著者
小西 良子 窪崎 敦隆
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.105-115, 2006 (Released:2006-10-23)
参考文献数
15

食品中に汚染するマイコトキシンは、大量に摂取した場合にあらわれる急性毒性よりも長期暴露による慢性的な健康被害が懸念されている。このような自然毒は食品汚染を完全に防御することが不可能であることから、各国で健康被害が懸念される食品を対象に基準値を設定している。しかし、各国での基準値の違いによる貿易摩擦を防止するために、国際的にもコーデックス規格を設けている。これらの基準値案は、FAO/WHOにおいての科学者の国際的集まりであるJECFAなどによって、問題となっているマイコトキシンを対象に毒性評価が行われている。本稿では、いままでJECFAで評価されたマイコトキシンを中心に実験動物を用いた毒性評価を紹介するものである。
著者
杉浦 義紹
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.95-104, 2020-07-31 (Released:2020-09-01)
参考文献数
2

食品や関連製品におけるカビや酵母の発生はよく報告されています.これらの真菌は,食品の腐敗やマイコトキシン汚染を引き起こすことが知られています.この稿では,学生と初心者のための食品由来の真菌検査を紹介します.
著者
一戸 正勝
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.5-10, 2003 (Released:2008-10-07)
参考文献数
12
被引用文献数
5 3

最近,FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議ではフザリウム毒素類のうち,デオキシニバレノールに関して安全性評価がなされ,それを受けた形で,わが国でも小麦のデオキシニバレノールに係わる暫定的な基準値が設定されるにいたっている1).現在,麦類,トウモロコシを含む穀類のデオキシニバレノールやニバレノールの汚染は,主としてFusarium graminearum(テレオモルフ Gibberella zeae)が,穀類の赤カビ病(麦類ではscab,トウモロコシではGibberella ear rot, pink ear rot)の植物病原菌として圃場で多発,被害をもたらすことによって発生することは世界共通の認識となっている.このカビ毒生産菌=植物病原菌の関係は,他のマイコトキシン類の自然汚染とトリコテセン類やゼアラレノンのような赤カビ毒素による自然汚染とを区別して考慮すべき重要な点である.すなわち,腐生性のAspergillus やPenicillium の生産するマイコトキシンの汚染が一定のロット内において粒単位の局在性を示すのに対し,赤カビ毒素類では植物病原菌であるために,圃場内の試料に広く分布することになるからである.このことは当然のことながらマイコトキシン類の分析用試料の調製法(サンプリング法)に影響を与える.本稿では,赤カビ毒素の生産菌が植物病原菌であること,赤カビ病の多発が穀類の生育期における気象条件と深く係わっていることを改めて認識することが,今日のデオキシニバレノール規制に対応するにあたって重要な視点であると考え,概説することとした.
著者
東山 智宣 中西 豊文 田窪 孝行
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.209-216, 2013-07-31 (Released:2013-12-10)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(Matrix-assisted laser desorption/ionization-time of flight mass spectrometry:MALDI-TOF MS)を用いた微生物同定法は,MS 法により得られた微生物特有のリボソームタンパク質を主成分とした分子のフィンガープリント(マススペクトルパターン)を,既知標準菌株ライブラリーと検索・照合し,目的菌種を同定する新手法である.従来法に比して特異性・迅速性に優れている.現在,我々の検査室では,主に臨床検体(血液,尿,糞便,喀痰等)から培養で発育した細菌や酵母様真菌の培地上のコロニーを対象に MALDI-TOF MS による微生物同定を実施している.一方,菌血症・敗血症等の起因菌を検出・同定検出する場合は,培養コロニーではなく,血液培養陽性培養液から直接同定する方法も検討している.今回,本法による微生物迅速同定の成績と感染症迅速診断への応用について概説する.
著者
青山 幸二 齋藤 晴文
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.15-22, 2022-01-31 (Released:2022-03-25)
参考文献数
31

室間共同試験で妥当性を確認した公定分析法を用いて,2014~2019年度に日本で流通した飼料中のゼアラレノンおよびその代謝物(ゼアララノン,ゼアラレノールおよびゼアララノール)の汚染実態を調査した.とうもろこし121検体,大豆油かす62検体および配合飼料205検体を調査した結果,90 %以上の試料からゼアラレノンが検出された.ゼアララノールはいずれの試料からも検出されなかった.β-ゼアラレノールはゼアラレノン代謝物の中で最も検出率が高かった.また,原料によりゼアラレノン濃度に対するゼアラレノン代謝物濃度の割合が異なることが示唆された.
著者
土井 佳代 佐藤 修二
出版者
Japanese Society of Mycotoxicology
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.48, pp.25-27, 1999-01-31 (Released:2010-06-17)
参考文献数
4

10年程前に「味付けアワビ」等と称した調理加工食品が原因とされる食中毒様事例が散見され,神奈川県でも数例の事例に遭遇した.事例はいずれもアワビに似たチリ産ラパス貝によるものだった.ラパス貝はチリからペルーの南米太平洋岸に生息する草食性の巻き貝の一種で,スキソレガイ超科スカシガイ属(原始腹足目)に属し,学名はFissurella maxima Sorbeyで,即時型アレルギーや,Hemocyanineによる抗原性が報告されている.食品加工用原料としてチリよりボイルされたむき身が輸入され,それを調理加工したものが販売されている.中毒様事例の原因解明にあたり実施した試験等について報告する.
著者
Shih D.Y-C.
出版者
Japanese Society of Mycotoxicology
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.4, pp.110-117, 2006

Taiwan is located in the subtropical zone, and the typical weather is hot and humid which benefit the growth of fungi. Mycotoxins are the toxic metabolites produced by some species of fungi genera such as Aspergillus, Penicillium and Fusarium. Surveys of mycotoxins in market foods have been implemented by Bureau of Food and Drug Analysis (BFDA) in Taiwan for several years. The results were used as database to establish related regulations by Department of Health (DOH) and provided for local health authorities to prevent unsafe food products from being consumed. Aflatoxin, ochratoxin A, fumonisin, deoxynivalenol (DON), patulin and T-2 toxin were tested and surveyed in various kinds of foods during the past ten years. From 1997 to 2006, a total of 1, 056 peanut product samples were tested and 339 samples (32.1%) contained aflatoxins. Among them, 65 samples which contained aflatoxins above 15μg/kg exceeded action levels of Taiwan. According to the results of the surveys in 2005 and 2006, most of violative products were imported from a foreign country. In 2002, aflatoxin M<SUB>1</SUB> was tested in 113 dairy products including fresh milk, milk powder, infant formula and drinking yogurt. Most of them contained a trace of aflatoxin M<SUB>1</SUB>, but none exceeded action levels of Taiwan. In 2000, 2003, 2005 and 2006, 441 samples were collected and examined for ochratoxin A, and 68 samples (15.4%) contained less than 5μg/kg, including grain products, wine, coffee products and so on. In 2002, 76 corn products were tested and 11 samples (14.5%) contained fumonisins (B<SUB>1</SUB>+B<SUB>2</SUB>) ranging from 0.05 to 0.16mg/kg. The survey of DON in rice, flour, noodle, corn, oat and other products was implemented in 2004. One hundred and fifty samples were tested and the results showed that 3 samples contained DON ranging from 0.11 to 0.45mg/kg. In 1999 and 2005, 122 commodities including baby juice, juice drink, pure apple juice, mixed juice and apple paste were collected and tested for patulin. The results showed that 13 apple juices contained patulin ranging from 8.6 to 39.9μg/kg. In the survey of T-2 toxin in 2005, 31 food products were tested and 4 samples (12.9%) contained T-2 toxin ranging from 0.7 to 8.9μg/kg. The results showed that the violative rate of aflatoxins in imported peanut products grew in recent years. Other mycotoxins including ochratoxin A, fumonisins, DON, patulin and T-2 toxin were detected in some food commodities, but the contamination levels were pretty low.
著者
日ノ下 文彦
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.123-127, 2003-07-31
参考文献数
10
被引用文献数
1

マイコトキシンの一部は腎臓にも障害を及ぼすことが知られているが,最も有名なものがオクラトキシンである.これは,1950 年代にバルカン諸国からの報告が相次いだ腎・尿路系を侵す風土病で,65 年にWHOが正式に認定した Balkan endemic nephropathy(BEN)の原因物質と考えられている<sup>1,2)</sup>.BEN の病態は主として尿細管の変性・機能障害,間質の繊維化,糸球体の硝子化であり,やがて腎機能障害が進行して腎不全に陥るものである.しかも,BEN に陥った症例では腎盂や尿管に腫瘍が発生しやすいことも知られており,多発地域では無視できない大きな問題となっている.オクラトキシン以外ではチトリニンやルブラトキシン,フモニシン等が腎臓毒性を有するマイコトキシンとして報告されている.ヒトにおけるトリコテセンの腎毒性はまだ報告されてないものの,ニバレノール(nivalenol, 以下 NIV)やデオキシニバレノール(deoxynivalenol, 以下 DON)が腎障害を惹起することが動物実験で確認されているので,これまで得られた知見を中心に報告する.
著者
岩下 恵子 長嶋 等
出版者
マイコトキシン研究会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.83-87, 2008-07-31
参考文献数
24
被引用文献数
1

肝毒性を示すマイコトキシンのルブラトキシンB は脂肪肝を引き起こす.そこで脂肪蓄積メカニズムを解明するために,ルブラトキシンB で24 時間処理したマウス肝臓において蓄積した脂肪滴のタイプや,脂質合成系酵素であるグルコース- 6 -リン酸脱水素酵素(G6PD)と脂肪酸合成酵素の活性を調べた.オイルレッドO 染色では,ルブラトキシンB 処理したマウスから多数の小滴性の脂肪滴が観察された.脂肪酸合成のためのNADPH を供給するペントースリン酸回路において極めて重要な働きをするG6PD の活性は,ルブラトキシンB 処理によって顕著に上昇した.予想に反して,ルブラトキシンB は脂肪鎖を伸長させる脂肪酸合成酵素の活性を下げた.脂肪酸合成酵素は脂肪酸合成における律速酵素ではないので,ルブラトキシンB で処理されたマウスの活性でも脂肪蓄積には十分なのかもしれない.
著者
熊谷 進
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.15-21, 2008 (Released:2008-04-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

エルゴティズム、ATA症(alimentary toxic aleukemia)、七面鳥X病以外にも多数の人や動物の疾病が、かび毒を原因としたものであることが提唱されてきた。その例として、中国等におけるアフラトキシンによる人の肝臓がん、インドやケニヤで発生した人や動物の急性アフラトキシン中毒症、南アフリカ等におけるフモニシンによるウマの白質脳軟化症や人の食道がん、バルカン地方におけるオクラトキシンによる人の腎症などが挙げられる。最近では人の神経管欠損へのフモニシンの関与が提唱されている。しかし、こうした教科書的に語られるかび毒に起因する疾病は、必ずしも疫学的あるいは毒性学的証拠に十分に裏付けられているわけではなく、広く受け入れられているかび毒の毒性機序にも未解決の問題が残っているように考えられる。その例として、アフラトキシンの化学構造と急性毒性との関連、腎症と尿路系腫瘍におけるオクラトキシンAの関与、動物種によるフモニシン毒性の顕著な差異などが挙げられるであろう。
著者
横田 栄一
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.119-123, 2004-07-31
参考文献数
18

近年,食品の国際規格策定の場であるFAO/WHO 合同食品規格委員会(コーデックス委員会)において,マイコトキシンに関する議論が活発化しており,コーデックス規格が順次設定されてきている.また,平成13 年2 月にはFAO/WHO 合同食品添加物専門家会議(JECFA)において多種にわたるマイコトキシンのリスク評価が行われており,今後,国際的な基準策定に向けた取り組みが進むものと思われる.この様な状況の中,我が国においても小麦のデオキシニバレノール及びりんごジュース中のパツリンについて規制を行ったところである.今後も健康被害を未然に防止するために,我が国における各種マイコトキシンの実態調査を行い,その結果等を踏まえて規格基準を整備していくことが重要と考えられる.
著者
八木 正博
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.69-74, 2002 (Released:2009-01-08)
参考文献数
12

化学物質過敏症やシックハウス症候群といった室内空気中の化学物質による健康被害について社会的関心が高まっており,厚生労働省の⌈シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会⌉は既にホルムアルデヒド,トルエン,キシレンなど12物質の室内濃度指針値案及び暫定指針値案を策定し,総揮発性有機化合物(TVOC)の暫定目標値を定めた1).個別の指針値案はリスク評価に基づいた値であり,その濃度以下であれば通常の場合はその化学物質は健康への悪影響を及ぼさないと推定された値である.上記検討会は今後も引き続き他の化学物質の指針値案を策定していく予定である.しかし,実際の室内空気には複数の化学物質が存在すること,リスク評価を行うためのデータが不足していること及び指針値を決めていない化学物質による汚染の進行を未然に防ぐ目的からTVOCの暫定目標値も定められた1).ところで,最近の室内空気問題というのは新建材の開発や建築技術の発展などに伴い,種々の化学物質が用いられ,それらが室内空気中に揮散され,さらに住居の気密化が進んだことにより室内空気中の有機化学物質濃度が高まったために問題が生じてきたと考えられている.家具や電気製品などの家庭用品についても種々の化学物質が用いられており,これらも有機化学物質の発生源になっていると推定されている.今回,室内空気中化学物質の濃度指針値案が策定されたことにより,建築物や家庭用品等の関係者が室内空気中化学物質の濃度を下げる工夫をすることが期待され,今まで原因がわからず,健康被害があった人々の多くが健康を取り戻すことができると思われる.さらに調査研究が進み,有害な化学物質の発生の少ない,地域の風土に適した21世紀型住居が建てられ,その住居に適した住み方が検証されることにより,室内空気中化学物質による健康被害で悩む人が減ることが期待される.
著者
安田 正昭
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.67-72, 2013-01-31 (Released:2013-04-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

豆腐ようは沖縄以外の我が国ではほとんど見られないユニークな豆腐の発酵食品である.この食品は琉球王朝時代の 18世紀頃に中国から渡来した紅腐乳を琉球王府のお料理座で改良して造り出されたものと考えられる.発酵にかかわる主な微生物は, Monascus 属カビと Aspergillus oryzae である.豆腐ようの主要な構成成分は大豆タンパク質グリシニンの塩基性サブユニットおよびその他のポリペプチド(分子量 10,500-15,000)である.それら成分が豆腐ようのテクスチャーに関係している.発酵過程で大豆タンパク質はプロテアーゼの作用により低分子化され,一部はアミノ酸やペプチドに変換される.遊離アミノ酸は呈味にかかわる.発酵で生成したペプチド(IFL, WL)は血圧上昇抑制にかわわるアンギオテンシンⅠ変換酵素の阻害効果を示した.両ペプチドは消化酵素による連続処理後においても高い ACE 阻害活性を有していた.高血圧自然発症ラットを用いた動物実験においても豆腐よう投与群はコントロール群に比べて有意に血圧が低下した.豆腐ようには血圧上昇抑制効果のあることが期待された.
著者
一戸 正勝
出版者
Japanese Society of Mycotoxicology
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.40, pp.11-14, 1994-12-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
14

穀類に着生してカビ毒汚染をもたらす菌類にはムギ類,トウモロコシの赤かび病にみられるような収穫前の圃場における植物病原菌に区分されるものと,米粒の収穫後の貯蔵,輸送時に発生する病変米の原因になるような貯蔵性菌類に区分されるものとがある.圃場におけるイネ病原菌がカビ毒汚染に関与したと想定される例は1950年代に発生した赤かび被害米粒の摂取による食中毒事件以外にはない.食品衛生学の歴史のうえで米(米粒)に着生するカビが問題視されたことは第二次世界大戦以前からあったが,社会問題にまでなり,その後の我が国のカビ毒研究の発端となったのは貯蔵性菌類による黄変米事件である. 1993年の東日本を中心とする異常気象によるイネの大冷害は外国産米の緊急輸入という事態をもたらし,その安全性をめぐって新聞,テレビをおおいに賑わしたのは黄変米以来のことである. そこで,これまでの我が国における米のカビに関する研究の歴史を概観することにより,それらの研究成果から学ぶことの多いことを期待すると共に,現在の輸入米,国産米のカビおよびカビ毒の問題にいかに対処すべきか考えたい.
著者
漆山 哲生
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.89-93, 2019-07-31 (Released:2019-08-27)
参考文献数
9

日本の気候は温暖で湿潤のため,麦類赤かび病が発生しやすく,穀粒が赤かび病菌が産生するデオキシニバレノール(DON)等のかび毒に汚染される.安全で高品質な食料の安定供給を担う農林水産省にとって,麦類のかび毒のリスク管理は重要な課題である.当省は,効果の高い農薬による適期防除,適期収穫,乾燥調製の徹底等を内容とする指針を作成し,生産段階における麦類のかび毒低減を進めている.国産麦類のかび毒実態調査から,赤かび病の発生により玄麦のDON濃度の著しい変動があることや,DON暴露による未就学児の健康リスクが無視できるほど小さくないことが示されている.気候変動の影響等により赤かび病の発生が増える可能性もあるため,継続的な調査と低減対策の一層の徹底が必要である.
著者
横山 耕治 川上 裕司 陰地 義樹 久米田 裕子 高橋 治男
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.143-149, 2008 (Released:2008-10-07)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

Aspergillus section Nigri によるオクラトキシンの産生性や産生菌の分離頻度,分布に関する日本における報告はなく,Aspergillus section Nigri の詳細な分類に基づく調査研究が必要となった.山梨で行った調査の結果,A. niger チトクロームb 遺伝子に基づくDNA タイプAN-D-5, AN-D-7 の菌は,ほとんどはオクラトキシンを産生しないが一部の株でわずかながら産生が見られた.DNA タイプAN-D-4 のA. carbonarius は,オクラトキシン産生の主要な株で,産生量が多く産生株がほとんどではあるが,一部の株では同じ培養条件で産生が認められなかった.ぶどう園土壌および空中浮遊の菌は,ほとんどが,DNA タイプAN-D-1, AN-D-2 のA. japonicus とAN-D-5, AN-D-7 のA. niger であり,DNA タイプAN-D-4 のA. carbonarius は,土壌分離株129 株中1 株であり分離頻度は非常に低かった.収穫後の管理を適正に行えば,食品への汚染は極めて少ないと考えられる.
著者
高橋 治男 植松 清次 大泉 利勝 森 悦男 柳堀 成喜 一戸 正勝
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.41, pp.53-59, 1995
被引用文献数
3

Trichothecium roseum causes pink mold rot of muskmelons and tomatoes cultivated in greenhouses, and also produces trichothecin, a 12, 13-epoxytrichothecene. To clarify the pathogenicity and trichothecin production of T. roseum, mycological examination was carried out in 8 greenhouses in Chiba Prefecture. The contamination of muskmelon and tomato fruits with trichothecin was also examined. Trichothecium roseum was isolated from almost all of the moldy or discolored muskmelon and tomato fruits, as well as tomato stem dumped near the greenhouse. The fungus was found in the air of a greenhouse in which many moldy tomato fruits were present, but in none of the soil samples from the greenhouses tested. In an inoculation test, T. roseum isolated from muskmelon and tomato invaded and decayed the flesh of matured muskmelons. Moreover, almost all the isolates of T. roseum tested produced trichothecin on Czapek-Dox broth supplemented with 0.2% corn steep liquor cultured for 21 days at 25&deg;C. Trichothecin was detected in moldy muskmelon and tomato fruits collected in the greenhouses.
著者
髙橋 治男
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.33-39, 2018-01-31 (Released:2018-02-27)
参考文献数
42

1. マイコトキシン汚染玄米粒では侵入菌糸とマイコトキシンの分布は,ほぼ一致し,主として,胚芽部付近に集中した.汚染カビは胚芽部付近に生じる空隙で増殖した.マイコトキシンは精白過程で糠区分に除去されたが,汚染が進むと完全に除去されず,白米区分に残存した.2. 南西諸島のサトウキビ畑にはAspergillus parasiticus,A. nomius,A. flavusの多様なアフラトキシン産生菌が生息した.分離株の分子生物学的な解析はA. parasiticusとA. nomiusがタイプ種とは系統的に異なり,サトウキビと特異的な関係にあることを示した.