著者
三井 雄一郎 岩崎 寛 藤原 道郎 一ノ瀬 友博
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.293-296, 2003-08-31
被引用文献数
2 4

ため池は本来の農業用水としての利用に加え,近年では多様な生物を支える貴重な環境であることが指摘されている。また,農業における管理作業は周辺の植物相に大きな影響を与えていると考えられる。そこで,本研究では兵庫県北淡町のため池において,農業における管理作業が植物相に与える影響について環境要因をとして明らかにすることを目的とした。管理については,護岸の基質,草刈り回数,水位の変化,環境要因に関しては,気温,水面の温度,日射量,土壌含水率,植物相に関しては,出現種および優占群落の調査を行った。その結果,水位変化の影響を受けるため池周縁部下位で上位や提項部と出現種が異なることがわかった。
著者
佐藤 健司 小野 芳 三輪 弌 奥島 修二
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.26-31, 2006-08-31
被引用文献数
1 1

近年,ポーラスコンクリートを多自然型護岸に採用する事例が増加しているが,多自然化効果を検証した事例は少ない。そこで,ポーラスコンクリート水路と従来型のコンクリート水路および土水路について動植物調査を行い,ポーラスコンクリートに形成される生物生息環境の特性把握を試みた。その結果,ポーラスコンクリート水路はコンクリート水路と比較して多くの動植物が生息することが明らかとなった。また,ポーラスコンクリート水路内に形成される環境は植生域,底泥域,砂礫域に大別され,それぞれの環境に適応した生物が生息していたため,水路全体の生物多様性を作り出していた。
著者
久野 春子 横山 仁
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.530-541, 2003-05-31
被引用文献数
1 1

大気汚染物質の光化学オキシダントが,24樹種の各個葉の純光合成速度,蒸散速度および気孔コンダクタンスに与える影響を調べて,都市近郊の大気環境下における樹木の生理的特性をみた。1989年4月から10月初旬まで,東京都立川市内に設置された浄化空気室(FAC区)と非浄化空気室(n-FAC区)内で,落葉広葉樹12種,落葉針葉樹1種および常緑広葉樹H種を1/2,000aワグネルポットで育成した。清浄な空気のFAC区において,純光合成速度,蒸散速度および気孔コンダクタンスが高い値を示していた落葉樹は,n-FAC区で大気汚染物質の影響を受け,特に純光合成速度が著しく低下した。対照的に多くの常緑広葉樹は,FAC区において純光合成速度,蒸散速度および気孔コンダクタンスの値が低く,n-FAC区で大気汚染物質による影響はあまりみられない傾向があった。オキシダントによる純光合成速度の低下率を基準にして,大気汚染耐性の強弱をみると,落葉樹のトウカエデ,イチョウおよび常緑樹のサカキ,ヤマモモ,マテバシイは耐性の強い種とみなされた。一方,長期間大気汚染に曝されても,蒸散速度と気孔コンダクタンスが他の樹種よりも高い値を示した落葉広葉樹のポプラ,エゴノキ,ムクノキ,ケヤキ,ハナミズキ,ヤシャブシ,ガマズミ,ミズキそして常緑広葉樹のサンゴジュとシャリンバイは大気汚染物質を吸着する能力が比較的高い樹種であると推定された。
著者
森本 淳子 柴田 昌三 長谷川 秀三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.360-366, 2003 (Released:2005-10-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

京都市近郊林産のコバノミツバツツジとモチツツジの地域性種苗の生産に必要な技術,すなわち種子の貯蔵,播種,苗の育成に関して,適切な方法を明らかにすることを目的に実験を行った。その結果,1)当年結実した果実を採取後,乾燥させ取り出した種子を殺菌処理し冷蔵乾燥貯蔵すると,種子の発芽力は低下しにくい,2)この条件で貯蔵すると,コバノミツバツツジは少なくとも2 年8 カ月間,モチツツジは1 年8 カ月間,高い発芽力が維持される,3)結実の翌年,気象をコントロールしないガラス室で5 月頃に播種すると発芽率は最も高くなる,4)施肥を行わない場合,コバノミツバツツジは水苔に播種し翌年早春に6 cmポットに床替え,モチツツジは水苔に播種し翌年早春に9 cmポットに床替えすると,もっとも生存率が高く,成長量の大きい2年生苗になることが明らかになった。
著者
服部 紘依 木村 圭一 Undarmaa Jamsran 大黒 俊哉
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.157-160, 2023-08-31 (Released:2023-10-12)
参考文献数
19

草原の劣化が進む乾燥地では,播種による緑化効率を高めるための種子コーティング技術の開発が進められているが,その適用には対象地の環境や用途に合わせた手法の適正化が必要である。本研究では北東アジアの荒廃草原における緑化候補植物として注目されているイネ科一年草Chloris virgata Swartz を想定した種子コーティング手法の開発を試みた。結合剤としてヒドロキシエチルセルロースを,充填剤として珪藻土を用いたコーティング手法を検討し,凝集種子数が3種子以上,粒径2.0~4.0 mmのペレットを安定的に作成する作業手順の妥当性を確認した。また,活性炭や尿素等の混合が発芽・伸長の増加に効果的であることを示した。
著者
大西 竹志 石黒 一弘 石栗 太 飯塚 和也 根津 郁実
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.153-156, 2023-08-31 (Released:2023-10-12)
参考文献数
4

都市緑地は,多様な役割があり,最近では脱炭素社会および循環型社会構築への貢献も求められてきている。本研究では,緑化樹木の植栽基盤へのバイオ炭施用によるCO2固定効果を評価することを目的とした。植栽基盤(黒土およびマサ土)に数種類のバイオ炭(木炭,竹炭およびもみ殻くん炭)を混合し,造園樹木の苗木の生育試験(9月~12月)を行った。得られた結果より,CO2固定効果と緑化樹木の生育効果の最適化を考察した。いずれのバイオ炭を土壌に施用した場合でも,植物生育の明確な阻害は確認されなかった。また,バイオ炭の施用割合別に,植栽基盤に固定することのできるCO2量は,0.03~0.24 t-CO2/m3と試算された。
著者
駒ヶ嶺 光 法理 樹里 松下 京平 深町 加津枝
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.21-26, 2023-08-31 (Released:2023-10-12)
参考文献数
21

本研究は,小学生時の自然体験と,その後の自然との感情的つながり,環境態度,環境配慮行動との関係性を把握することを目的とした。アンケート調査によってデータを収集し,分散分析を行ったところ,自然との感情的つながりと環境配慮行動の頻度は,小学生時の自然体験の頻度が高いほど有意に高かった。環境態度には自然体験の頻度は関係しなかった。また,自然体験の体験地域は,自然との感情的つながり,環境態度,環境配慮行動に関係しないことが明らかになった。
著者
高砂 裕之 高山 晴夫
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.114-119, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
15

造成地において生じた森林土壌の下層土を起源とする未熟土を対象として土壌分析を行った結果,未熟土は pH 4.9 と酸性で,植栽基盤の整備目標値と比較して養分に乏しく,また,礫含量が多く保水性も低かった。この未熟土にバーク堆肥を 10 vol%と 20 vol%混合すると,養分含量が高まり,有効水分保持量も高まった。また,この未熟土にバーク堆肥(配合量;3,6,9 L/株)と肥料を施用し,アカマツ,コナラ,エノキ,クスノキの苗木による 2 年半の植栽試験を行った。アカマツはバーク堆肥施用量が多いほど樹高と枝張りの相対成長率が高くなったが,株元直径の成長にはあまり差がなかった。一方,エノキは 6 L 区で最も成長が良いなど,バーク堆肥施用量と苗木成長における資源配分との関係や樹種による違いが明らかとなった。
著者
池本 省吾 竹本 勘二郎 木村 勝典
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.184-187, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

生分解性繊維で作られた不織布を加工して円錐形ロングポットを試作した。このポットで数種の直根性の緑化樹を育苗したところ,ルーピングの発生は全く確認できなかった。いずれの樹種も用土による成長差がみられたが,ポットの大きさによる成長差はみられなかった。当該ポットを植栽後,定期的にサンプリングしてポットの腐食程度を調査したところ,目視では目立った劣化は確認されなかったが,引張試験により強度の低下が確実に進んでいることが確認できた。これらのことから,今回試作したポットは,ルーピングしやすい直根性の緑化樹の育苗において今後の利用が期待できる。
著者
近藤 晃
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.144-147, 2022-08-31 (Released:2022-11-22)
参考文献数
11

スギコンテナ苗の育苗技術の構築を目的に,育苗時の潅水方法(底面給水と頭上潅水(常法))が苗木の成長,物質生産および根鉢形成に及ぼす影響について検討した。1 成長期間,両潅水法で育苗したコンテナ苗の苗高,根元径,形状比および苗木乾重(地上部,粗根,細根)には有意な差異は認められなかった。コンテナ苗の地下部は,根系が培地をしっかり包み込んだ根鉢が形成され,培地の崩落や根腐れは認められず,根鉢硬度(山中式硬度計による指標硬度)および細根率には有意な差異は認められなかった。スギコンテナ苗の育苗において,底面給水は頭上潅水と同等な育苗成績を示したことから,有効な潅水法と考えられる。
著者
上小牧 駿 倉本 宣
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.215-218, 2021-08-31 (Released:2021-12-29)
参考文献数
15

国外移入種アレチケツメイの発芽特性を明らかにするため,発芽実験を行った。また,アレチケツメイの侵入地である安倍川において,同所的に生育が確認された同属の在来種カワラケツメイについても同様の実験を行った。その結果,アレチケツメイはカワラケツメイと比べて,物理的休眠の打破が起こりにくいこと,乾熱への感受性が低いこと,発芽最適温度が高いことが示唆された。アレチケツメイは永続的な埋土種子集団を形成し,相対的に発芽時期が遅い可能性がある。これらのことから,アレチケツメイは一度侵入すると根絶は困難であり,侵入初期やまだ侵入していない河川においては十分な対応が求められる。
著者
大澤 啓志 石丸 智浩 有田 匡輝
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.604-608, 2023-05-31 (Released:2023-07-15)
参考文献数
14

いすゞ自動車(株)藤沢工場の保全樹林地における,従業員による林床管理の効果及び従業員の参加意識について報告した。従業員の管理作業は2016年度から開始され,2022年度時点で作業回数は計11回,参加者数は累計約340人であった。下刈りや落ち葉掻きの管理継続により,2014年時点では優占していたアズマネザサの生育量が低く抑えられ,草本層の種数の増加が認められた。林床でのトキワツユクサやボタンクサギ等の外来植物の繁茂が確認されたことを受けて,2020年度からはその防除も作業項目に追加していた。作業参加者へのアンケート調査の結果,必ずしも環境活動への関心だけではなく,様々な参加動機を有する従業員が一緒に活動していた。作業参加に対し自身の満足度で肯定的回答(79%)が多く得られ,また3回以上繰り返して参加する従業員も約1/3で認められ,一定の充実感・達成感を得ていると推察された。一方,参加することで自社への帰属意識,広く環境保全活動への関心といった幅広い効用も得られることも示された。参加した従業員に,自身の管理作業による生物多様性への貢献内容のフィードバックを工夫している点も重要と考えられた。
著者
鎌田 美希子 中尾 総一 阿部 建太 岩崎 寛
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.63-68, 2021-08-31 (Released:2021-12-29)
参考文献数
10

近年,オフィス勤務者のコミュニケーション円滑化やストレス対策として,休憩室を設置する会社が見られる。一方,オフィス緑化が勤務者のストレスを緩和するという報告があり,休憩室の緑化はストレス対策として有効であると考えられる。しかし休憩室の緑化については継続的な利用での効果検証が求められるが,そうした研究はほとんど見られない。そこで本研究では緑化休憩室内で休憩した際の効果の把握を目的とし,長期間にわたり生理・心理的指標の測定を試みた。その結果,緑化休憩室での休憩が負の感情状態を改善し,仕事・職場に対する評価を改善することなどが明らかとなり,緑化休憩室での休憩が勤務者の心理に有用であることが示された。
著者
平林 聡
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.460-464, 2019-02-28 (Released:2019-07-27)
参考文献数
35
被引用文献数
2

i-Treeは都市森林の構造および生態系サービス解析のためのコンピュータプログラム群であり,2006年の最初のリリース以来,欧米諸国を中心に世界中で利用されている。本稿では,i-Treeの利用が先行する欧米諸国での実例に基づいて,緑の定量的および客観的評価の事例を紹介する。また,これらの評価がどのように都市森林の維持・管理,計画立案,政策決定,費用対効果分析,市民の啓蒙・参加,環境教育へと波及したかについても論じる。
著者
村上 健太郎 森本 幸裕 堀川 真弘
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.38-43, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
24
被引用文献数
4 1

近畿地方の市街地 164 箇所の人為的ハビタット(石垣,壁,建物間の隙間,路傍)におけるシダ類の種組成と気候条件との関係を,CCA (正準対応分析), TWINSPAN (二元指標種分析),指標種分析を用いて調査した。CCA の第1軸スコアは暖かさの指数や寒さの指数とよく対応し,気温変化の軸と考えられた。第2軸スコアは乾湿計数や冬季降水量とよく対応し,空中湿度などの乾湿に関する変化の軸と考えられた。TWINSPAN によってシダ類群集は4区分され,それぞれイヌワラビ型,イノモトソウ型,イヌケホシダ型,イシカグマ型と判断された。また,イヌワラビ型,イノモトソウ型,イヌケホシダ型,イシカグマ型の順に温かさの指数や平均気温は大きくなり,イシカグマ型,イヌワラビ型,イノモトソウ型,イヌケホシダ型の順に乾湿係数や降水量はより小さく,乾燥が厳しくなった。今後,このような群集タイプの変化に着目することで,気候変動の目安となる可能性があると考えられた。
著者
赤尾 智宏 倉本 宣
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.218-221, 2022-08-31 (Released:2022-11-22)
参考文献数
25

雑木林の林床の花に着目し,伐採や下草刈りが,開花期間,開花量,訪花昆虫の組成に与える影響を検討した。調査は管理が継続されている狭山丘陵の皆伐更新地で実施した。全期間を通じて70種以上の草本が開花し,各季節を特徴づける種には草原性植物に加えて外来植物や先駆植物も含まれた。後者が優占して調査区画全体の開花量が減少した可能性のある時期もみられた。昆虫としてはハナバチ類やハナアブ類に加えて,それ以外の分類群も多くの植物種に訪花した。開花期間と訪花適性の関係が昆虫の分類群により大きく異なるため,開花植物の時間軸での種多様性も訪花昆虫にとって重要であろう。定期的な植生管理も視野に入れる必要がある。
著者
増田 悠希 岩崎 寛
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.249-252, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
2
被引用文献数
6 4

緑地でのウォーキングが人の心理に与える効果を明らかにすることを目的とし,アンケート調査及び緑地におけるウォーキング時の心理的効果測定を試みた。心理的効果の評価項目として,POMS(感情プロフィールテスト)と,SD 法による印象評価を実施した。その結果,大学生の多くがウォーキングを植物の接し方としても運動の種類としても実践していることがわかった。しかし,時間の欠如を理由に運動をしていない人も多く,緑地でのウォーキングに対し心理的効果を期待しているが,実際には緑地を運動する場としては利用できていないことがわかった。また,緑地でのウォーキングは緑地以外でのウォーキングに比べ,疲労感が少ないなどの心理的効果があることがわかった。