著者
太田 智之 加納 宣康 草薙 洋 大橋 正樹 葛西 猛
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.1201-1207, 2012-11-30 (Released:2013-03-08)
参考文献数
14

シートベルト着用率の向上と共に致死的外傷は減少している。一方でシートベルト損傷(以下,本症)と称される,鈍的外傷が増加した。本症はサブマリン現象により,シートベルトが骨盤から腹部にずれ,腹部と椎体が挟まれ発生すると考えられる。本稿では,当院で経験したシートベルトによる鈍的外傷2例を提示し,本症について考察を加える。本症の発生機序,シートベルトの種類による損傷の違い,本邦におけるシートベルト関連の法律についても解説する。本症に対する治療戦略としては,腸管損傷を見逃さないこと,さらに,遅発性に腸管穿孔や腸管狭窄をきたす場合があることを理解することが重要である。本症は,腸管損傷以外に複数の臓器の損傷を招くこともある。特に十二指腸損傷,膵損傷,横隔膜損傷は見逃しやすく,治療に難渋しやすいため,日頃から諸臓器の外傷手術方法について理解を深めておくべきである。
著者
檜垣 聡 平木 咲子 大岩 祐介 岡田 遥平 市川 哲也 荒井 祐介 石井 亘 成宮 博理 飯塚 亮二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.1295-1301, 2014-11-30 (Released:2015-02-27)
参考文献数
16

2008年4月から2012年12月の4年間で大腸憩室出血と診断された141例を対象に当院での治療戦略を検討した。大腸憩室出血に対する治療法には内視鏡的止血術,IVR,バリウム充填術,外科的手術などがある。内視鏡検査施行率は92.1%(130/141件)で,その内,内視鏡的止血術施行率は16.9%(22/130件)であった。止血術成功率は68.1%(15/22件)であった。血管造影検査施行率は9.2%(13/141件)であり,IVR成功率は100%(10/10件)であった。大腸憩室出血では再出血する場合があるが,当院でも止血困難・再出血症例が9例認められた。大腸憩室は多発する場合が多く,それぞれの治療法には長所・短所があり,どの治療法を選択しても再出血の可能性がある。いつでも次なる治療法を行えるように準備しておく必要があると考える。
著者
瀧川 穣 松田 圭央 尾之内 誠基 戸倉 英之 平畑 忍 高橋 孝行 藤崎 眞人
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.029-032, 2018-01-31 (Released:2018-09-21)
参考文献数
12

症例は30歳女性,銃で撃たれ当院救命センターに搬送された。来院時意識は清明で循環動態は安定していた。左右上腕,左前胸部に貫通射創,右側胸部は盲管射創を認めた。CTで横行結腸近傍に銃弾と考えられる金属片が存在し,また右肺,肝臓,脾臓の損傷,消化管穿孔を疑う腹腔内遊離ガス像,腹腔内出血,右血気胸を認めた。緊急開腹術で横隔膜,肝,脾損傷を認め縫合止血,胃壁に挫創を認め穿孔部位と判断した。銃弾を検索したが不明で,術中腹部X線で確認できず,胸部X線を撮影すると下縦隔に銃弾を認めた。食道内の可能性を考慮し,内視鏡を施行すると下部食道に銃弾を確認でき,内視鏡で胃内に押し込み胃壁損傷部位より摘出した。今回われわれは,胸腹部銃創で術前には腹部に存在した銃弾が胸部食道内に移動した症例を経験した。消化管内の銃弾は手術操作などで容易に移動する可能性があり,X線の併用など工夫が必要と考えられた。
著者
佃 和憲 平井 隆二 村岡 孝幸 高木 章司 池田 英二 辻 尚志
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.863-865, 2006-11-30 (Released:2010-09-24)
参考文献数
7

例は33歳, 男性。作業場でふざけていてエアコンプレッサーを作業着の上から肛門部に押し当てた状態で, 空気を噴射され受傷した。激しい腹痛と腹部膨満のため当院に搬送された。胸腹部単純X線検査にて腹腔内に大量の遊離ガス像を認めたため, 腸管穿孔と診断し緊急手術を施行した。S状結腸から直腸にかけて25cmにわたり腸間膜対側の結腸紐の裂創が存在した。損傷範囲の大腸部分切除および人工肛門造設術を行った。切除腸管の粘膜面には縦方向の裂創が全周性に10本以上存在していた。術後経過は良好であった。圧搾空気による腸管破裂は特異な病態を示し, 漿膜面からの観察からでは粘膜面の損傷を完全には推測できず, 手術方法に注意を要すると思われた。
著者
金森 明 水野 伸一 松葉 秀基 小林 智輝 松原 庸博
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.113-117, 2019-01-31 (Released:2020-03-24)
参考文献数
23

症例は53歳女性,腹部手術歴はない。丸餅を12個摂取した翌日に腹痛が出現し当院を受診。腹部全体に強い痛みを訴え,腹膜刺激症状もみられた。腹部CTでは胃内に餅と思われるhigh densityな食物残渣が多数みられた。上部小腸は拡張し,小腸内にも,胃内と同様に餅と推定されるhigh density massを認めた。以上の所見より餅による食餌性腸閉塞と診断し入院となった。絶食と経鼻胃管による減圧で保存的に症状は軽快し,食事摂取が可能となり退院となった。食餌性腸閉塞はさまざまな食材で報告があるが,餅による腸閉塞の場合は強い腹痛を呈し腹膜刺激症状がみられることがあるため穿孔性腹膜炎などを疑い手術となった報告がみられる。しかし本症例のようにCTで容易に診断可能であるため保存的治癒の可能性を検討する必要がある。餅摂食が原因の腸閉塞を経験したため文献的考察を加えて報告する。
著者
安 柄九 大垣 雅晴 泉 浩 竹中 温 柿原 直樹 飯塚 亮二 北村 誠
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.837-840, 2004-05-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
13

今回われわれは, S状結腸捻転に対する緊急手術の術後に, 悪性症候群を発症し, 急激な経過をたどり死亡した1例を経験したので報告する. 症例は54歳男性. 18歳より統合失調症にて入院加療中, 突然の嘔吐, 腹痛を主訴に当院へ救急搬送された. 腹部単純X線検査・腹部CT検査では拡張したS状結腸を認めた. 緊急開腹手術を施行したところ, S状結腸は著明に拡張し, 時計回りに180度捻転していた. 術後5日目白血球数は正常化していたにもかかわらず40℃台の稽留熱, さらに錐体外路症状を認めたため, 悪性症候群と診断した. 大量輸液療法, および全身冷却療法にて対応したが, 心肺停止となり, 術後5日目に死亡した. 剖検では全身臓器および骨格筋には病理組織学的所見は認められなかった. 抗精神病薬, 抗うつ薬内服中の患者において解熱薬抵抗性の高熱を認めた場合, 悪性症候群を念頭におく必要があると考えられた.
著者
蒲田 敏文
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.561-571, 2008-05-31 (Released:2008-07-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

膵疾患を正確に診断するためには,後腹膜腔ならびに膵と腸管(大腸,小腸)を結ぶ間膜(結腸間膜,腸間膜)の解剖学的理解が必要である。単純CTでも急性膵炎の診断は十分可能であるが,重症度や合併症の評価には造影 CTが不可欠である。また,時に膵癌が急性膵炎の原因となることがあるが,単純 CTのみでは膵癌の検出は困難なことが多く,造影ダイナミックCTが必要である。MRI(以下,MRCP)は胆道結石の診断能が高く,急性膵炎に随伴する出血性脂肪壊死,仮性.胞内出血などの出血性変化の評価にも有用性が高い。MRCPは造影剤を使用することなく,胆管膵管の全体像を描出できるので,膵炎の原因精査(胆管膵管奇型)にも推奨される。
著者
關 匡彦 福島 英賢 宮崎 敬太 北岡 寛教 川井 廉之 瓜園 泰之 奥地 一夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.819-822, 2015-09-30 (Released:2016-01-21)
参考文献数
11

症例は56歳,男性。自殺企図によりトイレ用洗浄剤(9.5%塩酸)500mLとアルコールを服用した。来院時の上部消化管内視鏡検査でRosenow分類Ⅲ度の腐食性食道炎を認め,胃は内視鏡が食道胃接合部を通過しなかったため,観察不能であった。腹部CTでは胃壁の肥厚を認めたが,腹水やfree airは認めなかったため保存的治療としたが,第2病日の腹部CTで腹水貯留,free airを認め,消化管穿孔の診断のもと緊急開腹術を施行した。開腹下に下部食道から幽門輪にかけて腐食壊死しており菲薄化していた。可能な範囲で壊死した胃を摘出したが,術後7日目の気管支鏡検査で食道からの腐食の深達と思われる気管の潰瘍を認め,突然の気道出血で死亡した。酸誤飲により高度のアシドーシス,Rosenow分類Ⅲ度の食道腐食に至り,多臓器不全,腹膜炎から死亡に至りうる症例では早期の手術療法を検討する必要があると考えられる。
著者
今西 俊介 貝沼 修 鍋谷 圭宏 小林 亮介 知花 朝史 石毛 文隆
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.035-037, 2017-01-31 (Released:2017-04-03)
参考文献数
19

症例は68歳,男性。突然発症した強い腹痛と嘔吐で救急搬送された。前日に餅を食べた食餌歴があり,CTでは腸閉塞像を呈し,小腸のhigh densityを呈する狭窄部より口側に複数のhigh densityな構造物が描出された。餅による食餌性腸閉塞(以下,餅腸閉塞)と診断し,絶食・輸液治療を開始した。症状は軽快し退院となった。食餌性腸閉塞は全腸閉塞の中でもまれな病態ではあるが,餅も原因となることが知られている。餅の主な構成成分であるでんぷんはアミラーゼにより分解されるアミロースが少なく,分解されにくいアミロペクチンが多く含まれる。このため餅は膨化性や付着性が高く,不十分な咀嚼などが原因で,腸閉塞の原因となり得る。また自験例のように餅腸閉塞のCTのhigh densityな所見は特徴的であり,食餌歴の聴取と合わせて診断に有用である。
著者
亀山 哲章 宮田 量平 冨田 眞人 三橋 宏章 馬場 誠朗 天田 塩
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.233-237, 2015-03-31 (Released:2015-06-11)
参考文献数
9

現在胆管ドレナージは内視鏡的アプローチが第一選択となっている。術後再建腸管症例に対してもダブルバルーン内視鏡の普及により行われるようになってきているが,内視鏡的アプローチが困難な症例に対しては,経皮経肝胆管ドレナージ(以下,PTBD)が必要になる。PTBDは,当初はX線透視下に行われていたが,現在では,エコー下穿刺法が一般的に行われている。しかし,エコー下に非拡張胆管を描出し穿刺針を挿入することは困難であることがある。非拡張胆管に対しPTBDが必要な場合はX線透視下PTBDが有用であることがあり,その手技について症例を提示し,安全に施行する手技的ポイントを紹介する。
著者
木下 満 片岡 政人 多代 充 加藤 公一 近藤 建
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.741-744, 2015-09-30 (Released:2016-01-21)
参考文献数
13

症例は26歳,男性。胃透視検査1週間後に腹痛出現し近医を受診。消化管穿孔疑いで当院紹介となった。腹部CT検査で腹腔内遊離ガス像を認め,下行結腸からS状結腸にかけてガス像増加およびバリウム貯留を認めた。下部消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した。下行結腸の腸間膜対側に約2cmの穿孔部を認め,穿孔部より盲腸までバリウムで覆われた硬便で充満しており穿孔部を切除し下行結腸で単孔式人工肛門を造設した。穿孔部周囲は菲薄し穿孔性潰瘍を認めた。病理所見では穿孔部周囲は好中球やリンパ球浸潤からなる膿瘍形成が認められた。腫瘍や憩室は認めず,穿孔部以外は異常所見は認めなかった。以上よりバリウム塊による硬便で腸管壁が圧迫壊死し,下行結腸が穿孔した宿便性大腸穿孔と診断した。基礎疾患のない若年者でのバリウムによる胃透視検査後の大腸穿孔はまれであり若干の文献的考察を加えて報告する。
著者
金谷 欣明 橋田 真輔 藤井 徹也 丸山 修一郎 横山 伸二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.947-951, 2008
被引用文献数
2

経肛門的直腸内異物は比較的まれな疾患であり,異常な自慰行為のエスカレート等により突発的に生じることが多い。今回われわれは中高年男性に発生した経肛門的直腸内異物の2例を経験したので報告する。症例1は71歳の男性,すりこぎ様の太い木製の棒を自ら肛門より挿入し,抜去不能となり当院の受診となった。外来での抜去は困難で,腰椎麻酔下にこれを用手経肛門的に摘出した。症例2は55歳の男性,空のジュース缶を自ら肛門より挿入し排出困難となり,近医で経肛門的摘出を試みられたが成功せず,当院の救急外来を紹介となる。症例1同様,腰椎麻酔下に用手経肛門的に摘出した。いずれも外来での摘出は疼痛や腸管浮腫のため困難であったが,腰椎麻酔下では肛門括約筋の弛緩も得られ,用手経肛門的に摘出可能であり無麻酔下に摘出困難な場合,試みられるべき有効な治療法の一つと思われた。
著者
久保 直樹 安里 進
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.877-879, 2006-11-30 (Released:2010-09-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1

症例は62歳の男性。4年前に胃切除を受けた。腹痛を主訴に当院を受診, 腹部膨隆と腹部全体に強い圧痛を認め, 筋性防御や腹膜刺激症状も認めた。白血球とCPKの上昇を認め腹部所見とあわせ紋扼性イレウスを疑い緊急手術を施行した。腸管の絞扼は認めず, 回盲部より約100cm口側の小腸が糸コンニャクで閉塞しておりこれがイレウスの原因と考えられた。食餌性イレウスのなかには臨床所見から紋扼性イレウスとの鑑別が困難な症例があり術前に食事歴の詳細な問診が重要であると考えられた。
著者
新保 敏史
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.575-579, 2020-05-31 (Released:2020-11-30)
参考文献数
27

症例は46歳男性。腹部全体の鈍痛・下痢・嘔吐を主訴に当院へ救急搬送された。体温は40.5℃,腹部は軟で,心窩部に軽度圧痛を認めた。血液検査では軽度の炎症所見を認めるのみで,腹部CT検査では急性胃腸炎の所見であった。入院後,補液による加療を行ったが,来院約12時間後に突然ショックとなった。Disseminated intravascular coagulation(以下,DIC)を併発しており,救命処置を行ったが,死亡した。病理解剖でDICによる多臓器不全と診断された。後日入院中に採取した血液培養から肺炎球菌が検出されたため侵襲性肺炎球菌感染症と診断した。また入院時のCT検査で脾臓が小さく,体積は38.6mLであり,脾臓低形成であった。脾臓低形成による免疫機能低下の関与が疑われた侵襲性肺炎球菌感染症の症例はまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。
著者
伊藤 得路 土井 正太郎 濱田 徹 安田 武生
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.579-582, 2021-11-30 (Released:2022-06-03)
参考文献数
20

茸による食餌性腸閉塞の2例を経験したので報告する。【症例1】既往歴に脳性麻痺のある56歳の女性。腹部手術歴はなし。腹痛と嘔吐を主訴に受診した。CT検査でair densityを伴う塊状物と口側腸管の拡張が認められた。意思疎通を図ることが困難であり,腸管壊死の可能性が否定できないため緊急手術を施行した。回腸末端から約30cm口側に可動性のある腫瘤を認め,切開して椎茸を摘出した。【症例2】39歳の女性。腹部手術歴はなし。腹痛と嘔吐を主訴に受診した。CT検査でair densityを伴う塊状物と口側腸管の拡張が認められた。前日に茸を含むすき焼きを摂取したことを聴取し,食餌性腸閉塞の可能性を考慮し,緊急手術を行った。回腸末端より50cm口側に塊状物を確認し,腸閉塞の原因と考えられた。腸を切開してエノキ茸を摘出した。腹部手術歴のない腸閉塞症例では食餌性腸閉塞を鑑別にあげ診療にあたる必要がある。
著者
水野 翔大 瀬尾 雄樹 西山 亮 亀山 哲章 秋山 芳伸
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.069-072, 2019-01-31 (Released:2020-03-24)
参考文献数
4

症例は76歳,男性。46歳時に統合失調症を発症し,長期間精神科病院に入院中であった。下腹部痛を訴え,腹部CTでS状結腸を閉塞機転とする大腸閉塞,多発肝転移の所見を認めたため精査加療目的に当院転院搬送された。経肛門イレウス管の挿入を試みたが,ガイドワイヤーが穿孔したために緊急手術をすすめた。しかし本人が手術を拒否したため,保存的に経過観察した。その10日後に一転し手術希望があったため,横行結腸人工肛門造設術を施行した。術後2日目の夜間,人工肛門を自身で牽引し,横行結腸が腸間膜ごと脱出している状態になったため,緊急で人工肛門再造設術を施行した。精神疾患合併患者の術後管理において当院ではさまざまな工夫をしているが,人工肛門の自己抜去という想定外の事象を経験した。精神疾患合併患者の術後管理においては人工肛門も自己抜去の対象となりうることを念頭に置く必要があることが示唆された。
著者
春木 伸裕 佐藤 篤司 杉浦 正彦 呉原 裕樹 辻 秀樹
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.487-490, 2010-03-31 (Released:2010-05-11)
参考文献数
15
被引用文献数
4

症例は1型糖尿病で通院中の55歳女性で,インスリン注射を3日前から自己中断し意識障害を呈し入院となった。血液検査にて糖尿病性ケトアシドーシスと診断し治療を開始した。翌日38℃の発熱と腹部膨満を訴えたため,緊急CTを施行した。腹水,門脈ガス,広範な腸管気腫を認め,腸管壊死による急性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した。開腹すると,回腸末端の約200cmの回腸が分節的に壊死しており,S状結腸も暗紫色を呈し虚血に陥っていた。上腸間膜動脈および下腸間膜動脈は本幹から末梢まで拍動を触知できたことから,非閉塞性腸管膜虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia: 以下,NOMI)と診断し,壊死した腸管の切除と下行結腸に人工肛門を造設した。NOMIは主幹動脈に器質的閉塞がないにもかかわらず,腸管に虚血あるいは壊死を生じる予後不良の疾患で,自験例は著明な脱水と,高血糖による高浸透圧が増悪因子となり,NOMIを発症したものと考えられた。
著者
荒川 信一郎 阪本 研一 上松 孝
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.983-987, 2016-07-31 (Released:2016-12-28)
参考文献数
21

症例は42歳の女性。統合失調症で他院通院加療中に突然の希死念慮のため文化包丁で自分の腹部を刺し受傷1時間45分後に救急搬送された。来院時包丁は腹部に刺さったまま固定された状態であった。造影CT検査で膵頭部,胃前庭部~十二指腸の損傷を疑い受傷4時間15分後に緊急開腹術を施行した。包丁先端は十二指腸球部を穿通し膵頭部上縁実質を約5mm幅で穿通し椎体腹側に達していた。助手が包丁を固定した状態で慎重に損傷部位の検索を行い主膵管・胆管・主要血管の損傷がないと判断した時点で包丁を抜去し,穿孔部を含む胃十二指腸切除+膵頭部縫合閉鎖を行った。術後経過は良好で術後17日目にかかりつけ精神科に転院となった。本邦の腹部外傷は鈍的外傷が多く刺創に遭遇する機会は少ない。自験例では成傷器が残存した状態にあり詳細な術前評価は困難であったが,注意深い手術操作のもと検索を行うことで良好な経過を得ることができた。
著者
加納 由貴 淺井 哲 松尾 健司 竹下 宏太郎 一ノ名 巧 赤峰 瑛介 藤本 直己 山口 拓也 城田 哲哉
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.727-731, 2018-05-31 (Released:2019-12-07)
参考文献数
18

症例は92歳の女性。Press through package(以下,PTP)を誤飲しその後呼吸苦・胸痛が出現し当院へ救急搬送された。胸腹部CTで食道・胃内に7個のPTPを認め緊急内視鏡的異物摘出術を施行した。内視鏡を挿入すると実際には食道・胃内にそれぞれ4つ合計8つPTP異物を確認し,摘出した。翌日胸腹部CT・上部消化管内視鏡検査でPTPが小腸・大腸含め消化管内に残存していないことを確認した。PTP誤飲は消化管穿孔を起こす危険があり緊急内視鏡的異物摘出術の適応となる救急疾患である。今回われわれは1つの症例で8個のPTPを誤飲した希少な症例を経験した。実際には胸腹部CTで想定された数よりも多くのPTPが摘出されており,PTP誤飲ではCTでは検出されないPTPの存在を念頭に置いて処置および経過観察をする必要があると考えられた。