著者
河野 智子
出版者
学習院大学
雑誌
学習院大学人文科学論集 (ISSN:09190791)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.27-49, 1996
被引用文献数
1

本論文の目的は,若かりしアィザック・ニュートン卿が錬金術に何を見出そうとしていたかを明らかにすることである。ニュートソが真剣に錬金術に取り組んでいた事実をケイソズが指摘して以来,魔術師ニュートンと科学者ニュートンとの折り合いをつけることは,研究者たちの悩みの種だった。この問題を解決するのに主に二通りの方法が採られてきた。一つは,彼の錬金術関連の研究ならびに実験を,錬金術が化学と同様な価値を持っていた時代の,まさに合理的で科学的なものだったと考えることで,「魔術師二L一トソ」を否定する方法である。もう一つは,彼の試みが機械論に対する一種の反逆ないし修正であったと考えることで,「科学者」と「魔術師」の両方を受け入れる方法である。後者のほうがより正確であるようだ。なぜなら,その初期から,ニュートンは錬金術を化学と厳しく区別していたからである。彼にとっては,「通俗化学」は「より大きな粒子」の機械的な作用のみを扱うものだった。一方,「錬金術」は,より大きな粒子を構成する小さな粒子がふるまうような,生長に関わる作用を扱うものであった。彼が化学よりも錬金術の可能性を重視した理由は,真理は聖書や預言,すべての古代の神秘的な記述の中に隠されているとする,古代の知恵への信仰にあった。また彼は,あらゆるものが一なる普遍物質から成り立っていて,ある手段によって他の事物へと変成できることを信じていた。その結果,錬金術における金属変成の概念を容易に認められたのである。彼はその変成を可能にすべく,物質を構成段階に分解しようとした。そして「腐敗」にとりわけ注目した。というのも,この腐敗を分解の過程として見なし,同様にそれを自然における生命活動と考えたからである。このことは若きニュートンが,個々の粒子への物体の分解を,機械的な作用ではなく,生き生きとした作用として考えていたことを意味する。彼にとって万物は,発生,成長,そして死のような,活力を与えるような原理によって動かされていた。そうでなければ何ものも個々の構成粒子に分解されないし,凝集によって一塊の物体になることもできない。若きニュートンは錬金術を錬金術として捉え,「賢者の水銀」を見出そうとした。「水銀」こそが,そうした物体を活性化する力を持つものだったからだ。そうすることはその当時では自然なことだった。錬金術では宇宙を一生命体として捉えたからである。The aim of this study is to show what Sir Isaac Newton hoped to discover in alchemy in his youth。 Since Keynes pointed out the fact that Newton had been seriously devoted to alcherny, it has been a problem for researchers to compromise NewtQn as a magician with Newton as a scientist. There have been two main ways to interpret this problem. One is to reject"Newton as a magician,"thinking that his alchemical studies and experi皿ents were just rational chemical ones at the time alchemy still had its value as chemistry. The other is to accept both"a scientist"and"a magician," thinking his attempt as a kind of rebellion or revision against mechanism. It see皿s to me that the Iatter may be more correct, because Newton strictly distinguished alchemy fro皿chemistry even in his early days. For him, "vulgar chemistry"only treats mechanical actions of"grosser particles," while"alchemy"treats vegetational actiolls performed by smaller particles which constitute grosser ones. The reason which made him value the pos・ sibility of alchemy over chemistry was his belief in prisαa sapientia, which meant that the truth should be hidden in Scripture, Prophecies, and all the ancient mystic descriptions. He also believed that everything is of one catholic matter and could be transmuted to another by certain means, so that he could easily accept the concept of transmutation in metals embodied in alchemy. He wanted to disintegrate皿atters to their constitutional level to make the transmutation possible, and paid a particular attention to"putre・ faction"because he regarded this as the process bf disintegration, same as the life cycle seen in the nature. This皿eans that young Newton con. sidered the material body's disintegration into individual particles not as a mechanical action but as a vital one. TQ him, everything in this world was influenced by the active principle such as genaration, growth, and death. Otherwise nothing can be distintegrated into individual particles nor can become a mass body by cohesion. Young Newton thought alchemy as a1一 chemy, and tried to find"philosopher's mercury"because"mercury"was the very thing which has such a power to activate matters。 At that time, it was a natural thing to do because alchemy treated the universe as a living thing.
著者
濱路 政嗣 河野 智 北野 満 松田 光彦
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.358-362, 2006-11-15
被引用文献数
3

感染性腹部大動脈瘤は腹部大動脈瘤全体の0.06〜3.4%,感染性動脈瘤の18%を占める.われわれは,合併症を伴う腎動脈下の感染性腹部大動脈瘤を2例経験し,診断および治療上の問題点を検討した.症例1:75歳,男性.糖尿病,高血圧あり.全身倦怠感,発熱,腹膜刺激症状があり急性虫垂炎と診断されたが,虫垂に異常なく閉腹され,CTで腎動脈下の仮性大動脈瘤と診断された.後腹膜に多量の血腫があり,瘤の内部に悪臭のある膿様の液体が貯留していた.症例2:50歳,男性.高血圧,糖尿病,肝硬変,HCV抗体陽性で食道静脈瘤を合併していた.全身倦怠感,熱発,水様性下痢,血小板減少のため入院し,CTで腎動脈下の感染性動脈瘤と診断された.大動脈分岐部右側の黒色の仮性瘤の内部は,多量の血栓と黒色の液体が貯留していた.術前血液培養はそれぞれKlebsiella pneumoniae,Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)が陽性であったが,瘤壁や周囲組織の培養は陰性であった.2例とも準緊急手術であったが,局所のデブリドマンと解剖学的血行再建で幸い良好な経過を示した.しかし,感染性腹部大動脈瘤に対して,局所感染状況を把握しつつ適切な手術時期を決定することは容易ではないと考えられた.
著者
久保 雄一郎 奥井 翔大 笹川 達也 水谷 義隆 河野 智美 片岡 勲
出版者
日本混相流学会
雑誌
混相流 (ISSN:09142843)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.100-110, 2020-03-15 (Released:2020-04-02)
参考文献数
10
被引用文献数
1

Thermohydraulic behavior in spent fuel pool is quite important in evaluating safety of a nuclear reactor under accidental conditions. Particularly, accurate prediction of void fraction in spent fuel pool is indispensable for evaluating cooling characteristics of spent fuel. In view of these, experimental and analytical studies were carried out for void fraction in spent fuel pool. The experiment was performed to measure the heat-up and void fraction transient during the postulated SFP accident. In this experiment, a simulated 7x7 BWR rod bundle that consists of 49 heater rods, 7 spacer grids and upper tie-plate was used. The measured data was compared with the some drift-flux correlations under the low pressure and the low flow rate condition related to SFP accident.
著者
宇野 美由紀 河野 智治 加納 幹雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告アルゴリズム(AL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.6, pp.31-38, 2008-01-23

平面格子上にある赤点の集合と青点の集合の分割について述べる.最初の定理は,ハム・サンドイッチの定理と類似する次の結果である.平面格子上にある2n個の赤点と2m個の青点に対して,これらを同時に2等分割する準直交分割が存在する.格子上の点集合において,各格子線上に高々1点しかその点がないとき,この点集合は一般の位置にあるという.また,各格子線との共通部分がひとつの直線分かまたは空集合となる連結領域を格子凸領域という.次に,一般の位置にある赤点集合と青点集合は凸領域によって3等分割できることも示す.つまり,平面格子上の一般の位置にある3n個の赤点と3m個の青点は,平面を3個の格子凸領域に分割して,各領域には赤点n個と青点m個が存在するようにできる.We consider balanced subdivision of red points and blue points in the plane lattice. We first show that if 2n red points and 2m blue points are given in the plane lattice, then there exists a semi-rectangular that bisects both red points and blue points. A set S of points in the plance lattices is said to be in general position if every lattice line contains at most one point of S. For a connected region of the lattice, if the intersection of every lattice line and the region is empty or consists of one line segment, then the region is called a lattice convex set. We next show that if 3n red points and 3m blue points are given in the plane lattice in general position, then the plance can be patitioned into three lattice convex regions so that each region contains exactly m red points and n blue points.
著者
濱路 政嗣 河野 智 北野 満 松田 光彦
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.358-362, 2006

感染性腹部大動脈瘤は腹部大動脈瘤全体の0.06~3.4%,感染性動脈瘤の18%を占める.われわれは,合併症を伴う腎動脈下の感染性腹部大動脈瘤を2例経験し,診断および治療上の問題点を検討した.症例1:75歳,男性.糖尿病,高血圧あり.全身倦怠感,発熱,腹膜刺激症状があり急性虫垂炎と診断されたが,虫垂に異常なく閉腹され,CTで腎動脈下の仮性大動脈瘤と診断された.後腹膜に多量の血腫があり,瘤の内部に悪臭のある膿様の液体が貯留していた.症例2:50歳,男性.高血圧,糖尿病,肝硬変,HCV抗体陽性で食道静脈瘤を合併していた.全身倦怠感,熱発,水様性下痢,血小板減少のため入院し,CTで腎動脈下の感染性動脈瘤と診断された.大動脈分岐部右側の黒色の仮性瘤の内部は,多量の血栓と黒色の液体が貯留していた.術前血液培養はそれぞれ<i>Klebsiella pneumoniae</i>, Methicillin-susceptible <i>Staphylococcus aureus</i> (MSSA)が陽性であったが,瘤壁や周囲組織の培養は陰性であった.2例とも準緊急手術であったが,局所のデブリドマンと解剖学的血行再建で幸い良好な経過を示した.しかし,感染性腹部大動脈瘤に対して,局所感染状況を把握しつつ適切な手術時期を決定することは容易ではないと考えられた.
著者
大久保 篤 市川 寿 田中 強 河野 智一 藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.227-234, 2005-04-30

諏訪湖の沿岸では, 冬季夜間の著しい低温時に周期数十分, 変動幅数℃の大きな気温変動が観測されることがある.この現象を解明するため, 気象庁のルーチン観測資料を解析するとともに, 2003年1〜2月に諏訪湖周辺で野外強化観測を行った.気温変動は, 諏訪湖が全面結氷し積雪があり, 晴れて風が弱まった夜に発生していた.また, 気温変動はほぼ諏訪盆地内全域で発生しているが, 変動幅は湖岸に近い地点ほど大きく, 気温が急降下するタイミングは湖畔の方が早かった.気温変動に対応して風向も変動し, 湖からの風のときに前後の時間帯に比べて低温となる傾向があった.さらに, 気温変動の発生する時は, 地上から高度50m付近にかけて冷気層が存在し, 地上気温の変化と対応してその厚みが変動していた.これらは, 「諏訪湖上に現れる冷気層の崩壊・流出と再形成のサイクルが気温変動に関与している」可能性を示唆している.
著者
大久保 篤 市川 寿 田中 強 河野 智一 藤部 文昭
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.227-234, 2005-04-30
参考文献数
8

諏訪湖の沿岸では, 冬季夜間の著しい低温時に周期数十分, 変動幅数℃の大きな気温変動が観測されることがある.この現象を解明するため, 気象庁のルーチン観測資料を解析するとともに, 2003年1~2月に諏訪湖周辺で野外強化観測を行った.気温変動は, 諏訪湖が全面結氷し積雪があり, 晴れて風が弱まった夜に発生していた.また, 気温変動はほぼ諏訪盆地内全域で発生しているが, 変動幅は湖岸に近い地点ほど大きく, 気温が急降下するタイミングは湖畔の方が早かった.気温変動に対応して風向も変動し, 湖からの風のときに前後の時間帯に比べて低温となる傾向があった.さらに, 気温変動の発生する時は, 地上から高度50m付近にかけて冷気層が存在し, 地上気温の変化と対応してその厚みが変動していた.これらは, 「諏訪湖上に現れる冷気層の崩壊・流出と再形成のサイクルが気温変動に関与している」可能性を示唆している.
著者
田妻 卓 杉本 太路 阿部 貴文 大野 成美 儀賀 麻由実 内藤 裕之 河野 智之 野村 栄一 山脇 健盛
出版者
一般社団法人 日本頭痛学会
雑誌
日本頭痛学会誌 (ISSN:13456547)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.193-197, 2021 (Released:2021-09-01)
参考文献数
15

症例は16歳男性.10歳時より視野の左側に出現する点状の模様に続いて後頭部痛があり,その頻度が増加し,全身強直間代性痙攣を生じて入院した.MRIで両側後頭葉に瘢痕脳回を認めた.視覚症状は後頭葉てんかん発作としての要素性幻視と考えられた.レベチラセタム投与により幻視および頭痛は消失し,痙攣の再発なく経過した.要素性幻視は,片頭痛ではジグザグした模様が視野の末梢へ緩徐に動くが,後頭葉てんかんでは円状または点状で視野の中心や出現部位と対側へ速く動くことから,病歴聴取が鑑別に有用であった.前兆のある片頭痛と後頭葉てんかんの鑑別には,視覚症状の詳細な病歴聴取と頭部MRI画像が有用と考えられた.
著者
西村 和修 河野 智 仁科 健 松田 捷彦 築谷 朋典 赤松 映明 野尻 知里 木島 利彦
出版者
一般社団法人 日本人工臓器学会
雑誌
人工臓器 (ISSN:03000818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.313-318, 1998-04-15
参考文献数
15
被引用文献数
5

我々は長期使用を目的とした磁気浮上型遠心ポンプ(MSCP)を開発し, ポンプ性能の改良と共に小型化を図った. 埋め込み型MSCPのサイズは径82mm, 厚さ51mmで重量は4209と従来型(86×80mm, 700g)に比べかなり小型化され, 消費電力も15W程度へと半減した. これまでに京都大学医学部で羊(体重54-70kg)を用いた動物実験を3頭に実施した. 脱血は左室心尖, 送血部位は下行大動脈とした. 2例ではポンプを体外設置とし, 最近の1例に筋膜下胸壁外に植え込んだ. ポンプ流量は3.5-6.51/min, 遊離ヘモグロビンは全例で25mg/dl以下であった. ポンプ持続日数は60, 140, 80日以上(運転中)であった. 運転中止理由は1例目が感染および管路血栓, 2例目は突然の浮上停止であった. ポンプ内の血栓は認めなかった. 埋込み中のポンプ表面温度は42度前後で5mm離れた筋肉組織で2, 3度低い値であった. 以上より本ポンプは埋め込みに適した補助心臓として期待できる.