著者
野中 隆 福岡 秀敏 竹下 浩明 日高 重和 七島 篤志 澤井 照光 安武 亨 永安 武
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.491-493, 2010-03-31 (Released:2010-05-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

患者は50歳男性。性的嗜好にて肛門に長さ15cm,直径10cm程度の薬瓶を挿入。自身でペンチを用いて取り出そうとしたが摘出できず,ビンが割れて出血してきたため当院救急外来受診となった。腹部単純X線では小骨盤腔内にはまり込んだ破損したガラス瓶を確認し,腹部CTの3次元再構築画像でガラス瓶の破損部位などの詳細な状況を把握しえた。経肛門操作による摘出は困難と判断し,同日緊急手術を施行。肛門より破損したガラス瓶の入口部より自動吻合器(サーキュラーステイプラー)を挿入し,直腸RS部を切開し逆行性にガラス瓶を摘出した。直腸切開部は離断し人工肛門を造設し手術を終了した。直腸異物は,性的嗜好や事故により肛門から器具などが挿入され,抜去不可能となったものである。破損したガラス瓶摘出を行う際には,事前に形態や破損状況を確認し,状況に応じた適切な手段を選ぶ必要がある。
著者
箕輪 啓太 下村 克己 高階 謙一郎
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.079-084, 2017-01-31 (Released:2017-04-03)
参考文献数
12

要旨:Meckel憩室が腸閉塞の原因になっている頻度は腸閉塞全体の0.3~1.5%であり,比較的まれな疾患である。過去9年間に当院で経験したMeckel憩室が原因である腸閉塞4例について報告する。全例が男性で,0~76歳であったが,術前CTでMeckel憩室由来の腸閉塞が指摘されたのは3例であった。全例とも外科的治療を施行した。腸閉塞の原因は,術中所見から3例が憩室関連の内ヘルニア,1例が憩室炎による癒着性腸閉塞と判明した。術式は小腸部分切除術2例,楔状切除1例,単純切除1例であった。病理検査で異所性組織を認めたのは1例のみであった。術後経過は良好であった。原因不明の腸閉塞の場合は造影CTが診断に有用であり,原因の1つとしてMeckel憩室を念頭に置くべきである。
著者
田村 暢一朗 山川 達也
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.919-921, 2017

<p>症例は62歳の男性で,職場の同僚に作業場にある工業用エアコンプレッサーを殿部にむけ噴射され受傷し,当院に来院した。エアコンプレッサーと患者の殿部との距離は約50cm離れており,患者は長ズボンと下着を着用していた。来院時頸部から前胸部にかけての皮下気腫と下腹部に反跳痛を伴う圧痛を認めた。胸腹部CTで直腸穿孔による後腹膜気腫,縦隔気腫,皮下気腫への進展と診断し,緊急開腹術を行った。開腹したところ,腹膜反転部直上から約4cm口側にわたって直腸間膜対側に腸管軸方向に漿膜筋層の裂創と,その裂創の一部に全層性の穿孔部位を認め,Hartmann手術を施行した。術後,縦隔炎や後腹膜膿瘍を形成することはなく,第23病日に退院となった。エアコンプレッサー自体を肛門に挿入せずに,患者とある程度の距離から送気されたとしても,十分に直腸損傷を生じる可能性があると考えられた。</p>
著者
高橋 玄 佐藤 雅彦 大久保 剛
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.91-94, 2009-01-31 (Released:2009-03-03)
参考文献数
7
被引用文献数
1

症例は79歳男性。近医に脳梗塞・認知症で入院中であった。既往に内痔核があり痔疾用軟膏を1日1本投与されていた。2008年3月上旬に腹痛・嘔吐が出現。腹部所見は板状硬であり,腹部CT検査でfree airが認められ当院転院となった。消化管穿孔・汎発性腹膜炎の診断で同日緊急手術施行。腹腔内は糞便で汚染されており,洗浄後観察すると直腸Raに深達度SSの直腸癌と思われる腫瘍が認められた。その1cm口側に10mm大の穿孔部位があり,痔疾用軟膏のケースの1部が露出していた。術式は腹腔ドレナージ+ハルトマン手術とした。病理組織結果はSS,N0の高分化腺癌であった。その後,不幸にして患者は呼吸不全となり永眠された。痔疾用軟膏のケースにより消化管穿孔をおこした直腸癌は極めてまれであり,今後このように不幸な転機をとる患者を減らすためには本人以外が薬剤を投与するなどの予防策を考慮すべきであると思われた。若干の文献的検討を加え報告する。
著者
伊藤 暢宏 大輪 芳裕 堀越 伊知郎 黒川 剛 鈴村 和義 野浪 敏明
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.645-648, 2004

症例は64歳, 男性。留置所内において, 自殺目的で腹部に箸を突き立て, 壁にぶつかり受傷し, 当院に搬送された。来院時, 意識状態良好で, バイタルサインも安定しており, 腹部は平坦, 貧血を認めなかった。箸は膀部より刺入, 固定されていた。腹部CT検査にて, 箸は1下大静脈を貫通後, 腰部椎体にまで達していたが, 明らかな腹腔内出血, 遊離ガス像は認めなかった。箸刺創による下大静脈損傷と診断し, 緊急手術を施行した。箸は, Treitz靱帯より約30cm肛門側の空腸と, 総腸骨静脈合流部より約2cm頭側の下大静脈を貫通し, 椎体に刺さっていた。下大静脈貫通部を縫合止血後, 空腸貫通部も一次的に縫合閉鎖をした。他の損傷は認めなかった。術後経過良好で, 第16病日目に退院した。腹部刺創では, 受傷状態のまま搬送することが肝要であり, 全身状態が安定していれば, 損傷部位の診断にCT検査は有用である。
著者
進士 誠一 田尻 孝 宮下 正夫 古川 清憲 高崎 秀明 源河 敦史 佐々木 順平 田中 宣威 内藤 善哉
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.815-819, 2003-07-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

症例は61歳男性. 1995年8月に十二指腸潰瘍穿孔のため上腹部正中切開開腹下に幽門側胃切除術施行. 1996年5月頃より手術瘢痕部に直径約10cmの半球状に膨隆する腹壁瘢痕ヘルニアを生じ, 近医でフォローアップされていた. 2002年9月4日排便時に腹壁破裂を生じ, 救急外来受診. 小腸脱出を伴った腹壁破裂と診断され緊急手術となる. 腹壁破裂創は約10×20cmで, 脱出した腸管の色調は良好であった. 腹腔内の感染が危惧されたため, 腹腔内を洗浄後, 腸管を腹腔内に戻し, 一時的に皮膚一層のみを縫合した. 術後感染を合併せず順調に回復. 術後26日目の9月30日に待期的に腹壁形成術を行った. 腹直筋前鞘と後鞘はメッシュを用いて補強した. 腹壁瘢痕ヘルニアは腹部手術における比較的多い術後合併症であるが, 破裂に至る症例はまれである. 今回, 腹壁破裂を生じ二期的手術により治療し得た1症例を経験した.
著者
浮山 越史 伊藤 泰雄 韮澤 融司 渡辺 佳子 吉田 史子 牧野 篤司
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.63-68, 2009

当教室の小児腹部外傷患者の経験をもとに,診療のコツ,について考察した。重症度判定では腹部外傷スコア(ATS)が有効であった。交通外傷,転倒・転落では実質臓器損傷が多かった。自転車転倒によるハンドル外傷では,十二指腸損傷が多く,疑われる場合には,上部消化管造影や造影CTが有用であった。膵仮性嚢胞は最大径60mm以上で,40日以内に軽快しない場合には手術適応であった。実質臓器損傷は保存的治療を基本としているが,急変の可能性を考慮し,繰り返す診察と検査,24時間モニターによる観察が必要であり,急変時に備えて,IVR・手術の24時間体制の構築が重要である。
著者
小島 洋平 下位 洋史 渋谷 学 長尾 美智子 大倉 史典 百名 佑介 菊池 友允
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.943-947, 2012-07-31 (Released:2012-10-01)
参考文献数
7

症例は60歳男性で,30年来の脊柱管狭窄症でNSAIDs(Diclofenac sodium)を常用していた。腹痛,貧血精査で他院に入院したが,イレウスと診断され治療目的に当院へ転院となった。腹部単純X線検査,腹部CT検査で小腸の著明な拡張と,イレウス管造影で小腸に高度の狭窄像を認めた。転院時,極度の低栄養を認め,転院後に呂律不良,四肢感覚麻痺などの進行性の神経障害が出現したが原因は不明であった。イレウス管留置,高カロリー輸液で改善なく,入院21日目に小腸部分切除術を施行した。術後,神経症状,低栄養を含め全身状態は劇的に改善した。病理所見上,深い潰瘍を認めた。また,非乾酪性肉芽腫などの異常はなく,NSAIDsを常用していることから,NSAIDs小腸潰瘍と診断した。NSAIDs投与中止後は,再発を認めていない。
著者
石原 寛治 田中 肖吾 橋場 亮弥 大畑 和則 上西 崇弘 山本 隆嗣
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.1223-1226, 2013-11-30 (Released:2014-02-05)
参考文献数
13

要旨:症例は30代の男性。3日前,左下腹部鼠径靭帯頭側を圧挫し出張先で近医受診,腹部所見・腹部X線検査で異常なく自宅安静となったが腹痛と発熱が増強し当院受診した。循環動態は安定し左下腹部の鈍的外傷痕も軽微であったが,腸蠕動音減弱と腹部全体の筋性防御を認めた。腹部単純X線・CT検査で両横隔膜下・S状結腸間膜側に遊離ガス像を認め下部消化管穿孔を疑い緊急開腹手術施行した。糞便による汚染はほとんどなく肉眼的にS状結腸間膜側の穿孔は1cm程度であったが,挫滅穿孔部を含めS状結腸部分切除し一期的端々吻合した。切除標本の検索で穿孔は間膜側半周におよんでいた。腹部鈍的外傷が軽微で受傷早期に消化管穿孔の所見がなくとも,腸間膜側損傷の場合は遅れて所見が出ることがあり,経時的腹部所見の観察が必要である。
著者
小山 知秀
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.723-727, 2023-05-31 (Released:2023-11-30)
参考文献数
48

腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:以下,ACS)は致命的な病態である。一般に,ACSの内科的治療を行っても腹腔内圧が下がらずに26mmHg以上のGrade Ⅳ状態かつ臓器障害を認める場合は,内科的治療の限界であるため外科的治療つまりopen abdomen management(以下,OAM)を行うことになる。しかし,一旦OAMとなった後の根治的閉腹に至るまでの経過は画一的なものではなく,各局面で治療方針の判断を下すにあたって常に理想と現実の狭間で悩まされることになる。
著者
内藤 善 竹林 徹郎 真名瀬 博人 平野 聡
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.781-784, 2023-05-31 (Released:2023-11-30)
参考文献数
13

症例は20歳台,男性。ライフル銃を発砲し当院に救急搬送となった。前胸部に銃弾の射入口を,左側腹部に出血を伴う射出口を認めた。CTでは,左第10肋骨骨折,脾臓下極に境界不明瞭な領域を認めた。外傷性脾損傷の診断で緊急手術を施行した。術中所見では脾臓下極に裂傷を認めるも出血量は多くなかったため腹腔鏡下に脾臓を一部切除し,焼灼止血で手術を終了した。術後6日目には射出口部創より便汁漏出あり腸管穿孔と診断し,再手術で下行結腸に穿孔を認め,結腸左半切除術を施行した。術後は創感染を併発したが他に合併症なく経過し,術後4週目に近医へ転院となった。高速で放たれた弾丸はshock waveを生み出し周囲に損傷を与えつつ移動することが知られている。本症例では弾丸によるshock waveとtemporary cavitationにより結腸壁に損傷が生じ,遅発性の腸管穿孔を発症したと考えられた。
著者
桒田 亜希 内藤 浩之 平野 利典 海氣 勇気
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.511-514, 2017-03-31 (Released:2017-07-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1

患者は83歳,男性。朝,下痢あり。夕方になり激しい嘔吐が出現した。改善しないため救急要請し当院に搬送された。CTで胃壁内気腫,門脈内ガスを認めた。腹膜刺激症状なく,全身状態は安定していたため,同日入院とし保存的治療を施行した。翌日のCTでは胃壁内気腫および門脈ガスは消失した。上部消化管内視鏡で胃大弯に発赤,白苔の付着を認めた。胃粘膜培養は陰性であった。経過は良好で,第5病日より食事を開始し,第10病日に退院となった。今回われわれは保存的治療で軽快した門脈ガス血症を伴う胃壁内気腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。
著者
小原 恵 小野 文徳 平賀 雅樹 佐藤 学
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1323-1326, 2013-12-31 (Released:2014-07-02)
参考文献数
10

症例は39歳,男性。土木業。20歳のときに胃十二指腸潰瘍で胃切除術を受けた既往がある。作業中に転倒した際,腹部に鉄筋が刺さって受傷し,当院に救急搬送された。来院時,意識は清明だが痛みのため座位しかとれなかった。腹部単純X線写真で鉄筋が明らかに腹腔内に貫通していることを確認したが,体位の問題などからCT検査は施行せず,救急外来から直接手術室に移動させて緊急手術を施行した。鉄筋は腹壁,横行結腸間膜,網囊,残胃後壁を貫通していた。開腹手術の既往により上腹部の癒着が高度で残胃の修復が困難であり,鉄筋の刺入ルートに沿ったドレナージを施行した。また,術後第1病日に左血気胸が判明し,胸腔ドレーンを留置した。術後第7病日に上部消化管造影を行い,穿孔部の閉鎖を確認して食事摂取を開始した。術後経過は良好であり,術後第20病日に退院した。状況に応じて適切な判断が求められる症例であり,文献的考察を加えて報告する。
著者
尾本 健一郎 大石 崇 磯部 陽 松本 純夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.733-736, 2014-03-31 (Released:2014-09-29)
参考文献数
13

原発性腹膜癌の初発症状は多量の腹水貯留による腹部膨満などが多く,腸閉塞症状はまれである。今回,癒着性腸閉塞として加療されていたが手術を契機に診断された1例を経験した。症例は71歳女性。左付属器切除術,子宮膣上部切断術および2度の腸閉塞歴がある。嘔吐,右下腹部痛で当院受診。CT画像で腸管の拡張がみられ,石灰化が目立っていたが腹水は少量であり,あきらかな腫瘤を指摘できなかったことから癒着性腸閉塞の再発として入院となった。保存的加療されていたが,全身状態悪化のため第5病日に手術を施行した。回腸約40cmが一塊となっており,後腹膜と強固な癒着を呈していた。小腸部分切除術を施行した。術後第40病日に軽快退院。病理診断で卵巣漿液性乳頭状腺癌と類似し,原発性腹膜癌と診断した。漿膜面の腹膜播種による硬化から腹膜癌が腸閉塞の原因と考えられた。
著者
松田 直樹 金谷 欣明 治田 賢 高尾 智也 藤井 徹也 平井 隆二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.107-111, 2017-01-31 (Released:2017-04-03)
参考文献数
8

症例は78歳女性。突然腹痛が出現したため近医受診し腹部所見より汎発性腹膜炎が疑われ当院内科受診した。腹部CTを施行したところS状結腸の腸管壁の不連続,周囲のfree airおよび脱出した便塊を認め,S状結腸穿孔が疑われ同日外科紹介となり,緊急手術を施行した。術中所見としてはS状結腸に2cm大の穿孔を認め,腸管内外に硬い便塊が認められたため,ハルトマン手術を行った。患者は糖尿病性腎症による腎不全のため9年前より血液透析導入されており,カリウムコントロールのためポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Sodium polystyrene sulfonate:以下,SPS,ケイキサレート)を服用していた。術後の病理所見では穿孔部の腸管壁へのSPSの沈着が認められた。SPS服用による腸管穿孔や潰瘍形成の報告が散見されており,本症例も病理所見よりSPS服用がS状結腸穿孔の発症に関与している可能性が示唆されたため,文献的考察を交えて報告する。
著者
西口 遼平 進藤 吉明 石塚 純平 上野 知尭 横山 直弘 齋藤 由理 田中 雄一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.1389-1393, 2014-11-30 (Released:2015-02-27)
参考文献数
29

症例は76歳,男性。2010年4月に上行結腸癌,腸回転異常症の診断で右半結腸切除術を施行した。2013年10月,慢性腎不全で血液透析導入中に腹痛,腹部膨満感を訴え当科を受診した。発熱,下腹部の圧痛,反跳痛を認めたものの筋性防御は認めなかった。血液検査所見ではアシドーシスや凝固障害は認めなかった。腹部CT検査で小腸の拡張および液体貯留を認め,癒着性イレウスと診断した。保存的加療で経過観察していたが,症状が増悪したため緊急手術を施行。下行〜横行〜上行結腸間膜,小腸間膜,後腹膜に連続する袋状の膜様構造物が形成され,その中に小腸が嵌頓しており,abdominal cocoonによる内ヘルニアと診断した。膜様構造物を切除し小腸を解放したが小腸壊死を認めなかったため小腸は温存可能であった。abdominal cocoonによる内ヘルニアの1例を経験したので報告する。
著者
林 泰寛 高村 博之 正司 政寿 中沼 伸一 古河 浩之 牧野 勇 中川原 寿俊 宮下 知治 田島 秀浩 北川 裕久 太田 哲生
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.747-751, 2014-03-31 (Released:2014-09-29)
参考文献数
9

劇症肝炎は,その急激な病態の進行から他臓器障害を発症する例にもしばしば遭遇する。今回われわれは劇症肝炎に急性膵炎を合併した2例を経験した。2例の肝障害の内訳はB型慢性肝炎急性増悪1例,原因不明1例であった。2例ともに内科的治療が奏功せず,肝移植を予定した。劇症肝炎に対する治療に並行して膵炎に対する治療も行ったが奏功せず,肝移植を中止せざるを得なかった。劇症肝炎に対する治療は肝移植を含め,一定の成績が期待できるため,他臓器合併症の予防と治療が重要であり,急性膵炎の合併にも十分な注意を払う必要がある。劇症肝炎に合併する急性膵炎においてはB型肝炎ウイルスの関与が知られている。一方で,近年high mobility group box 1の急性膵炎の病態への関与も示唆されており,その特性を利用した治療が期待される。
著者
澤田 雄 秋山 浩利 松山 隆生 和田 朋子 遠藤 格
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.1027-1031, 2012-09-30 (Released:2013-01-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

急性虫垂炎術後のSSIは最も頻度の高い合併症であり,患者QOLの低下や入院期間延長などの医療経済的な側面にも影響を与える。本稿では,急性虫垂炎術後のSSI予防に関する文献について概説し,あわせて当教室および関連病院で行われた急性虫垂炎手術症例のSSIについて報告する。これまでに虫垂切除後のSSI予防に関して,予防的抗菌薬,創縁保護器,吸収糸の使用,腹腔鏡の使用,二期的創閉鎖などが報告されている。われわれの検討では,切開部SSIのリスク因子は,切開法,腹腔内ドレーンの留置,虫垂の炎症所見の3因子であり,臓器/体腔SSIのリスク因子は,出血量,腹腔内ドレーンの留置の2因子であった。壊疽性虫垂炎はSSI発生頻度が高率であったが,創縁保護器の使用によりSSI発生は減少する傾向を認めた。SSI発生高危険群である壊疽性虫垂炎に対して,今後SSI予防策のさらなる研究が必要である。
著者
谷水 長丸 里見 昭 米川 浩伸 高橋 浩司 酒井 正人 池田 理恵 檜 顕成
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.51-56, 2005-01-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
7

小児の消化管出血はほとんどが下血として現れる。とくに食道静脈瘤に対して予防的処置を行うようになってからは, 吐血をほとんど経験していない。一方下血症例は年々増加傾向にある。とくに重要なのは緊急処置を要し, 生命予後不良な下血疾患を速やかに鑑別し対処することである。1974年から現在までの30年間に当科に入院した下血疾患症例605例を検討し, それぞれの疾患の特徴, 下血の頻度, 性差, 好発年齢, 診断法, 処置について検討する。6o5例を検討したところ, 年齢は生後0日から15歳まで平均3.55歳で男女比は1.7: 1.0だった。このうち緊急処置を要したのは腸重積, 腸回転異常症, 絞扼性イレウス, 消化管穿孔, NEC, Meckel憩室, UC, AGML, 急性虫垂炎に合併した腹膜炎DIC, 胃ポリペクトミー後出血だった。腸回転異常症の中腸軸捻転とNECで死亡例を認めた。
著者
貝瀬 満 大森 順 鈴木 将大 藤森 俊二 岩切 勝彦
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.807-812, 2018-07-31 (Released:2020-01-09)
参考文献数
21

2017年12月日本消化管学会が主幹となり関連学会と共同で大腸憩室症ガイドライン(憩室出血,憩室炎)を発表した。大腸憩室出血のkey statementを概括した。本邦では大腸憩室の保有率が上昇し,大腸憩室出血は増加している。大腸憩室出血は70~90%で自然止血し,再出血率も20~40%と高率である。大腸憩室出血の診断には止血術も可能な大腸内視鏡が推奨される。クリップ止血法では,出血点を直接把持する直達法に比べ,憩室口をふさぐ縫縮法で再出血率が高い傾向にある。出血憩室を機械的に結紮する憩室結紮法は,クリップ法に比して動脈塞栓術や外科手術への移行率が低い。憩室結紮法では少数例だが遅発性腸管穿孔も報告されている。再出血の予防にはNSAIDsと一次予防アスピリン内服中止を検討する。