著者
寺林 優 山本 啓司 亀井 淳志
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.599-612, 2017-08-15 (Released:2017-09-05)
参考文献数
41

領家帯は,白亜紀の花崗岩類とそれらに密接な関係をもつ変成岩類からなる地体構造単位である.これまでに,構造地質学,変成岩および深成岩に関する岩石学,地球化学,年代学などからの研究が数多くなされてきた.領家帯は,下部グラニュライト相に達するような広域変成作用を被っていることから,かつての島弧の地殻断面が隆起・露出していると考えられている.島弧地殻内部で発生する地震の震源は,地下約20kmよりも浅い領域に集中し,それよりも深い領域で稀なのは,地殻の深部では岩石が流動的に変形するために地震を引き起こすような脆性破壊が起きにくいことが理由とされている.島弧地殻を構成している珪長質岩石の変形機構は,石英と長石のレオロジーから,300°Cから450°Cの間の温度条件で脆性から塑性に遷移すると推定され,島弧の地温勾配を25°C/km程度と仮定すると,脆性-塑性遷移領域は12kmから18kmの深さの範囲にある.本巡検では,島弧の深部地殻での花崗岩質マグマの挙動,中部地殻でのコンピテントレイヤーの形成とその破壊における流体の挙動という視点から岩国-柳井地域の領家帯を案内する.
著者
山本 啓司 寺林 優 大麻 広幸 金子 慶之 安間 了
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.119-122, 2004 (Released:2005-01-07)
参考文献数
15
被引用文献数
8 8

Pelitic metamorphic rocks of the Ryoke Belt are distributed in the Rokuroshi area, southern part of Iwakuni district. Dark-brown biotite schist was locally silicified and decolorized to form milky-white “silicified domain”. Quartz veins were developed in both of the biotite schist and silicified domain. The veins in biotite schist are generally parallel to the schistosity and form boudinage due to ductile flow of the host rock. The veins in silicified domain are oblique to the schistosity with medium to high angles and have not undergone ductile deformation except for some schistosity-parallel veins. The mode of occurrence of these veins indicates that the silicified domain is much more competent than the biotite schist. Ductile deformation after the silicification was accommodated by viscous flow of biotite schist. The silicification probably results from dissolution-precipitation processes which may have raised pore pressure to cause hydraulic fracturing.
著者
Yui Takahashi Hiroaki Aiba
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.573-578, 2023-11-02 (Released:2023-11-02)
参考文献数
28

Fossil winged ants (family Formicidae) are sometimes found in lacustrine deposits. In the Shiobara Group, however, only a fossil of a large wingless queen ant has been described. Two types of fossil winged ants belonging to the subfamily Formicinae are newly described here and identified as Lasius sp. and Camponotus sp.
著者
久保 和也 佐藤 博之
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.90, no.10, pp.717-731_3, 1984-10-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
45
被引用文献数
3 1
著者
藤川 将之 中澤 努 上野 勝美
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.125, no.8, pp.609-631, 2019-08-15 (Released:2019-12-27)
参考文献数
99
被引用文献数
2 1

山口県中西部に位置する美祢市には,日本最大級のカルスト台地として知られる秋吉台が分布する.秋吉台は前期石炭紀~中期ペルム紀にパンサラッサ海大洋域の海洋島頂部で形成された生物礁起源の秋吉石灰岩からなり,そこには約8000万年間の気候・海水準変動が記録されている.本巡検では,海洋島の基盤となった玄武岩,後期石炭紀の現地性礁石灰岩,前-中期ペルム紀のフズリナ化石層序に基づく地層の逆転構造,前期ペルム紀オンコイド石灰岩,前期ペルム紀干潟相堆積物を観察し,現地討論を行う.また,秋吉石灰岩の代表的な堆積相を理解するため,秋吉台科学博物館所蔵の大型研磨石板標本の観察を行う.あわせて秋吉台上および秋芳洞を自然地理学的な視点から観察し,カルスト化作用とその特徴について理解する.
著者
長 郁夫
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.371-378, 2023-07-08 (Released:2023-07-08)
参考文献数
36
被引用文献数
1

A microtremor array survey is a tool for modeling subsurface S-wave velocity structure using small ground oscillations, or microtremors, which can be recorded by multiple seismometers at the surface. This paper presents an overview of the method, including the principles, some warnings, and an example survey. In some parts, we focus on the application of the method to shallow geological surveys, to depths of several tens of meters. For further interested readers, we finally list the pieces of literature for review.
著者
田辺 晋
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.127, no.10, pp.635-648, 2021-10-15 (Released:2022-01-01)
参考文献数
65
被引用文献数
3

関東平野の中央部には,北西・南東方向の中央構造線に沿って,最終氷期最盛期(LGM)までに形成された古東京川開析谷と中川開析谷,荒川開析谷,多摩川開析谷が分布する.これらの開析谷は台地を開析する小規模な枝谷を有し,その周囲には,海洋酸素同位体ステージ(MIS)5cの大宮面,MIS 5aのT1面,MIS 3のT2面,LGM前半のT3面の,少なくとも4段の埋没平坦面が存在する.本調査地域北部の加須低地に埋没する大宮面は緩やかに西に上がる傾斜を示しており,太田断層と関連した活構造の存在の可能性が指摘される.
著者
中野 聰志 牧野 州明 吉田 泉 真庭 香奈恵 澤田 一彦 坂下 風子 河野 俊夫
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.125, no.10, pp.759-773, 2019-10-15 (Released:2020-01-10)
参考文献数
46
被引用文献数
3 3

系統的な色変化を示す花崗岩中赤色アルカリ長石4種について,国際的色表示パラメーターであるL*,a*,b*を,パソコンとスキャナーによる新しい簡便な方法で求めた.得られたa*-b*図上での4試料を通しての色変化に対する回帰直線は、赤鉄鉱含有量支配の色変化に対比できる.反射顕微鏡とEMPA観察により,微細赤色含鉄粒子とともに白色要因であるマイクロポアの存在を確認した.ラマンスペクトル解析により,これらの赤色粒子は赤鉄鉱と一部マグへマイトであることが判明した.反射電子線像とその画像解析により,微細鉄酸化鉱物粒子とマイクロポアについての分布パターンとそれらの含有割合(面積比)を見積もった.これらのデータは,今回のアルカリ長石色変化が,主として酸化鉄鉱物が寄与する赤色要因とマイクロポアのサイズ分布と数密度が寄与する白色要因の両方に支配されていることを示している.
著者
宮田 隆夫 安 鉉善 猪川 千晶
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.Supplement, pp.S37-S52, 2012-08-15 (Released:2013-02-21)
参考文献数
45
被引用文献数
2

中央構造線(MTL)は,白亜紀中頃からアジア大陸東縁部の形成に大きく関連して活動した大規模な横ずれ断層であり,それに沿って和泉層群堆積盆地が発達した.本巡検は,和歌山市北部から大阪府岬町にかけた地域で,横ずれ成分をもつMTL断層系の破砕帯と白亜系和泉層群のタービダイト相,堆積構造(スランプ褶曲, 底痕),変形構造(背斜, 小断層, デュプレクス),コダイアマモの化石,大阪層群/和泉層群の不整合などを見学し,それらの形成及び和泉層群堆積盆地の形成について現地討論を行う.
著者
稲垣 史生 諸野 祐樹 星野 辰彦 井尻 暁 肖 楠 鈴木 志野 石井 俊一 浦本 豪一郎 寺田 武志 井町 寛之 久保 雄介
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.77-92, 2018-01-15 (Released:2018-05-30)
参考文献数
71
被引用文献数
3 2

約半世紀の歴史を持つ海洋掘削科学は,プレートテクトニクスの実証や過去の劇的な地球環境変動など,教科書にその名を刻む輝かしい科学的成果をもたらしてきた.中でも,「海底下生命圏」の発見による生命生息可能域の大幅な拡大は,それまでの地球生命科学の概念(パラダイム)を覆すマイルストーン的な科学成果の一つである.これまでに,世界各地の海洋底から掘削されたコアサンプルの多面的な分析研究により,水・エネルギー供給が極めて限られた海底下環境に,固有の進化を遂げた膨大な数の未知微生物が生息していることが明らかとなっている.その生態系機能は,極めて低活性な生命活動により支えられている静的なものであるが,地質学的時間スケールで,地球規模の元素循環に重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた.
著者
小林 和夫 生沼 郁
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.67, no.788, pp.284-291, 1961-05-25 (Released:2008-04-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2
著者
菅沼 悠介
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.1-13, 2011-01-15 (Released:2011-05-11)
参考文献数
88
被引用文献数
4 1

近年,古地磁気強度変動記録を用いた海底堆積物の年代対比が試みられるようになってきた.この手法は,海底堆積物に対して数千年スケールの高精度年代対比や,南極やグリーンランドの氷床コアの宇宙線生成核種生成率との直接対比を可能とするなど,将来性は非常に高い.しかし,海底堆積物の残留磁化獲得プロセスには,Lock-in depth問題など未解決の課題が残されており,年代対比における不確定要素となっている.本稿では,近年進められている新たな残留磁化獲得プロセスの研究例を紹介するとともに,この年代対比手法の課題と将来展望について述べる.
著者
村宮 悠介 氏原 温 大路 樹生 吉田 英一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.126, no.7, pp.355-363, 2020-07-15 (Released:2020-10-15)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1

愛知県知多半島の南部には,前期中新世の深海底に堆積した師崎層群が広く分布している.師崎層群は,古くから地質構造および化石群集に関する調査・研究が行われてきた.とくに,師崎層群から産出する深海性の化石群集は,極めて保存状態が良いことで知られており,師崎層群は過去の深海性生物群集を垣間見ることができる重要な地層である.これらの化石群集については,現在も研究が進行中である.また近年には,師崎層群から大小の球状炭酸塩コンクリーションの産出と記載が報告され,深海堆積物中での急速な球状炭酸塩コンクリーションの形成に関する新たな知見が得られつつある.本巡検では,師崎層群から産出する球状炭酸塩コンクリーションおよび化石群集について,形成プロセスや産状などを紹介する.
著者
村宮 悠介 吉田 英一 山本 鋼志 南 雅代
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.11, pp.939-952, 2017-11-15 (Released:2018-02-23)
参考文献数
28
被引用文献数
4 4

球状炭酸塩コンクリーションは,世界各地の様々な地質時代の海成層から普遍的に産するが,その形成過程はいまだ完全には理解されていない.本研究では,愛知県知多半島の先端部に分布する中新統師崎層群下部豊浜累層中にみられる長径約1.5mの巨大ドロマイト質コンクリーションについて,その形成過程を明らかにすることを目的に,堆積学的および地球化学的な種々の観察・分析を行った.その結果,埋没深度数百mに達するまでのごく初期続成過程においてメートルサイズの巨大なコンクリーションが形成することが示された.その形成時間は数十年と見積もられ,これまで考えられていた巨大炭酸塩コンクリーションの形成速度よりもはるかに速いものである.
著者
西脇 仁 奥平 敬元
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, no.6, pp.249-265, 2007 (Released:2008-02-01)
参考文献数
62
被引用文献数
7 8

近畿中央部の初瀬深成複合岩体は,主に片麻状黒雲母花崗閃緑岩とそれと同時形成の苦鉄質岩類から構成されており,E-W方向とNW-SE方向の2つのシンフォームによって特徴づけられるベースン構造を形成している.花崗閃緑岩の片麻状構造は,主に黒雲母クロットの形態定向配列によって定義され,マグマ流~亜マグマ流によって形成されている.花崗閃緑岩中の角閃石の化学組成から,花崗閃緑岩マグマの定置深度は,およそ20 kmと見積もられる.花崗閃緑岩中には,高温の塑性変形組織が見出されている.マグマ流~亜マグマ流による変形と高温塑性変形の最大伸長方向が一致しており,これらの変形作用は花崗閃緑岩の定置に関連して,マグマの固結後に温度の低下とともに連続して生じたと推測される.E-W方向のシンフォーム構造は,領家変成帯中に広く認められるD3期鉛直褶曲構造と平行であることから,片麻状黒雲母花崗閃緑岩は,領家変成帯の鉛直褶曲時の広域応力場において定置したと考えられる.
著者
吉田 英一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.1-16, 2023-01-26 (Released:2023-01-26)
参考文献数
101
被引用文献数
1

‘コンクリーション’とは,堆積岩中に産出する塊状(主に球状をなす)岩塊のことを指し,炭酸塩,シリカや酸化鉄を主成分とするものが多い.その中でもとくに炭酸塩を主成分とするコンクリーションは,保存良好の生物の化石を内包することが多く,古くは一世紀以上も前から記載・研究がなされてきた.これまでの研究から,炭酸カルシウム球状コンクリーションの形成は,有機炭素のまとまった供給が可能となる大型の生物が出現して以降の海性堆積層中で生じる現象であり,大型の生物が出現して以降の地質時代を通しての普遍的なプロセスと言うことができる.本論では,これらの産状や成因,形成プロセスについてこれまでの研究成果をもとに述べるとともに,コンクリーション化プロセスを応用・開発した‘シーリング素材’及び,その素材を用いた実地下環境でのシーリング実証試験の現状・結果について紹介する.
著者
田辺 晋
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.55-72, 2019-01-15 (Released:2019-04-15)
参考文献数
79
被引用文献数
5 4

東京低地と中川低地における沖積層のシーケンス層序と古地理を詳細に解明した結果,沖積層の形成機構に関する次の3つの知見を得ることができた.(1)蛇行河川堆積物を構成するチャネル砂層は,海水準上昇速度が大きい時期にはアナストモーズ状の形態を有し垂直方向に累重するのに対して,海水準上昇速度が小さい時期にはシート状の形態を有し水平付加する.(2)一部の海進期のエスチュアリーシステムは,河川卓越型エスチュアリーとして分類されるべきであり,その湾頭部の潮下帯にはローブ状で上方細粒化する砂体が存在する.(3)潮汐の卓越した溺れ谷などの内湾では,湾内に流入する河川が存在しなくても,湾外から運搬された泥質砕屑物が側方付加することによって埋積され,上方細粒化相が形成される.特に(1)は海水準の変動率が浅海成層と同様に沖積平野の河成層の地層形成に重要な支配要因であることを示す.