著者
稲垣 直樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.1, pp.22-27, 2008 (Released:2008-01-11)
参考文献数
30

近年,アレルギー疾患患者の数は増加の一途をたどっており,アレルギーを克服するためのより確実な戦略の構築が望まれている.自然免疫の機構についての解析が飛躍的に進み,微生物産物を認識する受容体および細胞内シグナル伝達経路が明らかになってきた.自然免疫の機構は獲得免疫の誘導にも役割を演じることから,アレルギー克服の手がかりが得られる可能性を有する.アレルギー疾患は背景にTh2細胞優位なTh1/Th2バランスを有するとされており,バランスを矯正することがアレルギー克服につながると考えられる.また,制御性T細胞の誘導あるいは移入が免疫応答の過剰発現であるアレルギーの制御に有用であると推定される.アレルギーの発症,進展,増悪には種々の遺伝因子が関与するが,遺伝因子の発現制御もアレルギー克服に役立つと思われる.一方,強力なアレルギー性炎症抑制効果を発揮するステロイドなど,既存の薬物の効果的な使用方法も検討されている.
著者
今村 武史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.4, pp.225-228, 2010-10-01
参考文献数
8

メタボリック症候群や糖尿病の成因・増悪因子と考えられるインスリン抵抗性は,インスリン作用の中でも特に,血糖降下作用の障害を主徴とする.血液中の糖は細胞内に取り込まれることによって減少することから,インスリン抵抗性の機序は最終的に,細胞内への糖取り込みというインスリン作用の障害に帰結されると言える.脂肪細胞などのインスリン標的細胞を用いたインスリン依存性糖輸送の分子機構は,これまで数多くの研究報告が蓄積され,全体像が次第に明らかとなってきた.これらの細胞ではインスリン刺激に反応して,糖輸送体タンパク質GLUT4に特異的な小胞が細胞膜表面へ輸送され,GLUT4タンパク質が細胞膜表面へ発現することによってはじめて細胞内への糖取り込みが可能となる.このインスリン依存性糖輸送のステップは,糖代謝におけるインスリン作用の律速段階であり,GLUT4タンパク質の細胞膜発現量はインスリン抵抗性の程度と逆相関することが知られている.つまり,GLUT4輸送に対するインスリン作用機構を理解することは,細胞レベルでのインスリン抵抗性機序の解明につながるものと考えられる.一方で,これまで糖輸送体GLUT4に関する多種多様な実験法が報告されてきたため,各実験結果によって示される範囲が曖昧になりやすく,目的を得るのに適した実験法の取捨選択に戸惑うところでもある.この稿では,糖輸送に関する細胞内インスリン作用の解析を行うための種々の実験法を紹介し,相違点とその長短を概説した.
著者
久場 敬司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.3, pp.94-99, 2018 (Released:2018-03-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

心不全のシグナル伝達における転写,エピゲノムなどmRNA合成の制御機構について多くの知見が蓄積されてきた一方で,mRNA分解などmRNA代謝制御の解析は未だ十分とはいえない.CCR4-NOT複合体は酵母からヒトまで保存されたタンパク質複合体であり,遺伝子発現調節因子として転写調節,mRNA分解,タンパク質修飾など多彩な機能を持つ.近年,CCR4-NOTが発生,細胞分化や癌,炎症に寄与することが報告されているが,私達はCCR4-NOT複合体を新規の心機能調節因子として単離した.最近CCR4-NOT複合体のmRNA poly(A)鎖の分解活性が心臓の恒常性維持に重要であることを解明し,RNA分解の新しい生物学的意義を見出した.Cnot3はAtg7 mRNAに結合し,mRNAポリA鎖の分解,翻訳抑制を介してp53誘導性の心筋細胞死を阻止する.興味深いことに,poly(A)鎖の分解不全の状態では,Atg7がp53と結合し核内で協調的にp53標的の細胞死遺伝子の発現を誘導することが分かった.さらに,mRNAの分解を介したエネルギー代謝制御によっても心筋の恒常性維持に寄与することも明らかになりつつある.mRNAのpoly(A)鎖分解は,心臓のエネルギー代謝,細胞死のコントロールなど心機能調節にかかわる遺伝子発現制御の新たな制御相であることが考えられた.
著者
東海林 徹 桜田 忍 木皿 憲佐
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.11-18, 1975 (Released:2007-03-29)
参考文献数
20
被引用文献数
2

Metaraminol(MA)脳内投与によるマウスの行動変化について検討を加え,次のような成績が得られた.1)MA脳内投与によって光束法およびopen-field testでとらえた自発運動量は投与直後に増加,後,減少するという2相性を示した,2)MA160μg脳内投与30分後,脳内CAに変動は認められなかったが,6時間後,脳内CAの著明な減少が認められた.3)Reserpineおよび6-hydroxydopamine(6-OHDA)による自発運動量減少作用に対してMAは拮抗した.この拮抗はreserpine処理群に対してよりも,6-OHDA処理群に対しての方が強かった.4)Reserpineによるptosis,catalepsyに対してMAは拮抗作用を示した.5)MA投与6時間後に抗methalnphetamine作用が認められた.
著者
田上 昭人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.189-196, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
18

ヒトゲノム計画の進展により,診断から薬の創薬まですべての過程は大きく影響を受け,近い将来には“ありふれた病気”に対しても患者の遺伝的体質に合わせた処方,治療が可能となる.このゲノム情報・技術をもとに患者各人に個別至適化した“テーラーメイド医療”を現実化するために,薬理ゲノミックスは,有用となる.薬理ゲノミックスの具体的方法論としてsingle nucleotide polymorphism (SNP,一塩基多型),特に,薬物応答性に関する遺伝子のSNPが重要となり,その解析法が開発されつつある.現在,SNP解析に用いられている高感度・高速度の解析法について紹介する.
著者
中田 裕康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.1, pp.4-8, 2007 (Released:2007-07-13)
参考文献数
27

GPCR型プリン受容体のサブタイプの一種であるA1アデノシン受容体の精製の際,アデノシン受容体とP2受容体の特異性を併せ持つハイブリッド的タンパク質(P3LP)を見出しましたが,これが私のGPCRダイマーの研究に携わるきっかけでした.P3LPの特性を再現すべくアデノシン受容体とP2受容体のヘテロダイマーを培養細胞や組織を用いて発現させて解析したところ,いろいろ面白いことがわかってきたのです.また,その他のプリン受容体でもダイマー,もしくはオリゴマーの形成が観察されました.このようにGPCR型のプリン受容体間のダイマー形成はさまざまな様式で受容体の活性調節をつかさどることが示唆されます.
著者
尾崎 茂 和田 清
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.42-48, 2001-01-01
被引用文献数
5

動因喪失症候群(amotivational syndrome)は, 有機溶剤や大麻等の精神作用物質使用によりもたらされる慢性的な精神症状群で, 能動性低下, 内向性, 無関心, 感情の平板化, 集中持続の因難, 意欲の低下, 無為, 記憶障害などを主な症状とする人格·情動·認知における遷延性の障害と考えられている.1960年代に, 動因喪失症候群は長期にわたる大麻使用者における慢性的な精神症状として報告された.その後, 精神分裂病の陰性症状, うつ病, 精神作用物質の離脱症候などとの鑑別が問題とされ, 定義の曖昧さを指摘する意見もあるが, 現時点では臨床概念として概ね受ケ入れられつつある.その後, 有機溶剤使用者においても同様の病態が指摘されるとともに, 覚せい剤, 市販鎮咳薬などの使用によっても同様の状態が引き起こされるとの臨床報告が続き, 特定の物質に限定されない共通の病態と考える立場がみられつつある.また, 精神作用物質使用の長期使用後のみならず, かなら早期に一部の症状が出現することを示唆する報告もある.1980年代より, X線CTなどを用いた有機溶剤慢性使用者における脳の器質的障害の検討によって, 大脳皮質の萎縮などが指摘されてきた.最近は, 神経心理学的手法, MRI, SPECTといった形態学的あるいは機能的画像解析などを用いて, 動因喪失症候群の病態をより詳細に解明しようとの試みがなされつつある.それによれば, 動因喪失症候群にみられる認知機能障害の一部には, 大脳白質の障害が関連し, 能動性·自発性低下には前頭葉機能の低下(hypofrontality)が関連している可能性が示唆されている.これについては, 動因喪失症候群の概念規定をあらためて厳密に検討するとともに多くの症例で臨床知見を重ねる必要がある.治療については今のところ決め手となるものはなく, 対症的な薬物療法が治療の中心である.賦活系の抗精神病薬や抗うつ薬を中心に投与しつつ, 精神療法や作用療法を適宜導入して, 長期的な見通しのもとに治療にあたることが求められる.
著者
仁木 一郎 金子 雪子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.214-218, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
17
被引用文献数
2

膵B細胞からのインスリン分泌における大きな特徴のひとつとして,多様な栄養物質によるインスリン分泌の調節をあげることができる.私たちは,様々な分泌刺激による膵B細胞からのインスリン分泌が,含硫アミノ酸であるL-システインによって強力に抑えられることを見いだした(Kaneko, et al. Diabetes. 2006).L-システインが膵B細胞に与えるインスリン分泌抑制・グルコース代謝阻害・グルコースによる細胞内Ca2+オシレーション抑制などの作用は,硫化水素(H2S)ドナーであるNaHSによっても再現される.H2Sは,古くから自然界に存在する有毒ガスとして知られてきたが,最近の研究により様々な細胞においてシグナル伝達をおこなう可能性が示されており,一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)に次ぐ第3のガス性シグナル伝達分子と目されている.私たちは,L-システインが代謝されて生じたH2Sが,膵B細胞でインスリン分泌抑制以外の細胞機能をも調節しているのではないか,と考えている.L-システインなどの含硫アミノ酸の血中レベルは,糖尿病や動脈硬化など,一部の生活習慣病で異常値を示すことが臨床研究で明らかにされている.これらの結果は,生活習慣病で見られるインスリン分泌障害が,L-システインやその代謝産物であるH2Sによる可能性を示唆している.この総説では,シグナル分子としてのH2Sに関するこれまでの研究を振り返るとともに,膵B細胞におけるL-システインおよびH2Sによるインスリン分泌抑制が持つ意義について,私たちの考えるところを述べた.
著者
坂本 謙司 森 麻美 中原 努 石井 邦雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.1, pp.22-26, 2011-01-01
参考文献数
84

網膜色素変性症は中途失明の3大原因の1つであり,本邦では緑内障,糖尿病網膜症に続いて中途失明原因の第3位を占めている.網膜色素変性症の原因は遺伝子の変異であり,常染色体劣性遺伝型を示すことが多い.網膜色素変性症の患者においては,網膜の視細胞および色素上皮細胞の広範な変性が認められ,自覚症状としては,初期には夜盲と視野狭窄が,症状が進行し40歳を過ぎた頃から社会的失明(矯正視力約0.1以下)に至る.しかし,本症の進行には個人差が大きく,中には生涯良好な視力を保つ患者も存在する.現在,人工網膜,網膜再生,遺伝子治療および視細胞保護治療などに関する研究が進められているが,本症の治療法は全く確立されていない.本総説では,代表的な網膜色素変性症の原因遺伝子と,それらに対応する動物モデルを概説し,さらにそれらの動物モデルを用いて得られた新たな治療法の開発の現状について紹介する.
著者
米田 幸雄 荻田 喜代一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.45-57, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

In eukaryotes, protein de novo synthesis is mainly controlled at the level of gene transcription by transcription factors in cell nuclei. Transcription factors are nuclear proteins with abilities to recognize particular nucleotide sequences at promoter or enhancer regions on double stranded DNAs, followed by modulation of transcription of their inducible target genes. These transcription factors are categorized into 3 different major classes according to their unique protein motifs. In this article, we have outlined the signal responsiveness of particular transcription factors in the brain. Indeed, nuclear transcription factors rapidly respond to a variety of extracellular signals carried by neurotransmitters, hormones and autacoids as a third messenger in frequent situations. Moreover, delayed neuronal death could involve mechanisms associated with modulation of de novo synthesis of target proteins by the transcription factor activator protein-1 in particular hippocampal subregions after ischemia. Accordingly, it thus appears that transcription factors may play a critical role in long-lasting consolidation of transient signals through modulation of de novo synthesis of inducible target proteins in the brain.
著者
府川 和永 伊藤 義彦 三崎 則幸 野村 聡子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.307-315, 1975 (Released:2007-03-29)
参考文献数
10
被引用文献数
5 2

静脈注射剤投与による血栓性静脈炎の発生予測を行うための試験法を考案し,その病態モデルについて2,3の検討を加えた.実験はウサギ耳介後静脈を用い,血栓性静脈炎発生方法として,検体を単に静脈注射する方法(静注法),血管局所に検体を一定時間貯溜させる方法(貯溜法)の2法について検討した.その結果,静注法では,血栓性静脈炎の発生は認められたが,その発生率は低く,検出率を高めるためには実験例数の増大や大量投与の必要があり,被験薬によっては中毒量に至るような不都合が生ずるため試験法として適さないと考えられた.貯溜法では,少量(0.05ml)の検体を毎日3分間血血局所に貯溜させることY:.より,高率に血栓牲静脈炎の発生がみられ,その病像は組織学的にも静脈注射後のヒト血栓性静脈炎像に酷似することを確認した.また,この方法を用いた数種の薬剤の血栓発生率や炎症強度は臨床統計資料と相関関係を示すことが認められた.さらに,貯溜法において短時間内に反復処置することにより血栓発生率が増大し,その効果は静注法における検体容量効果と相関関係を示すことを見い出した.このことにより,一定容量の検体を処置する貯溜法によっても,臨床上注射容量の異なる検体の発生頻度予想を可能とした.なお,これらの血栓性静脈炎の発生において,血栓は注射針挿入により損傷をうけた血管内壁と刺激性検体の接触が,炎症症状の発現には血管壁およびその周囲組織への刺激性検体の拡散がそれぞれ主要因となることを考察した.したがって,この貯溜法は静脈用注射剤の血栓性静脈炎試験法として適しており,この方法によって臨床上わずか0.04%程度の発生をも予測しうることを見い出した.
著者
林 元英
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.205-214, 1977
被引用文献数
2 33

生薬紫根の薬理学的研究の一環として,その代表的製剤である紫雲膏の炎症反応に対する影響を,紫根ならびに当帰工一テルエキス軟膏の局所適用と比較検討した.紫根エキスはhistamine, bromelain, bradykininおよび抗ラット・ウサギ血清によって惹起した血管透過性充進を明らかに抑制した.抗ラット・ウサギ血清および熱刺激による浮腫に対しても有意な抑制作用を示し,紫外線照射ならびに熱刺激による局所皮膚温の上昇をも抑制した.創傷治癒に対しては創傷部の牽引法および面積法の両方法において明らかな治癒促進効果を示した.紫根エキスによるこれらの作用は0.2~0.1%濃度が最も強力で,それより上下の濃度になるにつれて効果は減弱した.当帰エキスは血管透過性充進を軽度抑制し,濃度の高い程作用も強く,急性浮腫に対しては0.04%濃度軟膏のみに抑制作用が認められた.しかし炎症性皮膚温の上昇や創傷治癒に対しては何ら影響しなかった.紫雲膏は紫根および当帰成分をそれぞれ0.2%,および0.04%含有し,両者が最も強力な効果を示す理想的な濃度を含有することが認められた.そして紫雲膏は紫根エキスと同様な作用を示し,当帰配合による有意差は認められなかったものの,紫根単独より多少強力な効果を呈した.それ故紫雲膏は炎症性の腫張ならびに発赤,発熱を抑制し,創傷治癒を促進すると共に紫根には抗菌作用があると言われるので外傷などの治療薬として好ましい製剤であることが認められた.
著者
瀬戸 実 浅野 敏雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.3, pp.112-116, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
29

Rhoキナーゼは1995~1996年に,低分子量GTP結合タンパク質Rhoの標的タンパク質として同定されたセリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素である.これまでの研究により,Rhoキナーゼは収縮,増殖,遊走,遺伝子発現誘導など細胞の重要な生理機能に関与していることが明らかになっている.また各種病態動物モデルを使用した解析より,Rhoキナーゼの活性亢進が数々の病態を引き起こす原因となっていることが示され,創薬のターゲットとして注目されている.RhoキナーゼにはROCK1とROCK2の2つのアイソフォームがあり高い相同性を有している.ROCK1とROCK2は体内に広く発現しているがROCK2は特に脳と骨格筋に強く発現している.現在製薬メーカーを中心に精力的にRhoキナーゼ阻害薬の開発が行われている.本総説においては,ヒトに投与されたRhoキナーゼ阻害薬の成績を中心に,その有用性について述べたい.
著者
徳山 尚吾 高橋 正克
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.195-201, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
42
被引用文献数
4 5

モルヒネをはじめとするオピオイドおよびメタンフェタミンなどの精神賦活薬によって誘発される種々の効果に対する薬用人参の薬理学的·生理学的作用について概説する.薬用人参は, モルヒネ, μオピオイド受容体アゴニストやU-50, 488H, κオピオイド受容体アゴニストの鎮痛効果に対して, オピオイド系を介さない様式で拮抗作用を示す.さらに, モルヒネの鎮痛効果に対する耐性形成および身体的·精神的依存に対しても, 薬用人参は抑制作用を有するとの知見が多いが, その種類, 用量, 投与スケジュール等の違いによって成績が異なる報告もなされている.また, 薬用人参は, メタンフェタミンやコカインなどの反復投与による運動量の経時的な増強作用, すなわち行動感作(逆耐性現象)の形成も阻止する.興味深いことに, メタンフェタミンおよびコカインの反復投与終了後30日間休薬してから, 再びこれらの薬物を投与することによって誘発される再燃現象(フラッシュバック)に対しても, 薬用人参による抑制作用が見出されている.さらに, メタンフェタミンおよびコカインは精神的依存能の評価法の一つとされる条件付け位置嗜好性を示すが, その効果も薬用人参は消失させる.これらの知見は, オピオイドや精神賦活薬による乱用および依存に対して, 薬用人参が有効な治療薬に成りうる可能性を示唆するものである.
著者
樋坂 章博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.4, pp.180-184, 2015 (Released:2015-12-10)
参考文献数
5

生体の機構を数学的に記述することで,その性質を予測し実際の治療に役立てるモデリングとシミュレーションの考え方は,創薬の成功確率を高め,同時に薬物治療の質を高めるための処方箋として強調されることが多い.一方で,生体の複雑性からモデリングによる予測が現実的にどこまで可能なのか,懐疑的な見方も少なくないと思われる.ここでは,そのようなモデリングの性質を整理するとともに,現在,モデリングが最も積極的に行われて一定の成果をあげている,薬物動態,特に薬物相互作用への適用の現状について解説する.薬物相互作用については米国FDAより2006年にレギュレーションとしてガイダンス案が示され,その中で多くのモデリング技術が実際に提示され,新薬申請パッケージの中でそれらが実行されることで,臨床における薬物相互作用の予測性,さらには網羅性が高まっている方向にある.そのような方法論を広げていく場合の課題についても考察したい.
著者
江頭 亨 高山 房子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.4, pp.229-236, 2002-10-01
被引用文献数
4

種々の疾患の因子となる酸化ストレスの原因物質であるフリーラジカルの生体内での動態を知るには,不対電子の電子スピン共鳴を測定する電子スピン共鳴法(electron spin resonance, ESR法)が最適である.しかし,ESRでは直接フリーラジカルを測定出来ないので,寿命が短いフリーラジカルを捕捉するために,スピントラッピング法が開発された.トラップ剤がフリーラジカルとすばやく反応し,スピンアダクトを生成する.このスピンアダクトをESRで測定し,得られたスペクトルから捕捉したフリーラジカルを同定することが出来る.X-バンドESRを用いたin vitroの測定では,スピントラップ剤として5,5'-dimethyl-1-pyrroline-<i>N</i>-oxide(DMPO)やα-phenyl-<i>N</i>-<i>t</i>-butylnitrone(PBN)が用いられ,スーパーオキシドやヒドロキシルラジカルを捕捉し,特有のスペクトルを示す.この方法はラジカル消去物質(抗酸化物質)の検索にも利用されている.また,これらを酸化ストレス病態モデル動物に投与し,血中および臓器中のラジカルを検出することも可能である.一方,in vivoでは,L-バンドESRをもちいて,安定なラジカルであるニトロキシルラジカルをスピンプローブとして投与し,そのニトロキシルラジカルのシグナル強度の減衰から生体内ラジカルの動態,生体内抗酸化力などを検討している.この系を用いて生体内のフリーラジカルの発生や酸化ストレスを非侵襲的に丸ごとの動物で測定可能である.最近ではこのスピンプローブを用いて,酸化ストレス病態モデル動物の臓器別画像化にも成功しており,将来ヒトでもESR-CT(ESR-computer tomography)によってフリーラジカルの発生部位や発生量が画像化され,臨床応用も可能になるものと期待されている.<br>
著者
稲見 真倫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.2, pp.63-67, 2013 (Released:2013-08-09)
参考文献数
26

近年の免疫領域における細胞内シグナル伝達研究の発展は目覚ましいものがある.最先端の分子医学的な手法を駆使することにより,主要免疫担当細胞における重要なシグナル伝達経路が明らかとなり,その中の鍵となる分子が同定されてきた.その中でも特にタンパク質リン酸化酵素は,ほぼ全てのシグナル伝達経路に関与し決定的な役割を果たしていることがわかっている.タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)はATPからリン酸基を転移させて,特定のタンパク質をリン酸化する酵素である.ATP結合領域は各キナーゼにおいて相同性が高いため,特定のキナーゼのATP結合領域に特異的に拮抗する低分子を見出すことは難しいとも考えられてきた.しかしながら,がん領域におけるイマチニブの成功により,がん分子標的薬としてのキナーゼ阻害薬が非常に注目され,創薬におけるキナーゼ阻害薬の可能性が今までになく議論されるようになってきた.自己免疫疾患領域においても,その細胞内シグナル伝達におけるキナーゼの重要性は認識されていたものの,前臨床の研究に留まっていたが,p38阻害薬が臨床入りし,ついに2012年にはJAK阻害薬が上市された.本総説においては,JAK阻害薬に焦点を当てて,自己免疫疾患におけるキナーゼの重要性,創薬の可能性,問題点などを概説したい.
著者
麻川 武雄 榎本 恵一 高野 正子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.59-68, 1993
被引用文献数
1

Adenylate cyclase is a key enzyme that couples with both the stimulatory and inhibitory G proteins (G<SUB>s</SUB> and G<SUB>i</SUB>). The cyclase has been purified and shown to be a glycoprotein of molecular weight 115, 000-180, 000. Cloning of cDNAs for adenylate cyclase showed that the cyclase is a member of a large family consisting of a variety of subtypes of the enzyme. These subtypes show different responses to calmodulin and G protein &beta;&gamma; subunits, and their distributions in tissues and organs are also different. This suggests that each subtype is involved in a particular physiological function. The general structure of adenylate cyclase is composed of two cytoplasmic domains and two membrane-spanning domains, each of which contains 6 transmembrane spans (12 spans in a molecule). The amino acid sequence of each cytoplasmic domain, which is thought to contain a nucleotide (ATP) binding site, is well-conserved among the various subtypes. This review also focuses on the regulation of adenylate cyclase activity by G protein subunits, particularly on several models for adenylate cyclase inhibition by G<SUB>i</SUB>. As one of these mechanisms, direct inhibition of adenylate cyclase by the &beta;&gamma; subunits recently demonstrated by us will be discussed.
著者
今泉 祐治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.219-231, 1993 (Released:2007-02-06)
参考文献数
54
被引用文献数
5 4

Membrane ionic currents were recorded using whole cell and patch clamp techniques in smooth muscle cells isolated from various organs to clarify the mechanisms underlying the diversity of membrane excitability. Components of inward and outward currents upon depolarization were resolved from one another kinetically or pharmacologically and were analyzed and compared in these cells under the same conditions. Cells were isolated from the ureter (UT), urinary bladder (UB), vas deferens (VD), aorta (AT), pulmonary artery (PA), taenia caeci (TC) and ileum (IL) of the guinea pig; the femoral artery (FA), portal vein (PV) and iris sphincter (IS) of the rabbit; the stomach fundus (SF) of the rat; the trachea (TR) of the dog and the coronary artery (CA) of the pig. Action potentials were elicited by depolarization in cells from UT, UB, VD, TC, IL, SF and PV, but not in those from AT, PA, FA, IS, TR and CA. Currents identified included Ca2+ currents, Na+ current, Ca2+-dependent K+ current, two kinds of delayed rectifier K+ currents which were pharmacologically distinguished by sensitivity to 4-aminopyridine, and Ca2+-independent A-type transient K+ current. The membrane excitabitiy including the action potential configuration in each cell type can be roughly explained by a combination of these currents, taking their amplitude and features into consideration.
著者
垣野 明美 沢村 達也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.2, pp.107-113, 2016 (Released:2016-02-10)
参考文献数
22

動脈硬化の進行は,血管だけでなくその灌流する臓器の機能にも直接関わり,臓器障害を引き起こす.コレステロールと動脈硬化の関連は確立されており,中でも酸化などの修飾を受けた変性LDLが動脈硬化進行の重要な要因である.血管内皮の酸化LDL受容体LOX-1(lectin-like oxidized LDL receptor 1)は,変性LDLと結合することで血管内皮障害を引き起こし,動脈硬化性疾患の進展と発症を促進する.これまでの研究で,LOX-1は動脈硬化の初期段階から発現が上昇し,LOX-1の抑制により心血管疾患の症状を改善することが明らかになっている.最近の疫学調査により,血中のLOX-1リガンド(LOX-1 ligand containing apolipoprotein B:LAB)が動脈硬化性疾患の発症リスク評価に有用である可能性が高まってきている.また,ヒトの血液中に存在しLOX-1に結合する変性LDL様物質L5が明らかになり,L5がLOX-1を介してST上昇心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)の病態悪化に関与していることがわかってきた.このように内在性のLOX-1リガンドと疾患の関連が明らかになってきている一方,細胞膜上では,LOX-1がアンジオテンシンⅡ受容体のAT1と複合体形成をすることがわかってきた.これにより,細胞内シグナル伝達を介したLOX-1の作用については,AT1を介したアンジオテンシンⅡと似た形で機能する可能性が示唆される.