著者
出口 弘
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.122-132, 2014-04-01 (Released:2017-04-13)

本稿では日本の漫画を広く絵物語のコンテクストの中で位置づけ,その文化史的な意義と可能性を明らかにする。日本の絵巻や浮世絵,絵草紙,漫画などの諸コンテンツは社会階級に依存せず創作され,また複製や二次創作を積極的に是認する文化を持つ。これは欧州型の,オリジナル作品にオーラがあるとみなし二次創作を是認せず,権威による作品の評価を基軸とするアートの文化とは大きく異なる。本稿では,絵物語の歴史を概観しながら,あらゆる社会の場から表出され,異なる立ち位置の人々の世界観を混淆循環させる力と多様性を持つメディアとしての絵物語空間に着目する。その上で,漫画の様な絵物語を日本のサブカルチャーではなくメインカルチャーとして位置づけその可能性を論じる。
著者
佐藤 翔
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.2-8, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)

現代の学術情報流通は,「登録」,「保存」,「認証」,「報知」の4つの機能を担う査読誌を中心に成り立っている。学術情報流通の多様化とはこの4機能の実現方法の多様化にほかならない。より詳細には,従来とは異なる対象を4機能で扱う,一部の機能の実行方法を変える,一部の機能を独立させる・実施順序を入れ替える,と言った試みが行われるようになってきている。一方で,4機能自体の見直しを図ることは,提案はされても普及はしていない。本稿ではそれぞれ具体例を見つつ,学術情報流通の多様化の現状を捉えることを試みる。
著者
西山 絵里子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.572-578, 2016-11-01 (Released:2016-11-01)
被引用文献数
1

沖縄県は,戦後から本土復帰前までの米軍統治下における琉球政府時代(1952年-1972年)の公文書約16万簿冊のデジタル化を平成25年度より進めており,デジタル化した資料画像をインターネット公開する事業を進めている。膨大な量の近現代公文書をデジタル化し,デジタル・アーカイブズシステムによりインターネットで公開する事例は日本国内で類を見ない。近現代の歴史資料のネット公開における課題は,個人情報や著作物等が含まれる資料をどのように取り扱うかという点であり,資料年度が新しい近現代の資料であるからこそその特徴は顕著に表れる。本稿では,平成27年度の資料公開で直面した課題整理とその対応方針,及び平成28年度の展望について記述する。
著者
倉増 一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.331-337, 2016-07-01 (Released:2016-07-01)

米国では連邦巡回控訴裁判所に毎年100件を超える特許権侵害を巡る争いが控訴され,半数以上に特許侵害を認める判決が下る。判例主義の米国では,特許訴訟の判決も整理され,専門のウェブページで検索することができる。典型的な判決は専門書にまとめられており,当事者名が分かっている場合は,インターネットで直接検索して判決全文が入手できる。判決文に基づいて,明細書の記載を拘束する種々の自主規制(風説または都市伝説)が産まれている。しかし,判決全文を丁寧に読むと必ずしもそれらの風説が正しいとは言えない。代表的な判決例を参考にして,判決の読み方と企業が有効な権利をとるための方策を提示する。
著者
小林 潤平
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.525-530, 2016-10-01 (Released:2016-10-01)

文章を読み進める目の動きを効率化すべく,非効率な目の動きを改善する様々な仕組みを検討し,効果の検証を重ねた。その結果,文節にもとづく改行位置の調整や,文節単位で文字ベースラインを階段状にずらす表示方式,文節単位で左右に微振動させる表示方式によって,日本語文章を読み進める際の非効率な視点移動を改善できることがわかった。そして,それらの仕組みを電子リーダーに組み込むことで,理解度や読み心地を維持したまま,読み速度を向上できることがわかった。
著者
横田 カーター 啓子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.28-33, 2019-01-01 (Released:2019-01-01)

ITの発達によりあらゆる人が情報を発信することが容易になった。事実,フェイク,実物と識別が困難なディープフェイクが混在し,事実誤認も「違う形の事実alternative fact」とされ,また公文書の改竄が公然と行われる。自分の好む情報のみを取り入れる傾向が強まっている社会において,事実の記録・保存・提供という情報に携わる人々の仕事の重要性と社会責任はこれまでになく増しており,人文学司書の存在意義と役割は極めて重要になっている。
著者
坂東 慶太
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.189-195, 2018

<p>研究者SNSは,誕生当初は他研究者とのネットワーキングや自身のオンラインプロファイルとして活用されることが主流であったが,近年は論文共有の場として使われていることが幾つかの調査より明らかとなっている。これに伴い,新たな問題-研究者SNSで共有されている論文には,本来公開してはならない出版社版が多数アップされていること-が顕著化しており,学術出版業界が牽引して学術コミュニケーションの改善に取り組んでいる。図書館員は,研究ワークフローの各フェーズを支えている研究者SNSの機能・使われ方・問題などを理解し,研究者SNSが適切に利用されるよう支援活動に組み込む必要がある。本稿では,研究者SNSの概要と機能を確認した後,様々な調査報告に基づいて研究者SNSの利用実態・問題点を整理する。その上で,図書館は,研究者SNSに対してどのような取り組みが出来るのか・期待されるのかを考察する。</p>
著者
濱崎 好治
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.447-451, 2010
参考文献数
7

1988年に開館した川崎市市民ミュージアムにおいて,映像の収集,保存からデジタルアーカイブまでの事例を報告する。低予算で最大効果をあげるベストプラクティスをめざし,映像のデジタルアーカイブ化のプロセスを示し,動画から抽出した静止画像の検索と,映像に関連する情報のマネージメントをFileMaker Proで構築したプロトタイプを提示する。博物館として初めてテレビドキュメンタリー番組の収集と保存に取り組み,牛山純一テレビドキュメンタリーアーカイブの構築に着手し,現在は地域のニュース映画のデジタルアーカイブを構想している。
著者
岡野 裕行
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.513-517, 2016-10-01 (Released:2016-10-01)

ビブリオバトルは複数の人で読書を分かち合い,共有できるという機能を有している。読書のプロセスは,①本に出会う,②本を読む,③本を語る,④本を伝える,と細分して考えることができるが,ビブリオバトルは読書についてのそれらのさまざまな段階を言語化し,読書体験を共有する仕組みであると言える。本を読んでその面白さを語るということは,どこかの誰かのために知的好奇心の種をまく行為であり,ビブリオバトルによって,読書という概念は自分一人だけの静的なものから,複数の人同士の動的なコミュニケーションツールへと変わっていくことになる。
著者
橋元 博樹
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.244-250, 2015-06-01

学術コミュニケーション界,出版界ともにデジタル化が浸透していることは疑いようもない事実である。しかしこのふたつの領域で活動している学術出版社による電子書籍ビジネスは期待されているほど進んでいるわけではない。出口がみえないと言われる出版物販売額の低迷,すなわち「出版不況」のなかで,その一端を占める学術書市場はどのような状況にあるのか。本稿では学術出版社の活動に焦点をあて,大学教科書と大学図書館の印刷本市場を概観し,電子学術書の可能性を探る。
著者
田中 博之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.390-394, 2018-08-01 (Released:2018-08-01)

PISA型読解力は,社会の多様な資料やデータを比較して既有知識を活用しながら深く読み取り,読み取った結果を自分なりに解釈・評価してわかりやすく表現するという総合的な学力を意味している。21世紀社会に求められる新しいリテラシーとしてのPISA型読解力は,すべての国の子どもたちの基礎学力になることが求められるとともに,これからますますその育成方法や評価方法の研究を推進することが,OECD的な意味で国の経済発展の根幹になるものと考えられる。
著者
大瀬 佳之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.187-191, 2023-05-01 (Released:2023-05-01)

近年ChatGPTを代表とする,AIツールの様々な業務への適用が注目を浴びている。本稿では,競合調査においてAIツールと特許情報解析ツールを上手に組み合わせて活用することにより,高価な情報サービスを利用することなしに,効率的に充実した競合調査を実現する方法を提案する。競合調査は,知財戦略の立案や,企業の競争優位性の確保にとって重要である。従来,特定の大企業のみが実行可能であった大規模な情報収集,情報調査といったものが,AIツールや特許情報解析ツールを組み合わせて活用することにより,中小企業,スタートアップ等でも実行可能になりつつあると考える。
著者
坂東 慶太
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.189-195, 2018-04-01 (Released:2018-04-01)

研究者SNSは,誕生当初は他研究者とのネットワーキングや自身のオンラインプロファイルとして活用されることが主流であったが,近年は論文共有の場として使われていることが幾つかの調査より明らかとなっている。これに伴い,新たな問題-研究者SNSで共有されている論文には,本来公開してはならない出版社版が多数アップされていること-が顕著化しており,学術出版業界が牽引して学術コミュニケーションの改善に取り組んでいる。図書館員は,研究ワークフローの各フェーズを支えている研究者SNSの機能・使われ方・問題などを理解し,研究者SNSが適切に利用されるよう支援活動に組み込む必要がある。本稿では,研究者SNSの概要と機能を確認した後,様々な調査報告に基づいて研究者SNSの利用実態・問題点を整理する。その上で,図書館は,研究者SNSに対してどのような取り組みが出来るのか・期待されるのかを考察する。
著者
関谷 直也
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.372-377, 2012
参考文献数
18

東日本大震災において,人々は物理的な被害を受けていなくとも,直接的な地震・余震,津波の映像の視聴,放射性物質の飛散に関する情報などを原因として不安を強く感じた。また被災者への支援について不安を感じ,そのような状況にも関わらず情報が手に入らないことに不安を感じた。そしてそれらの不安を解消するために,情報を過剰に発信・受信しようとしたり,支援・団結を求めたり,他者への攻撃へと転嫁したりした。ある程度,時間が経過してからはさまざまな活動を自粛し,時間が経つにつれ,不安や震災について考えることなどは忘却され,平時の心理に戻っていった。