著者
松尾 一輝 森 芳孝 増田 晃一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.566-568, 2022 (Released:2022-10-10)
参考文献数
6

化石燃料に依存しない,究極のエネルギーを実現するために日本のレーザー核融合研究は始まった。脱炭素社会を実現するという世界的な動きの中で,社会の発展と持続可能性を同時に実現するレーザー核融合商用炉の重要性は,今後さらに高まっていくと考えられる。当社は,日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップとしての地位を確立することで,民間資本を集め,高い開発リスクを受け入れながら,実用化に必要な技術開発を加速していく。さらに,レーザー核融合商用炉実現を目指す過程で得られる最先端の光制御技術・知見等を活用し,エネルギー分野にとどまらず,さまざまな産業分野の技術開発に貢献していきたいと考えている。
著者
鈴木 敬一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.320-324, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
1

宇宙線ミューオンは,20世紀後半に地盤や大型の構造物を対象に内部を可視化する技術として考案された。これまで火山内部の可視化などが実現している。本稿では地盤や大型構造物の可視化技術としての最近の成果を取り上げ解説する。さらに,今後の展望についても示す。
著者
杉山 昌広
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.767-771, 2014 (Released:2020-02-19)
参考文献数
5

気候工学(ジオエンジニアリング)とは,人工的に気候システムに介入し気温を低下させたり,二酸化炭素を大気から回収したりして地球温暖化を抑制する手法である。国際的に地球温暖化対策の進展が芳しくない中,一部の科学者が焦りを感じ,研究の重要性を訴えている。しかしながら,実施のみならず研究についてもこの技術は多くの社会的問題を引き起こす可能性がある。そのため,自然科学・社会科学の両面から研究が活発に進められている。仮に実施されれば,その影響は世界中に広がるため,日本も傍観者でいることはできない。市民,ステークホルダー,専門家で議論を始めることが必要であろう。
著者
吉田 克己
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.273-277, 2017 (Released:2020-02-19)
参考文献数
5

原発設置認可の取消しやその建設・運転の差止めを求める原発訴訟は,福島第一原発事故前には,若干の例外を除いてすべて住民敗訴の結果に終わっていた。福島後は,大飯原発に関する福井地裁の差止認容判決や高浜原発に関する大津地裁の差止認容仮処分決定など,注目すべき住民勝訴の裁判例が出るようになっている。判断を導く論理にも,従前とは異なる新たなものが見出される。これらを通じて,従来は基本的には行政の一元的チェックに委ねられていた原発の安全性確保について,司法も加えた多重かつ多元的なチェック態勢の構築が展望される。
著者
落合 兼寛
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.70-74, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
3

わが国の原子力発電所は,全く特性の異なる2つの大地震,2007年新潟県中越沖地震と2011年東北地方太平洋沖地震にも耐えて,その安全関連施設のみならず,発電所全体の地震の揺れに対する耐性が優れているとの知見が得られている。本稿は,これらの経験に基づく知見を概括し,あわせて地震発生後の電力安定供給のための施策を提案するものである。
著者
玉置 善紀
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.561-565, 2022 (Released:2022-10-10)
参考文献数
8

浜松ホトニクスでは,レーザ核融合反応の連続的な発生に資するレーザおよび周辺技術の開発,更にそれらの技術を産業用途に展開していく応用開発を行っている。近年,kW級にもなる半導体レーザ(LD)の高出力化に代表されるように周辺技術の発展は目覚ましく,従来の単発動作のフラッシュランプ励起レーザにも及ぶ1 kJ級のレーザ出力の繰り返し動作のLD励起固体レーザの実現見通しが得られるに至っている。このレーザ技術を活用することで,単発照射での核融合研究では困難であった大量のデータ取得からの統計的手法によるレーザ核融合研究が可能となる。本報告では,LD励起として世界最高出力となるセラミクスレーザの開発や応用開発についても報告する。
著者
武田 秀太郎 キーリー 竜太 アレックス 馬奈木 俊介
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.553-556, 2022 (Released:2022-10-10)
参考文献数
8

近年注目される民間核融合業界であるが,一体誰が核融合実現を目指しているのだろうか?ベールに包まれる民間核融合業界を最新の統計データを用いて紹介する。世界には自社で核融合炉実現を目指す企業が25社存在し,資金調達額は5,000億円を超える。そのうち17社(68%)が過去10年間に設立され,また約3,000億円が2021年単年で投資されている事実は,核融合におけるスタートアップの勢いが増していることを指し示している。また核融合企業は発電(24社)から宇宙推進(11社),水素製造(7社)まで多様な市場をターゲットとし,その半数以上(17社)が核融合発電は2030年代に実用化されると考えている。これらの統計は,民間核融合企業が短期的かつ意欲的なマイルストーンを設定して技術開発と実証を繰り返すことで,環境意識の高い投資家への訴求に成功していることを示唆する。
著者
小西 哲之
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.557-560, 2022 (Released:2022-10-10)
参考文献数
1

核融合研究開発は巨額の投資を要する基礎的科学研究として,世界的に長らく公費により実施されてきたが,近年民間努力による実用化研究が脚光を浴びている。ここでは,核融合工学の今後の展開においてスタートアップ企業が担う役割とその方法論について報告する。具体的には,京都大学発ベンチャーとして2019年10月に設立された京都フュージョニアリング(KF)社の事例をもとに,以後順調に進展している組織,資金,研究開発活動を説明し,世界の核融合開発の推進に対するユニークな貢献とともに,豊富な原子力研究の基盤を持つわが国の次世代の重要な産業分野としての意義を論ずる。
著者
増田 毅
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.718-722, 2021 (Released:2021-10-10)
参考文献数
7

トリチウム摂取に対する線量評価のためには,その体内動態を明らかにする必要がある。ICRPは,公衆の線量係数を求める際に,トリチウムの体内動態を表す単純な2コンパートメント・モデルを用いてきた。ただし,2016年に作業者の線量係数を求める際には,その体内動態モデルをより複雑なものへ改訂している。これにより作業者の線量係数は従来よりも安全寄りの大きな値となっている。これは脂肪組織を含むと考えられる長半減期成分をモデルに取り入れたためである。
著者
山内 大典 伊達 健次 遠藤 亮平 溝上 暢人 本多 剛 野﨑 謙一朗 溝上 伸也
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.626-632, 2017 (Released:2020-02-19)
参考文献数
4

福島第一原子力発電所事故において,非常用交流電源は津波が発電所に到達したと考えられる時刻に集中して喪失していることから,津波が原因で喪失したものと考えている。今回,非常用交流電源設備の設置位置と機能喪失時刻の関係に着目し,津波が原因であるとすることの妥当性について追加検討を行った。検討の結果,非常用交流電源設備までの津波浸入の経路長が長いほど機能喪失時刻が遅い傾向があることが分かり,非常用交流電源は津波により機能喪失したとの従来の推定がより確からしいものとなった。
著者
長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.36-40, 2012 (Released:2019-09-06)
参考文献数
5

災害時に流言蜚語はつきものである。原子力災害も例外ではない。筆者は事故4年後の1990年にソ連邦が外国との交流を開始したときに現地を訪れ,事故後10年目までは,多くの研究プロジェクトに参加し数え切れないほど現地に赴き,10年目,20年目の国際機関のまとめのコンファランスまで出席することができた。健康影響に対して科学的な調査が可能になり,様々な調査の結果が発表されるようになると,それぞれの発表,論文の科学的な信憑性を検討することが大きな仕事になり,自分の主力は国際的な科学的な合意形成に移行した印象がある。初期の流言蜚語の時代からまとめの発表にいたるまでの経験を具体的に紹介し,原子力災害の対応の問題点などを示したい。
著者
山岸 功 三村 均 出光 一哉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.166-170, 2012 (Released:2019-10-31)
参考文献数
9
被引用文献数
2 8

福島第一原子力発電所事故の収束に向けた取組みにおいて,2011年12月にステップ2の完了が宣言された。原子炉の冷温停止状態を支える循環注水冷却に関しては,仮設の水処理設備が稼動しているが,恒久的な水処理設備の設置,汚染水処理で発生した2次廃棄物の保管・処理・処分への取組みも求められている。本稿では,汚染水処理の現状を整理し,吸着剤の性能,今後の処理・処分に関わる技術的課題を解説する。