著者
阿部 永
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.117-124, 1993
被引用文献数
1
著者
安田 雅俊 川田 伸一郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.175-182, 2018 (Released:2018-07-31)
参考文献数
48
被引用文献数
2

本稿は下稲葉・安田(2018)で詳しく述べられた日本の研究者による独自の哺乳類学における先駆者の一人,岸田久吉に関する情報を補完するものである.彼は1930年代に台湾の生物地理を理解する上でモグラの重要性に注目した.その成果として,彼は台湾にタイワンモグラMogera insularisおよび1ないし2種の独立種の存在を認め,さらにこれらを独立属として位置づけたが,これらの学名に関する記載をしなかった.これらは裸名(nomen nudum)となるが,近年の研究では台湾に複数種のモグラ(2007年に記載されたヤマジモグラMogera kanoanaおよびその遺伝的変異集団)が分布することが示唆されている.つまり岸田の台湾産モグラ類に関する予言は,あながち間違っていなかったと考えられる.
著者
小寺 祐二 長妻 武宏 澤田 誠吾 藤原 悟 金森 弘樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.137-144, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
12
被引用文献数
6

イノシシ(Sus scrofa)による農作物被害に対して,島根県は有害鳥獣捕獲と進入防止柵設置を推進し,2001年度以降は被害金額を減少させた.しかし,山間部ではこれらの対策を効果的に実施できず,現在も農業被害が発生している.そのため,こうした地域でも実施できる効果的な被害対策が求められている.上記以外の対策としては,「イノシシを森林内に誘引するための給餌」が欧州で実施されているが,その効果については賛否両論がある.そこで本研究では,森林内での給餌が本種の活動に及ぼす影響を明らかにし,その被害軽減の可能性について検討した. 調査は島根県羽須美村(現在は邑南町)で実施した.2005年3~5月にイノシシ8個体を捕獲し,発信機を装着後に放獣した.その内3個体について,2005年8月22~26日に無給餌条件下で,8月27日~9月2日に給餌条件下で追跡調査を実施した.餌は圧片トウモロコシを使用し,1個体は無給餌条件下の行動圏内,その他の個体は行動圏外に散布した. 無給餌条件下での行動圏面積は81.4~132.4 haを示した.給餌条件下では,行動圏内に給餌された個体Aのみで給餌地点の利用が確認された.この個体については,給餌条件下で測位地点と給餌地点までの距離が短くなり(Mann-Whitney’s U-test,P<0.001),活動中心が耕作地から離れ,行動圏に耕作地が内包されなくなった.また,行動圏面積は無給餌条件下の44.2%に縮小し,給餌地点と休息場所を往復する単純な活動様式を示した.行動圏外に給餌した個体BおよびCでは,行動圏面積の縮小(無給餌条件下の72.0%)と拡大(同142.5%)が確認されたが,活動様式は変化しなかった.本調査により,行動圏内への給餌はイノシシの活動に影響し,被害対策として有効である可能性があるものの,本研究で行った行動圏外への給餌は本種の活動に影響しないことが明らかとなった.
著者
山本 輝正 松本 和馬
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.135-144, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
72

石川県および長野県で人工構造物をねぐらとしていたカグヤコウモリのオス個体群に対して標識再捕獲法を用いて,21年間の個体数調査を実施した.最長寿命個体は,石川県で14年,長野県で17年の個体が確認された.日本産森林性コウモリ類でこのような長寿記録が確認されたのは初めてである.生涯を通じて生存率一定と仮定して,個体群パラメータの推定を試みたところ,1年当たりの生存率は,石川県で0.871,長野県で0.863,平均寿命は,石川県で7.3年,長野県で6.8年と推定された.また,出産哺育期のオスの平均個体群サイズは,石川県で9.1頭,長野県で22.7頭と推定された.しかし,1回の調査で発見される個体数は両調査地とも5頭以下であった.このことから,調査地周辺には調査対象としたねぐら以外にも利用するねぐらがあったことが示唆された.
著者
安里 瞳 伊澤 雅子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.191-210, 2020

<p>沖縄島において,外来食肉目による在来種への捕食圧が野生生物保全の上で深刻な問題となっているが,食性分析において,捕食されているトガリネズミ科動物(以下,トガリネズミ類)およびネズミ科動物(以下,ネズミ類)の種同定は,同定検索情報の不足などにより現状では困難であった.そこで,沖縄島での外来食肉目の食性分析への応用を想定し,沖縄島に生息するトガリネズミ類とネズミ類の毛の形態による種判別法の確立を試みた.沖縄島に生息するトガリネズミ科2種(ワタセジネズミ<i>Crocidura watasei</i>,ジャコウネズミ<i>Suncus murinus</i>),ネズミ科4種(オキナワハツカネズミ<i>Mus caroli</i>,ケナガネズミ<i>Diplothrix legata</i>,オキナワトゲネズミ<i>Tokudaia muenninki</i>,クマネズミ<i>Rattus rattus</i>)の保護毛と下毛を対象に,毛長や最大幅,髄質幅の計測と外部形態や鱗片,髄質の観察を行った.さらに,捕食種の毛の混入も想定し,イヌ<i>Canis lupus familiaris</i>とイエネコ<i>Felis catus</i>の毛も同様の方法で観察を行った.</p><p>その結果,保護毛は,トガリネズミ類とオキナワハツカネズミでは直毛の1種類のみ,その他の3種では直毛に加えさらに1種類の毛が確認された.下毛は,調査した6種の小型哺乳類について1種類の毛のみから成り,種間で形態に違いはみられなかった.6種に共通した直毛の保護毛では,毛長が種ごと,個体ごとの平均値10 mmを境に2分できた.また,鱗片と髄質の構造からも類別が可能であった.ネズミ科3種でのみ確認された1種類の保護毛は,毛長では3種間で,最大幅ではオキナワトゲネズミのみ他種間との値に重なりがなく類別可能であった.さらにケナガネズミとオキナワトゲネズミでは,先端付近で髄質が分岐することでクマネズミから類別され,毛根部から毛幹部への移行部の形態の違いからこの2種も類別が可能であった.これらの特性からトガリネズミ科とネズミ科の6種について毛の形態による検索表を作成した.イヌとイエネコの毛については,鱗片と髄質の構造がトガリネズミ類やネズミ類とは異なる形態を有していたため,グルーミング等で捕食種の毛が糞に混入していても類別が可能であると考えられる.</p><p>本研究の対象種については保護毛で種間に明瞭な違いがみられたことから,食性分析において正確に種判別を行うためには保護毛を用いる必要がある.また,複数の毛を用いることで判別の精度が上がる.今回の保護毛の計測結果や鱗片と髄質の観察結果のうちどれか一つだけを用いて種の識別を行うことは困難であったが,これらを総合的に評価すれば科あるいは種までの同定が可能である.</p>
著者
関 伸一 安田 雅俊
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.33-40, 2018 (Released:2018-07-31)
参考文献数
48

クリハラリスCallosciurus erythraeusは日本各地で野生化し分布を拡大しつつある外来の樹上性リスであり,鳥類の巣で卵や雛を捕食して繁殖を阻害すると推測されているが,捕食行動の観察事例は稀である.そこで,クリハラリスが高密度に生息する大分県の高島において,鳥類の巣を模した擬巣にウズラCoturnix japonicaの卵を入れて森林内に設置し,自動撮影カメラで捕食者を特定することによりクリハラリスによる卵捕食の頻度を調査した.3週間後には25個の擬巣のうち24個(96%)で卵が消失し,いずれも最初に巣の入り口で撮影されたのはクリハラリスであったことから,全てクリハラリスが卵を捕食したものと推定された.9個の巣では捕食者となる可能性のあるハシブトガラスCorvus macrorhynchosおよびクマネズミRattus rattusも撮影されていたが,いずれもクリハラリスが複数回訪れた後での記録であった.クリハラリスが擬巣の入り口に最初に接触した日時を捕食の時期とすると,卵が捕食されるまでの平均日数は2.7日で,1日あたりの擬巣の生残確率は0.72と低く,クリハラリスが鳥類の繁殖に対して影響の大きい捕食者となっている可能性が示された.狭い行動圏内で複数個体が重複して食物の探索をするクリハラリスの生息地の利用様式によって,その他の捕食者による場合と比べて短期間に高い確率で擬巣が発見され,捕食されるのかもしれない.
著者
中本 敦 遠藤 晃
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.207-213, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
23
被引用文献数
1

イノシシSus scrofaがおよそ数十~百年間生息していなかったと見られる長崎県五島列島の野崎島において,最近になって近接する地域からのイノシシの侵入が確認された.さらにその後の調査において,島内での分布と個体数が年々拡大していることを記録したのでここに報告する.野崎島でのイノシシの目撃は2010年に初めて記録された.その後,2011年,2012年,2014年の目視によるカウントと痕跡数の記録から,当初,局所的であった目撃場所や痕跡の分布が島内のほぼ全域へと次第に拡大していく様子が観察された.2014年12月に実施した3日間の調査では,のべ19個体のイノシシが目撃された.この個体数の増加は,複数年にわたって亜成獣が確認されていることから,島内でイノシシが繁殖を繰り返した結果と考えられた.すなわち,2010年のイノシシの最初の目撃以降の2年間は雌雄が揃わない等の要因から繁殖に至らなかった状況であったと考えられるが,1度島内で繁殖が始まった後は急激に個体数が増加することが明らかになった.今後,繁殖と海を越える分散を繰り返すことによって,五島列島におけるイノシシの個体数や分布が急速に拡大していくものと考えられる.
著者
遠藤 晃 松隈 聖子 井上 渚 土肥 昭夫
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.21-28, 2006 (Released:2007-06-26)
参考文献数
17

霧島山地, えびの高原において, ニホンジカに対する餌付けの影響を明らかにする目的で, 観光客による餌付けの定量化を試みた. のべ71時間の観察時間のなかで, シカに何らかの興味を示し接近したのは977団体, 2,733人, このうち183団体, 579人がシカに餌を与えた. 接近した人数と餌付けした人数の間には正の相関がみられ, 接近した人数の約20%が餌を与えていた. 与えた餌のメニューは, スナック・菓子類が70%を占めており, 1団体が平均0.63袋の菓子類を与えていた. 餌付けされたシカのグループサイズは1~11頭で, 平均4.8頭であった. 一日の駐車場利用台数と一日の餌付け人数, 餌付け団体数の間には正の相関がみられた (一日の餌付け人数:r=0.737, F=10.7, p<0.0014, 一日の餌付け団体数:r=0.737, F=10.7, p<0.01). また, 回帰式から, 年間の餌付け人数, 餌付け団体数が23,000人, 7,000団体と推定され, 餌付けがシカにとって一つの餌資源となっていることが明らかになった.
著者
濱崎 伸一郎 岸本 真弓 坂田 宏志
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.65-71, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
11
被引用文献数
10

ニホンジカの管理に必要な密度指標として, 区画法と糞塊密度法, および目撃効率の整合性を調べ, モニタリング指標としての妥当性を検証した. これらの調査は, 福井県, 滋賀県, 京都府, 兵庫県, 徳島県などのニホンジカ特定鳥獣管理計画策定前調査および策定後のモニタリングで採用されている. 区画法による面積あたりのカウント数と糞塊密度, および糞塊密度と目撃効率には有意な正の相関があった. これまでのところ, 十分な調査努力をしている地域では, 両指標の年推移も非常によく一致しており, いずれも密度変化の動向を適切に反映していると考えられた. 目撃効率の活用においては, 狩猟者から寄せられる報告数 (出猟人日数) の確保や, 積雪が目撃数におよぼす影響などを明らかにすることが課題である. また, 糞塊密度調査では, 平均気温の差による糞塊消失率の変化などが結果を左右することが懸念される. 精度の高い確実な調査法がない現状では, 複数の指標から密度変化の動向を評価することが重要である.
著者
小倉 剛 佐々木 健志 当山 昌直 嵩原 建二 仲地 学 石橋 治 川島 由次 織田 銑一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.53-62, 2002-06-30
被引用文献数
5

沖縄島に移入されたジャワマングース(Herpestes javanicus)の食性と在来種への影響を把握するために,沖縄島の北部地域において捕獲した83頭のマングースの消化管内容物を分析した.餌動物の出現頻度と乾燥重量は,昆虫類(71%,88mg),爬虫類(18%,27mg)および貧毛類と軟体動物(12%,33mg)が高い値を示した.また,哺乳類,鳥類,両生類および昆虫類以外の節足動物もマングースに捕食され,マングースの餌動物は極めて多岐にわたっていた.マングースが捕食した餌動物の体重を算出すると,哺乳類,鳥類,爬虫類および昆虫類がほぼ均等の重量で消失していることが示唆された.一方,餌動物の個体数と繁殖力を考慮すると,爬虫類への影響は極めて大きいと考えられた.さらに餌動物として,固有種や絶滅のおそれが高い動物種が同定され,マングースがこれらの動物に直接影響を与えていることが明確になった.現状を放置すれば,海外の多くの島嶼で起こったマングースによる在来種の減少および絶滅が,沖縄島でも繰り返されることは明らかである.沖縄島では2002年3月までの予定で,やんばる地域に侵入したマングースの駆除が実施されているが,やんばる地域における駆除の完了は急務であり,これ以降の駆除事業の継続が強く望まれる.さらに駆除した地域へマングースを侵入させない方法を早急に確立する必要がある.
著者
安田 雅俊 関 伸一 亘 悠哉 齋藤 和彦 山田 文雄 小高 信彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.227-234, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2

現在沖縄島北部に局所的に分布する絶滅危惧種オキナワトゲネズミTokudaia muenninki(齧歯目ネズミ科)を対象として,過去の生息記録等を収集し,分布の変遷を検討した.本種は,有史以前には沖縄島の全域と伊江島に分布した可能性がある.1939年の発見時には,少なくとも現在の名護市北部から国頭村にいたる沖縄島北部に広く分布した.外来の食肉類の糞中にオキナワトゲネズミの体組織(刺毛等)が見つかる割合は,1970年代後半には75–80%であったが,1990年代後半までに大きく低下し,2016年1月の本調査では0%であった.トゲネズミの生息地面積は,有史以前から現在までに99.6%,種の発見時点から現在までに98.4%縮小したと見積もられた.