著者
福島 正己
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.20-27, 2005-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
31

1020電子ボルト(eV)を超える巨大なエネルギーを持った素粒子が宇宙から飛来し,AGASAやHiResなどの空気シャワー観測装置で検出されている.これらの宇宙線は銀河系外の高エネルギー天体で発生し,長距離の宇宙空間を伝播して地球に到達したと考えられるが,到来方向には起源となる候補天体が見当たらず,その起源は謎である.またAGASAによる観測は,宇宙背景放射との衝突から期待されるエネルギー限界を超えてスペクトラムが続いていることを示しているが,HiResの観測はエネルギー限界の存在とほぼ一致している.「極高エネルギーの宇宙線は何処で生まれるのか」,「宇宙線のエネルギーに限界はあるか」を巡って続く議論に終止符を打つべく,大規模な観測装置の建設が南米アルゼンチンと米国ユタ州で始まった.宇宙ステーションからの観測も計画されている.新たな観測によって,極高エネルギー宇宙線の発生起源と伝播機構が解明され,標準的な素粒子と天体の理論を超える新たな物理への糸口となることが期待される.
著者
山本 喜久
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.928-934, 2005-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
31

本稿では, 物理学と工学の境界領域で量子力学が本質的な役割を演じ, そして成功を収めたいくつかの事例を取り上げる.具体的には, 核磁気共鳴, レーザー, 量子情報, の3つの分野を概観する.この3つの分野に着目したのには2つの理由がある.その第一は, 過去60年にわたって, 時系列的に発展してきたこれら3つの分野の基本概念・原理には驚くほど共通するものが多いことである.第二の理由は, これらの分野で基礎研究から応用へ至る道筋で, 新しい時代を切り開いてきた研究者間のバトンタッチのあり様にも, やはり共通したものがあり興味深いからである.
著者
松永 義夫
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.26-33, 1976-01-05 (Released:2008-04-14)

元素を組み合せることによって, 無機固体の種類が著しくふえ, 新しい物性が出現するように, 分子を構成単位とする化合物, すなわち分子化合物を取上げることによって, 分子性結晶の分野は大きく拡げられる. その主体は電荷移動型と呼ばれるタイプに属し, 成分分子を選ぶことによりイオン性, 共有結合性, 更には金属性を帯びた結晶さえ得ることができる. また, 水素結合や陽子移動の要素を共存させると, 顕著に性質の異なる多形, 甚だしい物性の変化を伴う相転移を作り出す可能性も開ける.
著者
中村 亮介 古野 忠秀 中西 守
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.2-6, 1998-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
23

免疫系は, 生体に侵入した異物を認識し, これを排除する高等動物に特有な生体防御システムである. 免疫系の特徴は「自己と非自己の認識」にある. 自己と非自己の認識は, T細胞とB細胞の細胞間相互作用によりなされている. 本文では, その自己と非自己の認識の分子メカニズムをまず紹介する. ついで, この自己と非自己の認識を介した免疫系のネットワークの特質を述べる. 免疫系のネットワークでは, 細胞の直接の相互作用や液性因子を介して互いの細胞に情報が伝達され, 活性化が誘導される. この細胞の活性化の研究には最新の光学顕微鏡技術が有用であり, そのような実験結果を紹介しつつ, 免疫系における細胞間相互作用の実体を述べる.
著者
内田 慎一 永長 直人
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.182-186, 2003-03-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
26

銅酸化物の高温超伝導体にはフォノンが関与せず,電子間の強い相互作用が主役であると信じられてきた.最近,高温超伝導体中の電子が,明らかにフォノンと強く相互作用しているという光電子分光の実験結果がNature誌(2001年8月)に発表された.また,MgB2やC60での高温超伝導の報告は,フォノンの役割が決して無視できないことを示唆している.銅酸化物において,フォノンが無視されてきた経緯,フォノンがかかわっていると考えられる実験事実,そして,強い電子相関の下で,電子-格子相互作用をどのように考えればよいかについて述べる.
著者
小形 正男
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.893-901, 1994-11-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
81

一次元強相関電子系のモデルとして,ハバードモデルとt-Jモデルをとり上げる.とくに基底状態の波動関数についての理解が,この5年間で急速に拡がった.このことを中心に,個人的な感想を交えながらまとめてみました.(1)一次元系に特徴的なスピンと電荷の分離が,波動関数にどのように現れるか?(2)二次元を含む高次元への変分関数として拡張が可能かどうか?という二つの点を念頭に置きながら波動関数を見ていくことにする.Gutzwiller-Jastrow型の波動関数,Laughlin波動関数との類似性,RVB状態との関係について議論する.

1 0 0 0 OA 宇宙線と気象

著者
和田 雅美 須田 友重
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.563-574, 1966-08-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
70
著者
山田 雅章 岡林 典男
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.1002-1011, 1982-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
29

最近スフェロマク(spheromak)という, 球形に近いプラズマ配位が核融合研究において注目されている. この配位は, 宇宙空間に自然に存在する事も考えられ, 特に自分自身の中に流れる電流によって閉じ込め磁場が出来, それによってプラズマが閉じ込められるのが特長である. 従ってこの配位ではトロイダル磁場コイルが要らず, 核融合装置に有望な点が多く, 近来スフェロマク配位が実際に実験室でも作られるようになった. ここでは, 効率の良い核融合装置を作るという観点からこの配位を観て, 最近のこの配位の研究状況を紹介する.
著者
福留 秀雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.19, no.12, pp.821-827, 1964-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
3
著者
富永 昭
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.326-331, 2000-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
31
被引用文献数
6

熱音響現象は「熱」と「音」との関わる熱力学現象であり,初期には線形近似の流体力学で記述され,後に熱力学的な理解が進んだ.過去20年ほどの問に熱音響現象を理解することと,この現象を応用する研究とが平行して進歩してきた.熱音響現象は物理学の盲点のような現象である.「音」を流体の断熱的運動と捉えていたら,熱音響現象は理解できない.固体壁と振動流体との熱交換が重要だからだ.非一様温度の非平衡系なので,熱音響自励振動という散逸構造も出現する.熱力学的理解のために,熱力学の示量性状態量と一旦決別して,熱流やエネルギー流などの古い概念を復活させる.熱音響理論ではこれらの流れを示量性状態量と結びつけて熱音響現象を議論する.
著者
福村 知昭 長谷川 哲也
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.519-524, 2000-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
27
被引用文献数
1

巨大磁気抵抗を示すいろいろな強磁性体が最近見つかっている.その中でも,強磁性体トンネル接合の無限層構造を自然に有し巨大なトンネル磁気抵抗を示すLa1.4Sr1.6Mn2O7,高々5mol%のMn添加により約100Kという高温で強磁性を示す磁性半導体(Ga,Mn)Asは注目されている材料である.前者は異方性が強く温度変化の大きい磁性を示す点で,後者は強磁性の起源が未解決という点で,"異常な"強磁性体といえる.一般に強磁性体は微視的な磁気構造-磁区-を有しており,これは磁性体の種類に応じて様々な形態を持つ.我々は各種磁性体の磁区構造を観察するために,極低温から室温まで測定できる走査型ホール素子顕微鏡を開発した.ここでは走査型プローブ顕微鏡による磁区観察法を簡潔に述べ,磁気記録媒体の磁区・表面形状および上に述べた物質の磁区構造の観察結果を紹介する.
著者
桜井 利夫 橋詰 富博
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.34-40, 1992-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
14

顕微鏡としてまた超微細加工手法として, 最近, 注目をあびている走査トンネル顕微鏡の生命は, 探針の形状・特性にある. この探針の原子レベルでの評価・調整を容易にするために電界イオン顕微鏡を内蔵した複合型走査トンネル顕微鏡(PI-STM)が開発された. その詳細について解説し, 金属表面への応用例を紹介し, その高性能・安定性を示す.
著者
横山 浩 井上 貴仁 伊藤 順司
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.281-286, 1994-04-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
20
被引用文献数
2

走査型トンネル顕微鏡の誕生というコロンブスの卵は,原子間力顕微鏡をはじめとするSPM(走査型プローブ顕微鏡)と呼ばれる顕微鏡技術の一族に成長・進化し,現在では,表面の形状に留まらず様々な物性・機能をも局所的に観測し画像化する表面解析技術として,著しい発展を見せている.筆者らは,表面電位,誘電率などの電気物性をナノメートルオーダーの分解能で計測するSPMとして,走査型マクスウェル応力顕微鏡(SMM)の開発をすすめている.SMMは,原子間力顕微鏡と同様に,探針に働く力を検出するタイプのSPMであり,外部交流電圧により誘起される強制振動電気力の測定のみから,表面の様々な電気的情報を同時に引き出せることを特徴とする.ここでは,金属薄膜の接触電位差や有機分子薄膜の相分離構造の微視的観察の例を交えて,その概要を紹介する.