著者
松井 亮太
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.272-276, 2020 (Released:2020-11-01)
参考文献数
4

福島第一原子力発電所事故の背景には,原子力関係者の集団思考(groupthink)があったとの指摘がいくつか見られる。しかし,集団思考という現象について,国内で十分に説明されているとは言い難い。そこで本稿では,集団思考とはどのような現象であり,どうすれば防げると考えられているのかを解説する。さらに,筆者のこれまでの分析を踏まえて,「複合的集団思考」という新しい概念を提示する。
著者
河野 太郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.342-345, 2012 (Released:2019-10-31)

わが国の「核燃料サイクル」には,全く合理性がない。プルトニウムを燃やすための高速増殖炉は,政府の建て前でも導入目標は2050年になる。その原型炉である「もんじゅ」は,40年以上の歳月と1兆円以上の費用をつぎ込んで,今も運転すらできない。わが国は使用済み核燃料の再処理を英仏2カ国に委託してきたが,既に抽出されたプルトニウムは45トンに達し,高速増殖炉の目途もたたないなかで,その利用ができない。日本のいくつかの原子力発電所では,使用済み核燃料プールが容量一杯になりつつあり,六ヶ所村の再処理工場は,トラブルが続き稼働できない。もし再処理工場が稼働すれば,処理できないプルトニウムが増え,再処理工場が稼働できないなかで現在の政策を続ければ,遅かれ早かれ使用済み核燃料プールが溢れて原発が止まる。そして核燃料サイクルの最大の問題は,核のゴミの処分だが,全く目途がたっていない。
著者
中村 均
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.99-103, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

シミュレーションの品質保証に関わる技術標準は,シミュレーションモデル構築における予測性能評価を主眼とした「モデルV&V」と解析プロセスの品質保証を目的とした「品質V&V」に分類できる。本報では,両者の根底にあるV&V概念とそれぞれの役割を示すと共に,代表的な技術標準の内容を解説する。さらに日本原子力学会で策定が進んでいるV&Vガイドラインのあらましを紹介する。
著者
杉浦 紳之
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.419-425, 2011 (Released:2019-09-06)
参考文献数
17
被引用文献数
1
著者
尾曲 靖之
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.82-86, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
2

航空機事故の主要因並びに間接要因を調べていくと,最近では約8割がヒューマンエラーだと言われている。e.TEAM ANAでは,従来のヒューマンエラー防止策に加え,コミュニケーションツールであるアサーションを活用したe.ASSERTIONを展開し,「仕事の質を高める」と共に「コミュニケーション豊かな組織風土・文化」を育て,結果として「リスクに強いプロ集団」に成ることを目指し,更なるヒューマンエラーの防止に取り組んでいる。
著者
吉田 正
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.852-856, 2019 (Released:2020-04-02)
参考文献数
10

80年の時を経た今となっても,核分裂発見の物語は分かりにくい。ここで扱う両大戦のあいだの7年間(1934〜1940年)はナチスの全権掌握から開戦までの苛烈な時代に一致し,発見に至る経緯はこの時代背景ぬきには理解しにくい。いつ,誰が,どう決定的なことを成したのかに焦点をあわせ,核分裂の発見という現代の我々にも計り知れない影響を与えた出来事を,人々の果たした役割や時代推移の節目ふしめに注意を払いながら見てゆく。
著者
木村 芳貴
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.143-144, 2020 (Released:2020-09-01)

近年,米国やカナダ,英国などにおいてSMR(Small Modular Reactor)の開発,導入に向けた動きが活発化している。また,国内では,第5次エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定)において,「多様な社会的要請の高まりも見据えた原子力関連技術のイノベーションの促進」や,「安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求に向けた技術開発に取り組む」という方針が示された。三菱重工は,既存の軽水炉の安全性・信頼性向上や長期継続利用に向けた技術開発に着実に取り組む一方で,将来に向けた取り組みとしてSMRをはじめとした多様な革新的原子力技術開発を推進している。
著者
藤井 賢一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.716-720, 2019 (Released:2020-04-02)
参考文献数
12

2018年11月にメートル条約にもとづいて開催された第26回国際度量衡総会において,国際単位系(SI)の定義を大幅に改定することが採択された。これによって,SIの根幹をなす7つのSI基本単位のうち,キログラム,アンペア,ケルビン,モルの定義が基礎物理定数にもとづく新しい定義へと移行した。特に,キログラムについては国際キログラム原器による定義が廃止され,130年ぶりにその定義が改定された。本稿ではプランク定数にもとづくキログラムの新しい定義の概要について解説し,定義改定の影響について述べる。
著者
石田 健二 岩井 敏 仙波 毅 福地 命 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.455-459, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
14

がんは複数の遺伝子に段階的に損傷および変異が蓄積することによって起こるという「多段階発がん説」が,唯一の発がんメカニズムとして定着していた。しかし近年,ある特定の遺伝子が一つ変異するだけで短期間に正常細胞ががん化してしまうというメカニズムが存在する可能性のあることが報告されてきている1)。このような遺伝子の変異を「ドライバー変異」と呼ぶ。このタイプのがんの発生は限られており,小児がんや,白血病のような血液がんに多く見られるといわれている。その一例として,チェルノブイリ事故で多発した小児甲状腺がんが注目されている。本稿ではチェルノブイリ事故後の小児甲状腺がん発症のモデル,すなわち放射線誘発による遺伝子変異した細胞が原因ではなく,放射線による細胞死の誘導と組織微小環境の攪乱により,自然発生(散発性)の遺伝子変異細胞が,増殖を開始して発がんするというモデルについて解説する。
著者
木下 哲一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.624-628, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
11

太陽系外での天体物理研究において,従来の光学観測のみならず,爆発的現象に由来するニュートリノや重力波が検出されたのと同様に,地球上より超新星爆発からの飛来物を検出すれば,太陽系近傍での超新星爆発活動,爆発的環境の中での核反応や元素合成の理解,地球環境への影響に関する知見を深めることができる。海底より採取された試料より過去1,000万年の間に2回の60Feの流入が検出され,この流入は超新星爆発の中で生成したものが地球上に飛来したことを示された。地球上より検出された60Feと超新星爆発の地球への影響に関する研究成果について紹介する。