著者
山本 省
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.51-60, 1996-12

生涯木を植え続けることによって荒れ果てた地方を再生させた老人の物語は,作者ジオノが子供時代に父親とドングリの実を植えたという体験に根ざしており,木を植えるという喜びは彼にとってきわめて親しいものであった。生きる喜びは傑作『喜びは残る』のなかで縦横無尽に展開されたテーマである。この架空の物語を書くことによってジオノは読者に森の大切さを納得させる。虚構の物語が事実より雄弁なことがある。それが小説家の仕事である。
著者
唐沢 豊 久保田 徹
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.p79-86, 1986-12

本研究は,ニワトリヒナに給与する大豆粕飼料の大豆粕を酵母で全量置換することが可能かどうかについて検討した。実験に供試した酵母はA,B,C(粗蛋白質含量はそれぞれ57.1,48.5および55.3%)の三種で,対照飼料の蛋白質源は大豆粕とし,全飼料のCPは21.3%,必須アミノ酸組成はNRC飼養標準を満足するようアミノ酸を添加して補正した。その結果,酵母飼料は全て0.563%のプリンを含有した。飼料摂取量とME摂取量は,A,B両区とも対照区と差がなく,ME/GE比はA,B両区とも対照区より有意に低くなった(P<0.05)。体重増加量と飼料効率はA区は対照区と等しく,B区は対照区より高くなった(P<0.05)。これに対しC区の飼料摂取量,ME摂取量,体重増加量は,対照区より低くなる傾向があった。しかしC区の飼料効率とME/GE比は対照区とほぼ等しかった。窒素摂取量,総窒素排泄量ともに対照区と比べA区とB区で高く,C区で低い傾向が認められた。尿酸窒素の排泄量は,対照区と比べ各区とも低くC区との間に有意差が認められた(P<0.05)。総排泄窒素中の尿酸窒素の割合は,各区とも対照区より有意に低く(P<0.05),A区では特に対照区の半分以下であった。摂取窒素の尿酸窒素への転換率は,同様に各区で対照区より低かった(A区,C区,P<0.05)。しkしながら,摂取窒素の利用率は対照区と各区の間に有意差は認められなかった。以上の結果から,供試した酵母AとBは,ヒナの飼料蛋白質源として大豆数と同等かそれ以上の栄養価を持つものと考えられる。またこれらの酵母は,尿酸生成を抑制する作用を持っていることが示唆された。
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.p43-52, 1979-07

The distribution of the Japanese mountain mole, Euroscaptor mizura is limited on the main land in Japan. However, the closely related species to the E. mizura distributes on the south-west part in China and its vicinity. Therefore, the Japanese mountain mole distributes as a spotted pattern. E. mizura should be the oldest form of the Talpinae on the main land in Japan. Since specimen of E. mizura collected is quite few, the distribution is remained uncertain. About 10 specimens of E. mizura have been obtained from various mountainous zones in Nagano District, i. e. , the Hida Mountains, the Mikuni Mountains, the Akaishi Mountains, the Yatsugatake Mountain Mass and the Chikuma Mountain Region. But there is no any record of collection in the Kiso Mountains at all. The authors could fortunately obtained a dead female specimen on the peak of the Mt. Kiso-Komagatake. It is suggested that E. mizura may be able to live in the Kiso Mountains. Measurement of the specimen obtained was done on some morphological features. The results were as follows.From the previous record, it may be said that the Japanese mountain mole distributes on forest and grassland in alpine and subalpine zones in Nagano District. On the other hand, as the collection record has been found in Yamanashi, Aomori, and Hiroshima Districts, E. mizura may be described, in the future, on the low land zone in Nagano District.
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 志田 義治 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.p21-42, 1976-06
被引用文献数
2

The distribution of small mammals on the eastern slope of the Mt. Kiso-Komagatake, the peak of the Japanese Central Alps was described in the previous report (Suzuki, Miyao et al, 1975). In the present paper, the authors made clear the food habit of the Japanese martens (Martes melampus melampus) in the upper part of low mountainous zone (1,200-1,600m above the sea level) on the eastern slope of the Mt. Kiso-Komagatake. From late August 1975 to late February 1976, total 193 scat samples were collected in the area and their content were analyzed. As to the flora in the area, afforestation of Larix kaempferi is predominating, and secondary forests containing Quercus crispura, Betula platyphylla, Fagus crenata, Cercidiphyllum japonicum and Tsuga diversifolia are scattered here and there. The results of scat analysis are as follows; 1) Scats containing both animal and vegetable foods were predominant, indicating the omnivorous habit of the Japanese marten. Those exclusively containing animal foods increased in winter (January to February), thus suggesting their stronger tendency towards flesh-eating in the cold season. 2) Kinds of animals eaten by the Japanese marten covered seven classes, and among them insects and small mammals were mainly eaten. Mammals eaten with the highest predilection were Lepus brachyurus and murinae rodents, and especially the former may become the basal animal foods for the Japanese marten. Insectivora in scats were found more frequently in winter. A mass of hairs ofthe Japanese serow (Capricornis crispus crispus) was found in one scat. In insects, Coleoptera was frequently eaten but they entirely disappear in winter season. 3) As to the vegetable foods, buccas and drupes from plants of seven orders of class Dicotyledoneae were found and buccas from Actinidia arguta and A. holomikta of order Parietales were mainly eaten. Scats contained 85-99% of fruits collected from August to December, however, its percentage decreased and the frequency of the small mammals increased in winter season (January to February). Besides Parietales, buccas and drupes of Akebia quinata, Rubus, Vitis coignetiae, Viburunum furcatum, Diospyros kaki, Aralis cordata A. elata were also eaten. 4) The mean number of different order of foods found in one scat was 2.5 for the total period of investigation, 2.8 for August to September, 2.2 for October to December and 2.1 for January to February. In August to September, buccas of Actinidia arguta, A. holomikta and Akebia quinata were more frequently eaten in combination with Lepus brachyurus. In January to February, Lepus brachyurus was the major food. 5) It arouses great interest to know what difference may exist in the food selection among the Japanese marten, Martes melampus melampus, the Japanese red fox, Vulpes vulpes japonica and the Japanese weasel, Mustela itatsi itatsi, which live sympatrically in the same area. This problem will be studied in the near future.
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.p147-177, 1977-12
被引用文献数
4

長野県木曽駒ヶ岳東斜面におけるホンドテンの食性を明らかにしたいと考えて,著者らは1975年4月以来調査を続行中である。本報では,1976年3月下旬から1977年1月下旬にわたって,低山帯上部(海抜1,200mから1,600m)ならびに亜高山帯(海抜1,700mから2,600m)において採集されたホンドテン(Martes melampus melampus)の糞内容物の分析結果からその食性の低山帯上部における秋季および冬季の1975年度・1976年度間の差異,春季および夏季と秋季および冬季との季節的な差異,さらに低山帯上部域と亜高山帯域との差異について,比較論及した。1)低山帯上部において採集できた糞数は,8月までは少ないが,9月からは急増した。亜高山帯においてもこれらの傾向は,ほぼ同一である。しかしながら,こうした現象の原因については未だ解明し得ないでいる。2)低山帯上部においては,3月から6月まではほとんど動物性食物に依存しているが,9月以降1月まではむしろ植物性食物の比重が大きい。7月・8月は前記した両期の中間的な状態を示していた。亜高山帯においては,9月から12月の間は動物性食物のみの糞はほとんどなく,植物性のみまたは植物性ならびに動物性の両食物を含むものが主となっていた。3)低山帯上部における3月から6月の期間の糞は,動物性食物のみによって成り立っており,しかも動物性食物はほとんどがノウサギだけである。4)低山帯上部の9月から12月は,動物性食物のみによって構成される糞がほとんどなく,植物性のみ,または植物性および動物性の双方の食物を含むものによって大多数が占められる。7月および8月の食物構成は,6月までと9月以降との状態の移行的な形態を示す。5)低山帯上部における植物性食物は,7月・8月にはイチゴ類(Rubus),9月・10月には側膜胎座目(サルナシ・ミヤママタタビ),12月・1月にはナナカマド類(Sorbus)となる。6)低山帯上部においては,1975年度(鈴木・宮尾ほか,1976)にみられなかったナナカマド類が,1976年度には11月から1月にかけて,植物性食物としてほとんど独占的に食べられていて。1976年度における,特に6月から9月の間の冷温が両年度間の植物性食物の種類の差異の原因になっているのかも知れない。7)低山帯上部においては,動物性食物としてノウサギとネズミ類が最も主要であるが,両者の間には相互補完的な関係が認められ,両者は姉妹食物の関係にある。8)亜高山帯の7月・8月には動物性食物(ノウサギおよび鞘翅目昆虫)のみによって構成される糞の頻度が高い。9月には動物性および植物性の両食物を含むものが大部分を占める。11月・12月には,植物性食物(ナナカマド類)のみによって構成される糞の頻度が約半数を占めるようになる。9)亜高山帯においては,低山帯上部に比較すると動物性食物の比重が大で,植物性食物の比重が小さい。10)亜高山帯における動物性食物はノウサギが中心となる。
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.p47-79, 1978-07

長野県木曾山脈の主峰,木曾駒ヶ岳(海抜2,956m)の東側斜面小黒川流域に位置する信州大学農学部付属演習林およびその隣接地域において,1975年5月より1977年1月にわたって,ニホンカモシカの食性調査を行った。調査地は海抜1,200~1,600mの低山帯上部(冷温帯)に相当する天然生林である。ニホンカモシカによる採食痕の調査から,食植物を同定し,食植物の周年的変かをほぼ明らかにすることができた。ただし,本調査では,主として食植物の種名を明らかにする定性的段階にとどまった。また,3月および4月の資料は少数であるため省いてある。結果の概要は次の如くである。1)ニホンカモシカの採食痕をみると,草・木本の先端をひきちぎって食べていることがわかり,ニホンカモシカはbrowsing herbivoreまたはsnip feederであると云える。2)ニホンカモシカの食植物として189種を同定することができた。そのうち草本は27科94種,広葉樹は29科85種,針葉樹は2科7種,ササ類が1科3種であった。食植物の種類数は7月に最も多く(106種),11月に最も少なかった(43種)。3)5月から11月までは草本と広葉樹の種類数がほぼ半数ずつを占め,食物はこの2植物群によって供給される。12月から2月の期間には,上記2植物群のほかに常緑針葉樹とササ類の2植物群が加わり,草本の種類数は極めて少なくなる。広葉樹はこの時期に一層重要性を増し,2月には83.1%が広葉樹によって占められている。常緑針葉樹は種類数で約5%,ササ類は約2%程度である。本調査地域には常緑針葉樹の現存量が少ないため,冬季にも副次的な食物源の地位にとどまる。4)周年的にどの月(ただし3・4月は未調査)にも採食痕がみられた植物(周年型食物物)はノリウツギ,タマアジサイ,ヤマアジサイ,クリチゴ,クマイチゴ,マユミ,ハナイカダ,リョウブ,ニワトコ,オオカメノキの10種で,これらはいずれも落葉広葉樹である。春~秋には枝・葉が,冬には越冬芽をつけた枝先が摂食される。これらの次いでほぼ周年的に採食されるのはイタドリ,クサボタン,ノハラアザミ,ヨモギ,ヤマブドウであった。これらの植物は,ニホンカモシカにとって最も基本的な食物源になっていると考えられる。5)早春型食植物としてはフキ(花茎),シロバナエンレイソウ,エンレイソウ,ツクバネソウなどがあげられる。一般の植物に先駆けて緑葉を展開する植物群で,周年型食植物を補充するものとなっているようである。6)夏型食植物はきわめて多様な草本と広葉樹から成る。周年型食植物が夏~秋にも多食され,そのほかにはハナウド,ミヤマゼンゴ,ヨブスマソウ,モミジハグマ,ヨツバヒヨド,リバナ,ミズナ,アカソなどの草本が量的に多く摂食されている。7)晩秋型食植物としてはフキ(葉),広葉樹の落葉,枯草,ミズナラの堅果などをあげることができる。夏・秋から冬への移行期に,短時間ではあるが摂食の対象とされる。8)冬型食植物は常緑針葉樹とササ類の枝・葉で,周年型食植物の不足を補う。冬季(12月~2月)以外には,常緑針葉樹およびササ類は食べられることが殆どない。9)ハシリドコロ,ヤマトリカブト,ヤマオダマキ,コバイケイソウ,ネジキ,トチノキ,フジウツギなどの,いわゆる有毒植物も稀にはあるが摂食されていた。10)本調査地域においてニホンカモシカによる採食痕が認められなかった植物は,アズマシャクナゲ,レンゲツツジ,タケニグサ,スズラン,イワカガミ,マムシグサ類,クサソテツ,シシガシラなどであった。
著者
根本 和洋 西川 芳昭
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.73-81, 2007-03
被引用文献数
3

オルタナティブな農業のための種子供給システムについて,ドイツにおけるバイオダイナミック農業を事例として,(1)バイオダイナミック農業の研究および種子生産をおこなっている先進事例(initiative)Saatgutinitiative Bingenheimおよび(2)シュタイナー農業を実践する集団農場Dottenfelderhofを調査した。バイオダイナミック農業では,この農法によって採種されたOP品種のみを使用しており,ハイブリット種子を主力とする大規模な多国籍種苗企業とはニッチが異なるため,育種,品種維持,種子生産および流通において独自のシステムが確立されていた。このシステムは,消費者のニーズに応えるとともに,通常の農業よりも幅広い人々の参加を実現している。このことは,高度に商業化された農業においてもオルタナティブな種子供給システムが可能であることを提示する。
著者
茅原 紘 中川 賢司 只左 弘治 林 俊英 米田 公生 武藤 紀生 中川 博司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要
巻号頁・発行日
vol.33, no.1-2, pp.1-8, 1996-12-31

アラキドン酸(AA)のシクロオキシゲナーゼ系代謝産物の一つであるトロンボキサンA2(TXA2_)は,血栓症や動脈硬化症の発症に深く関与している事が知られており,近年,TXA2生合成の選択的抑制についての研究が多くなされる様になって,天然物及び合成物から活性物質が見いだされてきた。しかしハーブ類に関するこの種の研究はほとんどなされていない。本実験では従来ハーブの中で血液及び循環器系に対して何らかの効果があるとされているハーブ13種類を選出し,主としてAAによって惹起される血小板凝集の抑制能を調べた。その結果,バジル,ゲラニウム,ジャスミン,ペパーミント及びローズウッドに顕著な抑制能が観察され,ジュニパー及びネロリもかなり高い阻害能を有する事が判った。更に,ハーブ精油成分について抑制能を調べた結果,オイゲノール及びカルバクロールに強い抑制能が見られ,特にオイゲノールは0.75μMの濃度で完全に抑制した。最後に,被験物質がアラキドン酸カスケードのどの段階に作用しているかを調べた結果,シクロオキシゲナーゼの活性を抑制しているか,またはアラキドン酸に直接作用している可能性を示唆する結果を得た。 本研究は最近特に注目されだした芳香療法(アロマテラピー)の分野において,血栓症や動脈硬化症の予防および治療を目的としてハーブの種類を選択する際の指針を提供するものと考える。
著者
有馬 博 高橋 敏秋
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.37-52, 1975-12

1 前報3)のSU-74型加工トマト収穫機試作にひき続き,1975年にSU-75 FS型加工トマト選果機を試作し実験した。2 この選果機は歩行型クローラ台車にホッパー,さん付きバーコンベア,平ベルト逆転式選別コンベア,選果台その他からなる選果装置を搭載した小型の一挙収穫用作業機である。3 作業車は2~8名としうち1~3名がホッパーへ果実を振り落とす。果実はバーコンベアで搬送され逆転コンベアできよう雑物を除去されたのち選果台に達する。他の作業車は,選果台附近にいて熟度選果を行い出荷可能果を畦上のコンテナへ収容する。4 台車から選果装置を取り外し,代わりに荷台を搭載すればコンテナ運搬車として利用できる。5 ほ場実験の結果,果実収穫作業,コンテナ運搬作業とも従来の作業方法の約2~3倍の作業能率(kg/人/分または箱/人/分)をあげることができ,果実の損失もなかった。6 この選果機は単純小型の構造で品種や栽培条件に制約を受けることが少ないので国内の栽培地へただちに導入できるであろうと推察された。
著者
佐藤 幸雄 熊代 克巳
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.p61-69, 1985-12

セイヨウナシの葉やけ発生要因と考えられる気孔運動機能の鈍化が,他の果樹にも認められるかどうかを知るため,ナシ,リンゴ,モモ及びブドウを用いて,葉の比較蒸散量及び蒸散抵抗を調べた。得られた結果の概要は次のとおりである。1.葉齢の進行にともなう気孔運動能の鈍化は,葉やけの発生しやすいナシ「バートレット」が最も著しく,6月下旬にすでにその微候が認められ,7月中旬から急速に進行した。しかし葉やけの発生が認められないモモ「缶桃5号」は,8月下旬においてもなお気孔の運動機能が鋭敏であった。ブドウ「コンコード」は,8月上旬以降に機能鈍化が認められたが,「バートレット」ほど顕著ではなかった。またリンゴ「ふじ」も8月上旬以降に機能鈍化の微候を示したが,その程度は比較的軽かった。2.ナシの品種別比較では,「バートレット」の機能鈍化が最も著しかった。「新水」は7月中旬に「バートレット」と同程度の機能鈍化を示したが,それ以降はさほど進行しなかった。また「幸水」は,8月中旬以降に急速に機能鈍化が進行し,9月上旬には「新水」とほぼ同程度となった。3.夏季の高温乾燥条件下における着生葉の蒸散抵抗は,「缶桃5号」が最も高く,次いで「ふじ」,「コンコード」,「幸水」,「新水」,「バートレット」の順に低下し,「バートレット」が最低であった。またいずれの果樹も新梢の基部葉は先端部葉に比べて低かった。4.葉やけ発生率と気孔の運動機能との関係をセイヨウナシについて調べた結果,発生率の高い品種ほど機能鈍化が著しい傾向がみられた。しかし「プレコース」のみは機能鈍化が著しかったが,葉やけ発生率は低かった。
著者
梅村 信哉 Tayutivutukul J. 中村 寛志
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.31-36, 2005-03

2003年10月19日から2003年10月30日にかけて,タイ国チェンマイにおける6つの調査地(チェンマイ大学,Mae Hia Station, Chang Kien Station, Nong Hoi Station, チェンマイ市郊外)においてスウィーピングとビーディングを用いてハムシ類の定性的調査を行った。調査全体を通じて8亜科24種(チェンマイ大学:11種,Mae Hia Station:3種,Chang Kien Station;2種,Nong Hoi Station:11種,チェンマイ市郊外;4種)のハムシ類を確認した。このうち,ヒメアカクビボソハムシLema coomani,ウリハムシAulacophora indica,ヒメクロウリハムシAulacophora lewisii,キイロクワハムシMonolepta pallidula,ヒメドウガネトビハムシChaetonema (Chaetocnema) concinnicollis,カミナリハムシAltica cyanea,ジンガサハムシAspidomorpha furcataの7種は日本にも分布する種であった。これらのデータをもとにハムシ類の目録を作成した。
著者
大井 美知男 磯村 由紀
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.49-55, 2000-10

長野県在来の大根13品種の形態調査を26項目について行った。得られた結果をもとにクラスター分析を行ったところ,以下の3グループと5サブグループに分類された。グループ1,サブグループA:「灰原大根」,「信州地大根」,「ねずみ大根」,「切葉松本地大根」,「戸隠大根」,「上平大根」,「牧大根」 サブグループB:「上野大根」 サブグループC:「前坂大根」 グループ2,サブグループD:「たたら大根」 サブグループE:「大門大根」 サブグループF:「赤口大根」 グループ3,「親田辛味大根」 さらに,長野県在来の大根品種が多様な変異を持ち合わせていることが明らかになった。
著者
山本 省
出版者
信州大学
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.111-120, 1999-03

『喜びは残る』の作者ジオノは人間が生まれ死ぬのはごく当たり前のことだから死を異常なものではなくむしろ自然な現象と考えていた。しかし,自殺についてはいささか事情が異なる。生きていく喜びの欠如,何らかの価値観の喪失,こうしたことが自殺の原因になりうる。『喜びは残る』では4人の登場人物が自殺する。エレーヌの夫とシルヴは何の喜びもないグレモーヌ高原の住人たちに特有の病気が嵩じて自殺し,オロールは喜びは見出したがそれを持続させることができず死を選ぶ。高原の住人たちに生きる喜びを教えてきたボビはジョゼフィーヌとの情交を重ねるうちに自分には穏やかな喜びは不可能になっていくのを痛感する。もはや高原にいる意味がなくなったと判断し高原をあとにしたポビは激しい嵐のなかで死ぬ。反対に動物や植物に喜びを見出し精彩あふれる生活を取り戻していった住人たちも存在する。この物語では,4人の死者がでたにもかかわらず,生きる喜びの種は確実にまかれたということが確認される。死者たちも世界の運行に異常なことは何もなかったかのように参加する。寂しげだったグレモーヌ高原に鹿が遊び,羊が啼き,小鳥や小動物が徘徊し,花々が咲き乱れるようになったのである。
著者
山田 明義
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要
巻号頁・発行日
vol.38, no.1-2, pp.1-17, 2002-01-31

日本の野生きのこ類の主要な位置を占める菌根性きのこ類について,食資源としての利用性を明らかにすることを目的に,文献調査を行った。その結果,これまでに300種を超えるきわめて多様なきのこ類が利用されており,今後さらに研究の進展にともない,より多くのきのこ類が利用される可能性のあることが示唆された。これら菌根性きのこ類は,これまで殆ど人工栽培の研究が行われていなことから,産業利用の見地からは研究の必要性が指摘された。
著者
松尾 信一 森下 芳臣 大島 浩二
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.59-90, 1984-07

ニホンカモシカの骨格の形態学的研究の一環として,前肢骨格に引き続き,今回は,後肢骨格について調査研究を行なった。1.カモシカの後肢骨は,寛骨(腸骨,坐骨,恥骨),大腿骨,膝蓋骨,脛骨,腓骨,足根骨,中足骨,趾骨,種子骨および副蹄内の2個の小骨片から成り,それらの骨の各部位を確認し,図譜を作成した。2.カモシカの後肢骨格は,反芻動物の一般的な特徴を備え,概観的には,ヤギやヒツジの骨格に類似していた。また,ウシとは,骨格の大きさで区別できた。3.カモシカの寛骨では,次の部位でヤギやヒツジと区別できた。閉鎖孔,寛骨臼,大腿直筋外側野,腸歩翼,腸骨稜,寛結節,仙結節,殿筋面と殿筋線,大坐骨切痕,坐骨体,坐骨板,坐骨結節,小坐骨切痕,恥骨櫛,閉鎖溝および大腿骨副靱帯溝。カモシカの閉鎖孔の周縁に家畜解剖学用語には使用されていない背側閉鎖結節と腹側閉鎖結節の存在を発見し,靱帯解剖学用語を参照して命名した。4.カモシカの骨盤では,雌雄差について調査した。また,骨盤腔の形でヤギやヒツジと区別できた。5.カモシカの大腿骨では,次の部位でヤギやヒツジと区別できた。大腿骨頭,頭窩,大腿骨頸,転子窩,転子間稜,大転子,大腿骨粗面,顆上窩,顆間窩および栄養孔の位置。6.カモシカの膝蓋骨は,概観的にウシと異なり,ヤギやヒツジと類似していた。7.カモシカの下腿骨では,次の部位でヤギやヒツジと区別できた。脛骨では,外側顆,膝窩切痕,顆間区,顆間隆起,脛骨粗面,脛骨体,前縁,外側面および遠位端。また,腓骨は,腓骨頭と外果より成り,ヤギやヒツジのものによく類似していた。8.カモシカの長骨では,脛骨が最も長く,次に尺骨,大腿骨,上腕骨,橈骨,中足骨,中手骨の順であった。9.カモシカの足根骨は,ヤギやヒツジのものと類似しており,一部,ウシのものとは異なっていた。10.カモシカの中足骨では,退化している第二中足骨が,第三・四中足骨の近位(上端)の後内側に小突起として付着していた。一方,ヤギやヒツジでは,第三・四中足骨の近位には,第二中足骨との関節面が存在していた。さらに,中足骨と中手骨の形態的差異についても,カモシカとヤギでは異なっていた。11.カモシカの趾骨は,ヤギやヒツジのものに類似して細長かった。一方,ウシのものは,太くて短かった。さらに,カモシカでは前肢の指骨の方が,後肢の趾骨よりも太くて短かった。12.カモシカの四肢骨における雌雄差は,寛骨と骨盤においてのみ認められた。
著者
松尾 信一
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.115-132, 1990-12-25 (Released:2015-09-25)

明治以前の日本での最大の西洋百科事典の和訳書であるショメール『厚生新編』の中の家畜(馬,驢,山羊,水牛,猟犬,猫,駱駝,羊,ラム,馴鹿など),家禽・飼鳥(アヒル,鵞,七面鳥,雉,孔雀,カナリヤなど),畜産物等(乳,バター,チーズ,獣皮,膠,鮓答,肉料理)について詳細に調査し,更に,フランスのChomel原著,Chalmotオランダ語訳本(英文要旨記載)及び江戸時代の日本の本草書などとの比較考察を行った。
著者
茅原 紘 川上 晃 奥谷 能彦 中西 潮 只左 弘治
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.35-44, 1991-07

今回,砂糖の約2000倍の甘味を持つといわれるペリラルチンと類似構造を有するように,甘味発現のAH-B-X系に基づき,(1)オキシムをシッフ塩基に置き換えたアナローグ,(2)オキシムをペプチド結合に置き換え,水酸基を持つアミノ酸Ser,Thrを導入したアナローグを合成した。(1)では,perillaldehydeや,他のアルデヒドにアミンを導入したものについても呈味は得られなかった。(2)の場合,C端保護Thr,Serに有機酸を導入した場合苦味を呈し,C端無保護の時酸味となった。ところが,Ferulic acidを導入した場合,C端保護時で甘味を呈した。このことから,Ferulic acidの特殊な構造と,SerおよびThrの水酸基の位置が微妙に甘味に関連している事が推定される。
著者
佐藤 幸雄 熊代 克巳
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.61-69, 1985-12

セイヨウナシの葉やけ発生要因と考えられる気孔運動機能の鈍化が,他の果樹にも認められるかどうかを知るため,ナシ,リンゴ,モモ及びブドウを用いて,葉の比較蒸散量及び蒸散抵抗を調べた。得られた結果の概要は次のとおりである。1.葉齢の進行にともなう気孔運動能の鈍化は,葉やけの発生しやすいナシ「バートレット」が最も著しく,6月下旬にすでにその微候が認められ,7月中旬から急速に進行した。しかし葉やけの発生が認められないモモ「缶桃5号」は,8月下旬においてもなお気孔の運動機能が鋭敏であった。ブドウ「コンコード」は,8月上旬以降に機能鈍化が認められたが,「バートレット」ほど顕著ではなかった。またリンゴ「ふじ」も8月上旬以降に機能鈍化の微候を示したが,その程度は比較的軽かった。2.ナシの品種別比較では,「バートレット」の機能鈍化が最も著しかった。「新水」は7月中旬に「バートレット」と同程度の機能鈍化を示したが,それ以降はさほど進行しなかった。また「幸水」は,8月中旬以降に急速に機能鈍化が進行し,9月上旬には「新水」とほぼ同程度となった。3.夏季の高温乾燥条件下における着生葉の蒸散抵抗は,「缶桃5号」が最も高く,次いで「ふじ」,「コンコード」,「幸水」,「新水」,「バートレット」の順に低下し,「バートレット」が最低であった。またいずれの果樹も新梢の基部葉は先端部葉に比べて低かった。4.葉やけ発生率と気孔の運動機能との関係をセイヨウナシについて調べた結果,発生率の高い品種ほど機能鈍化が著しい傾向がみられた。しかし「プレコース」のみは機能鈍化が著しかったが,葉やけ発生率は低かった。
著者
鈴木 俊介
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要
巻号頁・発行日
vol.49, no.1-2, pp.11-18, 2013-03-22

ゲノムインプリンティングは一部の遺伝子に親由来により異なるエピジェネティック修飾を与え,片親性発現を引き起こす。本来,雄由来と雌由来の染色体からなる二倍体の細胞をもつことは劣勢変異の表現型を抑える大きなメリットがあるが,片親性発現であるインプリント遺伝子は二倍体でありながらその機能が一倍体と同じ状態になっている。このユニークな遺伝子発現制御機構は,高等脊椎動物において哺乳類には広く保存されているが,鳥類以下では見つかっていない。ゲノムインプリンティングが哺乳類の進化上なぜ現れ,どのように進化して現在まで保存されてきたかは,非常に興味深い側面であるがまだ結論は出ていない。哺乳類には,卵生で胎盤をもたない単孔類,胎生だが真獣類と比べ非効率的な胎盤をもち早期に出産する有袋類,効率のよい胎盤をもち長期間胎内で子を育てる真獣類という,それぞれ異なった生殖様式をとる三つのサブグループが存在する。ゲノムインプリンティングの進化は,哺乳類の中でも胎生である真獣類と有袋類のみにみられること,インプリント遺伝子群に胎児の成長や母子間の栄養輸送,母性行動などに関わる遺伝子が複数含まれること,ほとんどのインプリント遺伝子が胎盤組織で高い発現レベルを示すことなどから,哺乳類の胎生の進化と関連があったと考えられている。したがって,生殖様式の異なる真獣類と有袋類においてインプリンティングを受ける遺伝子や領域,メカニズムを解析し比較することは,その起源や生物学的意義,進化を考察する上で必須である。本総説では,これまでのほとんどの研究が対象にしてきたマウスやヒトとは別のグループである有袋類や単孔類を含めた比較解析により見えてきたこれらの知見について議論する。
著者
村井 秀夫 松尾 信一
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.p245-257, 1974-12

Nagano-ken (Shinano no kuni) was very famous for a horse breeding area in Japan. In January 1972, an old scroll of horse medicine was found from an old family, the Sasakos, at Komagane, Nagano-ken. The scroll was copied in 1710 from the original by Harimano-Kami Ansai in 1579. The basic feature of the scroll is founded on the traditional Chinese horse medicine and Buddhism. It has several sections. First; the summarized graph of the Chinese five natural elements such as fire, wood, earth, metal and water. Second; the anatomical charts of the five parenchymatous organs and six viscera, the pictures of a horse body, horse's face, Buddha's face, the five storied stone Pagoda (Stupa) and [ア] (sanskrit). These are divided respectively by the five colors (blue, red, white, black and yellow), and the parts of the same color of each picture are connected with a same color line. Third; explanatory notes and diagrams of interrelationships of seasons, the old calender, Buddhism, the body and diseases with the five natural elements. Fourth; two pictures of the horse body show points for acupuncture. Fifth; the aim of the arrangement of this scroll was to summarize concisely from the Ankishu (the name of Chinese horse medicne). Lastly; names of authorized scholars of this School, The founder was Memyo Bosa-tsu (Asvaghosa) in India. Successors; Sanzo priest in Tang (China), Funsen (a Japanese Buddhist priest) etc. , and the scroll was kept in the Ansai School. The scroll shows that one horse medicine in Japan was brought directly from China.