著者
柚木 朋也
出版者
岸和田市立旭小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

研究目的:本研究では、創造性に関わる研究の一つとして、創造性育成と大きくかかわる推論であるパースのアブダクションを明確にしようと試みた。そして、アブダクションに関わる理科教材の開発と指導についての分析を行うことで、論理的な思考の育成方法の開発を試みた。研究方法:創造性の育成については様々な見解があり、多くのアプローチがなされている。本研究では、創造性は推論あるいは論理的思考と強く結び付いていることを踏まえ、論理的思考の育成、特にアブダクションの解明とその活用に重点を置いた。具体的には、アブダクションの概念を明確にした上で、創造性を育成するための理科教材の開発について検討した。また、様々な授業、研修、地域における科学教室において使用した「振り子時計」、「映像を利用した天体」、「メッキの実験」などについて分析し、検討した。成果:アブダクションの基礎は、演繹にあり、探究の過程の中で他の推論とかかわり合いながら深められることが明確になった。そのため、論理的思考を高めるためには、それぞれの場面でどのような推論がなされるかを分析することが重要であると考えられる。実際に、「水撃ポンプ」や「フロッピーディスクケースを利用した燃料電池」などに関して分析を試みた結果、アブダクションの関与が明確になった。さらに、教材を使用した種々の実践を検討し、どのような思考の流れがなされるかの分析を行った結果、思考の流れを制御することで探究の過程をより効果的に行わせることが明らかになり、論理的思考や創造性を育成する視点を明確にすることができた。
著者
淺野 貴之
出版者
埼玉県深谷市立深谷小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では,指導要領で取り上げられていない発展的な内容を理科授業に取り入れていくことにより,児童の科学的な思考力の育成にどのような効果を及ぼすのかについて,小学校第6学年「電流の働き」及び「水溶液の性質」,小学校第5学年「物の溶け方」の3つの単元において調査し,その結果の分析を行った。まず「電流の働き」においては,従来小学校段階では取り上げてこなかった1本の導線に流した電流が生み出す力について,児童に演繹的に学習させる群を実験群とし,学習指導要領通りの学習をさせる群を統制群として,その効果を比較した。その結果,実験群の児童は,電磁石を強くする方法を考える局面において,根拠を基に予想を立てたり,結果を考察したりすることができるようになることが明らかとなった。次に「水溶液の性質」においては,教師が与えた6つの液体の正体を確かめるための方法を考えるという発展課題に取り組ませた。そして授業中の会話プロトコルのデータとプリントなどの記述データを詳細に分析した。その結果,発展課題に取り組む中で,児童が実験方法の特徴を考えて,どの実験を行うかを決定するようになることが明らかとなった。最後に「物の溶け方」においては,児童にいろいろな物を与え,水に溶ける物と溶けない物とを分けていくという発展課題に取り組ませた。その結果,本発展課題に取り組んだ実験群の児童は,教科書に記載された発展的な学習に取り組んだ統制群の児童と比較して,水溶液かどうかを判断する際に,水溶液の定義を基に思考することができるようになることが明らかとなった。以上より,発展課題に取り組ませることにより,実験方法を決定する局面及び実験結果について予想・考察する局面における児童の科学的な思考力の育成に効果があることがわかった。
著者
山崎 彩
出版者
イタリア文化会館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

20世紀初頭のトリエステは、オーストリア帝国の一都市でありながらイタリアの文学史の上でも非常に重要な場所である。本研究の目的は、イタリア語の一方言であるトリエステ語を母語とする作家たちが標準イタリア語によってトリエステという町独自の文学を創造しようとした試みをたどり、第一次世界大戦前夜におけるトリエステの文化状況を明らかにすることである。分析の対象としては、当時のトリエステを代表する作家、ズラタペル、サーバ、ズヴェーヴォの第一次大戦前の活動に重点を置くことにした。研究に必要な資料(特にズラタペルに関する資料)が日本では手に入りにくいことから、夏休みを利用し、充実した資料のあるトリエステ市立図書館とフィレンツェ国立図書館で資料収集をおこなった。トリエステ市では市立中央図書館に併設されている「イタロ・ズヴェーヴォ博物館」の学芸員の方にお徴話になり、図書館に所蔵されている資料、主にズラタペル、ストゥパリッチの本を数多く閲覧・複写することができた。また、書店も訪れて必要な図書、特にトリエステでしか入手できない類の出版物の購入をおこなった。続いて訪れたフィレンツェにおいては、トリエステでは見ることのできなかった雑誌記事を閲覧することができた。しかし、この記事の複写が許可されなかったために、デジタルカメラで撮影し、後でPDFファイル化して出力するという手段を取った。また、中継地として寄ったパリにおいても「エコール・ノルマル」の図書館で資料収集をおこなった。このようにして収集した資料に基づいて、23年2月18日に地中海学会定例研究会において発表をおこなった。20世紀初頭のトリエステ文学の研究は日本においてはまだ充分におこなわれていないが、多民族化の進行する現在の日本においても、100年前の多民族都市の文学のあり方を研究することは意義あることと考えている。〔775字〕
著者
鈴木 文二
出版者
埼玉県立春日部女子高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

工業生産用監視センサーとして市販されている8~16μmの中間赤外線検出素子を備えた「放射温度計」を使って観測・実験を行った。温度計は、測定範囲が広く(-50~500℃)、狭視野(2°)、デジタル出力可能、短い応答時間(1秒以下)という特徴をもつ。観測対象は、層雲、乱層雲などの雲底、月面からの熱放射である。絶対値の較正と感度分布の検定には、暖房用のハロゲンファンヒーターを用いた。下層雲の雲低温度は、高層気象の観測データと数℃の範囲内で整合性があり、凝結高度を説明するための実習に活用できることが確かめられた。一方で、光学的に薄い高層雲では、放射効率の補正を行っても十分な精度が得られなかった。しかし、可視光の全天カメラと組み合わせることによって、雲の高低と天気の変化という直感的に理解しやすい教材作成が可能である。月の観測は位相角68°~258°で行い、月表面からの熱放射の変化を捉えることに成功した。水蒸気の少ない冬場では、約0.06等の誤差で測定可能であったが、夏場では大きな吸収が起にり、概ね1.5等ほど低い値となった。また、位相角180°における月面温度の観測から放射平衡を仮定して求めた可視域のアルベドは約0.05となり、惑星科学の実習として十分に実用的であることがわかった。さらに、直径30cm弱の砂団子型の月モデルを作成した。ヒーターで表面を加熱し、熱放射を測定したところ、モデルの位相角依存性は、観測とよく一致した。ステファン・ボルツマンの式のみで解析することができるため、高校や大学の基礎実験として効果的である。
著者
鈴木 文二
出版者
埼玉県立春日部女子高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

「練り上げられた、工夫された教材」は小学校から高校までの特定な発達段階での、特別な目的に照準を合わせた感がある。そのため、個々の対象の知識は深まるが、逆に階層性が逆転したりしてしまうこともある。例えば、高校理科の授業において、星までの距離を測る方法を詳細に展開しても、見慣れた星座を作る星がどのような空間的な位置にあるのか、太陽系と銀河系の包含関係はどうなっているのか。まさに「木を見て森を見ず」という状況が散見される。次期指導要領においては、簡単な観察から始めて、より高度な科学的な研究・考察に発展させる「スパイラル学習」が重要な方法として提起されている。そこで本研究は、小学校から高校まで、共通した学習展開が可能になるように教材を統合化し、地球惑星科学、天文学の大きな柱である「時間と空間」を意識させ、なおかつ先進的な教材を配したスパイラル学習教材群を作成することを目的とする。本研究で作成した教材は、異なる発達段階における科学的リテラシーを考慮しつつ、ブラックボックス的な部分を極力少なくした。また直感的に現象を捉えつつも、現象を数値化する意欲を持たせられるものとした。さらに、入手しやすい材料・素材を用いて、専門的な知識・技能を持たない教員でも製作しやすい教材とした。今年度に開発した教材群は、以下のふたつである。(1) カシオペア座の観察、撮像から、恒星の位置、進化を知る(2) 大陸移動と古海流をシミュレートし、未来の気候を推定する引き続いて、赤外放射温度計を用いた、「雲底高度と気象変化」についての教材を作成中である。指導要領の『理数科目の前倒し実施』によって、これらの教材群は、移行措置期間中に柔軟に対処可能な教材として、その価値を見出すことができるものと考えられる。
著者
算用子 麻未
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

長く採った挿し穂の基部と先端の両端を挿しつけアーチ状にしたアーチ型挿し木の実用方法として、小崩壊が起こり、裸地化した林道法面への緑化を考える。アーチ型挿し木での緑化の特徴は、アーチ部分へ土砂が堆積、固定されると、その土砂に植物が侵入してくることも期待できることにある。今回はアーチ型挿し木の可能な崩壊地の形態や、有効な挿し穂の配置方法の検証を目的とする。試験は東京大学附属演習林である千葉演習林と秩父演習林で行った。挿し穂の長さは80cm、両端の挿しつけ深さは各20cmとし、挿し穂を階段状に配置した。一部の挿し穂には挿し穂の抜け防止針金を実施した。樹種は千葉演習林でウツギを、秩父演習林ではフサフジウツギとバッコヤナギを使用した。また、秩父演習林では挿し付け直後にシカによる食害が発生したため、柵を設置した。千葉演習林では試験区を3ケ所設置したが、全体の生存率は35.2%と非常に低い。これは主に水分条件の悪さが影響したためと考えられる。挿し穂の抜け防止針金は非常に有効であったが、挿し穂が枯死してしまうと挿し穂が折れることが多く、それでは意味を成さないので、やはり挿し穂の生存率を上げることが重要であると言える。秩父演習林は、秋までの生存率がフサフジウツギで81.7%と非常に高かった。フサフジウツギは、シュートの成長もよく、ウツギと比べて葉も大きいため、視覚的な緑化効果は非常に高い。しかし、今回の試験地は冬季に積雪があり、その重量に耐えきれず多くの挿し穂が流亡し、3月には生存率が38.3%まで落ち込んだ。結果として、アーチ型挿し木だけで崩壊の進行や積雪による挿し穂の流亡を防ぐことは困難であり、実用するためには、斜面長の短い斜面に限るか、間伐材を利用した方法との併用など対策が必要であると言える。また、今回は試験期間が短かったため、アーチ部分への土砂の体積は観察されなかった。
著者
宮元 章
出版者
独立行政法人国立高等専門学校機構
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

全体的な「実験」の時間の減少から理科に興味・関心・学習意欲を持たない「理科離れ」の学生の増加が指摘され,大きな問題となっている。そこで,観察・実験などの体験的な学習を重視し,学生にわかりやすく理科を教えることができるようなデジタル教材を作る必要があると考えられる。そこで,本研究では星座観察に注目し,実際の夜空で観察した星の群れから星座を自動判別・観察・記録するアプリケーションを作成することを目的とする。アプリケーションの仕組みとしては,モバイル型小型ノートPCにCMOSカメラ,「実際に観察する星座」と「その星座の解説」を同時に見ることができる半透明のヘッドマウントディスプレイ,GPSレシーバ等を接続し,実際に観察した星座の上に星座線や解説を重ねて見ることができるようになっている。まず,星座の自動判別の方法としてOpenCVという画像処理ライブラリを用い,CMOSカメラで読み取った動画と星座の画像とのテンプレートマッチングを行った。はじめは全ピクセルを単純に捜査する方法でマッチングを行ったが,星座の画像は黒がほとんどを占めるため思ったような結果が得られなかった。そこで,SURFにより特徴量を比較するマッチング方法を採用した。その結果,マッチングの精度は格段に向上した。しかし,今回使用したWebカメラでは十分な量の光を感知することができず,星座を自動判別するには天候や周囲の暗さの面でかなりの好条件が必要となった。次に,GPSレシーバの情報をもとに観測場所の緯度・経度を求め,観測者がボタンーつでその情報と共に観察画像をキャプチャーし,その画像がPCに保存できるようにした。観察後,その記録を見ることで学習効果を上げる手助けとなる。このアプリケーションを使用して星座観察を行うことで天文分野の学習に興味・関心を持つことができ,少しでも理科離れを食い止めることができると考える。
著者
河合 伸昭
出版者
岡山市立岡山後楽館高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究のねらい現在の高校生に対し、数学の学力養成は重要な課題である。ここでは、特に生徒が理解に困難を感じるベクトルについて幾何ソフトを用いた教材の開発を試みた。研究方法概念の発達をたどり、自然にベクトルを理解できるようにベクトル・微分的考えが自然的な現象の解明に鮮やかに用いられた歴史的なニュートンの「プリンキピア」、そしてそれを初等的な幾何を用いて解説したファインマンの「Lost Lecture」をもとに、幾何ソフトを活用した教材を作成した。それを、本校の数学倶楽部、市民講座の受講生の方に講義し、内容を改善を図った。研究の内容・成果まず、ベクトルの合成・分解、運動の記述の前提である慣性の法則の直感的理解のため、ガリレイの放物運動の研究を出発点とした。ガリレイは、慣性の法則をはっきりとうち立て、速度がベクトルとして合成・分解できるということを示した。これを幾何ソフトで視覚的に示した。ここから、ケプラーの三法則から万有引力め法則・惑星の運行の解明の過程をたどり、ベクトル的考え方・運動の解析における微分的考え方の有用性が実感できるよう構成を考えた。「面積速度一定の法則」は慣性の法則と三角形の等積変形・「運動の第二法則」とベクトルの合成から導ける。ベクトルや力学は高校生にとって理解するのが難しいのであるがこ幾何ソフトを用いることで、理解が容易になったようである。さらに、速度の変化をベクトルの差で表し、「ケプラーの第三法則」から引力が距離の二乗に反比例すること(万有引力の性質)も示すことができ、これもまたベクトル概念・微分的な考え方の正当性の「demonstration」となっており、生徒の理解を強力に後押ししたようである。最後の、万有引力による惑星の軌道が太陽を焦点とする楕円軌道を描くことは、まだ生徒に授業実践できていないが、日本数学教育学会全国大会では、発表予定である。
著者
大平 誠也
出版者
尼崎市立中央公民館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、小学校6年生児童を対象にセルフモニタリング機能を有する体育の宿題(セルフチェック)を実施し、健康増進行動に与える影響を検討することを目的とした。健康増進行動については、体と心の両面から捉え、身体活動量の指標は歩数、精神面は運動有能感を取り上げた。本調査は、平成19年9月〜11月に調査した。歩数は、装着した歩数計で休み時間の行動記録を1日ごと求めた。まず、ベースライン期(1週間)、次に、体育の宿題(セルフチェック)用紙を用いて、1週間ごと4回(4週間)記録し、さらに終了1ケ月後(1週間)再調査した。精神面の変容の測定は、身体的有能感、統制感、受容感の3因子で構成された運動有能感測定尺度(岡澤、1998)で宿題実施前後、終了1ケ月後を実施した。求めたデータの処理は、Excel統計2004for windowsで行った。その結果、全体の平均歩数では、ベースライン期を基準に比較したとき、宿題開始第1週目は減少するが、第2週目は有意な増加に転じた。その後、有意差はないが終了まで安定した増加傾向であった。宿題終了後1ケ月の調査では減少し、ベースライン時への逆戻りを示唆する傾向が認められた。運動有能感は、実施後有意に3要因とも高まった。しかしながら、実施1カ月後では、差がなくなり逆戻りの傾向を示した。同様の男女別比較で男子の歩数は、1週目にやや低下するが、2週目以降増加する傾向を示し、4週目、1ケ月後に有意な増加が認められた。女子も1週目にやや低下し、2週目上昇するが、男子と異なり3週目以降は減少傾向を示した。運動有能感は、男子では、統制感、受容感が運動後有意に高まり、統制感は1ケ月後も高まった状況を持ち越した。一方、女子では、統制感、受容感ともに運動後に高まるにとどまった。男子では、歩数、統制感の持ち越し効果が期待できるが、女子は逆戻り傾向であった。
著者
藤谷 泰
出版者
京都府立久御山高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

報告者はこれまでに高等学校で「DNA塩基配列を用いた植物の同定と進化の解明」という授業を実施してきた。この授業では、植物のDNAの抽出から遺伝子の増幅、その塩基配列の決定から分子系統樹の作成を主眼としつつ、植物の観察同定、実体顕微鏡下での外部形態の観察を加えた内容を実施してきた。この授業の中で最大の課題は、「PCR増幅をいかに成功させるか」であった。授業を円滑に実施し、生徒に大きな達成感を抱かせるには、何としても生徒がサンプルにした植物の塩基配列の解読に成功する必要がある。これまでの経験上、PCRに成功しなかったサンプルは、ターゲットにしている遺伝子を内部プライマーを用いて2分割してPCR増幅させるとうまくいく場合が多かった。塩基配列が短いほどPCRが成功する確率が飛躍的に増大するようだ。そこで本研究では、植物系統分類学で用いられる遺伝子の汎用内部プライマーを開発することを目的とした。(1) プライマー設計の対象とする遺伝子は、植物系統群類学で用いるrbcLをターゲットとした。設計はprimer3 plusを使用して行なった。(2) 最初に設計したのは、過去の取り組みの中でrbcLを2分割してシーケンスしてきたが、2分割のつなぎ合わせの部分が読み取りにくい場合が多かったので、その部分をカバーするプライマーの設計を行なった。(3) 次に、rbcLは1400塩基程度なのでこれを4~6分割して読み取りができるようにプライマーを設計した。(4) 過去の実験でPCR増幅に成功してきているDNA抽出サンプル16種類(シダ、裸子、被子植物)を用いて、設計したプライマーのPCR成功率をスクリーニングした。(5) 成功率の高いプライマーを用いて、これまでのプライマーではPCR増幅ができなかったサンプルのPCR増幅を行なった。以上の結果、すべての植物に対応できるプライマーの開発はできなかったが、設計したプライマーを用いてPCR増幅を数種類テストすれば、これまで解読できなかったサンプルについても、解読できることがわかった。今後、このプライマーを用いて標本庫等の古いサンプル等にも適用して、実用化を検討する予定である。
著者
元日田 和規
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

核磁気共鳴画像診断装置(MRI)と超音波診断装置(US)を用いた検査の実施が診療放射線技師(R)や臨床検査技師(M)に認められている。これら専門職は大学、短期大学、専修学校の異なる年限で養成されている。本研究では、RとMのMRI検査とUS検査に関する臨床能力を教育と資格試験から解析した。1.専門職教育内容:R課程(40校)とM課程(73校)にシラバスの提供を依頼し、回収した各21校と36校1のうち、授業時間数・時期・内容・教育方法が記載されているシラバスを解析対象とした。世界放射線技師会のROLE OF THE MEDICAL RADIATION TECHNOLOGIST(Guidelines for the Education Of Entry-level Professional Practice In Medical Radiation Sciences)をもとに、MRIとUSに関するコンピテンスを「画像解剖」「疾患と診断」「撮像」「装置の構成と原理」「画質の評価」「ペイシェントケア」「チーム医療」に分類し、平均授業時間を養成課程間で比較した。各項目の授業時間比率は機関で異なっていた。MRIに関する「画像解剖」「疾患と診断」「撮像」「装置の構成と原理」「画質の評価」の授業時間はR課程がM課程より有意に長かった。USに関する「画像解剖」「疾患と診断」「装置の構成と原理」「画質の評価」はR課程で有意に長かったが、「撮像」は差は認められなかった。「ペイシェントケア」「チーム医療」はR-M課程間で有意な差は認められなかった。2.国家試験:全出題数200問に対するMRIとUSの出題数はRで8-12、5-6、Mは1-2、3-6で、MはMRIで妥当性・信頼性の乏しい臨床能力評価であった。3.学会認定試験:受験資格としてMRIは装置の性能評価データの作成、USでは3年以上の臨床経験を要件として認知の評価をしていた。
著者
花田 勝広
出版者
滋賀県野洲市教育委員会 文化財保護課
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

研究の目的古墳時代の渡来人は、ヤマト政権内部の技術変革と支配構造に影響を与えたこと知られる。古墳時代中期以降、須恵器・韓式系土器などの遺物・鍛冶遺構から技術系工人、横穴式石室などの群集墳に埋葬される固有性が顕著な事例では検証することが可能である。文献史学のミヤケ制を古墳群・遺跡・遺物などの考古資料を積極的に用い、渡来系氏族の存在を検証・新たな展望を示唆した。ヤマト政権の地域支配に渡来人が従来知られる以上に積極的に関わっており、本年度の研究費で下記の研究を実施した。視点と実施内容大型群集墳等の横穴式石室の実測調査は、平成20年7月~3月に集中的に花田が単独で実施した。ミヤケ推定地の遺物精査を平成20年8月~3月)に実施し、渡来人の墓制の実態と様相を、明らかにした。さらに、従来の韓式系土器などの遺物に加えて、私が専門に進めている大壁建物などの遺構を実査・確認することにより、渡来人集団の墓制の摘出を行った。平成20年11月に古代学研究会で、現状の成果を報告・要旨を一担整理した。平成21年1月以降は原稿の成稿に専念した。研究内容と成果基礎的資料の作成のため、渡来人の群集墳である大和の龍王山古墳群の開口する32基の実測調査を行った。平尾山古墳群の横穴式石室の実測は開口する10基の実測を行った。平尾山古墳群は、東洋文庫の梅原末治考古資料の目録調査を行い、消滅した20基の古墳石室図を確認した。群全体の石室間の規模格差・構築方法を考慮し実測を行った。画一化された横穴式石室の大群的な集約はヤマト政権の墓制へ規制とみた。渡来人が被葬者集団であり、墓制の実証的な横穴式石室のデーターを作成しながら、大型群集墳の形成の成因がミヤケ制と考えられるとの結論となった。畿内大型群集墳の中枢構造の渡来系氏族の高安・安宿郡の集落の把握、ミヤケ制の展開を知るため、畿内型横穴式石室の普及・確立過程を首長墓と併せて解明するため、福岡市那津ミヤケの設置された玄界灘沿岸、ミヤケの設置記事のある行橋市周辺の横穴墓、筑紫君磐井拠点地域の久留米市古墳など、渡来系資料の実査・古墳精査・報告書・論文の収集を集中的に行った。資料調査は、福岡・市埋文センター・宗像市・福津市・古賀市・那珂川町・前原市の渡来系遺物資料の実査と周辺の古墳の現地精査、飯塚市・行橋市・久留米などでも古墳の現地精査を行った。岡山県児島ミヤケや三宅里を調べるため岡山県総社市でこうもり塚・江崎古墳の精査を行った。渡来人の東海への渡来系資料精査のため、名古屋市の博物館の渡来系遺物実査を行った。ミヤケの設置は、畿内地域が渡来人集団に初源的な戸籍や編戸を伴った可能性が高く、大型群集墳は渡来系集団の造墓である可能性が高い。吉備ミヤケ周辺では古墳が当初地域的な特性を示す横穴式石室が形成されるが、7世紀初めには畿内型石室となる。筑紫の玄界灘沿岸には、那津ミヤケが設置されるが、墓制は福室の九州型石室であり、墓制の転換がなされていない。しかし、須恵器・製鉄遺跡は6世紀末以降にヤマト政権による直接的な生産支配が行われている。渡来系資料も数多く出土しており、渡来人の積極的な関与がなされている。欽明朝のミヤケ制は畿内・吉備は直接的であったが、他地域は、推古朝以降に制度的変革がなされているようだ。ヤマト政権の地域支配であるミヤケ制の解明は、墓制や渡来系遺物の様相より、渡来人の痕跡を明らかにすることにより、制度を考古学的資料から明らかにできた。また、畿内の横穴墓が豊前のミヤケ設置地帯から系譜を引くものであり、ミヤケ設置に伴う集団の畿内への移住が考えられる。史料から見ると秦氏の集住地帯である