著者
姫野 太一 北島 奈緒 西口 知宏 平山 恭子 今滝 真奈 宮沢 将史 藤本 剛至 岡﨑 加代子 岡田 亜美 和嶋 郁子 駒場 章一 丸山 貴資 傍島 聰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O1005, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】Functional Reach Test(以下FRT)や片脚立位といったバランス評価は、高齢者の転倒予測因子の1つとして広く活用されているが、立位バランス能力の優劣には様々な要因が関与しており、検査値の大小だけではバランス不良の原因を特定することは困難である。しかし運動学的観点から捉えた立位バランス機能は、足底部へ落ちる体重心の移動範囲に規定されているため、足部末端に位置する足趾の機能は立位バランス機能の改善を図る意味で極めて大きな役割を担っていると考えられる。今回、自立歩行可能な高齢者を対象に足趾の筋力や柔軟性に関する機能評価を実施し、立位バランス能力指標であるFRTならび片脚立位保持時間との関連性について検討を行ったので報告する。【方法】対象は下肢の外傷及び機能障害、極度の足部変形、神経学的症状を認めない屋内独歩自立の外来通院患者22名(平均年齢:74.2±7.96歳、疾患部位:上肢15名、脊柱7名)である。検査項目はa)足部の関節可動域(母趾MP・IP関節の自動と他動屈曲角度、足関節背屈角度)、b)端座位における足趾の筋力(1.足趾把持力:TANITA社製の握力計を改良し作製した足趾把持力計にて測定、2.足趾圧迫力:体重計を足趾MP関節以遠に設置し測定)、c)バランス検査(1.FRT、2.片脚立位時間)の3項目を実施した。なおb)は股・膝関節90度屈曲位、足関節0度位の測定肢位において各3回計測し、平均値を算出した。検討方法は過去1年間の転倒経験の有無から転倒群(12名、平均年齢:78.8歳±6.70)と非転倒群(10名、平均年齢:68.9歳±5.84)とに分け、各検査項目における群間比較を行った(T-test)。また検査項目間の関連分析に関しては、既に先行研究によって転倒と関連性が証明されているバランス能力と他の項目との関係についてPearson積率相関係数の検定を行った。なお有意水準はいずれも5%未満とした。【説明と同意】対象者には測定前に本研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で施行した。【結果】2群間の比較ではいずれの項目においても転倒群が低値を示しており、IP関節自動屈曲角度、足趾把持力、足趾圧迫力、足関節背屈角度の4項目については危険率5%、片脚立位時間とFRTの2項目では1%の水準で有意な差が認められた。次にバランス検査と他の項目との関連については、転倒群において足趾把持力(r=0.61、p=0.036)とFRTとの関係に相関が認められた。一方、非転倒群ではIP関節他動屈曲角度(r=0.70、p=0.025)、足関節背屈角度(r=0.67、p=0.033)の2項目にFRTとの相関が認められた。なお片脚立位時間は両群ともに他の項目と相関を認めなかった。【考察】今回の対象者は自立歩行可能な高齢者であったが、その中での転倒歴をみると、2群間での関節可動域や筋力、バランス能力は転倒群では非転倒群より有意な低下が認められた。これらは先行研究と同様な結果であった。高齢者の転倒や歩行能力と関連があるとされているFRTや片脚立位時間は、バランス評価として代表的なものであり、特にFRTは動的バランス評価として用いられ、支持基底面より重心が前方に逸脱した際に足趾屈曲筋による支持作用が重要である。よって足趾を含めた動的バランスを評価するにはFRTが適していると考える。今回、FRTにおいて非転倒群ではIP関節と足関節可動域、転倒群では足趾把持力に強い相関関係がみられた。非転倒群で足趾屈曲筋力低下を認めず、FRTに必要なだけの足趾屈曲筋力を有していたと推察される。重心の前方移動に伴い、足趾把持力の活動が優位になるとIP関節は屈曲位をとる為可動域が必要であり、足関節においては背屈角度が必要となる為にFRTの値そのものが左右され、相関関係を認めたと考える。この為、非転倒群では足趾屈曲筋力よりも、可動域や柔軟性の影響をうけやすいと考える。これに対し転倒群では関節可動域制限と筋力低下を有している。また転倒を経験している為に心理的な要素として恐怖心があり、足関節背屈位をとれず代償的に足関節底屈位となり、重心が後方に残存した状態で制御しようとする為、足趾把持筋力に依存したと考える。片脚立位時間は静的バランス評価であり、先行研究によると足部より近位の筋力の関与が大きい為、今回足部機能との関連性は認めなかった。【理学療法学研究としての意義】高齢化社会が進む中で、転倒予防は今後の理学療法の現場のみならず、医療社会において重要な位置づけを占めているといえる。今回主にFRTに影響を与える因子について言及したが、FRTは従来言われているように転倒だけでなく歩行とも関連が深い。FRTの向上により歩行能力も向上するが、その要因として今回のような足部・足趾機能の向上が関与している。今後足趾の筋力や可動域の改善により、バランス能力の向上を図り、転倒予防や歩行能力の向上につながるものと考える。
著者
村木 孝行 山本 宣幸 Zhao Kristin Sperling John Steinmann Scott Cofield Robert An Kai-Nan
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C2Se2052, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】肩関節後方関節包の拘縮は可動域制限を引き起こすだけでなく肩関節のインピンジメントを誘発する因子になるとされている。肩関節内旋や水平内転などの生理的な肩関節運動は後方関節包を伸張しうるが、インピンジメントを避けて伸張を行うには関節の副運動を用いた関節モビライゼーションが有効である。しかし、後方関節包を伸張するために関節モビライゼーションを用いる時にどれくらいの外力を加え、何回反復する必要があるのかについては明らかにされていない。本研究の目的は新鮮凍結遺体から得られた肩関節後方関節包に対し、Maitlandの振幅手技を想定した滑り運動を反復して行った時の関節包の伸張量と機械特性の変化を調べ、重大な組織損傷を引き起こさずに関節包の長期的な伸張効果が得られる最小負荷とその反復回数について検討することである。【方法】標本には新鮮凍結遺体から採取された21肩を用いた。標本準備においては、まず肩関節標本の軟部組織を表層から順に切除し、後方関節包と上腕骨、肩甲骨だけを残した。さらに、この後方関節包の中央部分だけを残して上腕骨と肩甲骨を連結する幅30mmの後方関節包標本を作製した。次に、肩甲上腕関節の後方滑りをシュミレーションできるように試験標本をMTS Systems社製材料試験機に設置し反復負荷試験を行った。反復負荷試験は3種類の負荷(5N、20N、40N)での後方すべり手技を想定して行った。これらの3種類の後方滑り負荷はHsuら(2002)の報告を参考にし、後方すべり手技時に1)最初に抵抗を感じる点(5N)、2)抵抗が徐々に大きくなる点(20N)、3)抵抗が大きくなり滑りが止まる点(40N)として定義し、各負荷の大きさは前実験にて同様の後方関節包標本から得られた負荷‐伸張曲線から算出した。後方関節包標本は各負荷での反復試験に対して7標本ずつ振り分けた。反復負荷の回数は1Hzの振幅手技を10分間行うことを想定し600回とした。また、反復試験の長期効果を観察するために試験1時間後に同様の設定で1回の負荷試験を行った。反復試験は後方関節包に0.2Nの後方滑り負荷をかけた時の肢位から開始した。反復試験時には5Nの後方滑り負荷を加えたときの後方関節包の伸張量(5N伸張量)を反復1回目、100回目、200回目、300回目、400回目、500回目、600回目、そして試験終了1時間後に記録した。また、反復1回目、600回目、そして試験終了1時間後に得られた負荷‐伸張曲線の傾きから後方関節包の剛性を算出した。統計処理にはone-way repeated measures ANOVAを用い、Post hoc検定にはDunnettの多重比較検定とBonferroniの多重比較検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】本研究はメイヨークリニック倫理委員会のサブグループである生物標本研究委員会で承認された。【結果】3種類のすべての負荷において、100回目から600回目の5N伸張量は反復1回目よりも有意に大きかった(p<0.05)。5Nでの反復試験では試験1時間後の5N伸張量は反復1回目に対して有意差はなかったが、20Nと40Nの反復試験では試験後1時間経過しても反復1回目と比較して有意に大きな5N伸張量を示した(p<0.05)。また、試験1時間後の5N伸張量に関して3種類の負荷を比較したところ、40Nの反復負荷では5Nの反復負荷よりも有意に大きな5N伸張量を示したが(p<0.05)、20Nと5Nでは有意差は見られなかった。後方関節包の剛性に関しては、3種類すべての負荷において600回目の剛性が1回目より有意に増加し(p<0.005)、試験終了1時間後には有意に減少した(p<0.05)。5Nの反復負荷では1回目と試験1時間後の間に有意差はなかったが、20Nと40Nでは試験後1時間経過しても剛性は1回目より有意に増加していた(p<0.005)。【考察】本研究の結果より、伸張時に抵抗を感じ始める程度の負荷(5N)では反復負荷終了時(600回目)には後方関節包が伸張されていても1時間後にはその伸張効果が消失してしまうと考えられる。それに対し、抵抗が増加する(20N)、あるいは滑りが止まる(40N)地点まで負荷が加えられた場合は1時間経過しても伸張効果が保たれ、負荷が大きいほどその効果が大きくなることが示唆された。また機械特性の点では、後方関節包の剛性が減少した場合は組織の大きな不可逆損傷が考えられる(Provenzanoら、2002)。本研究ではどの負荷でも反復負荷終了時には剛性が一時的に増加し、1時間後には減少するという経過をたどるが、開始時と比較して剛性が減少することはなかった。この点を踏まえると、滑りが止まる点まで負荷が反復して加えられても重大な組織損傷は起こさず、伸張効果が長期間維持されると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回得られた研究結果は関節モビライゼーションを用いて肩関節後方関節包の伸張を行う際に有用な基礎情報となりうる。
著者
西山 知佐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3O1166, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】リハビリテーション(以下リハとする)医療における今後の展開として、訪問リハサービスの提供量を増やし、かつ質も高めることで国民により認知されるよう働きかける動きがある。一方で鍼灸マッサージ師等が訪問マッサージを行っているが、なかには「訪問リハビリマッサージ」と称して機能訓練も行う業者も存在する。介護保険制度においては利用者本位の観点から必要でかつ適切な介護サービスが選択できることが理念の一つとして謳われている。我々現場で携わる者としては質の良いサービスを提供しないと利用を中止され、さもないと経営面にも大きく影響する場合もある。このような状況下にありながらも、どの程度サービスを利用されているのか実態を調査した文献はなかった。そこで訪問リハと訪問マッサージの併用利用について調査し、現状を把握することを目的とした。【方法】対象者は平成20年10月から21年9月までの間で当院理学療法士(以下PTとする)が提供する訪問リハを1か月以上利用した76名とした。サービス利用状況は調査期間内の対象者のサービス提供票から集計した。必要に応じて担当PTやケアマネージャー、利用者およびその家族からの情報を参考にした。さらに愛知県介護サービス情報公表センター、社団法人愛知県鍼灸マッサージ師会のホームページを参考に、当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区の資源の分布状況を調査した。【説明と同意】訪問リハ開始にあたって契約時に個人情報の取り扱いについて説明を行い、文書で同意を得た。個人情報取り扱いに関する院内規定に則り実施した。この中には質の向上のための研究が使用目的の一つに挙げられている。【結果】対象者76名のうち訪問マッサージを利用しているのは10名、過去に利用していたのは3名、加えて接骨院等へ通っているのは2名であった。うち訪問マッサージを利用した13名の介護度は要介護2が3名、要介護3が1名、要介護4が2名、要介護5が7名であった。該当する利用者の障害像は要介護2、3の場合は疼痛が強く日常生活に何らかの支障を来していた。ADLのほとんどは自立もしくは一部介助レベルであるが、外出は諸々の事情により困難であった。一方要介護4、5の場合は関節可動域制限や疼痛のあるケースがほとんどであり、寝たきりでおおむね全面的に介助が必要な状態であった。訪問マッサージ利用者が他に利用している介護保険サービスとその人数は訪問介護8名、訪問入浴6名、訪問看護9名、通所介護2名、通所リハ1名、短期入所3名であった。当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区のサービスの分布状況は訪問リハが11箇所、リハを提供している訪問看護ステーションが15箇所であった。また従事者数は訪問リハのPT38名、訪問看護ステーションのPT24名に対して、鍼灸マッサージ師会の登録者は164名であった。【考察】今回当院訪問リハ利用者の中における訪問マッサージ利用者の割合は19.7%であったが、他事業所との比較については言及できない。あくまで当院利用者における傾向を知るものであり、この研究の限界である。また資源の分布状況についても公表されているデータを用いたため、妥当性に欠けるところがある。ある文献にて「近隣に訪問リハサービスがなかったため、訪問マッサージを導入した」という報告が散見されたが、当院近隣の状況はこれとは違い決してサービス量は少なくない。だが訪問リハに従事しているPTよりも鍼灸マッサージ師の方が圧倒的に多く、提供できるサービス量の上でも後者の方が多いと思われた。しかし単純に量だけでなく、併用しているケースが存在することを考えるとリハとマッサージを使い分けて利用していることが示唆された。その背景として訪問マッサージは医療保険を使用できること、訪問リハよりも自己負担が少ないこと、ケアマネージャーの中で「リハは運動、マッサージはリラクゼーション」というイメージを持っていることが挙げられる。特に要介護4、5の利用者は利用限度枠近くまでサービスを利用しており、それに伴い経済的負担も大きく困っている利用者も少なくなかった。さらに関節拘縮予防の目的で短時間でもよいので運動頻度を増やしたい思いが利用者の中にあり、訪問マッサージも導入したのではないかと考えられた。またこれ以外のケースにおいては疼痛緩和やリラクゼーションの目的でマッサージを選択し、リハは運動や生活指導の目的で利用していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今後PTの職域の拡大を目指し、PTをはじめ多くの人々が努力している。さらなる発展のためには我々の置かれている現状とそれを取り巻く周囲の様子を把握しておく必要があると考える。
著者
篠澤 毅泰 吉田 和恵 波多野 陽子 辻 哲也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E4P3184, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 当院では入院患者に対し、リハビリ時間以外でも自主訓練が行えるよう、自主トレーニング(以下、自主トレ)を実施しているが、定着する患者と定着しない患者がいるのが実状である。渡邊らは外来患者を対象とし、自主トレの定着効果にセルフエフィカシー(ある結果を生み出そうとしたときの行動選択に直接的な影響を及ぼす因子のことで、自己効力感・自己遂行可能感と訳す、Banduraが提唱)が関与することを報告したが、入院患者を対象とした研究はいまだない。また、自主トレ定着効果についての研究は少なく、不明な点も多い。 本研究の目的は、入院患者を対象としてQOL尺度である生活満足度、セルフエフィカシー等を評価し、分析・検討することにより、自主トレ定着に影響を及ぼす因子を特定することである。【方法】 対象は当院入院患者のうち、認知症・失語症・高次脳機能障害の診断がなく、病棟内の移動およびトイレ動作が自立している当院入院患者とした。対象者に対して自主トレを導入、日々の実施記録を1週間記載してもらい、毎日自主トレを実施できた患者を定着群、1日でも実施できなかった患者を非定着群とした。 自主トレ提案時に、ADL評価としてFIM(機能的自立度評価法)、主観的QOL評価として生活満足度尺度K(以下、LSIK)、セルフエフィカシーの評価として一般性セルフエフィカシー尺度(以下、GSES)を評価した。 定着群、非定着群の2群間で各評価項目について比較検討を行った。統計処理にはMann-WhiteneyのU検定を用い、5%未満を有意水準とした。【説明と同意】 本研究の内容、自主トレの内容と効果については各担当者より説明し、同意を得た上で実施した。なお、当院の倫理委員会で承認を得た上で実施した。【結果】 対象者は18名、定着群は11名、非定着群は7名であった。内訳は男性8名、女性10名、平均年齢74.8±12.1歳、整形疾患8名、脳血管疾患10名であった。2群間に性別、年齢の有意な差は認めなかった。 2群間の比較では、GSESにおいて定着群10.9±2.8、非定着群5.9±3.9であり有意差(P<0.01)を認めた。一方、LSIKは定着群3.5±2.7、非定着群3.0±2.6、FIMは定着群107.4±8.2、非定着群103.1±10.1、発症からの日数は定着群100.9±42.0、非定着群94.1±28.8であり、いずれも有意な差を認めなかった。【考察】 渡邊らの先行研究と同様に、当院入院患者においても自主トレの定着効果にはGSESが関与していた。GSESは個人が生活していく状況の中で、困難な状況にどの程度耐えられるのかに関連する要因であり、広い意味での精神的健康と密接な関係があるといわれている。その得点が高い個人ほど困難な状況で、「問題解決行動に積極的に取り組み、自分の意志、努力によって将来に展望をもつという時間的展望に優れる」「自分の行動は努力や自己決定の結果であるという意識が高く、何に対しても努力しようという態度がみられる」と考えられている。 本研究においても自主トレという課題に対してGSESが高い患者ほど積極的に行い、定着するということが認められた。またLSIKにおいて有意な差が認められなかったことから、自主トレ定着には生活に満足している、満足していないという主観的QOLは関与していないことが分かった。 今後自主トレの定着効果を求めるうえで、GSESがその指標となる可能性が示唆された。GSESが高い患者は、自主トレ定着に対し特別な関わりを必要としないが、GSESが低い患者は、積極的に取り組むことが困難な場合があり、自主トレの提案方法や自主トレ提案後のセラピストの関わり方などに何らかの工夫が必要になると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 入院患者においても自主トレの定着効果にGSESが関与していることが分かり、LSIKは関与していないことが分かった。今後自主トレを提案する際にGSESの得点で、より積極的な関わりが求められる患者かどうかの選別ができる可能性がある。例えば、GSESの低い患者を集め、特定の関わり方をした群と通常の関わり方をした群で定着率に差が出るかを検証するなどして、GSESが低い患者の自主トレ定着には、どのような工夫や関わり方が必要になるかについて、今後検討していきたい。
著者
細木 一成 福山 勝彦 鈴木 学 丸山 仁司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2076, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】国立社会保障・人口問題研究所が発表した西暦2050年の日本人の平均寿命は、男性80.9歳、女性89.2歳と予測している。このように平均寿命は伸び今後、高齢者の数がますます増加してくるのは明白である。時間的に制約のある病院、介護老人施設、訪問リハビリテーションで理学療法士が行う個別の理学療法は限界があり、病院や施設内、在宅で後部体幹筋などのリラクゼーション効果を得ることは不十分で、理学療法を有効に活用できないと考える。体幹筋の筋緊張の軽減や、リラクゼーション効果を得る手段として、乗馬療法やフィットネス機器のジョーバなどが多く研究され紹介されている。その中でもジョーバは簡便に行えるが、立位、座位バランス能力が低下した高齢者においては、使用することが困難であろうと予測する。これに対する一つ手段として、座位にて振幅運動を利用したロッキングチェアによる運動により同様の効果が得られないかと考えた。ロッキングチェアよるリラクゼーション効果判定の手段として、施行前後のFFD(finger-floor distance)および重心の前方移動距離の変化を測定し、若干の知見を得たので報告する。【方法】被験者は理学療法士養成校に在学する腰痛等に既往のない成人男女10名(男性5名、女性5名、平均年齢24.1±6.2歳)とした。5分間の安静座位を取らせた後FFDおよび重心の前方移動能力の測定を行なった。方移動能力の測定は福山らの方法に順次、アニマ社製グラビコーダGS-10を使用した。被検者を床反力計上に5cm開脚位、2m前方の目の高さにある目標点を注視して起立させた。まず10秒間の安静時重心動揺を測定した。次に体幹を屈曲させたり踵を浮かせたりすることなく身体を前方に最大移動した状態で保持させ、10秒間の重心動揺を測定した。前方移動時のMY(MEAN OF Y:動揺平均中心偏位)値から安静時のMY値を減じ、さらに足長(踵の後面から第1趾先端までの距離)で除し前方移動能力とした。次に被験者をロッキングチェア(風間家具のヨーロッパタイプ)上に安楽と思われる姿勢で座らせた。床に足底を接地した状態で、下肢の筋力を使わず体幹筋の運動により10分間、前後に揺らすことを指示した。振幅させる周期は被験者の任意とし10分間安楽に行なえるように配慮した。ロッキングチェアでの10分間の運動後、運動前と同様の方法でFFDと前方移動能力の測定を行なった。運動前後のFFDおよび前方移動能力の値についてウィルコクソンの符号順位和検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。なお統計処理には統計解析ソフトSPSS 11.5J for Windowsを使用した。【説明と同意】被験者に対し目的・方法を十分説明し理解、同意を得られた方のみ実施した。実施中に体調不良となった場合は速やかに中止すること、途中で被験者自身が撤回、中断する権利があり、その後になんら不利益を生じず、また個人情報は厳重に管理することを伝えた。【結果】FFDは運動前で平均2.1cm±10.9cm、運動後で平均5.2cm±11.4cmと運動後に有意に増加した(p<0.05)。前方移動能力は平均27.4%±8.2%、運動後で平均31.7%±4.8%と運動後に有意に増加した(p<0.05)。【考察】今回のロッキングチェアでの運動によりFFD、前方移動能力が増大したことについては、後部体幹筋、下腿後面筋に対するリラクゼーション効果により体幹、下肢の柔軟性が増大したものと推察する。佐々木らによれば体幹の筋緊張、体幹回旋筋力といった体幹部分の機能異常や能力低下が、寝返り、起き上がりなどの動作を困難にしていると述べている。高齢者の寝返り、起き上がりなどの基本動作能力の維持・向上を考えると個別に行なう理学療法以外に、高齢者自身が行う自主的な運動が必要となってくる。このような運動は継続することが重要で、簡便さが必要になり複雑な運動や、負荷が強ければ継続が困難となる。簡便で安価に導入できるロッキングチェアの持続運動は、体幹筋の過緊張が原因で寝返り、起き上がりが困難となっている高齢者に対して、有効で動作の遂行に好影響を及ぼすものと推測する。【理学療法研究としての意義】ロッキングチェアを使用した持続運動は後部体幹筋、下腿後面筋に対するリラクゼーションに効果があり、高齢者自身が行う運動に対し有効であると考える。
著者
玉利 光太郎 Kathy Briffa Paul Tinley
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O1136, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】わが国の50歳以上人口における変形性膝関節症(以下膝OA)の有病率は,男性では約44%,女性では約65%と報告されている.これは欧米諸国と比較してもより高い割合であることが示唆されているが,その理由は明らかになっていない.また50歳以上では,女性が男性に比べ高い発生率を有し,70歳代に限るとその数は1/100人年まで上昇する.これらの疫学的数値は,膝OAに対する治療のみならず,発生予防・重症化予防の重要性を示唆している.また肥満や過去の膝受傷歴等の危険因子に対する取り組みだけでなく,文化的差異や性差を念頭においた関連因子の探索が重要である.近年は横断面上の下肢マルアライメントや股関節モーメントの異常と膝OAとの関連が指摘されているが,理学療法において日常的に取り扱われる下肢回旋可動域と膝OAとの関連についてはいまだ不明である.そこで本研究では,下肢回旋可動域と膝OAとの関連,およびその性差・人種差を明らかにすることを目的とし,以下の調査を実施した.【方法】対象は,日本または豪州在住の50歳以上の健常者86名(うち男性33名,白人34名,),膝OA者202名(うち男性69名,白人102名,)であった(平均年齢±標準偏差:健常群67.5 ± 9.4歳,膝OA群69.5 ± 8.1歳,p=0.07).測定変数は股関節および膝関節外旋,内旋可動域(以下それぞれ股・膝外旋,内旋)とし,電子傾斜計を用いて測定した.なお大腿骨・脛骨の捻転角度や,膝関節・足関節・足部の動きが上記可動域値へバイアスを与えることが報告されているため,これらバイアスを除く方法を考案し股・膝内外旋を測定した(検者内信頼性ICC=0.74-0.96).データの分析には三元配置の分散分析を用い,有意水準αは0.05とした.【説明と同意】本研究はCurtin University of Technologyの倫理委員会の承認を得て実施した.各被験者には紙面で研究内容を説明し,同意書を得た.【結果】分析の結果,膝OA群の股外旋は健常群に比べ有意に小さく(Δ=5.8度,p=0.004),[性別]×[膝OAの有無]には有意な交互作用が認められた(p=0.049).すなわち,男性においては健常群,膝OA群の股外旋に差は認められなかった一方,女性においては膝OA群の股外旋が有意に小さかった(Δ=8.4度,p<0.001).股内旋において健常群と膝OA群に違いは認められなかったが,[人種]×[膝OAの有無]に交互作用が認められた(p=0.002).すなわち日本人においては膝OA群の股内旋が小さい傾向が認められたが(Δ=3.6度,p=0.078),白人においては膝OA群の股内旋が有意に大きかった(Δ=5.0度,p=0.029).膝OA群の膝外旋は健常群に対して有意に小さい値を示したが(Δ=2.5度,p=0.005),膝内旋には両群間に違いは無かった.また膝外旋,内旋ともに交互作用は認められなかった.【考察】本研究結果より,膝OAと下肢回旋可動域には関連があり,股回旋と膝OAとの関連には性差または人種差が存在することが示唆された.特に膝OAを有する女性の股外旋は健常者に比べ明らかに小さい一方,男性ではほぼ同等であることが示唆された.下肢回旋可動域と膝OAとの関連について調査した先行研究は少ないものの, Steultjensら(2000)は129名の膝OA患者の下肢関節可動域と障害度との関連について調査を行なっている.その結果股関節の外旋,伸展,および膝の屈曲可動域の減少と障害度が有意に関連していたと報告している.これは膝OA者の日常生活における活動減少が,股外旋を含む可動域制限を導いている可能性が示唆される.同時に,本研究では股外旋制限が女性膝OA者で強く認められたことから,女性に多く見られる膝OAの関連因子として股外旋が何らかの役割を担っている可能性もある.本研究は横断的デザインのため因果関係については言及できず,また対象者のうち健常男性、健常白人数が少ないため結果の一般化に限界がある.今後は,縦断的に股外旋と膝OAとの関連について調査して行く必要がある.【理学療法学研究としての意義】日本人や女性に多く認められる膝OAの特徴を二カ国にまたがって調査した研究はまだ少なく,膝OAと股関節可動域に関する性差を報告した研究は無い.膝OA者において通常症状を有さない股関節にも可動域制限があることを示したことは,臨床理学療法学を構築していくためのひとつのエビデンスになると考える.
著者
木村 浩三
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3O1088, 2010 (Released:2010-05-25)

【はじめに】 脊髄小脳変性症(SCD)の理学療法として、弾性包帯や重錘負荷による方法がある。しかし、これらの方法は代償的要素が強く小脳の賦活は低い。そこで、脳科学の研究結果を読み解き小脳の賦活が認められる身体活動・脳活動から新しく理学療法(Physiotherapy Based on Brain Sciences:PTBBS)を創造した。PTBBSを症例に試行し良好な効果が得られた。【目的】 脳科学の研究結果において、小脳が賦活する多くの身体活動・脳活動の中からPTBBSの運動課題として1)感覚識別課題、2)選択的注意による課題、3)時間的要素を含む課題、4)空間的要素を含む課題を重点に創造し、試行したPTBBSの一部を紹介する。【方法】 SCDの症例に、PTBBSを試行し、試行前後で理学療法評価を行った。評価内容は、運動失調症のテスト(鼻指鼻・鼻指・膝打ち・手回内回外・足趾手指・踵膝・向こう脛叩打試験)・坐位バランス(エアスタビライザー上で坐位保持、同上で坐位保持での足踏み)・立位バランス(平地・前傾斜面・後傾斜面・側方斜面での立位保持)とした。また歩行実態も確認した。PTBBSの実際は、認知神経リハビリテーションの技法を変用し独自に創造した。【説明と同意】 症例本人へPTBBSの試行について説明し同意を得て本研究を行った。また、大分県立病院リハビリテーション科の臨床研究に関する倫理審査で承認を受けた。【症例と経過】 患者は70歳代女性。診断名はSCD。現病歴は3年前よりめまい出現、最近ふらつきが悪化し、転倒傾向が強くなった。平成21年7月15日に当院入院となる。初期評価は平成21年7月28日。PTBBS開始は同年7月31日、最終評価は同年8月25日に行った。【理学療法の実際】 小脳が賦活する身体活動・脳活動の中からPTBBSの運動課題として、1)感覚識別課題は、下肢へ圧覚(スポンジ)、触覚(コイン)、位置覚(傾斜板)重量覚(体重計上で左右均等)などの課題を、2)選択的注意による課題は、上肢や下肢での形や線を擦る運動、下肢で順序運動、歩行では点踏み歩行を、3)時間的要素を含む課題は、上肢や下肢でリズム運動を、4)空間的要素を含む課題として上肢での積み木、ドミノ、ブロックパズルなどを試行した。【結果】 運動失調症のテストでは、鼻指鼻・鼻指・膝打ち・手回内・回外、足趾手指試験、踵膝は陽性から陰性に、向こう脛叩打試験で左下肢は陽性で変化なかった。座位バランスでは、エアスタビライザー上での坐位保持での動揺が軽度から消失へ、同上での坐位保持で足踏みの動揺が、前後方向で重度から消失へ、左右方向で重度から軽度へ改善した。立位バランスでの動揺は、平地で軽度から消失へ、前傾斜面で軽度から消失へ、後傾斜面で転倒から軽度へ、側方斜面で軽度から消失へ改善した。歩行は歩行器介助歩行から杖監視歩行になった。【考察】 小脳は、繊細な運動・非常に複雑な運動・新しく経験する運動・順序が決められた運動などで賦活する。小脳を賦活させるには、感覚情報(視覚・聴覚・体性感覚)を使用した身体活動・脳活動の中で、感覚情報と身体運動をいかに時間的・空間的に同調させ、規則的な運動課題を行わせるかが重要である。脊髄小脳変性症の改善にPTBBSが小脳機能の改善に効果を示す可能性は高い。【理学療法学研究としての意義】 新しい理学療法の創造
著者
吉田 剛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3O1068, 2010 (Released:2010-05-25)

【はじめに】一般的に、加齢により喉頭位置は下降して、嚥下時の喉頭挙上、食道入口部開大を阻害するといわれているが、喉頭が上方に位置して喉頭運動を阻害する病態については知られていない。我々は嚥下運動阻害因子を検討するための指標として相対的喉頭位置を開発し、臨床で用いてきた。本学会で過去に発表した縦断研究では、嚥下障害重症度の悪化時に、頸部・体幹機能の低下と相対的喉頭位置の上昇が生じることを示したが、悪化群は6名と少なかったため、喉頭位置が上昇することにより悪化することの意味は解明できなかった。【目的】脳卒中による嚥下運動障害者について、発症後、片麻痺などの運動障害による姿勢への影響がある程度定着したと考えられる回復期以降のデータを横断的に分析し、嚥下運動障害者の中で、相対的喉頭位置が上方に位置する者がどれくらい存在するのかを明らかにしたい。また、相対的喉頭位置が特に高い群と低い群および中等度群の3群に分けて、その特徴を検討することで、喉頭位置が上方にある群の特徴を明らかにしたい。【方法】対象は、脳血管障害による嚥下運動障害を有し、発症から評価までの期間が90日以上経過したデータを有する127名(男女比69:58、平均年齢75.2±13.2歳)であった。評価項目は、嚥下障害について、才藤の臨床的病態重症度分類、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂版水飲みテスト(MWST) 、食物テスト(FT)の4つ、頸部・体幹機能として、吉尾らの頸・体幹・骨盤帯機能ステージ(NTPステージ)、頸部関節可動域4方向(回旋と側屈は左右で少ない方の値を採用)、運動麻痺の程度は、下肢のブルンストロームステージを4段階にグレード化し、ステージ1と2を重度=3、3と4を中等度=2、5と6を軽度=1、麻痺なし=0とした。また、我々が開発した嚥下運動阻害因子に関する評価項目として、前頸部最大伸張位でのオトガイ~甲状切痕間距離GT、甲状切痕~胸骨上端間距離TS、GT/(GT+TS)で計算する相対的喉頭位置(T位置)、舌骨上筋筋力を4段階で示すGSグレードを採用した。127名の全データから、T位置が、平均値より1標準偏差以上逸脱しているかどうかで、上方群、下方群、平均群の3群に分類した。統計処理は、有意水準を5%未満として、平均群と上方群、平均群と下方群間の比較には、ウェルチのt検定およびマン・ホイットニーのU検定を用い、各評価項目間の相関については、各群でピアソンの相関係数を求めた。【説明と同意】ヘルシンキ条約に基づき、全対象者またはその家族に対して、研究の目的、方法を十分に説明したうえで、同意を得た。【結果】127名のT位置の平均は、0.41±0.07であり、上方群(T位置<0.34)は24名(平均70.0±18.1歳)で、下方群(T位置>0.47)は、14名(81.6±8.6歳)、平均群は89名(平均75.7±11.9歳)であった。上方群はGTが短く、下方群はTSが短い傾向がみられた。平均群に比べて、上方群は、頸部可動域制限が全方向にみられ、GSグレード、反復唾液嚥下回数も低かった。下方群は、平均群に比べて、年齢が高く、頸部伸展・回旋・側屈の可動域制限、GSグレード、NTPステージ、FTの低下がみられた。各群の指標間の相関は、全体および平均群では弱い相関であったが、上方群と下方群では、中等度の相関がみられる項目が多く、上方群では、GTとTSがNTPステージと、また重症度とNTPステージの間に中等度の相関がみられた。上方群の中でも、GSグレードが高く、TSの長さが長い者は軽症である傾向があり、下方群でもGSグレードが高い者は軽症である傾向がみられた。【考察】嚥下運動障害者のT位置は、下降により問題が生じるケースが多いが、上方に位置する場合も平均群より問題が大きいことが明らかになった。T位置上昇は、頸部・体幹機能低下によって生じる頸部筋緊張異常によるものと推察された。しかし、各群の中にも、GTやTSが標準より長いか短いか、喉頭挙上筋である舌骨上筋の活動が強いか、頸部可動域が標準以上であるかどうかで、嚥下障害の重症度は影響を受ける傾向がみられた。従って、これらの嚥下運動に影響を与える複数要素を複合的に評価しながら、嚥下運動の改善を図ることが必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】嚥下時喉頭挙上運動は、喉頭下降によって阻害されているばかりではなく、上昇位でも阻害されることが明らかになった。嚥下運動阻害因子を評価しながら、その病態に合わせて、舌骨上筋群の強化、舌骨上・下筋群の伸張性改善、頸部筋緊張の改善による可動域の向上などを行うことが、理学療法士の役割として重要であることが示唆された。
著者
庭田 幸治 岩月 宏泰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.G4P2309, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】共感とは単なる他者理解という認知過程ではなく、認知と感情の両方を含む過程とされる。医療における共感は患者と接する過程で第一印象を持ち、その独自性に気づき、共感的に理解し、積極的に関わり、信頼関係を深める、というプロセスを辿るとされ、医療者側の意識化、経験によってこのプロセスは影響されると考えられている。共感の重要性は理学・作業療法養成校の学生が臨床実習を行う場合でも同様であるが、学内教育での共感性習得はカリキュラムに盛り込まれることが少なく、今までその特色について議論されることもほとんどなかった。そこで今回、長期の臨床実習経験と共感性との関連について調べ、共感性習得のための教育のあり方について検討した。【方法】対象:青森県内の4年制の理学療法士及び作業療法士養成校に在籍する学生230名(1~4年生それぞれ54、55、66、55名)を対象とした。収集方法:質問調査票は自記式、無記名で、学生に配布後、留置法にて回収した(回収数184名、回収率80.0%、有効回答数181名、有効回答率78.7%)。調査内容:質問紙は加藤・高木ら(1980年)による情動的共感性尺度EES ; Emotional empathy Scale 25項目と下山によるアイデンティティ尺度(1992年)20項目、職業未決定尺度(1986年)6項目で構成されており、今回基本属性とEESについて解析した。統計学的検討は(1)因子分析(主因子法、バリマックス回転、因子は固有値2.0以上、因子パターンは0.5以上のものを採択)により因子の構造について分析を行い、因子負荷量の大きい質問項目に対しては学年間の差についてKruskal-Wallis検定を行った。(2)EES下位尺度「感情的暖かさ尺度」「感情的冷たさ尺度」「感情的被影響性尺度」ごとに合計点数を算出し、学年間について同様に1元配置分散分析を行った。【説明と同意】調査票には調査の目的、無記名で統計的に処理することを明記し、提出は調査に同意した場合に自由意志で行うこととした。【結果】EESの下位尺度はいずれにおいても学年間で有意な差は見られなかった。因子分析では3因子が抽出され、それぞれ「他者感情の冷静な把握」、「他者感情と自己決定の分離」、「他者への同情」と命名された。3因子の信頼性係数αはそれぞれ0.806、0.528、0.678であり、内的整合性を認めた。各因子との因子負荷量の大きい質問項目から学年間で有意な差が見られたのは、「人が嬉しくて泣いているのを見るとしらけた気持ちになる」、「他人の涙を見ると同情的になるよりも苛立ってくる」であり、4年生は他の学年より「全くそう思わない」との回答が多かった。【考察】他者への共感の獲得には患者の気持ちに気づき、患者と双方向の協力関係があると認識して関わることが重要であるとされる。このような態度は医療者がもともと備えている感性や姿勢に、経験を通して実感したことが加わって患者に対する姿勢に現れるものと考えられる。長期実習では対患者との人間関係を構築する必要性が高まり、この過程で共感性が習得されると思われる。したがって患者が置かれている現状と学生自身の経験との類似性を見出すことができないと共感性を持つことは困難となる。また、1~3学年で学年間の差が見られないことは、学内教育での共感性習得の困難さを示すものと考えられ、今まで理学・作業療法教育において臨床実習で学生自身が自ら共感性を習得するのに任せていた現状もあると思われる。したがって、養成校の教員には専門的知識のみでなく、広い教養を持つことが経験の不足を補い、患者と学生自身の経験の類似性を見出すのに有効であることを学生に理解してもらい、共感性を得るためのスキルトレーニングやロールプレイを行うことが必要であると考える。また、本研究の結果は長期臨床実習時に患者、実習指導者によって提供される患者への気づき、患者との協力関係を体験する道徳的環境が共感性習得に重要な機会であることを示唆するものである。共感性の習得は自己の周囲の状況を認知する能力、その状況の中で自己の果たすべき役割を理解する能力によって促され、共感的な人が周囲にいることは最も効果的であるとされる。したがって臨床実習指導者の共感的な医療提供場面を学生に示すことは共感性の育成に果たす役割が大きいと思われ、教員には学生が共感性を習得しやすい環境を具体的に実習指導者に提示することも必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】臨床実習は学内教育と異なり、学生の心理面への影響が大きい。心理的尺度を用いて共感性習得に対する学内教育ならびに臨床実習の効果を明らかにすることは、学生の心理的成長を目的とした理学療法・作業療法教育のあり方、さらに看護など他の職種における教育との差異を検討する際に有用であると考える。
著者
瓜谷 大輔 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2078, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】解剖学や運動学のテキストに書かれている筋の作用は解剖学的肢位における作用である。しかし、いくつかの股関節回旋筋については股関節屈曲角度の増大に伴って、その作用が解剖学的肢位での作用から逆転することが報告されている。股関節回旋筋の筋力を測定する際には股関節90度屈曲位で行うのが一般的であるが、上記のことから考えると股関節90度屈曲位での筋力測定は,テキストに記載されている股関節回旋筋の主動筋の筋力を反映していないのではないかと考えられる。そこで本研究では、股関節の肢位による股関節回旋トルクの変化について調査することを目的とした。【方法】対象者は下肢に外傷等の既往のない健康な大学生20名とした(男性6名、女性14名、平均年齢21.6±1.0歳)。測定前にボールを蹴る方の脚を利き脚として利き脚側を事前に聴取した。対象者はトルクマシン(Biodex System3、Biodex社製)のシートに、シートの前縁が膝窩部に一致するように座らせ、代償動作を抑制するために体幹,骨盤,計測側大腿部をベルトで固定し,シート両側の手すりまたは支柱を把持させた。測定条件は座面に対するバックレストの角度を10度(臥位)、55度(半臥位)、85度(座位)の3条件に設定することにより,股関節屈曲角度を変化させた。運動課題は股関節内外旋0度、内外転0度、膝関節90度屈曲位での最大等尺性股関節内旋・外旋運動とし、両側に対して実施した。各条件下での測定は、5秒間の運動と5秒間のインターバルを反復して内旋、外旋を交互に3回ずつ行った。左右の順番および測定条件の順番については、被験者ごとに無作為に設定した。また各条件での測定間には1分間のインターバルを設けた。各条件で得られたデータについては測定した3回のトルクの平均値を算出し、採用した。統計解析は利き脚か否か(以下、脚要因)とバックレストの角度(以下、角度要因)の二要因での二元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用いて行った。なお有意水準は5%未満とした。【説明と同意】対象者には事前に研究の主旨について説明し、書面への署名によって同意を得た。【結果】本研究の結果、股関節内旋トルクおよび外旋トルクともに,脚要因と角度要因による交互作用は認めなかった。股関節内旋トルクについては角度要因(p<0.01)にのみ有意な主効果を認めた。多重比較検定の結果,股関節内旋トルクはバックレストの角度55度で10度より有意に高値であり(p<0.01),85度では10度および55度より有意に高値を示した(それぞれp<0.01,p<0.05)。一方股関節外旋トルクについては両要因ともに主効果は認められなかった。【考察】遺体を使用した研究で、Dostalらはモーメントアームの長さの変化から、股関節20度伸展位で股関節内旋筋として作用する11筋のうち、股関節40度屈曲位では5筋で股関節内旋トルクが減少し、さらにそのうちの3筋は外旋筋に転じたと述べている。一方、股関節20度伸展位での股関節外旋筋については16筋のうち9筋は股関節40度屈曲位で外旋トルクが減少し、うち7筋については内旋筋に転じたと述べている。Delpらも同様に股関節屈曲角度の増大に伴い複数の股関節内旋筋で内旋トルクが増大し、股関節外旋筋では外旋トルクが減少すると報告している。本研究結果からも、股関節屈曲角度の増大とともに股関節内旋筋のモーメントアームが長くなり、産生される股関節内旋トルクが増大し、有意な変化を示したものと考えられた。一方、股関節外旋トルクについては、モーメントアームの変化が股関節外旋トルクに与える影響は小さく、また臥位という不慣れな肢位で運動を行った影響がモーメントアームの変化以上に影響を与えていたことが考えられた。本研究では設定した各肢位での股関節の角度について実測値を示すことができておらず、今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】今回、股関節の肢位の変化によって股関節内旋の等尺性運動でのトルクは有意な変化を示した。今後は股関節回旋筋力評価や股関節回旋筋の治療やトレーニングを実施するにあたって、股関節の屈曲角度を考慮したうえで実施する必要があり、当該部位の既存の評価や治療については再考すべき点があることが示唆された。
著者
小栢 進也 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A2Se2029, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】筋が収縮すると関節は回転力を生み出し、筋力として発揮される。昨年我々は数学的モデルを用いて股関節の関節角度変化によるモーメントアームの変化を報告し、筋の発揮トルクが関節角度により大きく異なる可能性を示した。筋の発揮トルクはモーメントアームだけでなく、筋線維長や筋断面積などに影響を受けるとされており、本研究では股関節屈曲角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを数学的モデルにより検討した。【方法】股関節運動に作用する15筋を対象とし、股関節は円運動を行うとした。モーメントアームおよび筋・腱の線維長はKlein Horsmannらの筋の起始停止位置から算出した。大殿筋下部線維、大腿筋膜張筋は、起始から停止までを直線的に走行するのではなく、途中で骨や軟部組織に引っかかる走行変換点を考慮したモデルを用いた。なお、腸腰筋はGrosse らが提唱したwrapping surfaceの手法を用いた。この方法は走行変換点の骨表面を円筒状の形状ととらえて計算する方法で、筋は起始部から円筒に向かい、その周囲を回って走行を変え、停止に向かうとする。また、生理学的断面積・羽状角・筋や腱の至適長はBlemkerら、筋の長さ張力曲線はMaganarisらの報告を用いた。なお、本研究では関節運動によって、モーメントアームと筋線維長は変化するとし、生理学的断面積、羽状角は関節運動によって変化しないものとした。解剖学的肢位での起始・停止の位置から、股関節の角度に応じた起始の座標を算出した。次に、起始停止から筋の走行がわかるため、各筋のモーメントアームを求めた。このモーメントアームと筋の走行から、単位モーメント(筋が1N発揮した時の関節モーメント)を算出した。さらに筋の長さ張力曲線から想定される固有筋力、生理学的断面積、羽状角の正弦と単位モーメントとの積から各筋が発揮できる屈伸トルクを算出した。【説明と同意】本研究は数学的モデルを用いており、人を対象とした研究ではない。【結果】腸腰筋は26.3Nm(伸転20°)、23.7Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、26.1Nm(屈曲60°)の屈曲トルクを有し、伸展域と深い屈曲位で高い値を示した。一方、大腿直筋は10.5Nm(伸転20°)、18.4Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、28.1Nm(屈曲60°)であり、50°付近で最も高い屈曲トルクを有した。伸転筋に関してはハムストリングス全体で、11.2Nm(伸転20°)、42.0Nm(屈曲0°)、70.6Nm(屈曲30°)、74.2Nm(屈曲60°)と、伸展域では伸展トルクは小さいが、屈曲域になると急激にトルクは大きくなる。一方、大殿筋は20.9Nm(伸転20°)、29.3Nm(屈曲0°)、35.4Nm(屈曲30°)、29.0Nm(屈曲60°)と、ハムストリングスと比較して伸展域では大きな伸展トルクを発揮するが、屈曲位では半分以下のトルクしか持たない。また、内転筋は伸展域で屈筋、屈曲域で伸筋になる筋が多かった。【考察】腸腰筋は伸展するとモーメントアームが減少して屈曲トルクが弱くなると考えられるが、wrapping surfaceの手法を用いるとモーメントアームは増加し、筋も伸張されるため、強い発揮トルクを発生できることが判明した。一方、深い屈曲位では腸腰筋が腸骨から離れて走行変換点を持たなくなり、モーメントアームの増加により発揮トルクが増加すると考えられる。腸腰筋は走行変換点を持つことで二峰性の筋力発揮特性を持つ。これに対し、大腿直筋は主にモーメントアームが屈曲50°付近でモーメントアームが増加し、強いトルクを発揮すると思われる。また、ハムストリングは坐骨結節、大殿筋は腸骨や仙骨など骨盤上部から起始する。このため、浅い屈曲位から骨盤を後傾(股伸展)すると坐骨結節は前方へ、大殿筋起始部は後方へと移動する。よってハムストリングはモーメントアームが低下し、伸展位では大殿筋の出力が相対的に強くなると思われる。一方、内転筋群は恥骨や坐骨など骨盤の下部から起始し、大腿骨に対しほぼ平行に走行して停止部に向かう。よって、解剖学的肢位では矢状面上の作用は小さいが、骨盤を前傾(股屈曲)すると起始部は後方に移動し、筋のモーメントアームは屈曲から伸展へと変わるため、筋の作用が変化する。特に大内転筋は断面積が大きく、強い伸展トルクを発揮できると思われる。【理学療法研究としての意義】解剖学的肢位とは異なる肢位での筋の発揮トルクを検討することは、筋力評価や動作分析に有用な情報を与える。特定の関節肢位で筋力が低下している場合、どの筋がその肢位で最も発揮トルクに貢献するかがわかれば、機能が低下している筋の特定ができる。また、内転筋のように、前額面上の運動を行う際に矢状面上の作用を伴う場合、内転筋の中でもどの筋が過剰に働いているのかを検討することも可能である。このように本研究で行った数学的モデルによる筋の発揮トルク分析は、理学療法士にとって重要な筋の運動学的知見を提供するものと考える。
著者
松嶋 美正 池田 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O2070, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】地域在住高齢者において総合的に身体機能の把握が可能な評価スケールは少なく,包括的身体機能評価スケールは,項目数が多く,取り扱いが不便であり測定に時間を要するため時間的に簡便であるとは言い難い。日常生活動作により包括的に身体機能を把握可能な評価スケールの一つにBerg Balance Scale(BBS)ある。しかし,屋内歩行が自立している地域在住高齢者の場合,項目によっては天井効果も見受けられるため,項目数の減少による簡略化が可能であると考えられた。したがって,本研究においてBBSの評価項目を精選し,項目数を減少させた簡略化BBSを開発することと,簡略化BBSの信頼性,他の身体機能や転倒との関連性を検証することを目的とした。【方法】対象は,病院・施設に外来,通所,入所しており屋内歩行自立している高齢者120名(年齢79.2±6.9歳)とした。男性57名,女性63名であった。主要疾患としては,脳血管障害が38名,整形外科疾患が51名,神経筋疾患が13名,循環器疾患が11名,その他が7名であった。歩行レベルは,独歩が68名,T字杖が37名,四点杖が4名,歩行器が11名であった。身体機能評価としてBBSの測定,BBS項目にある「リーチ動作」はファンクショナルリーチテスト(FRT)として計測した。また,BBS測定中,各項目の測定に要する時間を計測した。その他の身体機能評価としては,握力,最大10m歩行の測定を行った。転倒に関する調査として改訂転倒自己効力感尺度(MFES),転倒・つまずき経験の有無を聞き取り調査した。データの分析方法は,BBSのデータを統計ソフトのBIGSTEPSを用いてラッシュ分析を行い,対象者とBBS項目の関係を直線上に表し簡略化BBSを作成した。BBS原法と簡略化BBSの比較はPearsonの相関係数,簡略化BBSの信頼性分析(クロンバックのα)を検証した。簡略化BBSとその他の身体機能評価,転倒に関する調査との関連性はPearsonの相関係数を用いて検討した。いずれの解析も有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】本研究の主旨を説明し同意の得られたものを対象とした。また本研究は,首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理審査委員会の承認を得て実施された。【結果】BBS項目の難易度は,「座位保持」,「閉眼立位」,「立位保持」,「腰掛け」,「拾い上げ」,「立ち上がり」,「移乗」,「閉脚立位」,「リーチ動作」,「振り向き」,「ステップ動作」,「360°回転」,「継足立位」,「片脚立位」の順に難易度が高くなった。14項目のうち対象者の分布範囲内(±2SD)に難易度の高い8項目が含まれ,そのうち3項目がラッシュモデルとの適合度が不十分であった。8項目のうち適合度が不十分であった項目は,「ステップ動作」,「閉脚立位」,「移乗」であった。項目難易度と適合度からBBS14項目中,5~8項目(5~8BBS,簡略化BBS)を抽出した。クロンバックのαは,BBS原法で0.86,簡略化BBSで0.78~0.86であり,BBS原法との相関係数は,項目数が多いほど高くなり8BBSでr=0.99となった。BBSの評価時間においては,BBS原法で8.8±1.8分,簡略化BBSでは,4~6分程度であった。BBS原法,簡略化BBSと他の身体機能などとの関連性は,最大10m歩行やMFESで中程度の相関を示した。また,BBS原法や簡略化BBSと実際の転倒経験とは関連性が認められず,BBS原法でカットオフ値を45点と設定した場合の感度は41%,特異度は62%であった。【考察】BBSの各項目の難易度は,対象者が屋内歩行の自立しているものとしたため,日常的な基本動作能力は獲得されていると考えられ,本研究の対象者の場合,応用的動作から低下していくことが示唆され,BBS項目でも難易度が高い項目が身体機能の能力低下の抽出に有用だと推測される。簡略化BBSの信頼性,妥当性に関しては,包括的なスケールであることを維持し,原法と同等の信頼性を得るためには8項目は必要であると考えられる。内容的妥当性としては,対象者の分布範囲内である運動課題を実施することで十分であると考えられる。その他の身体機能との関連性としては最大10m歩行との関連性が認められたことから,基準関連妥当性が証明された。予測的妥当性は,BBS原法に転倒経験と関連性が認められなかったこと,また,BBS得点の45点をカットオフ値とした場合,感度も低く転倒に対するスクリーニングテストとしての妥当性は低いと考えられる。この点においては,今後も検討する必要性はあるが,信頼性,妥当性に関する原法との比較から8BBSに簡略化することは可能であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】評価スケールの中には,開発段階から考慮すると必ずしも様々な臨床場面の対象者において,相応しいスケールであるとは限らない。日頃使用している評価スケールが,その臨床場面,対象者に相応しいかどうか,一つの評価スケールについて検証した研究である。