著者
大城 温
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.521-523, 2019-02-28 (Released:2019-07-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1

平成21~24年度の4年間に実施されていた,全国の国直轄道路事業における植物移植および移植後のモニタリング結果を分析したところ,多年草の移植が最も多かった。移植後における多年草の種ごとの活着率を比較すると,ラン科,特にキンラン属については,移植の実績が多いにもかかわらず,活着率が低く,混合栄養植物の移植の困難さが浮き彫りになった。そのため,筆者らは,キンラン属移植の確実性向上のため,自生地播種試験により移植適地を把握したうえで,移植する手法を検討している。今後,国内外の知見や筆者らの研究成果をとりまとめ,キンラン属の保全ガイドとして公表する予定である。
著者
加藤 顕 沖津 優麻 常松 展充 本條 毅 小林 達明 市橋 新
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.169-174, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
21
被引用文献数
5 1

ヒートアイランド現象の緩和対策として,都市緑地による熱環境緩和効果が期待されている。これまでの緑化対策では樹高しか着目されておらず,樹冠構造については考慮されなかった。樹冠構造の異なる緑地を対象に,樹冠構造の発達が地表面温度に影響するか検討した。その結果,樹冠の厚みが増すと日中の表面温度を下げ,夜間の表面温度を下げないことがわかり,昼夜間の温度変化を緩和する効果があった。そのため,樹冠構造を発達することが,都市林におけるヒートアイランド現象緩和機能を強化することがわかった。
著者
柴田 昌三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.406-411, 2003 (Released:2004-08-27)
参考文献数
5
被引用文献数
22 22
著者
山寺 喜成
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.343-346, 2021-02-28 (Released:2021-07-13)
参考文献数
1

荒廃した自然を回復させるには,自然の回復力(復元力)を積極的に活用することが重要である。特に,自然の大規模な開発地の緑化,津波による海岸林荒廃地の復旧,地震や線状降水帯等に起因する群発型山崩れの復旧,深層崩壊地の復旧,砕石跡地の緑化,トンネル掘削ズリ堆積地の生態系回復,地砂漠等乾燥荒漠地の植生回復などにおいては,自然の持つ復元力を積極的に活用した方法が望まれる。自然の復元力の存在については,次にあげる4つの現象からその有効性を理解することができる。①先駆植物の旺盛な生育による生育環境の改善,②寄せ植えによる成長促進,③ストーンマルチによる生育環境の改善,④草本植物による土壌生成などである。
著者
東 哲典 蘭光 健人 庄司 顕則 伊藤 彩乃 赤﨑 洋哉 松前 満宏 山﨑 旬 遊川 知久 辻田 有紀
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.430-435, 2020-05-31 (Released:2020-07-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

クゲヌマランは絶滅危惧種であるが,近年,埋立地や公園など人工的に造成された緑地に多くの自生が確認されている。しかし,本種がなぜ造成地に定着することが可能になったのか,その原因は未だ明らかでない。本種は共生する菌類への栄養依存度が非常に強い部分的菌従属栄養植物で,特に種子の発芽は共生菌からの栄養供給が不可欠である。そこで本研究では,造成地に生育するどのような菌類が本種の種子発芽に関与し,定着を可能にしたかを明らかにするため,埋立地の植栽林にある自生地で野外播種試験を行い,得られた実生の共生菌を特定した。その結果,担子菌のイボタケ科に属する3種類の菌が本種の種子発芽に関与していることが明らかになった。これらの菌は,実生の成長段階,埋設した土壌深度や播種地点に関わらず検出され,種子発芽とその後の生育に重要な役割を果たしていると考えられた。イボタケ科は,ブナ科やマツ科樹木と共生する外生菌根菌である。植栽されたこれらの樹木とイボタケ科の菌類との間に安定した共生系が成立し,これらの菌を利用してクゲヌマランは造成地へ定着できたと推測される。
著者
小田 龍聖 深町 加津枝 柴田 昌三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.38-43, 2016 (Released:2017-01-30)
参考文献数
6
被引用文献数
2

本研究は,多様な河川環境を評価する指標種として魚類の採捕調査をするとともに,地域住民に対するアンケート調査によって,住民の魚類の認知度や,藻刈りや清掃などの河川環境活動への意識の把握を試み,それらから河川環境の実態と住民の意識・意向を踏まえた住民主体の河川環境管理の在り方を検討することを目的とした。調査の結果,住民の魚類に対する認識と実態とには乖離があるものの,より詳しく魚類を認識している住民は,河川美化活動への意識に明確な傾向が見られた。
著者
大澤 啓志 勝野 武彦 片野 準也
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.188-197, 2001-02-28
被引用文献数
14 11

本研究では, 神奈川県東部の都市河川(柏尾川)で旺盛に繁茂しているレッドリスト掲載種ミズキンバイ(アカバナ科)について, その生態的特徴を明らかにした。月別の現存量の変化より, 本種の生活環として5〜8月の直立型の成長期, 9〜10月の匍匐茎による横方向への増殖期, 11〜1月の衰退期が明らかになった。開花は5〜12月に見られたが, 特に初夏に最も多くの着花数が認められた。分布は中流部の約6kmの範囲であり, 1998年の総生育量(植被面積)は約1,500m^2であった。確認された44地点の群落のうち25地点では, 中洲のほとんどを占有していた。水面上に広く葉を拡げる群落景観は, 水面から緩やかにつながる淡緑色の中洲・寄洲を形成し, 柏尾川の河川景観を特徴付けている。群落内の種構成を比較した結果, 群落遷移から考えてメリケンガヤツリ・ミゾソバの出現頻度の多少により遷移の初期型・後期型に区分された。さらに, 草丈の高い植物の侵入により本種の群落は減少すると思われる。
著者
小島 仁志 福留 晴子 小谷 幸司 島田 正文
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.187-190, 2016 (Released:2017-01-30)
参考文献数
7

神奈川県立境川遊水地公園を対象に,河川水の流入するビオトープエリアの樹木生育分布とその維持管理に関する基礎的調査を行った。その結果,合計で728本のヤナギ類を中心とした種組成を把握し,また河川水の流入口(越流堤)などの管理を要する箇所の整理,また外来種(イタチハギ)や先駆樹種(ヌルデ)の生育分布特性について把握した。以上の樹木生育分布状況に対応した植物管理手法の実施計画案についても報告する。
著者
大島 一史
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.490-496, 2003 (Released:2004-08-27)
参考文献数
5
著者
近藤 三雄
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.315-318, 2003 (Released:2005-10-25)
被引用文献数
2 3
著者
下村 孝 山本 祐子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.109-114, 2008 (Released:2009-04-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

キンモクセイに2度の開花ピークが見られるとの伝聞にもとづき,その実態を科学的に解明するために,京都北区の住宅地域内に植栽されているキンモクセイを対象に形成花芽数と開花花芽数,開花小花数を経時的に計測した。その結果,キンモクセイは,2007年10月11日の開花ピークの後,10月23日に2度目の開花ピークを迎え,二度咲き現象が見られることが明らかになった。2度目のピークでは,開花小花数が1度目に比べると極端に少なく,全体の香りも弱いため,一部の人々にしか認知されていなかったともの理解された。当年生枝と前年生枝の花芽の種類と数,および開花小花数の測定から,キンモクセイでは,当年生枝と前年生枝の葉腋に形成される定芽以外に不定芽にも花芽が形成され,それらが開花することが分かった。さらに2度目の開花ピークには,当年生枝の花芽より前年生枝の花芽が,定芽より不定芽が大きく寄与することも明らかになった。前年生枝が当年生枝より不定芽を形成しやすく,キンモクセイ二度咲き現象には,前年生枝不定芽の関与が大きいと考えられる。
著者
小田 龍聖 深町 加津枝 柴田 昌三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.51-56, 2019-08-31 (Released:2019-12-27)
参考文献数
27

琵琶湖疏水は,2015 年に重要文化的景観の選定を受けた岡崎地域を代表する都市水系である。重要な水生生態系として琵琶湖疏水をとらえ,これらの基盤となる沈水植物の流入と分布を調査した。琵琶湖疏水内の85 区画で調査を行い,この調査では11 種の流入および8 種の沈水植物が確認された。被度と底質の分布を用いてnMDS による分析を行ったところ,疏水分線では泥底質とオオカナダモが,疏水白川では中礫底質とササバモがよく見られた。疏水分線・疏水白川の両方に出現したネジレモは,細礫底質でよく見られた。
著者
上村 惠也
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.208-211, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
3

ヤマユリは,近畿地方から東北地方にかけて里山を彩る代表的な花であり,かつてはごく一般的な花として多くの市民に親しまれていたが,近年は里山が利用されなくなり林内に光が入らなくなったことなどから,生育箇所が減少している。一方,高速道路においては,牧草等の一次植生で緑化されたのり面に次第に周辺の植生が侵入し,かつての里山の植生が回復しつつある。特に,毎年草刈りを行なっている切土のり尻部においては,ヤマユリの生育に適した半日陰の環境となっているため,夏に数多くの花を咲かせている。
著者
櫻井 三紀夫
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.27-32, 1991-02-25 (Released:2011-02-09)
参考文献数
2

地球規模で進行している砂漠化を抑制し, 砂漠の緑地化を促進するための大規模潅漑システムとして, 内陸砂漠地帯に人工海水湖を形成しその周辺に海水淡水化設備を設置して灌漑・緑地化を行う方式を提唱する。人工海水湖を形成する理由は, 海水淡水化して, 内陸に供給する方式に比べて次の点で有利だからである。(1) 淡水化設備や蒸留用熱エネルギーに投資する前に, 早期に低コストで内陸に水を送れる。(2) 内陸での自然蒸発により海水湖周辺の湿潤化, 雨量の増加が期待でき, 淡水化設備の建設よりも早いペースで淡水総量を増大できる。(3) 淡水化設備を利用価値の低い砂漠地帯に置くことにより, 海岸部の高価値地域の占拠面積を縮少できる。このような考え方に基づき砂漠灌漑システムの基本構想を検討し, 次の事項を明確化した。(1) 人工海水湖は盆地状岩盤地帯に形成すべきこと, (2) 海水湖形成過程での自然蒸発促進のため水路方式あるいは広域散水方式の採用が望ましいこと, (3) 500km2 (琵琶湖程度) の湖水域に年降雨量500mm相当の海水を供給し, 50km2の緑化地帯に年降雨量1000mm相当の淡水を供給するシステムの仕様を試算した結果, 構成単位システムとして実現性ありと判断された。
著者
金子 弥生 神田 健冴
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.507-510, 2019-02-28 (Released:2019-07-27)
参考文献数
32

哺乳類のハビタットネットワークの形成を行う場合,各種や生態系の生態学的な現状を把握する必要がある。日本では,キツネVulpes vulpesやニホンイタチMustela itatsiは環境に合わせて餌食物を変化させるジェネラリストであるため,都市化の進行した環境や,開発の進んだモザイク環境でも生息可能となっていると考えられる。都市の河川においては,河川敷が生息地やコリドーとしての機能を担っているが,一方で,水害防除のための河川敷の改変や構造物設置はやむをえない面がある。災害防除と生態系保全を両立する河川敷のあり方について検討するため,多摩川中流域において,消波根固ブロックの野生食肉目による利用を調査した。その結果,在来種ではタヌキNyctereutes procyonoidesとニホンイタチによる利用が確認された。
著者
大洞 智宏 渡邉 仁志 横井 秀一
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.260-263, 2013 (Released:2014-08-12)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

岐阜県西濃地域では,ナラ類の枯損による林冠ギャップ下であっても,植生の発達がみられない箇所が存在する。西濃地域は以前からニホンジカが生息し,生息密度も高いことから,シカの採食によって森林の更新が阻害されている可能性が考えられた。そこで,シカ柵を設置し,植生の変化を観察した。調査地は,岐阜県揖斐郡池田町のナラ枯れによって発生した林冠ギャップのうち4 カ所とした。シカ柵設置直後の各調査地の植被率合計は約6 ~23% であった。柵外の方形区では,シカの嗜好性の低いシダ類以外の植被率の増加はほとんどみられなかった。柵内の方形区では植被率合計は増加し(52~138%),特にキイチゴ類,ススキの増加が顕著であった。調査地4 では,表土流亡によって,実生の定着が妨げられている可能性が考えられた。高木性種は成長が比較的遅く,成長の早い低木生種などの下層に存在することが多いため,低木性種などが繁茂することにより,高木性種の侵入・生育が妨げられる可能性がある。これらのことから,この林分において,高木性種による速やかな更新を望む場合には,シカ柵を設置し,表土流亡の抑止や刈り出しなどの更新補助作業を実施する必要があると考えられた。