著者
古隅 阿子 三輪 眞木子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.157-177, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
51

教育研究環境の変化に伴い大学図書館に求められる役割や機能も変わりつつあるが,設置者の種類(国立・公立・私立)や大学の規模によって,新たな設備やサービスへの対応状況に格差が生じている。本研究の目的は,大学図書館で近年整備が進むアクティブ・ラーニング・スペース(以下,ALS)の整備状況における大学図書館の格差を把握し,その要因を探ることである。学術情報基盤実態調査のデータ分析から,公立大学や小規模大学におけるALS 設置状況が国立大学と比べて低調なことが明らかとなった。この結果を踏まえ,公立大学図書館に焦点を当ててALS 整備関連の事業報告を分析した。更に規模の異なる公立大学4 校の図書館へのインタビュー調査を実施し,現場を支える図書館職員の声を直接聞くことで,公立大学図書館が予算や人材の削減が続く厳しい状況に置かれていることを把握した。これらの知見は,公立大学図書館の将来を検討する際の手掛かりとなる。
著者
武田 将季
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.196-210, 2017 (Released:2017-12-29)
参考文献数
61
被引用文献数
1

本研究では,情報過多による探索行動の困難を回避するための手段として,キュレーションによる情報提示に着目し,ユーザの思考状態や精神的負荷,情報行動に対して,どのような変化をもたらすかを明らかにすることを目的とした。実験参加者30人を,キュレーションにより情報提示を受ける群とサーチエンジンで検索されたWeb ページから情報提示を受ける群に15 人ずつ無作為に割り付け,性質の異なる2 つのタスクを用いて実験を行い,脳波解析を行った。その結果,キュレーションされた情報提示を受けることで,特に,ページ閲覧時の集中状態が高くなる,精神的負荷が低くなる等の変化が観察された。加えて,ページ内のナビゲーションに従って多くの情報を入手するタイプのタスクでは,キュレーションされたWeb ページから情報を受ける群の,クエリ投入時における精神的負荷も低減されていることが分かった。
著者
川村 敬一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.20-36, 2017

<p>本稿の目的は,1962 年創刊の英国技術索引(British Technology Index: BTI)において,分類の諸原理がどのように応用されているかを論証することである。BTI は索引法に関して確固たる理論的基盤をもっていた。その理論はBTI の初代編集長となるコーツが1960年の著書で展開していた。著書はランガナータンの分類理論の影響のもとに書かれていたが,件名目録法の新しい手法を提案していた。それはランガナータンのファセット分析とファラデーンの関係分析に基づく標目の統語法であった。BTI の特徴の一つは各主標目のもとに関連主題がまとめられるブロック構造の形成である。これは論理的に分節された件名標目と連鎖索引法による倒置相互参照で実現する。BTI 索引法の全工程がファセット分類法と密接な相関関係にあることを論証した。そしてBTI 索引法の神髄は関係分析を分類の文脈で遂行することであるとの結論に至った。</p>
著者
水沼 友宏
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.221-241, 2016 (Released:2017-01-08)
参考文献数
64

2003 年の地方自治法の改正により,指定管理者制度に基づく公の施設の運営が可能になったが,公立図書館への同制度の導入については否定的な意見も見受けられる。だが,その実態を表す研究は極めて少ない。そこで本研究では,公立図書館における指定管理者制度の実態を明らかにする一環として,レファレンスサービスに焦点を当て,同制度を導入している図書館(以下,指定館)と導入していない図書館(以下,直営館)のサービス実施状況やレファレンス質問の受付件数の異同,及び制度導入後の質問受付件数の変化を明らかにした。結果,指定館は直営館より,利用者が自分で情報を調べられる環境作りや教育に積極的であること,逆に直営館は指定館より,利用者の質問に直接答えようとする傾向が強い可能性が示された。また,指定館の方が直営館に比べ質問受付件数が多く,制度導入後に質問受付件数が増加していることが分かった。
著者
根本 彰
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.125-134, 1999-11-30 (Released:2017-05-04)

わが国の現代図書館史を解明するために欠くことのできない占領期の図書館政策に関わる米国側の資料コレクションを8点紹介する。それらは順に, CIE文書, ジョセフ・トレーナー文書, 国立教育研究所のマイクロフィルム資料, Educational Reform in Japan, ALA 文書, ロックフェラー財団文書およびテャールズ・ファーズ文書, ジャスティン・ウィリアムズ文書, ヴァーナー・クラップ文書である。これらの概要, 図書館関係資料の紹介, 利用方法, 目録の有無について略述した。
著者
吉田 右子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.103-111, 2004-10-10 (Released:2017-05-04)

本研究では1960年代から1970年代の子ども文床運動を分析する。子ども文庫活動は子どもの読書環境の向上を願う母親の要求を出発点とし,そこから派生した公共図書館設置にかかわる住民運動として1つのムーブメントとなった。文庫活動は日本独自のユニークな文化運動として発展を続け,全国に3,000以上ある文庫はわが国の児童図書サービスの重要な拠点となっている。本研究では初期子ども文庫活動に3つの時代区分を与えた上で,文庫と公共図書館の関係を整理する。そして先行研究が図書館サービスの存在に拠って文庫をとらえてきたこと,さらにそれが文庫研究の範囲を限定してきたことを指摘する。さらにコミユニテイの読書環境を視野に入れた研究を進めていくために必要な要素を先行研究から抽出した。(1)既存の読書運動との連続/断絶, (2)石井桃子『子どもの図書館』の影響, (3)文庫を担う母親のとらえかたの3論点が,今後の文庫研究における議論の手ががりとして引き出された。
著者
杉山 悦子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-19, 2017 (Released:2017-03-22)
参考文献数
100

沖縄で1954 年度から60 年度に適用された基準教育課程の国語科と社会科を中心に分析し,1950 年代の沖縄において図書館および図書館資料が教育課程でどのような位置にあったかを検討した。国語科試案では読書や図書館利用計画がカリキュラム化され,社会科試案では事典,統計,新聞,地図など多様な資料を使う問題解決学習が設定されていた。学校図書館法の無いなか,1955 年度の琉球政府文教予算では“資本”としての図書購入費用が計上されていた。1957 年の社会科改訂においても読書活動,問題解決学習,資料を活用する単元,自発的学習のための図書館活用方針は継続され,文部省の指導要領改訂とは異なる動きをみせていた。学校以外の“図書館”施設には必然的に琉米文化会館が含まれることから,図書館の活用教育が文化政策に絡めとられる構造にあったことが推察された。本研究の過程で基準教育課程各教科編の現存を確認した。
著者
前田 知子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.268-278, 2016 (Released:2017-01-08)
参考文献数
22

研究データのオープン化を求める動きが国際的に高まっているが,日本においては,研究データの整備体制等に関し,現在も課題が指摘されている。本稿では,その要因を明らかにすることにつなげるため,科学技術政策において最初に研究データが取り上げられた 1960 年度から2015 年度までを対象に,科学技術会議等によって作成された関連資料を調査し,研究データに対する施策の検討状況と実施状況を把握した。また,研究データ整備を施策化する困難さとその理由についても考察した。1970 年代前半迄はデータセンターの具体化方策の検討,1970 年代後半以降90 年代迄は数値データ/ファクト情報という枠組による施策の検討が実施されたが,関連施策が本格的に展開されるには至らなかった。 2000 年以降は研究情報基盤もしくは知的基盤という枠組の一部で記載される形となり,研究データに関しての包括的な方針や施策案は示されなくなった。
著者
南 友紀子 岩瀬 梓 宮田 洋輔 石田 栄美 上田 修一 倉田 敬子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.163-180, 2016

<p>本研究では,van Deursen らの「デジタルスキル」を基礎に,従来の情報検索の専門的なスキルを組み込んだウェブ環境における情報検索スキルの現状を明らかにすることを目的とする質問紙調査を行った。2014 年8 月にオンライン調査を実施し,1,551 名から回答を得た。その結果,ウェブ環境で検索を行う人々は,(1)ブール演算子などの高度な情報検索技法は用いない,(2)ウェブ上の情報の形式は理解している,(3)検索語の選定に対する意識は高い,(4)一定の評価方針のもとに複数の検索結果を閲覧する,(5)インターネットから恩恵を受けていると感じている,ことが明らかになった。階層的クラスタリングにより回答者を8 クラスタに分割し,高い情報検索スキルを持つクラスタを特定した。この高能力者群は,比較的若く,男性が多く,学歴が高く,批判的思考能力と自己認識が高かった。高能力者群は全てのスキルの平均得点が最も高いが,検索技法に関するスキルのみ得点は大幅に低かった。</p>
著者
河井 弘志
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.109-124, 1999-11-30

17世紀以来, ドイツには参事会図書館に由来する市立図書館があり, 上層特権市民によって利用された。19世紀には下層民衆を対象とする福祉事業的な公立・私立の民衆図書館が各地に生まれたが, 市立図書館と交わるところはなかった。すべての市民が対等に利用するアメリカのパブリック・ライブラリーに接した大学図書館員ネレンベルクは, ドイツの二元体制をなくして, 全市民が平等に利用できる公共図書館を現しようとする運動を進め, 彼ら「図書会館」と名づけたドイツ型パブリック・ライブラリーが各地に生まれた。「図書会館」とは, 公立学校に対応する公立図書館, 公費経営, 法による義務設置, 利用無料, 昼夜開館閲覧, あらゆる階級の利用, 専門職図書館員など, 公共図書館の純粋理念を現する図書館である。この理念は, ナチス支配終了後の公共図書館運動によって本格的な結をみることになる。
著者
春田 和男
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.152-172, 2006-09-20

日本図書館協会は,その前身組織の時代をも含めると100年以上の歴史を持ち,主に個人会員と施設会員から成る,文部科学省所管の社団法人である。協会の目的は,すべての図書館関係者の連絡,提携のもとに,図書館事業の進歩発展を図ることとされている。協会では,個人会員と施設会員の関係及び各館種間の関係が長年にわたって問題になっている。本稿では,日本図書館協会に関するデータや資料,政治学における選挙に関する文献を基に,会員種別(個人,施設),部会別,都道府県別の3つの観点から,協会の会員と役員の構成について分析した。その結果,(1)協会会員登録率の平均値,会員の増加率,会費負担額で施設会員が個人会員を上回っていること,(2)公共図書館部会所属者が個人会員,施設会員ともに過半数を占めるとともに,個人会員選出役員の大部分を占めていることが明らかになった。
著者
谷口 祥一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-17, 2014-03-31

BSH第4版とNDLSHの個々の件名に付与されているNDC新訂9版の分類記号を手がかりに,BSHとNDCの組み合わせ,NDLSHとNDCの組み合わせにおいて,どの程度上位下位関係の階層構造が相互に一致するのかを定量的に調査した。照合実験の結果BSH/NDLSHにおける件名の上位下位関係が,対応するNDC分類項目間でも同じく上位下位関係となるかを調べたとき,実験の方式に依存して20%台後半から30%強の箇所で不一致となった。逆に,NDCにおける分類項目の階層関係が,対応する件名間でも階層関係となる程度を見たとき,不一致は20%から40%強と幅があった。ただし,これは対応する件名をもたないときの扱いに依存する。また,3階層に照合の範囲を拡大したときには不一致の減少が見られたが,縮約項目および不均衡項目に対処した正規化NDCの適用は大きな効果を見せなかった。NDC関連項目の活用,上位項目からの件名の限定的継承についても併せて実験し,NDC関連項目活用の効果を確認した。
著者
池内 淳
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.49-72, 2002-06-30

本研究では,まず,1991年から1993年までにおける,わが国の市町村立図書館の統計データを,三つの代表的な生産関数モデルに当てはめ,相互の比較を行った。その結果,Cobb-Douglasモデルに対する適合度が最も高く,公共図書館には規模の経済が見出された。さらに,確率的フロンティア生産関数分析を行い,わが国の公共図書館の技術的効率性を測定したところ,三ヶ年間を通じた平均値は58.3%となり,私企業としても公共施設としても低い水準にあることが明らかになった。
著者
間部 豊 小田 光宏
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.88-102, 2011-09-30

本研究の目的はレファレンスサービスにおいてI「実際の調査によく使用されるレファレンスブック」とII「回答を可能としたレファレンスブック」,及びIII「レファレンス事例の主題別頻出レファレンスブック」を明らかにすることである。レファレンスサービスの事例を蓄積したものとして,国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」がある。そこで本研究では「レファレンス協同データベース」のレファレンス事例を対象とし,その調査過程及び回答に用いられたレファレンスブックの抽出・分析を行った。分析の結果,I・IIについて出現頻度上位100位以上のリストを得るとともに,IIIについて出現頻度上位20位以上のリストを得ることができた。その多くは一般的に基礎的なレファレンスブックと考えられたものであり,今回の研究の結果それが事実であることを確認できた。
著者
田村 肇
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.145-162, 2002-02-28

本研究では,公共図書館の効率性を測るための手法として包絡分析法(Data Envelopment Analysis)を導入し,実際に東京都の市区立図書館の効率性の測定に応用する。効率性は産出最を維持したまま(複数の)投入を同じ割合で削減することが可能であるかどうかによって定義される。投入としては職員数,蔵書冊数,受入資料数,図書館数,奉仕人口を用い,産出としては貸出冊数を用いている。各図書館に関して技術効率得点(CCR効率得点),純粋技術効率得点(BCC効率得点),規模効率得点を求めた。その結果,CCR効率得点で考えた場合,分析の対象となる図書館は平均で80%の効率であることが明らかになった。このことは非効率な図書館が効率的な図書館と同じように運営することができるならば,産出を維持したまま投入を20%削減することが可能であることを意味している。
著者
中村 百合子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.105-124, 2005-09-20

本稿では, 1947年から1948年に, 日米の関係者の協働によって編集された『学校図書館の手引』の内容・記述を, 複数の日本人の編修委員が当時目にしたと述べていた米国の8冊の図書と対照させながら, 分析した。特に第2章第1節「設置の基準」と第4章第2節「図書および図書館利用法の指導」には, 当時の米国の図書の影響がはっきりと認められた。しかしその他の章や節, たとえば第3章「学校図書館の設備」;第4章第1節「図書委員の構成と活動」;同第3節「読書指導の実施」;同第5節「学級文庫の指導」;同第6節「読書会・発表会の開催と読書クラブの奨励」;同第9節「図書の増加と図書費の問題」では, 日本人執筆者の判断によると考えられる記述が目立った。つまり, 『学校図書館の手引』には, 米人ライブラリアンの指示や, 当時の米国の学校図書館に関する図書の内容・記述が反映されていたが, そればかりではなく, 日本人の執筆者各人の経験や専門分野の知識も少なからず反映されていた。