著者
茅原 紘 中川 賢司 只佐 弘治
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-8, 1996-12

アラキドン酸(AA)のシクロオキシゲナーゼ系代謝産物の一つであるトロンボキサンA2(TXA2_)は,血栓症や動脈硬化症の発症に深く関与している事が知られており,近年,TXA2生合成の選択的抑制についての研究が多くなされる様になって,天然物及び合成物から活性物質が見いだされてきた。しかしハーブ類に関するこの種の研究はほとんどなされていない。本実験では従来ハーブの中で血液及び循環器系に対して何らかの効果があるとされているハーブ13種類を選出し,主としてAAによって惹起される血小板凝集の抑制能を調べた。その結果,バジル,ゲラニウム,ジャスミン,ペパーミント及びローズウッドに顕著な抑制能が観察され,ジュニパー及びネロリもかなり高い阻害能を有する事が判った。更に,ハーブ精油成分について抑制能を調べた結果,オイゲノール及びカルバクロールに強い抑制能が見られ,特にオイゲノールは0.75μMの濃度で完全に抑制した。最後に,被験物質がアラキドン酸カスケードのどの段階に作用しているかを調べた結果,シクロオキシゲナーゼの活性を抑制しているか,またはアラキドン酸に直接作用している可能性を示唆する結果を得た。 本研究は最近特に注目されだした芳香療法(アロマテラピー)の分野において,血栓症や動脈硬化症の予防および治療を目的としてハーブの種類を選択する際の指針を提供するものと考える。
著者
千 裕美 唐沢 豊
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-10, 1997-09

長野県伊那市において,信州ダチョウ研究会の会員をパネラーとして,ダチョウ肉料理の嗜好調査を行った。ダチョウ肉の刺身,カツ,たたき,寿司,ステーキ,カルパッチョおよびサウスウエストローストの7つの料理を嗜好調査に用いた。 ダチョウ肉の刺身,カツ,たたき,寿司およびステーキの5つの料理と,馬肉の刺身,トンカツ,牛肉のたたき,マグロ寿司,牛肉ステーキとをそれぞれ比較した。その結果,外観,テクスチャー,フレーバー,味および総合評価のいずれにおいても,寿司を除く4種類の肉料理で,ダチョウ肉を用いた料理が他の肉よりも嗜好性が高かった。年齢が上がる程,ダチョウ肉の刺身,カツおよびたたきの嗜好性は高くなった。 7種類のダチョウ肉料理の中で,嗜好性の高かった料理は,たたき,カツ,刺身,ステーキの4種類であった。カルパッチョは,女性に最も好まれる料理であった。
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 志田 義治 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.p61-91, 1975-12
被引用文献数
2

The Kiso-Komagatake is one of the main mountains in Kiso Mountain Range, which rises nearly on the middle of Japan main land, that is, on the western side of the Ina Basin in Nagano Prefecture, forming the watershed between the Rivers Kiso and Tenryu. The highest summit is as high as 2,956m above the sea level. One can in a while attain the height of 2,500m above the sea level from the City Komagane (600m high) by means of bus and then ropeway and many tourists visit the mountain throughout the year. This, together with extensive amount of wood cutting, has contributed to the rapid deterioration of the nature. As for the botanical distribution of the mountain, Pinus pumila is predominant in the alpine zone, higher than 2,500m above the sea level, Abies mariesii and Tsuga diversifolia in the sub-alpine zone, 1,500-2,500m high, and Quercus crispula in the lower zone, lower than 1,500m. Cultivated lands and village can be found in the zone lower than 900m above the sea level. The natural flora is confined to the subalpine zone and the lower zone is mostly occupied by the secondary forest, mainly consisted of Larix kaempferi. To obtain the general distribution of small mammals on eastern slope of the Kiso-Komagatake, the authors have carried out the collection and survey since June 1974. The results are as follows : 1) The collection was made with snap traps at 6 places of different height, ranging 950-2,640m above the sea level on the eastern slope, and the following species were obtained : Insectivora Sorex shinto alt. 1,500-2,640m Crocidura dsinezumi alt. 1,200m Dymecodon pilirostris alt. 1,300-1,700m Urotrichus talpoides alt. below 1,300m Rodentia Glirulus japonicus alt, 1,700m and 1,300m Clethrionomys andersoni alt. 1,300-2,640m Eothenomys kageus alt. 1,200-1,500m Microtus montebelli alt, below 1,200m Apodemus speciosus alt. 950-1,500m Apodemus argenteus alt. 950-2,640m Rattus norvegicus alt. 2,640m around the ropeway station, hotel and restaurant in the alpine zone. The widest distribution was shown by A. argenteus, being found at any place in the altitude of 950-2,640m. The species which was distributed from the sub-alpine to alpine zone was S. shinto and C. andersoni. D. pilirostris was native to the forest of sub-alpine zone. C. andersoni and E. kageus are both forest dwellers, the former species is used to live in above 1,300m and the latter live in below it. The distribution border between D. pilirostris and U. talpoides was also at the altitude of about 1,300m. M. montebelli generally inhabits in cultured land, grassy plain and young forested land. In the Kiso-Komagatake, however, this species did not distribute in higher altitude than 1,300m even when the habitat was sufficient. This is probably because of very steep slope of the mountain side. R. norvegicus inhabited around the ropeway station, hotel and restaurant in the alpine zone, propagating themselves even in very severe cold conditions. The higher the altitude of the population of A. argenteus, the later the beginning of propagation in spring occured. 2) In the zone, ranging 1,300-1,500m above the sea level, small mammals were caught with snap traps in three Larix kaempferi-afforested lands of different age and the relation between forest age and species of small mammals was examined. A. speciosus was found in the sapling and the young forest but not in the grown forest, while a large amount of A. argenteus was found in the grown forest according to Apodemus Index. C. andersoni was not found in the sapling, while E. hageus was relatively large amounts in the sapling and the young forest, though absence in the grown forest. 3) In a few Larix kaempferi forest in the altitude of 1,300m, movements of A. speciosus and A. argenteus were followed up for 7 days by the use of alive traps. The distance of two traps which caught the same individual in two consecutive nights was measured with the following results :In case of A. speciosus, it was 11.3m (mean for 5 cases) in June and 21.0m (mean for 4 cases) in August. The mean for June and August was 15.6m for 9 cases. In case of A. argenteus, the mean distance in June was 15. 5m for 7 cases. From these figures, the diameter of the home range was calculated, with the result that the mean was 33.1m for A. speciosus and 27.8m for A. argenteus. There was little difference between them.
著者
松本 定
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.55-65, 2009-03

ブータンのシダ植物誌のため、2005年2月27日から6日間、西ブータンを中心に3ヶ所158点、および2007年3月28日から7日間、東ブータンを中心に135点収集した。また東京大学調査隊(1967年)標本585点の再同定を行い、チェックリスト作成中である。この過程でテンリュウヌリトラノオAspleium shimuraeとクマヤブソテツCyrtomium microindusiumを見出し、ブータン新産であった。これらはそれぞれ近縁種のヌリトラノオAsplenium normaleとヒロハヤブソテツCyrtomium macropyllumと混同されていた。また単葉の変わったシダAsplenium delavayiもブータン初記録であった。植物民俗学的知見として、食用によく知られるランダイワラビPteridium revolutumやクワレシダDiplazium esculentumだけでなく、オニヒカゲワラビに近縁なD. maximaやオオイシカグマMicrolepia speluncaeまたはそれらの近縁種が多量に利用されていた。これらは牛など家畜に食べられずに小規模であるが放牧地植生として発達し、特にランダイワラビやイシカグマの仲間は渋みや苦味が強く熱処理料理で食用にされている。また東ブータンにおいてミズスギLycopodium cernuumを使った大臣訪問休憩所の緑門(歓迎門)に出会い、近縁のヒカゲノカズラを含めた、東アジアに広く分布する装飾文化をブータンでも見出した。
著者
渡邉 修
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要
巻号頁・発行日
vol.43, no.1-2, pp.1-7, 2007-03-07

日本国内への外来雑草の侵入を明らかにする研究の中で,大量の雑草種子が輸入穀物から検出され,輸入飼料が雑草の侵入ルートの一つであることが確実となった。イチビ,ショクヨウガヤツリ,ワルナスビなど飼料畑の強害雑草となっている草種について,栃木県那須地域の20km四方の範囲で,GPSを用いて詳細な分布調査を実施し,分布パターンを解析した。分布パターンは草種によって大きく異なり,イチビとショクヨウガヤツリは農耕地に発生が集中し,アレチウリ,オオオナモミ,ブタクサは50%以上が非農耕地で発生が確認された。GPSデータは外来雑草の今後の分布拡大を地理的スケールで明らかにするためのデータベースとして利用可能であり,侵入植物に対する生物資源や生態系保護のための効率的な取り組みに活用できる。
著者
成田 真紀 福田 眞人 平井 勝利 氏原 暉男
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.59-64, 1998-09-30

本論文はケシ(Papaver spp.)の起源と伝播やその栽培や利用について精査し,また薬物の一つで法的には麻薬として扱われている阿片(あへん:けしの液汁が凝固したもの及びこれに加工を施したもの[医薬品として加工を施したものを除く]をいう)について論考したものである。原料となるケシの植物学的記載や日本への伝来・栽培の歴史的変遷についても言及し,更に阿片の医薬品あるいは薬物としての利用及び法的規制の歴史についても考察を試みた。本稿では(1)ケシの原産地と植物学的記載(2)阿片の医薬あるいは薬物としての特性に関する歴史的考察(3)日本でのケシ栽培と阿片の歴史という三項目を立て,今までのケシと阿片の起源と伝播に関する研究を取りまとめ,先行研究ではいまだ解明されていない日本の阿片について史実を明らかにすることを研究の目的としている。
著者
菅原 聰
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.297-313, 1967-12

1.亜高山帯林分が伐採や災害などによって開放された後に成立する2次的天然生林分の構造ならびに生長についての検討を試みたものである。2.基礎資料は1964年8月および9月に岐阜県胡桃島国有林内の2次的天然生林分内で標本点18点を選んで集めた。これらの2次的天然生林分は,シラベ・オオシラベを主体とし,トウヒ・コメツガならびにダケカンバをまじえたものである。3.このような異齢の天然生林分の水平的構造は,いわゆるH. A. MEYERによるいわゆる択伐林型として,すなわち y=k・e-αx y:x-直径階に属する林木本数 x:胸高直径(m) kおよびα:常数 にしたがう分布型として把握してよいことが確かめられた。4.H. A. MEYERの式の常数kおよびαは,ヘクタール当り林木本数,林分平均直径または林分最大直径の函数としてあたえられることも確かめられた。5.地位については問題がいろいろ残ったが,年齢と平均林分直径の函数としてI~IIIの3階級に区分してみた。ここでいう地位の概念はきわめて広義的であり,あたえられた条件下においての生長速度の遅速をあらわすものであると考えてよい。6.以上の地位ならびに本数分配表を手がかりとして胡桃島国有林内の2次的天然生シラベ林分についての簡易生長量予測表を作成してみた。7.この簡易生長量予測表は,いわゆる地方票であり,この地方以外での適用が不可能であることは当然である。8.この簡易生長量予測表を用いての生長量ならびに収穫予測方法は,通常の収穫表による方法と同じである。ただこの場合地位の判定に林分平均直径を用いていることに注意しなければならない。
著者
辻井 弘忠 浅井 貴之
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.p91-98, 1985-12

放牧地における自然交配時の木曾馬の性行動のパターン・回数および複数の牝馬が発情している時の性行動について調べた。その結果、乗駕回数が最も多い時間帯は14:00~16:30、射精の多い時間帯は11:00~14:00であった。種牡馬が発情牝馬に対して、求愛→ペニスの勃起→乗駕→ペニスの挿入→射精の完全な性行動を示したものは約11%にすぎず、他はかなり変則的であった。特に求愛行動なしに乗駕・射精に至る例が19%も存在した。一方、複数の牝馬が発情している場合、種牡馬はランダムに求愛、乗駕行動を示した。また、82回の乗駕行動のうち、種牡馬の一連の性行動が途中で中断し、直ちに別の発情中の牝馬を相手に性行動を始め乗駕する場合が13例みられた。The present investigation was carried out on the patterns and its frequency of sexual behaviour in Kiso stallion under natural mating. Most mounting behaviour occurred from 14:00 to 16:30, and most ejaculation behaviour occurred from 11:00 to 14:00 (Fig. 7). The stallion exhibits distinct phases to estrus mare : courtship, erection and mounting, intromissin and ejaculation. But, the perfectry sexal behaviour in stallion was only 11%, the other was irregular sexual behaviour. Specially, the most irregular sexual behaviour which the stallion mounts to estrous mare; brought in the wake of intromission and ejaculation without courtship behaviour was existence 19% (Table 2). When the plural mares are behavioral signs of estrous, the stallion exhibits at randam courtship and mounting to estrous mares. The stallion breaked on the part of the way internuption behaviour on the first estrous mare, at once he began the sexual behaviour to other mare. These cases existed thirteen-eighty seconds. (Table 3.4).
著者
鴇田 文三郎 細野 明義 石田 哲夫 高橋 富士雄 大谷 元
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.117-127, 1980-12 (Released:2011-03-05)

ネパールは国土は狭いが数多くの部族を擁した国家である。この部族の多彩さは食物と食餌習慣に大きな多様性をもたらし,乳や乳製品の利用と製造法にも際立った特徴が認められ,素朴さの中に豊かな独創性を窺うことが出来る。一般的に言って,ネパールの乳製品は長い歴史を有し,多彩な乳製品は発酵型と非発酵型に大別される。代表的な発酵型乳製品として,それぞれヨーグルト,バター油,チーズの一種であるダヒ(dahi),ギー(ghee),チュルピー(churpi)が挙げられ,また代表的な非発酵型乳製品として乳を濃縮固化したコア(khoa)が挙げられる。本報はネパールにおけるそれら代表的な乳製品の製造法について筆者らがネパールの各地で調査し,得られた知見をもとにまとめたものである。
著者
大井 美知男 神野 幸洋
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.83-92, 1999-03
被引用文献数
2

長野県に現存するカブ・ツケナ類の在来13品種(諏訪紅蕪,羽広菜,源助蕪菜,赤根大根,王滝蕪,開田蕪,細島蕪,吉野蕪,木曽菜,保平蕪,稲核菜,野沢菜,雪菜)の来歴,栽培地域,生態的特性および栽培と採取法について1997年と1998年に現地調査を行った。なお,品種の生態的特性については信州大学農学部実験圃場でも調査した。過去に長野県内で栽培されていたことがいくつかの文献に記載されている10品種(黒瀬蕪,木祖村蕪,三岳蕪,源助蕪,駒ヶ根蕪,小谷在来蕪,マナ蕪,相木在来蕪,苅野蕪,神代蕪)については所在が不明で,消滅したものと思われた。
著者
田中 聡 佐々木 邦博 上原 三知
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.21-30, 2010-03

名勝における利用者の評価や動態を明らかにするため,甲信地方の峡谷の名勝地である,天龍峡,寝覚の床,御岳昇仙峡において,利用動態と評価を,フィールドマップ調査とアンケート調査により把握した。共通して利用者が名勝に求める目的は「眺望」と「自然散策」であった。一方で実際に魅力に感じる要素は,天龍峡では散策路の多様性や眺望景観。寝覚の床では自然散策や探索の面白さ,体験,御岳昇仙峡では視対象が大きく限定的な滝,岩山といった迫力のある景観であった。良好な景観を楽しむだけでなく,自然散策というレクリエーションを同時に楽しめることが名勝の現代的意義の一つであることが示唆された。
著者
山田 明義
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-17, 2002-01
被引用文献数
1

日本の野生きのこ類の主要な位置を占める菌根性きのこ類について、食資源としての利用性を明らかにすることを目的に、文献調査を行った。その結果、これまでに300種を超えるきわめて多様なきのこ類が利用されており、今後さらに研究の進展にともない、より多くのきのこ類が利用される可能性のあることが示唆された。これら菌根性きのこ類は、これまで殆ど人工栽培の研究が行われていなことから、産業利用の見地からは研究の必要性が指摘された。
著者
辻井 弘忠
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.p111-113, 1987-12

木曾馬の歩法を連続撮影して分析を行った。その結果,純系に近い木曾馬は側対歩で,やや純系に近い馬は半側対歩であった。また外国種の血が入った木曾系種は,サラブレッドと同じ常歩を示した。木曾馬は先天的な側対歩であると言われている。従って,歩法は今後,木曽馬の種牡選抜の際の一つの指標になると思われた。
著者
辻井 弘忠 吉田 元一
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.p103-110, 1984-12

木曾馬は,戦後外部からの移入を完全に閉じた閉鎖繁殖集団を形成し,体型を昔の形に戻そうとする努力と,母集団が小さいことも手伝って近親交配がかなり行われている。本調査は,1969年から1984年までの登録簿からの各馬の3代前の先祖が明らかな牡5頭,牝26頭と,一部先祖が不明な牡4頭牝43頭についてWrightの式によって各近交係数を算出した。その結果,先祖が明らかなものにおける平均近交係数は木曾馬種牡で0.156,木曽系種牝で0.070と木曾馬種で特に近交係数が高まっていた。一部先祖が不明なものにおける平均近交係数は木曾馬種牝で0.030,木曽系種牝で0.032であった。登録馬全体の平均近交係数は0.066,現存する馬全体の平均近交係数は0.081,また,牡馬の平均近交係数0.095,牝馬の平均近交係数0.060といずれも近交係数が高まっているのが判明した。産年次別に平均近交係数をみると,ほぼ一直線に増加していた。今後,これらの結果を参考にして近交係数の高い馬同士の交配を避けなければならない。
著者
辻井 弘忠
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.p65-69, 1986-12

木曾馬(牡)とアラブ(牝)の交雑の一例があったので,体尺測定を試みた。その結果,交雑で産まれた仔は,母馬であるアラブの特徴を有し,木曽馬の平均より体高,尻高,尻幅が大きく,胸幅,胸深が小さかった。
著者
辻井 弘忠 吉田 元一
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.p37-48, 1984-07

昭和28年に報告された(昭和23年時)の調査データーと比較し,35年間で木曾馬の体型がどのように変化したかを調べた。開田村,上松町,田立村,名鉄木曾馬牧場の4才以上の木曾馬牝30頭について体高,体長,尻高,頭幅,腰幅,尻幅,頭長,尻長,胸深,胸囲,管囲を測定した。毛色等は牡5頭を含む総計45頭について測定した。毛色は鹿毛色が圧倒的に多く,月毛や芦毛はみられなかった。背に鰻線を有するものが17頭もおり,額に刺毛,星等を有する馬はいなかった。木曾馬種,木曾系種ともに昭和28年時と比べて殆どの部位で差が認められ,後軀に対する前軀の充実がみられた。これから木曾馬の体型に近付きつつあることが推察された。まだ明治時代の体型よりひとまわり大きいものの,大正,昭和23年時より明治時のそれに近付く傾向がみられた。
著者
有馬 博 高橋 敏秋
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.p37-52, 1975-12

1 前報3)のSU-74型加工トマト収穫機試作にひき続き,1975年にSU-75 FS型加工トマト選果機を試作し実験した。2 この選果機は歩行型クローラ台車にホッパー,さん付きバーコンベア,平ベルト逆転式選別コンベア,選果台その他からなる選果装置を搭載した小型の一挙収穫用作業機である。3 作業車は2~8名としうち1~3名がホッパーへ果実を振り落とす。果実はバーコンベアで搬送され逆転コンベアできよう雑物を除去されたのち選果台に達する。他の作業車は,選果台附近にいて熟度選果を行い出荷可能果を畦上のコンテナへ収容する。4 台車から選果装置を取り外し,代わりに荷台を搭載すればコンテナ運搬車として利用できる。5 ほ場実験の結果,果実収穫作業,コンテナ運搬作業とも従来の作業方法の約2~3倍の作業能率(kg/人/分または箱/人/分)をあげることができ,果実の損失もなかった。6 この選果機は単純小型の構造で品種や栽培条件に制約を受けることが少ないので国内の栽培地へただちに導入できるであろうと推察された。
著者
大井 美知男 磯村 由紀
出版者
信州大学
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.49-55, 2000-10

長野県在来のダイコン13品種の形態調査を26項目について行った。得られた結果をもとにクラスター分析を行ったところ,以下の3グループと5サブグループに分類された。グループ1,サブグループA:「灰原大根」,「信州地大根」,「ねずみ大根」,「切葉松本地大根」,「戸隠大根」,「上平大根」,「牧大根」サブグループB:「上野大根」サブグループC:「前坂大根」グループ2,サブグループD:「たたら大根」サブグループE:「大門大根」サブグループF:「赤口大根」グループ3,「親田辛味大根」 さらに,長野県在来のダイコン品種が多様な変異を持ち合わせていることが明らかになった。
著者
伊藤 精晤
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.p73-86, 1994-12

山村農家の敷地と農家の庭園趣味について,研究Iでは,敷地内の建物配置,境界はいくつかの型が見られた。研究IIでは,農家の趣味生活で,家族構成員のそれぞれが庭園を楽しんでおり,庭園の植物の豊富な種類と維持管理や栽培の自前の実行などから,その趣味の程度は高く,庭園の役割として,生活の実用を含めた心理的楽しみの効果が複合的に期待されていることが明らかになった。本論文では,農家庭が新たな敷地計画のもとに作られることは少なく,元来の農作物のための庭を別として敷地境界と建物配置によって生じる空き地が庭園建設の場に展開してきたことを考察する。また,農家が農業主体から住宅主体に敷地を利用するように変化しており,この敷地の機能面の変化と庭園化の関連を考察していく。敷地に庭園を作る空間的条件は建物の配置によって決まり,境界と建物間の隙間の部分の庭園化,空き地として作業庭に使われた部分の庭園への転換によって,20年から30年前に庭園の建設が行われている。この庭園の建設は趣味生活の拡大が原因となっている。敷地内の庭園部分は玄関の前庭,作業庭,表の座敷庭,裏の座敷庭,路地庭,勝手庭に区分できる。作業庭は半数が座敷庭として庭園化され,半数が作業庭として維持されている。裏の座敷庭は古くから作られることもあったが,庭園趣味と生活のゆとりの中で楽しみとして,表の座敷庭まで作られることが多くなったことが考察される。勝手庭は物干し,洗い場など設置されている。周囲の境界と建物との隙間に路地庭が作られている。玄関前庭,作業庭(主庭),裏庭,前庭,路地庭,勝手庭といった庭園配置に分化した戸外敷地を家族構成員で使い分けが行われていることが考察される。以上から,従来の農家庭の機能と骨格が存在し,これに現代生活と趣味に適合した庭園建設が行われていると結論づけられる。