著者
田村 豊
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.375-379, 2013-07-15 (Released:2013-08-31)
参考文献数
4

The Japanese-specific eating habit of consuming raw eggs presents a risk of food poisoning. The most important health hazard associated with raw eggs is Salmonella Enteritidis (SE). This article summarizes the incidence and features of SE food poisoning, contamination factors in eggs, and countermeasures to reduce SE food poisoning from eating raw eggs in Japan.
著者
田村 豊
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.375-379, 2013-07-15

食卵は,高い栄養価を有し,比較的安価な動物性タンパク食品である。日本では鶏卵とうずら卵が主なものであるが,外国ではアヒルや七面鳥の卵も食する習慣がある。鶏卵は,生卵として喫食する他,卵加工品および食品の原料としても広範囲に利用されている。生卵を食するというわが国独自の食習慣は,一方で食中毒などの食品衛生上の問題点も指摘されている。一般に食中毒といえば,微生物のみならず化学物質や自然毒を原因とするものも含まれる。その内,微生物を原因とするものは,食品媒介感染症と呼んでいる。しかし,本文では慣用的に用いられる食中毒という表現を用いることにする。食卵に起因する人の健康障害因子としては,病原微生物をはじめ,食物アレルギーのアレルゲン,動脈硬化との関連が指摘されるコレステロールなどが知られている。その内,最も重要なのが病原微生物で,中でも鶏卵のサルモネラ汚染がしばしば深刻な問題を提起している。事実,1990年9月に広島市を中心に1府9県に及んだ大規模なサルモネラ食中毒の発生は記憶に新しい。この事例では,大手の菓子メーカーでティラミスケーキの原料として使われた液卵にSalmonella Enteritidis(以下SE)が混入していた。ケーキの製造過程で室温に長時間放置したためSEが増殖することにより,それを食した若い女性を中心に食中毒が発生した。大手の菓子メーカーが介在したため広域に食中毒が発生し,患者数458名という記録に残る大規模な食中毒となった。このように食卵の衛生で最も注意すべき課題は,いかにSE食中毒を防ぐかである。そこで本解説では,内閣府食品安全委員会が公表したリスクプロファイルを基にサルモネラ食中毒の発生状況,SEの性状と食中毒の特徴,食卵の汚染要因,および対策について概説したい。
著者
田村 豊
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.322-329, 2017-11-25 (Released:2018-05-25)
参考文献数
30

Swann Reportが公表されて以来,食用動物由来耐性菌のヒトの健康への影響が指摘されるようになった.農林水産省では,家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング制度を設立し,抗菌薬の使用量と耐性菌の出現状況を監視している.内閣府食品安全委員会では科学的資料により抗菌性飼料添加物と治療用抗菌薬により出現する耐性菌の食品媒介性のヒトの健康影響評価を実施している.次いで農林水産省はその評価結果に基づき,リスクの低減化対策を実施している.最近,海外で問題となっているST398の家畜関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は現時点で食用動物から分離されたとの報告はない.また,プラスミド性コリスチン耐性遺伝子であるmcr-1を保有する大腸菌は病豚から高頻度に分離されているが,まだヒト由来株では検出されていない.今後は薬剤耐性アクション・プランに従ってOne Healthに基づいた耐性菌対策を医療と獣医療の連携のもとに強化する必要がある.
著者
久保山 昇 藤井 彰 田村 豊幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.579-596, 1981 (Released:2007-03-09)
参考文献数
35
被引用文献数
16 16

熊笹葉エキス(bamboo Leaf extracts,BLE)および熊笹葉リグニン(bamboo leaf lignin,BLL)の抗腫瘍作用を,in vivo で benzopyrene(BP)および4-nitroquinoline-1-oxide(4NQO)誘発腫瘍マウス,ラットを用いて検討した.またその作用機序を in vitro で,Rec-assay 法および Ames test を用いて検索した.in vivo 抗腫瘍作用は,ddY 系雄性マウス1群20~30匹,16群を使用し,実験期間は120日間とした。対照群は水,実験群には1%,10% BLE および0.1% BLL を自由飲水させた.実験開始と同時に週1回の割で,BP を5回,4NQO を3回背部皮下に投与し誘発腫瘍を作成した。ラットを用いた実験では, Wistar 系雌性ラット1群10匹,9群を用い,実験期間は150日間とした.あらかじめ1%,10% BLE を自由飲水させ,30日後に週1回の割で3回 BP を皮下投与した.抗腫瘍性はマウス,ラットの各群における腫瘍出現率,摘出腫蕩重量,発癌性指数,および腫瘍抑制率を用いて算出した.また,体重変化,一般症状も観察した.実験期間を通じて,BLE および BLL を自由摂取したマウス,ラットは体重変化,一般症状,および主要臓器の病理組織学的所見において,特に異常は認められなかった.よって,BLE および BLL の毒性はきわめて低く,長期大量投与の可能性も示唆きれる.抗腫瘍作用に関してはマウス,ラット共に1% BLE 群(0.71mg/ml)が腫瘍抑制効果が最も高いことが認められた.また弱い抗腫瘍性が10% BLE,0.1% BLL に認められた,このことから BLE の最適投与量は1%溶液であることが示唆される.in vitro の実験では,Rec-assay 法において BLE 1.4mg/disc から DNA 損傷作用が現われ,また,Ames testにおいて BLL(0.565mg/plate)のラット S-9 代謝産物に,TA98 で spontaneous mutation の約2倍の His+ の出現がみられた.このことから,BLE およびこの成分中の BLL の抗腫瘍作用は,腫瘍細胞に直接的に作用する可能性を示唆している.
著者
塩見 浩人 田村 豊 中村 明弘
出版者
福山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本助成金を用いたモルヒネ耐性形成機序解明について、既に掲出した本年度の研究計画に基づき研究を遂行し、以下の成果を得た。1)急性実験において、アデノシンはモルヒネ誘発鎮痛作用を抑制するがこの抑制作用はアデノシンA1受容体を介して発現することを明らかにした。2)脳実質内微量投与法を用いて、モルヒネ誘発鎮痛作用を抑制するアデノシンの脳内作用部位として延髄巨大細胞網様核(NRGC)、延髄傍巨大細胞網様核(NRPG)、中脳水道周囲灰蛋白(PAG)を同定した。3)モルヒネ耐性形成ラットにおいて、NRGC、NRPGあるいはPAGにアデノシンA1受容体拮抗薬を微量投与することによりモルヒネの鎮痛効果が有意に回復することを明らかにした。この結果は、耐性形成時、脳内アデノシン系の活性化が起こっており、遊離アデノシンがA1受容体を介してモルヒネの鎮痛作用を抑制していることを強く示唆している。4)N-アセチル-β-エンドルフィン(NABE)もNRGC、NRPGあるいはPAGの部位においてモルヒネ誘発鎮痛作用を抑制したがこの抑制作用は、アデノシンA1受容体薬を微量併用投与により拮抗され、NABEの作用はアデノシンを介するものと考えられた。5)本助成金で購入したプッシュプルポンプユニットとプッシュプルサンプリングユニットを用いて、脳実質内からアデノシン遊離量を測定した。脳内アデノシンの遊離は、NABEの適用によって増加した。さらに、モルヒネ耐性形成と共に増加した。これらの成果より、モルヒネの耐性形成機序は、モルヒネによりオピオイドペプチドの代謝が促進し、その代謝産物(特にNABE)が脳内に増加するが、このNABEがアデノシンの遊離を促進し、遊離アデノシンがアデノシンA1受容体を介してモルヒネの鎮痛作用を抑制することによることが強く示唆された。
著者
塩見 浩人 田村 豊
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.5, pp.304-312, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
25
被引用文献数
10 12

冬季,環境温度の低下への適応として,一部の哺乳動物では体温を低下させ,非活動の状態で冬期を過ごす冬眠行動をとる.哺乳動物の冬眠は,気温が上昇する春季まで持続するのではなく,冬眠-覚醒のサイクルを何度も繰り返す.しかし,冬眠への導入と維持ならびに冬眠からの覚醒における生理機構はほとんど解明されていない.我々は,冬眠への移行期の体温下降ならびに冬眠状態から覚醒への移行期の体温上昇に関与する中枢機構を検討し,以下の知見を得ている. (1)非冬眠ハムスターの体温(37°C)は,アデノシンA1受容体作用薬,N6-cyclohexyladenosine(CHA) の側脳室内投与により用量依存性に下降する. (2)冬眠初期の低体温(6°C)は,アデノシンA1受容体拮抗薬,8-cyclopentyl-theophylline (CPT) の側脳室内投与により活動期正常体温へ急激に上昇する. (3)A1受容体を介するアデノシンの体温下降作用は,視床下部後野の熱産生中枢の抑制作用による. (4)深冬眠期にはCPT処置によって体温上昇が起こらないことから,アデノシンとは異なる系が熱産生中枢を抑制している可能性がある. (5)冬眠初期,深冬眠期のいずれにおいても, TRH (thyrotropin releasing hormone)の側脳室内投与は活動期正常体温へと急激に体温を上昇させる. (6)非冬眠ハムスターの体温をCHA投与により急性的に15°C以下に低下させると, CPTの拮抗作用は発現せず, TRH の体温上昇作用も現れない.これらの結果から,冬眠導入期には中枢アデノシンが,冬眠からの覚醒には,中枢TRHが重要な役割を演じていることが示唆される.また,自然冬眠時には低温時でも作動する非冬眠時とは異なる熱産生系の存在が示唆される.
著者
田村 豊幸
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
臨床薬理 (ISSN:03881601)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.119-123, 1973-06-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
8
著者
三木 文雄 生野 善康 INOUE Eiji 村田 哲人 谷澤 伸一 坂元 一夫 田原 旭 斎藤 玲 富沢 磨須美 平賀 洋明 菊地 弘毅 山本 朝子 武部 和夫 中村 光男 宮沢 正 田村 豊一 遠藤 勝美 米田 政志 井戸 康夫 上原 修 岡本 勝博 相楽 衛男 滝島 任 井田 士朗 今野 淳 大泉 耕太郎 青沼 清一 渡辺 彰 佐藤 和男 林 泉 勝 正孝 奥井 津二 河合 美枝子 福井 俊夫 荒川 正昭 和田 光一 森本 隆夫 蒲沢 知子 武田 元 関根 理 薄田 芳丸 青木 信樹 宮原 正 斎藤 篤 嶋田 甚五郎 柴 孝也 池本 秀雄 渡辺 一功 小林 宏行 高村 研二 吉田 雅彦 真下 啓明 山根 至二 富 俊明 可部 順三郎 石橋 弘義 工藤 宏一郎 太田 健 谷本 普一 中谷 龍王 吉村 邦彦 中森 祥隆 蝶名林 直彦 中田 紘一郎 渡辺 健太郎 小山 優 飯島 福生 稲松 孝思 浦山 京子 東 冬彦 船津 雄三 藤森 一平 小林 芳夫 安達 正則 深谷 一太 大久保 隆男 伊藤 章 松本 裕 鈴木 淳一 吉池 保博 綿貫 裕司 小田切 繁樹 千場 純 鈴木 周雄 室橋 光宇 福田 勉 木内 充世 芦刈 靖彦 下方 薫 吉井 才司 高納 修 酒井 秀造 西脇 敬祐 竹浦 茂樹 岸本 広次 佐竹 辰夫 高木 健三 山木 健市 笹本 基秀 佐々木 智康 武内 俊彦 加藤 政仁 加藤 錠一 伊藤 剛 山本 俊幸 鈴木 幹三 山本 和英 足立 暁 大山 馨 鈴木 国功 大谷 信夫 早瀬 満 久世 文幸 辻野 弘之 稲葉 宣雄 池田 宣昭 松原 恒雄 牛田 伸一 網谷 良一 中西 通泰 大久保 滉 上田 良弘 成田 亘啓 澤木 政好 三笠 桂一 安永 幸二郎 米津 精文 飯田 夕 榊原 嘉彦 螺良 英郎 濱田 朝夫 福山 興一 福岡 正博 伊藤 正己 平尾 文男 小松 孝 前川 暢夫 西山 秀樹 鈴木 雄二郎 堀川 禎夫 田村 正和 副島 林造 二木 芳人 安達 倫文 中川 義久 角 優 栗村 統 佐々木 英夫 福原 弘文 森本 忠雄 澤江 義郎 岡田 薫 熊谷 幸雄 重松 信昭 相沢 久道 瀧井 昌英 大堂 孝文 品川 知明 原 耕平 斎藤 厚 広田 正毅 山口 恵三 河野 茂 古賀 宏延 渡辺 講一 藤田 紀代 植田 保子 河野 浩太 松本 慶蔵 永武 毅 力富 直人 那須 勝 後藤 純 後藤 陽一郎 重野 秀昭 田代 隆良
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.914-943, 1987
被引用文献数
2

Clavulanic acid (以下CVAと略す) とticarcillin (以下TIPCと略す) の1: 15の配合剤, BRL28500 (以下BRLと略す) の呼吸器感染症に対する有効性と安全性をpiperacillin (以下PIPCと略す) を対照薬剤として, welI-controlled studyひこより比較検討した.<BR>感染症状明確な15歳以上の慢性呼吸器感染症 (慢性気管支炎, びまん性汎細気管支炎, 感染を伴った気管支拡張症・肺気腫・肺線維症・気管支喘息など) およびその急性増悪, 細菌性肺炎, 肺化膿症を対象とし, BRLは1回1.6g (TIPC1.5g+CVA0.1g) 宛, PIPCは1回2.0g宛, いずれも1日2回, 原則として14日間点滴静注により投与し, 臨床効果, 症状改善度, 細菌学的効果, 副作用・臨床検査値異常化の有無, 有用性について両薬剤投与群間で比較を行い, 以下の成績を得た.<BR>1. 薬剤投与314例 (BRL投与161例, PIPC投与153例) 中, 45例を除外した269例 (BRL投与138例, PIPC投与131例) について有効性の解析を行い, 副作用は293例 (BRL投与148例, PIPC投与145例) について, 臨床検査値異常化は286例 (BRL投与141例, PIPC投与145例) について解析を実施した.<BR>2. 小委員会判定による臨床効果は, 全症例ではBRL投与群78.8%, PIPC投与群79.4%, 肺炎・肺化膿症症例ではBRL投与群 (79例) 82.1%, PIPC投与群 (73例) 79.5%, 慢性気道感染症症例ではBRL投与群 (59例) 74.6%, PIPC投与群 (58例) 79.3%の有効率で, いずれも両薬剤投与群間に有意差を認めなかった.<BR>3. 症状改善度は, 肺炎・肺化膿症症例では赤沈値の14日後の改善度に関してPIPC投与群よりBRL投与群がすぐれ, 慢性気道感染症症例では胸部ラ音, 白血球数, CRPの3日後の改善度に関してBRL投与群よりPIPC投与群がすぐれ, それぞれ両薬剤投与群間に有意差が認められた.<BR>4. 細菌学的効果はBRL投与群68例, PIPC投与群57例について検討を実施し, 全体の除菌率はBRL投与群75.0%, PIPC投与群71.9%と両薬剤投与群間に有意差は認められないが, Klebsiella spp. 感染症においては, BRL投与群の除菌率87.5%, PIPC投与群の除菌率16.7%と両薬剤群間に有意差が認められた. また, 起炎菌のPIPCに対する感受性をMIC50μg/ml以上と50μg/ml未満に層別すると, MIC50μg/ml未満の感性菌感染例ではBRL投与群の除菌率69.6%に対してPIPC投与群の除菌率94.7%とPIPCがすぐれる傾向がみられ, 一方, MIC50μg/ml以上の耐性菌感染例ではPIPC投与群の除菌率12.5%に対して, BRL投与群の除菌率は66.7%と高く, 両薬剤間に有意差が認められた.<BR>5. 副作用解析対象293例中, 何らかの自他覚的副作用の出現例はBRL投与群5例, PIPC投与群11例で, 両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>6. 臨床検査値異常化解析対象286例中, 何らかの異常化が認められた症例は, BRL投与141例中45例 (31.9%), PIPC投与145例中28例 (19.3%) で, 両薬剤投与群間に有意差が認められた. 臨床検査項目別にみると, GPT上昇がBRL投与140例中26例 (18.6%), PIPC投与140例中14例 (10.0%), BUN上昇がBRL投与128例中0, PIPC投与127例中4例 (3.1%) と, それぞれ両薬剤投与群間での異常化率の差に有意傾向が認められた.<BR>7. 有効性と安全性を勘案して判定した有用性は, 全症例ではBRL投与群の有用率 (極めて有用+有用) 76.3%, PIPC投与群の有用率の74.8%, 肺炎・肺化膿症症例における有用率はBRL投与群81.0%, PIPC投与群75.3%, 慢性気道感染症症例における有用率はBRL投与群70.0%, PIPC投与群74.1%と, いずれも両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>以上の成績より, BRL1日3.2gの投与はPIPC1日4gの投与と略同等の呼吸器感染症に対する有効性と安全性を示し, とくにβ-lactamase産生菌感染症に対しても有効性を示すことが確認され, BRLが呼吸器感染症の治療上有用性の高い薬剤であると考えられた.
著者
塩見 浩人 中村 明弘 田村 豊
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度〜平成16年度の2年間、「ハムスターの冬眠制御機構解明と低温負荷による生体侵襲に対する保護因子の同定」に関する研究を遂行し、以下の成果を得た。1.導入期の体温下降は、adenosineが前視床下部を中心とした内側視床下部のadenosine A1受容体を介し熱産生を抑制することにより惹起されることを明らかにした。Adenosine系による冬眠時の体温制御は体温下降開始27時間から30時間の間にopioid系に切り替わることも明らかにした。2.維持期(体温下降開始30時間以降)の低体温はμ1-opioid受容体を介する中枢opioid系により制御されていることを明らかにした。3.覚醒期の体温上昇はTRHが視索前野、背内側核を中心とした内側視床下部のTRH type-1受容体を介し、交感神経系を活性化することにより褐色脂肪組織における熱産生を亢進させて惹起されることを明らかにした。4.ラット初代培養大脳皮質ニューロンにおいて、低温処置によりアポトーシス様の神経細胞死が誘発されることを明らかにした。5.低温で処置すると冬眠動物のハムスターにおいても神経細胞死が発現した。6.アデノシンはA1、A2両受容体サブタイプを介して低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。7.モルヒネはμ、δ及びκ受容体を介して低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。8.ヒスタミンはH1受容体サブタイプを介して低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。9.セロトニンは低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。