著者
木村 吉幸 丹治 美生 佐藤 洋司 大槻 晃太 渡邊 憲子 加藤 直樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.71-77, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
21
被引用文献数
1

福島県に生息するコウモリ類の調査を,福島県内の37調査地点において1999年8月から2000年12月に実施した.その結果,21調査地点で確認されたコウモリ類は,コキクガシラコウモリ(Rhinolophus cornutus),キクガシラコウモリ(Rhinolophus ferrumequinum),フジホオヒゲコウモリ(Myotis fujiensis),モモジロコウモリ(Myotis macrodactylus),アブラコウモリ(Pipistrellus abramus),クビワコウモリ(Eptesicus japonensis),ヒナコウモリ(Vespertilio superans),チチブコウモリ(Barbastella leucomelas),ウサギコウモリ(Plecotus auritus),ニホンコテングコウモリ(Murina silvatica)およびニホンテングコウモリ(Murina hilgendorfi)の11種であった.これらのうち,クビワコウモリとチチブコウモリの2種は,福島県では初記録である.
著者
本川 雅治 下稲葉 さやか 鈴木 聡
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.181-191, 2006 (Released:2007-02-01)
参考文献数
40

日本産哺乳類の最近の分類体系について,阿部(2005)「日本の哺乳類 改訂版」(以下,日本哺乳類2)とWilson and Reeder(2005)「Mammal Species of the World」第3版(以下,MSW3)での扱われ方について検討した.明らかな外来種と鯨目,および海牛目を除くと,日本産哺乳類として,日本哺乳類2は116種,MSW3は120種を認めた.高次分類群に関連して,日本哺乳類2を含む従来の文献で食虫目(Order Insectivora)とされていた一群は,MSW3ではアフリカトガリネズミ目(Order Afrosoricida),ハリネズミ形目(Order Erinaceomorpha)およびトガリネズミ形目(Order Soricomorpha)の3つに分割され,日本産の「食虫目」に含まれるトガリネズミ科とモグラ科はすべてトガリネズミ形目に含まれた.種レベルでの両書の分類体系について,記述された内容や引用文献の内容などに基づいて対応表を作成したところ,種レベルでの分類体系について両書で相違が見られた.また,両書が編集,出版された後に,日本産哺乳類の分類体系について大きな変更や分類学上の重要な知見がいくつかの種で得られている.これらの37項目について,本文中でコメントした.
著者
濱田 穣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.337-368, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
67

ラオス中南部とベトナム中部にまたがり,南北に走るチュオンソン山地中部(北緯16.9–13.5度)とその周辺地域は,生物多様性が非常に高く,固有種や稀少種も多く棲息し,哺乳類の新種も見つかっている.それは,この地域が発達した山地を含めて複雑な環境を擁すること,氷期には複数のレフュージア(避難所)となったことなどによるものと思われる.多くの哺乳動物を含む動物や植物の生物学の解明には,非常に重要な地域である.この地域は従来,開発が遅れていたが,インドシナ戦争後に独立したラオスおよびベトナムは著しい経済発展を遂げつつあり,とくに市場経済の導入によって農林業の開発が急速に進んだ.それとともに山地・森林に住み,循環農業と非木材森林産物の採集などによる伝統的農林業を営んでいた,おもに少数民族(山岳民族)の住民を山から低地へ,森林から道路付近へ移住させる政策,あるいは伝統的農林業を規制する政策が実施された.小規模で自給自足的農業を営むこの地域の住民の多くは,両国において低所得層に入り,森林資源に依存している.両国の政府は中部チュオンソン山地系地域にかなりの面積の保全地域を設定し,管理官庁(委員会や事務所)が野生生物の保護と保全地域管理にあたっているが,遂行能力,装備と予算の不足から十分ではない.野生生物とその生息地を取巻く社会経済環境は,ベトナムとラオスにおいて正反対なところもあるが,小規模の低所得農民が多いことは共通している.現在,中部チュオンソン山地系地域では,盛んに水力発電施設や道路が建設されつつある.今後,農林産物の貿易自由化が進めば,ベトナムもラオスも世界的な農林業動向に組み込まれ,大規模企業的農林業が拡大し,野生生物の生息地が失なわれる.それとともに,農林業では生活を営めないうえに生業転換できない住民はやがて貧困化し,森林資源の取出し(伐採,狩猟と採集)や開墾などによって,中部チュオンソン山地系地域における野生生物の生息地は広範に失われるだろう.その結果として,固有種を含めた地域集団が絶滅し,野生生物の多様性が大きく損なわれるおそれがある.その打開のためには,周辺住民の森林資源の適正利用を含む生計の改善,保全地域外地域を含めた野生生物とその生息地の保全活動の強化が必要であるが,そのためには管理担当官庁の能力と装備の向上と予算の増大,周辺住民による管理への参与と民政や土地利用など保護に関係する政策立案への関与が必須である.これらの施策は官民に加えて,科学的な研究と実践を行うことのできる有識者(集団)であるところの大学や研究機関の関与が必須である.そして日本をはじめとする先進諸国は,そうした機関への協力が必要である.
著者
山内 貴義 工藤 雅志 高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.39-44, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
16
被引用文献数
4

岩手県に生息するニホンジカ (Cervus nippon centralis, 以下シカ) の保護管理を通覧し, 近年発生している問題点を整理して, 新たに取り組むべき課題を論じた. 岩手県に生息するシカは, 本州北限の個体群として知られている. 1980年代までは個体数が減少したために保護策がとられていたが, その後, 個体数が増加して農林業に被害を及ぼすようになったため, 岩手県は1994年から頭数管理を主軸とした対策を進める一方, 1988年から適正管理を目的としてさまざまなモニタリング調査を実施している. 調査項目は「分布調査」, 「生息密度調査」, 「捕獲個体調査」, 「ササ調査」, 「ヘリコプター調査」および「被害実態調査」である. シカ密度の抑制を図った結果, 被害額は県全体で大幅に減少した. しかし近年, 新たな問題点が浮上している. それは最近の数年間でシカの生息域が拡大していることや, 五葉山周辺地域ではおそらくシカの行動が変化し, 「里ジカ」が増加したために農業被害が急増していることなどである. これらの問題を克服するためには, 地域の特性を的確に把握し, 分布拡大の抑制, 里ジカによる農業被害の集中的防除, 調査法の向上などに努める必要がある.
著者
矢部 恒晶
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.55-63, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
22
被引用文献数
7

九州におけるニホンジカ特定鳥獣保護管理計画について, 策定している6県の担当者へのアンケートおよび聞き取りを行い, モニタリング手法やこれまでの結果, 評価の体制, 広域的な個体群管理のための協力体制, および推進上の問題点について整理した. 個体群モニタリングには捕獲個体や糞粒法等に基づく指標が利用され, 将来予測や捕獲計画にはいくつかの手法が用いられていた. 2000年度から2006年度までの計画期間においては, 多くの地域で捕獲による生息数の減少割合は小さく, 生息数の現状と最終目標との開きがまだ大きいと考えられた. 計画の推進に当たり, 福岡県では学識経験者で構成される保護管理検討委員会とその他の分野のメンバーで構成される連絡会議が, 他の5県では多分野の委員から構成される保護管理検討委員会が, モニタリングの評価および管理施策の検討を行っていた. 県境を越えて分布するシカ個体群の管理のため, 複数の県や森林管理局等による合同一斉捕獲や, 行政, 試験研究機関等で構成される協議会等における情報交換等の協力体制がつくられてきた. 行政担当者からは, モニタリングの精度, 施策の進行度, 予算の制約等について問題点が指摘された. 今後のモニタリング調査の充実や科学的評価機能の維持, モニタリングデータの共有等が必要と考えられる.
著者
吉倉 智子 村田 浩一 三宅 隆 石原 誠 中川 雄三 上條 隆志
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.225-235, 2009 (Released:2010-01-14)
参考文献数
49
被引用文献数
3

ニホンウサギコウモリ(Plecotus auritus sacrimontis)の出産保育コロニーの構造を明らかにすることを目的とし,本州中部の4ヶ所のコロニーで最長5年間の標識再捕獲調査を行った.出産保育コロニーの構造として,齢構成,コロニーサイズとその年次変化,性比および出生コロニーへの帰還率について解析した.また,初産年齢および齢別繁殖率についても解析した.本調査地におけるニホンウサギコウモリの出産保育コロニーは,母獣と幼獣(当歳獣)による7~33個体で構成されていた.また,各コロニー間でコロニーサイズやその年次変化に違いがみられた.幼獣の性比(オス比)は,4ヶ所のコロニー全体で54.2%であり,雌雄の偏りはみられなかったが,満1歳以上の未成獣個体を含む成獣の性比は1.0%とメスに強い偏りがみられた.オスの出生コロニーへの帰還率は,全コロニーでわずか3.6%(2/56)であった.一方,メスの翌年の帰還率は,4ヶ所のコロニーでそれぞれ高い順に78.9%,63.6%,16.7%,0%であった.初産年齢は満1歳または満2歳で,すべてのコロニーを合算した帰還個体の齢別繁殖率は,満1歳で50%(12/24),満2歳で100%(13/13)であった.また,満2歳以上のメスは全て母獣であり,出産年齢に達した後は毎年出産し続けていることが確認された.
著者
岸元 良輔 佐藤 繁
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.73-81, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
24
被引用文献数
6

長野県に広く生息するツキノワグマ(Ursus thibetanus)と人間とのあつれきが,最近になって増加している.長野県は,1995年にツキノワグマ保護管理計画を策定し,計画に基づいたツキノワグマの保護管理施策を実施してきた.保護管理計画は2002年に特定鳥獣保護管理計画に位置付けられた.長野県は,計画策定時の1995年と改訂時の2002年,及び2007年に,合計3回のツキノワグマの個体数調査を実施している.当初2回の調査では直接観察法が採用され,3回目の調査ではヘア・トラップ法が採用された.1995年,2002年,及び2007年における推定生息数は,それぞれ1,362頭,1,325~2,496頭,及び1,881~3,666頭であった.1995年と2002年の計画では,個体群サイズを1,300頭水準に維持するために年間捕獲上限数を150頭に規制していたが,生息数推定値の信頼性が低いことから,2007年の計画では,固定した捕獲上限数を設定していない.これは,様々な仮定に基づくこれらの推定結果の信頼性は疑わしいためである.正確な個体数の推定よりも,クマ個体群の動向を監視することのできるモニタリング手法を確立することが,日本のツキノワグマ個体群管理における最も重要な課題である.