著者
佐々木 健一 福井 寿啓 真鍋 晋 田端 実 高梨 秀一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.85-89, 2012-03-15 (Released:2012-03-28)
参考文献数
10

症例は47歳男性.1カ月ほど持続する労作時息切れを主訴に近医を受診した.胸部X線にて心拡大を認めたため心エコー検査を施行した.左房内に充満する腫瘤陰影を認めた.当院に精査加療目的で緊急搬送となった.CT検査にて,腫瘍は左房後壁から発生し,肺静脈流入部から僧帽弁直上まで左房内を占拠する不整形腫瘍であった.僧帽弁狭窄症の血行動態を呈し,急性左心不全の状態であったため,腫瘍のvolume reduction目的に緊急的に左房内腫瘍切除手術を施行した.経中隔にて左房内に到達した.腫瘍は表面平滑で不整形であった.左房内を占拠しており,後壁から頭側にかけて壁内浸潤しており完全切除は不可能であったため,可及的に切除する方針とした.術直後より血行動態は著明に改善し,術後10日目に軽快退院した.病理結果は,pleomorphic rhabdomyosarcomaであったため,術後3週間後から他院にて化学療法(シクロフォスファミド+ビンクリスチン+アドリアマイシン+ダカルバジン)を開始した.術後4カ月目のCTに腫瘍の縮小を認めたが,術後5カ月目に心房性不整脈にて入院加療となった.術後9カ月目には,残存腫瘍が増大し,術後11カ月に心不全にて死亡した.Pleomorphic rhabdomyosarcomaは頻度の低い疾患であり,今回の治療方法と経過について文献的考察を加え報告する.
著者
木ノ内 勝士 森田 紀代造 橋本 和弘 野村 耕司 宇野 吉雅 松村 洋高 中村 賢 阿部 貴行 香川 洋 佐久間 亨
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.328-332, 2006-11-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

総肺静脈還流異常症(TAPVR)修復術術後の肺静脈狭窄(PVO)は重篤な合併症であり,術後の再燃も希ではない.今回われわれは,TAPVR1a+2a混合型術後PVOをくり返した14ヵ月,男児に対してsutureless in situ pericardial repair,および,左心耳-左肺静脈吻合を施行した.術後経過は良好であり,術後2年9ヵ月時に施行した心臓カテーテル検査では,右肺静脈に有意な再狭窄所見は認めず,左肺静脈に軽度再狭窄所見を認めた.また,術後3年1ヵ月時に施行したmultidetector computed tomography (MDCT)による3次元再構築像では,良好なPVO解除が長期に得られていることが示された.
著者
有馬 大輔 梅木 昭秀 山本 哲史
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.73-76, 2019-01-15 (Released:2019-02-02)
参考文献数
5

心肺蘇生の際の胸骨圧迫に伴うさまざまな合併症が報告されている.大動脈解離術後に心肺停止に陥り胸骨圧迫による偽腔破裂を呈したと考えらえた症例を経験した.症例は79歳の女性.上行大動脈にentryを呈した急性大動脈解離(Stanford A型,DeBakey I型)の診断で,緊急手術を施行した.術後は特に問題なく経過し,POD 5にICUを退室するも,POD 6に痰詰まりから心肺停止となり,胸骨圧迫が施行された.蘇生したが,左胸腔ドレーンから血性排液が増加したため,施行した造影CT検査で下行大動脈偽腔から左胸腔に造影剤の流出を認めた.硬膜外血腫も同時に呈しており,保存的加療と低体温療法を施行した.幸い輸血と止血剤の投与で血管外漏出が停止した.開心術症例の胸骨圧迫後には,造影CTなどで出血の確認をするべきで,大動脈解離術後の胸骨圧迫では,稀ではあるが偽腔破裂が生じ得る可能性が示唆された.
著者
平山 裕子 井元 清隆 鈴木 伸一 内田 敬二 小林 健介 伊達 康一郎 郷田 素彦 初音 俊樹 沖山 信 加藤 真
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.60-64, 2008-01-15 (Released:2009-09-11)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

症例は76歳,女性.両下肢浮腫と呼吸困難を主訴に来院した.経胸壁心エコーで右房内に可動性に富む腫瘤を認め,心不全を伴う右房内腫瘤と診断し手術を施行した.術中の経食道心エコーで右房内腫瘤が下大静脈内へ連続していることを確認したが原発巣は不明なため,心腔内腫瘤摘除にとどめ,残存腫瘍断端はクリップでマーキングした.術直後のCTで子宮筋腫から下大静脈内へ連続する構造物の中にクリップを認め,さらに摘出標本の病理所見からintravenous leiomyomatosis(IVL)と診断した.術後半年のCTでクリップは下大静脈から子宮に連続する静脈内に移動しており,腫瘍は退縮傾向であると考えたが,今後も厳重なる経過観察が必要である.
著者
入澤 友輔 都津川 敏範 吉鷹 秀範 田村 健太郎 石田 敦久 近沢 元太 毛利 教生 平岡 有努 松下 弘 坂口 太一
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.287-290, 2014 (Released:2014-10-23)
参考文献数
8

症例は64歳男性.半年前より胸痛を認め,大動脈弁狭窄症と診断されて,当科紹介受診となった.患者はエホバの証人信者であり,無輸血手術を希望した.そのため胸骨切開を行わない小切開大動脈弁置換術(MICS AVR)を行う方針とした.手術は右第4肋間開胸アプローチし,機械弁ATS AP360 20 mmで大動脈弁置換を行った.手術直後のHb値は11.2 g/dlであった.経過良好で術後17日に退院となった.エホバの証人信者のように無輸血で手術を行わなくてはならない場合,胸骨を切らずにアプローチするMICS AVRは,出血も少なく有用な方法と考えられた.
著者
桑原 史明 平手 裕市 森 俊輔 高野橋 暁 八神 啓 臼井 真人 宮田 義彌 吉川 雅治
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.280-283, 2009-07-15 (Released:2010-04-07)
参考文献数
14
被引用文献数
2

症例は44歳,女性.不明熱の原因検索のため紹介された.血液培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検出し,心臓超音波検査で大動脈弁に疣贅を認め,Duke criteriaに基づき感染性心内膜炎(IE)と診断した.バンコマイシン(VCM)とイセパマイシン(ISP)により治療を開始したが,その後も高熱が続き,皮疹も出現したため,抗生剤をテイコプラニン(TEIC)に変更したが効果が見られず,最終的には,第22病日よりリネゾリド(LZD)に変更した.LZDに変更して1週間後には解熱し,心内膜炎に伴う塞栓症による血管炎も軽快した.大動脈弁膜症による心不全を薬物療法によって管理しながらLZDを28日投与し,その時点で,その副作用と思われる貧血を認めたためLZDの投与を中止してレボフロキサシン(LVFX)の内服に変更した.感染の再燃がなく,機械弁による大動脈弁置換術を施行した.LZDは手術直前に投与し,術後も15日間継続した.その後,LVFXの経口投与に切り替えて術後35日目に退院した.退院後も1年間感染の再発がなく経過している.リネゾリドはMRSA心内膜炎の治療法の一つとして有効であると考えられるが,その投与法や投与期間に関しては,さらなる検討が必要である.
著者
濱路 政嗣 河野 智 北野 満 松田 光彦
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.358-362, 2006

感染性腹部大動脈瘤は腹部大動脈瘤全体の0.06~3.4%,感染性動脈瘤の18%を占める.われわれは,合併症を伴う腎動脈下の感染性腹部大動脈瘤を2例経験し,診断および治療上の問題点を検討した.症例1:75歳,男性.糖尿病,高血圧あり.全身倦怠感,発熱,腹膜刺激症状があり急性虫垂炎と診断されたが,虫垂に異常なく閉腹され,CTで腎動脈下の仮性大動脈瘤と診断された.後腹膜に多量の血腫があり,瘤の内部に悪臭のある膿様の液体が貯留していた.症例2:50歳,男性.高血圧,糖尿病,肝硬変,HCV抗体陽性で食道静脈瘤を合併していた.全身倦怠感,熱発,水様性下痢,血小板減少のため入院し,CTで腎動脈下の感染性動脈瘤と診断された.大動脈分岐部右側の黒色の仮性瘤の内部は,多量の血栓と黒色の液体が貯留していた.術前血液培養はそれぞれ<i>Klebsiella pneumoniae</i>, Methicillin-susceptible <i>Staphylococcus aureus</i> (MSSA)が陽性であったが,瘤壁や周囲組織の培養は陰性であった.2例とも準緊急手術であったが,局所のデブリドマンと解剖学的血行再建で幸い良好な経過を示した.しかし,感染性腹部大動脈瘤に対して,局所感染状況を把握しつつ適切な手術時期を決定することは容易ではないと考えられた.
著者
中村 浩己 畑 隆登 津島 義正 松本 三明 濱中 荘平 吉鷹 秀範 近澤 元太 篠浦 先 大谷 悟
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.268-271, 2000

悪性高熱 (MH) の high risk group で, さらに術中にアンチトロンビンIII (AT III) 欠乏症を早期に疑い回避しえた準緊急冠動脈バイパス術 (CABG) の1例を経験した. 症例は67歳, 男性. 既往歴として頻回におきるこむらがえりあり. 紹介医通院時より, 筋痙攣に対してダントロレン50mg/day を経口投与されておりCKも高値を示していた. 不安定狭心症にて当院に紹介され, CABG (4枝) を施行した. 手術にさいし, ダントロレン25mg内服および麻酔導入前に同160mgを静脈内投与した. 術中, 内胸動脈採取のさい, ヘパリン1ml投与後のACT延長が14秒と通常例 (約60秒) より著明に短縮していたため, AT III欠乏症を疑い, AT III製剤を1,500単位投与した. 術中・術後経過ともに良好であった. MH, AT III欠乏症ともに希ではあるが, ひとたび発症すると重篤な合併症となる疾患であるため, 予測・予防および早期発見・早期治療開始が重要である.
著者
吉田 正人 向原 伸彦 大保 英文 尾崎 喜就 本多 祐 金 賢一 溝口 和博 井上 武 深瀬 圭吾 三里 卓也 志田 力
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.61-65, 2007-03-15
参考文献数
17
被引用文献数
1

2000年1月から2003年12月までの4年間に当院で施行した80歳以上の大動脈弁置換術(AVR)症例29例を高齢者群とし,その手術成績ならびに中期成績について検討した.使用した弁は,全例,生体弁(Carpentier-Edwards PERIMOUNT)であった.また,同時期に施行された75歳以下の生体弁によるAVR症例36例を対照群として,2群間で比較検討を行った.平均年齢は高齢者群で82.9歳,対照群で71.6歳であり,病変は高齢者群では大動脈弁狭窄(AS)症例が79%と対照群の53%に比較して有意に多く,ASの程度も高度であった.術前合併症としては,高齢者群では糖尿病と腎機能障害(Cr≧1.5)の頻度が有意に高く,緊急手術例も高齢者群24%,対照群6%と高齢者群で緊急手術の頻度が有意に高かった.術後合併症は,48時間以上の長期の人工呼吸器管理を要した症例と一時的にCHDFを必要とするような腎機能障害をきたした症例の頻度が高齢者群で有意に高かったが,病院死亡は高齢者群6.9%,対照群5.6%と差はなく,3年生存率も高齢者群89%,対照群78%と差は認めなかった.80歳以上の超高齢者に対するAVR症例では術前の重症度が高かったが,その手術成績ならびに遠隔成績は良好であり,外科的治療を積極的に考慮すべきであると考えられた.
著者
嶋田 将之 山下 慶之 梅末 正芳
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.406-411, 2023-11-15 (Released:2023-12-09)
参考文献数
18

三尖弁は非対称的な3次元構造であり,posteroseptal portionが最も心尖部寄りにあり,anteroseptalportionが最も心尖部から遠くにある.完全内臓逆位では心腔内構造は正常解剖心の鏡像となるが,posteroseptal portionが最も低い位置に,anteroseptal portionが最も高い位置にあることは変わらない.そのため完全内臓逆位の症例における三尖弁形成術において,通常使用される3次元構造のrigid ringを裏返して使用するとposteroseptal portionが高い位置にanteroseptal portionが低い位置に誘導され,弁尖のcoaptationが不良になる恐れがある.今回,右胸心,完全内臓逆位における三尖弁閉鎖不全症,僧帽弁閉鎖不全症,慢性心房細動に対してflexible bandを用いた三尖弁輪縫縮術,僧帽弁形成術,左房縫縮術,左心耳閉鎖術を施行したので文献的考察を加えて報告する.
著者
佐々木 花恵 小渡 亮介 大徳 和之 川村 知紀 山﨑 志穂 皆川 正仁
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.245-248, 2022-07-15 (Released:2022-07-30)
参考文献数
11

症例は13歳男性で先天性水頭症症例である.自宅にて呼吸停止状態で発見され,当院救急搬送後に蘇生したが,重度の脳障害を負った.搬送1カ月後に当院で気管切開術が施行された.気管切開後2カ月で気管腕頭動脈瘻を院内発症し,腕頭動脈離断術と直接縫合閉鎖による気管瘻孔修復術が行われた.術後2週間目に気管修復部破綻をきたし,体外式膜型人工肺(VA-ECMO)下での気管形成術を行った.VA-ECMO確立後,気管切開カニューレを抜去した.気管損傷部を紡錘形になるようにトリミングし,マットレス縫合をかけて気管形成を行った.その後,経口で気管挿管チューブを気管分岐部直上に留置し,気管形成部の安静をはかった.術後15日目に気管切開へのチューブ交換が行われた.術後3カ月現在,気管形成部破綻や再出血はない.気管瘻孔部への補てん物の縫着が困難な気管修復部破綻症例に対して,VA-ECMO補助下での気管形成は有用な治療選択肢であると考えられた.
著者
小笠原 尚志 大徳 和之 野村 亜南 川村 知紀 谷口 哲 福田 幾夫
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.345-350, 2019-09-15 (Released:2019-10-02)
参考文献数
6

大動脈食道瘻は手術死亡率が高く,予後不良な疾患である.症例は胸部下行大動脈嚢状動脈瘤による嚥下困難を認めた72歳男性.胸部ステントグラフト内挿術施行4カ月後にendoleakによる大動脈瘤の拡大をきたし,食道内視鏡検査で中部食道に突出する壁欠損を伴う腫瘤を認めた.腫瘤内部は血栓で充満していた.大動脈造影ではステントグラフトの小彎側からI型のendoleakを認め,腫瘤内への血流を認めたため大動脈食道瘻と診断した.発熱はなく,血液検査ではCRPの上昇を認めたが,白血球数は正常であった.人工血管に感染が及ぶことが必至と思われたため,開胸人工血管置換術および健常大動脈壁による瘻孔閉鎖を行った.人工血管は大網で被覆し,瘻孔部と隔離した.術後経過は順調で,術後4年のCT検査では食道穿孔部の治癒を確認,9年後の現在健在である.
著者
髙山 哲志 迫 秀則 安部 由理子 阿部 貴文 森田 雅人 田中 秀幸
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.320-323, 2019-09-15 (Released:2019-10-02)
参考文献数
15

症例は73歳女性.主訴は心窩部不快感とふらつき.前医循環器科にて,重度の大動脈弁閉鎖不全症と僧帽弁閉鎖不全症によるうっ血性心不全と診断され,入院となった.薬物療法に抵抗性で内科的治療では心不全コントロールが困難であり,外科的治療目的で当院紹介入院となった.当院入院後も心不全増悪傾向を示し,緊急で手術を行った.術中所見では大動脈基部-上行大動脈瘤と,右冠尖と無冠尖の間の交連部に離開を認めた.上行大動脈置換術と,Florida sleeve法に準じた大動脈基部置換術および二弁置換術を行い良好な結果を得た.離開部の病理組織検査では粘液腫様変性を認め,交連部離開の原因となった可能性が示唆された.
著者
齋藤 真人 山﨑 琢磨 田辺 友暁 栃木 秀一 建部 祥 一森 悠希 丁 毅文
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.339-344, 2022-11-15 (Released:2022-11-30)
参考文献数
23

[背景]近年,心臓血管外科周術期管理に診療看護師を導入する施設が増加しているがその成績を評価した報告は限られている.[目的]診療看護師が介入した心臓血管外科手術の周術期成績を明らかにすることで有用性の評価を行う.[方法]当院で2019年4月1日から2021年5月31日までに行われた開心術のうち第一助手を診療看護師が行った患者をNP群,第一助手を医師が行った患者をDR群として後方可視的に周術期データを調査した.患者の内訳はNP群99名,DR群109名が対象となった.[結果]両群の患者属性に有意差を認めなかった.手術時間(min)(304.4±92.7 vs. 301.4±86.8:p=0.947),30日以内死亡(n)(2 vs. 2:p=0.923),ICU滞在日数(day)(5.72±4.42 vs. 6.65±5.43:p=0.302),術後合併症発生に関しても両群に有意差を認めなかった.在院日数(day)(18.6±6.7 vs. 23.0±9.8:p<0.001),人工呼吸器管理期間(h)(19.7±22.6 vs. 28.8±50.2:p=0.047),はNP群が有意に短かった.[考察]NP群とDR群を比較すると手術成績は同等であった.医師のみで周術期管理を行う場合よりも診療看護師を加えたチームで患者管理を行うことで,人工呼吸器管理時間の短縮とそれに伴う早期離床を可能にし,在院日数が短縮したと考えられた.これにより診療看護師は医師の直接指示・監督下に手術助手を含めた周術期管理を安全に行える可能性が示唆された.
著者
森田 紀代造
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.liv-lxviii, 2022-11-15 (Released:2022-11-30)
参考文献数
84

現在までに臨床導入された心筋保護法には多くの組成・方式があるがいずれも有効性や安全性に遜色なく,その選択は理論的特徴や基礎臨床研究よりもむしろ施設や術者の好みに委ねられてきた.このため心筋保護はすでに確立した術中手段としてその基礎理論の重要性や臨床的な検証が軽視される傾向にある.しかし現代の心臓外科においては手術適応拡大による重症例や拡大手術症例の増加,MICSの導入や修練外科医の教育などを背景に,予期しない長時間心停止あるいは心筋保護灌流不均衡など想定外の事態において,心筋保護法が生死をわける事態をまねくことも稀でない.また最近ではさまざまな心筋保護に関する前向きランダム化比較試験randomized controlled trial(RCT)が報告されるようになり不十分ながら客観的検証に基づくエビデンスがようやく構築されつつある.このため心臓血管外科医にとって学術的意義のみならず医療安全の観点からも心筋保護理論の習熟と最新情報の周知はきわめて重要であることが再認識されるにいたった.現在開心術のための臨床的心筋保護法とは,心筋保護液組成crystalloid/blood cardioplegia,心筋保護液温度cold/warm/tepid, 投与方式continuous/intermittent(multidose)/single dose,投与経路antegrade/retrograde deliveryなどさまざまな要素によって構成されるハートチーム全体で連携すべき総合的補助手段である.本稿では代表的な心筋保護法についてその適正な選択のための基礎的理論と臨床成績を概説するとともに,Del Nido cardioplegia,Microplegiaなど新たな心筋保護戦略,比較臨床研究結果などの最新の臨床知見を紹介する.