著者
山本 晃士 西脇 公俊 加藤 千秋 花井 慶子 菊地 良介 柴山 修司 梛野 正人 木内 哲也 上田 裕一 高松 純樹
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.36-42, 2010 (Released:2010-03-15)
参考文献数
10
被引用文献数
14 17

<背景・目的>手術関連死亡の最大原因は術中の大量出血であるが,その背景には外科的手技による止血が不可能な希釈性凝固障害という病態が存在する.したがって術中の大量出血を未然に防ぐには止血のための輸血治療が必要であり,その治療指針の確立が急務である.<方法・結果>術中の大量出血・大量輸血症例を後方視的に調査した結果,その60%強を胸部大動脈瘤手術,肝臓移植術,肝臓癌・肝門部癌切除術が占めていた.術中大量出血の背景にある止血不全の主要因は,出血量の増加にともなう凝固因子(特にフィブリノゲン)の喪失,枯渇であると考えられた.そこで上記症例の手術中に起こった低フィブリノゲン血症に対し,クリオプレシピテートおよびフィブリノゲン濃縮製剤の投与を行ったところ,速やかなフィブリノゲン値の上昇と止血の改善,および術中出血量・輸血量の顕著な減少(平均で30~40%減)を認めた.<結論>術中の出血量増加時には,フィブリノゲン値を確認した上で速やかにフィブリノゲン濃縮製剤を投与することが,大量出血・大量輸血を未然に防ぎ,手術患者の予後改善に大きく貢献するとともに,血液製剤の使用削減・有効利用につながると考えられた.
著者
高杉 淑子 岡村 奈央子 徳住 美鈴 和泉 洋一郎
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.765-769, 2012 (Released:2013-01-15)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

初妊娠の37歳の女性は,10週に実施した妊娠初期検査で不規則抗体検査は陰性であった.40週に前期破水,陣痛が発来し入院となった.分娩進行中に児心拍が70台となり児頭下降不良のため,吸引分娩となった.胎児娩出後に出血性ショックを認め,薬物治療により血圧は小康状態になったが,出血が続いていたため赤血球濃厚液(RCC)16単位,新鮮凍結血漿(FFP)8単位の輸血依頼があった.緊急輸血のため院内在庫から生理食塩液法(生食法)による交差適合試験陰性のRCC 6単位,FFP 4単位輸血した.ところが不足分を取り寄せ,交差適合試験をポリエチレングリコール―間接抗グロブリン試験(PEG-IAT)法で行うと全て陽性であった.抗体同定検査で高頻度抗原Jraに対する抗体を検出したため,以降はJra陰性の血液を輸血した.その後遅延性溶血性副作用もなく順調に回復した.妊娠の経過中に,陰性であった不規則抗体が陽性化することもあり,妊娠後期に再検査を必要とする場合があると考えられる.
著者
西山 由加李 泉田 久美子 木下 美佐栄 古屋 伴子 吉浦 洋子 川島 博信 松永 彰 井手口 裕 田久保 智子 迫田 岩根 友成 洋子 佐藤 博行 清川 博之 田中 光信 高橋 順子 谷 慶彦
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.267-273, 2011 (Released:2011-09-09)
参考文献数
29
被引用文献数
1

58歳男性.脳出血のため当院救命救急センターを受診した.入院時,AutoVue Innova®のカラム遠心凝集法によるRh血液型検査で抗Dの反応が(3+)と通常より弱く,weak Dまたはpartial Dが疑われた.各種市販抗D試薬およびエピトープ特異的抗Dモノクローナル抗体を用いた精査では,partial DのカテゴリーDBTとほぼ同様の反応パターンを示した.Polymerase chain reaction-sequence specific primers法によるRHD遺伝子解析ではexon 5,6および7の増幅が認められず,更にcDNAのRHD遺伝子領域を直接シーケンス法にて分析したところ,RHD遺伝子のexon 5,6および7がRHCE遺伝子のexon 5,6および7に置換していることが確認された.以上より,本例は本邦でも珍しいpartial DのDBT-1(RHD-CE(5-7)-D)と同定された. カラム遠心凝集法での抗Dの反応は,試験管法に比べ強く反応することが多いので,カラム遠心凝集法で(3+)以下の凝集を示す場合は,weak Dやpartial Dの可能性を念頭におく必要がある.
著者
柿木 康孝 長瀬 政子 高木 奈央 内村 大祐 佐藤 進一郎 高本 滋
出版者
The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.593-600, 2013-08-15
参考文献数
33
被引用文献数
1

発端者(MT)は74歳男性で多発性骨髄腫の診断.カラム凝集法(Ortho Auto Vue)にて抗Aに対する反応が部分凝集(mixed-field agglutination,mf)を示した.フローサイトメトリー法(FCM法)では,A型血球集団とO型血球集団にピークをもつ2峰性のモザイクパターンを示した(A型血球72.6%,O型血球27.4%).血清A型糖転移酵素活性は256倍(対照256倍)と正常で,抗Aに対する非凝集赤血球を用いた抗A吸着解離試験は陰性であった.輸血歴はなく,双生児でもなかった.骨髄染色体は正常核型であった.これらの検査結果は治療により多発性骨髄腫が完全寛解となった後も変わらなかった.発端者の姉(MH)は77歳女性で高血圧にて治療を,発端者の弟(YT)は71歳男性で糖尿病にて治療を受けていた.どちらの症例もABO血液型検査は発端者と同様のmfを示した.FCM法でも同様のモザイクパターンを示したが,A型血球とO型血球の割合は姉(MH)ではA型血球23.6%,O型血球76.4%で,弟(YT)ではA型血球39.3%,O型血球60.7%であった.血清A型糖転移酵素活性も正常であった.同胞3例の<i>ABO</i>遺伝子解析(Exon6,7領域のDNAシークエンス)では,発端者の遺伝子型は<i>A101/O02</i>で,姉は<i>A101/O02</i>,弟は<i>A101/O01</i>であり,<i>A</i>遺伝子型に関しては3例とも共通の<i>A101</i>で,塩基配列の置換・欠失を認めなかった.以上の所見より同胞3例をAmosと判定した.今回の症例はAmosの遺伝的要因をA型亜型と対比して考える上で示唆に富むと考えられた.<br>
著者
中山 享之 加藤 栄史
出版者
The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.450-456, 2013-06-30
被引用文献数
2

間葉系幹細胞(MSC)は,骨芽細胞,脂肪細胞,筋細胞,軟骨細胞など,間葉系に属する細胞への分化能を有し免疫抑制作用も併せ持つことから再生医療や治療抵抗性免疫疾患に対する臨床応用が期待されている.MSCは,種々の組織から樹立できるが,なかでも脂肪組織は,大量のMSCを含むとともに,そこより樹立したMSCは増殖が速く細胞活性も高いため有望な細胞ソースと考えられている.脂肪組織由来MSCを利用した基礎研究,前臨床試験は,血行再建,心筋再生,軟部組織修復,尿失禁,抗炎症,免疫療法(組織片対宿主病,腎障害,肝障害,膠原病など),造血支持療法などの分野で進められており有望な結果が報告されている.また脂肪組織の中には,多能性幹細胞(Muse:Multilineage-differentiating stress-enduring)が他の組織よりも豊富にあることが判明し注目を集めている.Muse細胞は,その表面形質からMSC中に混在していると考えられる.Muse細胞は,ES細胞と比べ腫瘍形成能は低いと考えられており,いわゆる山中遺伝子の導入によって効率的にiPS細胞に変化する.そのためMuse細胞における研究の進展が期待されている.<br>
著者
池田 和彦
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.441-447, 2012 (Released:2012-07-13)
参考文献数
30

真性赤血球増加症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症を含む骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms;MPN)は慢性に経過し,一系統以上の血球が増加するクローン性疾患である.MPNはときに二次性骨髄線維症や骨髄異形成症候群等,輸血依存の状態に至り,急性白血病への移行もみられ,予後不良となる.MPNにおける遺伝子異常として,細胞の増殖に直接関わるJAK2等の変異以外に,エピゲノム調節を担うTET2,ポリコーム群遺伝子のASXL1やEZH2等様々な変異が相次いで報告された.また,様々な遺伝子の発現を調節し,細胞の分化・増殖に関与するHMGA2の変異もMPN等の骨髄系疾患においてみられる.HMGA2の発現はlet-7マイクロRNAによって調節され,HMGA2発現症例においてはlet-7結合部位の存在する3'非翻訳領域(UTR)の欠失がしばしば見られる.そこで我々は3'UTRを欠くHMGA2を発現するマウスを作成,検討を行い,HMGA2の発現がMPN様の造血を引き起こし,造血幹細胞レベルにおいてクローン拡大に関与することを見いだした.MPNの病態において,HMGA2も一定の役割を果たしていると思われる.
著者
岡本 好雄 中橋 喜悦 千野 峰子 松田 和樹 久保田 友晶 岡田 真一 守屋 友美 及川 美幸 李 舞香 木下 明美 青木 正弘 高源 ゆみ 中林 恭子 今野 マユミ 槍澤 大樹 入部 雄司 小倉 浩美 菅野 仁 藤井 寿一
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.470-475, 2013 (Released:2013-07-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1 3

腹水濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)とは,腹水症(又は胸水症)患者の腹水(又は胸水)を採取し,濾過濃縮後に再静注する治療法で,我が国で開発されて以来,保険診療の中で30年以上広く実施されている. 当院におけるCARTは各診療科が必要時に臨床工学技士に処理を委託していたが,院内統一の依頼・供給手順や製剤が存在せず,医療安全の面で問題があった.複数患者のCART実施時における患者取り違いのリスクを回避するために,輸血・細胞プロセシング部で申し込みから腹水・胸水処理,供給に至るまでを一括管理することとなった.具体的には,既存の輸血システムを流用し,電子カルテからの申込みと製剤固有バーコードの発行,バーコードによる製剤と患者の照合作業までの安全な供給体制システムを構築した. 次に輸血用血液製剤同様の製剤の安全性に関する基準を作成するために,濃縮前後,および一定条件下での保存後の腹水の性状やエンドトキシン検査に関して検討を行った.濃縮後のアルブミン量は26.5±2.7gであり,回収率は66.8%であった.処理前のアルブミン量に関わらず一定の回収率が得られた.また処理前腹水の4℃一晩保存,あるいは-30℃14日保存においてもエンドトキシンは検出されなかった.今後,冷蔵保存後の処理あるいは冷凍保存分割投与によってCARTを必要とする多くの患者へ適応可能になると考えられる.
著者
猪股 真喜子 山口 千鶴 奥津 美穂 奥村 亘 富樫 ルミ 長沼 良子 沼澤 ひろみ 渡會 通宜 安田 広康 北澤 淳一
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.489-494, 2010 (Released:2010-09-10)
参考文献数
22
被引用文献数
1

間接抗グロブリン法陰性で酵素法のみで反応し,抗Sと同定された3症例を経験し,mimicking抗Sと証明したので報告する. S抗原は酵素で破壊され通常は酵素法では検出できないため,同種抗Sではなくmimicking抗Sを疑い精査した.同種抗SであればS抗原陽性血球のみで吸着されS抗原陰性血球では吸着されないが,mimicking抗SであればS抗原陽性血球と陰性血球の両方で吸着されるため,証明方法として,抗体の吸着試験を実施した.結果は,3症例とも両方の血球で吸着されたことからmimicking抗Sと証明された.今回提示した3例のうち,1症例は輸血を受けず,1症例でS抗原陰性血20単位が輸血されたが溶血性輸血副作用は見られなかった.また他の1症例は妊婦であったが,妊娠経過中に抗体価の上昇は見られず,新生児溶血性疾患も認めなかった.
著者
相良 康子 後藤 信代 井上 由紀子 守田 麻衣子 倉光 球 大隈 和 浜口 功 入田 和男 清川 博之
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.18-24, 2014-02-28 (Released:2014-03-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

本邦におけるHTLV-1感染者は108万人と推計されており,HTLV-1は成人T細胞性白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP)といった重篤な疾患の原因として知られている.日本赤十字社血液センターでの抗HTLV-1抗体の確認検査としては,2012年9月よりウエスタンブロット(WB)法が採用され,検査結果の通知を希望される献血者への通知に際しての判定基準となっている.しかしながら,WB法では判定保留例が多く確定に至らない事例が蓄積されている.今回,我々はWB法における判定保留事例を対象として,複数の方法による抗体検出ならびにHTLV-1プロウイルス(PV)検出を試み,性状解析を行った.その結果,WB法判定保留事例239例中89例(37.2%)でHTLV-1 PVが検出されたが,そのうち4例は化学発光酵素免疫測定(CLEIA)法で,また2例は化学発光免疫測定(CLIA)法で陰性を示した.また,PV陰性150例中19例(12.7%)では複数の抗体検出系で特異抗体が認められたことから,末梢血中のPVが検出限界以下を示すキャリアの存在が示唆され,精確なキャリア確定判定のための抗原同定と検査系確立を要すると考える.
著者
藤井 康彦 松崎 道男 宮田 茂樹 東谷 孝徳 稲葉 頌一 浅井 隆善 星 順隆 稲田 英一 河原 和夫 高松 純樹 高橋 孝喜 佐川 公矯
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.374-382, 2007-06-20 (Released:2008-10-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1 3

輸血過誤によるABO型不適合輸血は, 最も重要な輸血副作用である. 輸血学会は, 300床以下の施設を含む1,355病院を対象とし, 匿名で, 調査を行った. 全血, 赤血球製剤, 凍結血漿, 血小板製剤を対象とし, 2000年1月から2004年12月の5年間に, 発生したABO型不適合輸血の解析を行った. 1,355病院中829病院 (61.2%) から回答があり, ABO型不適合輸血60件が報告された. 原因となった製剤は, 赤血球製剤 (Major Mismatch 22件, Minor Mismatch 9件), 凍結血漿19件, 血小板製剤8件, 不明2件であった. 原因別では, 輸血実施時の患者・製剤の照合間違いが27件 (45%), 血液型検体採血間違いが2件 (3%), 主治医の輸血依頼伝票の記入間違いが8件 (13%), 医師による輸血検査の間違いが10件 (17%), 検査技師による輸血業務の間違いが10件 (17%), その他3件 (5%) が報告された. 赤血球製剤 (Major Mismatch) の不適合輸血により8例の死亡例の報告があった. 4例では死亡の原因は原疾患による可能性があるとのコメントがあった. 依然として「輸血実施時の患者・製剤の照合間違い」がABO型不適合輸血の最大の原因であった.
著者
寺谷 美雪 神白 和正 比留間 潔 奥山 美樹 藤田 浩 香西 康司 浅香 祐幸 前田 かおり 國友 由紀子 山本 恵美 高田 裕子 五十嵐 朋子 鳥海 彩子 矢澤 百合香 森口 真理子 藤本 昌子 二木 由里
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.679-686, 2010 (Released:2011-01-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

【背景・目的】赤血球濃厚液(RCC),血小板濃厚液(PC),新鮮凍結血漿(FFP)などの輸血用血液製剤(輸血用血液)は献血者の人体の一部であり,とりわけ有効利用が求められるが,一定量が有効期限切れで廃棄されているのが現状である.廃棄血を減少させるため有効期限内で別の患者に転用する努力が行われているが,一病院の中では限界がある.そこで,われわれは病院間で輸血用血液を転用し,有効利用する方法(病院間有効利用)を検討し,実施したので報告する. 【方法】東京都が運営する7病院が本研究に参加した.まず,7病院において有効期限切れが原因で廃棄となる輸血用血液の量を調査した(平成17年1~7月).その後,平成19年9~12月の間に各病院で有効期限切れが切迫している輸血用血液の情報をインターネットメールで毎日,定時に発信し,使用できる病院があれば,その病院に搬送し輸血に用いた.搬送にあたっては血液製剤搬送用温度安定剤を用い,温度を管理しながら搬送した.搬送後の品質を管理するため,温度と外観,搬送時間などを評価し記録に残した. 【結果】平成19年9~12月の間に,RCC 18本,PC 1本,FFP 4本の輸血用血液が病院間で有効利用された.その期間のRCCの廃棄率は1.06%で,H19年度の病院間有効利用を行わなかった期間の廃棄率1.78%と比較し明らかに低かった. 【結論】輸血用血液の廃棄量を減少させるために期限切れの前に他の病院で利用することは有効であり,今後,多くの病院間で試みる意義があると思われた.
著者
柿木 康孝 長瀬 政子 高木 奈央 内村 大祐 佐藤 進一郎 高本 滋
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.593-600, 2013 (Released:2013-08-30)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

発端者(MT)は74歳男性で多発性骨髄腫の診断.カラム凝集法(Ortho Auto Vue)にて抗Aに対する反応が部分凝集(mixed-field agglutination,mf)を示した.フローサイトメトリー法(FCM法)では,A型血球集団とO型血球集団にピークをもつ2峰性のモザイクパターンを示した(A型血球72.6%,O型血球27.4%).血清A型糖転移酵素活性は256倍(対照256倍)と正常で,抗Aに対する非凝集赤血球を用いた抗A吸着解離試験は陰性であった.輸血歴はなく,双生児でもなかった.骨髄染色体は正常核型であった.これらの検査結果は治療により多発性骨髄腫が完全寛解となった後も変わらなかった.発端者の姉(MH)は77歳女性で高血圧にて治療を,発端者の弟(YT)は71歳男性で糖尿病にて治療を受けていた.どちらの症例もABO血液型検査は発端者と同様のmfを示した.FCM法でも同様のモザイクパターンを示したが,A型血球とO型血球の割合は姉(MH)ではA型血球23.6%,O型血球76.4%で,弟(YT)ではA型血球39.3%,O型血球60.7%であった.血清A型糖転移酵素活性も正常であった.同胞3例のABO遺伝子解析(Exon6,7領域のDNAシークエンス)では,発端者の遺伝子型はA101/O02で,姉はA101/O02,弟はA101/O01であり,A遺伝子型に関しては3例とも共通のA101で,塩基配列の置換・欠失を認めなかった.以上の所見より同胞3例をAmosと判定した.今回の症例はAmosの遺伝的要因をA型亜型と対比して考える上で示唆に富むと考えられた.