著者
新谷 知久 成松 英智 並木 昭義
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.858-864, 2008-09-12 (Released:2008-10-17)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ロクロニウムは静脈内投与した後ほとんど代謝されずに速やかに肝臓に取り込まれ, 大半は胆汁中に, 一部が腎から尿中に排泄される. 腎機能が低下した患者においては, ロクロニウムの作用持続時間は変わらないとする報告や延長するという報告があり一定の結論が得られていない. 一方, 肝機能が低下した患者では作用持続時間は延長すると報告されている. また, 肝移植術の際に移植肝が正常に機能しなかった患者において, ロクロニウムの血漿濃度上昇や, 筋弛緩効果からの回復時間遅延を認めたとの報告がある. 肝・腎機能に障害をもつ患者や移植術においてロクロニウムを使用する際には, 筋弛緩モニターを行い慎重に投与量を調節して管理する必要がある.
著者
若松 弘也 山田 健介 勝田 哲史 白源 清貴 松本 聡 松本 美志也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.347-353, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

2015年10月に発表されたJRC蘇生ガイドライン2015における一次救命処置の推奨は次の通りである.胸骨圧迫のテンポは,100〜120回/分を推奨する.胸骨圧迫の深さは,6cmを超える過剰な圧迫を避けつつ,約5cmの深さで行うことを推奨する.CPR中の胸骨圧迫の中断は最小限とし,胸骨圧迫比率をできるだけ高くして,少なくとも60%とすることを提案する.心停止の疑いのある人の近くにいる,意思がありCPRを実施できる人に,ソーシャルメディアなどのテクノロジーを用いて情報提供することを提案する.JRC蘇生ガイドライン2015で強調されている胸骨圧迫の重要性は,ガイドライン2005,2010から引き継がれている.
著者
小板橋 俊哉
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.441-447, 2016-07-15 (Released:2016-09-10)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

プロポフォールが本邦で使用されるようになってから20年近くが経過している.本稿では,プロポフォール麻酔の基本について概説する.プロポフォールの効果部位濃度と血中濃度の違いや薬物動態学,薬力学についての基本的知識は必要である.また,薬物動態学的多様性と薬力学的多様性も考慮しなければならない.特に,年齢による変化や肥満患者への対応は実臨床において必須の知識である.一方,TCIポンプに表示される濃度はあくまで予測濃度であり,絶対値にこだわらないことも重要である.プロポフォールの効果を判定する際に,濃度を補完するツールとしてBISモニタなどの脳波モニタは有用である.
著者
吉田 敬之
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.308-313, 2020-05-15 (Released:2020-06-26)
参考文献数
20

最も多くの研究が行われている体幹部の持続末梢神経ブロックは,胸部傍脊椎ブロックであろう.開胸術において,持続胸部傍脊椎ブロックは持続胸部硬膜外ブロックと同等の鎮痛を提供し,副作用は硬膜外ブロックより少ない.最近は,胸部傍脊椎ブロックのアプローチや局所麻酔薬の投与様式を工夫することで,さらに鎮痛効果を高められることがわかってきた.腹部体幹の持続末梢神経ブロックでは,腹横筋膜面ブロックに関する前向き比較研究が複数ある.持続腹横筋膜面ブロックは下腹部開腹術後のオピオイド使用量を有意に減らす.持続腹横筋膜面ブロックの課題の一つは遮断範囲の狭さであり,それを改善するための試みがいくつか行われている.
著者
小坂 義弘
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.169-174, 2010-01-15 (Released:2010-02-19)
参考文献数
1

硬膜外麻酔を安全・確実に施行する秘訣は, 施行時の注意点をよく守り, 確実に硬膜外腔に針先やカテーテルを挿入して, 局所麻酔薬の適当量を上手に注入することである. その後は, 患者のそばを離れず, しばらくの間, 患者の呼吸・循環の監視を怠らないことである. 懸滴法以外の硬膜外腔確認方法では, 信頼性が低いと思って対応すべきで, 外来でのブロックでは特に注意が必要である. 全身麻酔に併用する場合には, 意識下に硬膜外腔穿刺を行って, カテーテルを挿入し, 2~3mlのテストドーズを投与して, 脊髄くも膜下麻酔になっていないことを確認して導入する. カテーテルを挿入したけれど, テストもしないで全身麻酔を始めた場合には, くも膜下腔にカテーテルが挿入されているかもしれないと思って管理すべきである.
著者
坊木 香寿美 吉田 朱里 川股 知之
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.42-46, 2021-01-15 (Released:2021-02-19)
参考文献数
10

症例は75歳男性で,胸腔鏡下肺切除手術が予定された.Th7-8より硬膜外カテーテルを留置し,アドレナリン添加2%リドカイン3mLを投与,冷覚低下を確認後に全身麻酔を行った.手術開始前,終了前に0.25%レボブピバカイン計8mLを単回投与するとともに,術中はフェンタニル添加0.125%レボブピバカインを5mL/hで持続投与した.手術終了後Th5-6以下で広範囲な知覚・運動麻痺を認めた.麻酔薬の持続投与を中止し,硬膜外カテーテルから造影剤を投与したところ,脊椎後側に8椎体にわたって広がる線状陰影を認め,硬膜下腔への留置が疑われた.投与中止約6時間30分後に知覚・運動麻痺は消失し,その後合併症なく退院した.
著者
萩平 哲
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.79-87, 2004 (Released:2005-03-31)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

近年BISモニターなどの脳波(EEG)モニターが普及しつつあるが, 残念ながら現状では適切に使用されているとはいえない. これは麻酔中の脳波に対する基本的な知識の欠如によると考えられる. 本稿では脳波モニターを適切に使用するための基本的な知識を整理し, どのような戦略を用いれば麻酔中の脳波から必要な情報が得られるかについて解説した. 麻酔中の脳波には麻酔薬の作用だけでなく手術刺激の影響やそれを抑制する鎮痛薬の効果も反映されるため, このことを念頭におかなければ脳波モニターを活用することは困難である. またBIS値を含めた脳波パラメータによる判定には限界があるため, 必要に応じて脳波波形で判断することも大切である.
著者
中川 博文 東 俊晴 松原 由紀 白石 成二 中尾 正和 山崎 京子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.334-338, 2008 (Released:2008-04-16)
参考文献数
10

厚生労働省の 「輸血療法の実施に関する指針」 が2005年9月に改定された後, AB型患者の大量出血に対して異型適合血輸血を考慮した2症例を経験した. 緊急輸血に携わる医療従事者は, 異型適合血輸血の適応に関する認識を新たにするとともに, 危機的出血に際して迅速に適合血の選択を確認できるよう小冊子を配置し, 定期的な勉強会を開催するなど, 速やかな緊急輸血実施のための院内体制の整備に努める必要があると考えられた.
著者
末竹 荘八郎 渡邊 至
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.305-307, 2016-05-14 (Released:2016-07-07)
参考文献数
5

抜管後,患者の訴えに基づき気道で発見された脱落歯牙を,McGRATHTM MAC(以下,McGRATH)とSUZY鉗子を用いて安全に摘出し得た症例を経験した.McGRATHはビデオ喉頭鏡の一つとして近年急速に普及しており,従来の喉頭鏡に比べ低侵襲で,特に困難気道での有効性が確認されている.SUZY鉗子はMcGRATH専用の湾曲型異物除去鉗子であり,McGRATHとSUZY鉗子の組み合わせは迅速かつ安全な気道異物除去法の一つであると考えられた.
著者
中村 秀文
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.789-796, 2009-11-13 (Released:2009-12-17)
参考文献数
6

適切な薬物投与のためには, 薬物動態・薬力学が臨床試験により評価され, 至適投与量が決定されていなければならない. 子どもはダイナミックな発達の過程を経るために, その薬物動態・薬力学も成人とは異なることが知られている. 現在の科学水準では過去のほかの薬のデータに頼って適切な薬物投与設計を行うことは困難であり, 個々の医薬品について必要な年齢で臨床試験を行い, 薬物動態と薬力学の評価をしなくてはならない. 残念ながら国内で小児治験がなかなか行われないために, わが国の添付文書には, 小児についての記載が不十分なものが多い. 今後わが国でも, 小児の治験環境づくりを, 学会・行政・製薬企業が連携して進めていく必要がある.
著者
小林 康夫 吉川 修身
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.294-299, 2009-05-15 (Released:2009-06-18)
参考文献数
22

右肩関節制動術予定患者に全身麻酔下に神経刺激装置を用いて斜角筋間ブロックを行った. 途中, 首を左右に振る動きがあった以外に異常筋収縮はなかった. ブロック直後に両側瞳孔散大を伴う血圧低下をきたしたため, 全脊麻と判断し急速輸液と昇圧薬投与で対処した. 術後の意識および自発呼吸の回復は速やかで右上肢以外に麻痺を認めなかったが, 翌朝になっても右上肢麻痺が回復せず左上肢のしびれも訴えた. 頸髄MRIではC2~7に右側優位のT2高信号病変を認め, 梗塞性脊髄損傷が疑われた. 斜角筋間ブロックは, 短い針を用い尾側に明確に傾けるなど椎間孔に進入させない工夫が必要で, 神経刺激法を用いても全身麻酔下には行わない方が安全である.
著者
田和 聖子 内本 亮吾 藤田 文彦 北 仁志
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.600-605, 2018

<p>全身麻酔の覚醒時に,患者が夢を見ていたと発言することがあるが,その頻度と内容を,アンケート方式により調べた.夢を見ていたと言えるには,まず夢を見ることとそれを思い出すことが必要になる.夢を見た人は23%で,その中には内容を思い出せる人と,夢は見たが内容は思い出せない人がいた.夢を見た群は見ない群に比べ平均年齢が約10歳若かった.夢を見た群の3人と見ない群5人の脳CT(またはMRI)を計測すると,見た群では脳萎縮が少ない傾向だった.また,思い出せた夢の内容は94%が普通の夢だった.</p>
著者
小板橋 俊哉
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.455-466, 2009-07-15 (Released:2009-08-10)
参考文献数
31
被引用文献数
5 6

レミフェンタニル麻酔がストレス反応を抑制する可能性が報告されている. 一方で, レミフェンタニルに関連するいくつかの問題点が指摘されている. 導入時の徐脈は0.5μg/kg/minで投与すると20%に生じた. アトロピンの併用やレミフェンタニルの減量が有効である. シバリングには非体温調節性因子も関与している. 急性耐性や痛覚過敏については現在も研究が続いており賛否両論である. 循環抑制以外の問題点は, レミフェンタニルの急激な作用消失に起因する可能性があることから, transitional opioidが重要となる. 具体的には, モルヒネ0.15mg/kg, あるいはフェンタニル200~300μgを投与する.
著者
長田 理
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.572-578, 2007 (Released:2007-10-06)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

レミフェンタニルの特徴は, 蓄積性がなく調節性が良いことである. しかし, 副作用として, 低血圧, 徐脈の頻度が高く, オピオイドに特徴的な筋硬直が時としてみられる. また, レミフェンタニルの効果が速やかに消失することにより, 時として嘔吐を伴うほどの激しい疼痛が術直後から出現し, 麻酔中の体温低下による悪寒やシバリングが強く表れるという不利な面もある. このため, レミフェンタニルの鎮痛効果が消失する前に神経ブロック, 他の中長時間作用性オピオイドやNSAIDsなどを用いて十分な術後痛対策を行うとともに, 体温管理を積極的に行うことが重要である.
著者
中村 京一 田中 美千裕 高橋 幸雄 佐藤 幸子 照屋 愛 乙咩 公通
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.402-407, 2014 (Released:2014-06-17)
参考文献数
4

頚動脈ステント留置術carotid artery stentingでは,percutaneous transluminal angioplasty(PTA)に伴う頚動脈洞反射によって,心静止,徐脈,低血圧が誘発される.当院では,全身麻酔下に施行し,ステントを十分に開大させる方針をとっているため,留置ステントを拡張させて頚動脈内腔に適合させる留置後拡張術(Post-PTA)で頚動脈洞が強く刺激され,高頻度に反射が発生した.この反射を予防するため,Post-PTAの直前に予防的にアトロピンを投与するプロトコールを作成した.その結果,プロトコール施行前後で,徐脈(前100%,後9.8%),低血圧(前100%,後9.8%),体表ペーシング作動(前40%,後0%)の発生頻度が著しく減少した.本プロトコールによって,頚動脈反射に伴う徐脈,低血圧を効果的に予防できた.
著者
田中 義文 橋本 悟 夏山 卓 重見 研司 木下 隆 智原 栄一 TAKIZAWA Yousuke
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.312-318, 1988

アナログデータレコーダーは, 心電図を含め生体信号を長時間連続記録でき, その再現が容易であるために臨床生理学的分野には欠かせない汎用計測機器である. しかしながら装置も大きくまた高価であるために手術室で日常利用する機会は少ない. そこでわれわれは汎用集積回路を用いて可聴域のFM変調と復調のアダプターを試作し, 市販のカセットテープレコーダーをもちいた心電図記録装置を開発し, その性能について検討した. 最も単純な回路構成でもDCレベルより20Hzまでの直線性を得ることができ, その心電図記録は十分実用になることが明らかになった. 安価な本装置を個々の心電図モニタースコープに装着すればテープレコーダーをフライトレコーダーやタコグラフのごとく利用することができ, 突発的な不整脈や循環虚脱に対しても確実な記録ができるゆえ医療技術の向上に役立つと考えられる.
著者
岩崎 寛
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.446-451, 2010 (Released:2010-09-15)
参考文献数
25

1942年に非脱分極性筋弛緩薬クラーレが臨床に用いられてから,脱分極性筋弛緩薬の迅速な筋弛緩効果発現に近づく安全な非脱分極性筋弛緩薬の開発が待たれていた.2007年,日本で効果発現が迅速な非脱分極性筋弛緩薬ロクロニウムの臨床使用が可能となった.このロクロニウムは欧米各国ではすでに1990年代前半から使用開始されている筋弛緩薬である.日本で最も使用頻度の高いベクロニウムと類似するステロイド系筋弛緩薬であるが,力価はベクロニウムの約1/6と低いが効果発現はベクロニウムと比較して迅速であることが特徴である.したがって,通常の気管挿管ばかりでなく迅速気管挿管において脱分極性筋弛緩薬にとって代わる可能性が期待されている.一方,ロクロニウムは体内でほとんど代謝されず,血漿中にきわめて少量検出される代謝産物の筋弛緩作用もほとんど認めず,長時間投与にも問題ないとされる.短時間効果発現と蓄積性を有さない非脱分極性筋弛緩薬ロクロニウムの特徴をこれまで広く用いられてきた筋弛緩薬ベクロニウムおよびスキサメトニウム(SCC)と臨床的に比較し,ロクロニウムの特徴を気管挿管,麻酔維持,そして拮抗について解説する.
著者
大友 重明 国沢 卓之 笹川 智貴
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.702-707, 2009-09-15 (Released:2009-10-30)
参考文献数
10

術中・術後における下肢の鎮痛に関しては, 従来硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔が主体であった. しかし近年, 整形外科領域では, 肺血栓塞栓症発生予防のために, 周術期に抗凝固療法が併用される症例が増えており, 硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔の代替手段として下肢末梢神経ブロックを利用する機会が増えている. また, 下肢末梢神経ブロックを利用することで, 持続硬膜外鎮痛法における硬膜外膿瘍の危険を避けることができ, 高齢者や心・血管系に合併症をもつハイリスク患者に対しても大きな循環変動をきたすことなく安全に鎮痛が可能である. 整形外科領域におけるロピバカインを使用した末梢神経ブロックについて臨床的に概説する.
著者
河野 崇
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.50-56, 2020-01-15 (Released:2020-02-19)
参考文献数
11

術後せん妄は,手術を契機に発症する一過性の精神・認知障害である.術後せん妄の発症は,特に高齢者において,その後の認知症発症リスクを増大させることが示されている.術後せん妄における認知症状の病態機序には,脳内神経炎症が重要な役割を果たすことが示唆されているが,現時点で特異的な治療法はない.一方,これまでの臨床研究では,入院時せん妄の30〜40%は,集学的アプローチにより予防しうることが報告されている.その中で,区域麻酔の使用は,優れた鎮痛効果および全身麻酔の回避といった観点から,術後せん妄の予防に対して特に有効である可能性がある.本稿では,術後せん妄の現状,およびその予防法としての区域麻酔の役割について概説する.