著者
原 哲也 澄川 耕二
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.765-774, 2012 (Released:2012-11-13)
参考文献数
19

酸素需給バランスの評価は安全な麻酔管理の第一歩である.特に動脈血酸素飽和度,ヘモグロビン値,心拍出量は重要である.混合静脈血酸素飽和度は酸素運搬量と酸素消費量のバランスを反映し,心拍出量と組み合わせることで,運搬と消費の問題を区別して評価できる.FloTrac/Vigileoシステムは動脈圧の標準偏差から1回拍出量を推定する動脈圧心拍出量モニターである.PreSep中心静脈オキシメトリーカテーテルは混合静脈血酸素飽和度に代わり,中心静脈血酸素飽和度を測定する酸素需給バランスのモニターである.これらの低侵襲モニターを麻酔管理に活用することで,重症患者の安全を確保するとともに,麻酔科医の負担を軽減したい.
著者
岩月 矩之 高橋 浩子 村上 衛
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.218-223, 1989

下腹部及び下肢の手術患者35名を対象として, 脊椎麻酔用0.5%等比重及び高比重ブピバカイン液と0.5%等比重テトラカイン液を用いて脊椎麻酔を行った. 麻酔効果発現時間, 無痛域の広がりは高比重ブピバカイン液が等比重ブピバカイン液に比べて早かった. 麻酔持続時間は等比重ブピバカイン液が3~4時間と高比重ブピバカイン液よりも約1時間長く, また運動神経麻痺の程度も強かった. 血圧下降の程度は等比重液の方が軽度であった. 0.5%等比重ブピバカインと0.5%等比重テトラカインとの比較では, その効果に有意差はみられなかった.
著者
上山 博史
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.450-455, 2016-07-15 (Released:2016-09-10)
参考文献数
10

BISモニターに代表される麻酔用脳波モニターは,臨床濃度では麻酔による脳波の高振幅徐波化の程度を数値化することにより鎮静度を示す.この脳波変化は,麻酔薬の種類や加齢の影響を受けるため,プログラムされた変化パターンを示さない麻酔薬や年齢層では,BIS値の信頼性が下がるだけでなく,濃度依存性の変化も失われる.デスフルランはセボフルランと比べて振幅変化,特にアルファ波の振幅増高作用が小さいため,BIS値は低めに算出され,かつ40歳以上では濃度依存性にBIS値が変化しにくい.そのため,BIS値が低い場合でも4%以上の投与を推奨する.デスフルランの誘発電位に与える影響は,他の揮発性麻酔薬と同様に振幅を抑制する.
著者
高澤 知規
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.408-414, 2019-07-15 (Released:2019-08-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

手術室で発症するアナフィラキシーショックは,発生頻度は低いものの,対応を誤れば生命に危険が及ぶため,迅速かつ適切に対応しなければいけない.原因薬剤としては,筋弛緩薬とその拮抗薬,抗生剤が多い.診断には臨床症状のほか,血液中のヒスタミン・トリプターゼの濃度測定が有用である.薬物治療の第一選択はアドレナリンである.原因薬剤の同定には皮膚テストがゴールドスタンダードであるが,in vitroで実施できる好塩基球活性化試験は有望な検査である.原因薬剤が同定されないまま放置されると,次の手術で患者を危険に晒す可能性があるため,アナフィラキシーの原因をつきとめておくことが麻酔科医の責任だと考える.
著者
林 浩伸 川口 昌彦
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.262-268, 2017-03-15 (Released:2017-04-21)
参考文献数
11

術中視覚機能モニターとして,視覚伝導路からの電位を測定する視覚誘発電位(VEP)がある.VEPとは網膜に視覚刺激を与えたときに大脳視覚領に生ずる反応である.全身麻酔下での視覚刺激は,フラッシュ刺激によって網膜を照射する.近年,全身麻酔下でのVEPが普及するようになった背景として,LEDを用いることで網膜を強くフラッシュ刺激することが可能になり,VEPの抑制効果が少ないプロポフォールを用いることで安定した記録が行えるようになったことがあげられる.さらに,フラッシュ刺激が網膜に確実に到達していることを確認するためにVEP記録と同時に網膜電図の記録を併用することで,全身麻酔下VEPの信頼性が高まった.
著者
西野 京子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.523-530, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1

手術中に地震が起きたならば,まず自分,患者,周囲の安全を確保した上で,手術を速やかに終了させ,患者の生命を守らなければならない.しかし,手術室が損壊したり,電気,医療ガス等のライフラインが途絶すると,これが不可能になる.そのためわれわれは平時より地震に強い環境整備を行い,ライフラインのバックアップ体制を整え,災害時のマニュアルを作成し,実際に手術時に地震が起きたことを想定してシミュレーションを行う必要がある.
著者
坪川 恒久
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.497-507, 2006 (Released:2006-10-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

Awake OPCABは, 高位胸部硬膜外麻酔を用いて挿管せずに, 自発呼吸と意識を維持したままOPCABを行う周術期管理方法である. 高位胸部硬膜外麻酔は, 交感神経遮断により心仕事量を抑え, 限局性の冠動脈拡張作用をもち, 心筋保護的に作用するなど, 虚血性心疾患を有する患者には有益な面を多くもつ. 一方で, ヘパリンを使用した手術のため硬膜外血腫形成が懸念され, 硬膜外膿瘍や局所麻酔薬中毒にも注意する必要がある. 自発呼吸を維持することの利点は, 挿管を必要としないことと, 心拍出量および脳血流量の維持が期待されることである. 逆に欠点としては, 気胸や誤嚥の可能性があり, 経食道エコーを使うことができないことがある. 意識を維持することの利点は, 脳灌流および神経学的合併症のモニターとして優れていることである. いずれの要素に関してもエビデンスの蓄積はまだ不十分であり, 今後の検討が必要である.
著者
川口 昌彦 国沢 卓之 岡本 浩嗣 野村 実
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.684-690, 2019

<p>日本心臓血管麻酔学会が目指すサブスペシャルティは,理念に掲げたとおり,「心臓血管麻酔専門医制度は,麻酔科専門医のサブスペシャルティとして,心臓血管麻酔に関する十分な専門知識と技能を有し,より安全で質の高い心臓血管麻酔の提供と教育的,指導的な役割を果たせる専門医を育成し,国民の健康・福祉の増進に貢献することを目的とする.」である.学会独自の教育と専門医制度を設立・運用してきているが,今後は,日本麻酔科学会の承認を得られた後,日本専門医機構の認定を得られることを目標として,機構の示す要件を一つずつ検討し,必要のあるものは改善を開始している.最終的に患者,メディカルスタッフ,会員の皆様に恩恵をもたらせるよう,活動を進めていく予定である.</p>
著者
奥富 俊之
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.159-164, 2008 (Released:2008-02-16)
参考文献数
3

麻酔科医からすれば, 無痛分娩は麻酔行為であるから, その担当者は当然麻酔科医と思うかもしれない. しかし実際に産科麻酔を実践するには, 麻酔科学の基礎知識や麻酔技術はいうまでもなく, 麻酔が母親の出産体験や, その後の家族の育児にどのようにかかわるのか, 自然の分娩経過にどのような影響を及ぼすのか, あるいは担当産科医の分娩管理にどのように影響を及ぼすのかを考慮し, 家族, 産科医, 新生児科医, 助産師など妊婦を取り巻く人々と良好なコミュニケーションをとりながら, 妊婦にいかに安全で快適な環境を提供できるかを考えていく必要がある. そのためには産科麻酔科医というサブスペシャルティーの確立が望まれる.
著者
柴田 ゆうか 河本 昌志 木平 健治
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.523-530, 2014 (Released:2014-09-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

手術室薬剤師業務は事故防止と薬品適正管理の観点から始まり,薬剤師の一元管理による薬品管理強化に貢献した.しかし薬物療法の適正使用への貢献において薬剤師の専門性が遺憾なく発揮されているとは言い難い.また多くの病院で薬剤師が充足しているとはいえない状況があり,いまだ手術室への薬剤師配置ができないところもある.手術室における薬剤師の参画を進展するためには,周術期医療における薬剤師業務の指針の作成や診療報酬上のインセンティブなど手術室への薬剤師配置のための環境整備が今後の課題である.
著者
佐藤 紀 宮部 雅幸 川真田 樹人 中江 裕里 表 圭一 並木 昭義
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.15, no.9, pp.616-619, 1995-11-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
6

咽喉頭全摘出術患者10名にリドカインを用いて頸部硬膜外麻酔を施行し,反復投与による血漿リドカイン濃度の推移を検討した.笑気酸素-セボフルランを用いた全身麻酔下で,初回に20万倍エピネフリン添加2%リドカイン3mg/kgを投与し,1時間後より1時間ごとに20万倍エピネフリン添加1.5%リドカインを循環動態に応じて1~2mg/kg追加投与した.初回投与後,血漿リドカイン濃度は15分でピークに達し,追加投与直前の1時間後に最低となった.初回投与3.5時間後に2.6±0.6 (SD) μg/mlに達した後は,およそこの血漿中濃度で安定した.長時間にわたる頸部手術における頸部硬膜外麻酔併用全身麻酔では,安全なリドカイン血漿濃度を維持できることが示された.
著者
藤本 淳 木田 景子 宇野 太啓 池邊 晴美 谷口 一男 野口 隆之
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.400-403, 1999-07-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
11

貼付用リドカインテープ(ペンレス®)は,患者に疼痛を与えない局所麻酔を目的として開発されたテープ剤である.今回,健康成人ボランティア20人を対象として,リドカインテープによる表在痛及び深部痛の疼痛閾値の変化を測定し,プラセボと比較して評価した.表在痛の疼痛閾値はリドカインテープ群がプラセボ群に比較して有意な上昇を示したが,深部痛では両群間に有意差はみられなかった.リドカインテープは表在痛に対して有効であり,使用法が簡便であることや患者の苦痛を伴わないことから有用な鎮痛法であると思われた.一方,深部痛に対しては有効性は認められなかったが,貼付法•貼付時間の点からさらに検討の必要があると思われた.
著者
松木 明知
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.427-440, 2005

&nbsp; 華岡青洲 (1760~1835) は江戸時代後期の医師であるが, 1804年に麻沸散を用いて, 世界で初めて全身麻酔を行ったことで広く知られている. しかし青洲自身記録や著書を書かなかったため, 多くのことが謎として未解決のまま残されている. 例えば彼の末娘の名前や生没年はまったくわからなかった.<br>&nbsp; 著者は青洲と同じ麻沸散を作り, 動物実験を繰り返し, 麻沸散開発の経緯を明らかにした. また華岡家の菩提寺であった地蔵寺の過去帳を発見して, 青洲のこれまで知られていなかった兄弟, 子女の名前や没年を明らかにした. 青洲の思想 「内外合一活物窮理」 は現代の医学においても通用する.
著者
木山 秀哉
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.375-386, 2008 (Released:2008-06-07)
参考文献数
23

長時間持続投与してもcontext-sensitive half-timeが延長しない独特の薬物動態学的特徴を有するレミフェンタニルは, 術後の呼吸抑制を懸念することなく高いオピオイド濃度を維持する麻酔を可能にした. 併用する就眠鎮静薬や筋弛緩薬の必要量が減るなど, バランス麻酔の概念が変化している. 術中の循環動態の安定と, 麻酔終了時の迅速な自発呼吸回復が得られる利点がある. 一方, 筋強直や声門閉鎖に起因する換気困難, 鎮静薬の過少投与による術中覚醒を防ぐことが重要になる. 局所麻酔, 長時間作用性オピオイド, ケタミン等を適切に組み合わせることで, 術後鎮痛への円滑な移行と術後痛覚過敏の防止を図る. 静脈麻酔を安全に行ううえで, チェックリストの使用を推奨する.
著者
伊藤 志保 藤原 淳 趙 崇至
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.096-100, 2013 (Released:2013-03-12)
参考文献数
7
被引用文献数
1

頚部悪性腫瘍の気管浸潤や,頚部膿瘍,急性喉頭蓋炎による呼吸困難に対して,ECMO補助下に気管切開術の麻酔管理を安全に行った.高度気道狭窄を伴う症例の全身麻酔下での気管切開術は,麻酔導入時に容易に気道閉塞を起こす可能性がある.このため,慎重な気道確保が必要であり可能な場合はECMO補助下での気道確保を考慮すべきであると考える.
著者
佐藤 裕
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.598-605, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
6

本稿で取り上げる神経ブロックは,腰神経叢の主要分枝をブロックすることで下肢の手術麻酔および術後鎮痛,ペインクリニックに頻用される代表的なものである.まず腰神経叢の解剖を概説し,次いで各神経ブロックの手技のポイントを述べる.
著者
新井 達潤
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.395-406, 2004 (Released:2005-05-27)
参考文献数
45

科学的観点に立った心肺蘇生法(CPR)の開発は1900年代に入ってから始まり, 現在実施されている心肺蘇生法の基本骨格は1960年頃には完成した. 米国心臓協会(AHA)はこれらを総合し, 1974年に最初の心肺蘇生法ガイドラインを出版した. その後絶えず改善を重ね, 2000年には第5版(G2000)を出版した. G2000は蘇生に関する世界的協議会ILCOR(International Liaison Committee On Resuscitation)との緊密な連携のもとに作られたもので, 蘇生における世界的ガイドラインと考えて矛盾はない. AHAのガイドラインはヒトでの有効性が科学的に証明されたもののみを採用し, とくにG2000はEvidence-based medicineの立場を強調している. しかし, 必ずしも科学的には証明できないまま経験的有効性から採り入れられている部分もあり, また, 一般市民をも対象とするため妥協せざるを得ない部分もみられる. 本稿では現在のG2000を基準とした心肺蘇生法が, どのような考えのもとに作られ発展してきたか, また, どのような問題点を含んでいるのか, とくに作用機序の面から考察する.
著者
赤石 敏 小圷 知明 黒澤 伸 佐藤 大三 加藤 正人
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.1008-1019, 2011 (Released:2011-12-13)
参考文献数
19
被引用文献数
1

脊髄くも膜下麻酔後に高位胸髄レベルの対麻痺が発生する医療事故が1960年代以降,日本でも少なくとも数十例発生している.一般的にTh9~10に入ることが多いAdamkiewicz動脈(大根動脈;arteria radicularis magna)は日本人の約0.5%の頻度で脊髄くも膜下麻酔が施行されるL3~5から脊髄に入ってくる.くも膜下腔に穿刺針を深く刺し過ぎると,馬尾神経損傷以外に,この動脈を損傷して不可逆的な高位対麻痺が発生する危険性がある.これを回避する最も重要なポイントは,必要以上に深く穿刺針をくも膜下腔に挿入しないことであると思われる.脊髄くも膜下麻酔を施行するすべての医師はこのことを常に念頭に置いておく必要がある.
著者
今泉 均 角田 一眞 渡辺 明彦 升田 好樹
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.343-347, 1988-07-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
12

虚血性心疾患の既往のない, 69歳男性の腹部大動脈瘤破裂の緊急手術前に, 中心静脈カテーテル挿入のため右内頸静脈穿刺時, 突然STの上昇と共に徐脈, 血圧低下を認めた. 腹部大動脈瘤患者では高率に冠動脈疾患を合併することから, 冠動脈硬化による冠動脈血管の tonus の亢進した状態下に, 中心静脈穿刺時の迷走神経刺激が誘因となって冠動脈スパズムが発生したものと考えられた.明らかな虚血性心疾患の既往がなくても全身的に高度な動脈硬化性疾患を有する患者の麻酔管理においては, 冠動脈硬化病変の存在並びに冠動脈血管の tonus の亢進によって, 冠スパズムや重症な不整脈の発生し易いことを十分に念頭におくべきである.