著者
中山 正吾 坂本 和久 伊藤 恵
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.155-158, 2013-03-15 (Released:2013-04-02)
参考文献数
11

症例は66歳,男性.持続性心房細動に対し経皮的カテーテルアブレーションを施行された.施行後15日目に吐血を主訴として来院し,上部消化管内視鏡検査にて食道潰瘍と診断された.約1カ月間の絶食治療の後,経口摂取を再開したが,再開後4日目に多発性脳梗塞を発症し,同日大量吐血からショック,心肺停止となった.カテーテルアブレーションに合併した左房食道瘻と診断し,心肺蘇生後緊急手術を施行した.胸骨正中切開にてアプローチし,体外循環を用い心停止下に左房後壁の瘻孔および食道穿孔部を直接縫合閉鎖したが,開心術後3日目に低心拍出量症候群と多臓器不全にて死亡した.本疾患は稀な合併症であるが,発症すれば致命的な病態となるため発生予防が重要である.また発症した場合には速やかな外科的治療が必要と思われる.
著者
東 修平 森田 雅文 真野 翔 島田 亮
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.293-297, 2018-11-15 (Released:2018-11-30)
参考文献数
9

今回われわれは,下行大動脈にエントリーを有する慢性B型解離の偽腔の拡大に対して,偽腔から起始する右腎動脈に対してVIABAHNを用いて再建およびリエントリー閉鎖を行ったうえで,TEVARによるエントリー閉鎖を施行した症例を報告する.症例は78歳,男性.発症時期不明のB型解離に対して過去に2回のTEVARによる治療歴がある.外来フォロー中に残存偽腔の拡大傾向を認め,胸部下行大動脈の最大径が58 mmとなったために手術適応となった.大動脈造影CTでは胸部下行大動脈に明らかなエントリーを有し,右腎動脈は偽腔から起始しており,その根部はリエントリーを形成していた.その他の腹部分枝はすべて真腔から起始し,また,術前大動脈造影検査にて,右腎動脈起始部以外に明らかなリエントリーは認めなかった.手術は,VIABAHNを腹部大動脈真腔から偽腔を通過して右腎動脈に留置したうえでTEVARによるエントリー閉鎖を行った.術後経過良好で,脊髄梗塞等の合併症を認めることなく,偽腔は完全に血栓閉鎖され,右腎動脈血流も良好であった.術後10日目に独歩退院となった.術後10カ月目のフォローアップのCTでは血栓化偽腔の縮小傾向を認めた.慢性大動脈解離に対するTEVARにおいては,エントリーおよびリエントリーの位置等によっては,偽腔血流が残存して,期待どおりの大動脈リモデリングが得られない症例が存在する.特に腹部分枝が解離によりパンチアウト状態でリエントリーを形成している症例では,分枝は偽腔起始となり,TEVARによるエントリー閉鎖だけでは不十分となる可能性がある.今回われわれの経験した,偽腔から起始する右腎動脈に対してVIABAHNを用いて再建およびリエントリー閉鎖を行ったうえで,TEVARによるエントリー閉鎖を行う方法は,慢性B型大動脈解離における偽腔拡大に対するTEVARにおいて有用な方法である可能性があり,報告する.
著者
奈良原 裕 尾頭 厚 村田 登
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.254-257, 2010-09-15 (Released:2010-12-03)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

症例は78歳,女性.3日前からの胸部圧迫感を主訴に近医受診,急性心筋梗塞(AMI)の診断にて当院紹介となった.当院循環器内科にて緊急冠動脈造影検査を施行し,seg. 7 100%閉塞,seg. 1 90%の狭窄病変を認め,経皮的冠動脈形成術(PCI)が施行され再灌流を得られた.ICU入室後,心タンポナーデからショック状態となった.心嚢穿刺ドレナージによっても直にショックとなるため大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入した後,緊急開胸手術とした.手術台上で無脈性電気活動(PEA)となり,開胸したところ心嚢内には多量の血腫を認め,これを除去すると左室心尖部付近の前壁3カ所より多量の血液噴出を認めた.前壁のblow out型左室破裂(LVFWR)であった.手術は,非ヘパリン化,非体外循環下にTachoComb®,fibrin glueの重層法+馬心膜パッチ+GRF glueによるsutureless techniqueを用いた.Blow out型LVFWRに対して非体外循環下にsutureless techniqueを用いて救命し得た症例は報告例が少ない.
著者
窪田 武浩 新宮 康栄
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.184-187, 2021-05-15 (Released:2021-06-02)
参考文献数
8

症例は77歳,女性.冠動脈バイパス術を9年前に受けた.その後,外来フォロー中に大動脈弁狭窄症が出現,進行したため経胸壁心エコーで経過観察していた.経過観察中に僧帽弁後尖弁輪部の高度の石灰化と同部に付着し左室流出路にたなびく可動性のある疣贅様腫瘤が認められたため,腫瘤の摘出と大動脈弁置換術を行った.腫瘤は僧帽弁後尖弁輪部に基部を持つ3 mm×23 mmの棍棒様で容易に折れてしまうものであった.通常の組織染色に加え血管内皮細胞のマーカーであるCD31とvon Willebrand factorの免疫染色を施行したところ,両者ともが陽性であった.病理学的には薄い内皮に覆われた細胞成分を含まない石灰化物質と診断した.摘出した腫瘤は石灰化弁輪の剥離により生じたものであることが示唆された.石灰化弁輪に伴うとされるcalcified amorphous tumor(CAT) とは異なる稀な病態であったため,文献的考察を加えて報告する.
著者
安藤 精一
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.245-253, 2000-07-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
21

脳分離体外循環下に手術した大動脈解離および胸部大動脈瘤10例 (SCP群) の脳血流, 脳酸素代謝について, 通常の体外循環下に手術した20例 (CPB群) を対照として比較検討した. 経頭蓋ドップラー血流計 (Labodop-DP100) で中大脳動脈血流速度 (MCAV) を測定し, 脳血流量の評価に用いた. また, 脳循環状態の評価のために鼓膜温, 膀胱温, 浅側頭動脈圧, 内頸静脈圧, 動脈血ヘモグロビン濃度をそれぞれ経時的に測定した. さらに, 脳酸素代謝状態の評価のために動静脈血酸素分圧, 二酸化炭素分圧, 酸素飽和度をそれぞれ経時的に測定し, 脳酸素摂取率, 脳酸素消費量指数を算出した. SCP群では, 脳分離体外循環中脳灌流圧が低く, さらに脳温も低く脳代謝が抑えられているはずにもかかわらず, 二酸化炭素分圧が高値を推移していたため, CPB群と同等の脳血流を維持していた. このことから脳分離体外循環中脳血流量を増やすには, 二酸化炭素分圧を高く維持することが重要であり, その結果SCP群の脳酸素代謝がCPB群と同等に維持された.
著者
本多 祐 向原 伸彦 村上 博久 田中 裕史 野村 佳克 宮原 俊介 内野 学 藤末 淳 河嶋 基晴 殿城 秀斗
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.67-72, 2022-03-15 (Released:2022-04-06)
参考文献数
22

[目的]フレイルは心臓手術の重要な術前リスク因子として注目されている.フレイルが心臓手術後のリハビリ経過や歩行能力に与える影響を検討した.[方法]2018年8月~2020年10月に当院で待機心臓手術を施行した65歳以上の症例で,術前にフレイル評価を行った213例を対象とした.フレイル有りのF群とフレイル無しのN群の2群に分類し,周術期因子,術後経過,歩行能力について検討を行った.[結果]全症例中70例(33%)がフレイルと診断された.術前因子では,F群で歩行速度と握力が有意に低下し,サルコペニアと低栄養症例が多かった.手術因子では,術式カテゴリーに偏りを認めた以外,両群間に有意差はなかった.術後経過では,挿管時間,ICU滞在期間,術後合併症や在院日数で両群間に有意差はなかったが,F群で転院が多かった.歩行能力に関しては,F群で歩行開始と100 m歩行達成日が有意に遅延し,300 m歩行達成症例が52例(74%)でN群の197例(89%)に比べ有意に減少していた.術後300 m歩行の可否についてロジスティック回帰を行った結果,術前歩行速度,リハビリ開始遅延,術後脳合併症が関連因子として抽出された.ROC曲線で求めた300 m歩行可否の歩行速度のカットオフ値は0.88 m/秒であった.[結語]フレイルが心臓手術後におけるリハビリ経過の遅延と歩行能力の低下に関与し,転院を増加させた.また,術後300 m歩行の可否に関与する因子の1つとして,術前歩行速度が抽出された.心臓手術を要するフレイル症例の改善策として,術前リハビリテーションが期待される.
著者
重久 喜哉 松葉 智之 上田 英昭 緒方 裕樹 井本 浩
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.157-161, 2018-07-15 (Released:2018-08-09)
参考文献数
4

乳幼児の僧帽弁疾患で僧帽弁形成術が困難な症例では僧帽弁置換術(MVR)が必要となるが,弁輪より過大な人工弁を用いてMVRを行うためには大きさの違いを解消するための工夫を要する.今回われわれはSungらの方法を参考にし,expanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)graftを人工弁のスカートとして使用した弁輪上部僧帽弁置換手術(Supra-annular MVR)を2例の乳幼児に施行した.症例1は1歳4カ月,6.7 kg,Shone症候群,僧帽弁狭窄症,パラシュート僧帽弁,大動脈縮窄症,心室中隔欠損症の男児.大動脈縮窄症修復術,心室中隔欠損閉鎖術後に僧帽弁狭窄症が顕在化しMVRを行った.症例2は5カ月,4.9 kg,多脾症,中間型房室中隔欠損症,左側房室弁閉鎖不全症の女児.3カ月時に心内修復術を行ったが,術後徐々に左側房室弁狭窄兼閉鎖不全症が進行し弁置換術を施行した.いずれの症例も術後の人工弁機能は良好であり,今回行った方法によるSupra-annular MVRは乳幼児の狭小な僧帽弁輪に対し有用な手術手技と考えられた.
著者
正木 直樹 深沢 学 外山 秀司 川原 優 稲毛 雄一
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.403-407, 2013

遠位弓部大動脈瘤の手術のさいに,末梢側吻合に苦慮することがしばしば経験される.そのため,末梢側吻合を省略したオープンステント法が考案された.さらに最近はステントグラフトによる血管内治療の普及も目覚ましい.ただし,これらの治療における遠隔期のエンドリーク,ステントmigrationは依然として残された問題である.今回われわれはオープンステント法術後のエンドリーク,ステントmigrationに対する開胸下下大動脈置換術を3例経験した.瘤中枢側の剥離は,瘤内のグラフトを遮断できる程度で十分であり,それほど時間を要さなかった.2例ではグラフト長が十分であり,ステント除去後に直接下行大動脈に吻合可能であった.残り1例は,ステントを除去後,グラフトを延長し,下行大動脈に吻合した.視野は良好であり,吻合や止血に難渋することはなかった.術後合併症もなく,良好な結果が得られた.血管内治療の進歩が目覚ましい現在においても,何らかの理由で血管内治療を施行できない症例もあると考えられる.開胸下下行大動脈置換術もオープンステント法術後のエンドリークに対する治療法の選択肢になりえる手技であると考えられる.
著者
徳田 貴則 谷川 昇 藤井 弘史 大迫 茂登彦 生田 剛士 澤田 敏
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.14-16, 2010

症例は25歳の男性.アイスピック状の凶器で左側胸部を刺され,当院に搬送された.CTでは左冠状動脈分枝の約1 cm末梢の上行大動脈の後壁内に造影剤の貯留像を認めた.心タンポナーデによる急性循環不全解除の目的で,緊急避難的に剣状突起下開窓心嚢ドレナージを行った.ドレナージ後,持続的な出血を認めなかったため,緊急での上行大動脈損傷部の修復術は行わなかった.経過観察中,損傷部に仮性瘤の形成を認めたため,受傷後27日目に損傷部の修復術を行い,術後経過は合併症なく良好であった.穿通性の大動脈損傷では微細な損傷であっても急速に増大する仮性瘤を形成することがあり,常に動脈瘤形成に留意する必要がある.
著者
野村 竜也 古川 浩二郎 福田 倫史 平田 雄一郎 恩塚 龍士 田山 栄基 森田 茂樹
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.35-38, 2022

<p>急性大動脈解離に対するオープンステントグラフト(以下OSG)を併用した全弓部置換術後の脊髄障害は重篤な術後合併症の1つであり,わが国の多施設研究でその発生率は3.5%と報告されている.脊髄障害の原因には多くの要因があると考えられるが,その1つとして肋間動脈閉塞の関与が考えられる.症例は71歳女性.Stanford A型急性大動脈解離に対し弓部大動脈置換+OSG挿入術を施行した.術後より対麻痺を認め,脳脊髄液ドレナージ等を行ったが,改善を認めなかった.術前の造影CTで確認できた肋間動脈10対のうち7対が偽腔起始であり,術後に6対の肋間動脈が閉塞した.術前の造影CTで肋間動脈の多くが偽腔起始であり,かつリエントリー所見に乏しい症例においてOSGを使用した場合,術後偽腔閉塞に伴い肋間動脈が閉塞し,脊髄虚血のリスクが増大し得ると考えられる.</p>
著者
二村 泰弘 綿貫 博隆 杉山 佳代 岡田 正穂 松山 克彦
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.327-329, 2019-09-15 (Released:2019-10-02)
参考文献数
10

症例は72歳,男性.28歳時にリウマチ性大動脈弁狭窄症に対してStarr-Edwardsボール弁(9A model 2320)を用いた大動脈弁置換術を施行された.2015年4月にNYHA IIIの心不全で入院となった.心エコーで大動脈弁位の圧較差の著明な増大,僧帽弁狭窄症,三尖弁閉鎖不全症の進行を認め手術加療となった.手術は大動脈弁と僧帽弁の2弁置換と三尖弁輪縫縮術を施行した.Starr-Edwardsボール弁のケージの被覆布は破損しており(cloth wear),また弁直下に全周性のpannus増生を認め,これが内腔を狭小化させており圧較差増大の主因と考えられた.本症例は初回手術から術後45年が経過しており,筆者らが検索する限りでは大動脈弁再置換において本邦最長例であった.
著者
安東 悟央 松居 喜郎 橘 剛 加藤 伸康 有村 聡士 浅井 英嗣 新宮 康栄 若狭 哲 加藤 裕貴 大岡 智学
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.13-17, 2018

<p>非常に稀で,手術施行例の耐術例はほとんど報告がない,先天性心疾患姑息術後の肺動脈瘤の合併症例を経験した.症例は40代男性.肺動脈閉鎖症兼心室中隔欠損症に対して一歳時にWaterston手術を施行されたが,その後当時としては根治手術が困難と判断され,NYHA class I度のため数十年間近医で経過観察されていた.労作時の呼吸苦増悪を認め他院を受診,肺炎と心不全の疑いで入院加療されたが,胸部CT検査で95 mmの右肺動脈瘤を認め,切迫破裂も疑われたため外科的加療目的に当科紹介となった.入院時,右胸水と右肺の広範な無気肺を認めた.胸水ドレナージを施行(800 ml)した.胸水は漿液性で胸背部痛など認めず血行動態は安定していた.切迫破裂は否定的であったものの95 mmと巨大な瘤径であり,利尿薬および抗生剤治療を数日間先行し,準緊急的に右肺動脈瘤に対して瘤切除および人工血管置換を施行した.術前NYHA I度であったことから,もともとの吻合部径や末梢の肺動脈径にならい24×12 mm Y-graft人工血管を用いてcentral shuntとして肺動脈を再建した.PCPS装着のままICU入室,翌日離脱した.術後4日目に人工呼吸器離脱,術後38日目に退院となった.現在術後一年になるが,NYHA class I度で経過している.Waterston術後約40年後に発症した巨大肺動脈瘤に対し手術を施行し良好な結果を得たので報告する.</p>
著者
中田 朋宏 池田 義 南方 謙二 山﨑 和裕 阪口 仁寿 上原 京勲 坂本 和久 中津 太郎 平間 大介 坂田 隆造
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.32-36, 2016-01-15 (Released:2016-02-02)
参考文献数
17

総肺静脈還流異常症(TAPVC)において,稀に左心系が非常に小さく,左心低形成症候群様の血行動態を示すものがあり,その対応に苦慮することがある.症例は1生日の女児,心エコーおよびCT検査にて下心臓型TAPVC,左心系の低形成(hypoplastic left heart complex),両側上大静脈,右鎖骨下動脈起始異常と診断された.肺静脈狭窄のため,1生日に準緊急的にTAPVC修復を行い,心房中隔欠損(ASD)作製術および両側肺動脈絞扼術(BPAB)も併せて行った.術後経過は良好であったが,術後の左心系の成長乏しく,47生日にNorwood手術(肺血流は右室-肺動脈導管5 mm人工血管で再建)を行った.その後もやはり左心系の成長乏しく,単心室型治療を選択することを決定し,6カ月時に両方向性Glenn手術,1歳11カ月時に完全右心バイパス手術を施行した.TAPVCを合併した左心系のボーダーライン症例に対して,TAPVC修復+BPAB+ASD作製を行うことで,左心系の発育を待ち,単心室/二心室型の治療方針を決定する方針は妥当と思われた.
著者
吉川 雅治 川口 鎮 高野橋 暁 八神 啓 桑原 史明 平手 裕市 宮田 義弥
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.67-70, 2009-01-15 (Released:2010-02-08)
参考文献数
13

抗リン脂質抗体症候群を伴う全身性エリテマトーデスに血小板減少性紫斑病を合併した僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症に対して機械弁を用いた人工弁置換術を施行した症例を経験した.症例は42歳女性.20歳時にループス腎炎の診断でステロイド治療を開始し,後に右網膜静脈分枝閉塞症を発症した際に,抗リン脂質抗体症候群と診断された.抗核抗体陽性,ループス型抗凝固因子陽性,抗カルジオリピン-β2グリコプロテインI抗体高値を示した.僧帽弁切除標本病理検査により典型的なLibman-Sacks型心内膜炎による弁変性と診断された.本症例では,抗リン脂質抗体症候群による血栓塞栓症素因と血小板減少性紫斑病による出血素因という相反する血液凝固異常が混在し,術前の病態把握,術中の出血コントロール,術後の抗凝固管理に注意を要したが,合併症なく独歩退院した.しかし術後145日後に血栓塞栓症で失った.本疾患群では弁膜病変を外科的に治療しえても,心房壁など弁尖以外の非定型的心内膜炎は再燃寛解を繰り返すことが予想され,凝固異常も永続的であるため,間断なき厳重なる抗凝固管理,主体疾患であるSLEの適切な治療が肝要であると考えられた.
著者
鴛海 元博 森田 紀代造 橋本 和弘 水野 朝敏 高倉 宏充 長沼 宏邦
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.425-427, 2002-11-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
10

僧帽弁逸脱症は腱索断裂を比較的高頻度に合併するが,感染性心内膜炎やMarfan症候群の合併なく急激に僧帽弁閉鎖不全を発症し,急性左心不全さらに,心停止にいたることは希である.今回,突然の急性左心不全にて発症し,救急外来受診直後心停止をきたした僧帽弁腱索断裂を伴う急性僧帽弁閉鎖不全症の43歳男性に対し,緊急手術を施行し良好な結果を得た.本症例では術中に先天性大動脈二尖弁による高度の閉鎖不全症の合併が判明し,これによる慢性左室容量負荷増大に加え,急性の腱索断裂が心停止をきたすほどの急性左心不全を招来した一因と考えられた.