著者
中田 篤
出版者
北海道立北方民族博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、モンゴル北部に暮らすトナカイ牧畜民ツァータンを対象とし、現代的適応戦略と物質文化の変容を明らかにすることを目的として実施された。具体的には、トナカイを中心とした牧畜生活を送る世帯[タイガ牧畜世帯]と、トナカイ以外の家畜を主とした牧畜に転換した世帯[草原牧畜世帯]を対象に、(1)トナカイ牧畜と密接な関係を持つ物質文化の変容、(2)新たに生み出された「商品」としての物質文化の状況、(3)近年の社会経済的環境変化とそれに対する適応戦略、に関する情報収集と比較をおこなった。その結果、(1)については、特に草原牧畜世帯で物質文化変容の程度が著しいことが確認された。タイガ牧畜世帯では、一部道具類の材質が木材や樹皮からアルミに変化する状況がみられたものの、トナカイ牧畜に関わる物質文化は比較的多くの要素が保持されていた。一方、草原牧畜世帯では、ウシやヒツジなどを主要な家畜とし、冬季のみ少数のトナカイを輸送・移動用に飼育していた。こうした世帯では、モンゴル式の「ゲル」に住み、物質文化のほとんどが近隣のモンゴル系牧畜民と同質化していた。(2)については、タイガ牧畜世帯において、数年前からトナカイ角を素材とした彫刻が制作されていた。彫刻の多くは動物をモチーフとし、価格は大きさに応じて3~20USドル程度と幅がある。おもに外国人観光客に販売して現金収入を得ており、販売量は増加傾向にあるとのことであった。(3)については、付近のタイガ地域で2004年頃と2009年10月に相次いで金鉱が発見され、以来毎日100人以上が採掘に携わる状況になっている。こうした中、付近の住居はモンゴル全土から集まる採掘者の中継地点となり、特に冬季にはトナカイが移動手段として稼動するようになった。トナカイ1頭につき1日100USドル程度の使用料が得られるとのことで、ツァータンにとって新たな現金収入手段となっていることが示された。
著者
戸田 雅之
出版者
東急ファシリティサービス株式会社
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

○研究目的(1)短痕の高度解析:2001年に大出現したしし座流星群の2点同時観測動画データから痕の発光部分の抽出を行い、その高度を明らかにする。(2)主要流星群の流星痕観測:しし座流星群以外の主要流星群でも流星痕観測を実施し、対地速度毎の短痕発生頻度を明らかにする。(3)短痕用スペクトル観測装置の製作とその観測:カラーインパクトロンを使用した観測装置を立ち上げ、8月のペルセウス座流星群を皮切りに主要流星群の流星痕分光観測を実施する。○研究方法(1)移動体検出と画像解析に特化したPCを使い、25例の流星痕の発光高度を求めた。(2)(3)平成19年8月のペルセウス座流星群、10月のオリオン座流星群、12月のふたご座流星群、平成20年1月のりゅう座流星群にカラーインパクトロンと一眼レフデジタルカメラを用いて観測をした。○研究成果(1)短痕の出現高度が明らかになった。短痕の上端側は緩慢な高度低下を示し、下端側は流星本体の高度低下と共に一旦下降し、本体消失後に上昇する傾向が常に見られた。発光高度の中央部分は多くの例で高度110km前後で収束し、大気依存が予期される結果となった。この成果は平成19年6月中旬にスペイン・バルセロナで開催された国際会議「Meteoroids2007」および同年9月の日本惑星科学会高知大会において発表した。(2)(3)観測地の当日の天候に邪魔されたり、周辺機材のケーブル断線等の不良等で動画撮影は殆ど出来ず、今回期待していたスペクトル撮影は出来なかった。平成20年度以降は高知工科大学と連携して長期間定常観測を実施し、より多くの短痕画像を取得することを狙う。
著者
田中 文昭
出版者
学校法人 誠昭学園 うちあげ幼稚園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

(1) 研究目的 幼稚園で行われている異年齢交流行事に幼稚園就園前の子ども(以下、未就園児)と保護者が参加する際の、「場の機能」に関する多角的アプローチによる記述研究である。我が子や幼稚園児と活動をともにすることによって、未就園児保護者の発達に関する考えがどのように変化してくのか等を探索し、より豊かに記述することを主たる目的とした。(2) 研究方法と成果 まず、保護者と未就園児等の活動の様子を観察してGTAで分析することにより、子どもの活動への参加状態や普段の様子との比較などが保護者の心理にどのように影響を及ぼすのかについて、より詳細な記述枠組みが示された。中でも保護者が我が子に対して活動への参加を促すヴァリエーションの多様性を記述できた。これらのまとめについては日本保育学会等の学術誌に投稿予定である。質問紙では親子の現状、活動での保護者や子どもの参加状態、活動後の保護者の思いや子どもの変化、父親の家庭での役割や活動参加に対する気持ちなどについて尋ねた。子どもだけではなく保護者自身にも影響がどのようにもたらされているのかが具体的に示された。このような子育て支援イベントに対する参加者の期待や要望も浮き彫りになった。面接調査は質問紙で示されたことを掘り下げる方向で行い、未就園児保護者の子育て環境や子育てに対する考え方がさらに具体的に語られた。質問紙で方向づけられ面接で深められた知見に考察を加え、兵庫教育大学の研究紀要論文用にまとめる予定である。また、本研究は大阪教育大学幼稚園教員養成課程の「幼児教育研究調査法」の環として、実際の研究に学生が参画して学ぶ機会を提供するものとなった。なお、この研究への正統的周辺参加の過程については、大阪教育大学幼児教育学教室研究紀要『エデュケア』2008年度号に、教育と研究が相互に深く浸透した幼稚園と大学の協働活動の事例紹介として掲載された。
著者
荒川 等
出版者
九州工業大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

昨今の歩行者と自転車の交通事故が増加している社会問題に着目すると、自動車のドライブレコーダーが実用化されたように、歩行者のための事故状況記録機すなわち「ウォークレコーダー」の実現が期待される。特に、瞬時の判断力が劣っている年少者・高齢者・障害者などのいわゆる認知弱者が装着して有用性を評価するための試作機を製作した。本研究のウォークレコーダーは、ヘルメットの上部に取り付けたカメラ、GPS、運動センサの情報をノート型パソコンに自主開発したアプリケーションを用いて記録する単純な構成によって、汎用性とフレキシブル性に優れている。また、カメラを車載カメラ、全方位カメラ、Webカメラと取り替えて次のように比較検証した。1、車載カメラ:前・後・左・右方向のカメラ4台の映像信号をハード的に1つの画像に結合することでパソコンの取り込み負担を軽減し、自転車の移動状況を十分に記録することができた。被験者が装着した際の機器の重量の負担が大きい。2、全方位カメラ:カメラが1台のため映像の取得方法をハードとソフトの両面で簡潔にできたので、試作機を年少者に装着して実験することができた。歪補正の処理を行うことで、目視と同じ遠近感で自転車の移動状況を認識することもできた。3、Webカメラ:前・後・左・右方向のカメラ4台を車椅子に装着して用途拡大を試みた。ノート型パソコン1台で撮影する場合、撮影時間間隔を要し、自転車の動きを追跡することが困難で目的を果たせなかった。実施計画にあった小型サーバ5台を用いた測定データの分散処理システムの構築には至らなかったが、カメラや信号処理の工夫により交通事故分析を行える程度の十分な情報を記録することができた。さらに、歩行者の周囲の景観と遠隔地の保護者の間でインターネット中継による映像会話を試行したところ、相互のコミュニケーションによる歩行支援モデルを提案できた。
著者
木庭 亮二
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

学校教育において放射線に関する教育はほぼ皆無であるが,実際には様々な分野で使用され,生活の向上に役立っている。それについて啓発活動を行おうとしても,大学の施設教職員では少人数のため,通常の業務の合間に準備を行うのは難しい。啓発活動の開催についてある程度のシステム化がなされれば,大学の施設職員等の少人数で対応が可能と考え本研究を開始した。一般向けに広島大学自然科学研究支援開発センターアイソトープ総合部門主催の実習「目で見る放射線実習」(以下「実習」)を平成19年8月1日に,公開実験「霧箱で放射線・宇宙線を見てみよう」(以下「公開実験」)を同年11月3日に開催した。実習では広島県及び東広島市教育委員会の後援を得て,周辺の中学校,高校へ開催のポスターを配布し,実験や測定に興味のある参加者を募った。参加者は幼児から一般までの16名で身の回りの放射線についての講義を行った後に霧箱を利用した放射線の観察とγ線測定器を利用した身の回りの放射線の測定を行った。内容について参加者からは概ね好評を得たが,主催者としては募集の際の広報の見直しが今後の課題となった。今後は市の広報誌等の活用を考える。公開実験は広島大学大学祭の参加事業として開催した。来場グループごとにスタッフが一人付き,放射線についてポスターを使い説明を行った後,霧箱の観察,γ線測定器を利用した身の回りの放射線の測定を行った。来場者数は乳幼児を除き77名で,概ね好評を得た。スタッフ側の問題点して随時訪れる来場者への対応のために多くの職員の必要数となることが挙げられるが,説明を開始する時間を固定する等で対応は可能と考える。今後はさらに内容や形態を検討し,少人数での効率的な啓発活動の開催を模索する予定である。
著者
沼田 徳重
出版者
岩手大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

[研究目的]小、中、高生の理科離れの対策として、これまで岩手大学技術部及びINS「岩手・ネットワーク・システム」等との共同で子供科学教室、ショッピングセンターでの科学展並びに大学祭での技術展に参加してきた。本研究では、次の段階として「理科」と「もの作り」は楽しいもの作るよろこびをより多くの人に体験して貰うために創意工夫した出前教室に取り組み、理科離れ対策に貢献した。[研究方法・実施結果]平成19年度は次の会場で以下の通り実施した。1.7月北上市で開催された、北上工業匠祭に「台所は電池でいっぱいのテーマで」飲料水・野菜・果物・調味料など身近にあるものを用いて出店した。子供からお年寄りまで多くの参加者から好評を得た。2.8月岩手県矢巾町煙山地区の小学生を対象に夏休み自由研究の参考として「どんなものが電池になるか試してみよう」家庭で身近にあるものを持ってきてもらい、電圧の測定を行った。同時に、電気回路は電子ブロックを用いた「うそ発見器」、「ラジオの製作」、指導者が作ったゲルマニウムラジオを農示した。楽しかったので、次回も開催して欲しいと要望があった。3.10月岩手大学祭に「台所は電池でいっぱい」並びに「電子ブロックを用いた回路作り」と「レゴブロック」を用いたおもちゃ作りを実施し子供だけでなく、大人も夢中になって作った。「実施して感じたこと」子供たちは興味を持って参加した、次に繋がる可能性があることを感じた。また、北上工業匠祭ではロボコンの全国大会に参加した小学生にモーターのこと、プログラムのことなどを質問された。どの会場でも親が子供達より興味を示し、色々な質問が出され楽しい一時であった。最後に出前教室は対象者を絞ること創意工夫に時間をかけ余裕を持つことが必要であると痛感し、次回の参考にしたい。
著者
土佐 紀子
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的:近年、「動物福祉(animal welfare)」、という言葉を盛んに聞くようになり、実験動物に関しても動物の「幸福な暮らし(psychological well-being)」を実現するための環境エンリッチメント(environmentalenrichment)の役割が注目されている。実験動物の飼育では、飼育環境が抱える物理的または社会的な問題により、繁殖障害、発育障害、異常行動といった異常がしばしば観察される。これらの問題における環境エンリッチメントの効果に期待が高まっている。今回、環境エンリッチメントの中の一つの要素であるマウス専用玩具に注目し、マウスの異常行動である常同行動と攻撃問題における影響について解析した。研究方法と結果:実験には、給・排気型動動物飼育システム(TONETS SEOBiT)を用いた飼育室(最大収容ケージ数:432)を使用し、設置された9台のラックには前面式自動給水装置(エデステローム)が装備されていた。床敷にはペパークリーン(三協)を使用し、餌はMF(オリエンタル酵母)を給与した。この飼育室の利用者の了承を得て、飼育されているマウス全てを披見動物として使用した。マウスの種類は、ICR、C57BL/6、BDF1と、C57BL/6の遺伝的背景を持つ遺伝子組み換えマウスで、常時約800匹のマウスが飼育されていた。この飼育室で発生する常同行動を、月に1回、4ケ月間調べたところ、飼育ケージ数の平均が289.75±21.05個に対して、給水ノズルを悪戯する行動が60.5±7.85(20.75±1.28%)個のケージで観察された。これらのケージに市販されている玩具であるShepherd Shack(エルエスジー)またはMouse Igloo(アニメック)と木片を施し2週間観察したところ、78例32例(41%)で悪戯が消失した。さらに、悪戯が消失しなかったケージ5例に、新しく考案したボールタイプの玩具を施し2週観察したところ、3例(60%)で悪戯が消失した。一方、攻撃行動が観察されたケージについて、上記と同じ玩具を施したところ、10例中10例(100%)で怪我の治癒が認められた。研究成果:本研究により、マウス専用玩具が常同行動と攻撃行動に効果がある事が明らかとなった。特に攻撃問題に関しては、玩具を一つケージ入れるだけで攻撃問題が消失した事は非常に興味深く、マウスの攻撃性が低下した事によるのか、避難場所が確保できた事によるものか、今後さらに解析を進めたいと考えている。
著者
小笹 祥子
出版者
八王子市立第十小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

研究目的 学校現場においてリストカット,根性焼きなどの自傷行為は特別なことではない。自傷行為生徒への早期働きかけが可能なのは,養育者以外では教員となる可能性が高い。そこで,教育の場である学校の特性と限界を念頭に置いた支援方法の構築が必要と考えられる。教育現場における,自傷行為生徒への適切な対応を阻害する要因を質的に分析し,その阻害要因の対策を検討し,教育現場で実施できる自傷行為生徒への支援方法を開発することを目的とする。研究方法 本研究は,一般中学校に勤務する教員を対象とし、自傷行為生徒への対応について,自由記述方式によるアンケート調査,インタビュー調査により質的に分析した。質的に分析した結果から,阻害要因を抽出・分析し,自傷行為生徒本人,家族・学校組織を含む環境要因への支援を検討した。インタビュー調査は、夏期休業中期間に、研究者が研究者と親交のある公立中学校へ出向き、その中学校に勤務する教員7名に実施した。インタビュー内容の分析・支援方法の開発においては、事例検討会開催、児童精神科医師、心理士より専門的知識提供を受けた。研究成果 インタビュー調査内容の分析より、1)教員は生徒に相談されるとうれしいと感じること。2)授業中に周囲に周知されるようにリストカットをする生徒がいること。3)学校だけでは抱えきれないと強く感じていることの3点が明らかになった。教員が実施する支援においては、生徒個人と集団への教育的支援方法を開発する必要がある。支援においては、自傷行為の基礎知識、校内の相談・セスメント窓口、教員集団の連携が必要である。今年度は、専門家による自傷行為の講演、アセスメントシートを活用し学校の限界設定を念頭に置き生徒支援を実施した。課題として、より詳細な一般教員の自傷行為をする生徒への対応の調査を実施し、教員・学校の特性をふまえた支援方法を汎化する必要がある。
著者
中川 宣子
出版者
京都教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、自閉症児における自己思考の表現を支援するためのデジタルテキストを開発することであった。そこでまず、特別支援教育に携わる現場教師3名により、対象生徒5名の興味・関心について、日々の授業を通してアセスメントした。次に、ここで得られた情報に基づいて、デジタルテキストで使用するテーマを協議した。協議の結果、生徒が実際に活動を行った単元・題材(宿泊学習、運動会、学校祭…など)10項目を本デジタルテキストのテーマとして選択した。続いてこれらのテーマに関連する写真やイラストを収集し、その中から各テーマ毎に5種類の素材を選択した。各素材を、Micro-soft社:power-pointによって編集し、1テーマにつき写真(イラスト)5枚、計10テーマ、計50種類の教材によって、「視覚デジタルテキスト」とした。「視覚デジタルテキスト」の実施は、週1回70分間の「国語」の授業の中で行った。生徒はまず、本時のテーマを聞き、デジタルテキストを活用して自己の思考をパソコン上に打ち込むという学習設定と、同テーマのもとで手書き(或いは口頭)表現するという学習を設定し、それぞれの学習設定における表現語彙数の比較によって、「視覚デジタルテキスト」の学習効果を評価した。結果、5名中4名の生徒に「視覚デジタルテキスト」を活用した場合の方が表現語彙数が増加するという結果が得られた。中でもA児は、1テーマにつき、手書き・口頭による表現語彙数が、最小1語〜最大5語であったのに対し、デジタルテキスト活用の場合には、最小5語〜最大15語という増加が見られた。他の生徒も同様に、1語〜7語の増加が見られた。また彼らに共通した学習態度として、「視覚デジタルテキスト」活用時の方が、学習に取り組む時間が長く、教材に向かう集中度も高いという姿が見られた。生徒にとって「視覚デジタルテキスト」は、興味・関心の高い教材であるといえ、思考表現の成果のみならず、学習意欲の継続、向上にも効果があると考えられる。今後も、自己表現支援教材の一つとしての「デジタルテキスト」を開発していきたいが、本研究で取り上げた視覚素材と併用して、聴覚素材を取り入れたデジタルテキストの開発に着手する必要があると考えられた。これは、彼らの生活を見直したとき、彼らの触れる情報は、視覚素材のみならず、聴覚素材である機会が多い。自閉症児の特性にあげられる視覚優位を活用した視覚素材と、これに対する聴覚素材との両面をデジタルテキストに取り入れることによって、彼らの生活全般における自己思考表現を支援するための学習教材の充実が考えられる。
著者
山口 かおる
出版者
福井大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

○研究目的:幼児の体力や運動技能を高めるために、どのような遊具や体操が効果的であるか考え、教育課程の中に取り入れて実践してみた。○研究方法:遊具は、オリジナルの遊具を考案した。この遊具は、目的に応じて、ブランコや登り棒、ハンモック・はしご・吊り輪などのパーツを組み替えて使うことができる。この遊具を好きな遊びの時間に取り入れて遊んだ。オリジナル体操は、五十嵐淳子先生を講師に招き、各学年に応じた動きを取り入れて作成し、運動会の開会式に行った。この他にも、定期的に淳子先生を招き、学年ごとのみんなの時間に体を動かす活動を行った。遠足にも一緒に来ていただき、親子で踊ったり、ゲームをしたりして過ごした。○研究成果:オリジナルの遊具ができたことで、ブランコ遊びや登り棒など新しい遊びに挑戦する幼児が多くなった。特に、竹の登り棒で、腕や足で登っていく力をつけたり、吊り輪にぶらさがり、一回転する力をつけたりできた。また、揺れるはしごを自分の力で登ろうと挑戦する幼児も出てきた。この遊具を用いながら、忍者の修行ごっこを楽しむ幼児も出てきて、楽しみながら体を動かして遊ぶことができた。運動技能も高まったものと思われる。また、オリジナル体操をしたり、淳子先生から様々な動きを教えてもらったりすることで、体を動かすことは楽しいと感じる幼児が増えてきた。体操は、腕を伸ばす・回す・ジャンプするなど様々な動きを取り入れており、幼児が普段はしないような身のこなし方を教えてもらうことができた。
著者
星野 真紀
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,初心者が無鉛ハンダを使用しやすいハンダゴテを選定することと,無鉛ハンダの中で使用しやすいものを選定することを目的とした.電子工作実習用に学生が購入するため,安価で入手性の良いものを対象とした.【実験内容】コテ先形状,ハンダゴテ,無鉛ハンダについて,実際に学生に使用してもらい,使用感アンケートにより評価を行った.【コテ先形状】先が直径1〜2mmの棒状で先端が斜めにカットされているコテ先は評価が高く,直径が2.5mm以上あるものや先端が細く尖っているものは評価が低かった.【ハンダゴテ】同じ型でワット数が26Wと32Wのコテを2組用意して評価したところ,どちらも26Wの方が評価が高かった.無鉛ハンダは融点が高いため,ワット数が高い方が高評価を得るかと予想していたが,予想に反した結果となった.基板表面を観察すると,32Wでハンダ付けした基板では,過熱によるツノや基板の焼けが多く見られた.コテ先温度が高いコテでは手早く正確なハンダ付けが必要になり,初心者にはかえって扱いづらくなったと考えられる.【ハンダ】Sr-Ag-Cu系4種とSn-Cu-Ni系2種の評価を行ったところ,Sn-Ag-Cu系の方が評価が高かった.Sn-Ag-Cu系の方が融点が低いため,その差が表れたと考えられる.また,濡れ性については,組成よりもメーカーによる差があらわれた.フラックスの違いによるものが大きいと考えられる.【まとめ】電子工作初心者にはワット数の高いハンダゴテは使いづらく,26W程度が適切という結論を得た.使用する無鉛ハンダはSn-Ag-Cu系が使用しやすいと考えられる.ただし本研究は初心者の電子工作実習という条件であり,精細なパターンや上級者に関しては考慮していない.
著者
渡部 真人
出版者
株式会社林原生物化学研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

目的:モンゴル国ゴビ砂漠に分布する白亜系から採集された恐竜の卵殻化石の内部微細構造を観察し、その分類学的位置を同定すること。方法:採集した卵殻化石標本の薄片(プレパラート)を製作し、それを偏光顕微鏡で観察した。また、卵殻の外部、内部表面、破断面を実体顕微鏡で観察し、顕微鏡写真を撮影して、そのデータに基づき記載した。さらに、従来報告されているモンゴルおよび中国産の恐竜卵殻化石と比較し、モンゴルの卵殻化石標本の分類学的所属を同定した。成果:従来モンゴルの中生界から発見されていなかった新しい種類の卵化石の存在を明らかにした。それは、ゴビ砂漠東部、バインシレ産地に露出する部白亜系下部から発見されたものである。その新発見の卵化石は、中国の下部白亜系および上部白亜系から発見されているDictyoolithus属に同定された。しかし、卵殻の内部の多層構造およびサイズにおいて中国産のものとは区別され、新種である可能性が高い。詳細に卵殻の内部構造を薄片において観察したところ、従来の記載ではその種類の分類群の特徴を説明するのは不十分であることが判明した。新しい形質(特徴)を認めることができた。この成果は、2011年1月、高知大学で開催された日本古生物学会第160回例会で口頭発表した。それをもとに、現在、海外の学術雑誌に投稿するべく論文を執筆中である。また、同産地からさらにもう1種類新しい分類群を発見した。この標本については、東京学芸大学佐藤環准教授の卒論生2名の研究テーマとして提供した。その成果は、今年の6月の日本古生物学会総会で発表予定である。さらに、モンゴル卵殻標本を、岡山理科大学西戸教授の卒論生の研究テーマ(微細構造についてのカソードルミネッセンス分析)として提供し、その内部構造を元にした分類手法を指導した。内部構造において、結晶構造の変化および軽元素の濃集を発見した。この研究テーマについては研究代表者と大学との共同研究として継続していく予定である。
著者
平野 恵
出版者
文京ふるさと歴史館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、近世後期から近代初期までの約100年間を対象として、日本における温室の歴史的意義を解明することを目標として据え、前段階として温室にかかわる史料を、近世的な「窖」と、近代的な「ガラス温室」の二つに分けて収集した。「窖」に関しては、本草学者また植木屋がその網羅的著作、植物図鑑・名鑑から、窖をどのように記録したかを調査した。小野蘭山『重訂本草綱目啓蒙』ほか五種の著作のなかでは、全体で数えても57例、重複分を除くと44種の植物に関して窖の記載があり、記述の傾向には異国産植物に対して詳しい記載があった。また、窖の一部を形成するガラス障子の史料、崖地や地下を掘って作った窖の史料をも提示し、これらにより、19世紀前半は土や岩を掘る古い形の窖から、新しい形式の窖を工夫して製作しようとする段階であることを明らかにした。以上は、2007年12月9日開催)で口頭発表を行い、論文「本草学者による和風温室『窖』の記録」(『洋学』16号、2008年)としても発表した。一方、19世紀後半ガラス温室の史料は、内国博や、酒井忠興や大隈重信ら華族らによって広められ一般に公開されたことが判明した。近代における園芸は、果樹・疏菜に重点を置き、花卉栽培は趣味人の道楽という側面が強くなっていった。ただし、華族の園芸趣味は、「奇品」の収集公開という点では、近世後期における旗本を中心とする園芸愛好家の事例と非常に酷似していた。このことは、近世から近代への連続性として今後の重要な課題として研究を続けたい。以上の一部は、2007年度長崎大学における洋学史学会秋季大会(2007年11月11日開催)シンポジウムC「本草から植物学へ」において「十九世紀における植物概究と商業園芸」として口頭発表した(発表要旨集『平成19年度日本医史学会秋季大会・平成19年度日本薬史学会年会・2007年度洋学史学会秋季大会合同大会プログラム・抄録集』に所収)。
著者
黒岩 真弓
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的:近年、医療や生命科学の分野で生体分子間相互作用のリアルタイム解析が必要であり、このような分野では、SPR(Surface Plasmon Resonance:表面プラズモン共鳴)を用いたBiacoreによる生体分子間相互作用解析がポピュラーである。一方でSPRよりも小型・安価で使いやすいと最近注目をあびつつあるQCM(Quartz Crystal Microbalance)も生体分子間相互作用リアルタイム解析に使われている。QCMとSPRは原理の違いから、求められた解離定数に差が生じることがあるがその理由はまだよくわかっていない。また、QCMシステムによっては抗原抗体反応を行わせる前段階で周波数が安定しないということも起きている。この原因もよくわかっていない。今回は前述2種類の測定システムにより決定された解離定数等の比較検討を行い、その違いと原因を明らかにし、分子間相互作用や吸着のメカニズムを詳細に検討することを目的とした。○研究方法:今回新たに共振型QCMの共振周波数特性測定ならびに電気的等価回路定数解析を行うためのPCをコントローラとした測定システムを構築した。従来の発振型QCMを用いて抗原抗体反応の検出最適条件を検討した。SPRにおいても最適条件の検討を行った。発振型QCM、SPRの検出条件をもとにし共振型QCMにおいて抗原抗体反応の検出を検討した。○研究成果:抗原抗体反応を検出するためにQCMを用いる場合、温度の影響はもとより、バッファーならびにサンプルの送液速度、抗原濃度、抗体濃度等が測定データに及ぼす影響がかなり大きいことが示唆された。
著者
田中 佐知
出版者
神奈川県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】犬は、ヒトの生活の中でペットとして飼われているだけでなく、盲導犬や救助犬をはじめ、様々な場面で使役犬として活躍しでいる。いろいろな使役に適するように品種改良を重ねられてきた結果、現在は400種以上の犬種が存在している。しかし同一犬種内でも使役犬になれる個体と、なれない個体がいるのが事実であり、ヒトのニーズに応えていない。そこで、犬の気質(個性)に関連しているとされている脳内神経伝達物質であるドーパミン受容体D4 (DRD4)及び5-Hydroxytriptamine Receptor (5-HTR)の1Bの各遺伝子と個体の行動との関連を調べることで、使役に適した個体の選別につながると考えた。【方法】牧羊犬として品種改良されたボーダーコリー種を用いた。一般家庭で飼われ、牧羊犬の訓練を受けている個体の行動を一定時間観察し、羊に対する集中力(注視率)を調べた。また、DRD4遺伝子については、nested-PCR法により遺伝子型を調べ、シークエンスによる塩基配列分析を行った。5-HTR1B遺伝子については、SNaPshot法を用いてSNPsを調べた。これらの結果から、注視率と各遺伝子型及びSNPsの関係を統計学的に解析した。【成果】ボーダーコリー種において、DRD4遺伝子では、3種類の対立遺伝子(435, 447a, 498bp)が検出された。それらから得られた遺伝子型はいずれも注視率との間に有意差が認められなかった。447aアレルでは、本来存在する2つの塩基置換のうち1つが存在していなかったが、アミノ酸の置換は認められなかった(非同義置換)。5-HTR1B遺伝子では、既報のとおり6つのSNPsが確認され、そのうち2つ(G246A, C660G)において、注視率との有意差が認められた。また、羊に初めて対面した年齢が1歳未満の個体は、1歳を過ぎてから初めて羊に対面した個体よりも高い注視率を示した。以上のことから、牧羊犬の気質に影響を与えるものとして、遺伝学的な素養も加味されるが、できるだけ早い時期に羊に対面させることも必要であると考えられた。
著者
田畑 泰江
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

クロピドグレルの活性代謝物生成に関与するCYP2C19の遺伝子多型と、臨床効果の関連性が近年数多く指摘されてきており、活性代謝物の生成量がクロピドグレルの臨床効果発揮に重要であると考えられる。最近の研究からクロピドグレルの活性代謝物生成経路に関与するCYPは詳細に同定されてきており、クロピドグレルから2-オキソ-クロピドグレルへの代謝と、2-オキソ-クロピドグレルから活性代謝物への代謝の2段階で反応が進行すると考えられている。このため、両段階の反応に中心的に関与するCYP2C19の活性が、クロピドグレルの臨床効果に大きく影響を与えると考えられ、プロトンポンプ阻害薬との併用によってCYP2C19の活性が阻害された場合、クロピドグレルの臨床効果が低下するとする報告も存在する。一方、CYPを介した薬物間相互作用としては代謝酵素の阻害だけではなく、代謝酵素の誘導を介した薬物間相互作用も良く知られている。クロピドグレルの活性代謝物の生成経路を考慮すると、CYP2C19の誘導は活性代謝物の生成量増大につながると考えられ、このため、CYP誘導剤とクロピドグレルを併用した際には、クロピドグレルの臨床効果あるいは副作用の増大が生じる可能性が考えられる。そこで、東大病院においてクロピドグレルが処方されている患者をリストアップし、併用薬剤およびその併用時期情報を網羅的に収集することで、相互作用の可能性検証を現在も継続している。またCYPP2C19の誘導に関しては、他のCYPと同列に比較した詳細ない情報が乏しかったため、レポーターアッセイ系を用いて実際に誘導活性の評価を行った。その結果、CYP3A4ではPXRによる誘導が強く、CYP2B6ではCARによる誘導が強く観察される実験系を構築した。従来はCYP2C19の誘導にはPXRが中心的と考えられてきたが、むしろCARを介した誘導の方が強く観察された。今後は、この点を考慮してCARを介した誘導剤に焦点を移して検討を継続したい。
著者
山本 香代子
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】妊婦や授乳婦への薬物治療や服薬指導に際しては、医薬品の妊婦授乳婦における安全性や、胎児乳児への影響に関する十分な情報が得られないことが多くあり、服薬可否の判断が困難なケースも少なくない。また、すでに安全性や危険性の根拠が示されている医薬品についても、その情報を正確に入手することは容易でなく、解釈に専門的な知識を要することも多くある。そこで本研究では、妊婦授乳婦への服薬指導の標準化を目的として医薬品情報の収集手順や指導方法の確立を行うと共に、その有用性評価を行った。【方法】1.妊婦授乳婦への医薬品情報を収集する上で有用な情報源やその特徴を一覧表にすると共に、調査に必要な確認事項や検索手順をまとめて「医薬品情報調査ツール(妊婦)」、「医薬品情報調査ツール(授乳婦)」を作成した。2.経験が浅い薬剤師5名を対象として妊婦授乳婦への服薬指導に関する模擬テストを実施し、各「調査ツール」の有用性を評価した。理解度や不安度は、評価スケールへの記入とその尺度を指標とした。【成果】各「調査ツール」の有用性を評価した結果、ツールの使用の有無によって調査時間に有意な差は認められなかったが、調査した資料の数は「調査ツール(妊婦)」の利用により5.4±2.3件から7.6±2.4件へ、「調査ツール(授乳婦)」の利用により5.2±2.3件から9.8±2.1件へと、いずれも有意に増加した(p<0.01)。また、収集した情報や服薬指導について、薬剤師自身の理解度や不安度を評価スケールにて測定した結果、各「調査ツール」の利用により、理解度は約10%から約80%へと上昇し、不安度は約90%から約50%へと減少した。本研究において作成した妊婦授乳婦への「医薬品情報調査ツール」を利用することで、経験の浅い薬剤師においても詳細な情報収集が可能となり、妊婦や授乳婦への服薬指導に有用であることが明らかとなった。