継続して実施し,その初日と最終日に近赤外分光法 (NIRS) による前頭前野の脳組織酸素レベルと皮膚血流量, 心拍変動, 皮膚コンダクタンスを用いた自律神経活動を測定した.初日は安静時と比較してFC時に前頭前野における⊿deoxyHbの上昇が認められたが,血液量に変化はなかった.しかし,最終日には安静時と比較して血液量が低下した.また,初日と最終日でともに安静時と比較してFCでは心拍変動のHFの上昇を認め,副交感神経活動の亢進が示された.健康な女性高齢者自身が行うFCは,前頭前野の活動を抑制し,副交感神経活動を亢進させることが示唆された.
著者
橋本 みづほ 佐伯 由香
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.61-68, 2003-09-10 (Released:2016-10-25)
参考文献数
33
被引用文献数
2

清拭の皮膚の水分量 ・ 油分量 ・ pHならびに清浄度 (ATP) に及ぼす影響を調べるため, 清拭前から120分後までの経時的な変化を測定し, 一般的な清潔形態である入浴と比較検討した. 対象は20代から40代の健康な女性7名とした. その結果, ①入浴群の水分量は直後に一旦増加した後60分後には有意に減少し, 実験前値より低値を示した, ②入浴群の油分量は120分後まで有意に減少し, 減少程度は清拭群よりも有意に大きかった, ③ pHは両群ともに直後に有意に増加したが清拭群では30分後に戻った, ④ ATPは両群ともに直後に有意に減少したが120分後には戻り, 減少程度は入浴群の方が大きい傾向があった. 以上の結果, 入浴に比較して清拭の方が水分量 ・ 油分量 ・ pH ・ ATPの変化量が少なく, 皮膚が本来持っている機能に与える影響が少ないこと, その一方で清拭の方が除菌効果および皮脂の除去に関する効果が低いことが示唆された.
著者
住吉 和子 中尾 美幸
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.36-40, 2017 (Released:2017-08-28)
参考文献数
14

女子大生18名 (甘酒群11名, 対照群7名) を対象に, 甘酒の摂取が便秘に及ぼす影響を明らかにするために, 2週間150mLの甘酒を摂取してもらった. 実験は倫理委員会承認後に本人の了解を得たうえで開始した. 効果の評価は, 日本語版便秘評価尺度 (以下MT-CAS), 排便頻度, 便秘の辛さを用いて, 便秘尺度の得点, 排便頻度, 排便の辛さの得点をWilcoxsonの符号付き順位検定を用いて, 甘酒群と対照群をそれぞれ比較した. 排便の頻度は, 甘酒摂取群が有意に改善し (P=0.046), MT-CASの合計得点 (P=0.009), 「便の回数」 (P=0.025) で有意に改善していたが, 排便の辛さは両群に有意な差はみられなかった. 以上の結果から, 1日1回の甘酒の摂取により, 便秘が改善される可能性があることが示唆された.
著者
原田 清美 西田 直子 北原 照代
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.164-173, 2015-08-20 (Released:2016-04-26)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究の目的は,看護師の看護作業による腰痛への効果的な予防対策を講じるために,腰痛の有無と看護作業との関連を明らかにすることである. 平成24年10月に,A大学病院に勤務する看護師320人を対象とし,無記名自記式質問紙調査を実施した. 調査項目は,腰痛の状況,身体的につらい看護作業,移乗・移動介助方法など計32項目である.腰痛の有無別,ベッドから車椅子への移乗,体位変換やベッド上での移動介助方法の比較には,フィッシャーの直接確率検定を用いた. その結果, 「現在腰痛がある」 と回答した看護師は144人 (54.3%) であった.腰痛あり群は,なし群にくらべ,多くの看護作業が身体的につらいと感じていた.腰痛あり群は,移乗および移動介助を 「一人で実施している」 と回答した割合が高く,移動介助では有意な差を認めた (P =0.012).また両群ともに 「道具を使う」 と回答した看護師の割合は低かった.これらのことにより,移乗・移動介助を一人で行わないことや道具を活用するなどの腰痛予防対策を取り組む必要性が示唆された.
著者
安田 佳永 矢野 理香
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-8, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
26

本研究の目的は, 静脈穿刺における血管怒張手技の怒張効果検証のための実験設計, 測定方法, 実施後の怒張効果に焦点を当て, 血管怒張手技の有効性の研究動向を明らかにすることである. Cooper (1998) の統合的文献レビューの方法を参考に行った. 国内文献は医学中央雑誌web版, 海外文献はCINAHL web版およびPubMedを用いて, 「 (血管AND怒張) AND穿刺」, 「 (血管AND拡張) AND穿刺」, 「 (静脈AND怒張) AND穿刺」, 「 (静脈AND拡張) AND穿刺」をキーワードとし, 文献検索を行った結果, 10件の国内文献と6件の海外文献が分析対象となった. 結果, 80%以上が駆血と温罨法に関する文献だった. 血管怒張手技により, 血管断面積や血管径は大きくなり, 血管の深さは浅くなること, 穿刺成功率は増加し, 針の挿入時間は短縮されることが明らかになった. しかし, 同じ怒張手技でも研究間で実施時間や使用用具などの方法に差異があり, 怒張の程度は異なっていたため, 一概に手技の比較ができないと考えられた.
著者
河合 桃代
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.63-72, 2015-04-20 (Released:2016-04-26)
参考文献数
23

本研究の目的は,看護師と嚥下障害者の身体を介した相互作用に焦点を当てて,食事介助のわざを明らかにすることである.研究方法は質的研究方法で,参与観察法と看護師による嚥下障害者への食事介助場面のビデオ視聴をもとにした対話を用い,質的帰納的に分析した.研究参加者は,経験年数が7年と30年以上の看護師2名と,脳血管疾患の後遺症で嚥下障害を伴う高齢者3名であった.嚥下障害者への食事介助における看護師のわざとして5つのカテゴリー 【食べる構えをつくる】 【舌との触れ合いを待つ】 【舌の動きを補う】 【噛む動きをつくる】 【飲み込みを助ける】 が見い出された.看護師は身体に触れ,客観的には見えない口の中などを視覚的イメージにより理解していた.嚥下障害者の身体の動きを声として受け止め,自身の身体の動きを変えて同調した.さらに,嚥下障害者が自ら身体を動かす機会をつくって食べる意欲を引き出しつつ,身体の動きを補完して支援した.
著者
大﨑 真 武田 利明
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.231-237, 2015 (Released:2016-04-01)
参考文献数
24
被引用文献数
1

点滴による静脈炎発症後の看護ケアとして,症状緩和のために冷罨法が行われているが,冷罨法の目的である炎症抑制効果に関する具体的な検討はなされていない.そこで本研究では,点滴による静脈炎に対し効果的な冷罨法の温度を明らかにすることを目的とし,ラットを用いた実験研究を行った.薬物を投与して実験的にラットの尾部に静脈炎を作製後,薬物注射部位の表面温度を 10℃,15℃,20℃となるよう冷罨法を施行し,罨法を施行しない対照群と肉眼的所見,腫脹について,症状の経過を比較検討した.その結果,腫脹の項目において温度による明らかな差が認められた.したがって,本実験条件下において静脈炎に対する冷罨法の適正温度は 20℃であると考えられた.
著者
大西 由紀 杉本 吉恵 網島 ひづる 大西 英雄
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.14-20, 2010-08-20 (Released:2016-08-25)
参考文献数
19

安全で効果的な湯たんぽの貼用方法の基礎的資料を得るために,湯温 60℃と 80℃の湯たんぽを用いて寝床内の保温範囲,快適な温度への到達時間 ・ 持続時間,保温量などの寝床内温度の経時的な変化を測定し比較検討した.その結果,寝床内の温度は両湯温とも実験開始から 10分までに急激に上昇し,その後緩やかに下降した.また,湯たんぽ周囲から離れるほど寝床内温度は低下し保温量も少なくなることが明らかとなった.さらに,快適な寝床温度 (32~34℃) は湯温 60℃では 5 cm,80℃では 10 cmの位置に湯たんぽを貼用することで約 20分後に得られ,約 4.5時間程度持続することが判明した.一方,60℃でも湯たんぽの表面温度は最高で 44.5℃まで上昇し,43℃以上の表面温度が 110分間持続していることから低温熱傷の危険性があると考えられる.安全で効果的な貼用方法を検討するためには寝床内温度の変化を考慮することが重要である.
著者
村 竜次 升田 由美子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.63-70, 2023-12-20 (Released:2023-12-20)
参考文献数
28

本研究の目的は, 末梢静脈路確保時に最も効果的なアームダウンの体位を検討することである. そのため, ヘッドアップの角度の違いによる静脈怒張効果を比較した. 被験者は20~30代の健康でBMIが標準な女性20名とし, 基礎データ (年齢・身長・体重・BMI・上腕周囲長・上腕三頭筋皮下脂肪厚・血圧・体温) と各体位 (仰臥位に駆血, ヘッドアップ30°・45°・90°に駆血) の静脈要因 (断面積・深さ・血管周囲長, 静脈の縦径・横径), 目視怒張度および触知怒張度を測定ならびに判定を行った. 最も静脈怒張を示したのはヘッドアップ90°に駆血を加えた体位であり, すべての静脈要因で有意な効果がみられた.
著者
佐々木 杏子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.4-13, 2014-01-20 (Released:2016-07-08)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究は,看護技術のイノベーションといえる褥瘡ケアの日本における普及過程を,文献レビュー,普及を裏付ける資料,インタビュー調査により明らかにし,その結果をロジャーズのイノベーション普及理論に基づき分析を行い,普及に影響した要因を明らかにする事例研究である.褥瘡ケアの普及の第一の促進要因として,課題とする現象に深く関心を寄せ活動を行う複数のチェンジ ・ エージェントの存在があげられた.チェンジ ・ エージェントを核として,現場で技術を示すことのできるローカルオピニオンリーダーが多数存在し実践活動を行っていること,マスメディアや学会等をはじめとするさまざまなコミュニケーション ・ チャンネルを有効活用したことも普及に関連した.また,イノベーションの科学的根拠を蓄積する研究が,基礎研究も臨床研究も積み重なっていなければならないことも示された.褥瘡ケアに特有な要因として,長年の褥瘡ケアへの不全感,成果が目に見えることがあげられた.
著者
三輪 真理 辻村 真由子 鈴木 育子 石垣 和子 山本 則子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.84-92, 2009-04-10 (Released:2016-08-25)
参考文献数
10

摘便終了後の便失禁は在宅療養者と家族の大きな負担である. 本研究は, 摘便後の便失禁を防ぐ方法として実践家が用いる技術を明文化し, その有効性を実証的に検討した. 便失禁を予防する技術を看護師 4名 ・ 家族介護者 1名から聞き取ってまとめ, 訪問看護師 8名にこのまとめに基づいて摘便を実施してもらい, 実践からデータ収集して検討した. 12名の療養者への計 68摘便のデータを得た. ①まとめに基づいた摘便の実施により便失禁は減少しなかった. ② 「粘液が出る」 という摘便終了の目安がみられた摘便では, みられなかったときよりも便失禁が有意に少なかった. ③ 「粘液が出る」 は浣腸を実施した場合にのみ発生した. ④ 「腸がおりる ・ とじる」 という目安がみられた摘便では, 便失禁が少ない傾向がみられた. 浣腸をする場合, 粘液が出るまで摘便を実施することが, 便失禁予防に役立つ可能性がある. 「腸がおりる ・ とじる」 という目安はさらに検討する必要がある.
著者
川原 由佳里 守田 美奈子 田中 孝美 奥田 清子 本江 朝美 田中 晶子 五味 己寿枝
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.46-55, 2009-06-05 (Released:2016-08-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本研究の目的は, ①触れるケアをめぐる看護師の経験, ②臨床のなかでの触れるケアの位置づけ, そしてアロマセラピストの語りとの比較を通じて③看護における触れるケアの特徴を明らかにすることである. 看護師 13 名とアロマセラピスト 4 名に面接を行い, 参加者の語りを身体論的な観点から分析した. 結果, 看護師は生活援助やコミュニケーション等のさまざまな場面で, 直観的に相手のニーズを把握し, 即応的に触れるケアを行っていた. 触れている最中, 看護師は自らの手に感じられる相手の状態に集中し, 相手の心身の変化を感じとっていた. 看護師たちは触れるケアの効果を確信をもって語り, そうしたケアに看護職としての喜びを見出していたが, 治療中心, 効率性優先の臨床では, 触れるケアは特別な価値をもつものとは認識されず, その体験を誰かと共有することも少なかった. 看護師自身にも触れるケアの価値そのものが認めづらい現状が明らかになった.
著者
菱沼 典子 大久保 暢子 加藤木 真史 佐居 由美 伊東 美奈子 大橋 久美子 蜂ヶ崎 令子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.123-132, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
38

目的: 看護技術研究の成果が実践や教育に活かされているかどうかを検討する目的で, 言い伝えや経験知に基づく看護技術の使用の実態を調査した. 方法: 看護協会等の研修会に参加した看護実践家と看護教員計476人を対象に, 研究により①確立されている技術, ②確立には至っていない技術, ③疑問が呈されている技術・手技について, 自記式質問紙調査を行った. 結果: 458部を回収 (回収率96.2%)し, 有効回答は374部 (有効回答率81.7%) であった. ①の例では点滴漏れへの対処に適切な冷罨法の実施は21.4%であった. ②では採血時に親指を中にして手を握ることを90.1%が実施していた. ③では浣腸前の摘便を27.5%が実施していた. 考察: 確立している技術が使われず, 確立途中の技術は使われ, 疑問を呈されている技術も使われている実態は, 研究成果と実践や教育に隔たりがあることを示している. 研究成果の活用には容易なアクセスと共有が課題であると考察した.
著者
志戸岡 惠子 内藤 直子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.26-35, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
21

慢性期脊髄損傷 (脊損) 者の排便形態・便失禁の有無が, 自尊感情 (自尊) と自己効力感 (効力) に与える影響の明確化を試みた. Webと郵送募集に応じた対象者114人 (男92, 女22) に, 調査票を配付した. 対象者の年齢中央値は47歳 (8-80) , 脊損後経過年数中央値は14年 (1-55) であった. 排便形態は, 摘便・坐薬・浣腸が96人, 人工肛門が5人, また, 便失禁あり (失有) 85人, なし (失無) 29人であった. 自尊指標平均値は, 失有群26.1±7.0で, 失無群の29.4±6.1より有意に低かった (P=0.027) . また, 人工肛門群は33.6±6.1で, 摘便・坐薬・浣腸群の26.8±6.9より有意に高かった (P=0.034) . さらに, 便失禁頻度が「月数回」の場合に, 他の群より有意に高かった (P=0.042, ANOVA) . 一方, 失有群の効力指標平均値は8.4±4.2で, 失無群の10.2±4.4より有意に低かった (P=0.045) . 排便形態, 便失禁頻度による差はなかった.  本研究では, 脊損者の便失禁が自尊・効力の低下に影響し, また脊損者が自ら選択した排便形態に適応していることが明らかになった.