著者
髙木 康文 福田 治久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.173-180, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,MRSA感染症における追加的医療資源(入院日数・出来高換算医療費)の推計である.  対象は調査病院を2012年12月~2014年12月に退院した患者で,解析手法はMRSA感染有無を目的変数にしたロジスティック回帰によって推定される傾向スコアによるマッチング法を用いた.傾向スコア推定後,DPC10桁が同一でスコアが近似するMRSA感染者と非感染者を1対1でマッチングした.また,時間依存バイアスに対処したマッチング法も併せて行った.両者の医療資源の差異の平均から追加医療資源を算出し有意差の検定は対応のあるt検定を用いた.  解析対象症例数は24,538例で,感染者数は47名であった.MRSA感染症による入院日数の延長は時間依存バイアスに対処した場合:13.1日(95%信頼区間3.7日–22.4日,p=0.008)および医療費の増加は107.0万円(31.7万円–182.2万円,p=0.007)であり,時間依存バイアスに対処しない場合:21.2日(95%信頼区間11.7日–30.8日,p<0.001)および医療費の増加は160.7万円(64.3万円–257.0万円,p=0.001)と算出された.  本研究は,傾向スコアを用い時間依存バイアスに対処したマッチング法でMRSA感染症による追加的医療費を推計した.結果,時間依存バイアスに対処しなければ結果を過大評価することが明らかとなった.本推計値は感染制御における費用対効果を計る資料として活用できる.
著者
小泉 祐一 木村 健 畑中 重克 門谷 美里 高橋 陽一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.175-180, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

近年,抗菌薬関連下痢症(AAD : antibiotic-associated diarrhea)によって死に至る症例が報告されている.そのようなAADの発生要因を調査するため,過去4年間の抗菌薬の使用実態調査とともに,院内で発生したAADの症例数ならびにその原因として推察される抗菌薬の調査を行い,その関連性について検討した.調査期間は2003年度から2006年度の4年間とし注射用抗菌薬の使用量を調査し,さらに同様の期間においてAADの発症患者数を調査した.またAAD発症と抗菌薬の使用との関連性を解析するため,AAD発症患者に使用された抗菌薬を各系統別にし使用率やオッズ比を算出した.   抗菌薬使用量とAAD発症患者数との相関については,2006年度は抗菌薬使用量が減少したにも関わらず発症患者数は増加していた.2005年度と2006年度の抗菌薬使用の系統別差異を分析するとセフェム系第3世代および,セフェム系第4世代の使用量は増加していた.よって,これらの抗菌薬群の使用がAAD発症に大きな影響を与えているものと推察される.コントロール群とAAD発症患者群との使用抗菌薬の系統については,AAD発症患者群においてセフェム系第3世代,セフェム系第4世代,カルバペネム系の使用率やオッズ比が高いことから,広域な抗菌スペクトルをもつ抗菌薬がAADを発症しやすいことが示唆される.
著者
田村 豊
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.322-329, 2017-11-25 (Released:2018-05-25)
参考文献数
30

Swann Reportが公表されて以来,食用動物由来耐性菌のヒトの健康への影響が指摘されるようになった.農林水産省では,家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング制度を設立し,抗菌薬の使用量と耐性菌の出現状況を監視している.内閣府食品安全委員会では科学的資料により抗菌性飼料添加物と治療用抗菌薬により出現する耐性菌の食品媒介性のヒトの健康影響評価を実施している.次いで農林水産省はその評価結果に基づき,リスクの低減化対策を実施している.最近,海外で問題となっているST398の家畜関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は現時点で食用動物から分離されたとの報告はない.また,プラスミド性コリスチン耐性遺伝子であるmcr-1を保有する大腸菌は病豚から高頻度に分離されているが,まだヒト由来株では検出されていない.今後は薬剤耐性アクション・プランに従ってOne Healthに基づいた耐性菌対策を医療と獣医療の連携のもとに強化する必要がある.
著者
中川 博雄 松田 淳一 栁原 克紀 安岡 彰 北原 隆志 佐々木 均
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.8-12, 2011 (Released:2011-04-05)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

消毒剤の効果の要因の1つは,微生物と薬液の接触時間に依存する.そのため,速乾性手指消毒剤のゲル製剤およびリキッド製剤をそれぞれ3 mL擦り込んだ場合,ゲル製剤の方が長い時間を要することから,ゲル製剤はリキッド製剤に比べ,少ない擦り込み量で十分な擦り込み時間と消毒効果が得られる可能性が考えられる.本研究では0.2 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有エタノールゲル製剤の擦り込み量を変えて,リキッド製剤と消毒効果を比較検討した.その結果,ゲル製剤は1 mLでリキッド製剤3 mLと同等の効果を示した.さらに16種類のゲル製剤およびリキッド製剤について,揮発による重量変化率を測定した.ゲル製剤はリキッド製剤に比べて重量変化率が低く,粘度との間に相関を示した.
著者
中村 麻子 島崎 信夫 田中 梨恵 飯田 秀夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.193-202, 2018-09-25 (Released:2019-03-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1

2013年9月にL. pneumophila serogroup 1によるレジオネラ肺炎の院内発生を認めた.調査の結果,パルスフィールド電気泳動にて病室内給湯水と患者から採取した喀痰のレジオネラDNAのバンドパターンが一致したことから感染源が給湯系であると推察した.給湯系の汚染を調査した結果,混合水栓1か所からL. pneumophila SG 1が検出された.除菌対策として熱水消毒後,配管内の湯温低下防止のため湯の持続放流を実施し,さらに不要配管を除去した結果,除菌は成功した.しかし40℃の混合水から再びL. pneumophila SG 1が検出されたことを契機に92か所の水を調査したところ,23か所から同菌が検出され給水系の汚染を認めた.給水系の除菌対策として,末端混合栓での水の遊離残留塩素濃度が0.87 mg/L以上となるよう受水槽に次亜塩素酸ナトリウムを持続的添加に加え,最遠位の混合水栓から毎日6分間および全病室洗面台から毎日1分間水を放流した.これらの対策により遊離残留塩素濃度は平均0.81 mg/Lに上昇(p<0.01)し,同菌の検出が13.6%から0.4%に減少(p<0.01)し有効性を認めた.本研究の結果から,給湯系のレジオネラ属菌汚染を認めた場合,給水系に汚染源がある可能性を考慮して調査が必要であると考える.
著者
中川 博雄 佐々木 均 室 高広
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.277-281, 2019-11-25 (Released:2020-05-27)
参考文献数
7

注射剤は患者の組織に直接取り込まれるため,薬剤師が無菌的な環境下で調製することが望まれる.しかし,一般病棟の非無菌的な環境下で,看護師による注射剤調製が行われている施設も少なくない.そのため,注射剤の微生物汚染による医療関連感染の問題も未だに散見される.感染対策に携わる薬剤師は,自施設の注射剤調製時の無菌操作や製剤の衛生管理の整備に努めるとともに,注射剤調製の作業手順に関して監督指導を行う立場でなければならない.本稿では,薬剤師による無菌的な環境下での注射剤調製の手順を見直すとともに,看護師による非無菌的な環境下での注射剤調製に関する注意点をまとめた.
著者
北川 誠子 藤井 哲英 二宮 洋子 河口 豊 平田 早苗 東田 志乃 寺田 喜平
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.418-421, 2015 (Released:2016-01-26)
参考文献数
10

調理従事者からのノロウイルス感染集団発生は,特に病院などでは注意が必要である.病院調理従事者のべ370便検体について,イムノクロマト法による迅速抗原検査を実施した.またその1ヶ月以内に本人で嘔吐下痢症状のあった職員および陽性者はリアルタイムPCRで測定した.その結果,迅速抗原検査の陽性者はいなかったが,リアルタイムPCR法で2/44名が陽性であり,陰性化するまで1ヶ月以上かかった.迅速抗原検査法は簡便であるが,無症状の健康成人に対するスクリーニング検査では漏れのある可能性を示した.スクリーニングよりも現場で手指衛生の教育や徹底が重要である.
著者
操 華子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.67-79, 2014

&nbsp;&nbsp;Gleenhalgh は彼の著作の中で、"ゴミ箱行き"の論文の科学と題した章の冒頭で、以下のように述べている。<br> &nbsp;&nbsp;<i>発表された論文の中には(正直者は99%にも及ぶと言うだろう)ゴミ箱行きのものがあること、そしてそのような論文は実践現場に有用な情報をもたらすことがないので、活用すべきではないことを学生たちが学ぶと、きまって驚いた表情になる。1979年、Dr. Stephen Lock(当時のBMJ の編集長)は、『よいアイデアには基づいているが、用いられた方法に取り返しのつかない欠点があり、その論文を不採用にしなければ ならないことほど医学雑誌の編集者にとってがっかりすることはない』と書いている。その15年後、Doug Altman は方法論上の欠点のない医学研究は、全体のたった1%のみであると訴えた。そして最近でも、"質の高い"雑誌に掲載された論文にでさえ、重大かつ基本的な欠点が一般的に見受けられることが確認された。</i><br> &nbsp;&nbsp;厳格な査読制度のある学術雑誌で発表されている研究論文でさえ、結果の真実を歪める、別の表現をすると偽りの統計学的有意性を作り出すような問題を孕んでいる論文が少なくないことをGleenhalgh は指摘している。そのため、既存の研究論文をエビデンスとして活用する臨床家・実践者には、批判的吟味(Critical appraisal)の能力が求められる。また、エビデンスを作り出す研究者には、偽りの統計学的有意性を作り出す要因についての知識を持ち、その問題を最小限にするための配慮と努力が求められる。<br> &nbsp;&nbsp;本稿では、研究成果として偽りの統計学的有意性を作り出す要因である偶然誤差、系統誤差(交絡)について概説する。感染制御の領域で頻用される研究デザインを使用した研究例を紹介し、各研究デザイン特有の問題を説明する。<br>
著者
西村 秀一
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.342-345, 2012
被引用文献数
1 1

本邦では,「プラズマクラスターイオン」「ナノイー粒子」「除菌電解ミスト」と称する特殊物質の放出により空中浮遊状態のウイルスや細菌,環境付着細菌の抑制を謳う電気製品が市販されている.だが,それらの有効性についての第三者による客観的検証報告はない.そこで,環境表面に乾燥状態で付着した細菌を想定し,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌,腸球菌の一定数生菌液をスライドグラス上にスメア状に塗布し容積0.2 m<sup>3</sup>のグローブボックス中に置き,対象機種を一定時間運転後,一定量の液体培地で洗い流し,生存細菌数を定量してみた.その結果全機種,全菌種で対照と生存菌量はほぼ変わらず,殺菌効果はほとんど認められなかった.<br>
著者
上木 礼子 米澤 弘恵 長谷川 智子 荒木 真壽美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.181-186, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
15

本研究では,血液曝露の危険性のある看護場面において,手袋着用行動への,看護師の意図とその影響要因を明確にすることを目的とした.   α県内の総合病院に勤務する看護師1,128名を対象に,4つの血液曝露場面(真空採血管採血場面など)を設定し,手袋着用の行動意図を調査した.さらに,手袋着用の行動意図に影響する要因として,上司/同僚のサポートを含む組織的要因,手袋着用の教育経験を含む個人的要因,リスク認知を含む心理的要因について調査した.影響要因は,手袋着用行動意図の高い高意図群(以下高群)と行動意図の低い低意図群(以下低群)の2群に分け比較した.   その結果,組織要因では,行動意図高群は低群に比べ有意(p<0.01)に手袋の使いやすさ,上司/同僚のサポート,施設の方針を認識していた.個人的要因では,高群は低群より有意(p<0.01)に手袋着用の教育を受けたと認識していた.心理的要因では,リスク認知と行動への態度,行動コントロール感が有意な正の相関を示した.   これらの結果より,組織環境が手袋着用をサポートする傾向にあるとき,および個人に教育経験のあるときには,手袋着用への行動意図が高くなることが示された.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.310-313, 2016
被引用文献数
2

&emsp;据え置き芳香剤の剤形で二酸化塩素ガスを逐次空中に放散させ,抗ウイルス効果を標榜する製品の有用性を検証した.冬季の生活空間を想定し室温23℃,相対湿度30%に設定した1.8 m<sup>3</sup>の密封チャンバー内で製品を開封し,試験中ガス濃度を0.03 ppmを目標として蓋の開閉で調整し,結果的に実験時間中はほぼ0.035&ndash;0.04 ppmの濃度に維持できた.その中に鶏卵由来のA/愛知/2/68株インフルエンザウイルスを含むしょう尿液をネブライザーでミスト化して噴霧し,一定時間後にチャンバー内空気80 Lをゼラチン膜でろ過し,膜に捉えたミスト粒子中の活性ウイルス量を測定し,同製品による空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化効果をみた.その結果,今回の実験条件化では,ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず,不活化効果は確認されなかった.<br> &emsp;二酸化塩素ガスによる殺菌,ウイルス不活化の感染制御の実用化のためには,今後さまざまな条件の下でその殺菌/ウイルス不活化効果の有無を検証していく必要があろう.<br>
著者
多湖 ゆかり 谷 久弥 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.122-127, 2014 (Released:2014-06-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

CDCのGuidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011の発出を受け,末梢静脈カテーテルの標準的な留置期間を4日毎から7日毎に変更した.留置期間が適切か否かを評価するため変更後6ヶ月間(2011年7月~12月)の末梢静脈カテーテルに関連するBSIと静脈炎のデータ解析をした.延べ留置日数2,784日,ライン使用本数989本に対して,BSI発生は2件であり,1000ライン日あたり0.72件であった.発生日はどちらも留置3日目であった.静脈炎(INS基準:2+以上)は14件で,3日以内と4日以上を比較して静脈炎発生率に有意差は見られなかった.従って,末梢静脈カテーテルをルーチンに3~4日毎に刺し替える必要はない.刺入部の観察を重視した上での7日毎の刺し替えは,患者の苦痛軽減やスタッフの労力削減を図る上でむしろ好ましいと考える.
著者
山下 克也 津曲 恭一 尾田 一貴 小園 亜希 田中 亮子 中村 光与子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.141-147, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
10

現在日本では異なる抗原由来の2種類のB型肝炎ワクチンが市販されている.通常1回のシリーズ(6か月間に3回接種)では同じ製品が使用されるが,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討された報告は少ない.今回,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討した.過去にB型肝炎ワクチン未接種であり,HBs抗体陰性が確認された被験者で,3回目を異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した群を対象群(A群),3回全て同じB型肝炎ワクチンを接種した群をコントロール群(B群)とした.ワクチンの投与は皮下注で行い,HBsAb定量およびHBsAb定性は採血で測定し,10.00 COI以上をHBsAb陽性と判定した.有害事象は3回接種後の副反応を調査票で収集し,CTCAE Ver.4.0にて評価した.A群は9名,B群は7名であり,両群ともに全例で抗体獲得が確認された.有害事象はA群で3件,B群で1件認められたが,いずれもGrade 1であった.A,B群合わせた副反応の内訳は注射部位の疼痛3件,皮膚硬結1件であり,重篤な副反応を呈した症例はなかった.今回認められた有害事象はいずれもワクチンに共通した副反応であると考えられ,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種しても良好な抗体獲得が得られる可能性が示唆された.
著者
勝田 優 小阪 直史 村田 龍宣 舩越 真理 井上 敬之 山下 美智子 杉田 直哉 勝井 靖 澤田 真嗣 大野 聖子 清水 恒広 藤田 直久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.354-361, 2015 (Released:2015-12-05)
参考文献数
22
被引用文献数
2

病棟での輸液調製では,調製時の汚染防止により注意を払う必要がある.病棟での輸液調製の現状把握のため,空気清浄度,調製環境,輸液メニューについて血液内科と外科病棟を対象に多施設間調査を実施した.空気清浄度調査は,5施設9部署にて実施し,パーティクルカウンターとエアーサンプラーを用いて浮遊粒子数と浮遊菌の同定・コロニー数を測定した.環境と輸液メニューの調査は,9施設13部署を対象に,調製現場の確認と10日間の注射処方箋(7,201処方)を集計した.空気清浄度は,0.5 μm以上の粒子数が,最も多い部署で3,091×103,少ない部署で393×103個/m3であった.浮遊菌は,黄色ブドウ球菌は3部署のみの検出であったが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,Micrococcus属,Corynebacterium属やBacillus属は全部署より検出された.調製台は,9部署で空調吹き出し口の直下にあり,10部署でスタッフの動線上に設置されていた.混合のあった4,903処方のうち,3時間以上の点滴が31%を占めた.病棟での輸液調製マニュアルを整備していたのは,9施設中3施設のみであった.調査から,輸液調製台エリアの空気清浄度は低く,3時間を超える点滴が3割以上を占めるなど,細菌汚染が生じるリスクが高い可能性が示唆された.輸液汚染リスク軽減のため,日本版の病棟での輸液調製ガイドラインの策定が望まれる.
著者
丹羽 隆 外海 友規 鈴木 景子 渡邉 珠代 土屋 麻由美 太田 浩敏 村上 啓雄
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.333-339, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
17
被引用文献数
3 8

Defined daily dose (DDD)を用いた抗菌薬使用量の集計はWHOが推奨する方法である.しかしながら,DDDによる集計は総使用量の集計であるため,使用動向の解釈には限界がある.我々は,欧米にて評価が高まりつつあるdays of therapy (DOT)によって当院の2005年1月から2013年6月の注射用抗菌薬の使用量を集計した.セフタジジムはDDD法,DOT法による集計値ともに年々有意に減少したが,DDD/DOT比は変化なかったことから,使用日数もしくは使用人数の減少によって総使用量が減少したと判定できた.メロペネムはDDD法による集計値,およびDDD/DOT比は有意に増加したがDOT法による集計値は有意に変化しなかったことから,1日用量の増加によって総使用量が増加したと判定できた.一方,テイコプラニンはDDD法による集計値は変化なく,DOT法による集計値の有意な減少,DDD/DOT比の有意な増加が見られたことから,1日用量が増加したが使用日数または使用人数の減少により総使用量は変化していないと判定された.以上の結果から,DDD法とDOT法を使用することにより,抗菌薬使用動向をより詳細に分析でき,今後の抗菌薬適正使用の一助となると考えられた.
著者
野口 周作 望月 徹 吉田 奈央 上野 ひろむ
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.79-85, 2013 (Released:2013-06-05)
参考文献数
9

病院の感染制御において,薬剤耐性菌対策は重要な問題である.当院では2004年8月にInfection Control Team (ICT)が発足して以来,段階的に抗菌薬適正使用強化策を行った.その取り組みと効果について検討し,若干の知見を得た.2007年にオーダリングシステムと連動した特定抗菌薬使用届出制導入をはじめ,2010年より積極的に症例に関わる方法としてICT抗菌薬ラウンド導入に至るまで段階的に強化策を行った.その効果判定の指標として,カルバペネム系抗菌薬の使用量,投与日数,緑膿菌の感性率及び多剤耐性緑膿菌(MDRP)の年間検出件数を調査した.カルバペネム系抗菌薬の使用量は,1277バイアル(V)(2004年11月)から327V(2010年6月)に,平均投与日数は8.40日(2006年)から5.97日(2010年)に減少し,緑膿菌のmeropenemに対する感性率は72%(2008年)から90%(2011年)に回復した.MDRPの年間検出件数は28件(2008年)から1件(2011年)に減少した.段階的強化策を講じたことで,大きな問題なく医療従事者の抗菌薬適正使用に対する意識を高めることができ,緑膿菌の薬剤感受性の回復とMDRP検出件数の顕著な減少効果が表れたと考える.本結果を踏まえ,今後はより高い水準の抗菌薬適正使用と感染症治療支援に携わっていきたい.
著者
土田 敏恵 荻野 待子 濵元 佳江
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.117-126, 2015 (Released:2015-06-05)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

感染防止の視点からわが国で実施されている陰部洗浄の実態を明らかにし,病床機能による特徴について検討することを目的に,全国の医療施設と介護福祉施設計6,000施設に勤務する看護師・介護職者を対象に構成的質問紙調査を実施した.有効回答部数は1,930部(32.2%)で,病床機能別の回収率は,一般病床937部(48.5%),療養病床600部(31.1%),介護福祉施設393部(20.4%)であった.調査対象の70%の病棟または施設で,入院/入所者の5割以上がおむつを使用していた.実施状況は,対象者1名に対し2人が10分未満で陰部洗浄を実施しており,手袋は1~2双使用していたが,エプロンやマスクは34%が使用しないと回答した.手袋とエプロンの装着は対象者に触れる前であったが,手袋を除去するタイミングは便付着時が最多であるものの多様であった.病床機能別では,対象者1名あたりの陰部洗浄を介護福祉施設の75.8%が実施者1人で実施し,所要時間は61.3%が5分未満で,手袋の使用枚数は1双が69.7%,ディスポーザブルエプロンは62.6%が使用しないと回答した.手指衛生や陰部を洗浄する順序,周囲環境汚染防止策や感染症を疑う対象者への対策については,病床機能による違いはなかった.
著者
山田 恭聖
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.227-234, 2022-11-25 (Released:2023-05-25)
参考文献数
26

新型コロナウイルスに罹患した妊婦においては周産期予後が懸念される.流行開始から2年半が経過する中で,妊娠合併症や新生児予後を含む多くの報告がなされている.2021年にはいくつかの国レベルの調査(イギリス,スウェーデン,スペイン)が報告された.これらによれば,陽性妊婦から出生した新生児のPCR陽性率は1.6-5%と想定されている.また現時点でSARS-CoV-2の胎盤を通じての胎児への移行は報告されていない.最近新型コロナウイルス感染妊婦やその新生児の健康に対する影響を評価したシステマティックレビューが複数報告されている.これらによれば,新型コロナウイルス感染妊婦は非感染妊婦に比較し妊娠高血圧腎症(オッズ比1.3-1.6倍),早産(オッズ比1.6-1.9倍)が増加すると報告されている.小児多系統炎症症候群(MIS-C)は新型コロナウイルス感染後に発症する免疫誘導状況である.新生児多系統炎症症候群(MIS-N)は母体SARS-CoV-2に関連し,MIS-Cに矛盾しない症状を呈する.抗体の経胎盤移行が原因と推定されているが不明な点も多い.新型コロナウイルス感染症既往歴のある妊婦から出生した新生児で,多系統の炎症による異常徴候を説明する鑑別診断としてMIS-Nを検討する必要があると思われる.最新の知見によれば出生後の新生児が入院中に感染を獲得するリスクは低いと推察されている.さらに,母乳中に明らかに感染性のあるウイルスは検出されていない.最近のこれらデータの蓄積により世界的には母児分離を避けることが推奨されている.しかし国内の多くの施設では新生児はいまだに感染母体と分離されている.これらの厳格な感染管理によって引き起こされる負の影響が懸念される.
著者
丸山 浩平 足立 遼子 関谷 潔史
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.248-255, 2022-11-25 (Released:2023-05-25)
参考文献数
25

COVID-19へのBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種による感染および発症予防効果が示されているが,これらの効果は経時的な低下が報告されている.一方で,接種後の抗体価は感染予防効果との相関が示唆されているが,接種後から長期間経過した時点での抗体価に影響を与える要因の報告は少ない.我々はBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種後の職員に抗体検査を実施し,6か月以上経過している場合の,抗体価に影響を与える要因について後ろ向き観察研究を行った.このうち過去にCOVID-19罹患が判明している職員,問診票による情報収集ができなかった職員は除外した.本研究において,2回目接種から6か月以上経過している場合,抗体価が大幅に低下していることが判明した.さらに,6か月以上経過している医療従事者において,単変量解析では年齢,性別,降圧剤の使用が抗体価に影響を与える要因とされ,多変量ロジスティック回帰分析では年齢のみが抗体価に影響を与える要因とされた.年齢については本邦だけではなく,海外からの報告でも抗体価に影響を与える要因とされている.本研究の結果より,ワクチン2回目接種から6か月以上経過している場合,高齢者においては時間経過によるワクチン抗体価の低下が若年層に比べて,より顕著であり,このことは高齢者において,ワクチンによる感染予防効果が時間的な影響をより受けやすいことを示唆していた.