著者
青木 慶
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.22-35, 2019-09-27 (Released:2019-09-27)
参考文献数
34

本稿の目的は,企業とユーザーの価値共創のさらなる発展に向けて,ユーザーの参画およびアイデア共有を促す,有効なインセンティブを明らかにすることである。Appleが運営する教育者のユーザーコミュニティを事例研究の対象とし,17名のコミュニティメンバーにインタビュー調査を行った。その結果,単なるユーザーではなく,有用なイノベーションを行う可能性の高い「リードユーザー」を組織化することで,コミュニティ自体が有効なインセンティブとして機能しうることが示された。Appleではコミュニティメンバーに外発的・内発的なアプローチを行い,コミュニティにおける活動を活性化し,ユーザーと「教育の革新」という社会的な価値を共創していることが明らかになった。
著者
周 珈愉 井上 哲浩
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.72-88, 2015-09-30 (Released:2020-05-12)
参考文献数
17

本論では,媒体の垣根を越えて活用されているクリエイティブ技術の一つであるARを用いたマーケティング・コミュニケーションが態度ならびに意図の形成に与える効果を論じる。視覚,触覚,嗅覚,聴覚,味覚などを現実世界と拡張融合することができるAR技術の可能性は,市場規模からも相当であるにも関わらず,ARに関するマーケティング分野での過去の研究は少ない。本論では,実際にTVメディアで用いられたTVCMにAR技術を仮想し,視聴者本人を拡張融合したTVCMを用いた環境,App環境,そしてHP環境を構築し,一般線形モデルならびに多母集団構造方程式モデリングを用いて態度ならびに意図形成構造の異質性を明らかにした。その結果,HP,App,ARという3つのプラットフォーム環境での態度形成構造が異質であることが確認され,ARを用いたマーケティング・コミュニケーションの場合は快楽主義が,Appを活用したコミュニケーションの場合は実用主義が,HPを活用したコミュニケーションの場合は関与が重要となることが確認された。
著者
久保田 進彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.67-79, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
37
被引用文献数
1 3

デジタル化は現代の消費環境を特徴づける重要な要素の1つである。社会生活や経済活動の各所にデジタル技術が用いられることで,消費環境は大きく変化している。それではデジタル化が進展する中で,企業や組織のブランド戦略はどのような方向を目指すべきであろうか。本研究ではこうした問題意識に基づき,Bardhi and Eckhardt(2017)によって提示された「リキッド消費」を鍵概念としながら,デジタル社会におけるブランド戦略について俯瞰的に検討していく。具体的には,まずKubota(2020)における議論を引き継ぐかたちで,リキッド消費をブランド消費行動の観点から再検討する。そしてここから,文脈への適合と消費の手軽さがもたらす心地よさの重要性を指摘する。つづいて「裾野を広げる戦略」と「生活の中に溶け込む戦略」という,リキッド消費に対応した2つのブランド戦略を提案する。そして最後に,研究全体を振り返るとともに,限界点や今後の課題について議論する。
著者
外川 拓 石井 裕明 朴 宰佑
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.72-89, 2016-03-31 (Released:2020-04-21)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

近年の研究では,本来,消費者の判断と直接的に関連していない触覚情報,すなわち非診断的触覚情報が,意思決定に無意識のうちに影響を及ぼすことが明らかにされている。本稿では,非診断的触覚情報のなかでも特に硬さと重さに注目し,これらが消費者の意思決定に及ぼす影響について,身体化認知理論をもとに考察した。硬さに注目した実験1と実験2では,硬さの経験が本来関連のない製品に対する知覚品質を向上させたり,サービスの失敗に対する金銭的補償の要求水準を高めたりすることが明らかになった。重さに注目した実験3と実験4では,重さの経験が本来関連のない製品に対する信頼性や製品情報に関する記憶想起を高めることが明らかになった。最後に,これらの結果を踏まえ,本研究の意義と課題について議論を行った。
著者
栗木 契
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.5-15, 2018 (Released:2019-05-31)
参考文献数
26
被引用文献数
2

未来の予測は成り立つか,成り立たないか。いずれを前提とするかによって,合理的なマーケティング活動の進め方は,大きく異なることになる。STP マーケティングは,市場の先行きを予測できることを前提としている。しかし,マーケティングという営みにおいて,この未来の予測が困難となるのであれば,新たなマーケティング活動の進め方を再検討することが不可避となる。すなわち,予測に頼ることなく未来を切り開いていくプロセスを有効なものとする行動の原則を,企業は見定めることを求められる。本稿では,S. サラスバシのエフェクチュエーションを手がかりに,予測に頼ることが有効ではない状況を第3 の不確実性とむすびつけてとらえる。そのうえで本稿では新たに,エフェクチェエーションの行動原則をSTP マーケティングの補完に用いるうえで,省察が果たす役割を検討し,マーケティング研究が取り組むべき今後の課題を浮き彫りにする。
著者
藤川 佳則 小野 譲司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.72-92, 2014-01-15 (Released:2020-11-13)
参考文献数
17

本論文の目的は,「サービス事業」を企業と顧客が共に価値創造を担う価値共創活動としてとらえ,その「グローバル化」を価値共創に関する知識の国際移転プロセスとして焦点をあて,その実際をフィールド調査を通じて明らかにすることにある。本研究は,世界48か国・地域(2013年3月現在)において教育事業を展開する株式会社公文教育研究会との共同研究に基づく定量調査(世界6か国・地域の指導者対象のサーベイ調査)と定性調査(日本本社,地域本社社長および関連部署責任者,担当者対象のインタビュー調査)によって構成される。定量調査は,国際知識移転の主体である人間(公文の場合,指導者)に焦点をあて,文化変数(高コンテクスト文化,低コンテクスト文化),能力変数(指導者の脱コンテクスト化能力,再コンテクスト化能力),行動変数(指導者の発信行動や受信行動),および,結果変数(指導者が運営する教室の業績評価)との関連性,を明らかにする。また,定性調査は,国際知識移転の対象である知識(公文の場合,指導方法)に焦点をあて,新しい知識が生成される背景や伝播される経緯について,事例を通じて明らかにする。
著者
堀口 哲生
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.58-66, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
44

国際競争の激化,製品ライフサイクルの短縮化の中で,企業は自らの既存の資源・能力を活用した漸進的な製品イノベーションだけでなく,新しい資源・能力の探索を伴う急進的な製品イノベーションを達成することがますます求められている。しかし,急進的な製品イノベーションには非常に高いリスクや不確実性が伴い,その実現は困難である。その中で,多くのマーケティング・経営学者は,急進的な製品イノベーションを促進・阻害する要因についての研究を行ってきた。とりわけマーケティング学者は,マーケティング組織の活動が,急進的な製品イノベーションを促進・阻害するのかという課題に対して多くの関心を向けてきた。本論の目的は,マーケティング組織の活動と急進的な製品イノベーションの関係について検討した既存研究をレビューし,その知見を整理することである。具体的には,マーケティング組織と急進的な製品イノベーションの関係に着目した2つの研究潮流をレビューした上で,マーケティング組織が急進的な製品イノベーションに如何に関与するべきなのかについて既存研究の知見を整理する。その上で,この研究領域における将来の研究余地を指摘する。
著者
小倉 優海
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.68-72, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
20

近年,企業はキャラクターを積極的に広告に起用しており,さらに,広告エンドーサー研究においても,キャラクターエンドーサーに関する議論が活発に行われており,キャラクターエンドーサーは注目すべき研究対象である。それらの現状を踏まえると,これまでに得られたキャラクターエンドーサーに関する知見を整理し,今後の研究で検討すべき課題を明確化する必要があると言える。そこで,本論では,キャラクターエンドーサーに関する既存研究を(1)キャラクターエンドーサーの分類,(2)キャラクターエンドーサーの有効性,(3)キャラクターエンドーサーの効果を調整する要因という3つに分けて,概観する。そして,キャラクターエンドーサー研究が今後検討すべき課題として,(1)新たな調整変数の識別,(2)キャラクターエンドーサーの負の影響の検討(3)新たな従属変数への注目を指摘する。
著者
本庄 加代子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.94-103, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
14

本稿はユニクロのブランド・イメージとそのブランドマネジメントのプロセスを辿る事例研究である。同社は,創業当初からグローバル化を強く意識し,創業30周年目には,確たるグローバルブランドへと成長した。そして今衣服の概念を超え,LifeWearという新しい「服」市場をも創造しつづける。本事例は同ブランドの15年間の事業活動とCIやBIを軸とした情報発信,その結果がどのようにブランド・イメージを形成したのかを追跡し,ブランド価値を発展させるための要諦の導出を試みる。
著者
福田 怜生
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.173-184, 2015-03-31 (Released:2020-05-26)
参考文献数
50
被引用文献数
1

移入とは,消費者が広告や小説に没頭した状態を指す。本稿では,まず広告への移入が説得効果に及ぼす影響を検討するため,移入が生じる条件や,移入が影響を及ぼすメカニズムに着目した研究を考察した。その結果,移入が(1)物語形式の広告だけでなく,様々な形式の広告において生じること,(2)広告評価などの態度や,行動意図にポジティブな影響を及ぼし,説得効果を高めること,(3)広告の説得効果にポジティブな影響を及ぼすメカニズムとして,批判的思考の抑制とポジティブ感情の生起があることが示された。次に,移入した消費者の広告処理過程を明らかにするため,移入の構成要素としての注意,想像,共感を個別に検討した研究を考察した。その結果,(1)注意が批判的思考の抑制に関係すること,(2)想像が広告評価及び行動意図に関係すること,(3)共感がポジティブ感情の生起に関係することが示された。これら考察によって,注意,想像,共感に関する知見を,一連の移入研究に結びつけることが可能になると考えられる。
著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.120-137, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

近年ドラッグストアの市場拡大が顕著である。活発なM&A(企業の合併・買収),食品の取り扱いに見られる品揃えの強化,調剤薬局市場の取り込み,PB商品開発,ロイヤルティプログラムの充実,消費者のワンストップショッピングニーズへの迅速な対応で,高齢者や幅広い女性顧客層を他業界から取り込んでいる。そのような中,自社のリブランディングとリージョナルマーケティング,積極的なインバウンドニーズの取り込み,AI, IT活用によって独自の顧客基盤運営と新規事業開発で全国から注目を集める北海道を基盤とするドラッグストア(株)サッポロドラッグストアー(以下,サツドラ)の取材を行った。本ケーススタディにより小売業における新しいビジネスモデル構築とマーケティング戦略において以下5点の示唆が見出された。1)地域循環型顧客関係管理プラットフォーム構築の重要性,2)地域小売業がリージョナルマーケティングにおいて果たすべき役割,3)販売チャネル「場」の新しい価値創造,4)Customer Engagement構築の重要性,5)地域コミュニティ・マーケットにおけるCollaborative Consumption(共創消費)構築の可能性
著者
朴 宰佑 外川 拓
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.20-34, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
91
被引用文献数
1

優れたデザインは,企業が競争優位を獲得するうえで重要な要因の1つになっている。先行研究では,機能性や象徴性など,消費者の製品評価においてデザインが果たす役割が明らかにされているが,いずれの研究においても共通して重要性が指摘されているのは「審美性」である。本稿では,心理学および消費者行動研究の包括的なレビューを行い,消費者がどのようなデザインに対して審美性を知覚するのかについて議論を行った。具体的には,色,形状,水平配置,垂直配置といった要素が審美性知覚に及ぼす影響について,既存の研究知見を整理し,体系化を図った。こうした考察は,研究知見の体系的把握を可能にするだけでなく,デザインに携わるマーケターにも有益な実務的示唆をもたらすと考えられる。
著者
小野 譲司 酒井 麻衣子 神田 晴彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.6-18, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
26

サービス分野におけるカスタマイゼーションは,従来は人間が行っていたサービス活動をテクノロジーに代替する動きが進みつつある。人間による柔軟性とテクノロジーによる標準化のバランスをどう取るかは,現代のサービス設計における重要な課題である。本研究では,人間によるサービスとテクノロジーベースのサービスの経験が,顧客のサービス品質評価に与える影響について実証研究を行った。その結果,どちらのサービス経験を選択するかによって,顧客期待が品質評価に与える影響と,接客サービスが品質評価に与える影響が異なること,顧客の経験値の違いによって効果が異なることも明らかになった。最後にサービス・カスタマイゼーションに関する実務的示唆と今後の課題を示した。
著者
中村 世名
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.97-105, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
37

伝統的にマーケティング研究は競争を回避すべき対象と見なしてきた。しかし,激しく,素早い競争行動によって特徴づけられる今日の環境を踏まえると,競争が不回避であるという前提のもと,競合企業との競争に勝ち続けるために必要な要因を探究する新たなマーケティング研究が求められるであろう。本論は,そのような研究を「競争志向型のマーケティング戦略研究」と呼称し,競争志向型のマーケティング戦略研究が依拠すべきフレームワークを検討した。分野横断的なレビューの結果,オーストリア経済学をルーツとする競争ダイナミクス・ビューが競争志向型のマーケティング戦略論の依拠するフレームワークとしてふさわしいことが特定化された。また,今後の研究の方向性として,競争ダイナミクス・ビューの知見に(1)顧客との関係性,(2)流通業者との関係性,(3)ポートフォリオの視点を加えた研究を行うことによって,新たな示唆を提供できることが指摘された。
著者
結城 祥
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.66-76, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
26

わが国のアパレル業界においては,需要不確実性と在庫リスクを吸収すべく,期中生産・期中企画(シーズン中の追加的な発注・企画)が推進されている。果たして,こうした取り組みは不良在庫の削減に寄与しているのであろうか。この問いに実証的な回答を与えることが,本論の目的である。アパレル・メーカーから得られたサーベイ・データを分析した結果,①期中生産は不良在庫の削減に貢献すること,②期中企画は,小売段階を外部化した状況でそれを実施すると不良在庫が増大し,小売段階の一部あるいは全てを統合している場合でも在庫削減効果を持たないことが見出された。期中企画を実施する際には,小売段階をどの程度コントロール可能か,追加企画製品の生産・発注量の意思決定精度を高水準に保つ能力が備わっているか,という点に留意する必要がある。
著者
小野 雅琴 清水 亮輔
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.68-78, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
28

制御焦点理論は本来,促進焦点を有する個人はポジティブな結果を重視した判断を行う一方で,予防焦点を有する個人はネガティブな結果を重視した判断を行うというテーゼを提唱する理論であるが,拡張の結果として,促進焦点を有する個人は感情的に結果を判断しようとする一方で,予防焦点を有する個人は認知的に結果を判断しようとするというテーゼも提唱されている。このテーゼを援用することによって,本論は,口コミ発信者に対する妬みが口コミ受信者による推奨製品の忌避に帰着すると説く最新の口コミ研究の主張を部分的に反駁し,促進焦点を有する個人はそうである一方で,予防焦点を有する個人はむしろ推奨製品を採用する傾向にあると主張する。消費者実験を行って収集されたデータを用いてANOVAを行ってテストしたところ,仮説は首尾よく支持された。