著者
今井 鉄平 森口 次郎 安部 仁美 前田 妃 助川 真由美 柴田 英治 錦戸 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2021-004-E, (Released:2021-06-24)
被引用文献数
3

目的:新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により,多くの企業において従業員の安全・健康のみならず,事業への大きな影響を受けていることが考えられる.特に大企業と比べて経営資源が不足しがちな中小企業においては,新型コロナウイルス対策の遅れが懸念されるだけでなく,事業継続へのより大きな影響を受けている可能性が否めない.そこで,中小企業における新型コロナウイルス対策への取り組みの工夫,対策の困難点,および今後求められる支援の内容を明らかにすることを目的に研究を行った.対象と方法:企業として従業員数300名未満,または企業全体では300名を超えるものの50名を超える事業場のない27社の経営者または人事労務担当者を対象に,2020年8~10月に,新型コロナウイルス対策の実態や困難点,今後望まれる支援等に関するインタビュー調査を行った.聞き取り記録を作成し,産業医経験のある2名と産業保健師経験のある2名で,内容分析の方法に準じコードの共通性に着目して小カテゴリーを抽出し,徐々に抽象度を上げ,大カテゴリーを抽出した.結果:新型コロナウイルス感染症対策への取り組みについては,「企業として迅速に意思決定ができる体制を整える」,「正確な情報を入手し全従業員と共有する」,「社内の具体的対策を強化する」,「事業継続のために懸命に対策を練る」の4つの大カテゴリーに集約された.また,対策における困難点については,「情報収集・共有に関する困難」,「未知の感染症対策への困難」,「備品調達・検査受診の困難」,「合意形成・社内体制整備の困難」,「事業継続と感染症対策のバランスの難しさ」の5つ,今後望まれる支援については,「正確な情報を一元化・簡潔にしてほしい」,「Polymerase Chain Reaction(PCR)検査環境を整備・拡充してほしい」,「事業継続支援がほしい」の3つの大カテゴリーに集約された.考察と結論:中小企業の特性を活かしながら,細やかに大カテゴリーとして抽出された4つの取り組みを行っているケースも多くみられたが,これらが成立する前提として経営者が正しくリスクを認識できていることが必要と考えられる.しかしながら,専門資源に乏しい中小企業においては,意思決定に必要な正しい情報が得られない懸念もある.このため,産業保健専門職には,意思決定者が溢れる情報の中から正しい情報を取捨選択できるような支援が望まれる.
著者
錦戸 典子 山﨑 恭子 三橋 祐子 白石 知子 掛本 知里
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

現代社会が求める保健師に必要な専門能力と育成方策を明らかにすることを目的に、これまで研究が遅れている産業保健分野の保健師(産業保健師)を中心に検討した。一企業において産業保健師に求められる専門能力を明らかにするとともに、その向上を目指した育成プログラムを開発・試行し、実際に効果があることを検証した。また、より汎用的に産業保健師に必要な専門能力を明確化・構造化することを目指して、熟練産業保健師への個別インタビューならびにフォーカス・グループ・インタビュー調査を実施し、支援過程に沿った各場面において産業保健師として必要な専門能力の詳細を明らかにした。
著者
渡井 いずみ 錦戸 典子 村嶋 幸代
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.71-81, 2006 (Released:2006-06-27)
参考文献数
32
被引用文献数
24 14

ワーク・ファ-リー・コンフリクト尺度(Work Family Conflict Scale: WFCS)日本語版の開発と検討:渡井いずみほか.東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻地域看護学分野―本研究の目的は,多次元的ワーク・ファ-リー・コンフリクト尺度(Work-Family Conflict Scale: WFCS)の日本語版を作成し,信頼性と妥当性を検討することである.原版の18項目WFCS(Carlsonら,2000)は,時間に基づく仕事から家庭への葛藤(WIF),および時間に基づく家庭から仕事への葛藤(FIW),ストレス反応に基づくWIF,およびストレス反応に基づくFIW,行動に基づくWIF,および行動に基づくFIWの6次元の葛藤尺度で構成される.英語版のオリジナル尺度から,英語を母国語とする研究者を含む研究者数名による順翻訳,逆翻訳,及び原著者の承認の手順を経て,日本語WFC尺度を作成した.従業員数が301人以上の民間IT企業24社に勤務する正社員のうち,就学前の子供を持つ情報処理技術者(ITエンジニア)180名を対象に,WFCSを含む自記式質問紙調査を配布した.また,それとは別に,保育所に子供を預けている両親34名を対象に再テストを行った.その結果,6つの下位尺度のCronbach'のa係数は0.77~0.92と充分に高い内的一貫性を示した.また,行動に基づくWIFとFIW間の内部相関係数は0.60を超えていたが,おおむね各下位尺度間の弁別的妥当性は示された.さらに,5つのモデルについて確証的因子分析を比較したところ,6つの下位尺度を持つモデルが最も高い適合度を示し(chi-square=231.82,df=129,CFI=0.95,AIC=315.82,RMSEA=0.07),オリジナル尺度と同じ構成概念妥当性を保持することが示された.また,再テスト信頼性を示す各項目の重みつきk係数,6つの下位尺度の級内相関係数は,いずれも適度な再現性を示した.これらの結果より,WFCS日本語版は,日本人労働者における仕事と家庭の葛藤を評価する上で信頼性と妥当性を有する尺度であることが示唆された.(産衛誌2006; 48: 71-81)
著者
齋藤 とも子 錦戸 典子 松木 秀明
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.117-129, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

目的:産業看護職による心理社会的職場環境改善の支援状況,保有している知識・技術,自己研鑽・学習環境等の状況ならびにそれらの関連を明らかにする.さらに,支援についての関連要因モデルを作成し,産業看護職による心理社会的職場環境改善の支援を推進するための示唆を得る.方法:日本産業衛生学会会員で,企業または単一型健康保険組合に所属する産業看護職を対象に,無記名郵送式質問紙調査を実施した.356名(回収率46.4%)からの回答のうち,主要な項目に無回答がない産業看護職329名(有効回答率92.4%)を分析対象とした.心理社会的職場環境改善の支援7項目について因子分析を行い,抽出された支援因子ごとのモデルを作成し,共分散構造分析を行った.結果:因子分析より【ストレス状況の把握と助言による職場環境改善の支援】と 【職場参加型の環境改善の支援】の支援因子が抽出され,平均実施割合は,それぞれ約5~8割,および4割未満であった.【ストレス状況の把握と助言による職場環境改善の支援】には,「管理職へ,理解を促すための説明を行う」や「ストレス調査結果を部署毎に集計・分析する」からなる支援技術が関連し,これには「個人のストレス調査票」や「一般的な職場のストレス要因」からなる支援知識が関連していた.支援知識・支援技術には,「日頃の職場環境改善活動を振り返り,活動報告を行う」,「論文を読む」からなる自己研鑽が関連していた.【職場参加型の環境改善の支援】には,「キーパーソンを中心とした職場討議を間接的に支援する」や「職場のストレス調査結果を管理職へフィードバックする」からなる支援技術が関連し,それには「職場環境改善のツール」や,「職場のストレス調査票の活用方法」からなる支援知識が関連していた.支援知識・支援技術には,「グループワークを効果的に行うための研修会への参加」,「大学や研究機関の指導者からサポートや助言を受けられる」からなる自己研鑽・学習環境が関連していた.考察:産業看護職による心理社会的職場環境改善支援の内容およびその関連要因が明らかとなった.支援の実施割合より,特に 【職場参加型の環境改善の支援】を推進する必要性が示唆された.今後は,支援推進のために,支援との関連が明らかとなった支援知識・支援技術の獲得を促していく必要がある.
著者
三橋 祐子 荒木田 美香子 錦戸 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2022-016-B, (Released:2022-11-03)

目的:地域・職域連携は,生涯を通じた効果的な健康づくりを推進するため,国としても推進している事業であるが,健康支援活動を展開する専門職を始めとした実践者レベルでの連携には至っていない現状がある.そこで,本研究は,産業看護職における地域保健との連携の実態と連携経験に関連する要因を明らかにし,産業看護職が地域・職域連携を推進していくための示唆を得ることを目的として実施した.対象と方法:(社)日本産業衛生学会の会員である産業看護職2,574名を対象とし,自記式質問紙調査を2017年に実施した.調査項目は,基本属性,連携の必要性の認識とその理由,連携経験の有無,および自己研鑽や学習経験等である.結果:分析対象者756名中,地域保健との連携経験者は34.0%,連携の必要性を感じている者は80.8%であった.また,連携経験の有無には,産業看護職としての通算経験年数,ガイドラインの閲読経験や地域保健主催の研修会や勉強会などへの参加経験,連携の必要性に関する認識が関連していた.考察と結論:地域保健との連携経験者は少なく必要性を認識していない者もいたことから,産業看護職が地域保健との連携事例に触れる機会が乏しく,その必要性を見出しにくい可能性が考えられた.本研究により,ライフイベントによる学びを補強し,産業看護職が地域保健に関する情報を得られる仕組みをつくること,連携経験者が連携未経験者へ具体的な連携事例を通して伝える機会を設けることで,産業看護職が地域保健との連携を推進していける可能性が示唆された.
著者
石川 真子 錦戸 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-15, 2014 (Released:2014-02-28)
参考文献数
24
被引用文献数
5 1

目的:新人期の産業看護職によるメンタルヘルス対策に関する活動の実施状況と困難を感じた経験,知識・技術の保有感の特徴と今後の学習課題を明らかにして,今後の新人期の産業看護職に対する,メンタルヘルスに関する教育研修方策を検討するための示唆を得ることを目的とした.方法:日本産業衛生学会に所属する産業看護職を対象に自記式質問紙調査を行った.今回は,回答者のうち,企業所属で担当事業場がある産業看護職を主な分析対象とした.メンタルヘルス活動36項目の困難に関してクラスター分析を行い,カテゴリーに分類した.経験年数5年以下(以下,新人期とする)と5年より上(以下,中堅期以降とする)の2群に分け,それぞれの基本情報,メンタルヘルス活動の実施状況,困難,知識・技術の保有感,学習環境,自己研鑽等を算出し,新人期と中堅期以降の産業看護職との比較を行った.また,変数間の関連を検討するため,Mann-WhitneyのU検定およびχ2検定を行った.結果・考察:有効回答数は682名であり,そのうち,企業所属で担当事業場がある,新人期の産業看護職80名,中堅期以降の産業看護職369名を分析対象とした.1) 新人期・中堅期以降ともに,大多数の産業看護職がメンタルヘルス活動に携わっていた.中堅期以降の産業看護職と比較して,より多くの新人期の産業看護職が,[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]に困難を抱えていた.また,メンタルヘルス活動に関する知識や技術について,中堅期以降の産業看護職と比較すると,ほぼ全ての活動項目で不足を感じている新人期の産業看護職が多かった.2) 新人期の産業看護職は,[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集],[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]を,他の活動と比べて実施している割合が高かったが,そのための知識・技術を有している割合は他の活動と差がほとんどなく,結果としてそれらの活動に関する知識・技術不足を感じながら実施している人が多い状況が示唆された.今後,新人期の産業看護職への育成研修として,まず,これらのメンタルヘルスケアの基礎となる活動に関する知識・技術を確認・育成する教育から行っていく必要があると考えられた.3) 他企業の産業看護職から助言・サポートを得られる等の学習環境を有しており,また,関連雑誌を購読している産業看護職の方が,[復職支援と事業場内・外の関係者との連携]に関して,過去一年間に困難を感じた経験が有意に少なかった.また,研究実施や学会発表等の自己研鑽をしている産業看護職の方が,[対応が困難なケースへの個別相談対応]に困難を感じた経験が少ないことが示された.
著者
錦戸 典子 田口 敦子 麻原 きよみ 安斎 由貴子 蔭山 正子 都筑 千景 永田 智子 有本 梓 松坂 由香里 武内 奈緒子 村嶋 幸代
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.46-52, 2005-09-15 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
3

保健師の用いる支援技術として,グループを対象とした支援は日常的に用いられており,重要な支援技術であると言える.先行研究として,いくつかの質的研究や活動報告などがみられるものの,保健師によるグループ支援に共通の枠組みや具体的な支援技術については十分に明らかにされていない.本研究では,保健師によるグループ支援技術を体系的に整理するための端緒として,保健師によるグループ支援の方向性と特徴を明らかにすることを目的に,既存文献からの知見の統合,ならびにグループ支援に関する概念枠組みの検討を試みた.システマティックレビューに基づいて17文献を選択し,それぞれの文献中に記載されている保健師によるグループ支援の具体的な働きかけを表しているフレーズを抽出した.それらを統合し,さらに抽象度を上げて分析した結果,「グループの形成支援」,「グループの主体性獲得の支援」,「グループ活動の地域への発展の支援」の3つのカテゴリーが,保健師によるグループ支援の方向性として抽出された.このうち,主体性獲得の支援,ならびに,地域への発展の支援に関しては,保健師活動におけるグループ支援に特徴的な支援の方向性であると考えられた.保健師は,グループ支援活動を地域ニーズの中で捉え,地域全体のエンパワメントの視点で関わっている可能性が示唆された.
著者
三橋 祐子 錦戸 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.95-106, 2017-07-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

目的:地域保健との連携に関する産業看護職のコンピテンシーを明らかにする.対象と方法:事前に質問紙調査および,電話インタビューによって地域保健担当者との連携実施の有無やその内容について確認した上で,より充実した連携活動を実施している産業看護職10名を選択して対象とした.インタビューガイドを用い,半構造化面接法によるインタビューを実施した.分析方法はMayringの提唱する要約的内容分析を用いた.データをコード化した後,「日頃の取り組み」,「連携の実践」,「組織の理解を得るための取り組み」,「連携の基盤となる意識・姿勢・考え方」という4つの側面毎に分け,類似するものをまとめてサブカテゴリー,カテゴリーを生成した.結果:19のサブカテゴリー,9つのカテゴリーが生成された.≪地域保健情報の収集≫,≪地域保健担当者との関係性の構築≫,≪従業員の家族の問題抽出≫,≪従業員・家族と地域保健担当者との結び付け≫,≪地域保健が持つ社会資源の活用≫,≪地域保健との連携の重要性の提示≫といった地域保健との連携における産業看護職の具体的なコンピテンシーが明らかになった.また,≪従業員の人生全体や従業員の家族の要因を捉える姿勢と視点の保持≫,≪産業看護職自ら地域保健との連携を推進する姿勢の保持≫,≪産業看護職の存在意義の認識≫のように連携の基盤となる産業看護職の姿勢や考え方等も明らかになった.考察:これからは従業員やその家族も含めた生活全体,人生全体をみる姿勢や考え方を基盤として地域保健との連携に取り組むことが求められ,産業看護職がこれらのコンピテンシーを習得するための機会が必要であると考えられた.また,研究参加者らは,産業看護職1名体制のような専門職の人的資源が乏しい環境であっても≪地域保健担当者との関係性の構築≫や≪地域保健が持つ社会資源の活用≫等のコンピテンシーを用いながら地域保健と連携し支援の充実を図っていることが伺えた.
著者
錦戸 典子 京谷 美奈子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.72-78, 2004-03-25 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
2

本研究では,産業看護活動の質の向上のために,今後どのような支援が必要であるか明らかにすることを目的として,東京都に在勤の産業看護職250名を対象に活動上の困難に関する質問紙調査を実施した.130名からの回答を分析した結果,活動上の困難に関しては,「非常にある」が26.8%,「まあある」が57.5%,「あまりない」が13.4%,「まったくない」が2.4%であった.「非常にある」と「まあある」を合わせたものを「困難あり群」,「あまりない」と「まったくない」を合わせたものを「困難なし群」として,属性データや学習機会の有無との関連を調べ,単変量分析でp<0.10の関連がみられた変数を独立変数とし,困難の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施した.その結果,産業看護経験が短いこと,職場内学習機会がないこと,産業保健推進センターの研修受講機会があったことが,各々独立して困難があることに関連していた.困難の具体的内容に関する自由記述データを内容分析した結果,91名の回答から188のフレーズが得られ,32の小カテゴリー,16の中カテゴリー,6つのコアカテゴリーに整理された.主なコアカテゴリーは,活動スキル上の困難,職場での理解・支援・連携不足,学習機会・相談相手の不足,組織上の制約,活動範囲・質が不十分,などであった.今後,産業看護活動の質を高めていくためには,スキル向上のための継続教育の体系化やスーパーバイザーの育成とともに,他職種・事業場の理解を得るためのPR活動など,産業看護職が働きやすい環境を整えることが重要であることが示唆された.
著者
山崎 晶子 錦戸 典子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.272-282, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
18

目的 二次医療圏において地域・職域が連携して実施していた活動とそれによる成果を明らかにするとともに,地域・職域連携推進協議会(以下,協議会)の開催状況との関連を検討する。方法 全国464保健所に所属し,地域・職域連携推進事業を担当またはそれに準じる保健師を対象に,無記名式質問紙調査を実施した。連携活動22項目の実施の有無,および連携活動による成果の実感程度について4件法で回答を求め,それぞれ階層クラスター分析によりカテゴリーに分類した。これらの活動・成果カテゴリーと協議会等の開催の有無ならびに開催頻度との関連をMann-WhitneyのU検定等により,活動・成果の各カテゴリー間の関連をSpearman順位相関分析により,各々検討した。結果 有効回答176件を分析し,3つの連携活動カテゴリー[関係者間の情報交換],[健康相談や健康教育における協働],[新たな企画立案や調査]が得られた。[関係者間の情報交換][新たな企画立案や調査]については,協議会等開催「無」群より「有」群で有意に高値であり,[新たな企画立案や調査]は協議会開催「1回」群よりも「2回」ならびに「3回以上」群で有意に高値だった。連携成果カテゴリーは,【連携窓口の共有が出来た】,【信頼関係の構築と健康課題の把握が出来た】,【達成感獲得,情報交換システム構築,費用削減】,【健康づくりの取り組みが進展】,【ヘルスリテラシーの向上】,【保健事業の質の向上と参加人数の増加】の6つに分類された。【連携窓口の共有が出来た】,【信頼関係の構築と健康課題の把握が出来た】,【達成感獲得,情報交換システム構築,費用削減】,【保健事業の質の向上と参加人数の増加】の4つの成果カテゴリーについては,協議会開催「有」群で有意に高値だった。さらに,上記のうち1~3番目までの成果カテゴリーについては,協議会等を3回以上開催することにより1回開催と比べて高値だった。また,連携活動[健康相談や健康教育における協働],[新たな企画立案や調査]と,ほとんどの連携成果カテゴリー間で有意な関連が認められた。結論 本研究により3つの連携活動カテゴリー,6つの連携成果カテゴリーが得られ,それぞれ協議会開催の有無や開催回数との関連が明らかとなった。また,実質的な協働や新たな事業等を共に企画する等の連携活動を活発に行うほど,連携成果を実感できていた可能性が示された。
著者
影山 隆之 錦戸 典子 小林 敏生 大賀 淳子 河島 美枝子
出版者
大分県立看護科学大学
雑誌
大分看護科学研究 (ISSN:13456644)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-10, 2003-04
被引用文献数
5

病院看護職の職業性ストレスの特徴および精神健康との関連を職業性ストレスモデルに拠って検討するために、一公立病院の看護職101 名に対して横断的な質問紙調査を行い、女性98 名(97%)の回答について分析した。一般男性勤労者に比べ、対象者が経験しているjob demand は特に高いものでなく、しかもcontrol とreward の水準は高かった。これは病院看護職についての先行研究と比較しても、比較的恵まれた状況に見える。それにもかかわらず、その精神健康度は、病院看護職についての先行報告と同様の低い水準にあり、このことは職業性ストレス簡易質問紙で調べた一般的な職場環境要因から説明できなかった。精神健康度と関連する要因は、職場の対人関係の困難、達成感、仕事以外の悩み・心配事、抑圧的なストレス対処特性、および年齢であり、達成感は対人関係の困難に対して緩衝作用をもつことも示唆された。これらの関連要因の中には、一般勤労者と共通するものと、本集団に特有のものが見られた。女性交替勤務職という職種の特徴がこれらの関連要因に影響している可能性や、対象者のストレス対処特性に一定の偏りがあるかどうかなどは、今後の検討課題と考えられた。本研究の結果に基づきこの病院で試み始めているストレスマネジメント対策について紹介した。
著者
錦戸 典子 坂本 光司
出版者
東海大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、中小企業における健康的な職場環境の普及推進に向けて、産業保健分野のみならず経営分野と協働することにより新たな知見を得て、革新的かつ実践的な推進モデルを開発することを目的に実施した。良好実践事例の分析により、職場のコミュニケーションの活性化や適切な労務管理・評価などについては経営分野でも重視されているが、健康診断結果の活用や健康を維持しながら働ける職場環境づくり、保健医療専門職・機関の活用などに関しては経営者等に殆ど認識されていないことが明らかとなった。中小企業従業員を対象とした質問紙調査結果からは、企業として健康と仕事の両立が可能な職場づくりに取り組む必要があることが示唆された。