著者
小林 亜由美 神崎 伸夫 片岡 友美 田村 典子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.13-24, 2009 (Released:2009-07-16)
参考文献数
36

富士山北斜面の標高2,100~2,300 mの亜高山帯針葉樹林において,ニホンリスを捕獲し,テレメトリー法によって植生環境の選択性を調査した.コメツガ優占林,カラマツ優占林,シラビソ/オオシラビソ優占林,ゴヨウマツ分布域,林縁,開放地の6区分の植生環境の中で,ゴヨウマツ分布域が選択的に利用される傾向があった.しかし,針葉樹の種子が利用できない春には,カラマツ優占林やシラビソ/オオシラビソ優占林も選択的に利用する個体があった.コメツガ優占林,林縁,開放地は忌避される傾向があった.これらの針葉樹のうち,1個の球果あたりのエネルギー量がもっとも多いのはオオシラビソで,次がゴヨウマツであった.カラマツ,コメツガは球果サイズが小さく,エネルギー量は少なかった.ゴヨウマツの球果サイズには同一の木の中で変異があり,ニホンリスはより大きな球果を選択的に利用することが明らかになった.球果サイズとその中に含まれる種子数には正の相関があるため,ニホンリスはより多くのエネルギーを効率的に得るために球果選択を行っていると考えられる.
著者
山本 輝正 佐藤 顕義 勝田 節子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.277-280, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
26

長野県飯田市上村北又渡の森林内において2007年8月にコウモリ類の捕獲調査を行ない,コヤマコウモリNyctalus furvusとクビワコウモリEptesicus japonensisを捕獲した.長野県において,コヤマコウモリは初記録であり,クビワコウモリは4例目の記録となる.コヤマコウモリの当歳獣が8月上旬に捕獲されたことは,本種の出産・哺育場所の存在を示唆するはじめての事例となる.また,コヤマコウモリの飛翔直前の音声(精査音)がFM型であることが明らかとなった.
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.29-34, 2006 (Released:2007-06-26)
参考文献数
6
被引用文献数
2

オリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusについて, 沖縄島周辺島嶼での1994~2005年にわたる直接観察, 食痕・ペリットの有無および聞き取り調査によって, 古宇利島, 伊江島, 水納島, 伊計島, 宮城島, 平安座島, 浜比嘉島, 津堅島および久高島に生息することを確認した. 与論島のオオコウモリに関して, 入手された標本・資料の検討結果からオリイオオコウモリと同定し, 与論島が本亜種の新分布地として追加された. さらに同島では詳細な生態的調査も行い, 2004年9月と2005年2月に少なくとも5頭の生息を確認した. 特に夏~秋季には親子も見られた. 食物としては, 春季にはアコウFicus superbaやモモタマナTerminalia catappaの果実, 夏~秋季にはシマグワMorus australisやフクギGarcinia subellipticaの果実, 冬季にはガジュマルF. microcarpaやアコウの果実が利用されていた. 以上の観察結果からオリイオオコウモリは, 個体数が少ないながらも, 一年を通して与論島に定住し繁殖しているものと考えられる.
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.179-184, 2012 (Released:2013-02-06)
参考文献数
16

これまで沖永良部島においてはオオコウモリの分布記載がなく,また生息についても断片的な情報しか得られておらず,生息の有無を確定することができなかった.しかし,住民への聞き取りおよび記録写真等で2003年3月にオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusの生息が判明した.また,2011年6月に本種の成獣雄個体が捕獲された.同年10月と12月,2012年1月に本種が目撃された.加えて,2012年2月における精査で,少なくとも4頭の生息を確認し,この時期の食物としてギョボクCrataeva religiosa,オオバイヌビワFicus septica,モモタマナTerminalia catappaおよびアコウFicus superbaの果実が利用されていた.以上の観察結果等から,オリイオオコウモリは沖永良部島において個体数は極めて少ないものの,1年を通じて他の島への季節的な移動もなく定住しうると考えられた.
著者
大井 徹 大西 尚樹 山田 文雄 北原 英治
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.17-24, 2008-06-30
参考文献数
23
被引用文献数
1

京都府のツキノワグマは,由良川(福知山市より下流部)の東側に分布する丹波個体群と西側に分布する丹後個体群に分かれるが,丹波個体群では,丹後個体群より若齢のオスがより多く有害捕獲される傾向が認められた.その原因を明らかにするために捕獲方法,捕獲理由,捕獲月,捕獲場所の景観,メスの分布と捕獲されたオスの年齢の関係を検討した.捕獲地点の分布を検討したところ,性成熟したオスは,交尾期になると,性成熟したメスが生息する可能性の高い地域に集まる傾向が示唆されたが,そのようなメスの生息地域の内と外で捕獲されたオスの年齢を比較しても差異は認められなかった.検討した要因の中では,唯一捕獲場所の景観の影響が認められ,森林で捕獲されるオスは若齢のものが多い傾向があることがわかった.丹波個体群ではクマハギ防除のために7~10月に森林中で多くの有害捕獲が行われる一方,丹後個体群では8~11月に農業被害や人身被害防止のため集落・農地近くでの有害捕獲が多く行われており,このことが背景となって丹後個体群と丹波個体群の捕獲個体構成の差異が生み出されていると示唆された.一方,この差異は野生個体群の構成の違いを反映している可能性もあり,留意する必要がある.<br>
著者
米田 政明 間野 勉
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.79-95, 2011-06-30
参考文献数
109
被引用文献数
2

日本のクマ類(ツキノワグマとヒグマ)は,その生物学的特性および社会的要請から,狩猟獣の中でも保護管理に特に注意が必要な種である.クマ類の保護管理では,捕獲数管理のため個体数あるいはその動向把握が不可欠であることから,クマ類の個体数推定法に関するレビューを行った.クマ類の個体数調査のため,これまでに,聞き取り調査法などいくつかの方法が適用されてきた.捕獲数は実際の個体数変動よりも,堅果類の豊凶など環境変動による生息地利用の変化および捕獲管理政策の影響を強く受ける.直接観察法は,積雪状態など環境条件が個体発見率に影響する.痕跡調査法は,相対密度や個体群動向把握には利用できても,絶対数推定は困難である.採取した体毛のDNAマーカ個体識別に基づくヘア・トラップ法は,現状ではコスト面での優位性は低いが,高精度の個体数推定を行うには適した方法と考えられる.ツキノワグマを対象とした特定鳥獣保護管理計画を作成している全国17府県のうち6県は,ヘア・トラップ法による個体数推定を行っている.以上のような様々な調査法で行われた21府県におけるツキノワグマ推定生息数と,その府県の捕獲割合から推定したツキノワグマの全国推定個体数は,最小推定数が13,169頭,最大推定数が20,864頭となった.地方自治体(都道府県)および国による継続的な個体数調査によって,この全国の推定個体数の確度を検証しその変化をモニタリングしていく必要がある.費用対効果の観点からは,高精度の個体数調査と簡便な代替法・補完法の組み合わせが提案される.<br>
著者
釣賀 一二三 間野 勉
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.91-100, 2008-06-30
被引用文献数
4

北海道渡島半島地域を対象に策定された任意計画に,モニタリングとして位置づけられた項目の取り組み内容に関して概観し,今後の課題について本稿で報告する.北海道では2001年に策定された「渡島半島地域ヒグマ保護管理計画」に関わる生息動向,および被害状況に関わるモニタリングを実施している.生息動向については,全道を対象とした鳥獣関係統計,捕獲個体の生物学的分析,アンケートによる分布調査および広域痕跡調査の一環として渡島半島地域の調査を実施しており,これまで継続してきた調査によって一定の成果をあげている反面,個体数の動向を示す指標として期待される広域痕跡調査が,国有林の協力を得られないなどの理由から今後の見通しが立たないといった重要な課題を抱えている.渡島半島地域のみを対象とした電波追跡調査やヘア・トラップ調査では,個体数推定に向けた試みが続けられており,大雑把な個体数の推定や調査対象とした狭い地域における個体数推定手法の確立に向けた検討が行われているものの,予算や人員の不足が精度の向上と広域への展開を妨げている状況である.一方,被害状況に関するモニタリングとしては,被害や出没の発生状況を把握し,指標化することによって保護管理計画へのフィードバックを行うための新しい試みとして,問題グマの段階分け,各段階の問題グマ数の推定といった試みを行っている.これらは今後も継続することによって,保護管理計画の進捗状況を評価する重要な指標になり得ると考えられ,生息動向のモニタリングと併せて将来にわたって実施を継続する体制を担保することが重要である.<br>
著者
間野 勉 大井 徹 横山 真弓 山崎 晃司 釣賀 一二三 高柳 敦 山中 正実
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.39-41, 2008-06-30

日本におけるクマ類の調査研究や特定鳥獣保護管理計画の発展に寄与することを目指して,この特集を企画した.本特集は,日本哺乳類学会2007年度大会で開催されたクマに関する3つの自由集会の成果をまとめたものであり,特定鳥獣保護管理計画の実施状況や,新たな手法として注目されるヘア・トラップ法によるクマ類の密度推定の問題点などを概観する11編の報告と,2編のコメントから構成される.<br>