著者
大城 稔
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

○研究目的と方法:リーシュマニア症は、10種類以上の病原性リーシュマニア原虫に起因し、感染原虫種の判別は治療方針の選択に重要である。国内では、沖縄県出身者の多い中南米を含む外国からの輸入感染症として問題となっている。最近我々は、患部組織から原虫cytochrome b遺伝子をPCR増幅し塩基配列を決定することで、原虫種を迅速に判別する方法を世界に先駆けて確立した。本研究では、(1)この方法を用いて中南米諸国の患者の病原原虫種を判別し、その地理分布を把握すること、(2)帰国・入国者が発症した際に病原原虫の種を判別して治療方針決定に役立て、地理的分布との整合性を検証することで中南米からの輸入感染症対策の一助とすることを目的とした。○研究成果:(1)これまでに、アルゼンチンおよびエクアドルでリーシュマニア症の症状を呈した患者のうち、それぞれ18例および14例について患部より原虫cytochrome b遺伝子をPCR増幅により検出し、検出例について塩基配列の決定と、すでに蓄積した10種類以上の病原性原虫標準株の塩基配列との比較による原虫種の解析を終えている。原虫種としては両国ともL.(V.)braziliensisが一位を占めL.(V.)guyanensisがそれに続く頻度を示したが、驚いたことに、これまでWHOのコレクションにもない新種と思われる原虫種が全症例中2割近くに見出された。これはエクアドルで特に多く、L.(V.)braziliensisとL.(V.)guyanensisの中間型とも考えられ、今後の大きな課題である。一方、(2)国内各地から輸入リーシュマニア症疑いの症例が紹介され、関東の症例はL.(L.)mexicanaと診断したが、東海地方の2例は原虫陰性であった。また、イラクに駐屯していた自衛隊員の症例も陰性と診断した。
著者
宮本 乙女
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

1.研究目的:ダンス領域で成果を上げてきた「主体的なダンス学習場面としてのグループ活動」を柔道の学習にも当てはめながら、2つの領域における有効な「活用-探究」の学びについて考察した。2.研究方法:お茶の水女子大学附属中学校の中学2年生の柔道全14時間、ダンス全14時間を対象とした。柔道「大外刈り」ダンス「序破急」のグループ活動を精緻に分析した。技能指導においては専門家の知見も得て「活用-探究場面」を意識した学習指導を実践した。学習者の活動は、授業全体、および生徒のグループ活動をVTR撮影した。教師行動は、発話記録とVTR撮影で記録した。学習者に対する毎時間の形成的授業評価の調査を行った。分析は高橋健夫らの研究に基づいて行った。3.研究成果:形成的授業評価と期間記録により、柔道もダンスも評価の高い授業と認められた。専門家の観察により、技能的な成果も十分であると認められた。抽出授業におけるグループ活動は、柔道、ダンスとも、身体活動を伴いながら行われ、教師のかかわりは頻繁であった。柔道では、学習者の発話を拾いながら多様な視点からひとつの方向の原則原理に導くような問いがかけられ、教師が後押しした意見が最終発表内容に生かされている場合が多かった。肯定的フィードバックが矯正的フィードバックの2倍であった。ダンスでは、極限をひきだしつつ各グループを多様な方向に広げる問いや、特に矯正的、肯定的フィードバックが半数ずつ行われていた。指導者の専門種目であるダンスの方が助言は具体的であった。共通課題から多様に広げる方向を持ったダンスと、技能を集約して身につける柔道、どちらも、技能のポイントを教師から教えるだけでなく、学習者が探究する活動を保証し、発表しあい、多様な視点を認めていく指導により、満足感と上達のある学習になると推測できる。
著者
古賀 沙絵子
出版者
明光学園中学校・高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

1.研究目的本研究は、卓上実験(マクロな視点)と分子運動のアニメーション(ミクロな視点)を連動させてリアルタイム表示できるバーチャルラボラトリーを開発することを目的とする。2.研究方法(1)気体の状態変化実験装置の作成200mlの注射器内に高度計測センサーを取り付け、気体の温度と圧力を測定できるようにした。またセンサーのコードは注射器の先端から取り出せるようにし、電子計測装置と接続した。(2)バーチャルラボラトリーの作成(1)の卓上実験装置から得られる圧力データと温度データとを電子計測装置を用いてデジタル化し、実験用ノートPCに取り込んだ。実験データから分子の運動をリアルタイムに表示できるシミュレーションプログラム(バーチャルラボラトリー)を作成した。(3)授業実践と評価今後、これまで行ってきた卓上実験と分子運動のアニメーションを別々に用いる授業と、二つをリアルタイムに連動させて表示するバーチャルラボラトリーを用いる授業を行う予定である。そして作成したバーチャルラボラトリーの有効性を評価し、その結果に基づいたバーチャルラボラトリーの改良を検討する。3.研究成果本研究によって、シリンダー中の気体というマクロな視点と、分子運動というミクロな視点をつなぎ、気体の圧力・温度・体積の関係などの熱力学的理解を促進できる教育システムを開発することができた。本教育システムを活用することは、生徒が熱力学現象に興味を持ち、エネルギー概念を身につけるという教育的意義を有するものである。
著者
杉田 茂樹
出版者
小樽商科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

○研究目的極めて大量の科学論文を掲載する無料の電子ジャーナル(以下、「OAメガジャーナル」という。)の急成長が学術出版関係者の注目を集めている。本研究は、OAメガジャーナルの全般的特質とそれが科学文献流通において占める位置と影響を明らかにすることを目的とした。○研究方法標準的学術雑誌引用情報索引による各OAメガジャーナルの論文出版状況,インパクトファクター等の調査、国際図書館コンソーシアム連合年次会議等における情報収集を踏まえ、OAメガジャーナルの投稿規程や編集方針、刊行元出版社・学会の報告書類、関連論文などを中心に文献調査を行った。○研究成果、代表的OAメガジャーナルである、PLoS ONE (PUBLIC LIBRARY of SCIENCE刊行)の成長要因として、別の高品質誌でPLoSが培ってきたブランド力、草創期の高インパクトファクター、査読プロセスの簡略化に伴う出版スピード、比較的安価な論文出版加工料(Article Processing Charge)設定などが挙げられる。PLoS ONE以外で同様の簡略査読方式を採用する学術誌は約10誌存在し、「メガ」と称すべき成長はまだ見られない。また、OAメガジャーナルへのさらなる論文集中のメカニズムとして、・別の学術雑誌でリジェクトされた論文を、著者の希望があれば受け皿としてのOAメガジャーナルに掲載するモデル(カスケード査読)は学術出版全体に広まりつつあり、ひとつの出版社の内部だけでなく、複数学会誌間の投稿論文転送もはじまっている。一方、論文出版加工料でなく個人会員制や機関会員制をとる簡略査読誌もあらわれ、OA出版の多様化がさらに進みつつあることがうかがわれた。
著者
平岡 昌樹
出版者
大阪市立生野特別支援学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

学生が指導を受けた2,3校の特別支援学校の体験内容を時系列でまとめたもの事例研究はあるが,特別支援学校で介護等体験の体験内容を類型化した研究は管見の限りほとんどない。本研究では,特別支援学校でどのような体験内容・学習内容が設定されているかを全国的にまとめ,その傾向等を分析する。また,受け入れ担当者が,体験内容や指導する学生,送り手である大学に対して抱く意識や特徴を明らかにする。全国の特別支援学校1049校(平成23年5月1日現在)から,「平成23年度全国特別支援学校実態調査(全国特別支援学校長会)」を使用し367校を無作為抽出し,サンプリング調査を実施した。調査は郵送による質問紙法によって実施した。質問紙並びに依頼文を抽出校に郵送し、「介護等体験を主として担当する方」に記入を依頼した。アンケートを送付した367校の内,計283校から回答を得た(回収率77.1%)。回答を得た特別支援学校の障害種別は,知的障害115校(44.1%),肢体不自由障害33校(12.6%),視覚障害16校(6.1%),聴覚障害20校(7,7%),病弱障害11校(4.2%),知肢併置校43校(16.5%),その他併置校23校(8.8%)であった。受け入れ学生が最も多かった学校は466人(東京都)であった。全国平均は72.0人であった。都道府県別に調査すると,最も多いのは東京都で平均252.9人,次いで京都153.0人,愛知150.8人,奈良148.0人,広島130.7人,大阪1252人となっており,首都圏や中京圏,近畿圏といった大学数の多い都府県であることが推測できる。体験の内容の結果から,ほとんどの学校で「児童生徒との交流」「授業の補助」など学生が子どもたちとできるだけ多くの時間過ごせるように工夫していた。また,「障害についての説明」など学生の障害理解,障害児教育の意識向上に資する目的の学習内容が設定されていた。介護等体験実施からすでに15年近い時が立ち,特別支援学校の学生の受け入れ体制が確立してきているようである。「体験内容の改善の必要性」を感じているという学校は,調査対象校の2割弱に過ぎなかった。「介護等体験は教員になった時に役立つか」といった体験の効果についての項目においても,「そう思う」という回答が8割以上であり,介護等体験が学生に効果があるという回答を得た。一方で,「学生の姿勢・マナー」や「大学側の事前指導」に対する要望がおよそ半数の学校からあげられた。
著者
玉木 宏樹
出版者
島根大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

【研究目的】サリドマイド(Tha)は多発性骨髄腫の適応で国内承認されたほか,種々の悪性腫瘍で有効性が報告されている.内分泌療法抵抗性前立腺癌においてもドセタキセル(DTX)との併用により臨床的有用性を示したとの報告があるが,その基礎的検討は十分に行われていない.そこで,ヒト前立腺癌細胞を用い,Tha単独あるいはDTXとの併用時における抗腫瘍効果について検討した.【研究方法】ヒト前立腺癌細胞は,アンドロゲン非依存性細胞株(PC-3)を用いた.PC-3は常法に従い継代培養し実験に用いた.PC-3を96穴プレートに播種後24hr培養し,Tha,DTXを単独あるいは併用にて一定時間曝露した.細胞生存率を蛍光ホモジニアス法を用いて測定し,種々の条件における抗腫瘍効果を比較した.【研究成果】1.Tha単独曝露:Thaの抗腫瘍効果は濃度・時間に非依存的であり,Tha 10μMにおける72hr曝露後の細胞生存率は約80%であった.2.DTX単独曝露:濃度・時間依存的に細胞生存率の低下を認め,DTX 10nMにおける24hrおよび72hr曝露後の細胞生存率は約60%および約40%であった.3.Tha前曝露後のTha/DTX併用曝露:DTX 10nM単独曝露群と比較して,DTX曝露期間中のみTha 10μMを併用した群では約10%,DTX曝露72hr前からThaを曝露した群では約30%,さらにDTX曝露期間中にもThaを併用した群では約50%の細胞生存率の低下を認め,Thaの前曝露およびDTXとの併用により抗腫瘍効果の増強が示された.これはThaのDTXとの併用における臨床的有用性を支持するものであった.また,DTX耐性PC-3を作製し,耐性化細胞におけるTha併用の有用性およびTha併用による抗腫瘍効果の増強メカニズムについて検討を行っている.
著者
多々良 穣
出版者
東北学院榴ケ岡高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

世界史の授業では、暗記を重要視しがちである。試験で高得点をとらなければならない面は否定しないが、暗記に偏れば無味乾燥な授業になってしまう。しかし、なぜ教科書に書いてあるのか、どのように歴史像にたどり着いたのかについてのエピソードを盛り込むと、生徒たちの目の輝きが違う。古代文字に焦点を当てていかに高校生の関心を引き出し、彼らの歴史理解を向上させる授業を研究するのが、本研究の目的である。概説書を精読して、文字発見のエピソード、文字解読方法、文字解読による歴史(社会)の復元などをまとめた。文字が初めにこの世に誕生したのは、紀元前3500年頃に発明された楔形文字であった。世界の文字体系は、楔形文字・ヒエログリフ文字・アルファベット・漢字体系などに大別されるが、本研究では楔形文字、エジプト神聖文字、線文字B、甲骨文字、そしてマヤ文字について整理した。実際の授業で生徒が関心を持ったのは、次の事項であった。(1)楔形文字に関して、ローリンソンが命をかけて絶壁あるベヒストゥーン碑文を拓本したエピソード。やはり冒険ものは、生徒たちには面白く感じられたようである。(2)エジプト神聖文字の解読において、シャンポリオンが「プトレマイオス」と「クレオパトラ」の文字を比較し、アルファベットの音価を確定して「ラムセス」と「トトメス」という王名を解読した事例。これについては非常に具体的な言語学の話に踏み込むことができた。(3)現在話題になっている「2012」問題に絡めて説明した、マヤ文字や暦の読み方。マヤの長期暦があと2年後に循環してスタートに戻るという話には、非常に興味深く聞き入っていた。なお、私の専門である古代マヤ文明については、正しく文字解読されたことで、これまで雨の神だとされていたものが山の怪物であることがわかった。このことは本研究の成果の一つであり、後述する学術雑誌のほかに研究会やシンポジウムで発表する予定である。
著者
柴田 幹
出版者
富山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は太陽追尾制御をベースにした高効率太陽光発電システムを目指すものである。天空輝度測定機能をもつ光センサ(5PD光センサ)を用いて最適発電方位を自動追尾させるため以下の基礎実験及び装置試作を行った。1.太陽からの直接光が多い晴れの日と間接光(散乱光)が多い曇りの日に軌道計算による太陽方位を追尾した場合と5PD光センサを使った追尾での比較実験を屋外で行った。晴れの日では二つの追尾方式に大きな差は無かった事から5PD光センサによる自動追尾が正常に機能している事が確認できた。曇りの日では太陽軌道追尾より5PD光センサによる自動追尾が発電量の多い事が確認された。このことから5PD光センサによる自動追尾が日照条や天候の変化に影響されず最大発電方位を追尾できる事が確認された。2.遠隔操作可能な観測システムの開発を目指して以下の装置を製作した。方位角(θ)、仰角(φ)駆動できるステージに5PD光センサを取り付けた可動型5PD光センサユニットを試作した。この可動型5PD光センサユニットに制御用パソコンを接続し、Microsoft Windowsのリモートデスクトップ機能を利用してネットワーク上のパソコンから遠隔操作を実現するものである。本研究で製作した可動型5PD光センサユニットの動作試験を行い、正常に動作することを確認した。今後、ネットワーク上から遠隔操作するためのプログラム開発及び実際のネットワーク環境での動作試験が必要である。
著者
三島 貴雄
出版者
独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では宋代美術のうち、元照(1048~1116)の思想を元に作成された元照系統の観経変、特に長香寺と阿弥陀寺所蔵の重要文化財「観経十六観変相図」と、元照『観無量寿経義疏』及び関連著作との比較検討を行った。(1)元照系観経変について当麻曼茶羅や敦煌の観経変、十六観図との比較を通じて、元照系観経変は従来の観経変の作例を参考に作られているものの、十六観図のうち第一日観と第五池観にはそれまでの作例とは異なる特徴が見られることが判明した。この特徴から、新たに折本装の知恩院蔵「紅紙金字十六観経」一帖(高麗時代末~李朝時代)が元照系統の図像の影響を受けて成立したものであることが明らかとなった。また、同じく折本装の「大智律師禅観図」(明~清時代)のような作例もあり、これまでは観経変形式のものが注目されてきたが、それ以外にも元照系統の図像が流布し、用いられていたことが分かった。(2)「観経十六観変相図」について「観経十六観変相図」の図像については、元照の解釈にほぼ忠実であることが再確認された。他の系統の観経変に見られない図像として、日観の横の雲に乗った章提希の描写があり、韋提希を菩薩と解釈する元照の思想を反映したものと考えられる。対して、全体の構成に注目すると第七観の配置と題記は元照の解釈とは異なり、唐の善導(613~681)の解釈に近いものであることから、「観経十六観変相図」の作成にあたっては、善導系統の観経変が参考にされた可能性も高い。(3)今後の課題現存作例から考えると、朝鮮半島において元照系統の図像を用いた作例が多く作られたと推測出来るが、朝鮮半島の元照系統の観経変には『無量寿経』に基づく描写や、元照の解釈からは離れた描写などが付加されていることが確認された。朝鮮半島における元照の思想や観経変の図像の受容については今後の課題である。
著者
杉本 陽子
出版者
飯塚市立飯塚小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

1.研究目的:通常の学級に在籍する漢字の読み書きに困難のある児童に対して,個々のつまずきに応じて継続的な支援を行うために,一斉指導の中で展開できる新出漢字の指導法を研究開発する。2.研究方法:小学校1年生で学習する新出漢字の指導を効果的に進める「指導プログラム」と指導に活用する「支援教具」を作成し,これらを活用して在籍校及び協力校で実践を行った。対象児童の学習の様子や漢字の定着度,他の児童への効果を明らかにして指導プログラムや支援教具の有効性,活用のしやすさを検証した。3.研究成果:『指導プログラム』には,読みの先行学習,ゲーム感覚で楽しく学習に取り組む活動や体全体を使って漢字を表現する活動,スモールステップのプリント学習などが含まれている。支援教具は,『イラスト付き漢字カード』『漢字カードゲーム』『漢字のにんにん体操』『大型筆順パネル』など11種類を開発活用した。その結果,漢字を覚えることが難しかった児童は,漢字クイズやゲームに夢中になりながら漢字を繰り返し見て聞いて声に出して読むうちに,読みを確かにしていくことができた。また,イラスト付きカードの絵と文字を一緒にして覚えると記憶がスムーズで,「漢字が読めるよ。わかるよ。」と嬉しそうに言って,進んで読みの練習をするようになった。書くことが苦手な児童は,漢字のにんにん体操で書き順を確かめ,体操の歌を唱えながら体で覚える方法がお気に入りの学習になった。忍者になりきって「にんにん体操,よこぼう。」と大きな声を出して学習に参加していた。読みについては対象児全員がそれぞれの目標を達成できた。書きについては,正確に覚えていない文字がある児童もいるが,どの子も全く書けない漢字はなかった。担任からは,「指導の順番や方法が提案されていたので対象児に見通しを持って支援を行うことができた」「学習面で厳しい子どもにとっても無理なく漢字を覚えることができ自信につながった」などの感想があった。年度末の定着度テストでは,研究参加校(193名)の誤答率は読み2%書き4%に対して,他校(219名)は読み4%書き7%であった。読み書き全てにおいて研究参加校の正答率が高かったことからも,指導方法や指導の順序を具体的に示した指導プログラムとその際に活用した支援教具は有効であったと考える。4.今後課題:開発した支援プログラムや支援教具は,一斉指導でより活用しやすくなるよう改良すると共に,機会を捉えて本研究の成果を発表し,多くの教師との意見交換を行いたい。
著者
三浦 さやか
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

【研究目的】組織内で既に運用している(学術ポータルなどの)認証システムを活用し、フリーのOSソフトウェアをベースにストレージサービスの構築を目指す。これを達成することにより、大容量の機密データをセキュアで安価なシステムで取り扱うことが可能となる。【研究方法】フリーのOSソフトウェアやアプリケーションの組み合わせで、既に運用している認証システムと連携させる方法を考える。例えば、ファイルダウンロード権利を与えようとする者にパスワードをメール送信するサービスは既にあるが、ファイルのアップロード・ダウンロード時にもActive Directoryなどの認証を利用できるサービスはまだない。【研究成果】PHPでActive Directoryサーバに認証問い合わせをし、正規ユーザがメイン画面で送信先や送信ファイルを指定できるプログラムを作成した。送信ファイルはサーバにアップロードされ、ファイル保存先が相手先に通知されるシステムである。プログラムのセキュリティを向上させた後、試験運用を開始する予定である。
著者
太田 諭之
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

DTM(DeskTop Music)は,MIDI(Musical Instrument Digital Interface)によってコンピュータに音程(音高),音の長さ,音の大きさをユーザが指定して入力することにより音が発音され,曲を演奏する仕組みである。このDTMで楽曲を演奏させヴァイオリンの演奏者と合奏する事によりヴァイオリンの演奏者は定まった音程とリズムを習得することがより容易になるのではないかと考え,DTMを用いた演奏支援を提案した.ある楽曲をMIDIで演奏させた音と本物のヴァイオリンの音のFFT解析を行い,音の違いを調べた.実際の楽器G(ソ;開放弦)を弾いた波形は,スペクトログラム上の解析によりMIDI音源のヴァイオリン音に比べて倍音がより多く出ていて,音色が豊かである事が分かった.ヴァイオリンの個人レッスンを受けて1年の筆者(2010年04月現在)は,過去に一度も演奏していない楽曲をDTMで演奏させ,一通り聴いてパソコンの演奏と合わせた時とDTMを全く用いない練習において楽曲の演奏の習熟度に違いが見られるか実験を行った.録音機と再生機(ヘッドフォン)は,音楽業界でモニタとして使用される事が多い機器を使用し,音質に考慮した.それにより,実際の楽器とMIDIで発せられた楽器音を,厳密に比較し練習の際に注意すべき点と活用できる点を調べた.MIDIを用いた時と用いないときのヴァイオリン奏者の演奏を,短い曲で一フレーズを弾き,音程をFFTで分析する.又,テンポをMIDIの演奏とずれていないか,FFT解析を利用してチェックした.実験結果は,MIDIの伴奏及び主旋律の演奏支援に並行して,練習の回数を重ねていくと音程とテンポの改善が見られた.模範演奏を1回演奏前に聴くとテンポの間違いが少なくなった.音程の高低を録音で聴き直すと改めてよく分かり次回の練習の課題とした.更に,演奏時にピアノの伴奏が有ると,音をイメージしやすくて楽器を弾きやすく音程とテンポの乱れが,伴奏なしの練習よりも改善された.一方で,シーケンスソフト(パソコンで楽譜を表示させるソフト)を用いるときは,通常の楽譜に記載されている強弱記号や発想記号などが表示されないので練習する際,注意が必要である.今回の実験に対する,プロヴァイオリニストニストのご意見を頂戴した.「初心者の演奏者には使用できる方法ではないか」とのことです.今後,筆者はこのDTMを用いた演奏家支援でアマチュア・オーケストラでの楽曲演奏に応用できるか引き続き,検証を行っていく予定である.
著者
小笠原 正幸
出版者
宇都宮大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

リンゴでは,伐採跡地に植えた苗木の生育は劣り,樹冠の拡大が悪いため思うように園地を充実できないことが多い.本研究では,改植障害を回避し樹勢をコンパクトに生育させ,省力的で高品質な果実生産のできる新たな栽培技術の可能性を検討した.供試品種は'ふじ'とし,伐根後定植5年目の地植区,伐根後植穴に遮根シートを埋設した定植5年目の遮根区,伐採後伐根はせず株間の中間に植穴を掘り,そこに不織布ポットを埋設した定植4年目の不織布区を設けた.調査方法は,生育特性,生育中の果実品質,収穫果の果実品質,収量,剪定時間および剪定枝重を調査した.生育特性についてみると満開時期は遮根区・不織布区で4月22日,地植区で4月24日,収穫時期は遮根区・不織布区とも満開後202日目,地植区においては満開後204日目であった.生育中の果実についてみると,果色は遮根区が優れた.収穫果実についてみると,硬度は遮根区で14.4ポンドと高かった.糖度は全処理区において15.3%前後,酸度においては,遮根区で0.227%と低かった.収量,剪定時間および剪定枝重についてみると,総収量は地植区で37.3kg,遮根区で22.9kgおよび不織布区では19.4kgとなったが,上物率からみると地植区で94%,不織布区で71%および遮根区50%と地植区が優れた.剪定枝生体重は不織布区で2,767gと多く,遮根区では140gと少なかった.剪定時間は地植区で19分24秒,遮根区で13分37秒と短くなった.以上の結果から地植区と比較すると,遮根区は遮根により根の伸長が抑制され,新梢長の早期停止による葉数の減少と葉面積の減少が着色を向上させたと思われる.不織布区はポットの側面は根が貫通する不織布のためか,地植区と同等の果実品質を示しており,樹勢の衰弱もなかった.以上のことから,根域の違いの影響は地上部の生育に顕著に現れたためであり,今後更なる検討を行い,本農場リンゴ園における改植更新からの早期成園化の適切な技術を明らかにして行く予定である.
著者
丹松 美由紀
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

理科実験に対して敷居の高さを感じている小学校教員を対象として,科学や実験に対する苦手意識の克服プログラムの開発を目的に,小学校教員対象講習会(教員向け出前おもしろ実験室)を計画・実施・評価した.これまでの知見から,休日またはわざわざ出向く形での事業に参加者を募ることは難しいことが察せられた.そこで,できるだけ多くの教員が参加しやすいように次のようなプログラムで実施した.1.すでに開発済みの小学生対象の「出前おもしろ実験室」を開催した.2.「出前おもしろ実験室」終了後(放課後),小学校教員に対して(1)気軽にでき,(2)教科書への導入につながる実験を指導し解説する講習会を実施した.3.開催前には,教員の意識と希望調査を行ない,開催後はアンケートを実施した.4.アンケート結果や,県内外の科学・技術館などと交流し情報収集することにより,開催方法,内容などを随時見直し,より効果的なものとなるよう改良しながらいくつかの形式で実施した.(1)グループ別研修:事前に希望する分野の調査を行い,それに沿った実験を指導した.実施回数2回参加人数24名(2)全員研修:準備した実験と部外講師による講義を行った.実施回数1回参加人数25名(3)他事業との共同企画:実施回数2回参加人数20名総計69名の小学校教員を対象として講習会を開催することができ,事後アンケートの結果によると,大方の参加者から高い評価を得ている.子どもを対象とした「出前おもしろ実験室」とリンクさせることで効果的なプログラムを構築できた.この研究を通して,予想以上に実験を苦手とする教員が多く,小学校教員の理科実験離れが深刻であると感じている.やらなければいけないという義務感ではなく,やってみると楽しいという意識をもつことが教員にも必要であるという知見を得た.このような活動は何より継続することで大きな効果が得られる.今後も本研究と実践を通じて,いろいろな理科授業のかたちを提案し,小学校の理科授業における実験不足を補うことに寄与できるものと期待する.
著者
田中 永美
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

近年、科学離れと同様に、ものづくり離れが社会問題となっている。ものづくり教育を推進するには、学生や若者が、それまでどのようなものづくりの環境に触れて育ってきているかが重要である。本研究の目的は、インストラクショナルデザインの手法を取り入れ、科学教育の入り口にある小学生を対象に、ものづくり体験教材を企画し、開発を行うことである。インストラクショナルデザインプロセスに基づき、以下のように、計画、実施した。(1)ニーズ調査・初期分析(Analyze)学習対象者を、石川県羽咋市少年少女発明クラブ(小学3~4年生対象、31名)とし、7月にアンケート調査を実施した。(アンケート回答者20名)小学理科での実験用工作がそのまま電子工作の経験となる事例が多かった。また、自宅で電子工作を行ったことがある児童は1名であった。実施希望の最も多かった光る工作について教材を企画、開発することにした。(2)設計(Design)、開発(Development)小学理科の電気の単元で学ぶ目標の一つである、電気の通り道が理解できることを本教材の学習目標とした。実施時期が12月中旬であったため、テーマを「クリスマス」とし、照明用として多用されるようになったLEDを取り上げることにした。(3)実装・実施(Implement)羽咋市少年少女発明クラブの12月月例活動として、ものづくり体験教室「クリスマス電子工作」を実施した。(平成21年12月19日(土)13時30分~15時30分、参加者25名)(4)評価(Evaluate)ものづくり体験教室を実施後、アンケート調査を実施した。設定した学習目標は96%が達成した。得られた経過と成果を、平成21年度実験実習技術研究会(平成22年3月5日:琉球大学)に発表した。平成22年12月18日に同様のものづくり体験教室を継続実施予定である。
著者
山本 和雄
出版者
岡山市立岡山後楽館高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

1研究目的(1)郷土出身の文学者坪田譲治を媒体として高校教育において生徒に<郷土への愛着>を育成し、現在の自分と地域との関わりを考えさせ、学習者個々人の<郷土愛と郷土理解>を深めさせる。(2)<地域文化の伝承>を啓蒙し、<生涯学習>の場での応用活用を模索する。(3)坪田譲治周辺の<地域文化資源>についても調査・発掘し、記録する。2研究方法(1)市民講座「坪田譲治研究」、公開市民講座、授業、文芸部活動の連携・融合をはかった。(2)岡山市立の図書館2館と連携し、生涯学習施設での公開講座を実施した。(10.24-土,11.1-日,11.22-日,11.29-日-うち、10月24日は、新型インフルエンザ流行のため中止とした。)(3)岡山市主宰の「岡山文学フェスティバル」に協力した。とくにノートルダム清心女子大学教授山根知子氏の企画に協力し、譲治実家の現在の当主である坪田醇氏への取材を行い、具体的資料が残されていない生家の家屋・庭などについて、建築模型としての復元に尽力した。また、高校教育と大学教育との連携を視野に入れ、模型製作の依頼先として岡山県立岡山工業高等学校建築科科長三好教諭を紹介し、工業高等学校長の許可のもと、建築科生徒による模型製作を実現した。この成果は、坪田譲治生誕120年を記念して行われる清心女子大学と岡山市との共催行事で発表された。(新聞記事参照)(4)夏季休暇を利用して東京に譲治子息坪田理基男氏を訪ね、取材した。また、譲治著作物の使用についても許可をいただいた。取材後、国立国会図書館で資料調査を行った。3研究成果(1)市民講座での作品研究で、今日まで指摘されていない点が明らかになった。具体例として、キリスト教関係の雑誌に発表しながらも仏典からの引用がある作品での、仏典の出典が「親鸞」の著述であることが明確になった。また、従来作品の舞台は郷里岡山が多いと漠然と考えられていたが、作中の植物の科学的分布状況から推測して、必ずしも岡山が舞台となっていない作品群が最初期に存在することが判明した。これらの事柄は、高校での授業で即時的に活用した。(2)国立国会図書館の調査において、公の記録から漏れている作品の存在が多数確認された。その位置づけ、評価については今後の課題としたい。(3)坪田理基男氏、坪田醇氏の取材を通して、人間坪田譲治の一面を知ることができた。今後の教材開発に活用できればと考える。同時に、<郷土の先人>としての譲治に対して一般市民・高校生が親近感を覚えるものとして利用できればと思っている。さらに、生家の模型の完成は、譲治の作品世界をより具体的に知る契機となるものである。
著者
HORTON William・B
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

第2次世界大戦の終戦日は、インドネシアにとって独立戦争という新たな戦いの始まりの日であり、インドネシアで半生を送った熊本県出身の復帰邦人アブドラ・ラフマン・イチキ(市来竜男)にとっては、祖国日本と決別し第2の祖国インドネシアの独立戦争に本格的に身を投じた時期でもあった。その後、市来は1949年1月9日オランダ軍の銃弾に倒れ、東部ジャワ島ダンピット村で42年の人生の幕を閉じた。当研究の目的は、民間人市来が、なぜ戦後の早い時期からオランダから追跡されなければならなかったのか、なぜインドネシア国軍との連携が図れたのかを解明することであった。調査は、市来および独立に関わった日本人に関する戦前から戦後に至るインドネシア及び和蘭の史・資料を収集し読み解くことが中心となり、オランダ国立公文書館三館所蔵の公文書収集調査、早稲田大学中央図書館で当時の文献資料収集調査を行った。公文書および当時の文献から、戦前インドネシアに渡った日本人市来が、「異国」で身につけたのは単にインドネシア語という言語だけではなく、人類学的な意味の「文化」をも身につけ、将に身も心も「インドネシア人」アブドラ・ラフマン・イチキとして独立を希求していたことが理解できた。その長けた言語能力を高く評価した日本軍は、インドネシア防衛義勇軍の教科書の翻訳および訓練に係わらせていくが、一方、市来は軍事訓練を通じインドネシアの独立達成への道を見出し、後日インドネシア国軍と変容していく防衛義勇軍と深くかかわったことが理解できた。民間人でありながら、その言語能力のため日本軍上層部とも深く係わり、そのため戦後戦犯裁判に向けオランダが、日本軍部を追及していく中、市来の情報も収集していったようだ。戦争に関する研究は、その時代に生きた人々をとかく単一的に扱われることが多いが、当研究を通じ、戦前からの邦人移民にとっては、単に国籍のある国が祖国というわけではなく、戦争を契機に身の振り方、ナショナル・アイデンティティーが高まることを詳らかにできたことに意義がある。戦争を通じての邦人移民の多様な身の処し方は、米国の日系邦人の研究では幾分明らかにされてはいるものの、アジアの邦人移民に関しては今後さらなる研究が期待され、そのことは、現在の政治化した言説にも見られる単純な2項率からなる戦争の歴史観を再構することに大いに貢献すると考えられる。
著者
工藤 哲夫
出版者
東京学芸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

1. 「話し合いの図解(ファシリテーショングラフィック)」の方法企業において合意形成活動のために開発された「ファシリテーション」では、自由度を高めることで、さまざまな可能性を探るのであるが、学校の授業現場においては、学習指導と生活指導において制約されることがある。「(1)一定の時間内に仕上げること。(2)全員が参加すること。(3)模造紙には関係のあることのみ書かせること。」などである。そのために、ファシリテーションにより話し合いの過程を模造紙に書く際に、ある程度細かい指示を与える必要があることが分かった。以下のように集約される(1) 学習活動(話し合いの手順)○ 個人で意見をまとめる1.今の自分の考えを書く。○ 話合い(話合いの過程を「見える化」する。原則として模造紙一枚使用。最初から最後までの全員の考えが見えるのであれば、一枚を超えても構わない。)2.司会者と記録者を決める。一人が兼ねてもよい。3.左側に全員の考えを書く。未完成の場合でも、そのまま書く。(個人の意見は尊重する。)4.話合いで班の結論をつくるために、話合いの様子を書く。5.時間短縮のため、余計なこと・絵はかかない。氏名は姓名またはイニシャルを使う。○ 発表(模造紙を黒板に貼って、発表する。発表者は原則的に一名。)6.班の話合いの過程と結論をはぐっきりと「見える化」するように発表する。7.質問を受ける。(発表班の誰もが答えて良い。)○ 聞き手(模造紙は、話し合いのためのものであり、聞き手に見せるためのものではないので、聞き手メモをとる。)8.ルーズリーフに書いた自分のものの周りにメモを書く。(2) 指導上の留意事項・ 自分の意見を必ずまとめる。わからない場合は、はっきりわからないとする。・ 話し合い中では、ひらめいたことなどが読みを発展させることがあるので、遠慮なく発言し、記録する。・ 通常の場合、相違点・類似点などから話し合いを発展させる。また、つぶやきも重視する。・ 考えを常に整理するために、全体の考えが把握できるように、模造紙は広げ、発言者の氏名も書く。2. 「話し合いの図解(ファシリテーショングラフィック)」の有効性この手法はおおむね好評である。生徒同士が最初の発言を確認し合うことは多く見られた。以下に生徒の感想の一つを示す。「最初は「何に気付いた」のか全くわからなかったけど、班で話し合っているうちに、「子供たちに押しつけて現実逃避している」ということに作者は気づいたということにたどりつくことができた。」3. 保存手段としてのハイビジョンビデオカメラの有効性生徒の発言の記録の方法として、ファシリテーションを援用し、模造紙に話し合いの過程を書かせたが、模造紙も大量に使用することになる。これを解決するために、模造紙に書かれた小さい字も読むことができるハイビジョンビデオカメラでの記録が大変有効である。