著者
金子 えつこ
出版者
四国学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

プーシキン(1799-1837)の文体をロシア語近代語の成立という観点から分析している申請者は、プーシキンの散文におけるガリシズム、すなわちロシア語へのフランス語の影響について研究し、またプーシキンの散文における韻律性についても分析した上で、それらの散文における動詞の割合の高さ、完了体の含有率の高さ、一文の短縮傾向などにより生じる文体の「軽さ」についての理論化を試みてきた。その結果、存在がほぼ自明であるにもかかわらず定義のし難い「軽さ」というプーシキンの文体特性について分析する必要を見出した。そのため、近代文学言語の成立期における言語変化という潮流を視野に入れつつ、具体的な言語現象を同時代人カラムジンの文体と比較照合すことによってこれを精密に解析することを目指した。つまり、「文体特徴」はあくまで比較概念であるため、カラムジンをいわば物差しとして、両者の比較を通じて共通項としてガリシズムが出てくるか来ないかを明確にし、軽快さの根源にある言語特性を析出するということであった。カラムジンは、プーシキンと結果的に方向性は異なったが、プーシキン同様ロシア文章語の改革を目指した。彼の『あわれなリーザ』『ロシア人旅行者の手紙』における動詞〓の機能動詞化は著しく、「軽さ」を伴う独自の用法を持つことが確認された。また機能動詞とともに用いられやすい語彙、すなわち、単語のコロケーションについても分析した結果、西欧からの翻訳借入語や西欧文化の影響下で多用されるようになった思想感情表出に関わる語彙との距離に特徴が指摘された。この用法は統語レベルのガリシズムの一つとしても位置づけられるため、avoirおよびその熟語との相関も検討し、同様に〓の分析においてフランス語のfaireおよびその熟語との相関も検討した。「軽さ」という概念は近代語成立期の研究に関する新しい鍵となることが確認された。
著者
種市 淳子
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1. 研究目的本研究は、短期大学図書館における利用者のOPACを用いた情報探索過程を調査し、得られた知見をもとに、実証的観点から現状のOPACの評価と改善策を検討することを目的とした。2. 研究方法(1)ログ分析と(2)検索実験を用いた。(1)ログ分析:2004年〜2007年の各年の6月1日〜7月31日におけるOPACアクセスログを採取して分析した。なお実験対象としたOPACには検索のアクセスポイントに目次情報が付加されていた。(2)検索実験:短期大学生44名を被験者に、課題を用いた検索実験を行った。その際、探索前に、検索に使用する「情報源」及び「キーワード」の明確化を促す群と促さない群を設定し、収集されたデータ(検索画面の操作履歴、ヘッドカメラの映像、利用された情報源、発話プロトコル)から行動比較と分析を行った。3. 研究成果調査の結果、以下の3点が明らかとなった。1) OPACで実行される検索語は下位語と自然語が多用される傾向にあり、目次にヒットする割合が高い、また検索語にフレーズを使用する割合が年々増加している。2) 検索インタフェースに使用される用語(例:件名、分類コード)の認知度は著しく低い傾向にある。3) 探索前に「キーワード」を明確にした群は、「キーワード」を明確にしなかった群と比較して、OPACの検索実行数及び収集された資料数により高い数値を示した。以上の結果から、現状のOPACシステムについて、目次情報による検索アクセスポイントは利用者アクセスを促進する効果が認められること、OPACのインタフェースでは、短期大学生の検索リテラシーを考慮し検索用語の表記や説明方法に改善を要する点があることが示された。また探索前に探索目標(「情報源」「キーワード」)を明確化させる行為は情報収集活動に影響を与えることが明らかとなった。
著者
藤田 喜久
出版者
国立大学法人琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では,沖縄県下の離島地域に生息するヤシガニ資源の保全を目的として,1)離島地域におけるヤシガニの生息状況調査,2)野外調査機会を利用したヤシガニ資源保全に関する教育啓発,を行った.1) 沖縄県下の離島地域におけるヤシガニの生息状況調査沖縄県下の各島におけるヤシガニの生息状況を解明するため,南大東島,宮古島,多良間島,波照間島において,(1)海岸部におけるヤシガニ小型個体の生息状況調査と,(2)夜間踏査によるヤシガニの生息状況調査を行った.宮古島,多良間島,波照間島の3島におけるヤシガニの個体数は,宮古島では南部および北西部の海岸,多良間島では北部海岸,波照間島では北部および南西部の海岸で,それぞれ多く見られ,今後,これらの地域で特に資源の保全を図る必要があると思われた.特に,多良間島での個体数は極めて多く,夏期の調査では2kgを超える大型個体も複数観察された.また,宮古島と多良間島の海岸において,飛沫転石帯の転石下より甲長2cm未満の小型ヤシガニを複数個体(宮古島1個体,多良間島3個体)発見した.一方,南大東島では,ヤシガニ個体は洞穴内にてわずか1個体しか発見できず,資源量が激減している可能性が示唆された.2) 野外調査機会を利用したヤシガニ資源保全に関する教育啓発野外調査のために離島地域を訪れた際に,地域の博物館や公民館等(南大東島島まるごと館,宮古島市総博物館,多良間村ふるさと民俗学習館,波照間公民館)において,ヤシガニについての聞き取り調査を兼ねた談話を行った.特筆すべきは,宮古島市総合博物館との2度の協議により,2009年7月21日~8月30目に「ヤシガニと人の暮らし展」が開催されることが決定したことである.本研究の過程でヤシガニの様々な生態資料(写真,動画)が集まったので,それらを有効に活用することができると思われる.
著者
藤原 由弥
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は,小学校体育科で行われるボールゲーム・ボール運動に注目して,これらの運動に必要な「空間認知力」を6年間で育成するための系統表作成,ならびに,作成した系統表に基づいて単元開発授業研究を行うことを目的とした。ボールを扱うゲームの中では,攻撃の際により自分がパスをもらえるように有効な空間へ動く,または得点へとつなげるためにより有効なパスが出せる位置を探すことが必要になってくる。このように「運動をする中で瞬時に空間を認知し,より有効な空間へ移動したりパスを出したりする力」を「空間認知力」という。研究方法としては,小学校6年間で「空間認知力」を育成するための系統表を作成後,小学校2年生の単元「ゲーム『鬼遊び』」の中の「ボール運び鬼」を基本とした単元開発,授業研究を行った。授業は毎時間ビデオで録画した。「ボール運び鬼」は,宝(ボール)を持ったオフェンス(OF)が決められた空間にいるディフェンス(DF)を突破し,宝を運ぶ鬼遊びである。この運動には,OFが空間を認知し活用しながら攻撃する(空間認知力)という特徴がある。また,コートやチームの人数,ボールの数など,様々な要素を工夫することによって低学年から空間認知力を育成することができると考えた。本単元では,DFの制限区域を広く設定しDFの動きの自由度を高めることで,中学年以降のゴール型ゲームと近い状況を作り出した。また,5対5という少人数を基本としたり,単元の中でアウトナンバーの場も設定したりすることで,空間が生じやすいようにした。さらに,攻撃ではランプレー中心とすることで低学年でも取り組みやすい運動になるようにした。成果としては,空間認知力における「わかる」(認識目標)に対する子どもたちの変容が見られた。DFを突破するためのホイントを記述式で回答させたところ,92%の子どもがフェイクやストップなどの個人的な技や,おとり作戦や時間差攻撃,コートを広く活用するなどのチームの作戦がDFを突破するためには必要だと理解していることが分かった。また,技能目標に対する変容を見るため,抽出児童を決定して宝を運ぶ決定率を分析していくと,どの子どもも単元が進むにつれて決定率が上がっていることから,子どもたちは単元が進むにつれてDFを突破するために必要な空間認知力が向上していることが分かった。以上,アンケートおよび抽出児竜の決定率の変化から,本単元は,小学校2年生の「空間認知力」の育成に有効な単元であったと考えられる。
著者
玉田 一晃
出版者
和歌山県立田辺中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

ハゼ科ヨシノボリ属魚類の繁殖様式は基質産卵性で雄が卵の見張り保護を行う。ヨシノボリ属魚類にとって川床の礫石は産卵基質となる重要な繁殖資源である。さらに,礫石サイズは保育できる卵数を決定するので,雄の繁殖成功上重要な形質である。ヨシノボリ属魚類では,大型の巣石獲得をめぐる雄間競争が種内・種間レベルでみられ,大型の個体が優位に立つ。河川性カワヨシノボリは同所的に生息する両側回遊性ヨシノボリ類に比べて小型で,巣石獲得競争上不利であると考えられる。一方,カワヨシノボリは両側回遊性ヨシノボリ類に比べ極めて大卵少産なので,前者の巣石サイズが後者より小さくても問題は少ない可能性がある。仮に,カワヨシノボリが必要な巣石サイズが両側回遊性ヨシノボリ類より小さいなら,かれらが共存する場合,巣石獲得をめぐる種間競争は緩和されることが予測される。本研究ではこの予測を検証するため,まず,カワヨシノボリと両側回遊性ヨシノボリ類の共存地点において,各種がどのようなサイズの巣石を利用しているのか調査した。次に,カワヨシノボリについて巣石サイズ選択実験をおこない、同一河川に生息する,既に巣石サイズの選好性が明らかになっている両側回遊性ヨシノボリ類とその選択性を比較した。野外調査の結果、カワヨシノボリは両側回遊性ヨシノボリ類より小さな礫石を巣として利用し、その産着卵面積も小さかった。巣石サイズ選択実験の結果、雄体サイズが巣石サイズ選択性を決定する要因であり,種の違いは無関係であることが明らかになった。カワヨシノボリは共存する両側回遊性ヨシノボリ類より体サイズが小さいので、結果として小さな礫石を巣として利用していることになる。以上の結果より,河川性カワヨシノボリと両側回遊性ヨシノボリ類とは巣石獲得をめぐっては激しい競争関係にないことが示唆された。
著者
小笹 祥子
出版者
青梅重立第三中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

中学生の性意識と性行動を、携帯電話にスポットを当てその関係性を調査した。本研究は一般中学生502人を対象とした。質問紙による調査とインタビューを実施した。質問紙による調査は、自己記入記名式で実施した。調査項目は、携帯電話に関する項目、性意識に関する項目とした。携帯電話に関する項目は、予備調査を実施し項目決定をしだ。性意識の関する調査は、第6回青少年の性行動全国調査を参考に決定した。携帯電話は調査対象者の58%が所有している。男女の比較では女子の所有率が高い。携帯はメール利用が多く、一日の送信回数は30回以上、返信までの時間は30分以内、メールの返事が返ってこないとイライラする、携帯が手元にないと不安、と携帯に依存している傾向が示唆される。記名式質問紙調査のため性意識のみ調査しだ。結婚願望は高学年になるほど高率になるご結婚後の役割分担は学年、男女に大きな差は見られない。インタビュー調査から得られた結果から、男女交際に必要なツールとして携帯は不可欠であり、男女交際のコミュニケーション方法としてメールの重要度が高いと示唆された。携帯への依存傾向は質問紙調査でも示唆されているが、メール返信時間、返信回数、メール送信回数が男女交際の安定性に影響している。メール返信がない場合は、振られた、嫌われた、どうしよう等の不安感情と、むかつく、イラつく等の怒り感情が喚起されやすい。また、プログに交際状況を記載し、交際状況をオープンにする傾向もうかがわれる。結婚願望は、携帯高頻度使用群が高いと示唆された。
著者
岡田 美穂
出版者
福原学園九州女子大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

1.研究目的本研究は、存在場所ニ格の習得における日本語学習者の辿る発達順序で、存在場所ニ格と動作場所デ格との混同によるニ格の誤りが見られる発達過程の次には、どのような発達過程あるのかを明らかにすることを目的として、JSL環境、JFL環境の「中位レベル」の中国語を母語とする学習者を対象に調査を行った。2.研究実施計画(1)研究内容・方法文献研究によって第2言語習得としての格助詞習得研究、認知言語学の観点を取り入れた研究、国語学における格助詞研究について把握した(図書購入)。(2)調査JSL環境では福岡市の九州産業大学、JFL環境では九州大学との協定校である中国の大連外国語大学を訪問し日本語教員の協力を得て調査を実施した。また、学習者がどのような基準で格助詞を用いているかについてインタビューを行った(日中辞書購入)。(3)分析・結果調査票のデータをパソコン(購入)に入力し分析を行った(データ入力人件費、統計処理関係図書購入)。JSL、JFLの「中位レベル」に、存在場所ニ格を誤ってデ格とした誤答率と範囲限定デ格の正答率との間に正の有意な相関関係が見られたことから、学習者のニ格の習得において、存在場所ニ格と範囲限定デ格との混同によるニ格の誤りが見られる発達過程がある可能性があることが分かった。(4)研究成果の発表研究の成果は、2012年2月10日に韓国の仁川大学の「東アジア日本語・日本文化フォーラム」、同年2月18日に東京のお茶の水大学の「第二言語習得研究会関東大会」で発表した。このような研究を重ね、今後もしも格助詞の発達過程の法則性が明らかにされ、その法則性を使った格助詞教授のより効率的なアプローチが開発されれば、日本語教育者の一助になると確信する。
著者
北村 京子
出版者
三重県立盲学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

今回は、前回の奨励研究「重度の知的障がいを併せ持つ肢体不自由児のためのワンクリック教材開発と授業実践」の次の段階として、対象児を5名に増やしカスタマイズの有効性を明らかにすると共に、ワンクリック教材の研修会を実施し教員のICT機器の活用を広げることを目的とした。対象児は、知的障がいを併せもつ肢体不自由の子どもたちである。ワンクリック教材のカスタマイズは、以下のように行い授業実践を行った。小学部4年生のKさんは、触る位置を定位置から異なる位置に変化させ、集中力を養う。中学部3年生のRさんは、扱う言葉を身近な人の名前から行動を表す言葉や色の名前などに広げ、語彙を増す。小学部5年生のCさんは、触る部分の面積を徐々に小さくし、ランダムに位置を変化させ注視力を高める。小学部4年生のMさんは、利き手の操作から反対側の手の操作や左右ランダムな手の操作へと難易度を高め、操作力を高める。小学部5年生のIさんは、新たに開発した教材「九九マスター☆」を活用し九九を暗唱できるようにする。夏期休業中に研修会を実施した。電子黒板等の機器の紹介や作成した「カスタマイズマニュアル」を使用し、カスタマイズの仕方の講義とワンクリック教材の作成演習を行った。本研究の成果は、以下の通りである。(1)対象児全員がワンクリック教材を意欲的に集中して取り組み、各自の目標を達成することができ、カスタマイズの有効性が得られた。(2)「ICT機器は敬遠されている」と予想していたが、参加人数や「機器を使ってみたかったが、使い方がわからず使えなかった」という声の多かったアンケート結果から、研修会の意義を感じた。今後の課題は、研修会を増やすことである。自分自身も学校業務を抱えているため、時間を上手く活用し、研修会を設定できるようにする。ICT機器の活用を広げ、一人でも多くの子どもたちに合わせたワンクリック教材を提供してきたい。
著者
小西 弘江
出版者
兵庫医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

文書により研究同意を得た健常人ボランティアより毛根を20本程度採取して、total RNAを抽出した。精製後、マイクロチップ電気泳動システム(コスモアイ)を用いてRNAの分解がないことを確認後、逆転写反応とCy3標識反応を行い、試料に含まれる全てのmRNAからCy3標識されたアミノアリルaRNAを増幅・合成した。この増幅産物をDNAマイクロアレイチップをもちいて、ハイブリダイゼーションをおこない、毛根に発現する遺伝子のスクリーニングを行った。スクリーニングの結果、ケラチン17、ケラチン10、トランスグルタミナーゼ1、SPINK5等の遺伝性皮膚疾患の原因遺伝子の発現が確認された。しかし、ケラチン1など発現が確認されない遺伝性皮膚疾患関連遺伝子も存在した。文書により研究同意を得た健常人ボランティアの毛根より、total RNAを抽出し、high fidelityのポリメラーゼを用いたRT-PCRを種々の条件のもとでおこなった。その結果、翻訳領域を全て含んだケラチン17、ケラチン10、トランスグルタミナーゼ1、SPINK5のcDNAを増幅することができた。このPCR産物はシーケンスすることにより目的とする遺伝子が増幅されていることを確認した。これらのプロトコールは今後の臨床における先天性皮膚疾患の確定診断に役立てていく予定である。一連の実験により、ケラチン17、ケラチン10、トランスグルタミナーゼ1、SPINK5は毛根をもちいた遺伝子解析が確定診断に使用できることが分かった。
著者
山部 こころ
出版者
国立療養所大島青松園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

等温遺伝子増幅法の一つであるLAMP (loop-mediated isothermal amplification)法を応用して、日和見感染菌(metallo-β-lactamase保有緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌:VRE)の検査法を確立することを目的として研究を行い、以下の成果を得た。1.vanAならびにvanB遺伝子増幅のためのLAMPプライマーの設計薬剤耐性遺伝子(vanA, vanB)を標的として、LAMP反応に必要な4種類のプライマーをPrimer Explorer (Fujitsu : version 4)を用いて設計した。2.検出感度試験設計したLAMPプライマーを使用したLAMP反応によってvanAならびにvanB遺伝子の検出感度を調べた。その結果、LAMP法による両遺伝子の検出感度は既報のPCR法よりも高いことが明らかとなった(10 cells/tube)。また、遺伝子増幅に要する時間は40分であり、PCR法に比べて、大幅に検査時間を短縮できる可能性が示された。さらに、遺伝子の増幅を目視によって簡易判定できることが示された。3.特異度試験設計したプライマーの特異性はVREの臨床分離株80株と、関連細菌18種を使用して行った。この結果、LAMP法は従来のPCR法と同レベルの特異性をもつことが明かとなった。以上の結果からLAMP法をVREの検出、遺伝子型検査に臨床応用した場合、検出感度、特異性、迅速性と簡便性に優れた検査となる可能性が示された。4.LAMP法によるmetallo-β-lactamase遺伝子の増幅VIMならびにIMP遺伝子についてLAMPプライマーを設計し、遺伝子の増幅を試みた。その結果VIMについては遺伝子増幅を確認することができたが、IMPについては遺伝子が増幅しなかった。IMP遺伝子は多型性があり、プライマーの設計を再考する必要性がある。
著者
佐藤 淳也
出版者
岩手医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

現在、医療従事者の尿中から抗癌剤が検出されたとする人的被曝や調製室、安全キャビネット内に抗癌剤が残留するとした環境被曝の報告が相次いでいる。医療従事者における職業的抗癌剤被曝は、微量であるが長期にわたるため生殖毒性や発癌のリスク増加につながる。そこで、光エネルギーを利用して活性酸素を生じ、あらゆる有機物を分解する特性を有した光触媒を利用して、医療環境に残留する抗癌剤を分解し、医療従事者の職業的抗癌剤被曝を低減することが本研究の目的である。これまでの研究において、安全キャビネット内のステンレス板上に抗癌剤(シクロポスファミド)を実際の飛散状況同様に塗布し、ブルッカイト型二酸化チタン水溶液を噴霧した。これに、近紫外線を12時間照射した結果、シクロポスファミドの分解(分解率83%)を認めていた(佐藤淳也他,医療薬学37(1)57-61,2011)。しかし、シクロポスファミド以外の抗癌剤についての分解能については、不明であった。そこで、23年芝の研究にて、複数種の抗癌剤(5-フルオロウラシル、メソトレキセート、パクリタキセルおよびイリノテカン)での分解特性を評価した。その結果、上記の各抗癌剤において、既報に準じた方法によって、それぞれ分解率は、86%,97%,99%以上(定量限界以下)および87%の分解率が得られた。以上より、光触媒は、シクロポスファミド以外のあらゆる抗癌剤についても普遍的に分解する可能性が高く、医療現場における抗癌剤分解の有用な方法になると考えられた。
著者
中松 満始
出版者
千葉県立現代産業科学館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的:東京芸術大学所蔵の、国会議事堂正面他ブロンズ製扉製作に関する資料の基礎研究を行った。本扉は大蔵省営繕管財局から委嘱を受け東京美術学校(現東京芸術大学)が製作した。○研究方法:東京芸術大学所蔵の、国会議事堂正面扉に関する第一次資料をデジタルカメラで撮影しデジタルデータ化し、その全てについて精読後、特に重要な資料をタイプした。○研究成果:資料は全2冊に綴られ保存されていた。1冊目367枚、2冊目218枚、計585枚の資料を確認し、内容別に以下の4区分に大別整理した。1)大蔵省営繕管財局と東京美術学校との連絡記録2)東京美術学校と、ブロンズ扉地金鋳造会社である、住友伸銅鋼管との連絡記録3)東京美術学校内に設置した、扉製作工場に関する記録4)製作に伴う職員雇用等に関する記録1)の資料を整備し、大蔵省営繕管財局が委嘱先(東京美術学校)に提示した「仕様書」は、製作を請負った東京美術学校が事前に作成提出した「工作仕様書」を、ほぼそのまま転用していたことがわかった。また、扉製作は2回に分け学校へ依頼があり、1回目(正面玄関正面、側面、境界、衆議院玄関、参議院玄関の各扉)の工事のあと、2回目(総理大臣、大臣、秘書官室の各扉)の製作依頼・工事が実施されたことがわかった。つまり、東京美術学校による国会議事堂内ブロンズ製扉工事は、正面玄関正面扉(5組)、側面扉(2組)、境界扉(1組)、衆参両議員玄関扉(各院共3組)、総理大臣室テラス側扉(1組)、大臣室テラス側扉(2組)、秘書官室テラス側扉(1組)が、その全体であるとわかった。2)の資料を整備し、東京美術学校が住友伸銅鋼管から購入したブロンズ量(33t)とその発注回数(7回)がわかった。3)の資料を整備し、学校内に39坪の仮設工場を設置、次に担当教官であった津田信夫(つだしのぶ)の自宅工房を借用、さらに校内に3棟増築したことがわかった。また、仮設工場設置の記述文から立体図を作成し、各工場の外観図による復元を行った。4)の資料を整備し、製作に伴う雇用等については、学校教官2名を中心に、経理担当1名、製造技術担当1名のもとで、50名の雇用者が関わっていたことを確認した。さらに、本扉の図面製作(デザイン)は、学校教官であり製作責任者であった、津田信夫が行ったことがわかった。
著者
松田 光弘
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:中学女子生徒に対して行った柔道についての事前調査では,未経験の動きに対する不安な部分があることが分かった。そこで初心者でも,「よく分かる」「できると感じる」などの柔道における運動有能感を高めるような授業を展開していく必要があると考えた。○研究方法:柔道の立ち技は,一瞬で動きが完結するため,簡単に撮影・再生ができるタブレットPCが便利である。その再生動画をもとに相互に意見を出し合いながら動きを修正し,それをパートナーで繰り返しながら技能習得を目指す授業を展開した。○研究成果:運動に対する自信度における中位群・下位群では,有意な差が顕著に見られた。このことから運動に対する自信が低い生徒において,本研究が有効な手立てであることが示唆された。また,授業後の自由記述によるノートからは,「動きを再生して見ることでアドバイスがしやすかった」「上手な人から教えてもらったポイントは,なるほどと実感できた」など,動画を通じて授業意欲やコミュニケーション活動を活性化させる成果があったことが明らかになった。しかし,身体的有能さの認知という点において,上位群および下位群に有意な差が見られなかった。このことは,挑戦を必要とする難易度の高い技や攻防など勝敗を決するようなプログラムを組み込まなかったことが考えられ,今後の課題である
著者
田口 芳彦
出版者
岩手大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

研究目的:近年,機能性を有する大豆加工食品が注目を集めている,これら大豆の味噌加工行程における加熱処理工程の違いによるイソフラボン含有量を調査し,味噌の高付加価値化への検討を行った.研究方法:大豆「スズカリ」,米麹;白麹「雪こまち」塩「天日塩」を供試し,圧力蒸煮釜を用いて,A;20分煮熟,B;40分煮熟,C;20分蒸熟,D;40分蒸熟を行い6割麹味噌に仕込み,官能評価と明度およびイソフラボン含有量の調査をした.官能評価は,仕込み6ヶ月後に「色」,「香り」,「味」および「組成」の4項目を5段階(1=良い,3=普通,5=悪い)で評価し,明度は,ミノルタCR-200色彩色差計を用い,6ヶ月後,12ヶ月後に測定した.イソフラボン含有量は,仕込み直後と6ヶ月後の味噌についてHPLCで測定をした.結果および考察:イソフラボン含有量・・・乾物味噌100g中のイソフラボン量の比較では,仕込み直後では,C;150.18mg>D;140.61mg>A;112.34mg>B;110.42mgとなり,仕込み6ヶ月後では,C;93.19mg>D;90.66mg>B;75.83mg>A・74.89mgとなり,仕込み直後6ヶ月後ともに蒸熟が煮熟より高い値となった.官能評価・・・平均値で比較すると,A;2.92,B;3.00,D;3.08,C;3.42とAが,他の3種より高く評価され,Cは3.42と低く評価された.項目別では,色の評価は,Dが2.7と高く,香りの評価は,Aが2.7と高く,味の評価は,AとBが2.3と高く,組成では,BとDが2.3と高く評価された.味噌の明度・・・明度Y値で比較すると,仕込み6ヶ月後は,A;23.6>B;22.26>C;18.9>D;15.5となり,仕込み12ヶ月後は,A;18.7>B;18.4>C;16>D;13.7となった.以上の結果,蒸熟味噌は,煮熟味噌よりイソフラボンが高い値となり,また,処理時間が長いほど組成の評価は高いが,香りの評価が低くなった.明度は,蒸熟味噌が煮熟味噌より暗く,処理時間が長くなるほど暗い味噌となった.適切な処理時間を選定する事によりイソフラボン含有量が高い味噌醸造の可能性が示された.
著者
加藤 晃一
出版者
浜松医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

○研究目的国立情報学研究所「次世代学術基盤共同構築事業・学術機関リポジトリ構築連携支援事業・平成20-21年度委託事業(領域2)」の「ユーザ・コミュニティ構築による持続可能なシステム改善の枠組みの形成」プロジェクトで構築された、機関リポジトリ・ソフトウェア5種類の利用環境を提供するデモサイト(体験サイト)「UsrCom」の利用による未設置機関への影響、利用教育の効果について検証するものである。○研究方法「UsrCom」を利用した登録演習を行った国立情報学研究所の学術ポータル担当者研修(2回)とDRFワークショップ(2回、内1回は主催)で、主催者の協力の下、参加者アンケートの一部を用いて「UsrCom」の利用調査を実施し、分析を行った。また図書館司書課程の授業において「UsrCom」を用いた演習を行った別府大学や「UsrCom」を管理する千葉大学を訪問調査し、デモサイトに必要な機能等について意見聴取を行った。○研究成果利用調査では、研修後の復習や職場内研修等での「UsrCom」の教育効果を認める回答が多数あり、また未設置機関においては導入前のソフトウェア比較・検証のツールとして有効性を認める回答が多数あった。訪問調査では、平成24年度開始の司書課程の新カリキュラムでメタデータ作成演習が必要になることから、演習における「UsrCom」の活用で単位の実質化が期待でき、教育効果も高いとの意見を得た。本研究により機関リポジトリ未設置機関における「UsrCom」の影響力の大きさと利用教育における高い効果が認められた。
著者
杉本 恵司
出版者
奈良県立吉野高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的近年、多くの環境教育における取り組みが行われるようになったが、それらは理論面・技術面共に未熟で一過的な体験学習で終わっていることが多い。本研究では、環境教育のうち森林を題材とした森林環境教育における具体的な学習プログラムを構築しその学習効果を明らかにすることを目的とした。研究方法高等学校・森林科学科の科目「環境科学基礎」・「総合実習」・「森林科学」における学習内容のうち、人と自然との共生を意識できるものや森林の環境保全機能を実際に体験できるものを精選し、森林環境教育の学習プログラムとして構築した。学習効果については、授業を受けた生徒に対するアンケートを実施し、授業前後における生徒の環境に対する意識変化を調査することでその学習効果を検討した。研究成果科目「総合実習」では従来の演習林実習の他に、森林のもつ環境保全機能を実体験できる学習内容を加えた。また、教室内で授業を行う科目では開発したデジタル教材を利用した授業を行い、それらの題材を森林環境教育の学習プログラムとして編成し構築した。デジタル教材は、生徒の「衣・食・住」に関わる直接経験による既有スキーマを活用できるデジタル教材に仕上げた。例えば、「コウゾと和紙」・「クズとくず餅」等を題材として、生育中の植物とその利用物を同時に見せることで、生徒自らが独自の体験と結びつけ、自分の興味・関心に適応した題材で森林環境について学習する構成主義的学習指導を試みた。生徒に対するアンケートの調査を検討した結果、環境に対する内発的動機づけの段階として、以下の4つがあることを考察した。I.環境に対する感性の芽生えと育成II.森林等の自然の中に"共生"を学ぶIII.人間の生き方を含めて地球環境の未来を考えるIV.持続可能な地球環境のための行動をとる、である。さらに、生徒の「衣・食・住」に関わる直接体験を既有スキーマとして活用する構成主義的学習指導が森林環境教育には有効であることが伺われたが、その効果の客観性・科学性に検討の余地が残り今後の課題となった。
著者
渡邊 謙太
出版者
独立行法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

1)沖縄島と奄美大島に生育するボチョウジの性表現を明らかにするために、花の形態を計測し、花粉の有無、柱頭の乳頭状突起の発達から雌雄性を判断した。また性的機能について評価するため、野外での受粉実験及び、柱頭上での花粉管の発芽・伸長実験を実施した。これらの結果から、沖縄島のボチョウジは形態的には二型花柱性的であるが、Lタイプ(長花柱花)の葯は花粉を完全に欠き雌として機能していること、Sタイプ(短花柱花)の雌蕊は機能を失い、強制受粉によっても果実を作らないため、実質雄として機能していることが判明した。これらの結果は、ボチョウジが二型花柱性の祖先から、雌雄異株へと進化したことを示唆している。二型花柱性が一般的なボチョウジ属約1800種の中で、機能的に雌雄異株に進化した例は、ハワイの11種を除くと初めての発見である。(論文投稿中)。2)ナガミボチョウジの性表現を明らかにするために、沖縄島の乙羽岳、嘉津宇岳、末吉公園の3集団から花を採集し、花形態の計測と形態からの雌雄性の推定を行った。また機能性についても受粉実験等による評価を実施した。この結果、一つの株に機能的な雄花、雌花、両性花を含む、雌雄同株であることが明らかになった。この雌雄性については集団ごとにも偏りがみられた。二型花柱性のグループの中で雌雄同株が見つかるケースは極めて珍しく、その進化的経路の解明が望まれる(種生物学会にて発表)。3)琉球列島と近隣の台湾、蘭嶼島に分布するボチョウジ属の系統関係を明らかにするためにDNAサンプルを採集した。現在、これらの材料を元に系統解析と倍数性の解析を進めている。フィリピンのナガミボチョウジについては、フィリピン国立博物館にて標本調査を実施した。これらの調査から、少なくてともナガミボチョウジが集団間で形態的に大きな相違があることが明らかになってきた。今後、形態と分子データによる分類学的再検討が必要である。