著者
赤山 みほ
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.242-254, 2016 (Released:2017-01-08)
参考文献数
29

本研究の目的は,地方公共団体が公立図書館に指定管理者制度を導入する際の選考プロセスの実態と課題を明らかにし,解決策を提示することである。文献調査では,制度成立の経緯,法的位置づけ,入札方法に問題があること,質問紙調査では,約半数の地方公共団体が,入札方法に公募型プロポーザル方式を用いていること等が明らかになった。これらから,公立図書館へ指定管理者制度を導入する際には,透明性と公平性の確保のため,指定管理者に関する情報公開条例を制定し,入札方法に競争的対話方式等を取り入れることが望ましいと結論づけた。
著者
安形 麻理 小島 浩之 上田 修一 佐野 千絵 矢野 正隆
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.129-147, 2014-12-31

本稿の目的は,4年生大学図書館,大学院大学図書館,国立国会図書館,都道府県立図書館に悉皆質問紙調査を行うことにより,日本の図書館におけるマイクロ資料の保存の現状を把握することである。902件(回収率62.8%)の有効回答と予備調査4件の合計906件を分析した結果,回答館の52.3%にあたる474館がマイクロ資料を所蔵していた。マイクロ資料を所蔵している回答館のうち,47.5%がマイクロ資料を長期保存の媒体と位置付け,30.0%が1年に1回程度以上の頻度で受け入れを続けていること,11.4%の図書館で所蔵数が把握できていないこと,44.3%の図書館で代表的な劣化であるビネガーシンドロームが発生しているが,24時間の空調管理は31.6%,湿度設定は22.7%のみで可能であることなどが明らかになった。ビネガーシンドロームは加水分解により発生,進行するため,湿度の管理が非常に重要となるが,根本的な対策である環境改善が進んでいない現状が確認された。
著者
河井 弘志
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.97-112, 2002-01-31

19世紀のドイツの民衆図書館は,下層民衆を対象とする貧民給食所のような慈善図書館であり,英米の影響を受けたネレンベルクらは,これを全住民を対象とする図書館に変革しようとした。民衆教育普及協会事務局長ヨハネス・テーフスは,下層民衆のための民衆図書館の普及に力を注いだ1人であった。彼は社会民主主義の影響を受け,下層民衆と労働者の教育の充実につとめ,民衆学校とギムナジウムに二分する複線型学校制度を批判した。のちにネレンベルクらの影響によって全住民のための民衆図書館論に転換し,閲覧室つきの図書会館を主張し,図書館の中立性を守るために公立化を回避し,有料制もやむをえないと言った。しかしテーフスのとらえた全住民の中心には常に下層民衆があり,これが彼の民衆図書館思想を根底から規定していたようである。
著者
古賀 崇
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.111-127, 2001-03-31

アメリカ合衆国の連邦政府刊行物寄託図書館制度(FDLP)は,19世紀半ばより政府刊行物への無償のアクセスを保証する制度として存続してきた。しかし,政府情報提供の電子化が進行するにつれ,寄託図書館制度の改革が求められるようになった。寄託図書館制度を管轄する政府印刷局(GPO)は,1993年制定の「GPO電子情報アクセス推進法」に基づき,政府情報のオンライン・データベースとして"GPO Access"を構築した。GPOはまた1996年より,寄託図書館や他の政府機関との協力関係に基づく「寄託図書館制度の電子化」という方向性を打ち出し,電子化された政府情報の永続的アクセス保証への取り組みを進めている。しかし,GPOの将来計画は,電子的な環境に対応しうるように,寄託図書館制度の構造を抜本的に変革するまでには至っていない。本稿は,こうした「寄託図書館制度の電子化」の過程とその課題,およびその政策形成上の背景について論じる。
著者
和気 尚美
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.135-151, 2015-09-30

デンマークでは異なるレベルのアクターが協力して移民に対し公共図書館サービスを提供している。本研究では,地域レベル3つ,国レベル2つのアクターを取り上げ,移民に対する図書館サービスに関わるアクターの機能と関係について検討した。調査から得られたデータは,予算の提供,多言語資料・専門的助言の提供,ネットワーク形成支援の3点から考察した。そして 1)プロジェクトは主に文化局の助成事業によって支えられており,文化局が助成対象を図書館に限定せず,関連アクターにまで広げているため多様なアクターのプロジェクトの実施を可能にしていること,2)統合図書館センターが移民に対する図書館サービスを専門に扱うナショナルセンターとして明確な立場にあるため多言語資料や専門的助言に関するニーズは統合図書館センターに凝集していること,3)各アクターは異なる2つのアクターの協力関係を支える機能を有していることを示した。
著者
大場 博幸
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.65-81, 2015-06-30

憲法上の表現の自由と図書館の役割を結び付ける議論を「表現の自由」目的説と定義し,その展開を検討した。CIPAをめぐる2003年のALA判決は内容に基づいた資料選択が避けられないことを理由に図書館を非パブリック・フォーラムとした。ALAは1990年代から図書館=限定的パブリック・フォーラム論を採用したが,表現の自由の保護の徹底は図書館員の裁量を限定しないものだという誤解があった。日本でも同様の誤解から資料請求権が提唱されたが,法律家はそれを否定している。2005年の船橋市西図書館蔵書廃棄事件判決における「公的な場」への言及は図書館への限定的パブリック・フォーラム論の適用であるという議論が現れたが,優勢とはなっていない。このように「表現の自由」目的説は成立しなかったが,それによって現実の図書館も,「図書館の自由」も特に影響を被ることはなかった。
著者
橋本 麿美
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.215-231, 2015-12-31

本稿の目的は,1996年から2015年の間に実施された連邦図書館政策の動向を明らかにすることである。図書館サービス技術法(LSTA)を含む1996年博物館図書館サービス法(MLSA),2003年改正法,2010年改正法を対象に(1)改正法案の成立過程,(2)LSTAの改正内容,(3)実施機関である博物館図書館サービス機構(IMLS)の役割の変化を分析した。その結果,第一にMLSAの改正法案は,図書館界の提案内容が反映されており,議会において短期間で成立したこと,第二にLSTAの目的は「統合」から「連携」へと変容し,館種間での資料共有や情報へのアクセス支援が進められ,また教育,労働政策分野等との連携協力への取り組みが増加したこと,第三に連邦政府の図書館政策に関与する組織の再編が進められ,補助金交付,政策助言,統計業務がIMLSに集約されたことが明らかになった。
著者
鈴木 守
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.90-102, 2007-06-20

本稿では,NEA・ALA合同委員会が,1941年に出版された研究報告書Schools and Public Librariesに掲載された「学校図書館サービスの原則」において,学校図書館サービスを教育委員会の責任とする原則を表明した過程を明らかにするために,NEA・ALA合同委員会の関連文書を調査すると共に,Schools and Public Librariesとその原稿の内容の比較検討を行った。NEA・ALA合同委員会は,公共図書館との活動の重複を根拠とした学校図書館の必要性に対する疑問や学校図書館サービスの責任の所在に関する議論に対して,学校と公共図書館の関係と学校図書館の基本原理を明らかにするための研究を計画した。合同委員会は,学校図書館が公共図書館との重複ではなく,学校の教育計画の不可欠な要素と位置付け,学校図書館サービスにおける教育委員会の役割と責任を明確にした。
著者
浅倉 秀三
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.112-122, 2015

書誌レコードをMARCXML形式へ変換すれば,LCの変換XSLスタイルシートでそれをDC,MODSやMARC Tagsなどの形式へ変換することが可能になる。ISO2709規格の書誌レコードをMARCXML形式へ変換するプログラムはすでに開発されている。本稿の目的は,LCのMARCXML形式からMODS形式への変換スタイルシートはNDLの書誌レコードを正しく変換できるかどうかを調査し,問題があればそれに対する解決策を提案することである。実験の結果,属性scriptの値が正しくない場合もあるという問題が明らかになった。そこで,それに対する解決方法を提案した。また,その他の問題は見つからなかった。本稿によって,LCのその変換スタイルシートは,少しの修正でNDLの書誌レコードにも有用であることが明らかになった。また,同様の修正で非ラテン文字を用いる国や地域の書誌レコードにも有用であると考えられる。
著者
戸田 あきら 永田 治樹
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.17-34, 2007-03-20
被引用文献数
3

アウトカム評価は,組織の使命・目標の達成状況を評価するものである。大学図書館の主要な役割の一つは,学生の学習支援である。したがって,大学図書館のアウトカム評価においては,図書館の資源やサービスによって学生の学習がどのように進展したかが問題となる。米国の大学図書館界では,近年,学生の情報リテラシー獲得に焦点を当てたアウトカム評価がおこなわれるようになった。しかし,学生の知識獲得や能力向上にどれほど図書館が貢献しているかについては,その測定方法や指標が十分に解明されているわけではない。本研究は,図書館利用と学習成果との関連を明らかにしようとするものである。大学卒業生に対して在学中の図書館利用と学習成果に関する質問紙調査をおこない,その関連を探った。調査結果の分析により,図書館利用と学生の学習成果との間に正の関連性があることを確認できた。
著者
橋詰 秋子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.213-229, 2009-12-28

書誌レコードの機能要件(FRBR)をOPACに適用するFRBR化は,近代目録にとって積年の課題であったcollocation機能の実現であり,情報量が増大する現在においても有用だと考えられる。既存のMARCレコードを用いたFRBR化を日本で進める際の基礎データを得るために,日本の標準的なMARCであるJAPAN/MARC(J/M)フォーマットを,FRBRによって分析した。具体的には,J/Mのデータ要素とFRBRで示される実体,属性及び利用者タスクとの対応付けを行い,結果を整理した。さらに,目録の機能を考える上で重要な概念である「著作」という観点から,J/Mの機能的特徴を探った。その結果,次のことが明らかになった。(1)J/Mのデータ要素に結びつく実体は,「体現形」が最も多く全体の約3割を占めていた。(2)J/Mは,MARC21と比べて,「著作」に結びつくデータ要素が少なく,「著作」に関するタスクの達成に弱かった。J/MとMARC21の「著作」に関する機能の相違は,両者のアクセスポイントの機能の違いだと考えられる。
著者
高橋 菜奈子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.15-24, 2005-03-15

本稿では, 韓国・朝鮮人名の特徴と書籍への記載のあり方から, NACSIS-CATの著者名典拠における標目記述をめぐる問題点を考察した。標目の採用の規則に例外規定が設けられているために, 規則の解釈にゆれが生じ, ハングル, 漢字形, 日本語ヨミ, ローマ字翻字形のどの形式で書誌を検索しても検索漏れの可能性があることを指摘し, 著者名典拠を活用した書誌検索のシステムが課題となっていることを示した。この問題点を解消するため, 「漢字∥日本語ヨミ∥ハングルヨミ分ち書き」または「ハングルヨミ」を標目の基本とすることを提案した。また, 著者名同定のために必要な項目は何かを探るため, 韓国出版物の著者略歴の特徴を抽出し, 学位・現職・出身校情報の有効性を示した。
著者
伊藤 真理 松下 鈞
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.87-105, 2014

音楽ライブラリアンの養成は,適切な音楽情報サービスを提供するために不可欠であるが,その現職者教育は専門職団体に委ねられたままである。また,音楽図書館関連団体によって提供されている研修については,いまだ総合的に検証されていない。本研究は,これからの音楽ライブラリアン養成のあり方を検討するために,国内の音楽図書館現職者を対象とした研修の実態を考察することを目的としている。本研究では,音楽図書館協議会と国際音楽資料情報協会日本支部が実施してきた研修とニューズレター記事を対象とした。分析は「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究(LIPER)」大学図書館班による研究成果に基づいた。また,音楽の主題専門分野の観点から考察を補完するために,米国音楽図書館協会による音楽ライブラリアンの資質要件の例示を参照した。その結果,研修として実施すべき内容や課題が明らかとなった。
著者
伊東 達也
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.133-144, 2013-12-31

田中不二麿らによって伝えられた近代公共図書館思想の実践事例として東京書籍館から東京図書館までの時期があるとすれば,明治18年10月の無料制の廃止は日本における公共図書館のひとつの断絶といえる。そこで,なぜ明治8年という時期に無料公開図書館が設立され,それが10年間しか存続しなかったのかということに注目し,その原因について,田中文政期の政治的社会的状況を確認することによって検討した。大久保政権の成立過程で教育政策が田中らに委ねられるようになり,その中での学制施行の一環として書籍館についての施策が行われたことを明らかにした。そして,教育令の制定とその改正へと進んだ伊藤政権下において,教育政策が政権運営の全体構想の中に位置づけられるに及んで書籍館も大きな影響を受けたことが確認できた。このことによって,東京書籍館についても,新たな側面からの理解が可能となった。
著者
伊東 達也
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.133-144, 2013

田中不二麿らによって伝えられた近代公共図書館思想の実践事例として東京書籍館から東京図書館までの時期があるとすれば,明治18年10月の無料制の廃止は日本における公共図書館のひとつの断絶といえる。そこで,なぜ明治8年という時期に無料公開図書館が設立され,それが10年間しか存続しなかったのかということに注目し,その原因について,田中文政期の政治的社会的状況を確認することによって検討した。大久保政権の成立過程で教育政策が田中らに委ねられるようになり,その中での学制施行の一環として書籍館についての施策が行われたことを明らかにした。そして,教育令の制定とその改正へと進んだ伊藤政権下において,教育政策が政権運営の全体構想の中に位置づけられるに及んで書籍館も大きな影響を受けたことが確認できた。このことによって,東京書籍館についても,新たな側面からの理解が可能となった。