著者
中本 敦 木田 浩司 森光 亮太 小林 秀司 岸本 壽男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.107-115, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
45

岡山県全域を対象とした小型哺乳類の捕獲調査を2010年10月~2011年12月にかけて実施した.齧歯目6種,トガリネズミ型目2種の計130個体が捕獲された.小型哺乳類の8種すべてで生息密度が非常に低かった.アカネズミApodemus speciosusの捕獲数が最も多く,捕獲場所も県内全域の様々な環境に及んだ.これに対してアカネズミ以外の種では,植生や標高などの生息環境に選択性が見られた.アカネズミの生息密度に最も大きな影響を与えたのはハビタットタイプではなく,年2回の繁殖による個体数の増加であった.岡山県では何らかの理由で小型哺乳類の生息密度が非常に低くなっていると思われるが,特にこれまで普通種と思われていたヒメネズミA. argenteusとハタネズミMicrotus montebelliの生息数の減少が懸念された.他県においても普通種を含めた小型哺乳類の生息密度の再評価が必要な時期に来ていると思われる.
著者
安田 雅俊 栗原 智昭 緒方 俊輔
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.41-45, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
11

九州において絶滅のおそれのある国の特別天然記念物カモシカCapricornis crispusの生息記録を宮崎県北部の高千穂町において収集し,1996–2011年にかけての目撃,自動撮影,死体,個体保護からなる生息記録13件を得た.それらの生息記録と地形との関係をみたところ,カモシカは標高400 m以上に分布し,最大傾斜角32度以上の急峻な地形を好むことが示唆された.カモシカ九州個体群の保全のためには,さらに広域に生息記録を収集するとともに,植生等のその他の重要な環境要素を加えた,九州における本種の潜在的なハビタットをより正確に判定するモデルを開発することが望まれる.
著者
川口 敏
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.35-39, 2006 (Released:2007-06-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

A total of 29 male specimens of Mustela killed by traffic accident on the road in Kagawa prefecture were identified by the relationship between head and body length (HBL) and tail length (TL), or hind foot length (HFL) and TL. However, the tail ratio (the proportion of TL to HBL), which is one of the method to distinguish between both species so far, is not adequate for the identification, because there is no difference between both the ratios (46.8% to 59.0% in M. sibirica coreana; 41.3% to 47.1% in M. itatsi). In addition, there seems to be no differences between both altitude distributions (5 m to 110 m in altitude in M. s. coreana; 5 m to 210 m in altitude in M. itatsi), according to the 29 specimens collected in this study.
著者
中本 敦 木田 浩司 森光 亮太 小林 秀司 岸本 壽男
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.107-115, 2013-06-30

岡山県全域を対象とした小型哺乳類の捕獲調査を2010年10月~2011年12月にかけて実施した.齧歯目6種,トガリネズミ型目2種の計130個体が捕獲された.小型哺乳類の8種すべてで生息密度が非常に低かった.アカネズミ<i>Apodemus speciosus</i>の捕獲数が最も多く,捕獲場所も県内全域の様々な環境に及んだ.これに対してアカネズミ以外の種では,植生や標高などの生息環境に選択性が見られた.アカネズミの生息密度に最も大きな影響を与えたのはハビタットタイプではなく,年2回の繁殖による個体数の増加であった.岡山県では何らかの理由で小型哺乳類の生息密度が非常に低くなっていると思われるが,特にこれまで普通種と思われていたヒメネズミ<i>A. argenteus</i>とハタネズミ<i>Microtus montebelli</i>の生息数の減少が懸念された.他県においても普通種を含めた小型哺乳類の生息密度の再評価が必要な時期に来ていると思われる.<br>
著者
高田 靖司 植松 康 酒井 英一 立石 隆
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.89-94, 2014

隠岐諸島をはじめ,本州から九州におけるカヤネズミ(<i>Micromys minutus</i>)の12集団について,下顎骨の計測値にもとづき,多変量解析(主成分分析,正準判別分析)をおこない,地理的変異を分析した.その結果,下顎骨について,全体的な大きさ(第1主成分)には集団間で差は認められなかったが,形(第2–第3主成分)には集団間で有意な差が認められた.特に,第2主成分は島の面積との間に有意な相関が認められたので,何らかの要因が形態変異に作用した可能性がある.正準判別分析では,隠岐諸島の集団間で形態変異が認められた.この変異には島の隔離に伴う遺伝的浮動が働いたと考えられた.しかし,下顎骨の大きさ(第1主成分)について集団間で差がみられず,また,遠く離れた地域の集団間で形態的な違いがみられなかった.これは,Yasuda et al.(2005)が明らかにしたように,日本列島におけるカヤネズミの低い遺伝的多様性を反映しているかもしれない.
著者
田悟 和巳 荒井 秋晴 松村 弘 中村 匡聡 足立 高行 桑原 佳子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.311-320, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

森林性の中型食肉類であるテンMartes melampusを対象に,糞から抽出したDNAを用いて,個体数の推定を試みた.調査は熊本県阿蘇郡(以下,阿蘇)および佐賀県佐賀市(以下,佐賀)で行った.調査地域内で採集した糞のDNA分析の結果,阿蘇で95個体,佐賀で50個体を個体識別できた.各個体の確認期間から,定着個体と非定着個体に分けたところ,定着個体は阿蘇が13個体,佐賀が10個体であった.阿蘇では非定着個体が秋季に増加する特徴が見られたが,これは調査地の地形的な特徴から,移動路として利用する個体が多く確認されたためと考えられた.個体群密度は,阿蘇で0.14~0.19個体/ha,佐賀で0.09~0.13個体/haであった.これはこれまで知られているテン属の中では特出して高い数値であった.また,親子ではない同性間の成獣において,利用地域が重複する場合があることが確認され,必ずしもテンが排他的ではないことが示唆された.
著者
菊池 晏那 西 千秋 出口 善隆
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.201-207, 2015

動物の分散は生息地への定住や定住先の個体群における遺伝的多様性に影響を与えるため,リスの保全を考えるうえでその把握が必要である.そこで,岩手県盛岡市の都市孤立林に生息するニホンリス(<i>Sciurus lis</i>)の幼獣の分散様式について2013年7月~2014年6月に調査を行った.調査はラジオトラッキングにより夜間にねぐらとして使用している場所(以下,「巣」とする)を特定した.分散過程(分散前,分散中,定住後)および幼獣と成獣の違いによる巣の変更距離(変更前後の巣間の直線距離)を比較した.その結果,リス類の主な分散期間である夏の巣の変更距離は成獣よりも幼獣のほうが有意に長かった.幼獣の巣の変更距離は分散前または定住後よりも分散中の期間が有意に長かった.また,幼獣における分散中の期間の行動範囲は分散前または定住後よりも拡大していた.これらのことからニホンリスの幼獣は分散中の期間に複数の巣を使い,行動範囲とともに巣間の変更距離を伸ばし,徐々に行動範囲を移動させることによって分散を行っていると考えられる.
著者
船越 公威 坂田 拓司 河合 久仁子 荒井 秋晴
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.351-357, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
16

クロホオヒゲコウモリMyotis pruinosusの九州における生息分布は,これまで宮崎県綾町照葉樹林における捕獲記録だけであった.今回,熊本県でも生息が確認されたので報告する.確認場所は熊本県東部の山都町内大臣渓谷にある隧道トンネルの天井の窪みで2007年9月30日,2008年7月27日および8月24日に成獣雄各1頭が確認された.また,2011年11月27日に同トンネルで成獣雌1頭が確認された.背面の体毛は灰黒褐色または黒褐色でクロホオヒゲコウモリの特徴である差し毛に銀色の光沢がない個体もみられた.しかし,側膜がモモジロコウモリM. macrodactylusと違って外足指の付け根に着いていること,九州ではヒメホオヒゲコウモリM. ikonnikoviが分布せず尾膜の血管走行が曲線型でなかったことを考慮して,クロホオヒゲコウモリと判定した.また,熊本県産2個体のミトコンドリアDNA(cytochrome b遺伝子1140 bp)を解析した結果,クロホオヒゲコウモリであることが支持されたが,種内の遺伝的変異が比較的大きく地理的変異があることが認められた.前腕長や下腿長は九州産の方が本州・四国産よりも大きかった.頭骨の形状についても,九州産では本州・四国産のものに比べて頭骨基底全長が短く,眼窩間幅や脳函幅が広かった.頭骨計測8項目を基に主成分分析を行った結果,九州産は本州・四国産との間で明瞭に分離された.

1 0 0 0 OA クマ類

著者
高柳 敦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.143-144, 2007 (Released:2007-08-21)
被引用文献数
3 3
著者
浅利 裕伸
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.53-57, 2015 (Released:2015-07-04)
参考文献数
18

これまでのタイリクモモンガ(Pteromys volans)の研究では,個体の捕獲に巣箱が活用されてきたが,本種は厳冬期に巣箱を利用しないため通年の調査が困難であった.そこで,通年にわたって個体データを収集するための効果的な捕獲方法の確立を目的として,新たな樹洞トラップを開発し,タイリクモモンガが使用している樹洞の入り口にこれを設置した.トラップ内にはプラスティック板の返しを装着することにより,一度入ると樹洞に戻ることができない工夫を施した.北海道帯広市の樹林において,2006年1月~2008年4月に38個体の捕獲を試みた結果,33個体を捕獲することに成功した.残りの5個体は同居するグループの一部の個体であり,厳冬期に出巣しなかったために捕獲ができなかった.厳冬期はタイリクモモンガの活動が低下し,活動時間も不規則になることから,樹洞トラップを用いても樹洞内の全個体を捕獲することは困難であると考えられる.しかし,確認された個体の7割以上を捕獲することが可能であり,それ以外の季節では幼獣を含むすべての個体を捕獲することができたため,巣箱を用いた捕獲と比べて定期的な個体データの収集に,より有効な手法であると考えられる.