著者
八木 康道 伊井 徹
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1341-1344, 2013-12-31 (Released:2014-07-02)
参考文献数
16

症例は74歳,男性。右下腹部痛を主訴に当院を受診した。右下腹部に限局して腹膜刺激症状を認めた。腹部CTにて回腸に約1cmの高吸収の線状陰影と周囲の脂肪濃度上昇を認めた。腹水やfree airは認められず,魚骨による小腸穿通および限局性腹膜炎と診断した。絶食と抗生物質による保存的治療を行った。腹痛および腹部所見の改善を認め,入院後第5病日のCTで魚骨が上行結腸へ移動したことを確認し経口摂取開始となった。第11病日のCTでは魚骨は体内には確認されず,体外に排出されたと考えられ退院となった。魚骨による小腸穿通には,保存的治療が奏効し魚骨が体外に排出される症例も存在し,その診断や経時的な経過観察においてCTが非常に有用であった。
著者
古屋 智規 高橋 賢一 橋爪 隆弘 久保田 穰 和嶋 直紀 橋本 直樹 伊藤 誠司 鈴木 行三 伊藤 良正
出版者
Japanese Society for Abdominal Emergency Medicine
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.121-125, 2003

bolus造影helical CTによりIIIb型膵頭部完全断裂と診断し, 尾側膵胃吻合を行って良好な経過を得た症例を経験したので報告する. 症例は19歳, 女性. 2001年8月27日, 軽ワゴン運転中防雪棚に衝突. 上腹部をハンドルに強打し近医に搬送された. 収縮期血圧62mmHg, 腹部造影CTで外傷性膵損傷と診断されたが, 損傷程度の把握不能で翌日当科に紹介された. 腹膜刺激症状あり, 気管内挿管後にbolus造影helical CTで膵頭部の完全断裂と診断して直ちに開腹した. 膵は上腸間膜静脈~門脈本幹右縁で完全断裂していた. 頭側主膵管は縫合閉鎖し, 尾側膵断端は主膵管にカニュレーションし, 端側で胃後壁に吻合した. 術後経過良好で術後49日で退院し, 術後膵機能に問題なく, 現在元気に社会復帰している. bolus造影helical CTが外傷性膵損傷の損傷部位と程度の把握に有用で, III型膵頭部完全断裂と診断された場合, 尾側膵胃吻合は, 手技が単純でかつ機能温存の面からも極めて有用な術式と考えられた.
著者
山口 圭三 辻本 広紀 平木 修一 高畑 りさ 小野 聡 山本 順司 長谷 和生
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.823-826, 2014-05-31 (Released:2014-12-19)
参考文献数
10
被引用文献数
1

症例は69歳,男性。持続する腹痛,嘔気を主訴に近医を受診し,腸閉塞の診断で当院に搬送された。既往歴として15年前に直腸癌に対して骨盤内臓全摘術,回腸導管造設,6年前に食道癌に対して開胸・開腹食道切除術を受けた。入院時,腹部は平坦・軟で腹膜刺激症状を認めず,血液ガス分析ではpH 7.175,Base Excess -17.9mmol/L,Cl 114mEq/Lと高クロール性代謝性アシドーシスを認めた。Anion gapは12.6mEq/Lと正常であった。腹部造影CT検査では血流障害は否定的であり,イレウス管挿入と輸液による保存的治療を行った。翌日には腹部症状が軽快し,4病日にイレウス管抜去,5病日に経口摂取を開始し,代謝性アシドーシスも改善したため11病日に退院となった。回腸導管術後には腸管虚血に起因しない代謝性アシドーシスを呈する場合があり,注意を要する。
著者
鹿股 宏之 小林 健二 加瀬 建一 篠崎 浩治
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.957-963, 2009-11-30 (Released:2010-01-13)
参考文献数
26
被引用文献数
1

【目的】大腸穿孔の予後因子を検討し,エンドトキシン吸着療法(以下,PMX─DHP)の適用について考察した。【対象と方法】対象は2003年4月から2008年3月までの5年間に,当院で経験した大腸穿孔54例である。術前因子9項目,術後因子6項目を選択し,予後についてそれぞれ統計学的検討を行った。【結果】多変量解析で,(1)術前ショック指数1.1以上の症例,(2)手術直後の収縮期血圧80mmHg以下の症例,(3)術後ノルアドレナリンを使用せざるを得なかった症例,(4)術後第1病日の血小板数低下率40%以上の症例,の4項目が独立した予後不良因子として観察された。さらに,死亡例は全例この4項目中2項目以上満たしていた。【考察】われわれはPMX-DHPを大腸穿孔の中でも最重症例に行うものと考えており,検討した予後不良因子~の中で2項目以上満たす症例は,最重症例としてPMX-DHP開始の一つの基準になり得るものと考える。
著者
村田 希吉 関谷 宏祐 大友 康裕 齋藤 大蔵
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.1023-1026, 2016-09-30 (Released:2017-01-18)
参考文献数
9

Damage Control Surgery(以下,DCS)の適応基準については多くの議論がある。今回,われわれは日本外傷データバンク(以下,JTDB)から開腹手術を受けた外傷患者4,447例を抽出し,DCSを受けた532例と通常の開腹手術を受けた3,915例を分析した。DCS群は来院時のバイタルサインが悪く,FAST陽性率,輸血率,死亡率いずれも高かった。ロジスティック回帰分析では脈拍,体温,意識レベル,受傷機転が独立したDCS予測因子であった。この予測因子をカテゴリー化し,重み付けをしてDamage Control Indication Detecting Score(DECIDE score)を作成したところ,死亡率との相関を認め,体温,意識レベル,受傷機転の3つの情報でDCSの適応判断が可能であった。Cut off値5点での死亡率は30.8%,感度64.8%,特異度70.0%であった。本スコアはプレホスピタルで判断可能であり,術前から外傷チーム内での意識共有が可能である。
著者
水村 直人 小川 雅生 奥村 哲 豊田 翔 今川 敦夫 川崎 誠康
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.781-785, 2016-05-31 (Released:2016-11-30)
参考文献数
30

閉塞性ショックは迅速な診断と治療を必要とする。だが,腹部コンパートメント症候群(ACS)により閉塞性ショックが生じることはあまり知られていない。79歳の男性が腹痛で救急搬送され,CT検査後に急激な呼吸状態悪化と血圧低下を認めた。身体所見では腹部緊満,CT検査では著明な小腸拡張による下大静脈圧排を認めた。腸閉塞に伴うACSと診断し,救急室で開腹すると呼吸循環動態が急激に改善した。腸管壊死は認めず,腸閉塞の原因は癒着であった。ACSは腹腔内圧が上昇し閉塞性ショックを生じる。腹腔内圧測定ができない急変時の診断は困難であるが,救命には開腹減圧術が必要である。また本邦報告例の約半数でも腹腔内圧が測定されていないが,ACSを生じる可能性がある患者では定期的な腹腔内圧測定を行い,手術時期を見極める必要がある。
著者
指山 浩志 辻仲 康伸 浜畑 幸弘 堤 修 星野 敏彦 南 有紀子
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.819-821, 2010-09-30 (Released:2010-11-09)
参考文献数
10

症例は78歳男性,高度便秘のために肛門痛が持続し来院。尿閉,便失禁状態であり,CT上直腸壁の著明な拡張と間膜組織の炎症像があり切迫破裂状態と判断した。保存的に加療し,排尿障害,排便障害ともに1週間程度で改善し退院した。退院後,自己判断で緩下剤の服薬を中止したところ症状の再燃を認めた。再度保存的加療で改善し,その後は内服を継続的に使用することで経過良好となった。便秘による特発性巨大直腸症は時に穿孔を起こして,重篤な状態を招くことがある。高度便秘で肛門痛,排尿困難,便失禁を呈する症例では,宿便による直腸切迫破裂というべき症例の存在に留意し,慎重に診療をすべきである。
著者
佐藤 晃彦
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.577-580, 2008-05-31 (Released:2008-07-01)
参考文献数
23

急性膵炎では,軽症例であっても入院治療が原則であり,脈拍数・血圧・尿量・呼吸数などの基本的なモニタリングを行いながら,絶食による膵外分泌刺激の回避,除痛,十分な輸液を行う必要がある。軽症例では,感染性合併症の続発がまれであるため予防的抗菌薬投与の必要はなく,蛋白分解酵素阻害剤投与や経腸栄養療法の臨床的有用性も確立されていない。経口摂取を契機として急性膵炎が再燃する場合があるため,食事開始時期の決定は重要なポイントとなる。軽症例では,腹痛の消失,血中膵酵素値やCRPの低下を指標として食事開始を決定することが推奨される。入院時に軽症であっても,経過中に重症化する症例が少なからず存在するため,重症度評価を継続する必要がある。
著者
島田 麻里 日高 英二 高柳 大輔 向井 俊平 澤田 成彦 石田 文生
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.613-615, 2016-03-31 (Released:2016-10-01)
参考文献数
13

症例は70歳代,男性。当院で上行結腸腺腫に対し,内視鏡的切除術を施行し,止血のためにクリップを使用した。1年10ヵ月後に右下腹部痛,発熱を主訴に当院を受診した。CT画像で虫垂腫大と虫垂内腔にクリップを認め,急性虫垂炎の診断で入院した。抗生剤による保存的加療を施行したが,症状が再燃し,入院後5日目に緊急手術となった。手術所見では,回盲部全体が腹壁や後腹膜と癒着し,膿瘍を形成していた。虫垂は腫大し,クリップが嵌頓していた虫垂中央部の炎症が特に強かった。虫垂切除術および洗浄ドレナージ術を施行した。脱落した内視鏡用クリップによる有害事象は極めてまれであるが,本症例のように虫垂に迷入・嵌頓し,急性虫垂炎を起こすことがあり,注意が必要である。
著者
渡邉 学 長尾 二郎 田中 英則 浅井 浩司 大沢 晃弘 松清 大 草地 信也 斉田 芳久 炭山 嘉伸
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.537-541, 2009-03-31 (Released:2009-05-12)
参考文献数
16

症例:77歳男性。C型肝炎,肝硬変,多発性肝細胞癌の診断にてTACE(transcatheter arterial chemoembolization)を施行されている。TACE施行7ヵ月後上腹痛を訴え緊急入院。ショック状態・著明な貧血を認め,腹部CT検査・腹水穿刺より肝細胞癌による肝破裂の診断にて緊急血管造影施行,外側区域腫瘍の腫瘍濃染,血管外漏出像を認め選択的にTAE(transcatheter arterial embolization)施行し止血した。その後経過良好にて退院となったが,TAE施行3ヵ月後再度急激な腹痛出現。前回同様ショック状態・貧血を認め,再度肝細胞癌の破裂による腹腔内出血を疑った。緊急血管造影にて肝S6腫瘍の腫瘍濃染認め,そこからの出血と考え選択的にTAE施行し止血した。2度の出血はそれぞれ異なる部位の肝腫瘍からの破裂であったが,迅速な対処による緊急腹部血管造影検査による診断およびTAEによる止血術は非常に有効であり,救命することができた。
著者
鈴木 克幸 原 康之 本間 理 髙屋 快 白幡 康弘
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.307-310, 2015-03-31 (Released:2015-06-11)
参考文献数
16

症例は56歳,男性。心窩部痛・嘔吐を主訴に前医を受診し,胸腹部造影CT検査所見で最大径50mmの巨大脾動脈瘤と完全内臓逆位を指摘され,手術目的に当科紹介となった。完全内臓逆位という破格があり,動脈瘤が直径50mmと大きいため開腹手術を選択した。脾動脈瘤と膵臓との癒着が高度であり,脾動脈瘤の切除は膵損傷および術後膵液漏の危険性が極めて高いと判断し,脾動脈結紮+脾臓摘出術を施行し,術後合併症なく経過した。脾動脈瘤は比較的まれな疾患であり,最大径50mm以上の報告例は極めて少ない。また,完全内臓逆位を伴う脾動脈瘤の手術例の報告はない。今回われわれは完全内臓逆位を伴う最大径50mmの脾動脈瘤に対して手術を施行したので,文献的考察を加え報告する。
著者
富永 哲郎 和田 英雄 古川 克郎 黨 和夫 柴崎 信一 岡 忠之
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.1087-1091, 2011-11-30 (Released:2012-01-27)
参考文献数
26

症例は71歳,男性。腹痛を主訴に当院を受診した。腹部CT検査で腹腔内出血と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:以下,SMA)の閉塞を認め,腹部血管撮影検査を施行した。右結腸動脈からの出血がみられ,コイル塞栓術にて止血した。また,SMAは回結腸動脈(iliocecal artery:以下,ICA)の起始部で閉塞していた。形状からSMAの解離が疑われ,血行再建術が必要と判断し手術を施行した。開腹所見では,回腸末端から上行結腸にかけての色調が不良であった。ICA内腔を確認すると塞栓を認めたため,塞栓除去術を施行した。その後,ICA末梢の血流は再開し腸管の色調が改善したため,腸管切除術を行わずに手術を終了した。術後は,大きな合併症を認めず退院した。しかし,3ヵ月後に腸閉塞症で再入院し,右半結腸切除術を施行した。回腸末端から上行結腸は,瘢痕化し狭窄していた。腸間膜動脈塞栓症に対する塞栓除去術後は,虚血に伴う腸管狭窄を念頭に置いた厳重な経過観察が重要である。
著者
村岡 孝幸 大橋 龍一郎 徳毛 誠樹 岡 智
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.885-889, 2009-09-30 (Released:2009-11-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

包丁の自傷行為による胃前後壁刺創の2例を経験した。2例とも受傷直後に搬入され,dynamic CT動脈相で胃損傷部位からの造影剤血管外漏出を認めた。緊急開腹術を施行したところ,胃前後壁を貫通した全層性刺創で,損傷部を修復した。術後経過は良好であった。刺創症例の開腹基準に関して種々の検討がなされてきたが,近年ではCTの有用性を示す報告が目立つ。自験例では造影剤の血管外漏出の他にも網嚢内に液体の貯留を認めたことが損傷部位同定の一助となった。また2例とも腹壁創と臓器損傷部位が近接していなかったが,これは受傷時とCT撮影時の体位の相違によるものと考えられた。体位による臓器の移動を念頭におくことでより正確な術前診断が可能になる。
著者
斎藤 人志 田中 弓子 吉谷 新一郎 小坂 健夫 喜多 一郎 高島 茂樹
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.1015-1021, 2004-09-30 (Released:2010-09-24)
参考文献数
13
被引用文献数
4

絞拒性イレウスに対する術前診断は必ずしも容易ではないが, 最近の腹部超音波検査 (US) やCT, およびMRIなど種々の画像診断法の進歩, 普及により術前の正診率が著しく向上してきている。なかでもUSの診断上の利点としては, (1) 前処置なしに簡便に行えること, (2) 非侵襲的であること, (3) 繰り返し行えること, (4) 腸管の壁や内容および蠕動運動など腸管の情報とともに, 腹水の有無など腹腔内の情報がリアルタイムに得られること, (5) 任意の断面で観察できること, などがあげられる。とくにリアルタイムで情報が得られることから絞拒性イレウスと単純性イレウスの鑑別診断には極めて有用である。絞拒性イレウスのUS診断上の所見としては, 腸管壁の肥厚, 腸管の蠕動運動の消失, 高エコーを示す腸管内容, 腹水, 腸管壁内ガス像, およびpseudotumor signなどがあげられる。しかし, 施行者の技量や腸管内ガスの量により得られる情報量が大きく左右されることも事実である。したがって, より正確な診断のためには理学的所見はもとより, CTなど他の画像診断との併用による総合的な判断が重要になることはいうまでもない。本検査法を積極的に活用し, 経験を重ねていくことが重要であることを強調したい。
著者
石川 衛 岩本 久幸 近藤 優 森 美樹 宮本 康二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.627-630, 2017

<p>経肛門的直腸異物を2例経験したので報告する。症例1:62歳男性。受診2日前に肛門より異物挿入し,摘出困難を主訴に当院受診。腹部X線検査で骨盤内に円筒状異物を認め,腹部CTでは異物先端は直腸Rs付近に達しており外来での抜去困難なため,脊椎硬膜外麻酔下に手術を施行。手術直前,異物はすでに経肛門的に触診されない部位に移動していたため,開腹して用手的経肛門的に携帯用ガスボンベを除去した。症例2:26歳男性。直腸異物の摘出困難を主訴に当院受診。外来での摘出困難であったため,脊椎硬膜外麻酔下に緊急手術を施行。腹部を愛護的に圧迫しつつ経肛門的にバイブレーターを除去した。直腸異物の摘出にあたっては,なるべく低侵襲な治療が望まれるが,詳細な病歴聴取や画像診断により異物の形体も考慮した適切な治療法を選択する必要がある。</p>
著者
宇野 能子 中島 紳太郎 阿南 匡 衛藤 謙 小村 伸朗 矢永 勝彦
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.127-132, 2014-01-31 (Released:2014-07-30)
参考文献数
52

症例は48歳の女性で急激な腹痛を主訴に発症から2時間後に当院に搬送された。来院時,全腹部で腹膜刺激症状を認め,腹部造影CTで十二指腸水平脚の欠如と,右上腹部の前腎傍腔へ脱出する拡張腸管を有する囊状構造と上腸間膜静脈の左方移動を認めた。造影効果不良な小腸の広範な拡張も伴っており,右傍十二指腸ヘルニア嵌頓に合併した小腸軸捻転による絞扼性イレウスと診断して発症より5時間で緊急開腹術を行った。術中所見で下十二指腸窩をヘルニア門として空腸起始部より約50cm肛門側から90cmにわたる空腸が脱出しており,さらに小腸は約270度捻転していた。虚血に陥った範囲は嵌頓した小腸より肛門側190cmまでの全長260cmにわたっていた。壊死腸管を切除・吻合し,ヘルニア門を吸収糸で閉鎖して手術を終了した。以上,右傍十二指腸ヘルニア嵌頓と小腸軸捻転よる絞扼性イレウスの1手術例を経験したので報告する。
著者
境 雄大 須藤 泰裕
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.903-906, 2007-09-30 (Released:2008-08-29)
参考文献数
8
被引用文献数
4

極めてまれな胆汁漏出による腹膜炎の1例を報告する。症例は89歳, 男性で, 汎発性腹膜炎の診断で入院した。腹部CTで肝右葉から胆嚢周囲の液体貯留と胆嚢の虚脱を認めた。超音波ガイド下の腹腔穿刺で胆汁性腹水が採取され, 胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎と診断し, 緊急開腹術を行った。右上腹部に胆汁性腹水が貯留していた。胆嚢底部に壁の菲薄な部位を認めたが, 穿孔は不明であった。胆嚢以外に胆汁漏出の原因はなく, 胆嚢摘出術を行った。胆嚢底部に径1.3cm大の類円形の粘膜欠損があり, 病理組織学的に全層性の出血と壊死がみられた。胆嚢内に結石を認めなかった。採取した胆汁から細菌は検出されなかった。術後は多臓器不全に陥ったが, 第35病日に退院した。病理組織学的所見より胆嚢壁壊死部からの胆汁漏出が原因となった胆汁性腹膜炎と診断した。胆嚢壁壊死の原因として動脈硬化による循環障害が考えられた。
著者
箸方 紘子 島田 謙 山本 公一 朝隈 禎隆 片岡 祐一 相馬 一亥
出版者
Japanese Society for Abdominal Emergency Medicine
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.1251-1254, 2012

患者は61歳,男性。大量飲酒後自宅屋外階段から転落し近医に搬送された。同院での腹部CTで腹腔内出血が疑われ,当院救命救急センターに転送された。検査上,胆嚢損傷,contusionと診断,保存的治療を選択した。第5病日に腹膜刺激症状が出現し,腹部造影CTで遅発性胆嚢穿孔(laceration)を疑い緊急開腹手術を施行した。開腹所見では胆汁性腹水がみられ胆嚢摘出術と術中胆道造影を施行したが胆嚢穿孔や胆管損傷はみられずいわゆるtraumatic BPWORと診断した。胆汁性腹膜炎は胆嚢粘膜剥離による胆汁の浸み出しが原因と考えられた。胆嚢は解剖学的位置関係から損傷を受け難いとされている。本症例では泥酔状態による腹壁緊張の低下に加え,転落時に十分な防御姿勢がとられなかったことが推測され,さらに飲酒後で胆嚢の緊満やOddi括約筋緊張亢進により胆嚢・胆管内圧上昇が胆嚢損傷に影響したものと考えられた。
著者
山川 一馬 相原 守夫 小倉 裕司
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.787-793, 2014-05-31 (Released:2014-12-19)
参考文献数
8

近年,日本初の敗血症診療に関するガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン』が報告されたが,世界的な敗血症診療のスタンダードであるSurviving Sepsis Campaign Guideline(以下,SSCG)とはいくつかの項目において異なる推奨を提示している。ガイドライン間における推奨の乖離は,推奨の策定方法に起因するものであると考えられる。SSCGではGRADEシステムに準拠してエビデンスの質評価と推奨度を設定している。一方,日本版敗血症診療ガイドラインでは推奨の表記方法は,推奨度とエビデンスの質からなり,一見GRADEシステムに類似しているものの,その設定基準は大きく異なっている。本稿では,日本版敗血症診療ガイドラインについてIOM基準に従って評価するとともに,曖昧な推奨作成プロセスがガイドライン利用者の混乱をもたらす可能性がある具体例をあげ,その解決策について検討した。
著者
樋口 裕介 谷川 祐二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.1159-1165, 2016-11-30 (Released:2017-03-18)
参考文献数
19

大腸憩室出血に対する内視鏡的止血術として,Endoscopic Band Ligation(EBL)の有用性を後方視的にクリップ法と比較検討した。対象は内視鏡下に活動性出血または露出血管を同定し,EBLを施行した37例とクリップ法を施行した11例。入院期間はEBL6.6日,クリップ法11.5日。輸血はEBL群37.8%に平均2.2単位,クリップ法群54.5%に平均3.6単位投与した。EBL後81%で憩室は消失した。再出血率はEBL後5.4%,クリップ法後36.4%で,入院医療費はEBL375,570円,クリップ法617,060円と有意差を認めた。EBLは憩室の消失により再出血率が低く,短い入院期間による医療費削減効果があり,有用である。