著者
齊藤 早苗 嶋 大樹 富田 望 対馬 ルリ子 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.339-348, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
23

過敏性腸症候群 (IBS) では, 腹部症状に関連する思考, 感情, 身体感覚などを回避する患者が多いことから, アクセプタンス & コミットメント・セラピー (ACT) の有用性が示唆されている. そこで, ACTの治療標的である体験の回避が, 消化器症状に関連した不安や腹痛頻度および腹満感頻度に及ぼす影響について検討する. 方法 : 便秘を自覚する女性244名 (IBSのRome Ⅲ診断基準を満たした128名を含む) に対して, 腹痛頻度および腹満感頻度, 体験の回避 (AAQ-Ⅱ), 消化器症状に関連した不安 (VSI-J), 抑うつ気分・不安気分 (DAMS) に関する質問紙調査を実施した. 結果 : 構造方程式モデリングの結果, 体験の回避が消化器症状に関連した不安に対して正の影響 (0.30) を示した. さらに, 消化器症状に関連した不安と腹痛頻度および腹満感頻度には有意な正のパス係数 (0.55) が示された (Χ2=1.13, df=2, p=0.57, GFI=0.998, AGFI=0.988, RMSEA=0.000). 結論 : 体験の回避は消化器症状に関連した不安を介して, 腹痛頻度および腹満感頻度に影響を及ぼすことが示された.
著者
石川 俊男 田村 奈穂
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.935-939, 2014-10-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

摂食障害(ED)の高齢化が認められるように思われるが,そのような疫学的な報告はきわめて少ない.今回,総合病院心療内科入院患者の解析により入院患者の高齢化について検討した.1998〜2008年までの入院患者数(1998年約40名から2008年約110名)をみてみると,入院患者数は神経性無食欲症むちゃ食い・排出型(ANbp)(1998年数名から2008年約60名)を中心に増えており,神経性無食欲症制限型(ANr)では増えていなかった.一方で,入院患者の平均年齢も上昇(1998年20歳代前半から2008年30歳代前半)しており,特にANbpでは入院年齢が平均約10歳(1998〜2008年)上昇していた.これは2012年の入院患者での成績でも同様で,ANbpでは平均37歳であった.中には60歳発症と思われる症例もあった.高齢ED患者では,若年ED患者や対照非ED患者と比較して,その症状や心理社会的背景が異なることも明らかになった.これらの結果から,摂食障害における重症AN患者の高齢化が示唆された.
著者
深町 花子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.30-35, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
23

女性アスリートにおいて, 三主徴をはじめとする心身医学的な問題は山積している. その中でも健常アスリート, 障害を有するアスリートいずれにおいても月経随伴症状がパフォーマンスを阻害していると感じている割合は大変高い. その月経随伴症状へは, 薬物による治療が第一に優先されるが, 薬への抵抗感を示すアスリートも少なくないため, 認知行動療法をはじめとする心理療法が有効である可能性がある. 中でも近年注目されているマインドフルネスは, 広範な身体的および心理的症状に有効であることが指摘されており, 今後の研究が期待される.
著者
伊藤 義徳 安藤 治 勝倉 りえこ
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.233-239, 2009-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
19
被引用文献数
4

近年,瞑想などを取り入れたマインドフルネスに基づく心理療法が注目されている.本研究の目的は,禅的瞑想を取り入れた集団トレーニングプログラムを作成し,このプログラムが,一般健常者の精神的健康に及ぼす影響について実験的に検討を行うことであった.また,効果の媒介変数として,認知的要因を想定して検討を行った.インフォームド・コンセントに同意した20名の一般健常者が抽出され,4週間のうちにほぼ毎日の自宅練習と週1回の集団セッションが課せられた,瞑想の練習は,教示の吹き込まれたCDに従い,いつでも気軽に行えるよう工夫されていた.その結果,本プログラムは,精神的健康における抑うつ傾向の軽減と,認知的側面においては思考抑制の減少,破局的思考の緩和能力の向上,理性的思考と感情的思考のバランスの回復などの効果をもたらすことが示された.本研究の可能性と限界について考察がなされた.
著者
原井 宏明
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1071-1078, 2011-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
6

認知行動療法と不安障害は今日,一般人でも名前だけなら知っているものになった.一方,知られることによる副作用もある.最初に,認知行動療法の普及に関して論じた.次によくある疑問を取り上げ,Q&A形式で答えるようにした.最後によく使われる技法について解説し,これから認知行動療法を受ける患者や,学ぼうとする治療者にとって参考になるようにした.
著者
山本 晴義
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.325-335, 1980-08-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

In order to ascertain whether or not the therapeutic mechanism of fasting therapy lies within the changes occurring within the central nervous system, an electroencephalogram was recorded before, during and after fasting therapy. This therapy consisted of complete fasting for 10 days with subsequent resumption of regular meals for 6 days. EEG data was passed to the computer using a Sanei Model Signal Processor 7TO7. The resultant power spectrum covered the frequency range from D.C. to 25Hz with 0.195Hz resolution. Such spectra were obtained from the left occipital region at various stages of the therapy. During the experiment, patients were awake with their eyes closed. Changes in EEG power spectra through therapy were examined by peak frequency and percent energy. The average peak frequency of forty patients was 10.3Hz before fasting, but it decreased to 9.5Hz following 10-day fasting. After the recovery phase, it again increased to 10.1Hz. This decrease in peak frequency through fasting correlates statistically with a decrease in blood sugar level (r=+0.36,P<0.05). Subsequently, the percent energy was obtained at a frequency range of 4 to 20Hz. This range was divided into three parts : 'theta' with a range of 4 to 8Hz, 'alpha' with a range of 8 to 13Hz, and 'beta' ranging from 13 to 20Hz. The average percent energy of 40 patients for 'theta', 'alpha' and 'beta' was, respectively, 16%, 63%, 21% before fasting, 18%, 65%, 17% after 10-day fasting, and 15%, 70%, 15% after the recovery phase. The percent energy of 'alpha' after fasting therapy was significantly higher than that of the pre-fasting stage (P<0.001), while the percent energy of 'beta' after fasting therapy was significantly lower than that of the pre-fasting stage (P<0.001). The significantly higher percent energy of alpha waves indicates the stable psychological state of the post-fasting period. On the other hand, the beta waves decreased during the fasting period, and they did not reappear again in the same fashion even after the recovery phase. As these waves indicate psychological conditions of anxiety, tension and irritation, their decrease may imply objectively that fasting can ease these symptoms. These neurophysiological findings imply that Altered States of Consciousness, or ASC, have much to do with the psychotherapeutic effect. Since ASC can be attained easily through fasting, it is suggested that fasting therapy is an effective somatopsychic approach.
著者
関口 敦 菅原 彩子 勝沼 るり 寺澤 悠理
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.225-229, 2022 (Released:2022-05-01)
参考文献数
19

近年,心身相関の認知科学的な背景の1つとして「内受容感覚」が注目されてきた.内受容感覚とは,呼吸・心拍・腸管の動きなど身体内部の生理的な状態に対する感覚を指し,ホメオスタシスの維持に必要な機能と考えられている.内受容感覚の障害はさまざまなストレス関連疾患で認められており,「脳」と「身体」をつなぐメカニズムでもある.Damasioらの研究により,リスク行動を選択する際には危険を認知する前に交感神経反応が亢進していることが確認されていることから,「身体」と「行動」の関連も説明可能で,内受容感覚は行動を規定する因子とも考えられる.本稿では,「脳」と「身体」と「行動」の相互連関の因果関係を示した研究として,われわれが行った内受容感覚訓練実験を紹介する.内受容感覚を強化する認知訓練により,不安および身体症状の軽減,行動の変化を観測し,将来的なストレス関連疾患治療への応用が期待された.
著者
栗山 一八
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.125-130, 1979-04-01 (Released:2017-08-01)

In this paper, the author outlines major topics in relation to the indications and limitations of hypnotherapy as the space does not permit him to present thorough and systematic discussions. 1. Treatment of carsickness by a single session. A single session of hypnosis was conducted to 1120 junior high school students suffering from carsickness. As the result, 89% of them showed improvement. A follow-up study 3 years later found complete cure in 45% of the subjects. 2. Application of hypnosis to endoscopic examination. Patients suffering from stomach disorders sometimes have difficulty in taking endoscopic examination due to their overwhelming anxiety. Hypnosis can make it much easier for the doctor to conduct the examination. 3. Hypnotherapy for patients with hemiplegia. The patients with serious motor disorder in the upper and lower extremities due to the sequelae of cerebral vascular disorders (eg. cerebral thrombosis or hemorrhage) showed improvement after hypnotherapy to such an extent that they had no longer serious problems in daily life. 4. Application of hypnosis to psychoanalysis. Hypnosis was applied to the course of psychoanalysis in order to break through resistance or facilitate treatment by using a post-hypnotic amnesic technique. 5. Application of hypnosis in behavior therapy.The image technique can be applied in the systematic desensitization procedure.6. Treatment of chronic stomach ulcers by prolonged hypnosis. Prolonged hypnosis was applied to the patients with chronic and intractable stomach ulcers who repeated aggravation and improvement over the past several years. Their symptoms disappeared within a short period of time with no recurrence. 7. Development of creativity. An image technique was applied to an artist who had been at a deadlock. As the result, he found a new idea to bring his ability to full play.The cases 1 through 5 show that hypnosis can provide other therapeutic approaches with an excellent therapeutic setting. Cases 6 and 7 indicate that hypnosis can be a direct approach to man's self-control. The limitations of hypnosis have different meanings depending on who uses hypnosis and how it is used. More discussions are needed because often it is not the limitations of hypnosis but rather the limitations of the hypnotist that need to be considered.
著者
中根 允文
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, 2007-01-01
被引用文献数
1
著者
甲村 弘子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.658-665, 2014-07-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

女性のライフサイクルを通じて性ステロイドホルモンは重要な役割を果たし,月経という現象は女性の身体面と精神面に大きな影響を与えている.体重減少や過度の運動,ストレスなどにより視床下部性無月経が起こってくる.やせによる栄養不良や強いストレスの影響下では摂食促進因子の作用が高まって性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌が抑制される.また,栄養不良によるレプチンの低下はGnRH分泌不全をもたらす.そして無排卵・無月経となる.このように摂食およびストレスと生殖機能は密接に関係している.月経困難症は女性の心身にさまざまな影響を与え,そのQOLを低下させている.器質的異常を認めない機能性(原発性)の月経困難症と,器質的疾患によって起こる器質性(続発性)月経困難症の2種に分類され,後者の代表は子宮内膜症である.月経周期の変動に伴って症状の現れる疾患は月経前症候群である.本症の症状は身体症状から精神症状まで多岐にわたる.その症状の発現には性ステロイドホルモンと中枢神経系の神経伝達物質(セロトニン系,GABA系)との関係が注目されている.
著者
野口 普子 西 大輔 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.856-860, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は,恐怖記憶の過剰な固定化と馴化・消去学習が進まない病態として考えられる精神疾患である.動物実験から得られた海馬における恐怖記憶のメカニズムに関する知見から,海馬の神経新生を適切に制御することができれば,恐怖記憶が保存される脳領域をコントロールできる可能性が報告された(Kitamuraら,2009).また,ラットにω3系脂肪酸を投与すると,海馬における神経新生を促進することが報告されている.そこでMatsuokaは「ω3系脂肪酸によって海馬の神経新生を活性化させると,海馬から早期に恐怖記憶が消失し,結果的にPTSD症状が最小化する」という仮説を提案した.われわれの,我が国におけるω3系脂肪酸サプリメントを補充する2つの臨床試験は,PTSDの発症予防に対する栄養や食による介入の可能性を示唆するものである.
著者
山崎 允宏 菊地 裕絵
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.242-248, 2021 (Released:2021-04-01)
参考文献数
43

肥満は, 発症および経過にさまざまな心理社会的因子が関わる, 代表的な 「心身症」 である. 肥満に対してはこれまで行動療法を含むさまざまな治療が試みられてきたが, 治療からの脱落や減量した体重の維持が大きな問題となっている. 治療からの脱落や減量した体重の維持に影響を及ぼす肥満患者に特有の認知的特性が明らかになってきており, 肥満に対する認知行動療法 (personalized cognitive-behavioral therapy for obesity : CBT-OB) が注目されている. また, 最近では肥満に対するスティグマの話題が, 医療の世界を超えた社会問題となっており, 患者の医学的アウトカムとの関連も明らかになってきている. このような背景から, 今後肥満治療に対する心身医学の役割はますます大きくなっていくものと考えられる.
著者
松林 直 広山 夏生 森田 哲也 東 豊 児島 達美 玉井 一 長門 宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.519-524, 1996-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

原発性甲状腺機能低下症を伴ったACTH/LH欠損症の48歳の女性を経験した。患者は32歳時頃より、全身倦怠感、めまい、嘔気、不安感、悲哀感などを訴え、38歳時、当科関連N病院心療内科を受診し、不安、うつ状態を伴った自律神経失調症と診断された。夫婦関係が問題とされ、心理教育的アプローチが夫婦になされたが、症状の消失はなく、患者は頻回の入退院を繰り返した。平成5年、多彩な症状が持続していることから、内分泌疾患、特に下垂体疾患を疑い、関連検査を行ったところ、原発性甲状腺機能低下症を伴うACTH/LH欠損症が明らかとなり、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンの補償療法を行ったところ、症状の改善をみた。
著者
須賀 良一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.611-616, 1987-12-01 (Released:2017-08-01)

In our clinical practice, we often see depressive patients with a past history of physical illness. But it is unknown whether or not there is a significant relationship between depression and physical illness. Problems on the relationship of these two factors are summed up as follows : 1) Is there a significant relationship between depression and physical illnesss? 2) If there is, why is it? I took notice of the temporal cluster between the onsets of depression and physical illness to solve these problems. Purpose of this report is to give an answer to our questions. The samples were 61 patients (56.4±11.9 years old) who were diagnosed as major depression by Research Diagnostic Criteria. I interviewed them and made a survey of the past history of physical illness, the period between the onsets of depression and physical illness, psychosocial stressors (psychological situations of "over load" or "loss") prior to the present depressive illness and premorbid character (Typus melancholicus, etc). I made a statistical analysis by the method of Yokoyama of whether or not a temporal cluster between the onsets of depression and physical illness was significant. Then I investigated a relation of psychological stressor and premorbid character to the onset of psysical illness. The results were summarized as follows : (1) There was a significant temporal cluster between the onsets of depression and physical illnesses, which were gastro-duodenal ulcer, gastritis, asthma, irritable bowel syndrome and cerebral apoplexy. (2) Most of these four diseases except cerebral apoplexy occurred under the psychological situation of "over load", and they are categorized into psychosomatic disorders. (3) Cerebral apoplexy was a possible psychological risk factor for depression. (4) Most of the patients had a premorbid character of "Typus melancholicus." From the results described above, two reasons can be considered for the significant temporal cluster between the onsets of depression and physical illness. One reason is that some of physical illnesses, e.g. cerebral apoplexy, are a possible psychological risk factor for depression. The other is that psychological stressor and premorbid character of "Typus melancholicus" facilitate the onsets of both some physical illnesses and depression.