著者
土屋 純
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.22-42, 2000-03-31 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
2

近年, コンビニエンス・ストア(以下, CVSと略)は, 物販だけでなく様々なサービスを供給する代理店として各方面の業界から注目されている.このような注目を受けるのは, CVSが全国的に広がり, かつ消費者に近接して分布しており, さらに情報・配送システムによってネットワーク化されているからである.しかし, CVSの地位的展開を考察した従来の研究は, ミクロスケールで行われたものが中心であり, 全国スケールで検討したものは少ない.そこで本研究では, CVSチェーンの全国展開パターンを検討し, CVSチェーンの発展とCVSの全国的普及過程との関わりについて考察した. 日本のCVS業界は上位集中化が進んでおり, 上位チェーンによる店舗展開がCVS全体の普及に大きく関わっている.よって本研究では, 出店戦略が特徴的な代表チェーン(セブンイレブン, ローソン, ファミリーマート, セイコーマート)を取り上げ, 全国展開のパターンについて検討した.その結果, 全国展開パターンとして, (1)大都市圏からの虫食い的展開, (2)拠点的展開, (3)エリアフランチャイズ方式, (4)特約店の支援の4つを指摘できた.しかし, これらのパターンには, 配送システムへの初期投資を円滑に回収する, あるいは運営コストを低レベルで押さえるという共通の要因が関わっており, ドミナントエリア(密度の高い店舗網)の形成という点で共通していた. このようなCVSチェーンによる全国展開によって, CVSの全国的分布には地域間, 都市階層間の偏在が形成されていることが明らかとなった.さらに, JITを前提としたルート配送が必要なことから, 都市遠隔山村, 半島部や離島へのCVS普及が進んでいないことも明らかとなった.
著者
端木 和経
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.148-163, 2017

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;本稿では北京における温州企業の集積地として知られる大紅門アパレル産業地域を事例として,温州出身者による企業が,どのような方法で親族や同郷者等との社会的ネットワークを活用しながら事業を成立させ,産業集積を形成したのかという点を検討した.以上の点を明らかにするために,本研究では同地域でアパレル生産・販売の事業を営む経営者82 名に対して資料収集とアンケート調査及びインタビュー調査を行い,その内容を分析した.調査結果は以下の通りである.大紅門では1980年代から温州出身者によるアパレル製品の工場と販売店の起業がみられるようになった.事業に成功した先行事業者たちは,さらに事業を拡大するために,親族や同郷者たちを労働者として大紅門に呼び寄せていった.これらの大量の労働者たちには,独立して起業する人も多かった.彼(女) らの多くは,縫製工場等で働きながら,生産や販売のための技術や知識,人脈等を身に付けていった.既に事業が軌道に乗っていた先輩の経営者たちは,地縁・血縁のある起業希望者たちに資金援助や取引先業者の紹介等の支援を行っていった.また,このような支援は,生産や販売面で分業を行うことができ,取引先の確保にもつながるため,先行事業者にとっても利益があったと推測される.このようにして大紅門には,地縁・血縁に基づく社会的ネットワークを有する同郷者による小規模事業者の集積が拡大していったことが明らかになった.</p>
著者
初沢 敏生
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.348-367, 2005-12-30 (Released:2017-05-19)

近年,産業集積地域における革新に関して多くの研究がなされている.これは地域経済を振興するための視点として重要であるが,地場産業産地に関しては,このような研究は十分に蓄積されているとは言い難い.そこで,本小論では益子陶磁器産地と笠間陶磁器産地を事例に,産地の革新の特徴と,それが地域的生産構造に与えた影響について検討した.地場産業産地の革新には,新製品開発と,それを支える技術・技能の習得システムが重要な役割を果たす.益子産地では濱田庄司の来住と民芸陶器の導入という外部からの刺激を産地として受け止め,さらにそのための人材育成システムが産地内部に形成されたことが産地の革新を可能にした.その後,これに対応する形で産地の生産・流通構造が形成され,産地を発展させた.しかし,生活様式の変化などに対応するため,現在,栃木県窯業技術支援センターなどが中心となり,新たな革新が進められつつある.一方,笠間産地では窯業指導所などの公的機関が産地の革新をリードした.ここでは窯業指導所が技術・技能面の研究・開発に加え,製品開発やその普及,人材育成などに関しても大きな役割を果たした.また,行政も産業基盤整備を積極的に行い,陶磁器業の発展を支援した.笠間産地の生産構造は,基本的にこの上に成り立つものである.近年,笠間産地も新たな課題に直面しているが,ここでは公的機関の支援による産地形成という枠組みを維持したまま新たな革新が進められている.産地の革新にあたっては,産地の内外をネットワーク化することが必要であるが,それにあたり,公設試験場の果たす役割が重要になってきている.
著者
橋本 雄一 濱里 正史
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.208-226, 1995
被引用文献数
3

本研究は福昂畢郡山市を事例地域とし, 都市内部で公共交通により形成される近接空間の変化を明らかにすることを目的とする. まず, 1977年と1987年の近接性データに準3相因子分析を行うことにより, 郡山市における近接空間を画定し, その変化について検討した. その特果, 両年次とも, 鉄道や主要道路ごとに近接空間が形成されており, 明確なセクター性が認められた. また, 市中心部においては, 郡山駅西側の市街地内部で強い結びつきが見られるだけではなく. 市街地縁辺の住宅地とも結びついて近接空間を形成していた. 1977年から1987年にかけての隣接空間の変化を見ると, 郡山駅南部の地区間結合が強くなっており, 逆に周辺地区間の強い結合は見られなくなった. 次に, 近接空間を包含する公共交通ネットワーク全体が, いかなる空間構造を有するのか, MDSを用いて検討した. その結果, 1977年には郡山駅を中心として, 等距離に市街地周辺地区の布置が見られたが, 1987年には郡山駅西側および南側の地区が郡山駅の近くに分布し, 市北部の地区は逆に駅から離れた布置となっていた. この変化は, 郡山市西部および南部で人口が急増したことによる公共交通の需要に, 公共交通ネットワークが対応したことによると考えられる. 以上のことから, 当該期間において公共交通ネットワークは, 都市内部のあらゆる部分地区間の移動を確保するものから,部分地区ごとの需要の違いに対応したものに変化したと推察される.
著者
高崎地域大会実行委員会
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.178-183, 2005-06-30

2004年度の地域大会を10月23〜24日に開催した.23日午後より24日午前中まで,シンポジウムに出演いただくパネラーの案内により群馬県内を巡検し,地域の実情を視察した(川場村泊).巡検終了後,24日午後に高崎経済大学にてシンポジウムを開催した.巡検の参加者は34名,シンポジウムの参加者は70名(うち会員46名)であった.巡検宿泊先の川場村で新潟県中越地震が発生し,新潟県出身者やそこからの参加者の留守宅や親類の安否が心配されたものの,両日とも天候に恵まれ,成功裡に全日程を終了することができた.なお,巡検は,高崎経済大学地域政策学部の戸所隆氏,津川康雄氏に御案内いただいた.シンポジウムのコーディネーターは,千葉立也(都留文科大),西野寿章(高崎経済大)がつとめた.
著者
藤本 典嗣
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.292-303, 2017

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;「グローバル」と「世界」は,国家間の国境がなくフラットな中で諸経済フローが地球中の空間に展開する状態と,国境は存在するものの世界経済の中に諸経済フローが中核・周辺などの階層に包摂されていく状態とに区分される.金融はその地理的な流動において,国際決済通貨や証券・債権のいずれにおいても価値尺度の世界的共通性もあり,前者のグローバルな性質を内在している.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;1986年に「世界都市仮説」がJohn Friedmannにより提示されて以降,金融指標をはじめとする諸経済フローを用いて,世界の主要都市の地位・序列を様々な統計手法でランキング化し,都市間の階層構造を明らかにする試みが,英語圏・本邦の都市研究の中でも,都市システム研究により主におこなわれてきた.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;そのなかで,GaWC (Globalization and World Cities) 研究ネットワークなどの英語圏の研究の多くは,欧米を主眼に置いた都市間結合を明らかにしているが,多くの文献で東京の地位が下がったことが指摘されている.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;本稿は,都市システムの階層構造の中で,金融面に着目し,東京がどのように位置付けられるのかの分析をおこなった.まず,国内における金融面での東京の地位について,従来から地域構造論で扱われてきた預貸率分析に加え,日本銀行券受払の本社・支店別収支からも,明らかにした.他方で,グローバル都市システムにおける,東京の地位については,株式時価総額,外国為替取引額や関連する指標を用いながら,国民経済規模との関係で,その位置付けを検証した.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; 国内では,その地域的経済規模以上の,金融機能が集中している東京であるが,国際比較においては,日本の国民経済の規模と同程度の国際金融機能を量的に有していることが,株式時価総額,外国為替市場取扱額などの数値から明らかになった.また,東京の地位が下がっていることが確認されるのは,香港,シンガポールなどの新興市場や,ロンドンとの比較の上であり,大半の国の世界都市は,その都市がグローバルな結節となる国・地域の国民経済規模未満の国際金融機能しか有していないことが明らかになった.</p>
著者
堤 純
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.478-489, 2007-12-30
被引用文献数
1

近年,オフィスの空室率や地価水準といった経済状況を示す代表的な指標をみると,札幌の経済は1990年代後半以降に進んだ深刻な不況からの改善傾向がみてとれる.しかし,これが本当に札幌の今後の更なる成長や発展を意味するかどうかは疑問である.1972年の札幌冬季オリンピック開催とそれに並ぶ地下鉄南北線の開通および政令指定都市化が続き,この時期に札幌駅前通りを中心にビルの高層化が著しく進展した.これらのビルの多くは旧財閥系の大手資本によるオフィスビルであった.これらのオフィスビルには,本州から数多くの企業が進出し,札幌の成長は長らく「支店経済」によって支えられてきた.1990年代後半以降,北海道経済は深刻な不況に陥った.これまで札幌の成長を支えてきた支店経済そのものが縮小することが懸念された.一方で,新たな成長産業の柱として,IT関連産業の発展および,北海道大学周辺への同関連産業の集積(「サッポロ・バレー」)がみられた.確かに,従業員規模の小さいIT関連事業所の新設や集積は確認できるものの,この産業が札幌の成長を牽引するほど強固なものとはいえない.また,近年の札幌では確かに「情報通信業」の従業者数や事業所数は増加傾向にあるが,新設だけでなく廃業も高率で推移することが指摘されている.中でも,コールセンターの従業者は急増しているものの,同時に関連する派遣従業者(非正規雇用)の増加も深刻な問題となっている.深刻な不況がさけばれる中,札幌市内には,2000年以降も新規のオフィスビル建設が続いた.JR札幌駅前に2003年に竣工したJRタワーは,札幌では最高の立地条件を備えたオフィスビルといえる.JRタワーに入居するオフィスに関して特筆すべき点として,ホテルや各種オフィスの中に,東京から進出したコールセンターが複数階に渡って入居していることが挙げられる.これは従業員の技術水準が立地要因ではなく,単に東京に比べて安いオフィス賃料水準や安い人件費に起因する企業進出と考えられる,一方,北海道内の周辺市町村(とくに農村部)では深刻な不況に拍車がかかっている.「札幌で働く」あるいは「札幌の一等地にあるJRタワーで働く」ということは,有望な就職先に乏しい北海道の周辺市町村の若者にとって非常に魅力的である.札幌で働けるのであれば,職種や雇用の形態は大きな問題とはならない傾向にある.進出企業にとっては,札幌の一等地にオフィスを開設することで,人材確保の問題を克服できる利点もある.また,札幌のオフィスビル内部でのテナント移動を詳細にみてみると,多くのビルにおいて空室率の上昇が確認できた.中でも,敷地面積の狭小な個人所有のビルや,建築年次の古いビルにおいて空室率が高い傾向が確認できた.かつては最高の立地条件と言われた札幌駅前通り沿線や,そこから1ブロック奥の通りにおいても空きテナントが目立つ状況となっている.一方で,近年竣工した複数の大規模オフィスビルの殆どで空きテナントはみられない.生駒CBREのデータによれば,札幌のオフィス事情は向こうしばらくの間は好況が続くとみられている.その理由は,北海道内の他都市に立地する支店の札幌支店への統合・再編や,札幌市内の都心周辺部(創成川東や西11丁目周辺等)から札幌市都心部への拡張移転や館内増床の動きが顕著にみられるからである.これらの動向をみる限り,札幌は今後も成長を続けると判断することも出来るかもしれない.しかし現状は,北海道内における札幌の一極集中の加速とみるべきであり,今後も持続的な成長が見込めるかどうかは不確実とみるのが妥当であろう.
著者
福田 崚 城所 哲夫 瀬田 史彦
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.201-216, 2017-09-30 (Released:2018-09-30)
参考文献数
36

経済活動の広がりに応じた圏域設定や都市間結合について,多くの既往研究が存在するが,通勤通学のような派生的な 需要に基づいて記述されるものがほとんどであり,必ずしも実態を適切に反映していない.これに対し本研究では,金融 機関の利用や取引関係といった企業間関係に基づく圏域設定を行い,それに基づく都市間結合の記述を試みた.結果,金 融関係は取引関係と比して近接地域と強い紐帯をもつことが明らかになった.東京一極集中の傾向が強いが,大阪や福岡 が一定の中心性を有していることが示された.取引関係に着目すると,福岡や仙台などでは自地方の諸都市との間の発注 と受注に大きな格差が確認された.金融関係に着目すると,大都市集中傾向は相対的に弱く,県境を越えた都市間の依存 関係も確認できた.また,中小企業によって結ばれた取引にのみ着目すると一極集中傾向は弱まった.
著者
片岡 博美
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-25, 2004
被引用文献数
2

近年の国際労働力移動を取り巻く変化の中,外国人労働者と彼らのエスニック・コミュニティ,エスニック・ビジネスは,積極的に評価される傾向にある.本研究では,受入先の地域社会におけるエスニック集団の主体的活動であるエスニック・ビジネスに注目し,静岡県浜松市のブラジル人を対象としたエスニック・ビジネス事業所でのアンケート調査及び聞き取り調査をもとに,その現況,地域的展開を分析し,それらビジネスがブラジル人や受入先の地域社会に対して果たす役割や意義を検討した.1990年の入管法改正以降の浜松市及び浜松都市圏内におけるブラジル人の増加に伴い,浜松市のエスニック・ビジネス事業所の多くはその商圏を拡大させ,近隣居住のブラジル人を対象とした小規模な「狭域エスニック型」とともに,市外の広域な地方のブラジル人を対象とした「広域エスニック型」,ブラジル人以外をも対象とした「外部市場進出型」事業所が増加した.2000年以降,ブラジル人を対象とした市場が飽和状態となり淘汰・転換期を迎えた浜松市のエスニック・ビジネスであるが,広域な地方をターゲットにした事業展開や外部市場への進出に活路を見出す事業所は依然増加傾向にあり,今後も継続的発展が予測される.浜松市におけるエスニック・ビジネスは,ブラジル人コミュニティの中心やブラジル人援助の中心,そして受入社会との接点としての役割も果たしており,「民族/生活様式」専門化地域として,交流・接触の場として,トランス・ナショナルな文化空間として,自助組織結成の布石として,地元の地域社会に貢献し得る可能性を持つ.
著者
斎藤 丈士
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.19-40, 2003
被引用文献数
4

日本の農業構造政策は,1990年代よりグローバリゼーションの影響を受けてきた.それに加えて,1990年代中頃からの稲作部門への市場原理の導入は,大規模稲作農家の経営に変化を与えた.本稿の研究目的は,農地流動と農家の階層移動に注目して,1990年代における北海道の大規模稲作地帯の形成と変動を明らかにすることにある.主たる対象地域は,北海道北空知地方の沼田町である.沼田町の稲作農家は,1990年代以降,北海道農業開発公社の事業を利用して農地の購入を進めてきた.開発公社事業を利用しない農家についても,相対取引や離農農家からの農地の借り入れによって経営規模の拡大を図ってきた.北海道の稲作地帯では,農地の取得を前提とした自作農的な規模拡大から,府県と同様に借地による規模拡大へと変化しているといわれる.本稿においても,農地の賃借権設定による農地の移動が,農地流動全体の中で一定の地位を占めていることを確認した.調査地域の農家は,1990年代に北海道農業開発公社の事業の利用や農地借用によって経営規模の拡大を進めてきた.しかし,米の過剰基調にともなう米価低迷により,稲作による収益は農地購入当初の見込みとしていた水準から乖離する結果となった.一方で,農地価格の下落も米価低迷と同時期に生じた.このことは,賃借権設定による農地流動展開の一要因となったと考えられる.しかし,小作料の高止まりもあり,これまでの急速な規模拡大路線にも一つの転機が来ているように思われる.
著者
森川 洋
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.119-134, 2007
被引用文献数
1

郡制度を欠くわが国では町村と市は対等に扱われるため,財政能力の低い町村は地方交付税の削減の中で,「平成の大合併」に組み込まれざるを得なかった.これに対して,郡の機能的支援によって特別市と対等の立場に立つドイツの市町村は,これまで市町村連合を形成しながらも,小規模市町村が自立し,「市民に身近な政治」を維持してきた.しかし今日,市町村の郡納付金や州からの基準交付金に依存する郡の財政は,州からの任務委託の増大によって著しく悪化してきた.各州では郡の機能改革が計画され,メクレンブルク・フォアポメルン州のように,郡の地域改革に着手しているところもある.
著者
與倉 豊
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.187-203, 2014-09-30 (Released:2017-05-19)

九州半導体産業は,経済産業省の産業クラスター計画や文部科学省の知的クラスター創生事業など科学技術振興施策の元で,システムLSIや三次元実装など競争優位を有する技術を順次導入し,大手半導体メーカーの再編や東アジア諸国の技術的キャッチアップなど時代ごとの環境変化に適応してきた.本稿では,九州における半導体産業の高度化を振興する事例として,九州経済調査協会が事業実施の中核主体となる国際会議の開催事業と,ビジネスマッチング事業を取り上げ,半導体関連企業間の多様なネットワークの形成過程について検討した.分析の結果,2001年の初開催以降,国際会議が多様な国から参加者を集め,国際取引を可能とさせる商業の場として機能していること,また既存の人的ネットワークの強化に寄与していることを明らかにした.そして国際会議で構築された人的ネットワークの活用を目的として,2008年より開始されたビジネスマッチング事業では,継続的な情報交換によって相互に他企業を認知するなかで信頼関係が醸成され,九州内外の企業間で新規取引関係が構築されていることを示した.そのような多様な企業間のネットワーク形成において,半導体技術に関して卓越した知識を有するコーディネーターが重要な役割を果たしていることが示唆された.
著者
塚田 悟之 高田 邦道
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.157-175, 2000
被引用文献数
1

航空機の高速化, 大型化は, 滑走路延長による空港規模の拡大とともに, 騒音や振動による公害問題を生じさせた.その結果, 空港は都心から離れて立地するようになった.そして今日, 都市と空港間のアクセス整備が重要な課題となってきている.本稿は, 時間距離を用いた等時線図を評価尺度に, 空港の有するアクセシビリティを, 時間的・空間的に評価することを目的としている.本稿では, 空港を起点とし, 軌道系交通機関と道路交通を利用した等時線図を作図し, この図から読みとったデータをもとに定量分析を行っている.前半部では, まず, 羽田, 成田, 新千歳, 福岡, 関西の拠点空港におけるアクセシビリティの比較分析をとおして, 各空港のアクセシビリティを評価した.また, 地方空港として初めて空港内に鉄道(空港連絡線)が乗り入れした宮崎空港に着目し, 空港連絡線の乗り入れ効果と自家用車によるアクセシビリティの把握を行った.その結果, 空港アクセスを整備していく際の課題を整理することができた.後半部では, 特に, 羽田空港に焦点を絞り, 等時線図の分析結果と, 旅客へのアンケート調査ならびに空港周辺高速道路の旅行速度調査の両分析結果を併用して, アクセシビリティのあり方について考察することができた.
著者
加藤 幸治
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.318-339, 1993
被引用文献数
3

本稿の目的は, 仙台市を事例として, 地方中枢都市におけるソフトウェア産業について, とくに事業所の性格・取引構造に注目し, 当該地域における展開と機能的特徴を, 実態に即して明らかにすることである. ソフトウェア産業の地方展開, なかでも地方中枢都市でのそれは, 域内の産業の「高度化」につながるとともに, 経済的中枢管理機能の分散の前提とみられている高次サービス機能の集積を促進するものであるとして, 政策立案者などの視点からは積極的な評価をあたえられていた. しかし, 今回対象とした仙台におけるソフトウェア産業の実態は, そうした「期待」を裏付けるものとはいいがたい. その取引構造の特質をみる限り, 仙台のソフトウェア産業はもともと受託計算の割合が高く, 後進的で, 技術的には低位にあり, 周辺的性格が強かった. 加えて, 80年代のソフトウェア産業におけるソフトウェア開発中心へという構造変化によって事業所の地方展開が促進されたことで, 周辺性は再編・強化された. 仙台のソフトウェア産業は,依然として, 技術的に低位にあって, 低次部門を担っているだけではなく, 東京資本の進出にともない「域外支配」が強化され, また東京からのコストダウン, リスク分散を目的とした外注利用の増加により, 下請として従属的性格を強めている. 東京一極集中構造の是正, 多極分散型国土の形成・促進の役割を果たすと期待されているソフトウェア産業の地域的展開ではあるが, 仙台市におけるその「成長」をみる限り, そうした「成長」も, 実際には, 企業内地域間分業の下に枠づけられたもので, 既存の地域構造, 地域間関係の下に組み込まれ, その再生産・強化に寄与している側面が強い.