著者
長谷 龍太郎 落合 幸子 野々村 典子 石川 演美 岩井 浩一 大橋 ゆかり 才津 芳昭 N.D.パリー 海山 宏之 山元 由美子 宮尾 正彦 藤井 恭子 澤田 雄二
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.47-56, 2001-03
被引用文献数
2

専門職種を特徴づける知識と技術に対する不安が生じると, 専門職アイデンティティが不安定になる。医療専門職種(Allied Health Profession)である作業療法は, 治療手段が日常的な作業であるために, 作業療法の効果判定や治療的作業の選定理由に曖昧さを伴っていた。米国では, 作業療法が科学的厳密性を伴った医療専門職種として認知される為に, 治療の理論的基礎, 治療効果の検証が重要とされ, 原因や結果の因果関係に比重をおく還元主義を基盤とした実践が行われた。結果として慢性疾患や障害に対する技術面が強調される機械論的モデルが隆盛し, 日本はこのモデルを導入した。還元主義的作業療法では人間の作業を扱う包括的な視点が欠如し, 専門職アイデンティティの危機が生じた。米国の作業療法理論家達は機械論的還元主義からの脱却の為に, システム論を用いた作業療法理論の構築と包括モデルの提示を行なった。日本では作業療法士に対する専門職アイデンティティの調査は行われておらず, アイデンティティ研究は日本独自の作業療法理論やモデルの構築に重要であると言える。
著者
澤田 雄宇 中村 元信
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.77-82, 2018-03-01 (Released:2018-03-19)
参考文献数
26

皮膚は生体の最外層に存在する生体外と生体内を区分する重要な臓器であり,外的刺激からのバリア機能を主とした生体防御機構として働いている.食事や運動,睡眠などをはじめとした日々の生活習慣は,人が生きる上で欠くことのできない行動であるが,近年の報告では,この生活習慣が皮膚疾患と密に関連していることが報告されている.生活習慣と皮膚疾患とのかかわりについては,疫学的な調査を皮切りに,さまざまなアプローチでその病態に及ぼす影響が検討されてきた.皮膚科領域において,炎症性皮膚疾患の代表的なものとして乾癬があげられる.乾癬は特に生活習慣と密に関連しており,食事,睡眠,喫煙,飲酒などさまざまな因子から影響を受けている.乾癬の病態としてinterleukin (IL)-23/IL-17 axisを代表としたカスケードが重要であるが,日々の生活習慣はその病態に影響を与える可能性が考えられている.本総説では,日々の生活習慣がいかに乾癬の病態に関与しているかについて,疫学調査から具体的にメカニズム解析を行った研究を交えて報告する.
著者
杉野 仁美 澤田 雄宇
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.379-383, 2022-12-01 (Released:2022-12-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

60歳女性.検診で実施した超音波検査で左乳房B領域に充実性腫瘤を指摘された.精査目的に前医クリニックを受診し,左乳房に存在する腫瘍に対する穿刺吸引細胞診でclassⅣと診断された.更なる精査ならびに加療を目的に当院外科へ紹介され,両側乳腺および腋窩リンパ節に対する超音波検査が実施された.検査翌日より左乳房,左腋窩,胸部に紅斑,丘疹が認められ,皮疹の加療目的に当院皮膚科を受診した.皮疹は超音波検査でゼリーが接触した部位に一致していたが,乳房の悪性腫瘍を念頭に精査が行われていたことから悪性腫瘍の皮膚転移を除外するために皮膚生検を行った.紅斑より採取した皮膚生検の病理組織学的検討では,真皮上層血管周囲にリンパ球ならびに好酸球主体の炎症細胞が浸潤し,表皮は海綿状態ならびに液状変性が認められた.超音波検査用ゼリーas is(そのまま貼付)のパッチテストで陽性を示し,ゼリーによる接触皮膚炎と診断した.皮疹の治療としてベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル軟膏の外用を開始し,皮疹は速やかに消退した.後日,再度超音波検査が施行された際には,ゼリーは検査後に速やかに取り除いたため皮疹の再燃はみられなかった.繰り返す超音波検査用ゼリーの使用は皮膚障害部位からの感作により接触皮膚炎を起こしうる.しかし本症例では,超音波検査を実施した後に皮膚に付着したゼリーを拭き取る際に配慮することで接触皮膚炎の発症を防ぐことは可能であった.
著者
澤田 雄 秋山 浩利 松山 隆生 和田 朋子 遠藤 格
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.1027-1031, 2012-09-30 (Released:2013-01-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

急性虫垂炎術後のSSIは最も頻度の高い合併症であり,患者QOLの低下や入院期間延長などの医療経済的な側面にも影響を与える。本稿では,急性虫垂炎術後のSSI予防に関する文献について概説し,あわせて当教室および関連病院で行われた急性虫垂炎手術症例のSSIについて報告する。これまでに虫垂切除後のSSI予防に関して,予防的抗菌薬,創縁保護器,吸収糸の使用,腹腔鏡の使用,二期的創閉鎖などが報告されている。われわれの検討では,切開部SSIのリスク因子は,切開法,腹腔内ドレーンの留置,虫垂の炎症所見の3因子であり,臓器/体腔SSIのリスク因子は,出血量,腹腔内ドレーンの留置の2因子であった。壊疽性虫垂炎はSSI発生頻度が高率であったが,創縁保護器の使用によりSSI発生は減少する傾向を認めた。SSI発生高危険群である壊疽性虫垂炎に対して,今後SSI予防策のさらなる研究が必要である。
著者
金子 栄 山口 道也 日野 亮介 澤田 雄宇 中村 元信 大山 文悟 大畑 千佳 米倉 健太郎 林 宏明 柳瀬 哲至 松阪 由紀 鶴田 紀子 杉田 和成 菊池 智子 三苫 千景 中原 剛士 古江 増隆 岡崎 布佐子 小池 雄太 今福 信一 西日本炎症性皮膚疾患研究会 伊藤 宏太郎 山口 和記 宮城 拓也 高橋 健造 東 裕子 森実 真 野村 隼人
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.6, pp.1525-1532, 2021

<p>乾癬治療における生物学的製剤使用時の結核スクリーニングの現状について西日本の18施設を調査した.事前の検査ではinterferon gamma release assay(IGRA)が全施設で行われ,画像検査はCTが15施設,胸部レントゲンが3施設であった.フォローアップでは検査の結果や画像所見により頻度が異なっていた.全患者1,117例のうち,IGRA陽性で抗結核薬を投与されていた例は64例,IGRA陰性で抗結核薬を投与されていた例は103例であり,副作用を認めた患者は23例15%であった.これらの適切な検査と治療により,結核の発生頻度が低く抑えられていると考えられた.</p>
著者
矢箆原 隆造 伊藤 慎英 平野 哲 才藤 栄一 田辺 茂雄 林 美帆 加藤 翼 海藤 大将 石川 裕果 澤田 雄矢 宮田 恵里 山田 唯 藤範 洋一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】我々は,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットとテレビゲームを組み合わせたバランス練習アシストロボット(Balance Exercise Assistant robot:以下,BEAR)を考案した。BEARで使用しているロボットは,搭乗者が前後に重心を移動するとその移動に合わせてロボットが前後移動し,左右に重心を移動するとロボットが旋回する装置である。従来のバランス練習には,適切な難易度が存在しない,動きが少ないためフィードバックが得にくい,退屈な練習内容,またバランス戦略への転移性が乏しいという問題点があった。一方でBEARを用いたバランス練習では,ロボット制御による練習者に適した難易度設定,実際の移動という形での重心移動のフィードバック,ゲーム感覚で飽きずに楽しく継続できる練習内容,ankle/hip strategyのバランス戦略に対して高い転移性を持つ類似課題,と改善が図られている。本研究では,中枢神経疾患患者に対しBEARを用いたバランス練習を行い,そのバランス能力の改善効果について検討を行った。【方法】対象は,当大学病院リハビリテーション科の通院歴があり,屋内歩行が監視以上の中枢神経疾患患者9名(脳出血3名,脳梗塞2名,脳腫瘍1名,頭部外傷1名,脊髄損傷2名)とした。対象の詳細は,年齢60±18歳,男性7名,女性2名,発症後35±27ヶ月,Berg Balance Scaleは47±8点であった。BEARのゲーム内容は,ターゲットに合わせて前後方向に能動的な重心移動を行う「テニスゲーム」,ターゲットに合わせて左右方向に能動的な重心移動を行う「スキーゲーム」,組み込まれた多様な外乱に抗してゲーム開始位置を保つ「ロデオゲーム」の3種類を実施した。1回の練習は各ゲームを4施行ずつ,予備練習を含めた合計20分間で構成されており,週2回の頻度で6週間あるいは8週間実施した。練習期間の前後には,バランス能力の改善指標としてTimed Up and Go Test(以下,TUG)および安静立位時の重心動揺を計測した。重心動揺計測はアニマ社製のツイングラビコーダ(G-6100)を用い,30秒間の安静立位から矩形面積を算出した。加えて,下肢の筋力も併せて計測を行った。測定筋は腸腰筋,中殿筋,大腿四頭筋,ハムストリングス,前脛骨筋,下腿三頭筋の6筋とし,アニマ社製ハンドヘルドダイナモメータを用いて等尺性で計測を行い,その最大値を採用した。統計解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,各評価について練習期間前後の比較を行った。【結果】TUGは,練習期間前後の平均値が21.5秒から17.4秒と有意な改善を認めた(p<.05)。安静立位時の重心動揺は,練習期間前後の矩形面積の平均値が3.3cm<sup>2</sup>から2.7cm<sup>2</sup>と有意な改善を認めた(p<.05)。下肢の筋力においては,練習期間前後の中殿筋の平均値が20.8kgから24.2kgと有意な改善を認め(p<.01),下腿三頭筋の平均値が44.0kgから47.7kgと有意な改善を認めた(p<.05)。一方で,その他の4筋については変化量が小さく有意差は認められなかった。【考察】本研究ではBEARを用いたバランス練習の効果を検討した。BEARの練習において前後方向の重心移動を行うテニス・ロデオゲームでは下腿三頭筋が,左右方向の重心移動を行うスキー・ロデオゲームでは中殿筋がそれぞれ求心性・遠心性収縮を繰り返し行う必要がある。このことが筋力増強に必要な条件を満たし,効果を発揮したと考えられた。このようにBEARの練習が3つのゲームにより構成されていることが,前後・左右方向どちらの制御の改善にも効果を示すため,安静立位時の重心動揺の改善にも効果的であったと考えられた。またTUGは総合的なバランス能力を表す指標であるため,この改善には筋力や姿勢制御の改善が反映されていると考えられた。TUGは転倒リスクに関連するとされていることから,BEARの練習には転倒予防の効果もあるのではないかと期待される。今後は,中枢神経疾患のうち特に効果を認めやすい対象を明確にしていくとともに,従来バランス練習群との比較を行う必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】バランス能力低下を認め,日常生活活動能力が低下している中枢神経疾患患者は非常に多い。したがって,効果の高いバランス練習を考案し,転倒による二次的な障害を予防していくことは理学療法研究として大変意義のあるものである。
著者
岩井 浩一 澤田 雄二 野々村 典子 石川 演美 山元 由美子 長谷 龍太郎 大橋 ゆかり 才津 芳昭 N.D.パリー 海山 宏之 宮尾 正彦 藤井 恭子 紙屋 克子 落合 幸子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.57-67, 2001-03

看護職の職業的アイデンティティを確立することは, 看護実践の基盤として極めて重要であると考えられるが, 看護職の職業的アイデンティティの概念や構造は必ずしも明確になっていない。そこで, 現在様々な立場にある看護職を対象に調査を行い, 看護職の職業的アイデンティティの構造を探るとともに, 職業的アイデンティティ尺度を作成した。因子分析の結果をもとに, 1)看護職の職業選択と誇り, 2)看護技術への自負, 3)患者に貢献する職業としての連帯感, 4)学問に貢献する職業としての認知, 5)患者に必要とされる存在の認知, という5つの下位尺度が抽出された。これらの下位尺度に高い因子負荷量を示した項目について信頼性係数を算出したところ, α係数は0.78〜0.89といずれも高い値を示しており, また尺度全体としては0.94と信頼性が高いことが確認された。さらに, 因子得点を算出し, 看護職としての臨床経験年数や看護教員としての教育経験年数などの変数との関連を探ったところ, 看護職の職業選択と誇り, 看護技術への自負, 患者に貢献する職業としての連帯感, および学問に貢献する職業としての認知という4つの因子は, 年齢, 臨床経験年数, および教育経験年数と有意な相関が認められたが, 患者に必要とされる存在の認知因子は年齢および臨床経験年数とのみ関連が見られた。各因子とも, 看護学生群でスコアが低く, どのようにして職業的アイデンティティが高まっていくかを探ることが今後の課題といえる。