著者
田中 亜美 星 友二 長谷川 隆 坂田 秀勝 古居 保美 後藤 直子 平 力造 松林 圭二 佐竹 正博
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.531-537, 2020
被引用文献数
5

<p>E型肝炎ウイルス(HEV)の輸血感染対策を検討するため,輸血後E型肝炎感染患者として,既報(Transfusion 2017)の19例も含め,2018年までに判明した34症例について解析した.</p><p>原因献血者は全国に分布し,関東甲信越での献血者が半数以上を占めた.原因血液の88.2%(30例)がHEV RNA陽性かつHEV抗体陰性で,多くはHEV感染初期と考えられた.分子系統解析の結果,原因HEV株の遺伝子型は3型が29例(90.6%),4型が3例(9.4%)で,それぞれ異なるクラスターに存在し,多様性に富むことが示された.</p><p>一方,輸血後感染34症例中少なくとも16例(47.1%)は免疫抑制状態にあった.多くは一過性急性肝炎であったが,確認できた半数(8例)でウイルス血症が6カ月以上持続した.臨床経過中の最大ALT値の中央値は631IU/<i>l</i>で,輸血による最少感染成立HEV RNA量は2.51log IUと推定された.輸血されたウイルス量や遺伝子型と,最大ALT値に相関は認められなかった.</p><p>HEV RNAスクリーニングの全国導入はHEV輸血感染対策として有効と考えられる.</p>
著者
伊藤 晋 山本 茂一 林 司 加藤 誠司 日裏 久英 松本 雅則 藤村 吉博
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.27-35, 2010 (Released:2010-03-15)
参考文献数
14

ADAMTS13は,止血因子であるフォンビレブランド因子(VWF)のA2ドメイン内のTyr1605-Met1606間のペプチド結合を特異的に切断する酵素である.この切断により新たに生じるペプチドのC末端Tyr1605を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて,基質の切断生成物をELISA法で直接測定する原理に基づいたADAMTS13活性測定法のキット化を行い,そのキットの基本的な性能を評価した. 本キットの最小検出感度は,健常人のADAMTS13活性100%に対して,0.4%と高感度であった.また,調製したプレート内のウエル間の均一性(変動係数(CV)=3.3%)は良好で,濃度の違う検体での同時再現性(CV=1.1~4.7%)及び日差再現性(CV=2.6~7.5%)も良好であった.希釈試験では,原点に回帰する良好な直線性が得られた.またヘモグロビンやビリルビン等の共存物質の影響は,検討した濃度範囲では認められなかった.反応はEDTAで完全に阻害された. 臨床検体及び健常人検体を本キットで測定したときのADAMTS13活性は,健常人プール血漿100%に対し先天性のADAMTS13活性欠損症であるUpshaw-Schulman症候群(USS)で0.5%以下~2.7%,USS保因者群で7.7~85.3%,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)群で0.5%以下~58.1%,健常人で54.7~134.4%と測定され,TTPの診断に必要な判別能を有しており,SDS-agaroseゲル電気泳動法との相関は相関係数(r)=0.931と良好であった.本キットは優れた性能と操作性を有していることから,TTPの診断や血小板輸血時の適否判断などにおいて有用であると考えられた.
著者
清武 貴子 吉國 謙一郎 原 純 大木 浩
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.13-18, 2020
被引用文献数
3

<p>はじめに 鹿児島県立大島病院はドクターヘリを保有する救命救急センター(以下,救命センター)を併設している.日本赤十字社鹿児島県赤十字血液センター(以下,鹿児島日赤)と委託契約していた民間の血液製剤備蓄所が2018年3月末に血液製剤取扱い業務から撤退した.以後,当院では血液製剤の院内在庫を置き輸血医療に対応している.危機的出血を伴い鹿児島日赤から血液搬送が間に合わない際に,院内血輸血を実施している.対象と方法 救命センター開設後の2014年から2018年までの期間に実施した18症例の後方視的カルテ調査を行い院内血に至る要因を検討した.結果 院内血輸血実施理由の51%が,血小板減少症や血小板製剤が届かない等の血小板に関係する問題であった.院内血輸血の結果,血小板数及びフィブリノゲン濃度が有意に上昇した.考察 奄美大島地区緊急時供血者制度連絡協議会が作成した登録者名簿に記載されている島民の協力の下,院内血が実施される.安全面や供血者への負担も考慮が必要である.結語 院内血輸血によりフィブリノゲン濃度が止血可能域まで上昇した.クリオプレシピテートやフィブリノゲン濃縮製剤の有用性が待望される.</p>

1 0 0 0 OA XMRVと輸血

著者
浜口 功
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.699-703, 2012 (Released:2012-11-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

2006年に米国でRNaseLに遺伝子異常を持つ前立腺がん患者の前立腺組織より発見された新規ヒトレトロウイルスXenotropic murine leukemia virus-related virus(XMRV)は,2009年には原因不明の疾患である慢性疲労症候群(CFS)に関与するという可能性が同じ米国より報告され,大きな社会的関心を呼んだ.またこの報告では健常人での血液細胞および血漿中からもウイルスが検出されており,輸血による感染が危惧される事態となった.このような中,XMRVの検査法の確立と国内のXMRV感染状況の確認が急がれた.国内のCFS患者,前立腺癌患者においてXMRV感染の可能性を検索したが全例陰性であった.さらに,国内感染状況を把握することを目的に,血清学的検査法および,既に公表されているNAT法を用いて献血ドナーのXMRV NATスクリーニングを行った.血清学検査およびNATスクリーニングの結果はすべて陰性であった.これらの解析結果より,国内においては,XMRV流行は起こっていないことが確認された.
著者
赤塚 美樹
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.851-857, 2019-12-20 (Released:2020-01-10)
参考文献数
42

キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor,CAR)-T細胞療法は遺伝子改変T細胞による養子免疫療法の一つであり,急性リンパ性白血病,悪性リンパ腫,慢性リンパ性白血病などのB細胞性腫瘍や多発性骨髄腫に対する新規治療法として近年非常に注目されている.CD19抗原を標的としたCAR-T細胞による国際共同第2相試験において,難治性B細胞性腫瘍に対して高率な寛解導入効果が示された.CAR-T細胞は短期間で調製でき,T細胞が持つT細胞受容体より高い親和性をもった抗体を抗原受容体として利用したことが成功に寄与した.また抗体を抗原受容体とすることでT細胞のHLA拘束性を考慮する必要がない.CARの構造は細胞外ドメインとし抗体のFab部分と,細胞内ドメインとしてT細胞のシグナルドメインから成る.T細胞の活性化や機能増強,体内での長期生存能を付与するために細胞内ドメインにはさまざまな工夫が施されてきた.ただし治療後にサイトカイン放出症候群などの重篤な副作用が高頻度に起こりうる他,長期的には一部に再発も認められ,今後解決すべき課題も残されている.
著者
大坪 寛子 山口 一成 星 順隆
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.372-377, 2008

【目的】輸血による細菌感染症は致命的な副作用の一つである.<br> 我々は溶存酸素測定装置(株式会社ダイキン工業)にて細菌接種血小板製剤における検出感度について検討した.【方法】血小板製剤に<i>Staphylococcus aureus</i>,<i>Staphylococcus epidermidis</i>,<i>Serratia marcescens</i>,<i>Bacillus cereus</i>,<i>Streptococcus pneumoniae</i>及び<i>Propionibacterium acnes</i>を接種(最終濃度10<sup>0</sup>,10<sup>1</sup>,10<sup>2</sup>CFU/m<i>l</i>)した製剤から,抽出した検体1m<i>l</i>内の溶存酸素濃度を連続測定した.【成績】検出感度は<i>S. aureus</i>において10<sup>0</sup>,10<sup>1</sup>,10<sup>2</sup>CFU/m<i>l</i>でそれぞれ28.6%,78.6%,85.7%であった.<i>S. epidermidis</i>では23.0%,84.6%,92.3%,<i>S. marcescens</i>で50%,100%,100%,<i>Bacillus cereus</i>で57.1%,100%,100%であった.好気性細菌の検出時間は7&sim;18.2時間であった.【結論】好気性細菌では初期の混入濃度が10<sup>1</sup>CFU/m<i>l</i>以上存在すれば20時間以内に検出が可能であった.低コストで簡便な細菌検出システムとして血小板製剤の安全性に有用であると考えられた.<br>
著者
早川 郁代 徳野 治 橋本 誠 中屋 雄介 籔本 義人 高岡 裕 前田 英一 河野 誠司 西郷 勝康 杉山 大典 杉本 健 南 博信
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.547-551, 2012 (Released:2012-09-10)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

輸血後感染症検査の施行については適切な検査時期と検査項目を踏まえて実施することが重要である.本院では検査実施率を向上させるため,診療科へ検査実施時期を通知する具体的手段として,輸血同意書取得時の患者へのアナウンス,輸血患者リストの活用,電子カルテ画面を用いての輸血後感染症検査を通知する方法(輸血後感染症検査通知システム)を順次実施した. これらの方法の有効性を検証するため,本院において2008年1月から2011年9月迄に同種血輸血を受けた患者6,647人を対象に,輸血後感染症検査実施状況について,患者カルテの検査情報を後向きに調査した.1期:輸血患者リスト送付前,2期:輸血患者リスト送付後,3期:輸血後感染症検査通知システム導入後の各期間における肝炎検査(HBV,HCV)実施率の平均は21.6%,22.2%,39.7%,肝炎+HIV検査実施率の平均は7.0%,8.2%,31.2%であり,1期・2期と比較して3期で有意に向上した. 輸血後感染症検査実施率の向上において,輸血後感染症検査通知システムの継続した有効性が認められた.
著者
坂口 美佐
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.16-20, 2018-02-28 (Released:2018-03-16)
参考文献数
2
被引用文献数
1 2

医療事故情報収集等事業は,医療事故の発生予防・再発防止を目的として,医療機関から医療事故情報やヒヤリ・ハット事例を収集し,集計・分析して,ホームページなどで広く情報提供を行っている.本事業では,集計結果や個別のテーマ分析を掲載した報告書を四半期毎に作成,公表している.また,特に周知すべき情報について,医療安全情報を毎月1回作成,提供している.医療安全情報No. 11(2007年10月)では「誤った患者への輸血」を取り上げ,輸血用血液製剤を接続する際に患者と使用する製剤の照合を最終的に行わなかった事例を紹介した.近年,輸血用血液製剤を照合する認証システムの普及が進んでいるが,輸血の間違いに関する事例は継続して報告されている.これらの事例には,認証システムがあったにもかかわらず発生した事例が含まれている.このため,医療安全情報No. 110「誤った患者への輸血(第2報)」(2016年1月)では,認証システムの使用が適切でなかった事例を取り上げ,再び注意喚起を行った.輸血における安全対策の一層の強化につなげるため,本事業の概要および輸血に関する情報提供について紹介する.
著者
片岡 美香 岡本 貴史 山口 直子 倉本 智津子 西田 幸世 星 順隆 高橋 幸博
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.523-528, 2012 (Released:2012-09-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

新生児への血小板輸血は,通常,輸血バックから直接行われず,注射用シリンジを用いている.注射用シリンジでの輸血が,血小板に与える影響をin vitroで検討し,有効かつ安全な輸血法を考える. アフェレシス濃厚血小板製剤を,室温で撹拌したもの(アフェレシスバッグ),分離バッグに分割し攪拌したもの(分離バッグ),注射用シリンジに分離し,空気層を入れ攪拌したもの(空気混入シリンジ),注射用シリンジに分離し,空気を除去し静置したもの(空気除去シリンジ)の性状変化,血小板機能を比較検討した. アフェレシスバッグと分離バッグ保存では,6時間後においても酸素濃度など性状の変化は認められなかった.空気除去シリンジの酸素濃度は,分離後2時間で有意に低下した.二酸化炭素濃度は4時間で有意に増加し,乳酸は増加,pH,血糖および血小板凝集能が低下した.空気混入シリンジの場合,撹拌することで保存による変化を防ぐことができた. 新生児輸血方法として,分離バッグが効果的で安全な方法であった.それゆえ,少量バッグの作成が望まれる.今回は,in vitroのみでの結果であり,輸血後の生存率や回収率などの検討や,臨床的な判断が必要である.
著者
山﨑 久義 伊佐 和美 小笠原 健一 渡邉 聖司 迫田 岩根 入田 和男 清川 博之
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.601-605, 2016
被引用文献数
1

<p>ABO血液型亜型で日本人に最も多く認められるB<sub>m</sub>型とAB<sub>m</sub>型は,<i>B</i>遺伝子イントロン1の部分欠失により生じることが報告された.この欠失は5.8kbにおよび,GATA結合部位を有する転写エンハンサー領域が含まれる.一方,GATA>GAGAの点変異で生じたと考えられるB<sub>m</sub>型も1例報告されているが,この変異と唾液中の型物質との関係は不明である.</p><p>今回,合計49例のB<sub>m</sub>型とAB<sub>m</sub>型を解析した結果,5.8kbの欠失がない1例を認めた.エンハンサー領域を調べた結果,2つのGATAモチーフのうち3'側のGATAモチーフにGATA>GAGA変異が認められた.発端者は,オモテ検査O型,ウラ検査B型で,抗B試薬による吸着解離試験でB抗原が確認された.血漿中のB型糖転移酵素活性はほぼ対照のB型と同程度で,唾液中にはB型とH型物質が認められ,Lewis血液型はLe(a-b+)であった.以上の結果よりエンハンサー領域にGATA>GAGA変異を生じた本邦初の分泌型B<sub>m</sub>と判定した.この変異は,赤血球B抗原の発現を低下させるが,唾液中のB型物質には影響しないことが確認された.</p>
著者
川畑 絹代 安田 広康 土田 秀明 伊藤 正一 菊地 正輝 常山 初江 内川 誠 大戸 斉
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.478-483, 2011-12-15
参考文献数
12
被引用文献数
1

抗KANNOは1991年に福島医大病院で遭遇した高頻度抗原に対する抗体で,既知の抗体にはその反応性が一致するものが無かった.発端者に因み,この抗体を抗KANNO,対応抗原をKANNO抗原と名付けた.KANNO抗原発見に関わった福島医大病院2症例と山形県および宮城県赤十字血液センターで同定した抗KANNO 12例,計14例について反応性,臨床的意義を検討した.<br> 抗KANNOを保有する14例のうち13例が妊娠歴のある女性であり,輸血よりも妊娠によって産生されやすい抗体であると考えられる.抗KANNOは高力価低親和性(HTLA)抗体の特徴を示し,類似した反応性を持つ抗JMHとは,AET処理赤血球と反応する点で鑑別できる.現在まで,抗KANNOによる溶血性輸血副作用(HTR)や胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)の報告はなく臨床的意義は低いと考えられるが,さらに症例を蓄積する必要がある.<br>
著者
青木 香苗 山口 恭子 柗尾 綾花 榎本 麻里 堀田 多恵子 平安山 知子 亀崎 健次郎 康 東天
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.602-607, 2018

<p>今回,出生後に児由来赤血球(以下児赤血球)の出現が遅延した抗Dによる胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)症例を経験した.</p><p>母体は1経妊1経産,A型RhD陰性,抗D陽性(抗体価128倍)であり,第1子がHDFN既往のため本症例である第2子の妊娠14週に当院紹介となった.妊娠28週に抗D抗体価256倍となり,31週及び33週に胎児貧血が疑われ,O型RhD陰性のRBCで計2回(31週時約100m<i>l</i>,33週時約130m<i>l</i>)の胎児輸血を実施し,妊娠36週に誘発分娩となった.児は出生時,溶血及び黄疸は軽度であったが,日齢0に大量免疫グロブリン投与(1.5g/kg)をされた.血液型検査で胎児輸血前はAB型RhD陽性であったが,出生直後はO型RhD陰性,抗D抗体価1,024倍であり,児赤血球が消失し輸血製剤由来の赤血球に置き換わっていることが示唆された.その後,抗D抗体価が4倍まで低下した日齢83に輸血検査にて初めて児赤血球が検出できたことより,出生後の児赤血球の出現遅延には抗Dが関与していると考えられた.この期間,溶血所見は乏しいものの緩徐に貧血が進行し,輸血を要した.</p><p>本症例のような胎児輸血を必要とするHDFN症例では輸血前の血液型検査実施と,経時的に抗体価をモニタリングすることは重要である.</p>
著者
丸橋 隆行 須佐 梢 西本 奈津美 菅井 貴裕 横濱 章彦 定方 久延 河野 美幸 梶田 幸夫 深石 孝夫 野島 美久
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.533-538, 2012 (Released:2012-09-10)
参考文献数
14

母親が抗D抗体を保有し胎児がRh0(D)陽性の場合,胎児や新生児が重篤な溶血性疾患を発症することがある.今回我々は,3度目の妊娠,出産であるRh0(D)陰性の妊婦が抗D抗体を保有し,出生したRh0(D)陽性の児が新生児溶血性疾患を発症,交換輸血を施行した症例を経験した.妊娠初期の不規則抗体検査にて酵素法のみ陽性の抗D抗体であったもののその後間接抗グロブリン法も陽性化,徐々に抗体価の上昇が認められ,出産時には2,048倍まで上昇した.出生直後から急激なビリルビン値の上昇とHb値の低下を認め,交換輸血,γ-グロブリン療法,光線療法の適応となった.交換輸血に用いた製剤は,O型Rh0(D)陰性赤血球濃厚液とAB型Rh0(D)陽性新鮮凍結血漿を院内にて混合調整した合成血である.患児はこれらの治療が奏功し軽快,退院した.Flow Cytometryによる解析から,交換輸血直後,患児赤血球はほぼO型Rh0(D)陰性赤血球に置換されていたが,日毎に患児由来のRh0(D)陽性赤血球の割合が増加,86日後では,ほとんどのO型Rh0(D)陰性赤血球は消失していた.輸血された赤血球の半減期は約36日であり,健常人赤血球とほぼ同等であった.
著者
中嶋 ゆう子 岩尾 憲明 宮崎 かおる 塚原 達幸 市川 太一 平岡 秀子 小宮山 佐恵子 小野 美代子 浅川 澄江 中村 弘
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.42-48, 2012
被引用文献数
3

山梨県では平成18年から山梨県合同輸血療法委員会I&A委員会による輸血医療の点検視察が開始された.施設の自発的受審ではなく県が視察病院を指定して,10施設の中小規模病院に対して点検視察が実施された.点検視察の結果「改善すべき」と指摘された事項は輸血検査や輸血用血液製剤の管理に関する項目が多く,「改善が望ましい」と指摘された事項は輸血管理体制や製剤の保管管理に関する項目が多かった.点検視察の指摘事項に関する改善状況のアンケート調査の結果では病院間で改善状況に差があることが示され,改善が進まない背景には輸血責任医師が兼任で実質的に不在であることや検査技師の人員不足等の問題があると考えられた.I&A活動の目的は輸血実施手順や輸血管理体制の標準化により病院の規模に関係なく安全で適正な輸血が実施されることである.山梨県I&A委員会の継続的な取り組みによって県内の中小規模病院の問題点の改善と輸血医療の向上を目指し,将来的には中小規模病院の学会I&A受審につなげたいと考える.<br>
著者
飯野 美穂 井上 進 二上 由紀 小林 洋紀 加藤 尚美 森田 庄治 石島 あや子 柴田 洋一 溝口 秀昭 南 陸彦
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.508-514, 2010 (Released:2010-09-10)
参考文献数
18

日本血小板・顆粒球型ワークショップの参加施設の協力を得て2007年4月から2009年3月までの2年間に各依頼施設に検査依頼があり,血小板数が15×104/μl未満であった66症例を対象とし,集計調査を行った.新生児溶血性疾患と異なり,初回妊娠から発症した症例が多くみられた.母親の妊娠回数,輸血歴,既往歴における血小板抗体陽性率に有意差はみられなかった.患児の頭蓋内出血の有無別にみた在胎週数,出生時体重,患児血小板数に有意差はみられなかった.抗体特異性はHLA抗体単独例が33.3%,HPA抗体が21.2%,陰性が40.9%で,HPA抗体陽性例の血小板交差適合試験は全て陽性であった.HPA抗体の特異性はHPA-4b抗体が最も多く,次いでHPA-5b抗体が多かった.
著者
岩尾 憲明 須波 玲 大森 真紀子 樋口 浩二 伏見 美津恵 中嶋 ゆう子 深澤 宏子 小笠原 英理子 小室 真祐子 奥田 靖彦 平田 修司 星 和彦
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.486-491, 2012 (Released:2012-07-13)
参考文献数
14
被引用文献数
3 4

分娩時大量出血が生じた際に希釈性凝固障害,あるいは播種性血管内凝固症候群の併発が止血を困難にしている場合が少なくない.また,分娩時出血は外科的縫合だけでは止血できない特殊性もある.このような状況では血液凝固因子を速やかに止血可能域の濃度に上昇させて止血を図ることが最も重要である.そのためには新鮮凍結血漿だけでは不充分であり,凝固因子の濃縮製剤であるクリオプレシピテートを使用して急速に凝固因子を補充することが必要である.当院産科において分娩時に大量出血を生じた14症例(平均出血量5,005.6ml)に対してクリオプレシピテートを投与したところ,全例でフィブリノゲン値の速やかな上昇を認め,止血を得ることができた.大量出血による希釈性凝固障害で高度の低フィブリノゲン血症を生じた産科危機的出血に対してはクリオプレシピテートを併用した輸血療法が極めて有用であると考えられる.