著者
倉 真一
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.113-128, 2006

本稿は1980年代以降に創刊された新興の保守系オピニオン誌の一つである『SAPIO』における外国人言説を考察したものである。1989年の創刊から1990年代前半までの在日外国人に関連する記事を分析した結果、「われわれ=日本人」という主体による「混住社会ニッポン」の実現が90年代初頭には語られていたが、そこで暗黙に想定されていた「外国人」とは、『SAPIO』の主要な読者である企業サラリーマン層からみて同質性が高く、理解可能でコントロール可能な客体、いわば他者性を縮減された「外国人」であった。しかし「外国人犯罪」に関する記事のなかで、「外国人」=加害者(主体)と「日本人」=被害者(客体)という図式が強まり、「外国人」を理解やコントロールが困難な他者性を孕んだ主体として表象するようになるにつれ、最初期の「混住社会ニッポン」を構想する主体としての「われわれ=日本人」という言説は後退し、やがて「混住」というキーワードは誌面上から消えてしまう。かわりに誌上に現れたのは、日本社会にとって〈有益な外国人〉-〈有害な外国人〉という二項対立的な図式であり、それが1990年代後半以降における『SAPIO』の外国人言説の基調をなすことになる。
著者
新井 克弥
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-16, 2004

これまでコミュニケーション論において焦点をあてられてきたのは情報の伝達的側面であった。どのような方法によれば相手に情報が伝わるかを課題に、機械における情報伝達プロセスをシミュレートする形で検討がなされてきた。だが、情報化社会が進展する今日、このような戦略は有効性を失いつつある。情報が膨大化、価値観が多様化することで、人間間の情報伝達においては情報が正確には伝わらないことが基本となってしまったからだ。それでも人間はコミュニケーション動物であり、いかなる形であれ他者と関わりあい続ける欲求がなくなることはない。本論ではF.マルチネの、コミュニケーション機能のオルタネティブである表出的側面についての議論を検討することで、情報が伝わらない現代人における新しいコミュニケーションの有り様を提示している。
著者
阪本 博志
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.263-282, 2010-03-05

「マスコミの帝王」と呼ばれた評論家・大宅壮一(1900-1970)は、1965年から亡くなる直前まで『週刊文春』誌上で対談を連載し、毎回各界の第一人者との対談をくりひろげた。今日では忘れ去られているといってよいこの対談について筆者の作成した記録を示し、『週刊公論』『改造』などにおける大宅による他の連載対談の記録との比較から、その重要性をうきぼりにする。そしてこの対談の変容をさぐったうえで、考察を加える。
著者
有馬 晋作
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-17, 2013-03-08

橋下徹氏は大阪都構想実現のため、大阪府知事職を任期途中で辞任し大阪市長選挙に出馬するという前代未聞の行動に出て、2011年12月大阪市長に就任した。その後、大阪都構想実現に向けての市政改革に積極的に取り組んでおり、就任1年が経とうとしている。一方、橋下徹氏が代表の「大阪維新の会」は国政進出を目指し、公約の「維新八策」を掲げ国政新党「日本維新の会」を立ち上げるなど、今や国政レベルの台風の目となっている。本論文は、このように、現在、全国において最も注目されているともいえる橋下徹氏が担う大阪市政について、その政策展開の特色を明らかにするものである。
著者
田縁 正治
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.135-145, 2009-03-06

オープンソースソフトウエアを利用して宮崎のご当地検定試験の処理システムを開発した。開発はHTML、JavaScript、PHP、そしてMySQLを利用するためのSQL文を利用して行った。検定試験は1000名を超す受験者があったが、このシステムを利用することで受験票の作成から合格証書の作成まで行うことができた。課題も見出された。ひとつはサーバをきちんと独立させるためにアップロードやダウンロード機能をつけることなどである。今後さらに改良を重ねてより使いやすいシステムにしていくことが確認された。
著者
大賀 郁夫
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-20, 2008-03-07

元禄三年九月、日向国延岡藩領臼杵郡山陰・坪屋両村の百姓一四〇〇人が、隣藩高鍋領へ逃散する事件が起こる。百姓たちは高鍋藩を仲介して延岡藩と交渉を続けるが、途中交渉が難航し結果的に帰村するまで一〇カ月にも亘ることになる。従来の研究では、百姓たちの提出した「訴状」をもとにして、延岡藩の農政を「苛政」と評価する研究がほとんどである。しかし、当時領主は「御百姓」を撫育し「御救」することが、また百姓も年貢上納に出精する「御百姓」であることが求められた。しかし災害の続くこの時期そうした「仁政イデオロギー」の実現は困難を極めた。小稿では、百姓側の「訴状」と領主側の「子細書」の内容を具体的に比較し、何が問題となっているかについて考察した。 「御百姓」への「介保」「百姓勝手」のために奔走する郡代の政策は、百姓たちにとっては「迷惑」でしかなかった。そうした双方の思惑の「ズレ」が、逃散事件の根源的要因であったことを明らかにした。
著者
森部 陽一郎
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.289-300, 2005-03-22

「情報デザイン」という、分かりそうで分かりにくいものについて、先行研究より情報デザインの定義を押さえる。また、この情報デザインについて理解するために、まず、ネイサン・シェドロフによる、「理解のスペクトル」とリチャード・ソール・ワイマンによる整理の5つの基準について紹介した。そして、この情報デザインの考え方を実際のwebサイトの構築にどのように活用できるのか、可能性について考えた。さらに、そのように構築されたwebサイトが今後考えるべき方向性として、「ユーザビリティ」と「アクセシビリティ」について述べた。
著者
李 善愛
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.15-27, 2008-03-07

セマングム干潟事業は、全羅北道郡山市・金堤市・扶安郡地域に多目的用地を確保するため、万頃川、東津川河口の干潟を開発して国際貿易港を建設するため政府と農漁村振興公社が資金を出して1991年に始まった。2011年完成を予定とし防潮堤33キロメートル築造、約4万ヘクタールを開発する国策事業である。開発した土地は淡水湖、食料団地建設などを計画している。セマングムは古くからの穀倉地帯で、有名な万頃・金堤平野があり、新しい玉土という意味をもっている。1996年に始和湖の水質汚染が社会問題になり、環境団体が淡水湖予定のセマングム湖の汚染を取り上げ、干拓事業の白紙化を要求する運動が始まった。そのため1999年には干拓事業を中断し、環境影響について1年余り調査をした。しかし、2001年に政府は環境親和的に順次開発することで、干潟流失などの環境問題を最小限にとどめるとして、当初の事業目的を実現するため、干拓事業を再開した。
著者
川瀬 隆千
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.29-40, 2010-03-05

大学生(N=163)を対象に、「親性準備性尺度」(佐々木, 2000)を用いて、ボランティア活動などによる子育ての体験と親準備性との関連について検討した。その結果、子育て体験を持つ学生(N=35)は、そのような体験を持たない学生(N=128)より、高い親準備性をもっていることが認められた。特に、子育て体験は「乳幼児への好意感情」と関係していた。また、子育て体験のある学生は、そのような体験のない学生より、「親になるイメージ」を明確に持っている傾向があった。しかし、子育て体験と「育児への積極性」との関係は認められなかった。さらに、親準備性の性差について検討した結果、女性(N=128)は男性(N=27)より「乳幼児への好意感情」が高く、また「育児への積極性」が高い傾向になった。しかし、「親になるイメージ」については性差が認められなかった。このような結果は、子育てを学習する場が日常生活の中から失われつつある今日、ボランティア活動などを通して子育てを経験することが、これから親になる若い世代にとって極めて重要であることを示唆している。学生など、若い世代に対する意識啓発と共に、地域の中で子育てを体験できる機会や場を増やしていく必要がある。
著者
李 善愛
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-13, 2002-03-20

ハマグリ碁石は宮崎県日向市の伝統産業のひとつである。その歴史は約100年に至っている。しかし,原料となるハマグリは採りすぎによって日本国内での供給が難しく,その不足分はメキシコや東南アジアなどの海外から買い入れて補っている。また,囲碁人口も年々減っているのが現状である。そのため,関係業者はインターネットをとおして国内市場を含めて海外の碁石市場を開拓している。さらに毎年,囲碁大会を開き,囲碁への関心を呼び起こすことにも力を入れている。本稿では,日向灘のハマグリ碁石をとりあげ自然の生物体の資源化過程と,「伝統文化」の生成について歴史的な視点から考えてみたい。
著者
久保 和華
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.91-97, 2005-03-22

現在日本の年金制度は賦課方式に近い財源方式を採用している.したがって少子高齢化の進展にともなって年金保険料,年金給付額が変化しその比率も変化するのは明らかである.しかし,公的年金制度の保険料負担と年金給付のバランスが世代によって大きく異なるとみなされている点により,現在の公的年金制度は世代間の不公平をもたらしていると指摘される.年金政策の中でも有効な選択肢であると考えられている支給開始年齢の引上げ政策が世代間格差へ与える影響を久保(2004)の一般化を通して考察する.
著者
山本 明夫
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.279-297, 2012-03-02

「ますます気忙しくなった」といわれる現代だが、ことばの簡素化や外来語の氾濫とともに、人間関係が実利一方・カサカサな状況になってきてはいないだろうか。放送に使われることばも、いわゆる[体言止め]を多用するケースが多くなったようで、言い切り口調が我々の世代にはいささか気になる。どのような意図で体言止めが使われるのか。また「放送が始まって以来、ニュースのことばがどのように検討され、変わってきたのか」を、『20世紀放送史』をはじめとする書物や、NHK放送博物館に残された資料、さらにアーカイブズの保管ビデオなどを頼りに探った。本編(下)では、戦後について民放を含めて変遷を見ることとした。
著者
山本 明夫
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.271-290, 2011-03-04

「ますます気忙しくなった」といわれる現代だが、ことばの簡素化や外来語の氾濫とともに、人間関係が実利一方・カサカサな状況になってきてはいないだろうか。放送に使われることばも、いわゆる[体言止め]を多用するケースが多くなったようで、言い切り口調が我々の世代にはいささか気になる。どのような意図で体言止めが使われるのか。また「放送が始まって以来、ニュースのことばがどのように検討され、変わってきたのか」を『20世紀放送史』をはじめとする書物や、NHK放送博物館に残された資料、さらにアーカイブズの保管ビデオなどを頼りに探った。
著者
永松 敦
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.205-220, 2005-03-22

山の神信仰は日本民俗学にとって長い間、解決できない大きな問題である。柳田国男以後、山の神は祖霊信仰の中核をなす存在として語られ、死後の霊が山に登り山の神となり、それが、盆や正月、或いは、地域の人々の要求に応じて山と里とを往来するものと考えられてきた。しかし、九州山間部の狩猟民俗から山の神を仔細に見ていくと、山の神という言葉そのものは18世紀以後の狩猟作法書中に頻出するようになることが認められ、さらに、これらの作法書は、修験祈祷書として作成されたものであるが、村人の手習い本として数多く書写されるようになり、必ずしも全てが修験文書であるとは言えないことが分かってきた。本稿は、実際の狩猟の解体作法から、山の神がどのように関わり、且つ信仰されているかを観察することにより、山間部の民衆に根付く山の神観というものを浮き彫りにし、そこから山の神信仰の系譜を読み解こうと試みる小研究ノートである。
著者
田縁 正治
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.113-128, 2003-03-20

コンピュータグラフィックスにより,3次元の建造物を仮想的に作成する方法を検証した。3次元グラフィックスは2次元グラフィックスとは全く異なった手法が必要であり,コンピュータのハードウエア及びソフトウエアの両面で高い性能が必要である。特にリアルなグラフィックスを作成しようとすると,写真データを利用することが必須であり,この結果コンピュータが負担しなければならない処理量が大幅に増大する。検討した結果,増大した処理量を短い時間で処理するよう効率の良いプログラムを作成するには言語としてVisual C++を使用することが良かった.また,3次元空間を作成し,テクスチャを貼り3次元から2次元に変換するためのプログラムを作成するにはMicrosoft社が無償で提供するDirect Xを使用することが良い方法であることが分かった。ハードウエアに関してはNVIDIA社製のGeFORCE4は十分な性能を持っていた。これらの性能を実際に検証するためのプログラムは宮崎公立大学を建造物として作成した。これは,センター試験を受験するために宮崎公立大学を訪れる高校生に,試験会場内を仮想的に訪れることを支援する目的で作成した。このプログラムを利用した結果,いくつかの改良点が見出されたが,昨年の同様の目的で作成したプログラムに比べてリアルで好評だった。
著者
大賀 郁夫
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-20, 2011-03-04

近世において、地域社会で起きる民事事件の多くは、当事者間や地域内部の調停で内済されていた。刑事事件でも内済は存在し、犯罪探知内済と吟味内済の二種の態様があった。刑事事件が起きた場合、実際に犯人を捕縛し事情聴取を行うのは在地役人であった。藩から検使が出役する場合、在地役人らは事前にどの程度まで事件への関与が可能であったのだろうか。小稿では、延岡藩領宮崎郡を対象に、文久二年上別府村縊死人事件と、安政三年盗人殺害事件、それに天保九年大塚村弁太親伊平次殺害事件の三件をとりあげ、検討した。その結果、事件発覚後の最初の調査は盗賊方や目明らによってなされたこと、彼らは地域に細やかなネットワークを築いておりそれが犯人捕縛に寄与したこと、自力制裁権の行使はある程度黙認されたことなどが明らかになった。宮崎郡は藩領や幕領が入り組んでおり、旅人や商人などが数多く入り込む地域であった。そのため事件解決では藩領を越えたネットワークが構築され機能していたのである。
著者
新井 克弥
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-12, 2006

80年代、分衆/少集論を中心に展開した消費社会論は現代思想、マーケティング、社会学等様々な分野で議論と対象となり、その間続いたバブル景気の理論的な援護射撃を演じた。だがバブル崩壊とともに、その有効性は失われ、これら議論が展開されたこと事態がすでに過去のこととなっている。そこで、本論ではこのような消費社会論がなぜ発生したのか、そして、どのような変容を遂げ今日に至っているのかをボードリヤール理論の受容過程を辿ることで明らかにすると同時に、現代人のコミュニケーション行動との関連での今日的な有効性について考察する。
著者
下 絵津子
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.149-167, 2006

ポートフォリオとは基本的には「ある目的のもとに学習者の作品などを収集したもの」であるが、それを有効に活用するためには、「収集・選択・内省」(Hamp-Lyons & Condon,2000)などの特徴を考慮しなければならない。本稿では、まず、語学教室においてポートフォリオを効果的に活用するためのこのような特徴を整理し、ヨーロッパ各国の第二言語教育において組織的なポートフォリオの導入を試みるヨーロッパ言語ポートフォリオ(ELP)を紹介する。さらに、「評価用ポートフォリオ」を利用した筆者の授業におけるその使用を考察し、日本の語学教室におけるポートフォリオの活用・普及にむけての課題を整理する。ポートフォリオは、学習者と教師の「協働評価」であり、その活用によって、両者が自らの活動に対して互いからフィードバックを受け取るという構図が実現できる。また、それは、学習者オートノミー、教師オートノミーを促進することにつながる。ELPプロジェクトがそうであるように、ポートフォリオ活用は語学教育にプラスの効果をもたらす可能性は非常に高い。そのようなポートフォリオ活用への理解を促進するために、また、日本の語学教室での効果的な活用方法をさらに吟味するために、日本の中学、高校、大学の語学教育の現場でのポートフォリオ活用例を集めることが必要だろう。普及にあたっては、その機能を明確化し、ポートフォリオの特徴の整理や、その活用の流れ、具体的な方法の提示が必須だと考える。
著者
四方 由美
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.115-132, 2008-03-07

本論文は、新聞の犯罪報道において女性の伝えられ方が変化したかを比較、分析し、報道の影響はどのようなものであるか考察を行った。女性が被害者の事件として「女子高生コンクリート詰め殺人事件」(1989年)と「岐阜中2女子殺害事件(2006年)、女性が被疑者の事件として「巣鴨子ども置き去り事件」(1988年)と「秋田連続児童殺害事件」(2006年)を取り上げ、約20年前と現在の報道を比較した。 その結果、女性被害者・女性被疑者どちらの場合も、ジェンダー規範に基づくネガティブな側面が強調されて伝えられており、その傾向に変化はないという知見を得た。女性被害者は、落ち度や異性関係を問われるなどセクシュアリティの側面、女性被疑者は、家事や育児の放棄などを例に母性の側面が特に強調されている。 一方、20年前の報道とは異なる傾向もみられた。2006年の2つの事件の報道にみられる特徴として、ブログ(日記風サイト)からの情報の報道、事件の背景を周囲の社会環境に求める報道などである。被害者のブログによる日記の報道は、なかでもセクシュアリティに関する内容が強調され、従来以上に被害者のプライバシーが侵害されているといえる。事件の背景を、少子化、共働き世帯の増加、児童虐待の問題など周囲の環境や社会問題と関連付ける報道は、従来のジェンダー規範を守らないことが犯罪につながるという認識を伝えるだけでなく、それを守らなかった者を責めることにより、ジェンダー規範を強化する働きがあるといえる。 こうしたメディア報道は、報道される当事者に対して報道被害をもたらすだけでなく、広く読み手にジェンダー規範を伝える効果を持つといえる。
著者
田中 薫
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.111-125, 2006-03-20

「出版産業」は東京の一極集中であると言っても過言ではない。また、「出版は東京の地場産業である」という日本出版学会の会員もいる。したがって、東京から遠く離れた地である九州の各県で、主要都市を中心に出版活動を行っている出版社はきわめて少ない。そして印刷・製本という製作面でのハンディがあるほか、出来上がった出版物を、地方かから全国の書店に向けて発送するという流通問題に関しても、条件的には不利である。さらに出版活動を企業として成立させ、継続していくためには、慢性的な書き手不足の状態から脱し、確保し、さらに発掘し、養成していくことが不可欠であるという意味では、それらのこともまた大きなネックとなっている。そこで、まず九州7県の各県における出版状況の現状について把握することとし、沖縄の現在についても、視野に入れて見てみたい。そして、地方で出版活動を行うことに伴う問題点はどこにあるのかについても検討し、そのポイントをあぶりだしてみることとしたい。