著者
氏家 和広 笹川 亮 山下 あやか 磯部 勝孝 石井 龍一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.59-64, 2007 (Released:2007-02-28)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5

本研究は,我が国でキノアの経済栽培を行う際に必要な基礎データを集収するために行ったものである.一連の研究の最初に,我が国の気象条件下でのキノアの播種適期を検討した.実験1では,南米の高地で栽培されているValleyタイプの品種と,高緯度・低地で栽培されているSea-levelタイプの品種を人工気象室内で栽培し,日長,気温が子実肥大および収量に及ぼす影響を調べ,播種適期を予測しようとした.Valleyタイプは,長日条件によって子実肥大が著しく抑制された.このため,関東地方南部においてValleyタイプを栽培する場合には,子実肥大期が短日条件にあたる7月以降に播種する必要があると考えられた.一方,Sea-levelタイプでは,子実肥大に日長は影響しなかったが,高温条件下で多収となった.そのため,子実肥大期が高温期にあたる3月~5月が播種に適すると考えられた.実験2では,上記のことを実証するために,屋外で播種時期を変えてポット栽培した.その結果においても,Valleyタイプは7月播種が,Sea-levelタイプは3月あるいは5月播種が,他の播種期に比べて高い収量を示したので,これらが関東地方南部における各タイプの播種適期であることが確認された.また,二つのタイプ間で収量を比較すると,Sea-levelタイプの3月,5月播種区の方がValleyタイプの7月播種区よりも多収であったことから,関東地方南部ではValleyタイプよりもSea-levelタイプの品種の方が適していると考えられた.
著者
磯部 勝孝 氏家 和広 人見 晋輔 古屋 雄一 石井 龍一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.167-172, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2 10

起源地が異なるキノア2品種を人工気象室で栽培し,昼夜の気温が子実肥大に及ぼす影響を明らかにした.供試した品種はValleyタイプのAmarilla de Marangani(以下,AM)とSea levelタイプのNL-6である.両品種とも播種から開花始めまでは昼温25℃,夜温10℃,日長13時間で栽培し,開花始めに昼温を25℃,夜温を10℃(25/10℃区),15℃(25/15℃区),20℃(25/20℃区)の3段階に設定する区,および夜温を17℃,昼温を20℃(20/17℃区),25℃(25/17℃区),30℃(30/17℃区)の3段階に設定する区の合計6区を設けた.全ての区において,開花始め以降の日長は11時間とした.キノアの子実肥大に対して10℃から20℃の範囲では夜温の影響はなかったが,昼温が20℃から30℃の範囲では両品種とも低いほど子実肥大が促進された.その結果,昼温が20℃の時の1000粒重が最も大きくなったが,これは粒径に対する影響であり,粒厚に対しては影響が小さかった.昼温を20℃にするとValleyタイプのAMは1000粒重と粒数が増加し,昼温が20℃から30℃の範囲では昼温が20℃の時に子実重が最も大きかった.一方,Sea-levelのNL-6は昼温が低くなるほど粒数が減少し,子実重は昼温が30℃の時が最も大きかった.このことからAMとNL-6では子実肥大の機構に及ぼす昼温の影響は異なると考えられた.
著者
磯部 勝孝 石原 雅代 西海 陽介 宮川 尚之 肥後 昌男 鳥越 洋一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.17-21, 2015 (Released:2015-02-23)
参考文献数
10
被引用文献数
1

播種時期の違いによる出芽率が異なる原因を明らかにするため,播種時の土壌の水ポテンシャル,気温並びに播種深度違いがキノアの出芽に及ぼす影響を明らかにした.圃場実験では6月,8月および10月にキノアの種子を播種したところ,8月播種区は他の区に比べ出芽率が低かった.8月播種区では他の区に比べ播種後の土壌の水ポテンシャルと温度が高く推移した.しかし,人工気象室のポット試験では20℃から34℃の範囲では最終的な出芽率には大きな違いはなかった.また,出芽に対しては播種時の土壌の水ポテンシャルが−5 kPaから−20 kPaの範囲では出芽率に大きな違いはなかったが,−40 kPaになるとほとんど出芽しなかった.このことから,播種期の違いによるキノアの出芽率の変動には播種時やその後の土壌の乾燥状況が影響していると考えられる.また,同じ水ポテンシャル間で播種深度がキノアの出芽率に与える影響をみると,播種時の水ポテンシャルが−20 kPaの時では播種深度が1.0 cmの時に最も出芽率が高くなり,それより播種深度が浅くなっても,深くなっても出芽率は低下した.同様の傾向は水ポテンシャルが−5 kPaや−10 kPaの時でもほぼ同様であった.従って,土壌の水ポテンシャルの変化を考慮した場合,最も適するキノアの播種深度は1.0 cmであると考えられた
著者
山内 稔
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.148-159, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
116
被引用文献数
3 5

稲作の低コスト・省力化のため直播栽培の普及が求められている.本総説では最近開発された鉄コーティング種子を用いた湛水直播技術について,発案と開発の経緯を他の直播技術との関連性に基づいて論じ,技術の内容と評価を概説する.鉄コーティング種子は浸種または催芽した発芽準備期のイネ種子を還元鉄粉で造粒して酸化処理した後乾燥したものであり,手作業で,または機械化して大量に製造できる.鉄コーティング湛水直播は表面播種であることと,コーティング済みの種子を長期保存できそのまま播種できる点において,酸素発生剤を使う土中播種や欧米およびアジアで普及している催芽種子の湛水または落水表面播種とは異なる.鉄コーティング種子は浮かず,スズメによる食害を受けにくく,また種子伝染性病害虫が発生しにくい.本技術を普及させるためにはコーティング種子作製時の鉄の酸化発熱による種子の損傷問題の解決,出芽遅延の軽減,苗立ち期の水管理の改善および収量の向上が課題であり,発芽準備期の種子に関する生理学的解析,点播,条播および散播における収量向上に関する実証的研究および無代かき条件下での播種技術の開発が望まれる.
著者
玉置 雅彦 吉松 敬祐 堀野 俊郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.677-681, 1995-12-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
11
被引用文献数
2 5

水稲有機農法(無化学肥料, 稲わら還元)実施後1年目から16年目までの米のアミログラム特性値と, 窒素およびミネラル含量を測定した. 米粉の最高粘度とブレークダウン値は, 有機農法実施年数の増加にともない増加した. 窒素およびミネラル含量は, 有機農法実施後1年目では慣行農法の結果と大差なかった. しかしながら, 実施年数の増加にともないN, P, K含量は減少しMg含量は微増した. これら成分含量の増減傾向は, 実施後5年目頃までの変化が大きかった. 食味指標としてふさわしいと考えられたMg/K比と最高粘度およびブレークダウン値との間には, 有意な相関が得られた. 以上のことから有機農法実施年数の増加にともない, 物性面ではデンプンの粘りの向上により, 成分面からみると, Mg含量の微増とK含量の減少とが関与するMg/K比の増加により, 食味は向上することが示唆された.
著者
二瓶 直登 増田 さやか 田野井 慶太朗 頼 泰樹 中西 友子
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.194-200, 2012
被引用文献数
4 1

有機態窒素の作物生育に与える影響を解明するために,単一窒素源としてタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を用いて5種類の作物を無菌栽培し,各アミノ酸に対する作物毎の生育への影響を検討した.作物別の比較をすると,イネ,チンゲンサイでは,アミノ酸間の生育差が大きく,コムギ,キュウリはイネ,チンゲンサイよりアミノ酸間の生育差は小さかった.ダイズでは,アミノ酸間の生育差はほとんどみられなかった.アミノ酸別の比較をすると,アスパラギン,グルタミンでは,無窒素区より地上部乾物重,地上部窒素含量の増加がみられ,一方,システイン,メチオニン,ロイシン,バリンでは地上部乾物重や地上部窒素含量が無窒素区より低下した.そこで,アミノ酸濃度を変えた時の影響を調べるため,生育への影響が異なる5種類のアミノ酸を単一窒素源に選び,イネ幼植物に対する影響について検討した.その結果,グルタミンで生育したイネは窒素濃度増加に伴い地上部乾物重,地上部窒素含量は増大した.セリン,バリンで生育したイネは,低濃度から生育阻害がみられた.グルタミンは無機態窒素を代謝する際に最初に同化されるアミノ酸でもあるので,植物体内で濃度が高くても障害をおこさず,窒素源として効率的に利用されていると考えられた.セリン,バリンはグルタミンに比べてアミノ酸生成経路の末端で生成されるアミノ酸であるため,植物に吸収されても代謝されず植物体内で濃度が上がり,生育を阻害したものと考えられた.
著者
下野 裕之
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.341-351, 2014 (Released:2014-11-04)
参考文献数
16

わが国の食料の生産基盤である耕地は減少を続け,食料安全保障に多大な影響を及ぼしうる.本研究では,わが国の食料の生産力の現状を世界の各地域と比較評価するとともに,潜在的な生産力を現在ならびに将来について推定した.解析は,FAOSTATの主要作物14品目のデータを用い熱量に換算した.わが国で自給している主要作物からの一人あたり一日当たりの供給熱量は1961年の2497 kcalから低下を続け,2010年には795 kcalとなった.この水準は世界平均の26%かつアフリカ地域の37%である.供給熱量を最大化するため,すべての耕地にイネとイモ類を植え付けた場合でも1626 kcalと,アフリカ地域の76%にとどまった.同様に,将来について,人口の減少傾向に加えて,耕地と単収の変化を考慮して4シナリオを比較した.シナリオ1では耕地が減少を続け,単収が増加しない場合,シナリオ2では耕地が減少せず,単収が増加しない場合,シナリオ3は耕地が減少せず,単収が増加する場合,シナリオ4では人口減少がない場合とした.なおシナリオ1~3は人口が減少するとした.2030年において,シナリオ1では1608 kcalと現状と同程度に対し,耕地面積が減少しないシナリオ2では1826 kcalに,それに加えて現在の単収の増加傾向が続くシナリオ3では1976 kcalまで増加が推定された.一方,シナリオ4として人口の減少がないとした場合では1464 kcalまでの減少を予測した.本研究により,わが国の食料安全保障を考えた場合,現在からの耕地面積の減少を回避するとともに,単収の持続的な増加は欠かすことができないことを示した.
著者
森 静香 横山 克至 藤井 弘志
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.113-119, 2010
被引用文献数
1 5

共同籾調整乾燥貯蔵施設利用地域における産米の食味向上については,地域全体で産米のタンパク質含有率の制御を目的とした食味向上栽培技術の導入と同時に個別の産米に対する評価の方法を構築する必要がある.そこで,登熟期の葉色と玄米タンパク質含有率の関係,その年次間・地域間変動および登熟期の葉色による産米の仕分けについて検討した.乳熟期,糊熟期および成熟期における葉色と玄米タンパク質含有率の関係は,止葉および次葉とも,糊熟期での相関が最も高く(r=0.814<sup>***</sup>),次いで成熟期(r=0.727<sup>***</sup>),乳熟期(r=0.704<sup>***</sup>)であった.また,1999年から2001年での年次別および地域別の止葉の葉色と玄米タンパク質含有率の相関関係を比較すると,糊熟期>成熟期>乳熟期の順に高くなる傾向であった.糊熟期の葉色で玄米タンパク質含有率を推定した場合,乳熟期および成熟期と比較して,地域・年次による差が小さかった.1999年から2001年の八幡町・酒田市・鶴岡市において,玄米タンパク質含有率が75 g kg<sup>-1</sup>となる糊熟期の止葉の葉色値(10株の最長稈の平均値)32を境界値とした場合,葉色値32以上と32未満のグループにおける玄米タンパク質含有率の差が5.4~7.8 g kg<sup>-1</sup>での仕分けが可能であった.
著者
哈 布日 津田 誠 平井 儀彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.32-38, 2014 (Released:2014-01-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1

塩ストレスと同時に水ストレスが作物生産を低下させることが増えると指摘されているので,塩濃度と量が異なる土壌においてイネの水利用と乾物生産および根成長の関係を明らかにした.容量の異なるポットに1~10 kgの土壌を入れ,各土壌1 kgあたり1gと2 gの塩化ナトリウム (NaCl) を入れた溶液を土壌重の50%加える2区およびNaClを加えない区を設けた.耐塩性品種IR4595-4-1-13と普通品種日本晴を移植して,その後給水しなかった.葉身の伸長停止で成長が止まったものとし,その日のイネの乾物重とNa+含有率および土壌残存水分量を測定した.地上部と根の乾物重は土壌の量が多いほど大きく,土壌NaCl濃度が増えるほど低下した.地上部乾物重は,地上部Na+含有率の増加にしたがい低下した.土壌残存水分量は土壌の量とNaCl濃度が高いほど多かったため,蒸発散量は土壌NaCl添加によって低下した.そして地上部乾物重は蒸発散量に比例的に大となった.土壌残存水分含有率はNaCl無添加土壌では根が十分に成長して低い値であったが,塩濃度が高く量が多い土壌では根の成長が小さく土壌残存水分含有率は高かった.以上から塩土壌においてもイネの乾物生産は蒸発散量に比例的に大となると同時に蒸発散量の低下はイネ根の成長阻害によって利用できる土壌水分量が減少するためであると考えられた.
著者
黒田 俊郎 植高 智樹 郡 健次 熊野 誠一
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.p74-79, 1992-03
被引用文献数
5

ダイズにおける花器の脱落について, 花房の次位を同定しながら追跡調査を行った. 品種タチスズナリを1/2000 aワグナーポットに孤立状態で栽培したものを標準区とし, 別に開花期間中の遮光処理区も設けた. 開花から脱落まで日数の頻度分布は10日を境界として前後に大別できたので, 前者を落花, 後者を落莢とした. 標準区の落蕾・落花・落莢の割合はそれぞれ5%, 28%, 66%であった. 遮光によって花器脱落の総数は増加したが, 特に落花が顕著となった. 開花は20日あまりの期間に集中したが, 脱落は開花始期直後から成熟期まで長期に及んだ. 花房次位別の開花は低次位(0次・1次)から開始し, 順次高次位に及んだ. 脱落も次位別にこの順で始まったが, いずれの次位も成熟期まで継続的に脱落した. 開花期から成熟期までの花器脱落を花房次位別に検討した結果, I期;低次位の落花期, II期;高次位の落花期, IlI期;高次位の落花を伴った低次位落莢期, IV期;高次位の落花および低次位の落莢を伴った高次位落莢期, V期;低次位および高次位の落莢期, と推移することが明らかになった.
著者
福岡 峰彦 吉本 真由美
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.363-371, 2012 (Released:2012-08-06)
参考文献数
43
被引用文献数
1 4

気温は作物の気象反応を解析する上で最も基本的な説明変数のひとつであるが,観測方法に細心の注意を払わなければ,その観測値は容易に真値から乖離しうる.そのため,栽培試験の結果から気温との汎用性のある関係を導き出すには,気温の観測精度に悪影響を及ぼす各種要因を理解し,それらを適切に排除する必要がある.そこで本稿では,作物の圃場栽培試験において気温を観測する際の留意点を,実際の観測例を交えて解説する.加えて,気象官署やAMeDASにおける一般気象観測で得られる気温との整合性を考慮した,群落上気温の標準観測高度を提案する.
著者
原 嘉隆
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.342-350, 2010 (Released:2010-07-27)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ある温度での日数をArrhenius式に基づいて25℃などの標準温度の日数に換算する温度変換日数は,異なる温度条件での植物生育予測にも用いられる.温度変換日数の精確な算出には日変動を反映した温度データを用いる必要があるが,計算が煩雑なので日平均温度のみで算出されることが多い.そこで,温度変換日数を日平均温度のみで算出した場合の過誤評価程度を試算し,補正を検討した.まず,昼夜別一定温度条件において温度変換日数を算出する式を誘導し,昼夜別一定温度で昼夜の温度差を変えた場合の水稲の出芽日数の変化に適用したところ,温度差が大きいほど出芽が速いという結果を説明できた.次に,日平均温度のみで算出した温度変換日数の過誤評価程度を把握するため,屋外3年間の気温と地温を用いて日変動を反映させた場合と日平均温度のみで算出した場合を比較したところ,日平均温度のみで算出した場合の過誤評価率は地温で1%以下であったが気温で平均6%と大きく,日変動を反映させる必要性が示唆された.日較差と過小評価率には密接な関係があったので,その関係を用いて日平均温度から算出した温度変換日数を日較差で補正する式を導出した.この式を適用すると,気温でも過誤評価率が0.3%以下となったので,この補正式を用いれば日変動を反映した温度変換日数を日平均温度と日較差から簡単に推定できると考えられた.
著者
古畑 昌巳 帖佐 直 大角 壮弘 松村 修
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.10-17, 2012 (Released:2012-01-26)
参考文献数
32

寒冷地の湛水直播栽培条件における水稲品種の出芽・苗立ち性およびそれに寄与する特性について十分明らかにされていないため,寒冷地で育苗箱を利用して低温土中出芽検定を行うと同時に,出芽・苗立ちに寄与する可能性がある発芽特性および嫌気発芽条件における鞘葉の伸長性についても調査を行った.その結果,低温土中出芽検定における出芽速度は,初期生育量と高い正の相関関係(r=0.773)を示し,低温での嫌気発芽条件における鞘葉の伸長速度との間に有意な正の相関関係(r=0.528)が認められた.また,低温でのシャーレ発芽条件における発芽係数と低温土中出芽検定における出芽率(r=0.376)および初期生育量(r=0.215)との有意な正の相関関係は認められたが,この要因については明らかにできなかった.
著者
津野 幸人 山口 武視 面地 理 甲斐 宏一
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.p475-483, 1991-12
被引用文献数
1

浸潤試薬で示される水稲葉の気孔開度(A)に関与する要因として, 葉色板示度(富士葉色カラースケール)による葉色(c), 日射強度(W), 飽差(d)の3要因を取り上げ, これらで圃場条件での気孔開度の日変化を総合的に説明しようとした. 1988年では慣行栽培の水稲(品種:ヤマビコ)の上位第1, 2葉の日変化を, 1989年には肥料条件を変えた試験区のヤマビコにつき上位第1〜4葉の日中の気孔開度と葉色との関係を, 幼穂形成期から登熟期にわたって調査した. 朝夕の日射強度が520Wm^<-2>以下の場合(d<6mmHg)は, AはWとcとの2要因の関数として示され, A=0.0108W (0.19c-0.40)という経験式を得た. 日中, 日射が520Wm^<-2>以上の条件下で飽差を一定にとれば, 全期間にわたってAとcとの間には高い正の相関関係が成立し, また, 葉色を一定にとれば, Aはdと負の相関関係が認められ, その回帰式の勾配は各葉色とも0.18で A=b-0.18d で示された. この式の切片(b)と葉色との関係はb=0.93cで近似できたので, 520Wm^<-2>以上の高日射条件下では, A=0.93c-0.18dの経験式が導かれた. これら2つの経験式より求めた計算値と実測値とは, 良好な適合を示し, Aの日変化とも合致した. 葉色示度3以下の葉身は, 日中ではわずかしか気孔が開かず, 光合成が著しく低下することが推察され, 葉色を濃く保つことの必要性を強調した. なお, 葉身N濃度が葉色に反映する程度は時期により異なり, 出穂後に高まる傾向を認めた.
著者
Valio I.F.M. Rocha Rosely F.
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.p243-248, 1977-06

ステビオサイド生産に対する基礎的知見を得るために, パラグアイ産の系統を用いて日長と数種の生長調節物質が栄養生長と生殖生長に及ぼす影響を調査した。ステビアは14時間より短い日長では開花するがそれ以上の日長では開花しない事から(第1・2図), 短日植物の一種であることが判った。なお詳細な分析結果からみて, 最少必要短日処理は2回である事(第3図)および4対葉の時期から日長に感応し始める事(第1表)が明らかとなった。生長調節物質の影響についてみると, CCCとステブイオールは栄養生長及び開花を抑制するがジベレリンはいづれも促進する事(第4・5・6図), 及びフシコシンはCCCの抑制作用を部分的に阻止する働きがある事(第2表)が確認された。
著者
奥西 元一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.288-298, 2008 (Released:2008-08-01)
参考文献数
78

房総半島北部の下総地方で, 近世から昭和戦前期までみられた湿田農法について検討した. 江戸期の下総地方の湿田では, 唐籾とよばれたインド型赤米が広範に摘田(つみた)という湛水直播法により栽培された. 栽培された水田は, たいとう土とよばれた黒泥・泥炭土壌の強湿田であった. この強湿田で日本型水稲を移植栽培すると, 夏・秋落ちして生育が著しく抑制された. 湛水直播栽培は, わずかに広がる土壌表層の酸化的条件を利用した栽培法であり, これに唐籾の草型特性が結びついた. これより湿田の程度がやや軽い下総地方の夏・秋落ち田では, 昭和戦前期まで小苗・密植栽培が行われた. 小苗・密植栽培は排水不良・生育制御が困難な湿田で穂数を確保するための栽培法であった. 土地改良の遅れた下総地方では戦前まで湿田農法が残った.
著者
赤木 功 西原 基樹 上田 重英 横山 明敏 佐伯 雄一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.250-254, 2009 (Released:2009-05-22)
参考文献数
13
被引用文献数
1 4

九州南部の秋ダイズ栽培における晩播栽培がダイズ子実中のイソフラボン含有量に及ぼす影響について調査し,西南暖地に位置する当地域においてもイソフラボン含有量の向上に晩播栽培が有効であるか検証した.8月上・下旬播種の晩播栽培は,7月中旬播種の標播よりも登熟期後半(成熟期前30日間)にあたる平均気温が0.4~1.7℃低く経過し,成熟期は3~9日遅延した.イソフラボン含有量は晩播によって高まり,標播に対する増加率はアキセンゴクが16.1~34.9%,クロダマルが5.9~15.3%,ヒュウガが31.1~37.9%,フクユタカが44.4~58.0%であり,品種によって晩播に対する反応に差異が認められた.子実中のタンパク質,カリウム,マグネシウム含有量は晩播による影響は認められないものの,カルシウム含有量は晩播によって低下する傾向にあった.また,個体当たりの子実重は晩播によって最大で78%低下した.以上のことから,晩播栽培は収量低下を軽減できれば,西南暖地における高イソフラボン含有ダイズ生産のための栽培技術の一つとして有効であると考えられた.
著者
原 貴洋 手塚 隆久 松井 勝弘
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.459-463, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

中国30点, 韓国30点, 日本7点の計67点のハトムギ遺伝資源を熊本県の九州沖縄農業研究センター圃場で5月下旬に播種, 栽培し, 成熟期に形態的形質を調査した. 韓国品種の形態的形質は日本品種に似ていたが, 韓国品種の着粒層は日本品種より狭く, 韓国品種には草丈が小さい品種が認められ, 機械収穫適性を改良する素材として期待できた. 中国品種は, 草丈, 主稈葉数, 稈径, 着粒層, 葉長, 葉幅で大きな値を示し, 飼料用ハトムギの改良に有望と考えられた. 各形質値の間の相関関係が高かったことから主成分分析を行った. 第1主成分は草丈, 稈径, 主稈葉数, 着粒層, 葉長, 葉幅の植物体の大きさを表す形質との相関が高かった. 第2主成分は着粒層との相関が高く, 植物体の形を表していると考えられ, 中国品種, 韓国品種は日本品種より分布域が広かった. 以上のことから, 韓国, 中国品種はともに, わが国ハトムギの草型の変異拡大に寄与すると考えられた.