著者
岡 孝和 小山 央
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.25-31, 2012
参考文献数
30

自律訓練法は不安,抑うつ,怒りなどの陰性感情を低下させ,自己認知を積極的なものに変化させ自己受容を促すという心理的効果がある.練習中,中心後回などの手足の感覚に関連する部位に加えて,前頭前皮質や島皮質など,内部感覚や情動に関連する皮質機能の活動が亢進する.両腕が「重たい」,「温かい」という公式を裏づけるように,骨格筋の弛緩と末梢皮膚温の上昇が生じる.交感神経活動に対しては抑制的に作用する.迷走神経活動に関しては,心臓迷走神経活動を賦活する一方で,消化管を支配する迷走神経機能亢進状態に対しては抑制的に作用する.さらに視床下部-下垂体-副腎皮質系を抑制し,機械的疼痛閾値を上昇させる.
著者
本谷 亮 松岡 紘史 坂野 雄二 小林 理奈 森若 文雄
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1193-1200, 2009
参考文献数
26

本研究の目的は,腰背部痛などの慢性疼痛の先行研究で提唱されてきているモデルに基づき,緊張型頭痛における,痛みの維持・悪化のメカニズムの臨床的妥当性を検証することであった.成人の緊張型頭痛患者72名を対象に,共分散構造分析を用いてモデルを検討した結果,モデルの適合度はGFI=0.86,CFI=0.94,RMSEA=0.078であり,モデルの妥当性が確認された.この結果から,腰背部痛などの慢性疼痛を対象として提唱されている「痛みの維持・悪化モデル」が緊張型頭痛患者に適用され,緊張型頭痛の日常生活への支障度は,痛みに対する破局的思考と痛みに対する恐怖の行動的側面である逃避・回避行動の両方の変数の影響を受けていることが示された.
著者
三輪 裕介 穂坂 路男 三田村 裕子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.65-69, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
8

関節リウマチ患者では約15%にうつ病が合併することが報告され,合併症の中では最多である.オキシトシンは幸福ホルモンといわれ,うつ病,統合失調症,自閉症,摂食障害,発達障害,心的外傷後ストレス障害などさまざまな精神疾患において関連することが報告されている.しかし,関節リウマチをはじめとする自己免疫性疾患での報告は少なく,関節リウマチでは,血清オキシトシン濃度と直接関連のある因子は報告されていない.血清オキシトシン濃度は,測定系の問題,疾患そのもの,治療薬剤などに影響される可能性があり,関節リウマチにおける抑うつに対する臨床応用については,慎重な判断を要する.
著者
高野 裕太 武田 知也 坂野 雄二 中野 倫仁
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.18-27, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
24

本研究の目的は,大学生の不眠症状に対して実施されている支援方法を整理し,各支援方法における不眠症状の改善効果をメタアナリシスで明らかにすることであった.文献検索にはPubMed,PsycINFO,CiNii,メディカルオンラインを使用し,989編の文献を抽出した.7件の研究をシステマティックレビューの対象とし,6件の研究でメタアナリシスを行った.その結果,大学生の不眠症状に対しては,不眠症に対する認知行動療法,睡眠衛生指導,cognitive refocus treatmentが実施されていた.不眠症に対する認知行動療法では不眠症状が有意に改善した(Hedges’ g=−0.78).一方で,睡眠衛生指導では不眠症状が有意に改善しなかった(Hedges’ g=−0.21).Cognitive refocus treatmentではメタアナリシスは実施できなかった.本研究の結果,不眠症に対する認知行動療法は有効性が確認され,支援の提供形態についての議論もなされた.睡眠衛生指導は重症度別における実施,cognitive refocus treatmentは複数の無作為化比較試験での追試の必要性が示された.
著者
赤林 朗
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.771-782, 2013
参考文献数
29

本稿では,まず池見酉次郎の提唱した,「東洋的心身一如を援用し,統合された一元論的な見方の重要性を主張する心身医学論」の理論的構成を批判する.そして,心身はもともと相互作用があるものであり,よりよい医療実践には,東洋的心身一如の概念であるとか,心身医学における一元論・二元論等の拙い哲学的論議は必要ではないと主張する.最後に,「心療内科」は,日本の曖昧性を好む文化的所産であると論じ,そのうえで文化的財産として,日本で定着していくには価値があると結論する.
著者
前田 聰
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.517-524, 1989-10-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3
著者
岡部 憲二郎 井尾 健宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.67-73, 2006
参考文献数
22

摂食障害患者402名において, 自分の体に対しての認識と願望を聞き取り調査した.BMI(body mass index)が18以上の人では97%が自分はやせ過ぎとは思っておらず, 80%がもう少しやせたいと思っていたが, 16未満の人では86%が自分はやせ過ぎていると思っており, 90%がそれ以上やせたいとは思っていなかった.AN-R患者に限定しても同じ傾向がみられた.体の一部が肥えていると思う比率はBMIに比例して増加した.願望体重はBMIと相関し, 実際の体重と願望体重との差もBMIと相関した.神経性食欲不振症患者はやせの評価基準を低めに設定してはいたが, BMIが16未満の人では95%が実際の体重よりも多い体重を望んでいた.しかし, BMIが16未満でも67%は太ることを嫌悪しており, やせ過ぎているという認知との不協和が生じるために, やせ過ぎていることを気にしないなど, 病識がないようにみえるのではないかと考えられた.
著者
北見 公一 奥瀬 哲
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.541-546, 1999
参考文献数
11

反復する胸背部痛で発症し, 器質的疾患を疑われたパニック障害(PD)の3症例を経験した.<症例1>19男性.過呼吸発作(HV)時必ず胸背部通を訴えるため, 器質的疾患を疑われた.著明な傍背柱筋の緊張と圧痛がみられ, 心理検査では神経症傾向著明.母親との相互依存関係が基礎にあり, 胸背部の筋筋膜通きっかけで発症したPDと考えられた.<症例2>40歳女性.職場を替わり責任が重くなってから胸背部通が出現.助間神経痛の診断で硬膜外ブロックを受けたが効果なし.心理的に防衛が強くアレキシシミあが主体で.胸背部痛は緊張による筋筋膜痛が原因であった.薬剤によりHV発作が誘発されPDと診断.アルプラゾラム他の投薬と筋弛緩法で改善した.<症例3>57歳男性.胸背部痛に対し多数回手術を受けたが効果はなく, 除痛手術目的で当科へ紹介された.雨助間〜背部の絞扼感で, 時折発作的に刺し込みHV様となった.胸背部傍脊柱筋には筋拘縮, 索状硬結, 圧痛がみられた.心理検査では行動化や神軽症傾向が強かった.以上よりもともと筋筋膜痛性の胸背部痛がPDを引き起こし, polysurgery傾肉になったものと考えられた.
著者
倉 尚樹 岡 孝和 安藤 哲也 石川 俊男 久保 千春 吾郷 晋浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.297-303, 2004-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
18

症例は21歳女性,37℃台の微熱が主訴であった.諸検査で発熱の原因となる身体的疾患を認めなかったこと,心理的ストレス状況下で症状が出現・増悪したこと,慢性疲労症候群の診断基準を満たさないことから心因性発熱と診断した.治療としてtandospirone 60mg/dayの投与と自律訓練法などの心身医学的治療を併用したところ,体温は徐々に正常化した.serotonin(5-HT)作動性の抗不安薬であるtandospironeは,5-HT_<1A>受容体を刺激し,5-HT_<2A>受容体の密度を低下させることで抗不安・抗うつ作用を示すといわれている.これらの5-HT受容体に対する作用は,体温を低下させる方向にも作用すると推測され,tandospironeは心因性発熱の治療薬の1つとして有用である可能性が考えられた.
著者
本間 洋州 高橋 昌稔 兒玉 直樹 岡田 和将 足立 弘明
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.734-739, 2018

<p>反復するげっぷと腹部膨満感を主訴とする27歳男性患者に対して, 各種身体検査にて器質的な消化管疾患を除外し, RomeⅢ基準に基づいて空気嚥下症と診断した. 一般的治療に対して反応性に乏しく, 職場不適応といった心理社会的背景をもつ症例と考えられたので, 生物心理社会的な治療アプローチを試みた. 生物学的観点からは, 空気嚥下の動画や腹部X線写真での腸管ガス像の変化といった生物学的変化を明示して病態理解を促した. 心理的観点からは, 失感情症傾向に対して受容的に関わりながら感情表出を促すとともに, 過剰適応傾向に対して自分の趣味に時間を割くことの重要性を説明して行動変容を促した. 社会的観点からは, 患者の知能特性として処理速度が有意に低いことに基づき職場における環境調整を行った. このような多角的治療アプローチを有機的に組み合わせることで, 難治性消化管症状の改善につながった空気嚥下症症例を経験したので報告する.</p>
著者
福西 勇夫 細川 清 中川 賢幸
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.619-627, 1987
被引用文献数
3

It is said that Tanshin-Funin (people who live and work alone away from their families) of more than a hundred thousand live in Japan. Recently there has been much discussion on Tanshin-Funin as social problems. But very few reports and investigations have been made about this subject. We reported psychosomatic health investigations on Tanshin-Funin in Kagawa by using General Health Questionnaire (GHQ) and the questions : What do you think of Tanshin-Funin? GHQ has been developed by Goldberg in England and translated by A. Nakagawa in Japan in 1985. It consists of 60 questions dealing with recent symptoms. It was known that GHQ discriminate effectively between psychiatric patients and normal controls. Especially, we can find the patients in the area of neurosis and psychosomatic disease by estimating total score of GHQ and 4 factors (somatic symptoms, anxiety sleep disturbance, social dysfunction, severe depression) by GHQ. <Subjects and Method> Subjects; 215 men in 20 companies, Tanshih-Funin in Kagawa Controls; 201 men in the same companies We made a comparison between subjects and controls by GHQ. (1) Total scores of GHQ (Mean score, Percentage of over 17 score) (2) Histogram of GHQ scores in subjects and controls (3) 4 factors (somatic symptoms, anxiety. sleep disturbance, social dysfunction, severe depression) (4) Siginificant items between Subjects and controls regarding 60 questions by x^2-test. We asked Tanshin-Funin the questions of concerning "What do you think of Tanshin-Funin?" <Result and Discussion> 1) Subjects showed a tendency of higher scores by GHQ than controls. Especially, Tanshin-Funin who think "Tanshin-Funin is bad" showed a neurotic tendency. This may be due to the existence of neurotic tendency prior to this job arrangement. 2) Subjects were characterized with their tendencies that they have anxiety about the future and they do not go out after, saying that they are too tired. 3) Subjects have been under unstable circumstances from the standpoint of mental health. Because Tanshin-Funin have been living irregular life alone and lacking in the communications with their families, and suffering from economic burden for the double life. Tanshin-Funin have psychosomatic problems, which are related to the idea that Tanshin-Funin is bad. 4) Psychosomatic health controls of Tanshin-Funin are necessary in each company.
著者
南里 明子 溝上 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.835-841, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

労働者における血中の葉酸,ビタミンB_6,ビタミンD,さらに,食事全体を考慮した食事パターンと抑うつ症状との関連を検討し,以下の結果を得た.1)男性では血中葉酸濃度が高いほど,3年後の抑うつ症状が少なかった.2)血中ビタミンB_6濃度が高いほど,3年後の抑うつ症状が少ない傾向であった.3)冬場の血中ビタミンD濃度が高いほど抑うつ症状が少ない傾向であった.4)野菜や果物,大豆製品,きのこなどの高摂取により特徴づけられる健康日本食パターンは,抑うつ症状の低下と関連していた.健康日本食パターンは,葉酸やビタミンC,ビタミンEなどの摂取と関連しており,これらの栄養素の複合効果により,抑うつ症状が低下したと考えられる.本研究は対象者数が少ないことなどいくつか限界点もあるため,今後さらに規模を拡大し前向き研究や介入研究により,うつ病予防につながる食事要因について検討を行う必要がある.
著者
松平 浩 川口 美佳 村上 正人 福土 審 橋爪 誠 岡 敬之 Bernd Löwe
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.931-937, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

目的 : Somatic Symptom Scale-8 (SSS-8) は, 身体症状による負担感を評価する自記式の質問票である. 今回, SSS-8をわが国へ導入するため, 原作の英語版を翻訳し, 言語的妥当性を担保した日本語版を作成した.  方法 : 原作者から日本語版作成の許可を得た後, 言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順 (順翻訳→逆翻訳→患者調査) に従って日本語版を作成した.  結果 : 日本語を母国語とする2名の翻訳者が, それぞれ日本語に翻訳し, 一つの翻訳案にまとめた [順翻訳] . 英語を母国語とする翻訳者が日本語案を英語に翻訳し直した [逆翻訳] . 次に, 原作者との協議を通じ, 原作版と日本語案の概念の整合性を確認し, 日本語暫定版を作成した. 筋骨格系疼痛および身体症状の経験を有す患者5名 (男性2名, 女性3名 ; 平均年齢54.4歳) に調査を行った結果, 全体として, 日本語暫定版の表現に問題はないと判断した.  結論 : 一連の過程を経て, 言語的妥当性が担保された日本語版SSS-8を確定した.