著者
加藤 茂明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.133-140, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
23

脂溶性ビタミンA.D,ステロイド,甲状腺ホルモン,エイコサノイド等の低分子量脂溶性生理活性物質は,核内レセプターのリガンドとして働くことが知られている.核内レセプターは1つの遺伝子スーパーファミリーを形成するリガンド誘導性転写制御因子である.そのためこれらリガンドの生理作用は,核内レセプターを介した遺伝子発現調節により,その作用を発揮する.核内レセプターは,リガンド結合に伴い転写共役制御因子(コリプリッサー)の解離と転写共役活性化因子(コアクチベーター)の会合が起こる.これら転写共役因子群は複合体を形成しており,クロマチン上のヒストンのアセチル化を制御することで,リガンド依存的に転写を制御する.これら最近の動向を概観するとともに,我々の知見についても述べたい.
著者
梛野 健司 高 忠石 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.6, pp.245-254, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

パリペリドンは,日本国内および海外で非定型抗精神病薬として広く使用されているリスペリドンの主活性代謝物(9-ヒドロキシ-リスペリドン)であり,リスペリドンと同様にドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体に対する阻害作用を有し,セロトニン・ドパミンアンタゴニスト(SDA)に分類される.さらに,パリペリドンの製剤は,放出制御型徐放錠であり,放出制御システム(osmotic controlled release oral delivery system: OROS®)を用いることによって,24時間持続的にパリペリドンを放出し,安定した血漿中薬物濃度が維持できる.これによって,1日1回投与による統合失調症治療が可能になり,有効性および忍容性の向上が期待できる.パリペリドンは,D2受容体および5-HT2A受容体に対してリスペリドンと同程度の親和性を示し,D2受容体と比較して5-HT2A受容体に対して高い親和性を示した.これらのことから,パリペリドンは,統合失調症においてドパミン神経系が関連する陽性症状の改善だけでなく,陰性症状の改善および従来の定型抗精神病薬で問題となる運動障害(錐体外路系副作用)の軽減が期待できる.国内の臨床試験は,成人の統合失調症患者を対象とした探索的試験を第II相試験として実施し,positron emission tomography(PET)検査により,投与量および血漿中濃度とD2受容体占有率との関係を検討した.第III相試験では,統合失調症では国内で初めてのプラセボ対照二重盲検比較試験を実施し,パリペリドンER 6 mg,1日1回朝投与のプラセボに対する優越性を検証するとともに,初回投与時に低用量からの漸増が不要で維持用量の6 mg/日から投与を開始しても安全であることを確認した.また,48週間の長期投与試験において,長期間の曝露に伴う安全性リスクの増加はなく,有効性の維持についても確認した.特に,日本人統合失調症患者に対するエビデンスが明確に示されたことの意義は大きく,パリペリドンERは,現在の本邦における統合失調症の治療において第一選択薬となりうる薬剤として期待される.
著者
中村 一文 三浦 大志 松原 広己 伊藤 浩
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.6, pp.265-269, 2012 (Released:2012-12-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

心不全患者においては交感神経の緊張(カテコラミンの上昇),レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)の亢進,TNF-α増加,頻脈や虚血が心筋において活性酸素(ROS)を発生させている.ROSは脂質過酸化の過程でHNEという有害アルデヒドを発生させる.このアルデヒドはさらにROS発生を亢進させる.このようにして発生したROSはCa2+制御タンパク質に異常を導き,細胞内カルシウム動態の異常や細胞内カルシウム濃度の上昇をもたらし,大量のカルシウムによる負荷(カルシウム過負荷)では心筋細胞死も誘導する.β遮断薬はカテコラミンによるROSの発生を抑制し,さらにカルベジロールはフリーラジカルスカベンジャーとして直接の抗酸化作用を有して,Ca2+動態を正常に保つよう働くことができる.
著者
永井 純也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.1, pp.34-37, 2010 (Released:2010-01-14)
参考文献数
8

臨床において,患者に薬物が単独で投与されるよりも,複数の薬物が投与される場合の方が多い.したがって,薬物治療を受けている患者において,程度の差はあるものの,少なからず薬物相互作用が生じているものと予想される.また,医薬品が市販後に市場から撤退を余儀なくされる場合,薬物相互作用による重篤な副作用が原因であることが少なくない.したがって,薬物相互作用をいかに回避あるいは予測できるかは,安全性に優れた医薬品を開発していく上で重要である.これまで代謝酵素が関与する薬物相互作用については数多くの報告がなされてきた.一方,近年,薬物の生体膜透過を担うトランスポーターが分子レベルで解明されるとともに,代謝過程の阻害のみでは説明できない薬物相互作用にトランスポーターが関与することが明らかになってきている.本稿では,腎臓および肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用を中心に概説する.
著者
近藤 萌 西山 和宏 西村 明幸 加藤 百合 西田 基宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.157, no.5, pp.356-360, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
14

Gタンパク質共役型受容体(GPCRs)は,細胞内環境の変化(物理化学的刺激)を細胞内情報に変換し,伝達する上で極めて重要な役割を果たしている.リガンド刺激後,多くのGPCRはリン酸化され,β-アレスチン依存性の内在化によって再利用または分解される.このプロセスは,GPCRタンパク質の品質管理を維持するための重要な機構である.一方で,β-アレスチン感受性の低いGPCRがどのように品質管理されるかは不明であった.我々は,β-アレスチン低感受性のプリン作動性P2Y6受容体(P2Y6R)に着目し,リン酸化に依存しないGPCR内在化経路(Redox-dependent Alternative Internalization:REDAI)の存在を新たに見出した.P2Y6Rはマクロファージに高発現しており,大腸炎の発症・進展に深くかかわっている.我々は,食品中に含まれる親電子物質がP2Y6RのREDAIを誘導し,抗炎症効果をもたらす一方で,REDAIの抑制が大腸炎の悪化をもたらすことをマウスで実証した.これらの結果は,GPCRのREDAIを標的にする創薬が,炎症性疾患の画期的な治療戦略となることを強く示唆している.
著者
海老原 格
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.4, pp.170-173, 2012 (Released:2012-10-10)
参考文献数
19

医薬品が登場する,患者さんがそれを用いる.いたって単純なことだが,実は重大な意味が込められている.「登場する」とは,「患者さんの苦しみを和らげたい」との製薬企業の希(おも)いを患者さんに伝えること,「用いる」とは患者さんがその希いを受取る,希いが伝わることではないかと考える.勿論仲介する人はいるが.「伝える—伝わる」が成立するとき医薬品は人類共有の財産となる.それが育薬だと思う.ただ医薬品にはメリットだけではなくデメリットがあることを忘れてはいけない.しかし,情報の力を借りることでデメリットを抑えメリットを十分に引き出すことができる.適正使用ということである.RAD-AR活動は,医薬品適正使用確保のために生み出されたものである.くすりの適正使用協議会は,RAD-AR活動を永年展開している.最近の動きを紹介するので,皆さん,ご参考にしていただければ幸甚である.
著者
佐藤 薫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.6, pp.287-294, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
177
被引用文献数
1 3

中枢神経系(central nervous system:CNS)の血管は血液と脳実質間の物質交換を血液脳関門(blood brain barrier:BBB)により制限している.現状,新薬候補化合物の脳内移行性を検討するための信頼性の高いin vitro BBBモデルは存在せず,中枢神経医薬品上市の低確率,中枢性副作用予測の困難さの一要因となっている.本レビューでは,まずBBBの構造と機能,汎用されるBBB機能定量パラメーターについて概説する.そして,新薬開発過程でこれまで使われてきたin vitro BBBモデルの歴史を紐解き,非細胞系モデルPAMPAから初代培養齧歯類細胞,畜産動物細胞,株化細胞,等の細胞系モデルへの推移を紹介する.また,ヒト予測性を向上させるためのヒト細胞適用の試みや,マイクロ流体モデルに代表される工学的アプローチなど,in vitro BBBモデルの最新開発動向についても紹介する.脳の恒常性維持に欠かせない強固なBBBをin vitroで再現することは,BBB形成メカニズムを解明することでもある.これらの新知見,それに基づいて開発される新しいin vitro BBBモデルは,中枢神経系の薬物動態予測,ドラッグデザイン,さらには,毒性・安全性評価を大きく進展させ,新薬成功確立の向上に貢献することが期待される.
著者
深田 吉孝 小亀 浩市
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.263-272, 1994 (Released:2007-02-06)
参考文献数
50

Guanine nucleotide-binding regulatory proteins (heterotrimeric G proteins) are composed of α-, β- and γ-subunits, and they mediate a variety of intracellular signal transductions by coupling activated membrane receptors with effector enzymes and channels. Activated receptors catalyze the exchange of GDP bound to the α-subunits for cytosolic GTP, and GTP-bound α-subunits in turn regulate activities or functions of the effectors. The βγ-complex is not dissociable under physiological conditions, and it is indispensable for the GDP/GTP exchange reaction on the α-subunit. Recently, three kinds of lipid modifications have been found in the α- and γ-subunits. The first is the attachment of fatty acids, myristate (C14:0) or structurally related fatty acids to the N-terminal glycine residues of some members of the α-subunits. Another type of fatty acylation to be characterized is the linkage of palmitate (C16:0) to a number of α-subunits via a thioester bond at their cysteine residues. The third type of modification is polyisoprenylation (farnesylation or geranylgeranylation) and α-carboxyl methylation at the C-terminal cysteine residue of the γ-subunit. These modifications on the two subunits have been shown to play a critical role in not only protein-membrane interaction but also proper protein-protein interaction, both of which are required for the G protein function.
著者
宮野 加奈子 河野 透 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.76-80, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

抗がん剤や放射線治療により発症する口内炎は,健常人が経験する口内炎と比較し,炎症が広範囲であり,その痛みは強く,摂食困難,抗がん剤の減量,変更を余儀なくされる場合も多い.現在口内炎に対して推奨される予防・治療法はなく,新たな治療法の確立が必要とされている.我々はこれまでに,漢方薬のひとつである半夏瀉心湯の含嗽が,抗がん剤治療により発症した口内炎に有効であることを臨床試験により明らかにし,さらに半夏瀉心湯の口内炎改善メカニズムを解明するための基礎研究を行っている.抗がん剤投与後,口腔粘膜をスクラッチして口内炎を発生させたGolden Syrian Hamsterの口内炎部位では,炎症・発痛物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)量が増加しており,半夏瀉心湯投与によりPGE2は減少し,口内炎は有意に改善された.次に,human oral keratinocyteを用い,PGE2産生に対する半夏瀉心湯の効果を解析した.その結果,IL-1β刺激によるPGE2産生は半夏瀉心湯濃度依存的に抑制され,この抑制作用には半夏瀉心湯を構成している乾姜の成分である[6]-shogaol,ならびに黄芩成分であるbaicalinおよびwogoninが重要であることが明らかとなった.さらに各成分によるPGE2産生抑制メカニズムについて解析を行ったところ,黄芩成分はIL-1β刺激により発現するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を阻害することにより,また,[6]-shogaolはPGE2合成関連酵素の活性を阻害することによりPGE2産生を抑制することが示唆された.以上の結果より,半夏瀉心湯の構成生薬成分がそれぞれ異なる作用点を介して総和的にPGE2産生を抑制し,口内炎を改善する可能性が示唆された.
著者
堀上 大貴 小林 幸司 村田 幸久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.6, pp.395-400, 2020 (Released:2020-11-01)
参考文献数
46

血管は正常時,高分子を透過させずに酸素や栄養素などの低分子のみを透過させる.しかし,組織で炎症が惹起されると血管の透過性は亢進し,血漿中の高分子や水分が血管外に漏出する.これが免疫細胞の浸潤や炎症性メディエーターの産生の引き金となって炎症をさらに進行させる.血管透過性の亢進は,炎症を背景にもつ疾患の進行に深く関わるが,その制御機構については未だ不明な点が多い.血管透過性の制御に関与する細胞として,血管を構成する内皮細胞と血管壁細胞の2つが挙げられる.内皮細胞は血管の内腔側を覆い,内皮バリアを形成する.一方血管壁細胞は収縮・弛緩することで下流組織の血流量や血圧を調節する.内皮バリアの強化と血管の収縮は透過性を抑制する要因であり,内皮バリアの崩壊と血管の弛緩は血管透過性を亢進する要因となる.プロスタノイドは炎症刺激に応じて産生される低分子生理活性脂質であり,痛みや発熱,細胞浸潤などを引き起こす他,血管透過性にも大きな影響を及ぼす.本稿では,炎症性生理活性脂質として広く知られるプロスタグランジン(PG)E2をはじめとして,PGI2,PGF2α,PGD2,トロンボキサン(TX)A2が血管透過性に与える影響について,内皮細胞や血管壁細胞に発現する各々のGタンパク質共役型受容体の発現量やその働きに注目して整理してみたい.
著者
三輪 宜一 田場 洋二 宮城 めぐみ 笹栗 俊之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.34-40, 2004 (Released:2003-12-23)
参考文献数
27
被引用文献数
4 4

プロスタグランジンJ2(PGJ2),Δ12-PGJ2,15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2(15d-PGJ2)の三者を含むPGJ2ファミリーは,生体内ではアラキドン酸代謝の過程においてPGD2が非酵素的に変換され生成される.これらPGJ2ファミリーの薬理作用としては,古くからがん細胞やウイルスの増殖を強力に抑制することが知られていた.しかしながらその他の作用についてはほとんど知られていなかった.その後,1995年にPGJ2ファミリーが脂肪細胞の分化に必要な核内受容体peroxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)のリガンドであることが明らかになって以来,研究が飛躍的に進んだ.特に15d-PGJ2は現在のところ最も強力な内因性PPARγリガンドとして知られており,抗炎症作用,アポトーシス抑制および誘導作用,分化誘導作用等の新たな薬理作用を有することが見出された.本稿では主に心血管系の細胞を中心に,これまでに明らかにされたPGJ2ファミリーの薬理作用およびその機序についてまとめた.
著者
石原 真理子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.5, pp.329-334, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
32

医薬品,農薬,内分泌撹乱物質,天然および合成有機化合物などの生理活性物質は,その独自の薬理作用と同時に,大なり小なり細胞傷害活性を持っている.この細胞傷害活性の研究は,特にアポトーシス研究の重要なテーマになっている.作用物質の作用発現の決定因子が作用物質の物理化学性にあるのか,作用点に到達してから作用発現させる化学反応性にあるのかで,作用物質の反応性は異なってくる.半経験的分子軌道法(PM3法)によりHOMOエネルギー,LUMOエネルギー,イオン化ポテンシャル(IP),絶対ハードネス(η),絶対電気陰性度(chemical potential,χ),オクタノールー水分配係数(log P)などのデスクリプター(記述子)を算出することにより,構造が類似した薬物の定量的構造活性相関解析(QSAR)を行なうことができる.Betulinic acid誘導体のメラノーマ細胞に対する細胞傷害性は,IPと直線的相関関係を示した.クマリン誘導体の口腔扁平上皮癌細胞に対する細胞傷害性は絶対ハードネス(η)と強く直線的相関性を示した.分子の硬さや柔らかさをPM3法で計算する際にはCONFLEXの使用が有用であった.ゲラニルゲラニオール類,ビタミンK1,K2,K3,プレニルフラボン類,イソフラボン類,没食子酸誘導体,フッ化活性型ビタミンD3誘導体,2-styrylchroman誘導体の細胞傷害性には,疎水性(log P)が大きく影響した.本方法を,生理活性物質のQSAR解析,最安定化構造の予測,細胞傷害活性の検討,そしてラジカル捕捉数の算定に応用した例なども紹介する.QSARは,より活性の高い物質の構造の創薬への貢献が期待される.
著者
関 貴弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.206-210, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
15

細胞内タンパク質分解系の一つであるオートファジー・リソソーム系にはリソソームに基質を運ぶ経路の違いにより,マクロオートファジー(MA),ミクロオートファジー(mA)およびシャペロン介在性オートファジー(CMA)の3種類が存在している.これら3種類のうち,MAは特異的活性マーカーであるLC3-IIの発見を契機に,研究が爆発的に進展し,生理機能や疾患発症への関与が次々と明らかになっている.一方で,mAは酵母では研究が進んでいるものの,哺乳細胞におけるmAの実態は不明なままである.CMAについてはHsc70やLAMP2Aといった関連する分子は解明されたが,有用な活性マーカーがなく,簡便な活性評価法も存在しないため,MAに比べて研究が遅れを取っている.しかし,CMAは①細胞質タンパク質の30%が基質となる,②他の分解系と異なり哺乳細胞しか存在しない,という特徴を持っておりCMAは哺乳細胞の機能維持に不可欠であり,CMAの破綻が様々な疾患発症に繋がる可能性は高い.我々はCMAの基質として知られているGAPDHに多機能ラベリングシステムであるHaloTagを融合したものをCMAマーカーとし,蛍光顕微鏡で簡便にかつ一細胞レベルで詳細にCMA活性を評価することが可能な新規活性評価法を開発した.この新規CMA活性評価法はCMAの生理機能や疾患発症への関与解明に大きく寄与することが期待される.本稿はこの新規CMA活性評価法の詳細とこれを応用した神経変性疾患モデルにおけるCMA活性評価を行った結果を紹介する.
著者
山澤 德志子 小林 琢也 呉林 なごみ 村山 尚
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.157, no.1, pp.15-22, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
33

骨格筋のCa2+放出チャネルである1型リアノジン受容体(RyR1)は,骨格筋の興奮収縮連関時に筋小胞体からCa2+を放出する重要な役割を果たしている.RyR1の遺伝子変異は,過剰にチャネルを活性化して悪性高熱症(MH)を惹き起こし,一部の重度熱中症にも関与している.1960年代に開発されたダントロレンは,唯一承認されている治療薬である.しかし水溶性が非常に悪く,血中半減期も長いという欠点がある.そこで我々は,オキソリン酸誘導体のRyR1阻害物質である6,7-(methylenedioxy)-1-octyl-4-quinolone-3-carboxylic acid(化合物1,Cpd1)を開発した.Cpd1の治療効果を調べるため,新規MHモデルマウス(RYR1-p.R2509C)を作出し,イソフルラン吸入麻酔により誘発されたMH症状がCpd1投与により改善されることを明らかにした.また,このマウスは外気温の上昇による熱中症を引き起こしたが,Cpd1の投与は熱中症に対しても延命効果を示した.さらに,Cpd1は水溶性が高く,血中半減期が短いことが明らかとなり,ダントロレンの欠点を大きく改善した.本稿では,新規MHモデルマウス(RYR1-p.R2509C)と,Cpd1の治療効果を中心に概説する.
著者
北村 佳久 高田 和幸 谷口 隆之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.407-413, 2004 (Released:2004-11-26)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

小胞体はタンパク質の品質管理を行う細胞内小器官であり,その機能不全によって折り畳み構造の異常なタンパク質が増加・蓄積する.異常タンパク質の蓄積が基盤となり発症する疾患はコンフォメーション病と呼ばれ,アルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患がその疾患の一つとして考えられている.AD脳では,細胞外におけるアミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積により形成される老人斑や,神経細胞内で異常リン酸化タウタンパク質の蓄積により形成される神経原線維変化が観察されるが,現在では,脳内Aβの蓄積がAD発症メカニズムの上流に位置すると考えられている.細胞外でのAβ蓄積に対するストレス応答反応として,ミクログリアが老人斑に集積するが,その役割は不明である.近年,我々は,ラット培養ミクログリアがAβ1-42(Aβ42)を貪食し分解すること,その貪食には低分子量Gタンパク質のRac1やその下流で働くWiskott-Aldrich syndrome protein family verprolin-homologous protein(WAVE)により制御されるアクチン線維の再構築が関与することを明らかにした.さらに,ミクログリアによるAβ42貪食は,ストレスタンパク質であるHeat shock proteins(Hsp)により増強され,反対に,核内タンパク質として知られるHigh mobility group box protein-1(HMGB1)により阻害されることがわかった.このような,ミクログリアによるAβ42貪食メカニズムの解明や調節に関する研究を基盤として,新規AD治療法の開発が期待される.
著者
小野寺 憲治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.1-9, 1992 (Released:2007-02-13)
参考文献数
50
被引用文献数
1 2

When rats were maintained on a thiamine-deficient diet for 30 days, about 70% of the animals showed a mouse-killing response (muricide). The thiamine-deficient killer-rats do not eat but merely killed the mice. Once this abnormal behavior appeared, the response remained, and could not be suppressed by the administration of thiamine hydrochloride plus thiamine-supplemented diet, regardless of a return to normal feeding, growth and heart rate. Drugs that activate the central serotonergic and noradrenergic systems have suppressive effects on it. Conversely, among the various depletions of brain monoamines, only depletion of serotonin by the drug p-chlorophenylalanine significantly increased the incidence of muricide. Antihistaminergic drugs were potently effective, but atropine, an anticholinergic drug, were ineffective. Various antidepressants and electroconvulsive shock treatment also suppressed muricide to various degrees. Thus, it is expected that the muricide induced by thiamine deficiency may be useful as an animal model of depression, although the usefulness of this abnormal behavior as a working model of depression or for screening new antidepressants remains to be evaluated.