著者
高橋 宏和
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的:福島、栃木、茨城県にまたがる八溝山地の周辺には、新第三系の砕屑岩や火山砕屑岩が厚く堆積し、またこれらの地域は日本海の拡大に伴う、いわゆるグリーンタフ火成活動の縁辺部でもある。八溝由地の中央にある鷲ノ子山塊の東側、茨城県大子・山方地域の浅川層と大宮地域の桜本層および玉川層には、熱帯ないし亜熱帯性の門の沢貝類化石動物群中の内湾干潟を占めたArcid-Potamid群集カミ認められ、その年代は16Ma付近である。(高橋,2001)。今回、鷲ノ子山塊の北西側にある栃木県馬頭地域の小塙層におけるArcid-Potamid群集の内容とその年代を明らかにするのを目的とした。研究方法・内容:1981年以来数度にわたり馬頭地域の地質調査を行ってきた。これまで、小塙層最下部よりCrassostreaなどの潮間帯砂礫底種、下部の灰緑色凝灰質細粒砂岩からAcila submirabilisなどの浅海砂泥底種、上部の浮石質凝灰岩よりGloripallium crassiveniumなどの岩礁固着性種を採集した。研究成果:馬頭地域東部の冥賀に分布する小塙層最下部の火由礫を含む浮石質凝灰岩中に挟在する浮石を含む灰色泥岩より、Geloina sp., Terebralia sp., Vicarya yokoyamai,"Vicaryella" notoensis, Cerithideopsilla minoensis, Tateiwaia tateiwai, T. yamanariiなどのArcid-Potamid群集の主要構成種が産出し、栃木県側では初めての報告である。GeloinaやTerebraliaの現生種はマングローブ・スワンプに生息し、他の沿岸砂底種を伴わないことから、この貝化石群集は、マングローブ林の海側外縁部の潮汐低地付近を占めた現地性に近い群集であると考えられる。また、近くに植物根を含む泥岩も見られることから、後背湿地の存在も推定される。小塙層最下部のArcid-Potamid群集の産出年代は、宇佐美ほか(1996)による浮ノ遊性有孔虫のOrbulian datumと田中・高橋(1998)による石灰質ナンノ化石からN8/N9境界付近の15.2Maあたりと推定される。これは明らかに他地域のArcid-Potamid群集の産出年代より若く、グリーンタフ火成浩動の末期で日本海の拡大が終了に近づく頃である。一方、茨城県との県境である馬頭地域大山田の新第三系は茨城県大子地域から連続しており、今回、大山田下郷の浅川層下部のサンドパイプに富む砂質泥岩からCerithideopsilla sp.を、灰色泥岩から"Ostrea" sp.を、れきを含む凝灰質砂岩から門の沢貝類化石動物群の代表的な浅海砂底種のDosinia nomurai, Siratoria siratoriensisを採集した。また、上部の泥岩からは沖合泥底種のConchocele bisectaを得た。しかしながら、Arcid-Potamid群集の主要構成種は今のところ採集できていない。これらの地層の上位には巨礫を大量に含む礫岩が不整合に覆っている。この礫岩は馬頭地域の小塙層には見られないもので、おそらく小塙層の堆積前に形成されたものと思われ、大きな造構運動、たとえば棚倉破砕帯や日本海拡大の影響が示唆される。
著者
米道 学
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

(目的)房総半島には他の地域から隔離されたヒメコマツ個体群が分布されているが1970年以降マツ材線虫病によってよって急激に個体数を減少させている。1960年代には房総半島には10,000本以上のヒメコマツが生存していたと推定されているがマツ材線虫病等により現在100本以下となった。生存個体はある程度マツ材線虫病に抵抗性を持つ可能性がある。千葉演習林では、保全の一環として実生と接ぎ木による増殖を行っている。今回、実生苗木でマツ材線虫を接種して材線虫抵抗性の検証を行った。また、接ぎ木の成功率が高くないことから挿し木による増殖を試みた。(方法)人工林由来の前沢6号(9本)・前沢9号(17本)・天然林由来の西ノ沢7号(31本)の実生苗木(3家系)で強病原力材線虫(Ka-4)を接種(5,000頭/本)した。対照として千葉演習林抵抗性アカマツ実生苗木(1家系20本)・感受性アカマツ苗木(1家系19本)にも同様に接種を行った。挿し木は、実生苗木の2家系(各40本合計80本)と接木クローン1家系(20本)で行った。挿し床はプランターに鹿沼土を敷き床とした。全プランターはビニール袋に入れて密閉状態とした。密閉状態のプランターの置き場所はビニールハウス内とした。プランターの半分で温床マット(実生各20本合計40本・接木各10本)を敷き半分を露地(実生各20本合計40本・接木10本)とした。さし穂は全て発根促進のためIBA0.4%を5秒間浸漬した。(結果と考察)材線虫を接種した人工林由来(2家系)の枯死率35~56%、天然林由来(1家系)の枯死率の枯死率が55%で対照として接種した抵抗性アカマツの15%より高く感受性アカマツ74%より低い結果となった。ヒメコマツ苗木の抵抗性は抵抗性アカマツと感受性アカマツの中間程度の抵抗性が示唆された。今後、家系数を増やして接種を行い抵抗性の検証をする必要性があろう。挿し木では接木の穂を挿し付けた個体では発根が無く、実生由来の穂を挿し付けた2家系で発根が確認されたが、大半が枯死していた。発根率が温床有りで30~35%、露地で35~45%であった。今回の発根率からヒメコマツの挿し木は可能であろうが、苗の大半が枯死したことから発根後の養苗が課題となった。
著者
川元 佳子
出版者
兵庫県加古川市立陵北小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

教師の子どもに対する視点を理解することで担任教師の学級経営支援ができるのではないかと考えた。「教師用RCRT (Role Construct Repertory Test)」という方法を使い教師の「子どもに対する視点」を把握できることは先行研究(浦野,2001)により明らかであったが、従来の実施方法は高度なデータ処理や専門家によるコンサルテーションを必要としていた。そこで、専門的な知識を持たない教師であっても比較的簡単に実施し、結果を理解することができるような方法の改良・開発が必要であると考え、教師用RCRTの応用的な実施方法の検討を含めた支援介入プログラムを開発することを本研究の目的とした。プログラムにおいてQ-U(QUESTIONNAIRE-UTILITIES)で学級の状態をアセスメントした上で、教師用RCRTを実施した。その実施においては従来の教師用RCRTに教師の意図的方向付けを把握する川元版教師用RCRTを加えた。その結果、産出されたコンストラクト・抽出された因子の内容が二つの教師用RCRTにおいて違いがあった。また、教師内地位指数(順位)でも大きなズレを示す児童が存在することも確認された。分析データから教師自身の視点を把握、二つの因子分析の比較と教師内地位指数から学級の荒れを防ぐための方法を検討した。その結果、教師内地位指数の範囲外の児童及び気になる児童について継続観察をすることとなった。継続観察以後、Q-Uの学級生活不満足群が減少し学級生活満足群が増えるなど、教師内地位指数の差から抽出された子ども及び学級全体が良好な結果へと変化していた。また、教員の感想からも、自分の視点を知ることで教師としての視野が広まり学級経営がやり易くなったという意見が多く出された。
著者
後藤 秀司
出版者
秋田県潟上市立天王中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

キャリア発達の視点から,学校の教育活動全体を通じたキャリア教育推進のための教員研修に寄与するプログラムの開発を目的として,以下の研究を実施した。1 小・中学校の教員のキャリア教育に関する質問紙調査小・中学校の教員約120名を対象にキャリア教育に関する質問紙調査を実施した。因子分析の結果,現場の教員のキャリア教育に関する課題意識については,「授業実践」「指導計画の整備」「目標設定・評価」「指導時間確保」「教科等の指導と評価」「相談・連携」「体験活動」「各教科・領域等の有機的関連付け」の8つの因子が抽出された。各尺度間の相関から,「各教科等の指導計画の整備から評価規準の設定,具体的な授業プランの策定」「職場体験等の体験活動の実施と保護者・地域等との連携」に関する研修を求めていることが分かった。2 キャリア教育研修内容の分類キャリア教育に関して文部科学省が報告書等で例示した研修プログラムから,教員研修に求められる内容を整理・分類した結果,「共通理解を図る研修」「実践にかかわる研修」の2つの視点を得た。さらに研修の趣旨や目的から,「キャリア教育の本質的理解」「児童生徒のキャリア発達の状況理解と学習プログラムの枠組み作成」「キャリア・カウンセリング」「教科,領域におけるカリキュラム開発」「取組内容の重点化と全体計画等への反映」「校種間の連携・接続」の6つに分類することができた。3 教員研修プログラムの開発研修プログラムを「共通理解」「実践」の2つの視点から体系化し,教員研修の実施に必要なワークシートを開発した。
著者
平野 美樹子
出版者
長岡赤十字看護専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

災害急性期において第一線で活動する被災地における救援者のストレス経験を明らかにし、効果的な組織的支援体制のあり方を探ることを目的に、平成16年10月の新潟県中越地震で、自らも被災した保健福祉医療従事者(保健師・助産師・看護師・救急隊員等)317名を対象に調査研究をおこなった。調査紙においては、勤務状況、被害の程度、人口統計データ等を収集するとともに、先行研究およびインタビューを通して抽出した「ストレス項目」53項目、「組織的支援項目」47項目(6段階リッカート尺度)を用いた。高いストレス得点を示した項目は、「近親者の死」がきわめて高く、次いで「発災直後に勤務できなかったことを非難されること」「地震発生後しばらく家族の安否が確認できなかったこと」「自分の家族が危険にさらされたこと」「友人・知人の死」「仕事に行くことに家族からの理解を得られなかったこと」などであった。組織的支援項目の得点は、「家族の安否をできるだけ早く確認すること」が最も高く、次いで「家族の無事を直接目で確認すること」「トイレが使用できること」「電話などで家族や子どもと話をすること」「上司・同僚の間で、何でも言える良好な関係があること」などであった。組織的支援項目については、尺度全体の得点、および各項目別得点、項目間相関係数などを確認した後、因子分析(主因子法・バリマックス回転)をおこなった。因子分析の結果、8因子が抽出され、累積寄与率は64.19%であった。8因子すべてが固有値1.00以上であり、各因子でそれぞれ解釈可能なまとまりを得た。クロンバックのα係数は全体、各因子で、いずれも0.7以上を確保できた。今後、成果を2008年日本トラウマティック・ストレス学会、日本災害看護学会等で発表するとともに、ストレス項目および組織的支援項目得点の組織等属性による差、探索的因子分析などをすすめていく予定である。
著者
宮本 直樹
出版者
兵庫県警察本部刑事部科学搜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

【研究目的】本研究は,電気的原因による火災の解明の手段として,配線や電気器具などにアーク等によって生じた痕跡(雷気的溶融痕)と火災熱によって生じた痕跡(熱溶融痕)を判別するため,溶融痕内部に生成された空孔状況の違いに着目し,X線CT法を用いて,電線に作製した溶融痕内部の断面を全て非破壊で観察を行い,新たな鑑定手法の確立を目指すものである。【研究方法】試料として,電線(軟銅より線)の先端に直径0.5mm程度の熱及び電気的溶融痕を作成した。熱溶融痕は,ガスバーナーで溶融し、電気的溶融痕は,火炎中で短絡して溶融し,試料を作製した。さらに,作製した電気的溶融痕は,電気炉で約800℃,30分間熱を加えたものも作製した。X線CT測定は,SPring-8内BL24XU実験ハッチCにて行った。X線エネルギーは,29.5keVに設定し,検出器にX線ズーミング管(浜松ホトニクス株式会社製C5333)を用いて,試料を1°ステップで,180°撮影した。露光時間は,6秒で行った。【結果と考察】熱溶融痕と電気的溶融痕のX線CT測定の結果,熱溶融痕は,先端付近に空孔は認められたが,中央付近では認あられない。それに対して電気的溶融痕は,ほぼ全面にわたって,大小の空孔が認められ,今回の試料に対して,熱溶融痕と電気的溶融痕の空孔の状態に差が認められた。さらに,電気的溶融痕に熱を加えたものについては,酸化状態がCT画像のコントラストから判断でき,酸化が溶融痕表面からどのくらいまで浸透しているのか判断できた。このように,内部の空孔が,非破壊で観察でき,さらに空孔の情報も今までの,1断面の2次元の情報でなく,全断面,すなわち3次元の情報でわかり,溶融痕の空孔の形態が詳細に観察できた。
著者
清水 宏幸
出版者
山梨大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

中学校数学の教材の中に潜むかかわりを教材研究で顕在化し,それを授業の中で活動させながら生徒につかませることをねらう授業づくりを研究するものである。研究のねらいは次の2点である。(1) 生徒が自らかかわりを見いだすことができるような活動を授業で仕組むために,中学校3年間を見直し,教材研究を行い課題開発をする。(2) かかわりを見いだす活動を重視した授業を行い,生徒の反応,思考の様相をとらえカリキュラム作成に向けて実践を積み重ね,その成果を蓄積していく。平成19年11月10日の山梨大附属中の公開研究会では「一次関数の利用」の単元で「太陽光発電は損か得か」という授業研究を公開した。この授業では,10ケ月までの電気使用量から12ケ月の合計の電気使用量を予想するために,棒グラフを使い,本来直線となっていないグラフを直線と見るということを生徒に作業をさせながら見いださせた。その上で,太陽光の設備を自宅に設置したら,何年後に設備費が償還できるかを考えさせる授業である。また,平成20年2月28日には自主公開研究会を行い,「円周角の定理」の単元で授業を行った。この授業では,グラウンドに出て,40人の生徒みんなでメガホンでサッカーゴールをのぞいてどのような位置にみんなが立つのだろうかという授業を行い,円周角と弧の関係に着目しながら円周角の定理を見いだすという授業を行った。いずれの授業もビデオで授業と研究協議会を録画し,そのプロトコールをおこし分析することで,協議会で指導をしていただいたことと共に授業について検証した。そして授業中の生徒の作業の様子を観察し,授業後の学習感想を書かせ授業評価をおこなった。その結果,生徒たちが教材の中に潜む関係を見いだし,興味深く学んだ様子が,ビデオのプロトコールや学習感想から明らかとなった。
著者
山城 香菜子
出版者
国立大学法人琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

【目的】腎臓での糸球体濾過量(glomerular filtration rate : GFR)を評価する指標として、従来よりクレアチニン・クリアランス(Ccr)が日常の臨床現場において広く用いられてきた。2008年には日本腎臓学会より"日本人の推算GFR(eGFR)"が提唱され、24時間の蓄尿を行うことなく血清クレアチニン(Cre)値から簡便にGFRを算出することが可能になった。しかし、年齢や筋肉量の違いによるクレアチニン値への影響は避けられず、得られたGFRには未だ信頼性に乏しい部分がある。近年、性や年齢に影響を受けない新たな腎機能マーカーとしてシスタチンCが注目されている。本研究では、シスタチンCとeGFRとの相関性を分析し、慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)診断の指標としての有用性を検討した。【対象および方法】対象は本院において血清Creを測定した患者検体200件とした。各々の検体についてシスタチンCを測定し、同時にCre値から算出されたeGFRとの相関分析を行った。【結果と考察】シスタチンCはeGFRと対数相関を示し、CKD診断指標であるeGFR 60ml/min/1.73m^2未満での相関はγ=0.714であった。一方、eGFR 60ml/min/1.73m^2以上ではγ=0.472であった。また、シスタチンCと血清Creは直線相関にあり、eGFR 60未満および60以上での相関はγ=0.636、γ=0.424であった。いずれの場合も、腎障害が疑われるeGFR 60未満の検体で比較的高い相関が得られた。しかし、シスタチンCがGFRと同等に、CKDの診断指標となるには満足できる相関とは言い難い。シスタチンCの測定は標準化が遅れており、GFRへの推算式の検討が行われている段階にある。今後、eGFR算出でのCreの影響、シスタチンC測定の標準化などを解決した上で再度、相関解析を行うことが必要である。さらに、薬剤投与でのeGFRの普及、さらにはシスタチンC値そのものがGFRに代わることを期待したい。
著者
中村 源一郎
出版者
東京工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、障害者の歩行において、足裏荷重の変化を測定し診断できる機器の試作を行った。足裏荷重を検出するセンサとして、動的な力を加えると力の大きさと速度に比例して電圧が生じる圧電高分子フィルム、東京センサ製ピエゾフィルムFLDT1-028K(以下PVDFフィルム)を使用した。足裏荷重によってPVDFフィルムに良好な変形を生じるように、発泡ゴム製靴中敷きに接着し荷重の集中するつま先、かかとに重点的に配置、片足当り10箇所へ配置し、床面の凹凸の影響が少ない厚底の市販靴に挿入した。PVDFフィルムから出力された電圧は、バッテリー駆動が可能で両足20チャンネルの電圧出力を同時に記録出来るデータロガー(グラフテック株式会社midi LOGGER GL800)を用いて測定した。実験は体育館に設置した直線歩行レーン15mを歩行し、被験者背面に装着したデータロガーでフィルムからの電圧を記録、同時に歩行軌道・状態をビデオカメラで記録した。視覚情報から歩行状態を補正させないために、通常の歩行実験と併せて、アイマスク着用による無視界状態での歩行実験を行ない次のような結果を得た。1)歩行の基本的な動作の中で足裏各部の電圧(荷重)の大小の測定ができた。2)足裏各部の接地タイミングを測定できた。3)アイマスク着用によるデータ上の変化は見られなかったが、軌道の乱れをビデオカメラ記録した。これらの結果から、圧電高分子フィルム(PVDF)フィルムを利用して、自由に歩行しながらデータ採集の出来る足裏荷重測定具を試作し、試作装置を使いた各歩行実験において診断に必要な足裏の荷重の大小、時間的関係、歩行状態を測定・記録することが出来た。今後、本試作装置で測定した電圧を速度、加速度へ変換し歩行映像あわせた定量的評価が行える実用的な装置を目指す。
著者
小山 徹平
出版者
公立大学法人福島県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

○ 研究目的と方法福島医大版服薬自己管理モジュール施行患者(以下「参加群」)と、非施行(以下「非参加群」)患者に対して、服薬アドピアランスと治療転帰について調査し、心理社会的教育の効果を検討することを目的として、2001年7月からの病棟服薬教室参加者60名と、2000年から2001年の服薬教室施行前に入院していた不参加患者の中で、統合失調症圏・感情障害圏の患者211名を対象として選び、追跡調査をおこなった。彼らの退院後の社会適応状態、再入院の有無、その原因等についてのアンケートを施行し、可能な限り面接調査も施行した。またカルテから退院後の臨床経過を調査した。本研究は、福島県立医科大学倫理委員会の承認を受けて行われた。○ 研究成果・ アンケート調査で、回収され有効回答であったのは、参加群23名、非参加群40名であった。彼らの退院から6ヵ月後、1年後、2年後の社会適応状態・再入院・その原因について差は認められなかったが、入院前の状況による補正を行い精密に検討することが必要である。・ 面接調査でのSAI-J(病識・薬識尺度)の結果は、服薬アドピアランス・自分の病識ついては参加群(11名)の方が良好な結果であった。しかし、自分の入院時の病識についてや精神症状(主に妄想)の理解の問いでは、非参加群(28名)の方が良い部分もあった。・ カルテ検索については、2年後まで経過を追う事ができた参加群39名、非参加群90名(アンケート群を含む)を対象とした。参加群は江熊の社会適応尺度で6ヵ月後、1年後、2年後の結果が3.23→3.28→3.21と良くなっているのに対し、非参加群では2.62→2.62→2.72と若干ではあるが悪化している事が分かった。ただし、今回の結果は、入院前の状態が不揃いであるため、その情報も含め、さらに検討を進める計画である。
著者
光田 由里
出版者
渋谷区立松濤美術館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

戦後の日本で使われてきた「現代美術」という語は、時代区分、様式、手法によって確定されるものではないが漠然とした価値概念を含んでいる。「現代美術」は、普通名詞ではなく、敗戦後10年ほどして生まれ、展開し、そして消えつつあるひとつの領域を指す、固有名詞なのではないだろうか。各公募団体が内部審査を行ない、ヒエラルキーを再生産する制度が画壇だとしたら、1950年代初めにそこから脱して自由な活動を行おうとする動きが生まれた。ふたつの日本アンデパンダン展(1947年〜、日本美術会主催)・(1949年〜63、読売新聞社主催)と、タケミヤ画廊(1951年〜57年に瀧口修造がキュレーター役を務める)に代表される、画廊での発表が、反画壇運動の場だった。これらが「現代美術」領域の揺藍である。一方「現代美術」草創期に重要な役割を果たしたメディアとして、『美術批評』誌を挙げねばならない。同誌は、美術批評の刷新と反画壇・美術界変革を意図した編集方針を持ち、数々の論争を仕掛けると同時に、美術批評の新人たちを輩出した。彼らは同誌上で画壇外の新人作家たちを対象に、同時代的なリアリティを見い出し、評価を与えるて「現代美術批評」とも呼ぶべきものを生み出した。画壇外での発表の場所が確保され、それが美術ジャーナリズムの批評対象になって公認されたことで、「現代美術」領域が成立したと言える。それはいわば、作家と批評の新人たちの共同作業だった。『美術批評』誌でデビューした針生一郎、東野芳明、中原佑介、大岡信、ヨシダヨシエらは、その後の現代美術批評を半世紀にわたって担う中軸となった。彼らが評価した作家たちが「現代美術作家」なのだともいえる。「現代美術作家」は市場および画壇の外側にある作家たちだったが、「現代美術批評」が評価を支えた。この背景には、国際展に出品できるようになり、同時代の海外作品と同等に認められねばならないという、戦後初めて出現した状況があった。世界標準の「近代」性が前提になると、新潮流を輸入し学習する、戦前的な批評スタンスの無効さがあらわになり、画壇的内部審査では作品選定の機能が果たせないことがはっきりする。こうして内部的審査に内向する画壇と海外動向に敏感な「現代美術」は並存するようになった。「現代美術」を生み出したのは、反画壇意識をもち、海外美術との同時代意識を持とうとした美術関係者の、言説空間の共有であったと考えられる。
著者
山崎 淳
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的:物性研究所の研究室が要求する実験装置の開発を通して、工作室と研究室の設計・加工技術の共有化をはかり、独創的な実験装置開発環境の場を整備することにある。今年度主要なテーマは、非球面ミラー光学系を利用したテラヘルツ(THz)領域の光学実験装置用(反射型)の放物面ミラーの製作である。最重要課題は、サブμmの面精度を出すための切削・研磨技術の開発である。研究概要:日立精機のNC旋盤TS15を使い切削・研磨を行った。ミラーの材料は、アルミ合金A5056,ANB79を使った。切削バイトは、仕上げ用にダイヤモンドバイトを使用した。研磨用として、ローターをNC旋盤に取り付けた。研磨用バフは、アルミナの研磨剤を配合したものを使用した。放物面ミラーの半径は100mmである(軸上焦点距離101.6mm)。切削時にバイト先端部の振動、キリコが原因でスジ目を形成した。これが面精度に影響したため、切削条件の最適化を行ったところ、周速300mm/min(1μm/rev)、切り込み量50μm未満であった。また、振動を最小限に抑えるため、フォルダの突き出し部分を45mm以下(太さは25mm×25mm)とした。研磨時にヤケによりミラー面が黒くにごったので、洗油にて冷却しながら行ったところ鏡面研磨が可能となった。研磨条件は、周速100mm/min(12.5μm/rev)、ローター回転数14400回転であった。研究結果:仕上げ加工を数回行った後、半導体レーザー(550nm〜670nm)にてミラー面に照射したところ回折現象が確認された。研磨を数百回行った後同様に確認したところ回折現象は見られなかった。ビームエキスパンダーにて拡大したHe-Neレーザー光をミラーに入射、集光させたところ、ビームスポットサイズは、THz領域に十分利用可能な大きさであった。本研究でサブμmの面精度の切削・研磨技術を確立した。
著者
福家 教子
出版者
国立療養所 大島青松園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

【研究目的】要介護高齢者の摂取食形態を調べ,入所者の口腔内細菌叢,口腔水分量および咀嚼機能を摂取食形態別に比較することによって,きちんと形のある普通の食形態の食事をすることの重要性を明らかにする。【対象】ハンセン病療養所である大島青松園の入所者102名(平均年齢77.4歳)を対象者とした。【方法】1.摂取食形態を普通食,軟食および絶食(非経口栄養剤)に分類して,対象者の食形態を調べた。2.採血して血清アルブミン量を測定した。3.滅菌綿棒で口腔粘膜全体を擦過して検体を採取した。その検体を血液寒天培地,チョコレート寒天培地およびカンジダ培地で塗沫培養し,菌量および菌の同定を行った。4.口腔水分計を用いて口腔内の水分量を測定し,咀嚼力判定ガムを用いて咀嚼能力を調べた。【結果】1.入所者の摂取食形態は,普通食78名,軟食19名および絶食5名であり,普通食の摂取者が最も多かった。2.食形態が普通食から軟食,絶食になるに従って,栄養状態の指標となる血清アルブミン量が減少した。3.普通食摂取者および軟食摂取者の口腔内からは,口腔内常在菌であるαレンサ球菌およびナイセリアを多く検出した。非経口摂取者の口腔内からは、日和見感染症の原因菌である緑膿菌、セラチアおよびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を多く検出した。また,普通食摂取者に比べて軟食摂取者の口腔内カンジダ菌の検出割合がやや多かった。4.食形態が普通食から軟食,絶食になるに従って,口腔水分量が減少し,咀嚼能力が低下する傾向があった。【考察】より普通の食形態に近い食事を提供することは,入所者に必要栄養量だけでなく「食べる楽しみ」を与え,QOLを向上させることにつながる。さらに,咀嚼による自浄作用や唾液分泌を促し,日和見感染症の原因となる細菌の増殖防止にもなる可能性が示された。
著者
中村 洋介
出版者
公文国際学園中等部・高等部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

丹沢山地の標高1,000m以上に分布するブナ林の衰退状況を把握し、その要因について地形学的、気候学的に明らかにすることを目的に調査した。調査は現地踏査、植生調査および1960年代から現在までの空中写真の判読である。調査対象地域はおもに丹沢山地の畔ケ丸-大室山-蛭ケ岳-丹沢山-塔ノ岳の主稜線部である。調査の結果、おもに西向き・南向き斜面でブナの枯損・枯死が多く、風の通り道となる鞍部でも顕著であった。この西向き・南向き斜面には主稜線部でササ草原が多いことが判読され、この周辺においてもブナの枯損・枯死が多くみられた。冬季の踏査では、ブナの枯損・枯死がまとまってみられる場所や西向き・南向きのササ草原で相対的に積雪量が少ない、または積雪がほとんどないことが明らかになった。空中写真により1960年代から現在までのブナ林周辺の植生変化を判読すると、かつてはブナ林であったと推測される落葉広葉樹林が西向き・南向き斜面で減少し、ササ草原が拡大していることが明らかとなった。丹沢山地玄倉川流域の主稜線部では、現在でも崩壊地が多く分布し、崩壊地の谷頭はササ草原になっていることが多かった。このような崩壊地の谷頭でブナの枯損・枯死がみられる。崩壊地の谷頭では風が集まるため相対的に強風になることが多かった。丹沢山地の風向分布は、冬季は季節風由来の西風が多く、ササ草原上の偏形樹も西風を示していた。夏季は南風が卓越していた。現在、主稜線部でブナが立ち枯れている南西向き斜面と健全なブナ林が広がる北東向き斜面において年間の気温をデータロガーによって観測中である。現地踏査では、ブナハバチによるブナの葉の食害が5月を中心に多く見られ、この食害が西向き・南向きの風衝地側で多いことが認められた。食害に遭っているブナでも風上側の北または東側のブナの葉は健全である。
著者
冨永 佐登美
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

原爆投下より65年、被爆体験者が高齢化し数を減らすなか、さまざまな形でその体験を次世代へ受け継こうという試みがさかんにおこなわれている。しかし、一方では「被爆体験の風化」という表現が、被爆地・長崎においても現実として認識されつつある。つまり、さまざまな試みにもかかわらず伝え/受け継ぎきれていないという実感が継承の現場に生じている。この試みと現実との差異にはどのような問題が内包されているのか、そしてそれを克服するための手がかりはどこにあるのかを、活動における〈語り〉の分析を通して考察することが本研究の目的である。平成22年度は、継承の試みをおこなっているグループへのインタビューを中心に研究を進めた。具体的には、長崎をはじめ、同じく20世紀の戦争の記憶の継承に取り組んでいる沖縄、東京、広島において「戦争の記憶を語る」非体験者の活動を見学し、インタビューをおこなった。長崎においては、しばしば代表的な継承活動として取り上げられる〈平和案内人〉と、〈平和案内人〉のなかから別の組織を立ち上げ、違う方法を模索している〈ピースバトンナガサキ〉の活動に継続的に同行し、活動における語りとインタビューの収集を続けている。結果、〈平和案内人〉が、被爆体験者の体験講話と比較しての「語りの不可能性」を常に意識していること、〈ピースバトンナガサキ〉は、不可能性の認識から出発しつつ、目的を「より伝わる平和案内人活動」に置いていることが明らかになった。一方で、ピースガイドとも呼ばれるように、〈平和案内人〉の活動は、観光産業からは安価で手軽なボランティアガイドとしての役割が期待されていることもわかってきた。この観光産業との親和性の高さは、沖縄や広島においても活動実践者から指摘されている。今後は、観光産業との親和性が「継承」者意識にいかなる影響を与えているかも考察していく予定である。
著者
高瀬 えりか
出版者
京都コンピュータ学院
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

研究の背景現在の情報教育において,プログラミング初心者が最初に学ぶプログラミング言語はC言語やJavaが主流である。これらの言語は英語圏の国で開発された言語で,日本語のネイティブスピーカーにとっては馴染みにくい。また,一つのソフトウェアを作成するためには膨大は技術習得時間・作品制作時間を必要としてしる。日本語プログラミング「ドリトル」は、中高生やプログラミング初心者向けの教育用プログラミング言語で、下記のような特徴がある。(1)日本語でプログラミング出来る(2)GUIの開発が簡単である(3)ゲーム作成やロボット制御プログラミングを比較的簡単に行える(4)インスタンスベースのオブジェクト指向言語であるこの言語を用いて、「複数のチームが小型飛行船をラジコン制御するためのソフトウェアを開発したうえで相撲競技(1対1で飛行船を対戦させることを行い勝負する」ことを指南する教材を教材を開発した。※相撲競技とは、情報処理学会主催の組込みシステムシンポジウム内で開催されている、MDDロボットチャレンジにて行われているエキシビション競技である。この競技が生徒の意欲的学習を促すのではないかと考え、研究に取り入れた。教材概要ハードウェアは、基地局PC、地上MPU (Micro Processing Unit)、2つ合わせて地上局とする。このPCからの入力を地上MPUを通し、無線で機体搭載MPUに送信する。飛行船はバルーンと、機体搭載MPUから成っている。無線で入力を受けると、機体搭載MPUに取り付けられたプロペラが回転し、飛行船が動作する。飛行船の浮力はヘリウムガスによって得て浮る。上昇・下降・前進や旋回の動作はプロペラによって行う。実際の授業では、飛行船を操作よるためのハードウェア環境は既に用意しておき、生徒が直接手を加えて改造するなどしないことを前提とした。本システムの飛行船制御用ソフトウェアは、ドリトルで作成した。実行画面では動作を入力はるためのボタンが配置され、ボタンをマウスでクリックすることで飛行船を操作できる。生徒には、このソフトウェアに手を加えることで、相撲競技で対戦するゲームに勝つための開発をさせる。