著者
関本 美穂 今中 雄一 吉原 桂一 米野 琢哉 白井 貴子 ジェイスン ・リー 佐々木 弘真
出版者
The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.347-353, 2010

Disease Procedure Combination(DPC)データには臨床情報および詳細な輸血情報が含まれるため,輸血リスクを考慮した血液製剤使用量評価に利用できる可能性がある.われわれはDPCデータを利用して,73の急性期病院における血液製剤使用状況を調査し,血液製剤を多く消費する疾患や手術を検討した.また病院ごとの血液製剤使用量を予測する3つの重回帰分析モデルを作成し,R<sup>2</sup>値を使ってその予測能を評価した.最初のモデルは,病院機能に関する5つの変数(病床数,全身麻酔下手術数,心臓手術の実施,造血幹細胞移植の実施,血漿交換の実施)を予測因子とした.2つ目のモデルでは,年齢分布および血液製剤を多く使用する疾患・手術の年間1病床あたり件数を予測因子とした.3つ目のモデルはDPC診断群分類を利用して血液製剤の使用量を予測した.血液製剤の大部分が,特定の疾患・手術を受けた患者により消費されていた.診断群分類を用いた予測モデルは,輸血のリスクや血液製剤の使用量を診断群分類ごとに細やかに考慮できるために高い予測能を示した.一方,血液製剤の使用量が多い疾患や手術の症例数から使用量を予測するモデルも,比較的良好な予測能を示した.しかし病床数や全身麻酔下手術数は,血液製剤の使用量と関連しなかった.DPCデータを利用した血液製剤使用状況の解析は,少ない労力で大量のデータを処理でき,また各病院における疾患分布を考慮して血液製剤使用量を評価できる.<br>
著者
浅野 尚美 小郷 博昭 池田 亮 閘 結稀 髙木 尚江 山川 美和 吉岡 尚徳 小林 優人 淺田 騰 藤井 敬子 藤井 伸治
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.3-8, 2017-02-28 (Released:2017-03-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

生後4カ月以内の乳児では,母由来のIgG型抗A,抗B抗体の有無を確認した上で適合血を選択しなければならない.当院では,生後4カ月以内の乳児の外科的手術症例における輸血が比較的多く,限られた検体量の中で輸血用血液製剤の正確で迅速な準備が要求される.今回,母由来のIgG型抗A,抗B抗体が陽性であった生後4カ月以内の乳児に対し,赤血球輸血の際に選択された血液型について後方視的に解析を行った.2009年4月から2013年3月の4年間に,輸血検査を行った生後4カ月以内のO型以外の乳児は309人で,間接抗グロブリン試験でW+以上の凝集を認め母由来のIgG型抗A,抗B抗体が検出された症例が44例(14.2%)であった.1+以上を示した31例のうち24例がO型赤血球輸血を選択したが,省略してもよいとされているABO血液型ウラ検査(カラム凝集法)で,児の血液型と同型のウラ血球に凝集を認めた症例が17例あった.生後4カ月以内の乳児の輸血前検査として,A1またはB血球との間接抗グロブリン試験で1+以上の凝集を認めた場合に加え,血液型検査のウラ検査も,母由来のIgG型抗A,抗B抗体を検出できる場合があり,O型赤血球輸血の選択基準のひとつになり得ると考えられた.
著者
川畑 絹代 安田 広康 土田 秀明 伊藤 正一 菊地 正輝 常山 初江 内川 誠 大戸 斉
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.478-483, 2011 (Released:2012-01-06)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

抗KANNOは1991年に福島医大病院で遭遇した高頻度抗原に対する抗体で,既知の抗体にはその反応性が一致するものが無かった.発端者に因み,この抗体を抗KANNO,対応抗原をKANNO抗原と名付けた.KANNO抗原発見に関わった福島医大病院2症例と山形県および宮城県赤十字血液センターで同定した抗KANNO 12例,計14例について反応性,臨床的意義を検討した. 抗KANNOを保有する14例のうち13例が妊娠歴のある女性であり,輸血よりも妊娠によって産生されやすい抗体であると考えられる.抗KANNOは高力価低親和性(HTLA)抗体の特徴を示し,類似した反応性を持つ抗JMHとは,AET処理赤血球と反応する点で鑑別できる.現在まで,抗KANNOによる溶血性輸血副作用(HTR)や胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)の報告はなく臨床的意義は低いと考えられるが,さらに症例を蓄積する必要がある.
著者
大久保 理恵 永島 實 稲葉 頌一
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.441-450, 2016-06-30 (Released:2016-07-15)
参考文献数
15

ヘモグロビン(Hb)低値で不採血となった献血希望者の鉄不足量を評価し,貧血の改善方法を検討した.本研究へ同意したHb低値者より6 ml採血し,フェリチン,TIBC,血清鉄,可溶性トランスフェリンレセプター(sTfR)を測定した.鉄不足の評価方法として,フェリチン値12 ng/ml未満をAIS,Log10(sTfR/フェリチン)>2.07をIDEとした.さらに400 ml献血可能Hb値までに必要な鉄量を計算した.なお,検査結果を本人に通知し,貧血程度の把握及び健康管理による貧血の改善を促した.フェリチン値正常者には現病歴,スポーツ歴等のアンケート調査も行ない,さらに58名にsTfRを除く3項目の検査を行った.4項目の検査を行った80名のうち,AIS67名IDE67名(重複66名)だった.58名も加え,対象者138名中AIS81%,不足鉄量200 mg以上28%,鉄欠乏と考えにくい者18%という結果が得られた.約8割がAISであり,鉄欠乏状態が高度であった.今後,鉄分摂取のより丁寧な指導と可能ならばフェリチン測定も必要と考えた.また200 mg以上の鉄が不足している者には医療機関受診を勧めることとした.一方スポーツ貧血も問題であることもわかった.
著者
坊池 義浩 須山 絵里子 渡辺 嘉久 岩本 澄清 国分寺 晃 杉本 健 永井 朝子 藤盛 好啓 甲斐 俊朗 三木 均
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.700-707, 2017

<p>ハプトグロビン(Hp)抗体を保有するHp欠損患者に,血漿タンパク質成分を含有した血液製剤を輸血後,重篤なアナフィラキシーショックを起こすことがいくつか報告されている.我々は,<i>Hp<sup>del</sup></i>遺伝子ホモ接合体のHp欠損患者2人を経験した.これら2人の患者は,2回洗浄した赤血球の輸血により副作用を起こさなかった.そこで我々は,洗浄回数と血液製剤中に残ったHpの濃度を検討した.洗浄赤血球(WRC),解凍赤血球(FTRC),洗浄血小板(WPC)の各5製剤中のHp濃度を測定した.洗浄前の赤血球製剤(RBC)のHp濃度の平均値は98.800μg/m<i>l</i>,1回洗浄WRCの平均値は3.044μg/m<i>l</i>,2回洗浄WRCの平均値は0.233μg/m<i>l</i>,3回洗浄WRCの平均値は0.038μg/m<i>l</i>であった.1回,2回,3回洗浄後WRCの有意差は,それぞれ<i>p</i>=0.0089,<i>p</i>=0.0019,<i>p</i><0.0001であった.FTRCのHp濃度の平均値は5.116μg/m<i>l</i>であった.血小板製剤(PC)の血漿Hp濃度の平均値は656.600μg/m<i>l</i>,1回洗浄WPCの平均値が7.262μg/m<i>l</i>,2回洗浄WPCの平均値が0.463μg/m<i>l</i>であった.1回,2回洗浄後WPCの有意差は,それぞれ<i>p</i><0.0001,<i>p</i>=0.0016であった.これらの結果に基づき,我々はHp抗体を保有するHp欠損患者には,2回洗浄のWRCやWPCを輸血することが望ましいと考える.</p>
著者
岡﨑 亮太 竹谷 健 兒玉 るみ 足立 絵里加 石原 智子 定方 智美 金井 理恵 三島 清司 長井 篤
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.546-549, 2015-12-20 (Released:2016-02-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1

血液製剤による細菌感染症はまれであるが,致死的な経過をたどることもある重篤な副作用の1つである.患者は8歳男児.急性骨髄性白血病再発に対して非血縁臍帯血移植を行い,移植後5日目に血小板輸血を行った.輸血前にスワーリングを確認したが輸血開始40分後から,発熱,悪寒・戦慄,嘔吐,頭痛が出現し,血圧低下,頻脈,動脈血酸素飽和度低下を認めたため直ちに輸血を中止し,抗菌薬,免疫グロブリン,血管作動薬,ステロイドを投与し,発症3日目に解熱した.輸血後4時間以内に発熱,悪寒,頻脈,血圧低下をきたしており,患者の血液と血小板製剤から血清・遺伝子型ともに一致した大腸菌が同定されたことから,血小板製剤に大腸菌が感染したことによる敗血症性ショックと診断した.我が国で過去10年間に血小板製剤による細菌感染症は8例報告されているが,大腸菌感染の報告はない.しかし,大腸菌感染は海外で死亡例も報告されており,重篤な症状を呈する可能性が高い.したがって,細菌感染を疑う症状が出現した場合,迅速に原因菌を同定し,適切な治療を行う必要があると思われた.
著者
川俣 豊隆 衡田 経子 阿部 結花 尾上 和夫 東條 有伸 長村(井上) 登紀子
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.683-690, 2017-10-25 (Released:2017-11-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1

輸血療法を行なう上で,正確な血液型の判定は重要である.赤血球表面抗原検査であるオモテ検査と,血清中の抗A・抗B抗体の検出を行なうウラ検査の両方の結果によってABO血液型が確定される.しかし,ABO亜型など特殊な血液型以外にも,血液疾患をはじめとする各種悪性腫瘍や免疫異常など様々な病態による影響を受け,オモテ・ウラ検査不一致を認める場合がある.2003年1月から2015年9月までの期間中に当院輸血部にて血液型検査を受け,ABO不適合造血幹細胞移植後症例を除きオモテ・ウラ検査不一致を1度でも認めた症例の疾患背景について後方視的解析を行なった.2,455症例中61症例が,オモテ・ウラ検査不一致症例であり,その基礎疾患として,造血器腫瘍患者が多くを占めていた.判定不能の原因は,オモテ検査が20症例,ウラ検査が35症例,オモテ検査・ウラ検査両方が4症例,特定不能が2症例であった.オモテ検査では骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病,ウラ検査ではリンパ系腫瘍を基礎疾患に有する症例が多かった.オモテ・ウラ不一致症例における疾患背景を理解し,慎重に判定する必要がある.
著者
中原 衣里菜 谷ヶ﨑 博 菅野 仁
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.541-548, 2021-12-24 (Released:2022-01-07)
参考文献数
50
被引用文献数
2

発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)は,二相性自己抗体(Donath-Landsteiner抗体:DL抗体)により血管内溶血をきたす自己免疫性溶血性貧血(AIHA)である.これまでにPCHの症例をまとめた総説は乏しく,今回2000年以降の本邦でのPCH報告例に自験例を加えた73例(成人例19例,小児例54例)について臨床像を総括した.既報通り冬季に発症し,先行感染が認められることが多かった.かつては梅毒に続発する例が多くみられたが,2000年以降は非梅毒性の報告のみであった.多くの例は保温で改善傾向となったが,Hb 5.0g/dlを下回る場合に輸血が行われることが多く,重症例ではステロイドを使用した例もみられた.PCHは進行が早いため,早期に診断し,寒冷暴露を避けることが重要である.寒冷暴露で誘発される溶血性貧血として,寒冷凝集素症(CAD)との鑑別を要する.PCHの診断に必要なDL試験は委託可能な外部検査機関がなく,疑った場合には保温に努め,院内輸血/検査部門で施行を検討する.経過は通常一過性であり,DL抗体陰性化を確認後には安全に寒冷暴露制限を解除できるものと考えられた.
著者
山本 晃士 山口 充 澤野 誠 松田 真輝 阿南 昌弘 井口 浩一 杉山 悟
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.135-139, 2017-04-20 (Released:2017-05-11)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

背景と目的:外傷患者の急性期には凝固障害を認めることが多く,その程度は患者の生命予後を左右する.当院の高度救命救急センターでは,外傷患者の凝固障害,特に高度な低フィブリノゲン血症をすみやかに改善させる目的で,積極的にフィブリノゲン製剤の投与を行ってきた.その治療の実際と,同製剤の投与群と非投与群間で行った輸血量および生命予後の比較検討(症例対照研究)結果を報告する.方法:フィブリノゲン製剤投与の有無および投与基準の違いによって症例を3群に分けた.A群,フィブリノゲン製剤未使用;B群,受診時のフィブリノゲン値と外傷重症度を見た上でフィブリノゲン製剤3gを投与;C群,患者搬送前の情報(外傷重症度,出血状況)から判断し,搬送時ただちにフィブリノゲン製剤3gを投与.外傷重症度スコア≧26の症例における輸血量および生命予後について3群間で比較検討を行った.結果:3群間の輸血量には有意差を認めなかった.受診30日後の総生存率(搬送時の心肺停止症例を除く)はC群で有意に高く(p<0.05),搬送後48時間以内の急性期死亡率はC群で有意に低かった(p=0.005).さらに,きわめて重篤とされる外傷重症度スコア≧41群での死亡率も,C群で有意に低かった(p=0.02).結論:重症外傷症例においては,フィブリノゲン製剤の先制投与が急性期死亡率の低下に貢献し,結果として高い生存退院率をもたらす可能性が示唆された.
著者
大岩 加奈 岸 愼治 海老田 ゆみえ 松田 安史 田居 克規 浦崎 芳正 大越 忠和 今村 好章 山内 高弘
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.607-613, 2017-08-31 (Released:2017-09-22)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

症例は55歳,男性.15年前の冬季にRaynaud症状を認め,寒冷凝集素症(Cold agglutinin disease,CAD)と診断されたが,症状は軽度のため無治療で経過観察されていた.感冒様症状の後2週間持続する息切れを主訴に前医を受診し,溶血性貧血と黄疸,脾腫を認め紹介となった.血液検査では高度の溶血性貧血,寒冷凝集素と可溶性インターロイキン2受容体の高値を認めた.CTで脾腫を認め,FDG-PETでは脾臓と骨髄に集積亢進を認めた.骨髄は過形成でCD20+,CD5+,CD10-,κ鎖+,bcl-2+の異常細胞を約60%に認めた.以上から,CADによる溶血性貧血を合併したB細胞リンパ腫と診断した.輸血加温システムを用いて赤血球輸血を行い,化学療法(R-CHOP療法)により脾臓縮小と溶血改善が得られ,現在rituximab単剤で維持療法を継続している.CADは特発性と続発性に分類され,いずれも稀ではあるが悪性リンパ腫合併の報告がある.rituximabを含む化学療法が有効とする報告がある一方,CAD合併悪性リンパ腫例には多剤併用化学療法も不応とする報告もあり更なる症例の蓄積を要する.
著者
小池 敏靖 渕崎 晶弘 一杉 芽美 小野寺 秀一 金子 祐次 岩間 輝 平山 順一 柴 雅之 宮島 晴子 林 宜亨 有澤 史倫 布施 久恵 内藤 祐 若本 志乃舞 藤原 満博 茶谷 真 栗原 勝彦 森 純平 寺田 あかね 大橋 祥朗 永井 正 佐竹 正博
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.490-495, 2018-06-30 (Released:2018-07-13)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

今般,安定的な血小板製剤(PC)の確保を目的とし,成分採血装置Trima Accelに,一人の献血者から2本分の10単位PCを一度に採血できるプログラムが搭載された.この採血方法では従来の方法と異なり,一つのポリ塩化ビニル製採血バッグ(PVCバッグ)に通常の2倍量の血小板原料が入る.さらに,その状態で採血当日または翌日まで保管後,2分割する必要がある.本検討では,採血翌日に分割した分割対象血小板原料血液由来10単位PC(分割PC)の品質を解析した.採血後4日目までのTrima Accel由来の分割PCとCCS採血由来の非分割PCの品質を比較した結果,補体であるC5a濃度とpHは分割PCにおいて有意に高値であったが,正常範囲内であった.また,その他の血小板機能等に差はなかった.そのため,分割PCの品質は,従来の非分割のPCと同等であることが明らかになった.
著者
佐竹 正博
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.847-850, 2019-12-20 (Released:2020-01-10)
参考文献数
12

物理化学的な処置を施すことが困難な輸血用血液製剤も,その製法や保存法を改良して,より臨床で使いやすいものにする試みが続けられている.解凍血漿(thawed plasma)は,FFPを解凍後1~6℃で5日間保存可能としたもので,第VIII因子等の活性低下は30~40%で,そのほかの因子はほぼ正常域にある.融解に必要な時間が不要で早期に投与できるため,急性大量出血の際の輸血に有効である.冷蔵血小板製剤は血小板を[35%血漿+65%血小板添加液]に浮遊させたもので,保存中の血小板の凝集はほとんどなく,血小板凝集能も15日間良好に維持できるものである.ただし輸血後の生体内寿命は短く,更なる技術開発が必要である.ヘモグロビンを脂質膜で包んだ人工赤血球(Hemoglobin vesicles)は室温で2年間保存が可能で,実用化できる段階にある.緊急の輸血や島嶼・へき地などでの輸血に威力を発揮することが期待される.iPS細胞由来血小板は,不死化した巨核球株のマスターバンクを作製しておき,そこから適宜細胞を取り出して拡大培養・分化させ,成熟血小板の製剤とするものである.正常の血小板に近い止血機能を持つことが確認されており,血小板輸血不応状態の患者への輸血などが適応として考えられる.
著者
平賀 久代 井出 めぐ美 柳沢 美千代 小林 香保里 半田 憲誉 加藤 亮介
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.465-470, 2014-06-30 (Released:2014-07-16)
参考文献数
8

当院は救命救急センターを有する地域の中核病院であるが,血液センターから1時間30分の距離に位置する.赤血球濃厚液(CRC:Concentrated Red Cells)の廃棄率を抑え,緊急輸血に対応可能な適正備蓄量を設定するために過去の主要診療科別使用量,血液型別使用量と備蓄量,廃棄率の関係を検討した.また,2011年における期間使用量と大量輸血,緊急搬送の関係を調査した.各年の血液型別廃棄率は,備蓄量が1日平均使用量の3倍を超えると増加し,現備蓄量は1日平均使用量のほぼ3日分であった.週間使用量の変動は大量輸血に依存し,約20%が大量輸血時に使用されていた.CRC緊急搬送の多くは大量輸血時に依頼していた.同型血不足時の異型適合血使用が3例認められた.大量輸血例数だけでなく緊急搬送回数も,血液型頻度に比例して認められた.以上のことから,同型血液不足時に,異型適合血を安全に使用する体制を整えておけば,平均使用量にみあった備蓄量,すなわち3日分で緊急入庫まで対応可能と考えられた.1日平均使用量と備蓄量,廃棄率の関係を検討することは,各施設の規模や診療機能に応じた適正備蓄量の設定に有効であると考えられた.
著者
田中 亜美 星 友二 長谷川 隆 坂田 秀勝 古居 保美 後藤 直子 平 力造 松林 圭二 佐竹 正博
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.531-537, 2020-06-25 (Released:2020-07-17)
参考文献数
23
被引用文献数
2 5

E型肝炎ウイルス(HEV)の輸血感染対策を検討するため,輸血後E型肝炎感染患者として,既報(Transfusion 2017)の19例も含め,2018年までに判明した34症例について解析した.原因献血者は全国に分布し,関東甲信越での献血者が半数以上を占めた.原因血液の88.2%(30例)がHEV RNA陽性かつHEV抗体陰性で,多くはHEV感染初期と考えられた.分子系統解析の結果,原因HEV株の遺伝子型は3型が29例(90.6%),4型が3例(9.4%)で,それぞれ異なるクラスターに存在し,多様性に富むことが示された.一方,輸血後感染34症例中少なくとも16例(47.1%)は免疫抑制状態にあった.多くは一過性急性肝炎であったが,確認できた半数(8例)でウイルス血症が6カ月以上持続した.臨床経過中の最大ALT値の中央値は631IU/lで,輸血による最少感染成立HEV RNA量は2.51log IUと推定された.輸血されたウイルス量や遺伝子型と,最大ALT値に相関は認められなかった.HEV RNAスクリーニングの全国導入はHEV輸血感染対策として有効と考えられる.
著者
岡崎 仁
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-29, 2013 (Released:2013-03-29)
参考文献数
51
被引用文献数
4 6
著者
伊藤 晋 山本 茂一 林 司 加藤 誠司 日裏 久英 松本 雅則 藤村 吉博
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.27-35, 2010

ADAMTS13は,止血因子であるフォンビレブランド因子(VWF)のA2ドメイン内のTyr<sup>1605</sup>-Met<sup>1606</sup>間のペプチド結合を特異的に切断する酵素である.この切断により新たに生じるペプチドのC末端Tyr1605を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて,基質の切断生成物をELISA法で直接測定する原理に基づいたADAMTS13活性測定法のキット化を行い,そのキットの基本的な性能を評価した.<br> 本キットの最小検出感度は,健常人のADAMTS13活性100%に対して,0.4%と高感度であった.また,調製したプレート内のウエル間の均一性(変動係数(CV)=3.3%)は良好で,濃度の違う検体での同時再現性(CV=1.1~4.7%)及び日差再現性(CV=2.6~7.5%)も良好であった.希釈試験では,原点に回帰する良好な直線性が得られた.またヘモグロビンやビリルビン等の共存物質の影響は,検討した濃度範囲では認められなかった.反応はEDTAで完全に阻害された.<br> 臨床検体及び健常人検体を本キットで測定したときのADAMTS13活性は,健常人プール血漿100%に対し先天性のADAMTS13活性欠損症であるUpshaw-Schulman症候群(USS)で0.5%以下~2.7%,USS保因者群で7.7~85.3%,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)群で0.5%以下~58.1%,健常人で54.7~134.4%と測定され,TTPの診断に必要な判別能を有しており,SDS-agaroseゲル電気泳動法との相関は相関係数(r)=0.931と良好であった.本キットは優れた性能と操作性を有していることから,TTPの診断や血小板輸血時の適否判断などにおいて有用であると考えられた.<br>
著者
岸野 光司 中木 陽子 小野崎 文子 進藤 聖子 大槻 郁子 小林 美佳 小幡 隆 田村 光子 菅野 直子 藤原 慎一郎 松山 智洋 森 政樹 小澤 敬也 室井 一男
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.456-462, 2012 (Released:2012-07-13)
参考文献数
17

ABO血液型主不適合同種骨髄移植では,溶血を防ぐためドナー骨髄液より赤血球を除去する必要がある.今回,自動細胞分離装置SEPAXTMを用いて骨髄液から単核細胞を分離し,得られた単核細胞を移植(骨髄移植)したので報告する.SEPAXは,無菌閉鎖回路で自動的に細胞処理を行う卓上型の機器である.2009年から2011年,ABO血液型主不適合のためSEPAXを用いて単核細胞を移植した骨髄移植13例を解析した.骨髄液の容量が880mlを超える場合,遠心後血漿を除き総量を880ml以下に調整した.先ず,所定のキットを装着したSEPAXを用いて骨髄液からバフィーコートを分離した.次に,SEPAXを用いてFicoll比重遠心法によって単核細胞を分離した.得られた単核細胞は,直ちに移植前処置の終わった患者に輸注された.骨髄液処理前のCD34陽性細胞数は154.6±74.1×106個,分離した単核細胞中のCD34陽性細胞数は73.6±47.8×106個,CD34陽性細胞回収率は49.1±22.8%であった.移植されたCD34陽性細胞数は,患者体重あたり1.43±0.78×106個/kg.骨髄移植後,1例は生着前に感染症で早期死亡したが,残り12例は全例生着した.SEPAXは,骨髄液からのCD34陽性細胞を含む単核細胞の分離に有用である.