著者
坂本 史衣
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-6, 2019-01-25 (Released:2019-07-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1

カテーテル関連尿路感染(Catheter-associated urinary tract infections:CAUTI)は医療関連感染の10~20%を占める.近年,CAUTIの主要なリスク因子の一つとして,カテーテル留置期間の長期化が注目されており,専門組織が発行するCAUTI予防のためのガイドラインやガイダンスは,カテーテルの使用制限を含む多角的な取り組みを行うよう推奨している.本稿では米国医療研究・品質調査機構(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)が開発した包括的プログラムを参考にしながら,根拠に基づくCAUTI予防策について解説する.
著者
中村 絵美 髙見 貴之 加藤 頼子 吉田 葉子 谷口 暢
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.100-106, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
15

医療施設における環境由来による微生物の感染予防には,手指衛生に加えて環境表面の清掃が非常に重要であり,時として消毒も必要となる.近年,病院環境の整備に,洗浄剤や消毒薬(薬液)を不織布等のクロスに含浸させた環境清拭用クロスが頻用されている.しかし,環境清拭用クロスには,薬液中の成分がクロスに吸着し成分濃度が低下する場合があるにもかかわらず,その殺菌性能の評価の多くは,クロスに含浸させようとする薬液を微生物に作用させる方法が実施されている.そこで,3種類の市販品(市販品A, BとC)と消毒用エタノールクロスについて(1)クロスからの絞り液と供試微生物を作用させるクロス含浸後定量的懸濁法と(2)環境清拭用クロスを直接利用した清拭法によって殺菌効果およびウイルス不活化効果を検討した.その結果,市販品Aは,市販品BおよびCと比較してクロス含浸後定量的懸濁法と清拭法ともに高い殺菌効果およびウイルス不活化効果を示した.さらに市販品Aは,消毒用エタノールクロスと比較しても,清拭法において高いウイルス不活化効果を示した.また,市販品B,Cおよび消毒用エタノールクロスでは,クロス含浸後定量的懸濁法と清拭法で結果に明確な差が認められた.そのため,環境清拭用クロスの有効性評価には,クロス含浸後定量的懸濁法による評価に加えて,実際の環境整備を想定した清拭法も評価法として重要と考えられた.
著者
操 華子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.143-154, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
9

質問紙調査は,横断研究デザインなどで最も頻用されるデータ収集方法の一つである.多くの人間の意識,認識や行動について,詳しく情報を収集したい場合,質問紙調査が選択される.これまで本学会誌に投稿された論文の中でも,質問紙調査の結果に関する論文は多い.しかし,残念なことではあるが,質問紙調査のプロセス全体を理解し,求められている手順をきちんと踏んだのかどうかの確信が持てない論文も少なくないのが実情である.   質問紙調査とアンケート調査はほぼ同義語として用いられている.アンケートはフランス語由来の用語であり,「(調査の意)調査のため多くの人に一定の様式で行う問い合わせ.意見調査.また,その調査に対する回答」と広辞苑では定義されている.近年,アンケートという用語をタイトルに入れた著作が多く出版されているが,本用語は一般用語であり,専門用語として使用されることはあまり適切ではないとする意見もある.   そこで,本稿では質問紙調査という用語を使用することとし,質問紙調査のプロセスについて,質問紙調査を実施する際に起こしやすい間違いについて概説する.
著者
久保田 早苗 工藤 綾子 岩渕 和久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.87-96, 2020-05-25 (Released:2020-11-25)
参考文献数
17

本研究の目的は,理学療法士の訓練時における感染予防意識と行動について明らかにすることである.感染管理認定看護師が所属する施設に勤務する理学療法士,5施設計18名を対象に半構造化面接を行い,感染予防意識と行動に関する語りをコード化,類似するコードをカテゴリー化し,質的帰納的に分析した.理学療法士の感染予防意識は432生成され,98サブカテゴリー,28カテゴリーに分類され,5コアカテゴリーが抽出された.コード数の多いコアカテゴリーとして,【職種間の感染予防策の認識の差と危機管理意識】【感染症患者の増加によるリハビリ調整の困難さと超高齢社会への危機感】などが生成された.理学療法士の感染予防行動は684生成され,93サブカテゴリー,25カテゴリーに分類され,7コアカテゴリーが抽出された.コード数の多いコアカテゴリーとして,【感染症や指示による手順通りの防護服の着脱と定期的な白衣・リネンの交換】【感染症情報の確認・連絡による日常や汚染時の清掃徹底】などが生成された.患者との接触が多い理学療法士が行う標準予防策は感染症の有無や健康状態によって予防策を決めていくことではないことを理解し,実践していくことが求められる.また,感染事例に応じて自らが判断し根拠をもった知識の習得を目指す必要がある.
著者
古林 千恵 矢野 久子 尾上 恵子 脇本 寛子 脇山 直樹 畑 七奈子 山本 洋行 脇本 幸夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.412-418, 2012 (Released:2013-02-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

高齢社会の到来と医療費の削減を背景に,入院期間の短縮,在宅医療の普及が推進されている.退院後,引き続き自宅での医療が必要な場合には,短い入院期間中にこれらの医療に関する新たな技術を習得することが求められている.今回,清潔間欠自己導尿(CIC)の継続指導チェックリスト作成のために患者10名を対象に,導入時および継続指導の実態を調査した.CIC導入時の問題点として,口頭指導のみでCICを開始させた場合があった.また,手順指導を行なった場合であっても患者の個別性や身体的機能,異常時の対応,自宅の状況などを考慮した指導にいたっていないことや膀胱過拡張予防の理解,排尿記録の目的を理解した記載が行われていないことが明らかになった.外来では,残尿が無いように排尿をさせる体位や手順確認を含めた継続指導を行っていなかった.これらのことから,膀胱過拡張予防の理解,上部尿路保護を意識した排尿量の保持と排尿間隔でCICを実施する排尿記録の記載を中心とした継続指導が重要であることが明らかになった.以上を踏まえ,問題点の抽出を行い継続指導チェックリストを作成した.
著者
高野 尊行 中薗 健一 薄井 啓一郎 仲澤 恵 梅田 啓 池野 義彦 中丸 朗 阿久津 郁夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.287-292, 2014 (Released:2014-10-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1

海外ではClostridium difficile感染症(CDI)発症と,いくつかの抗菌薬の投与の関連性が示唆されている.そこで,当院の患者を対象とし,系統別抗菌薬投与とCDI発症との関連性について検討を行った.2005年7月から2007年12月までに,CDIが疑われC. difficile toxin A (CD toxin A)検査を実施した全ての患者のカルテ調査を行った.CD toxin A陽性のケース群と陰性のコントロール群で,系統別抗菌薬投与によるCDI発症のリスクを比較検討した.対象期間に下痢を発症しCDIが疑われ,CD toxin A検査を行った患者は269例であった.ケース群では,抗菌薬投与56例,抗菌薬未投与3例,コントロール群では,それぞれ169例と41例であった.多重ロジスティック回帰分析にて比較し調整オッズ比(AOR)を算出した結果,有意にCDI発症を上昇させた抗菌薬は,フルオロキノロン系(AOR, 9.0 [95% confidence interval, 2.7–29.9]),第2世代セファロスポリン(AOR, 7.2 [95% confidence interval, 2.4–22.1]),第3世代セファロスポリン(AOR, 4.1 [95% confidence interval, 1.4–11.8])であった.今後,多施設による研究および個々の抗菌薬とCDI発症の関連性の調査を行う必要性があると考えられた.
著者
小倉 憂也 小澤 智子 野島 康弘 菊野 理津子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.391-398, 2015 (Released:2016-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
4 2

本研究では,ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする環境除菌・洗浄剤(RST)の有効性について,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),多剤耐性緑膿菌(MDRP),ノロウイルス代替のネコカリシウイルス(FCV)およびC型肝炎ウイルス代替のウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)を対象として評価した.懸濁試験において,1%RSTは,0.03%ウシ血清アルブミンを負荷物質とした試験条件では1分間の作用時間で,MRSA,MDRPに対して4 log10以上の殺菌効果を示し,またFCVに対し4 log10以上のウイルス不活化効果を示した.1分間作用の懸濁試験による評価において有効塩素濃度が同じ次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)よりもRSTはウイルス不活化効果が高かった.浸漬試験においてはキャリアに付着させたBVDVに対して0.1%NaOClは0.9 log10の,また1%RSTでは3.3 log10の減少であった.また,試験薬含浸ワイプによる拭き取り試験では,1%RST含浸ワイプは,FCVに対し4.5 log10以上の除去効果を示した.これらの結果からRSTは,病院環境における日常の衛生管理において,選択肢の一つになり得る製剤であることが示唆された.
著者
菊池 清 妹尾 千賀子 中村 嗣 大日 康史 菅原 民枝 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.351-356, 2010 (Released:2011-02-05)
参考文献数
4

新型インフルエンザ(Flu)流行時の施設内感染防止と労働安全衛生上の必要性から,2009年9月1日から職員対象症候群サーベイランスを始めた.Webブラウザ上で稼動する職員健康管理ツールを開発し,病院内で働く全職員1350名の症状(症状なし,咳/鼻水/咽頭痛,発熱,嘔吐/下痢,その他)などを各部署責任者が毎朝9時までに登録することにした.参照権限はインフェクションコントロールチーム(ICT)主要メンバーと病院管理部門の10名に限定した.登録情報をもとにICTが介入し,出勤停止命令や該当部署の接触者の管理などを行った.9月1日から12月31日までの全部署登録率(情報入力された職員の総数/1350名)の中央値(範囲)は,78日間の平日が85.0%(74.4%~98.5%),44日間の休日が43.2%(34.2%~53.0%)であった.症状別では,「咳/鼻水/咽頭痛」が最も多く,次に「発熱」,「嘔吐/下痢」の順であった.発熱した全ての職員(114名)をICTが指導した.Fluの診断を受けた39名の職員は1週間の出勤停止とした.職員から患者への感染は起こらなかった.IT化された職員対象症候群サーベイランスの運用は,職員の健康状況が容易に把握でき,ICTの早期介入を可能にした.
著者
嶋守 一恵 近藤 啓子 小野寺 直人 佐藤 悦子 諏訪部 章 櫻井 滋
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.268-274, 2017-09-25 (Released:2018-03-25)
参考文献数
14

手指衛生は医療関連感染防止のために重要な感染対策であるが,その遵守は十分ではない.我々は,看護管理者に積極的な関与を促す「手指衛生向上プログラム」の導入が,擦式アルコール手指消毒薬(ABHR)使用率(L/1,000patient-days)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)発生率(件数/1,000patient-days)に与える影響を検討した.本プログラムは看護部目標の成果尺度として,ABHR使用率を一般病棟で15,クリティカル部門で30と設定し,各看護師長に目標達成を義務付けた.また,看護師長会議で毎月のABHR使用率とMRSA検出数を報告し,リンクナースと感染症対策室が目標達成の支援を行った.その結果,一般病棟のABHR使用率は,導入前の平成25年度は9.3であったが,導入後の平成27年度は17.5に増加し(p<0.05),目標を達成した.同時期のMRSA発生率は0.52から0.37に減少した(p<0.05).クリティカル部門のABHR使用率も,平成25年度の41.9から,平成27年度では78.8に増加し(p<0.05),MRSA発生率も1.84から1.63へと減少傾向を示した.以上により,手指衛生の推進を看護部の目標とし,病棟の中心的存在である看護師長の関与のもと組織全体が積極的に取り組むことが効果的であり,本プログラムは手指衛生の向上に有用であることが示唆された.
著者
松永 宣史 山田 陽子 山田 加奈子 内海 健太 中南 秀将 野口 雅久 笹津 備規
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.362-368, 2011 (Released:2012-02-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

接触感染は,院内感染の最も主要な感染経路である.接触感染の防止には,患者や医療従事者が頻繁に触れる場所(高頻度接触表面)の汚染状況を把握し,医療従事者の病院内環境に対する意識を向上させる必要がある.本研究では,院内感染の主要な原因菌であるPseudomonas aeruginosa,メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA),およびSerratia marcescensについて,高頻度接触表面の環境調査を行った.2005年から2008年の4年間,のべ1,513試料から,MRSA 13株(0.9%),P. aeruginosa 69株(4.6%),およびS. marcescens 24株(1.6%)が検出された.検出された細菌の特徴を調査するため,抗菌薬感受性試験およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行った.その結果,環境分離MRSAの抗菌薬感受性と遺伝学的背景は,臨床分離株と類似していた.一方,環境分離P. aeruginosaおよびS. marcescensの80%以上が,調査した抗菌薬全てに感受性を示した.また,環境分離P. aeruginosaと臨床分離株の遺伝学的類似率は低いことが明らかとなった.したがって,高頻度接触表面に付着していたMRSAは患者や医療従事者由来株であり,P. aeruginosaおよびS. marcescensの大部分は,環境細菌であることが強く示唆された.さらに,細菌検出数の経時変化を調査したところ,初回調査時の18株/89試料(20.2%)が最も多く,調査2回目は7株/89試料(4.5%)と大きく減少した.これは,MRSAの検出数が著しく減少したことに起因していた.したがって,環境調査を行うことによって,職員の環境に対する意識が向上し,各部署における清掃および消毒が頻繁に行われるようになったと考えられる.
著者
佐原 利幸 渡嘉敷 智賀子 耒田 善彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.35-40, 2011 (Released:2011-04-05)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

2009年8月,当院の精神科閉鎖病棟において新型インフルエンザがアウトブレイクした.患者は自覚症状の的確な表現が困難で,衛生管理能力が低いなどの特性を持っており,更なる感染拡大が懸念された.1例目発症時,診断・治療・対策までの初期対応を約4時間で実践した後も,発症者は倍に増加していく状況だった.そこで,発症者数の増加に合わせたゾーニングと特性を考慮した対策を実施しながら,インフルエンザ治療薬を入院患者・職員全員を対象に投与した.結果,全入院患者41名中11名が発症,職員の発症はなく,2週間で病棟隔離を解除した.継続した対策の実践,患者・職員への教育,治療薬の投与など,総合的な対策が重要である.
著者
消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド 作成委員会 尾家 重治 大久保 憲 伏見 了 赤松 泰次 石原 立 佐藤 公 佐藤 絹子 田村 君英 藤田 賢一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.Supplement, pp.S1-S27, 2013 (Released:2013-11-25)
参考文献数
81
被引用文献数
4 2

改訂にあたって  「消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン」は、2008 年 5 月に初版を発行して以来大きな反響があった。本ガイドラインの初版は、日本消化器内視鏡学会甲信越支部感染対策委員会による「内視鏡消毒法ガイドライン(1995 年)」、日本消化器内視鏡技師会消毒委員会による「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(1996 年)」、日本消化器内視鏡学会消毒委員会による「消化器内視鏡機器洗浄・消毒法ガイドライン(1998 年)」の記載を基本として、その後の新しいエビデンスを踏まえて作成されたものである。今回、初版の発行から約 5 年が経過したことと、米国における消化器内視鏡のマルチソサエティガイドラインが改訂されたことを機会に、わが国においても改訂版を発行する必要があると判断した。  関連する学会や業界のコンセンサスを得る必要があり、ドラフト(草案)を上記 3 学会および、内視鏡に関連する 17 学会、さらに内視鏡製造業界および自動洗浄器業界、消毒薬製造販売業界に対して広くパブリックコメントを求めた。  標準予防策(スタンダードプリコーション)などの感染防止の基本的事項については特に触れず、消化器内視鏡の感染制御および洗浄・消毒に関わる処理を中心にまとめており、消化器内視鏡検査の実施に即応して、この実践ガイドが容易に適用できることを目指した。特に高水準消毒薬の反応(接触)時間等については、消毒薬の添付文書とは異なる場合もあり、諸外国でのデータなどを参照して実務的に判断した。  なお、勧告事項の実証性水準については、できるだけ簡明となるように、本文の要求分類は原則として二種類とし、その表現方法の例を下記に示す。推奨度の分類は、消化器内視鏡の感染制御に関する専門家の合意に基づいて行った。 ① 推奨度Ⅰとは、必須の要件であり、すべての施設において実施すべき事項 ② 推奨度Ⅱとは、現状では必須と位置づけるものではないが、実施が望ましい事項  医療施設の内視鏡検査室において、本実践ガイドを参照して、自施設のマニュアル(手順書) を作成し、消化器内視鏡に係る感染制御の実務に広く利用され、患者およびスタッフの安全の一層の向上に寄与できることを期待する。  今回の改訂版は「ガイドライン」ではなく「実践ガイド」という名称を用いた。その理由として、昨今「ガイドライン」の策定においては、厳密なエビデンスに基づくことや、作成者だけでなく評価者を同時に設置するといった、綿密な作成過程が要求される傾向にある。今回の改訂版は、3学会の専門家による合意を中心に作成されていることから、「ガイドライン」ではなく、あえて「実践ガイド」とした。
著者
中村 麻子 楠見 ひとみ 遠藤 英子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.355-360, 2013 (Released:2014-02-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

本研究は,助産所における分娩時の血液・体液曝露の実態と個人防護具(PPE)の着用状況,および着用に関する意識と関連要因を明らかにすることを目的とした.   全国の分娩を取り扱う助産所342施設の助産所開設者を対象に,2009年に郵送法による無記名の自記式質問紙調査を行い,139名から有効回答が得られた(回収率42.1%).血液・体液の曝露経験者は125名(90.0%)であった.曝露部位は,顔面がもっとも多く(77.6%),ついで上肢(75.2%),手指(67.2%),大腿部,胸部,頭部の順であった.また最近1年間に素手による分娩介助を経験した助産師は25名(18.0%)であり,このうちの5名は素手による分娩介助を常態としていた.分娩介助時に手袋とガウンを着用する助産師は80名(57.6%)と最も多く,手袋のみが42名(30.2%)であった.52名(40.3%)の助産師はPPEの必要性が理解できないと回答した.分娩介助時に手袋とガウンを併用する群と手袋のみを着用する群を比較したところ,助産師の年齢,助産師経験年数,施設の開業年数と従業員数,および年間分娩取扱い件数は,PPE着用状況とは関連性が認められなかった.   本調査より,助産所における分娩時の血液・体液曝露予防対策は標準予防策としては十分とは言い難い状況であることが明らかになった.
著者
島崎 豊 竜 瑞之 吉田 葉子 平田 善彦 古田 太郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.264-270, 2009 (Released:2009-10-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

手荒れ防止の新たな取り組みとして,手荒れの程度(高度,中程度,低度)に応じて,手袋,皮膚保護剤,保湿剤を使い分ける方法がある.事前調査において最も多く見られた中程度の手荒れでは皮膚の乾燥だけでなく角層バリア機能が部分的に失われていると考えられる.今回,この角層バリア機能の改善を目的として開発されたフッ素系ポリマー含有製剤の手荒れ改善効果を調査した.頻回の手指衛生を行う医療従事者の業務中の実使用に耐え得るか調査するため,手指皮膚への保持能と石けん手洗いによる角層細胞剥離率を測定したところ,本製剤は手指皮膚への保持能力が高く,石けん手洗いによる角層細胞剥離率を顕著に抑制することがわかった.また,2ヶ月間に渡り中程度手荒れを有する看護師33名が本製剤を勤務中に使用し,その手荒れ改善効果とアンケートにより使用感を検証したところ,27名(82%)のTEWL値(経皮水分蒸散量)が有意に低下した.以上のことから,本製剤は中程度手荒れの角層バリア機能を改善し,手荒れ改善効果を有することが示された.
著者
小林 龍 谷口 亮央 古泉 景子 土屋 総之 多田 知弘 佐藤 雄樹 柴波 明男 妻木 良二
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.280-284, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
10
被引用文献数
3 2

今回,手荒れの予防効果が高いと言われているアルコールゲル擦式消毒剤(ゲル剤)を用い,皮膚に対する影響について,当院看護師82名を対象として2週間使用後の手掌と手背,指先の肌水分量を測定した.   各薬剤とも調査前後の手指消毒回数に変化はなかった.種類による差はあるものの,3種類のゲル剤全てにおいて,手掌と指先の肌水分量が増加した.   今回の結果より,ゲル剤の保湿効果が擦式消毒用アルコール製剤に比べ高いことが示された.この成績は,ゲル剤使用により手荒れ防止および手指消毒回数の減少防止に繋がり,医療関連感染の低下にも有効であると考えられる.
著者
加村 眞知子 向野 賢治 下山 真智子 釜田 充浩 辛島 紀子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.113-118, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1

当院で2013年2月に,南館及び本館の2つの病棟でノロウイルス胃腸炎のアウトブレイクが起きた.発症患者16人,職員5人であった.アウトブレイクは複数病室で同時多発的に起きた.疫学調査から南館にノロウイルスが持ち込まれたのちに,本館へは車椅子用共同トイレの利用により感染が拡大したことが推定された.共同トイレを含む病室環境の清掃と消毒を徹底強化し,入院患者へ手指衛生指導を行うことによりアウトブレイクは速やかに収束した.ノロウイルス胃腸炎には,個人防護具着用,個室隔離,環境清掃と共に,次亜塩素酸ナトリウムによる共同トイレの消毒,排泄後の手指衛生がアウトブレイク発生防止に不可欠であると思われた.
著者
加藤 豊範
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.274-280, 2015 (Released:2015-10-05)
参考文献数
15
被引用文献数
6 4

手洗いや手指衛生は院内感染防止対策の基本である.しかし,医療関係者の多くは手指衛生を遵守しているとは言い難く,手指衛生遵守率の向上は院内感染対策の永遠のテーマでもある.本研究では,感染委員会及びICTが中心となり,組織的に手指衛生遵守率向上に取り組んだ結果,取り組み当初(2011年)3.2%であった手指衛生遵守率は,2年後(2013年)には21.9%と飛躍的に上昇した.さらに,MRSAの検出率は31.5%から13.1%に減少し,MRSAの新規分離率も11.5%から2.6%まで減少した.手指衛生に対する組織的な取り組みは,その遵守率を向上させ,MRSA分離率への低下につながり,さらにはMRSAの新規検出菌数の減少へとつながったと考えられる.本研究の結果から,組織的に手指衛生遵守率向上の取り組みを行う事は,院内感染防止に有用であると考えられる.
著者
山本 恭子 安井 久美子 茅野 友宣 鵜飼 和浩
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.347-352, 2009 (Released:2009-12-10)
参考文献数
13
被引用文献数
2

手洗いは感染予防策のなかでも,最も重要な手段のひとつである.本研究では,地域における高齢者を対象に手洗いの除菌効果,手洗い方法の特徴を明らかにし,手洗いの指導方法を検討した.   石けんと流水による手洗いの除菌効果について調べるために,高齢者(17名)および看護師(15名)の手洗い前後での手指の細菌数を測定したところ高齢者では手洗い前の手指の細菌数が平均620.2 CFUであり看護師の164.1 CFUと比較して多く,高齢者においては17名のうち8名で手洗い後に手洗い前よりも多くの細菌が検出された.手洗いの手技を観察すると,手のひらや手背部,指の間は半数以上の人が擦り合わせていたが,指先や母指,手首については擦り合わせている人が少ないことが分かった.また,すすぎを確実に行っていた人は23.5%,乾燥を確実に行っていた人は29.4%と少なかった.   そこで,感染予防のための手洗いの必要性や手洗い方法を指導した後,手洗い手技等について再度観察を行い指導の効果を見たところ,64.7%の人が指先を,76.5%の人が母指を,41.2%の人が手首を擦り合わせており,すすぎを確実に行った人70.0%,乾燥を確実に行った人94.1%と有意な増加が見られ,手洗い手技の改善が示唆された.これらの結果より,手洗いを感染予防に繋げるためには手洗いを奨励するだけでなく,手洗い手技についても指導する必要があると考えられた.
著者
清水 宣明 片岡 えりか 西村 秀一 脇坂 浩
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.96-104, 2012 (Released:2012-06-05)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

インフルエンザの流行では,曝露歴が少なく活動性が高い児童が密集して長時間生活する小学校が感染の増幅器となることが懸念され,そこでの対策は地域の感染制御において重要な位置を占める.しかし,その流行の仕組みについての知見は少ない.本研究では,三重県多気郡明和町立下御糸小学校(全校児童163名)における2009年10月から2010年1月までのA(H1N1)pdm09パンデミックインフルエンザの発症状況を解析した.流行期間は79日間で罹患率は49.1%,1日あたりの平均発症は1.01人であった.児童発症日数は43.0%で,そのうち3人以下と比較的少人数の発症日が80.0%を占めた.5人以上と比較的多くの発症があった日は13.3%に過ぎなかった.発症認識の24時間前から他への感染可能なウイルス量が排出されたと仮定して,潜伏期間と発症日時から児童間の感染可能性の連鎖を推定した.発症児童の感染源は,学級内が50.0~66.7%,学級外(家庭を含む)が33.4~50.0%程度であった.下御糸小学校での流行は,急激で連続的な拡大ではなく,児童が学級外で感染して学級内で数人に感染させることもあるが,その感染可能性の連鎖はすぐに切れるということの繰り返しによって徐々に進行し,その途中で,集団感染の可能性のある同時多発発症が数回起こった可能性が示唆された.