著者
鈴木 昭広
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.310-318, 2008 (Released:2008-04-16)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

エアウェイスコープ® (AWS) とエアトラック® (ATQ) は, ともにチューブ誘導機能を有する間接声門視認型の硬性喉頭鏡である. 両者とも, 喉頭所見を劇的に改善し, ガイド溝を経由したチューブを高い確率で気管に安全・確実に留置することを可能とし, 現行の気管挿管器具のなかで最も進化した喉頭鏡と考えられる. 両者は外見上の構造は類似しており, 共通のコンセプトを有してはいるが, 喉頭蓋の挙上法や声門に至るアプローチなどに相違がある. これら新しい気道確保器具はマッキントッシュ型喉頭鏡の後継者としてきわめて有望であり, 今後の気道管理に重要な役割を果たすと考えられる.
著者
大屋 慶知 神野 正航 佐野 治彦 竹中 伊知郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.585-589, 2022-11-15 (Released:2022-12-23)
参考文献数
7

COVID-19患者の抜管時に発生するエアロゾル飛散問題は,未解決のままである.そこで,インターサージカル・ブロンコスコピーマスクを用いた抜管時のエアロゾル飛散防止対策法を考案した.本法は,顔に隙間なく密着させたマスクの弁付きホールから気管チューブを抜去し,対策が必要なくなるまでマスク装着状態で観察する方法である.本法には,簡便,エアロゾル飛散スペースが小さいため残留エアロゾルが少ない,抜管後の気道緊急時に遅れなく処置が行える,などの利点がある.しかし,エアロゾル飛散防止効果が未証明,抜管後の気道緊急時においてエアロゾル飛散防止対策下に気管挿管操作を行えないなどの問題に注意しなければならない.
著者
市川 順子 笠原 彩 西山 圭子 小高 光晴 小森 万希子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.381-386, 2019-07-15 (Released:2019-08-01)
参考文献数
5

過去3年間の血液製剤使用拒否患者を対象とした手術について準備書面,手術・麻酔状況などを調査した.緊急手術の1名を除き,8名全員から術前に本人による輸血拒否と免責に関する証明書が提出された.術前の予測出血量は少量から500mLであり,7名がアルブミン製剤投与,2名が回収式自己血輸血施行を承認していた.術中の出血量は少量から350mLであり,血液製剤を投与された者はおらず,予測出血量が少ないため術中に出血対策を施行された者もいなかった.相対的無輸血という対応指針のもと,予測出血量が少ない症例に限り絶対的無輸血治療方針で対応していた.回収式自己血輸血や血液製剤使用など同意範囲の拡大に努める必要がある.
著者
奥山 和彦 武田 由記 助川 岩央
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.419-424, 2015-07-15 (Released:2015-09-18)
参考文献数
11

近年,小児中心静脈カテーテル留置においては超音波ガイド下穿刺が普及し,解剖学的に決まった位置からの穿刺でなくなったため,これまでの計算式では適切な位置に留置できなくなった.そこで,新たな計算式と,体表ランドマーク(LM)を用いた穿刺後計測法を試した.従来の式(身長cm-45)/20+4.5で留置すると平均12.1mm気管分岐部より頭側に留置されていたが,新計算式0.236×身長(cm)+17.4を用いた方法では平均7.0mmと改善した.LMとして胸骨角右縁を用い穿刺部からの距離の実測にて留置すると平均2.6mm頭側であった.超音波ガイド下穿刺では,LMを用いた穿刺後計測が適切と考えられた.
著者
堺 登志子 葛川 顕子 吉川 清 岸 義彦 桑木 知朗 市川 隆徳
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.365-369, 1996-05-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

手術侵襲による免疫能の変化として末梢血中の好中球数の増加が認められる.好中球数や機能に対し大きな役割をもつ内因性顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を,新たに開発された高感度ELISA法によって測定した.吸入麻酔開始ではG-CSF値は測定限界をほとんど超えることなく,皮切後3時間目から上昇し,6時間目でピークを迎えて後に下降した.好中球数は皮切3時間目には上昇し,翌日まで同等の値を示した.手術侵襲で分泌されるのが知られているコルチゾールは,G-CSFと同様の傾向を示すが,相互の役割分担や関係は不明であった.術中早期からの血漿G-CSFの上昇は,神経系の刺激を介して分泌されることを推測させた.
著者
井上 義崇
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.258-263, 2005 (Released:2005-05-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

トラキライト™ を用いての気管挿管は確実性, 迅速性, 安全性, 経済性, 簡便性のいずれにおいても, 従来の喉頭鏡を用いての喉頭展開手技と比較して色がなく, トレーニングの機会を得やすい. このライトガイドによる気管挿管手技は頸部の透過光を指標とするもので, 咽頭や喉頭に病変があるケースでは使えないが, 一方で咽頭に視野確保のためのスペースを必要とせず, 中間位で挿管可能であり, 解剖学的な影響を受けにくいという大きな利点がある. トラキライト™ の習熟には喉頭展開と同程度のトレーニングを必要とするが, ひとたび習熟すれば日常臨床できわめて有用な手技となり, 気道確保に新たなストラテジーの展開が期待できる.
著者
小原 勝敏
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.849-856, 2018-11-15 (Released:2018-12-26)
被引用文献数
1

苦痛の少ない内視鏡診療において,鎮静は不可欠である.2013年にEBMに基づいた「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」が公表されたが,本ガイドラインは内視鏡診療上,鎮静が必要と考えられた局面において,どのような鎮静法が良いかの指針を示したものである.鎮静時には偶発症として重篤な呼吸抑制をきたす危険性があり,十分なインフォームドコンセントが不可欠であり,さらに偶発症発生時に迅速に対応できる体制をチーム医療として整備しておく必要がある.また,内視鏡医は鎮静・鎮痛薬の特徴ならびに対象とする患者背景や呼吸循環動態の変化に関するリスクを十分に理解し,医療事故防止に努めることが重要である.
著者
浅雄 保宏 高田 啓介 武部 佐和子 前田 正人 真嶋 良昭
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.11, no.5, pp.632-635, 1991-09-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

われわれは気管内挿管下の全身麻酔による甲状腺良性腫瘍手術後に手術側の反対側に声帯麻痺をきたした症例を経験した.カフつきチューブの使用,頸部後屈などにより,気管に偏位やねじれが生じ,反回神経との位置関係が変化して左側の反回神経に牽引,圧迫が加わりやすくなって,反回神経の栄養血管の血流障害による神経麻痺をきたしたと考えられた.1ヵ月後には声帯麻痺は完全回復した.
著者
今町 憲貴
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.322-329, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

痒みは掻きたいという欲望を生じる感覚である.痒みにはヒスタミン受容体を介するものだけではなく,プロテイナーゼ活性化受容体やMas関連G蛋白質共役受容体を介する非ヒスタミン依存性の痒みが存在する.オピオイドにより生じる痒みは麻酔科医にとって最も身近な痒みであろう.残念ながらオピオイドによる痒みは発生率が高いにもかかわらず,標準的な治療や予防法がないのが現状である.最近,オピオイドによる痒みの機序の一部がガストリン放出ペプチド受容体を介することにより生じることが明らかとなってきた.さまざまな薬剤を用いたオピオイドによる痒みに対する臨床研究が行われており,今後の痒みの研究が発展することを期待したい.
著者
佐藤 史弥 廣瀬 宗孝
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.330-334, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

近年,欧米を中心にオピオイド使用量は増加し続けているが,日本においても例外ではない.高齢化に伴うがんサバイバーの増加により,慢性非がん性疼痛を抱えたがん患者が増加し,オピオイドの使用の判断が難しくなる症例も多くみられる.慢性非がん性疼痛で適応のあるオピオイドも増えてきているが,どのように使用すればよいだろうか.臨床の場において,多くのペインクリニシャンが乱用や嗜癖につながるケースを経験し始めているが,実際どの程度のリスクがあり,どのようなことに注意すればよいだろうか.日本におけるオピオイド使用と乱用・嗜癖の現状について整理する.
著者
市原 靖子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.760-769, 2018-11-15 (Released:2018-12-26)

悪性高熱症は主に全身麻酔中に突然高熱を発する,常染色体優性遺伝の筋肉疾患である.発症には遺伝素因,抑制因子の欠如,および誘発因子が関与する.本症の特異的な症状はないが,早期発見・早期治療がなされなければ死に至る.この疾患の素因を術前検査から診断することは難しい.日本麻酔科学会では会員が悪性高熱症に対する理解を深め,実践できるよう,悪性高熱症管理ガイドラインを2016年に制定した.本ガイドラインは患者救命を最優先にする必要な処置が記載されている.ただし,ガイドラインでは原則を記載したのみで,本疾患の病態を理解し,現場の状況によって適宜修正する必要はある.
著者
岡 耕平
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.654-659, 2022-11-15 (Released:2022-12-23)
参考文献数
14

従来の医療安全では,事故の原因を特定し対策することで再発を防止するアプローチが主流であった.しかし防止策の効果もある程度で上限が見え,防止策として増やした手続きが新たな事故の要因になることが問題となってきた.そこで近年は,むしろ日常業務でなぜ事故が起こらないのか調べることで安全維持能力を高めようとするアプローチが重視されるようになってきた.しかしながら,日常業務がなぜうまくいっているのか評価することの意義や具体的アプローチについては明確な指針がない.本論文ではこれまでの安全研究のアプローチや事故の捉え方の変遷を踏まえながら,近年の医療安全研究のトレンドや今後のアプローチについて整理する.
著者
二階 哲朗 齊藤 洋司
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.557-562, 2007 (Released:2007-10-06)
参考文献数
39

レミフェンタニルは, その薬理作用から鎮痛を主体にした手術麻酔管理が可能となる画期的なオピオイドである. しかしレミフェンタニルの超短時間作用性を考慮した場合, 麻酔からの覚醒や呼吸状態の回復は速やかであるが, その一方, 術後疼痛管理には注意を要する. 局所麻酔薬とフェンタニルやモルヒネを併用した持続硬膜外鎮痛やintravenous patient controlled analgesia (ivPCA) 法は, レミフェンタニル麻酔後の安全かつ効果的な術後鎮痛方法である. 麻酔中の疼痛管理から術後疼痛管理への適切な切り替え方法が重要となる.
著者
小林 俊司 光明寺 雄大 辻川 麻実 高橋 未奈 沖田 将慶
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-9, 2021-01-15 (Released:2021-02-19)
参考文献数
10

全身麻酔下にレミフェンタニル(RF)とフェンタニル(F)を約3ng/mLの効果部位濃度で維持し,血圧低下・徐脈作用を比較した.80名を対象とし,無作為にRF群,F群の2群に分けた.心拍数(HR),収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),平均血圧(MBP)の最大低下率(%)は,RFではそれぞれ20.3±15.9,39.5±12.8,35.0±12.2,35.7±12.1%,Fでは19.2±15.8,34.9±11.8,28.4±11.7,29.7±11.1%(M±SD)であった.除脂肪体重,年齢,フェニレフリン,アトロピンの影響を精査した結果,RF群とF群で有意差はないと考えられた.

1 0 0 0 OA 麻酔薬の代謝

著者
菊地 博達
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.417-426, 1990-09-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
22
著者
那須 倫範 吉田 仁 山田 正名 荒井 理歩 長岡 治美 片岡 久嗣
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.327-330, 2017-05-15 (Released:2017-06-17)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

症例は52歳,女性.原発性左上葉肺癌の診断で胸腔鏡下左肺上葉切除術が予定された.35Frの左用ダブルルーメンチューブ(DLT)を用いた気管挿管操作に難渋することはなかった.術中の片肺換気は異常を認めず,バイタルサインも落ち着いていたが,肺切除後にリークテストを行ったところ縦隔より気漏があり,DLTにより左主気管支膜様部損傷が生じていることが判明した.開胸直視下に修復術が行われ,術後経過は良好であった.DLTを用いる際には,気管・気管支損傷を起こしうることを認識する必要がある.
著者
佐野 秀樹 坂梨 真木子 森下 真至
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.227-231, 2022-05-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
14

Pericapsular nerve group block(PENGブロック)と外側大腿皮神経ブロックにより,良好な鎮痛が得られた肝硬変合併患者の人工股関節置換術を経験した.症例は49歳男性.Child-Pugh分類Cのアルコール性肝硬変と診断されていたが両側股関節痛のため整形外科を受診,両大腿骨骨頭壊死と診断され右人工股関節置換術が予定された.全身麻酔にPENGブロック,外側大腿皮神経ブロックを併用し,良好な鎮痛,術後経過を得た.3カ月後に同様の麻酔にて左人工股関節置換術が施行されたが,経過は良好で術後3カ月で退院となった.
著者
藤原 祥裕
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.844-851, 2017-11-15 (Released:2018-01-24)
参考文献数
1
被引用文献数
2

日本の周術期医療はマンパワー不足に悩んできたにもかかわらず,社会の医療に対する要求は高まるばかりである.こうした状況の中,周術期医療の質の向上と効率化を両立するためにはチーム医療による適材適所な人材配置が欠かせない.愛知医科大学病院では現在4名の周術期診療看護師が周術期医療に従事している.彼らは診療の補助として,麻酔科医の指示のもと術中麻酔管理,術後集中治療管理に当たっている.彼らは単に麻酔科医不足を解消するだけでなく,現場のコミュニケーションを円滑にし,当院周術期医療の質の向上と効率化に大きく貢献している.今後,周術期診療看護師は日本の周術期医療を大きく前進させる鍵になると考える.
著者
石村 博史 綾部 仁士 山内 康太 谷口 英喜
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.212-227, 2013 (Released:2013-05-16)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

術後回復強化を目指して取り組んできた術中胸部硬膜外麻酔・術後持続胸部硬膜外鎮痛併用下での早期リハビリテーション(以下,リハビリ)における結果を検討した.術後の不穏・譫妄が上腹部開腹術では有意に抑止され,術後2週間目での体重減少率が胃全摘術において有意に抑止された.また,術後1日目からの経口摂取が,腸管虚血後再灌流障害を伴う肝切除術では促進される可能性が示唆された.一方で術後血圧低下・起立性低血圧はリハビリを阻害する要因である.重大な手術侵襲に伴う全身的な炎症反応がこれらの血圧低下を招く可能性があり,メチルプレドニゾロンをはじめ各種のタンパク分解酵素阻害薬等による炎症反応への介入が循環動態を安定させリハビリを促進する可能性が示唆された.