著者
緒方 正美 三木 正男
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.28-30, 1993-06-30

Daphnis nerii (Linnaeus) is recorded from Shikoku for the first time. A female specimen was captured at Niihama, Ehime Pref.
著者
加藤 義臣 大日向 健人 中 秀司
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-8, 2009-01-10
参考文献数
19
被引用文献数
1

A nymphalid butterfly Hestina assimilis assimilis, which was recently discovered in Kanagawa prefecture in Japan, undergoes larval diapause and show a seasonal change in wing color pattern: summer and spring (white) morphs. In the present study, temperature and photoperiodic conditions responsible for the control of seasonal morph determination was investigated. First, when post-diapause larvae were reared under various temperatures (15℃, 20℃, 25℃ or 28℃) at a long photoperiod (16L-8D), most of the eclosed adults were of white morph (spring morph). Second, larvae were initially exposed to a short photoperiod (10L-14D), and then transferred to 16L-8D to avoid diapause occurrence. Resulting adults were white morph. Third, individuals were reared at various temperatures (15, 20 or 25℃) under a long photoperiod (16L-8D) through larval and pupal stages. Low temperatures of 15℃ were quite effective for white morph production, but moderate (20℃) or high (25℃) temperatures were not effective, and all butterflies produced developed black veins on the wing (summer morph). Fourth, in experiments where different rearing temperatures were combined during the larval life, a temperature of 15℃ combined with 20℃, but not with 25℃, was effective for producing some intermediate or white morphs. Fifth, the temperature-sensitive stage for white morph production was mostly located in the 3rd and 4th instars (in partiular, 4th instar). In these experiments, white morph production was closely linked with extremely delayed larval development. The results strongly suggest that not only a short photoperiod, but also a relatively cool temperature including 15℃ is quite effective for white morph production even without an intervening larval diapause. Probably, an unknown neuro-endocrine mechanism may be responsible for the seasonal morph regulation as in the case of other butterfly species.
著者
小林 隆人 北原 正彦
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.201-212, 2005-06-20

ゴマダラチョウとオオムラサキは同じ寄主植物を利用し, 寄主植物の根元で越冬するなど似たような生活環を持つチョウである.本研究では, これら2種について, 越冬幼虫の密度と様々な環境要素との関係を, 落葉広葉樹二次林(以下, 二次林)の断片化が進んでいる都市部と二次林が広く残存する都市郊外において調べた.オオムラサキの幼虫の密度は都市部よりも郊外において有意に高かったのに対し, ゴマダラチョウの幼虫の密度は郊外と都市部の間で有意な差がなかった.調査地と種を独立変数とした二元配置の分散分析の結果から, オオムラサキは都市化による二次林の減少に敏感であるのに対し, ゴマダラチョウはオオムラサキよりも二次林の減少への適応力が優れているなど, この2種は互いに異なる生活史戦略を持っていると思われた.寄主植物周囲の森林および二次林の面積とオオムラサキの幼虫の密度の間には都市と郊外の双方において正の相関が認められた.これに対し, ゴマダラチョウの幼虫の密度は木の周囲の森林や二次林の面積とは有意な相関がなかった.オオムラサキの幼虫の密度が周囲の二次林の面積の減少とともに低下したことには, 二次林面積の減少によって雌成虫による産みつけられる卵の密度が低下したこと, もしくは若齢あるいは中齢幼虫の死亡率が高くなったことが関係していると思われる.一方, ゴマダラチョウの幼虫の密度と周囲の二次林面積との間に有意な相関が見られなかった理由の一つは, 雌成虫が周囲の二次林面積に関係なく餌植物に産卵を行っていたことと思われる.この他に, 幼虫の死亡要因がオオムラサキと異なっていて, 死亡率が周囲の二次林面積に関連しないことも考えられる.本研究により, 両種が日本において地理的にはある程度共存するものの, 局所的には分布地域が異なる原因を明らかにするために有効な手掛かりが得られた.
著者
小林 隆人 北原 正彦
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.201-212, 2005
参考文献数
14

ゴマダラチョウとオオムラサキは同じ寄主植物を利用し, 寄主植物の根元で越冬するなど似たような生活環を持つチョウである.本研究では, これら2種について, 越冬幼虫の密度と様々な環境要素との関係を, 落葉広葉樹二次林(以下, 二次林)の断片化が進んでいる都市部と二次林が広く残存する都市郊外において調べた.オオムラサキの幼虫の密度は都市部よりも郊外において有意に高かったのに対し, ゴマダラチョウの幼虫の密度は郊外と都市部の間で有意な差がなかった.調査地と種を独立変数とした二元配置の分散分析の結果から, オオムラサキは都市化による二次林の減少に敏感であるのに対し, ゴマダラチョウはオオムラサキよりも二次林の減少への適応力が優れているなど, この2種は互いに異なる生活史戦略を持っていると思われた.寄主植物周囲の森林および二次林の面積とオオムラサキの幼虫の密度の間には都市と郊外の双方において正の相関が認められた.これに対し, ゴマダラチョウの幼虫の密度は木の周囲の森林や二次林の面積とは有意な相関がなかった.オオムラサキの幼虫の密度が周囲の二次林の面積の減少とともに低下したことには, 二次林面積の減少によって雌成虫による産みつけられる卵の密度が低下したこと, もしくは若齢あるいは中齢幼虫の死亡率が高くなったことが関係していると思われる.一方, ゴマダラチョウの幼虫の密度と周囲の二次林面積との間に有意な相関が見られなかった理由の一つは, 雌成虫が周囲の二次林面積に関係なく餌植物に産卵を行っていたことと思われる.この他に, 幼虫の死亡要因がオオムラサキと異なっていて, 死亡率が周囲の二次林面積に関連しないことも考えられる.本研究により, 両種が日本において地理的にはある程度共存するものの, 局所的には分布地域が異なる原因を明らかにするために有効な手掛かりが得られた.
著者
小林 隆人 北原 正彦 中静 透
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.152-160, 2009-03-30

オオムラサキの個体群を保全する目的で餌植物の植林を行う際の効果的な植林方法を明らかにするため,本種の保護を目的としてクヌギとエノキが交互に列状に植林された場所とその周囲の天然林で,エノキとクヌギの密度・大きさ,オオムラサキ幼虫の木当たり密度を調べた.植林区林内では枯死したエノキがある程度見られたが,クヌギの枯死は見られなかった.植林区のエノキのdbh(胸高直径)は周囲の天然林のエノキよりも有意に小さかった.しかし,植林区の林縁のエノキに限っては,dbhは林内のエノキよりも大きく,周囲の天然林のエノキと差がなかった.周囲の天然林においても,林縁のエノキのdbhは林内のエノキよりも大きかった.植林区のエノキにおける木当たり幼虫数は天然林よりも有意に少なかった.植林区でも周囲の天然林でも木当たり幼虫数は林内よりも林縁で有意に多かった.ただし,植林区の林縁のエノキにおける木当たり幼虫数は天然林の木当たり幼虫数と有意に異ならなかった.本種を保護するには植林予定地の内部にクヌギを,林縁にエノキを植えるべきである.
著者
船越 進太郎 山本 輝正
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.201-208, 1996-09-05

1992年および1993年,6月から10月にかけて,長野県乗鞍高原(東経137°37',北緯36°06',標高1,450m)および石川県白峰村市ノ瀬(東経136°37',北緯36°10',標高830m)の登山センターなどの建物の下でコウモリに食された蛾の翅を集め,同定するとともに前翅長を測定した.乗鞍高原の建物の天井部分はクビワコウモリEptesicus japonensis,ヒメホオヒゲコウモリMyotis ikonnikovi,ウサギコウモリPlecotus auritus,コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,カグヤコウモリMyotis fraterが夜間休憩場所として使用しており,中でもクビワコウモリが多く,時には200頭を数えた.ここでは餌となった8科114種の蛾を同定したが,小型の種が多く,未同定個体も含め前翅長は19.3±6.53(x^^-±S.D.)mmであった.これに対し,市ノ瀬の建物天井部分には主としてキクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinumが多く,わずかにカグヤコウモリが含まれていた.ここでは10科42種の蛾を同定したが,ヤママユガ科,スズメガ科などの大型種が多く含まれていた.前翅長は47.3±15.56(x^^-±S.D.)mmで,乗鞍高原のものとは大きな差があった.乗鞍高原で見られるコウモリは小型種が多く(前腕長33-45mm;優占種クビワコウモリ38-43mm),市ノ瀬で見られるコウモリはそれより大型種が多かった(前腕長36-65mm;優占種キクガシラコウモリ56-65mm).昆虫食のコウモリの中でキクガシラコウモリは他の種より大型であり,大型の蛾(前翅長の最大は81.6mmのヤママユ)から小型の蛾までを捕っていた.これに対し,クビワコウモリは小型種であり,より小さな蛾(前翅長の最大は42.4mmのシロシタバ)を捕っていた.キクガシラコウモリは餌を捕まえるとき腿間膜(足の間の膜)を使用することが知られる.そのため,大型種から小型種までさまざまな大きさの餌を効率よく捕っているのかも知れない.また,コウモリの休憩場所で夏眠するAmphipyra属のシマカラスヨトウA.pyramidea,オオウスヅマカラスヨトウA.erebina,ツマジロカラスヨトウA.schrenckiiがコウモリの餌の中に含まれていたが,資料の収集した日時から夏眠が終了して,夏眠場所を離れた個体であると推測された.
著者
Fiedler Konrad SEUFERT Peter MASCHWITZ Ulrich AZARAE Hj. Idris 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.287-299, 1995-01-20
参考文献数
24

クアラルンプールの北約20kmに位置するマラヤ大学Ulu Gombak野外実験所付近の二次林(標高200-300m)において,1988-1993年に2種のウラギンシジミCuretis bulisとC. santanaの生態の観察を行ない,卵や幼虫は実験室に持ち帰って,飼育と顕微鏡による観察も実施した.調査地においてC. bulisの雌成虫が川岸のMillettia属(マメ科)に産卵するのを観察したが,産卵はアリのいない新梢にアリとの接触なしに行なわれた. 2種の幼虫は,開けた日当りのよい場所に生育する種々のマメ科木本の新芽で発見された.幼虫期間は9-13日,蛹期間は10-12日であった.幼虫は背部蜜腺dorsal nectary organをもたず,アリ類に世話をされることもなかったが, Pheidole, Anoplolepis, Oecophylla属のアリとは共存していた.これに対して, Crematogaster属のアリは激しく幼虫を攻撃し,その際,幼虫は伸縮突起tentacle organを露出させた.この器官は2齢幼虫から見られ,走査電顕による観察から筒状突起tentacle sheathsの内壁で生産される分泌物を発散する一種の防衛器官と思われたが, Crematogaster属のアリを撃退できなかった.幼虫と蛹は,接触刺激を加えると耳には聞こえない振動音を数分にわたって発したが,その機能は不明である.また,蛹をピンセットなどで摘むと,摩擦発音器stridulatory organによってキーキーと発音した.2-4齢で採集した3頭の幼虫から,蛹化前にApanteles aterグループの多寄生性のコマユバチの幼虫が脱出してきた.光学顕微鏡で幼虫の脱皮殻を観察したところ,胸部第1節と腹部第7節表皮上の窪みperforated chamberには, "pore cupola器官"が密にあったが,腺性の構造は見られなかった.また,第7腹節の"dorsal pores"にも腺の開口や特殊化した刺毛はなかった.筒状突起の陥入部内面の表皮にはうねりながら平行に走るひだがあり,分泌物と思われる微小な暗色の結晶が多数見られた.走査電顕で蛹の体表を観察すると,大まかに4種類の刺毛が見られた.まず,前胸と第6腹節の気門付近には対をなして生じる機械感覚毛と思われる長い刺毛(>200μm)があり,また蛹の体表内に陥入する円形の小孔(約10μm)から生じる"窩状感覚子"様の短い刺毛(約20μm)も見られた.この他に特異な大小2種類のpore cupola器官も観察された.いずれも,窩状感覚子の形状をしており,ひとつは20-30μmの小孔から生じた刺毛の先端が20-50の繊維状に分かれている.もうひとつは,刺毛の先端は乳頭状で10-20μmの小孔から生じる.これらのpore cupolaは,ヨーロッパ産のPolyommatus属やLycaena属などのシジミチョウの幼虫や蛹に見られる同様の構造と相同かもしれない.上記の野外観察の結果は,Curetis属の幼虫がアリを誘って安定した共生関係を形成することはないものの,種々のアリの存在下で生存できることを示しており,この属が客棲性myrmecoxenousであると結論できる.また,顕微鏡による幼虫と蛹の体表器官の観察結果から,ウラギンシジミ亜科が数々の固有新形質をもち,系統的に隔離された位置を占めるグループであることが明らかになった.
著者
森中 定治
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.137-148, 1988-07-10

バリ島には,Delias属belisamaグループに属する種として,Delias belisama balina FRUHSTORFER,1908およびD.oraia bratana KALIS,1941の2種が知られている.KALISはその原記載においてbalinaとのサイズや色彩の差による区別,bratana成虫の嗜好などについて簡単に述べている.しかし,両種の混棲状態や習性の相違などの詳細についてはほとんど報告がない.1984年に筆者はバリ島を訪れ,両種を採集する機会に恵まれた.以来,数度にわたってバリ島に旅行し,両種の成虫の採集および生態の観察を行った.その結果,これまでに知られていない若干の生態的知見が得られたので報告する.また,この両種の分類・命名の経緯,およびバリ島において互いに酷似する両種の分布,サイズ,形態の特徴についても実証に基づいて報告する.なお,成虫の形態の差異に関するより詳細な検討については,続報で発表する予定である.
著者
平井 勇
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, 1961-06-25

1960年5月31日に愛知県刈谷市広小路の道端に生えるナツミカン(高さ2m)より終令幼虫12頭を得,自宅にて飼育中,6月24日に雌雄型1が羽化したので報告いたします.
著者
井上 大成
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.23-28, 2008-01-05
参考文献数
14

2006-2007年にかけての冬に,茨城県つくば市でチャバネセセリの越冬幼虫を観察した.幼虫の密度は,建物の南側の壁に近い草地で高かった.ここではチガヤは冬の間緑色を保っており,幼虫は暖かい日中には活発に活動していた.直射日光の当たる建物の南側の越冬場所では,2月には日最低温度は0℃近くまで下がったが,晴れた日の最高温度は30℃前後にも達した.4月に野外から採集され網室で飼育された幼虫は,4月上旬-5月下旬に蛹化し,5月中旬-6月上旬に羽化した.幼虫は蛹化前に0-3回脱皮した。蛹期間は4月に蛹化した場合には22-35日で,5月に蛹化した場合には16-21日だった.また,野外の壁際の草地に設置したマレーズトラップでは5月中旬に雌成虫1匹が捕獲された.チャバネセセリは北関東の内陸でも,少なくとも暖冬の時には野外越冬していることが明らかになった.
著者
阿江 茂
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.227-235, 1978-12-01

1977年5月20日より7月20日まで,国立科学博物館によるフィリピン動物調査に参加し,主としてアゲハチョウ科の卵・幼虫を採集,飼育したので,その結果について報告する.1.フィリピンモンキアゲハの卵・幼虫は,ルソン島北部山岳においてはサルカケミカン類,ハマセンダン類,およびミカン類のカラマンシー,ポメロから,ミンダナオ島のアポ山ではミカン類から得た.4齢幼虫はすべて黒色の部分が著しく,5齢幼虫の斜帯は両方とも連続であった.2.フィリピンシロオビアゲハの卵・幼虫はルソン,ミンダナオ,パラワン各島においてカラマンシーその他のミカン類から得た.3.オナジアゲハの卵・幼虫は,上記3島で同じくミカン類から採集したが,パラワン島では,マメザンショウMicromelium minutumより幼虫を得,産卵も目撃した.4.アカネアゲハの幼虫は,北部ルソンで野生のミカンAtlantia spinosaより得たが,ミンダナオ島スリガオ地方ではカラマンシーより多数の5齢幼虫と蛹を採集した.5.べンゲットアゲハの古い1♀をパオアイで採集して,ミカン類に数卵を産ませたが,1卵が発生したのみで,それも孵化しなかった.6.パラワンアゲハの幼虫は,パラワン島においてレモンより採集した.7.キべリアゲハの幼虫は,北部ルソンでLitsea sp.より採集した.8.フィリピンキシタアゲハ(マニラ産)は成虫よりArstolockia tagalaで採卵に成功し,南山大で全期間,日本産のウマノスズクサで飼育することに成功した.9.パラワン島産のペニモンアゲハも,成虫よりA. tagalaで採卵に成功し,若齢より南山大で飼育し,中齢より日本産ウマノスズクサに移したが,成虫を得ることができた.10.ルソン島北部山岳では,今回の調査で到達した最北部のボントク付近まで,キャべツ畠が多く,どの畠でもタイワンモンシロチョウが見られたが,野生又は半野生の食草としては,夕ネツケバナ,オランダガラジを発見した.11.パラワン島の原生林で,カキ科植物のDiospyros discolorからユー夕リアの幼虫1頭を発見し,その植物でしばらく飼育したが,蛹化にいたらず死亡した.12.フィリピンシロオビアゲハ,アカネアゲハ,パラワンアゲハ,オナジアゲハを南山大学の23℃,1日11.5時間照明の飼育室で飼育し,非常に低い割合ではあるが,休眠蛹が生じることを確認した.また北部ルソンで幼虫を採集し,現地し蛹化したキべリアゲハ1頭が休眠蛹となったことを確認した.フィリピンでは乾期にこれらの蝶は,成虫の個体数は少なくなるが,全く見られなくなることはない.したがって恐らくこの休眠は乾期に適応して,集団の中の一部の個体が休眠に入る部分的な蛹休眠であろうと推定される.
著者
黒子 浩 Gaedike Reinhard
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.49-69, 2006-01-10

ササベリガ科は,世界から約100種が記載される小さな科で(Gaedike, 1996),わが国からはMeyrick(1931),一色(1957),森内(1982),Gaedike & Kuroko (2000),奥(2003)により2属5種が記録されているが,固定に問題のあるものが含まれている.これらを整理し,2新記録種を追加,6新種を記載した.本科は派生形質として後脛筋全面に固い剛毛を有し,前翅後縁に謝状の鱗片総をもつ.Epermenia属には腹部第1-2筋に発香毛を蔵したポケット状の嚢(共通派生形質)があるが,二次的に欠除した種もある. ササベリガ科は以前はYponomeutoidea(スガ上将)におかれたが,近年は独立の上将Epermenioidea(ササベリガ上科)が創られ,その下におかれる(Minet, 1983). 1. Phaulernis fulviguttella (Zeller, 1835) キモンクロササベリガ 前翅長5.0-6.0mm.森内(1982)によりP. monticolaとして記載されたが,ヨーロッパからロシアにかけ広く分布するvulviguttellaのシノニムとされた(Gaedike, 1993).前翅後縁の歯状鱗毛総は二次的に欠除.また本属は腹部に発香毛をもたない.ヨーロッパから日本まで広く分布.寄主植物は海外でセリ科のミツバグサ属,マルバトウキ属,シシウド属が知られる. 2. Phaulernis pulchra Gaedike, 1993 トサカササベリガ(新称) 比較的大型で前翅長6.0-7.0mm.前翅にEを横にしたような橙赤色紋がある(和名はこの斑紋の特徴に由来する).前翅後縁に歯状鱗毛総をもつ.ロシア沿海州より記載された美麗種である.日本新記録. 3. Phaulernis chasanica Gaedike, 1993 ウスグロヒメササベリガ 前翅長5.0-5.7mm.前翅中央に橙褐色部があり,一見ヒメササベリガに似るが,基半部が灰白色をなさないので区別できる.ロシア沿海州から記載された.日本では奥(2003)により盛岡から記録されたが,図示されるのはこれが初めてである. 4. Epermenia (Cataplectica) sugisimai sp. nov.シロオビササベリガ(新称) 前翅長4.0mm.前翅後縁に歯状鱗毛総をもたない.第2腹筋のポケットは短い.前翅は暗褐色地に,後縁から中室に達する2本の白い細い帯がある.分布は北海道. 5. Epermenia (Calotripis) shimekii sp. nov. ウスチャオオササベリガ(新称) 大型で前翅長7.0-7.5mm.他の種より前翅の幅が広く,翅頂は鈎形に曲がる.森内(1982)により誤ってstrictellaとして固定された種である.外見上はヨーロッパからシベリアに分布するE. illigella (Hubner) に似るが,交尾器の特徴で区別される.Calotripis亜属に含まれる種は全て前翅後縁に鱗毛総,腹部にポケットを有する.本州に分布する. 6.Epermenia (Calotripis) ijimai sp. nov. シベチャササベリガ(新称) 前翅長6.2mm.標茶で採れた1♂により記載された種で,前翅の中央から先端部にかけて橙褐色の鱗粉があり一見ヒメササベリガに似るが,中室端に黒点をもたない.北海道に分布. 7.Epermernia (Calotripis) strictella (Wocke,1867) ハイイロオオササベリガ(新称) 前翅長6.5-7.5mmに達するわが国で最も大型の種である.前翅は細長く,灰白色地に灰黒色の鱗紛を散らし,斑紋に変異が多い.日本,韓国,ロシア,ヨーロッパ,アフリカ,カナダ,北アメリカと殆ど汎世界的分布を示す.寄主植物は,海外でセリ科のFerula属,ミツバグサ属が知られる. 8.Epermenia (Calotripis) uedai sp. nov. ニセトベラササベリガ(新称) 前翅長5.7mm.前翅は一見トベラササベリガに似るが,中室内にチョコレート褐色の縦斑があり,中室端には黒点なく,代わりに白色紋がある.沖縄に分布. 9.Epermenia (Calotripis) siniovi Gaedike, 1993 シシウドササベリガ(新称) 前翅長5.0-6.0mm,前翅は灰褐色をしているが斑紋に変異が多く,前翅基半部の灰白色のもの(普通型),中室内に黒色縦条のあるもの(黒条型),褐色の強いもの(褐色型),全体が灰黒色を帯びるもの(暗色型)があるので,斑紋のみによる同定は要注意.極東ロシアに分布.寄主植物はシシウド.日本新記録(国後島を除く). 10.Epermenia (Calotripis) muraseae Gaedike & Kuroko, 2000 トベラササベリガ(新称) 前翅長4.8-6.0mm.前翅斑紋はシシウドササベリガ(普通型)によく似ているが,中室端に明瞭な黒点をもつので区別できる.なお本種の♂交尾器aedeagus内にあるcornutusの基方の渦巻き形の構造は,他種との重要な区別点となる.三重県,和歌山県,奄美大島,沖縄に分布.幼虫はトベラの果実内に穿入し内容物を食べる. 11.Epermenia (Epermeniold) fuscomaculata sp. nov. チャマダラササベリガ(新称) 前翅長4.0-5.5mm.小型で前翅は長披針形,黄褐色をした3本の横帯(最初の帯は前縁のみ)があり,個体により横帯の間と中室端に黒点のあるものがある.屋久島,奄美大島,沖縄,台湾に分布. 12.Epermenia (Epermeniola) pseudofuscomaculata sp. nov. ニセチャマダラササベリガ(新称) 前翅長4.0-5.0mm.前種に酷似しているが,前翅には概して黒鱗の散布が多く,前翅2/3にある黒点がやや横長で白色鱗で囲まれ,さらにその外側が黒鱗で縁取られる.交尾器(雄のuncus,雌のsignum)による同定か確実である.沖縄に分布. 13.Epermenia (Epermeniola) thailandica Gaedike, 1987 ヒメササベリガ 前翅長5.5-7.0mm.前翅の基方1/3は灰白色,それより先の部分は淡黄褐色の鱗粉で覆われる.中室端の黒点は幾分横長で白色鱗で囲まれる.雄には腹部基部に発香毛を含むポケットのあるものと,無いものとがあるが,原因は不明.沖縄の個体群は小型(翅長4.0mm)で, signumの形にも僅かな差がみられる.日本(本州,九州:本島および沖縄),ロシア,タイに分布.
著者
那須 義次
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-28, 2000-01-01

Bactra(Chiloides)cerata(Meyrick)キモンヒメハマキ(新称)前翅開張10-12mm.前翅の地色は灰褐色;基部から2/3の間に3-4個の黄褐色の斑紋がある(まれに不明瞭)ことで,同属の他の種と識別は容易である.分布:インド(アッサム),スリランカ,タイ,ベトナム,小スンダ列島,フィジー,パラオ諸島,西南ニューギニア,台湾,日本(本州,九州,琉球).日本新記録.寄主植物:不明.Eucosma lacteana(Treitschke)ホソバシロヒメハマキ(新称)前翅開張12-14mm.E.metzneriana(Treitschke)トビモンシロヒメハマキに外部表徴では類似するが,より前翅が細く,小さいこと,斑紋が不明瞭なこと,雄交尾器のuncusが3角形であること,valvaのくびれ部(neck)が狭いこと,雌交尾器のlamella postvaginalisが長方形であることで識別できる.分布:ヨーロッパ,ロシア,モンゴル,日本(北海道).日本新記録.寄主植物:キク科:ヨモギ属の種.日本ではヨモギの花序から飼育されている.Rhopobota okui Nasu(新種)ソヨゴチビヒメハマキ(新称)前翅開張9-12mm.外部表徴ではR.kaempferiana(Oku)ヤマツツジマダラヒメハマキに類似するが,より前翅が小さいこと,中帯がより広いこと,肛上紋が白っぽいことで識別できる.雌雄交尾器での識別は容易である.分布:日本(本州).寄主植物:モチノキ科:ソヨゴ(果実).Parepisimia catharota(Meyrick)ミナミキオビヒメハマキ(新称)前翅開張12mm.本種は近縁種のP.relapsa(Meyrick)に類似するが,中帯が同幅であること,前縁翅頂近くの三角紋が小さいこと,雄交尾器では幅広いcucullusを持つこと,valvaのcostaに突起を持たないことで識別できる.分布:アンダマン諸島,タイ,台湾,日本(琉球).日本新記録.寄主植物:不明.
著者
神保 宇嗣 杉島 一広 小木 広行
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.315-323, 2004-09-30

日本でこれまであまり知られていなかったナニワズハリキバガ(新称)Anchinia cristalis(Scopoli,1763)を北海道本土から記録し,幼虫期および蛹期の習性とともに再記載した.日本のキバガ上科には類似した種はおらず同定は容易である.今回,4月に本種の幼虫がジンチョウゲ科のナニワズDaphne jezoensisの先端の葉数枚を綴ったシェルター内に見出された.幼虫は夜行性で,シェルター外で葉を食害する.蛹化は枝や壁面に尾端で懸垂した状態で行われ,繭が構築されないために蛹が裸出する.蛹はタテハチョウ科で知られる垂蛹に近い.成虫は5-6月に羽化した.国外での食餌植物としては,同じくジンチョウゲ科のヨウシュジンチョウゲDaphne mezereumおよびカラフトナニワズDaphne kamtschaticaの記録がある.本種には極東亜種A.cristalis kuriliensis Lvovsky,1990が記載されているが,この扱いおよび北海道集団の所属は今後の課題である.Anchinia属は旧北区から5種,東洋区から1種が知られるが,極東からは本種のみが記録されていた.知られている限りでは,本属の種はすべてジンチョウゲ科のDaphne属を寄主とする.また,原索動物サルパ綱の属Anchinia Rathke,1835の存在に気づいたが,ナニワズハリキバガの属Anchinia Hubner,1825のほうが先行するので原索動物のほうが新参同名となる.Anchiniaの科階級群の所属に関して,1970年代中期以降様々な提案がなされてきた.それらは大きく分けて三通りに分類される.すなわち,Hypertrophaを模式属とする科階級群にハリキバガ属を含めるとする第一の処置,Amphisbatisを模式属とする科階級群に含めるとする第二の処置,そしてハリキバガ属を含むたかだか6属からなる単系統性の高い亜科ないし族(模式属はハリキバガ属あるいはそれに最も近縁と推定されるHypercallia)を設けるという第三の処置である.第一の処置の根拠は,蛹が裸出し起立するという習性がHypertrophaとハリキバガ属に共通するというものである.しかし,本研究での観察により,ハリキバガ属の蛹が起立するのではなく懸垂することが明らかにされたため,この処置の妥当性は疑問視せざるを得ない.第二の処置は,ハリキバガ属とAmphisbatisの間に顕著な差違があるにしても,より適した群が見あたらないから,という消極的な理由によるものである.この処置は,ハリキバガ属とAmphisbatisが近縁であるとの誤解につながる畏れがあるために採用しがたい.それに対して,三つ目の処置は,その亜科あるいは族の単系統性を支持する形質が複数示されており,さらに先の二つの提案をした著者であっても,その群の近縁性は支持している.従って,この処置を採用しHypercalliinaeを認めることは妥当であろう.しかしながら,この亜科に近縁な分類群は特定されていない.ハリキバガ亜科の強く支持された単系統性と,それに近縁な分類群が未知であることを同時に示すため,本報ではLeraut(1997)の案を採用し,ハリキバガ属を広義マルハキバガ科の亜科Hypercalliinae(ハリキバガ亜科:新称)の一員として扱うこととした.マルハキバガ科は多系統的な分類群であることを前提とした"waste basket"として機能してきたので,ハリキバガ亜科が他の特定の群に近縁であると誤解される可能性は低く,また将来キバガ上科の科階級群の再編が行われる際にハリキバガ亜科が見逃されることも避けられるであろう.
著者
横地 隆 松田 英仁
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.17-34, 1999-01-20

はじめに塚田(1991)によれば,Euthalia agnisはマレー半島,ボルネオ,スマトラ,ジャワ各地から記録され,いずれの産地でもかなりの稀少種である.最近ボルネオ産亜種tinnaに類似した型(以下,tinna型とする)の♂個体が北部,西部スマトラから複数得られたが,これらは従来スマトラより知られる亜種modestaとは全く異なるものであった.また筆者の1人,横地は南タイ産のtinna型の♂個体と,ジャワ産agnisに類似する型(以下,agnis型とする)のマレーシア・キャメロンハイランド産♂個体を所蔵している.つまりスマトラ,マレー半島ではtinna型とagnis型が混棲していることになる.本編ではagnis型とtinna型を便宜的にagnis群(complex)と呼び,パリ国立自然史博物館(昆虫部門)(MNHN),ライデン博物館(RMNH),ロンドン大英博物館(自然史)(BMNH),シンガポール国立大学動物学教室(NUS)におけるタイプシリーズの調査に基づいて本群の分類を再検討した.Agnis群の分類の変遷現在までに記載された本群は次の6タクサである(T.L.:基産地).agniformis Fruhstorfer,1906(T.L.:Deli,Sumatra)agnis Snellen van Vollenhoven,1862(T.L.:Java)canens Tsukada,1991(T.L.:Mt Dempo,S.Sumatra)modesta Fruhstorfer,1906(T.L.:Battak Mts,Sumatra)paupera Fruhstorfer,1906(T.L.:the Malay peninsula)tinna Fruhstorfer,1906(T.L.:Kinabalu,N.Borneo)以下に本群がどのような分類学上の位置で扱われてきたかを年代順に示す(シノニムリストも参照).1.Snellen van Vollenhoven(1862)Adolias agnis Snellen van Vollenhoven,1862 Snellen van Vollenhoven(1862)は,本群のタクソンとして初めて西ジャワからagnisを記載した.原記載では♀が図示されているが,タイプシリーズの個体数は不明である.これ(ら)はRMNHに保管されており,筆者らは確認している.レクトタイプの指定は行われていない.2.Fruhstorfer(1906)Fruhstorfer(1906)はtinnaとその2亜種およびagnisの1亜種の4タクサを記載した.1)Euthalia tinna Fruhstorfer,1906北ボルネオのキナバル山を基産地として2♂1♀で記載された.原記載では♂♀が図示されている.タイプシリーズはMNHNに保管されており,このうち1♂をレクトタイプとして本編で指定した(図13-14).2)Euthalia tinna agniformis Fruhstorfer,1906北スマトラのデリを基産地として3♂1♀で記載された.原記載では♀が図示されている(tinna型).タイプシリーズのうち1♀のみがMNHNに保管されている.しかし,残り3♂の個体は所在不明である.レクトタイプを♀として,その指定を本編でおこなった(図21-22).3)Euthalia tinna paupera Fruhstorfer,1906マレー半島を基産地として1♂で記載されたが,原記載に図示はない.ホロタイプはシンガポール博物館保管と記されている(同館の標本は1957年に全てNUSへ移管された)が,発見できない.またBMNH,MNHNへの移管も考えられたが確認できない(追跡不能).4)Euthalia agnis modesta Fruhstorfer,1906 agniformisと同一基産地である北スマトラのバタック山脈から3♀で記載されたが,原記載に図示はない.タイプシリーズはMNHNに保管されており,agnis型である.1♀をレクトタイプとして,その指定を本編でおこなった(図7-8).3.Fruhstorfer(1913)Euthalia agnis(Snellen van Vollenhoven,1862)ssp.agnis(W.Java)ssp.modesta(N.Sumatra)Euthalia tinna Fruhstorfer,1906 ssp.tinna(N.Borneo)ssp.agniformis(N.Sumatra)ssp.paupera(the Malay peninsula)Fruhstorfer(1913)はザイツ第9巻でもこのように本群を2種として扱った.両種はスマトラで混棲しているとの見解である.またここで初めて1906年に記載したagniformisの♂個体を図示している(pl.129,row b).4.Corbet(1941)Euthalia agnis:Corbet,1941 Corbet(1941)はジャワ産agnisとボルネオ産tinnaにつき比較し,両者を同一種と考えた.5.Corbet(1945)Euthalia agnis modesta:Corbet,1945 Corbet(1945)はスマトラ産modestaをagnisの亜種として示した.標本の図示はないが♂ゲニタリアを示している.6.Fleming(1975,1983)Euthalia agnis paupera:Fleming,1975 Euthalia agnis paupera:Fleming,1983 Fleming(1975,1983)はマレー半島産pauperaをagnisの亜種として示した.♂♀が図示されているが,♂はtinna型,♀はagnis型である.7.D'Abrera(1985)Euthalia agnis paupera:D'Abrera,1985 Euthalia agnis tinna:D'Abrera,1985 Euthalia agniformis:D'Abrera,1985 D'Abrera(1985)はpauperaとtinnaをagnisの亜種とした.またagniformisを独立種として記述したが,その扱いに確証を持っていない.tinnaはagnis(あるいはEuthalia merta)と同一種ではないかと考えたためである.8.大塚(1988)Euthalia agnis modesta:Ostuka,1988大塚(1988)はボルネオ産をagnisとし,亜種名にmodestaを充てた.しかしmodestaは北スマトラを基産地としており,tinnaをmodestaのシノニムとする記述もないことから,本来はtinnaとすべきである.♂♀の個体が図示されている(tinna型).9.塚田(1991)Euthalia agnis(Snellen van Vollenhoven,1862)ssp.agnis(Java)ssp.modesta(N.Sumatra)ssp.canens(S.Sumatra)ssp.paupga(W.Malaysia)ssp. tinna(Borneo)Euthan aconthea(Cramer,1777)ssp.purana(Sumatra)=agniformis塚田(1991)は,tinnaをagnisのボルネオ亜種とし,agniformisをEuthalia acontheaのスマトラ亜種puranaのシノニムとして扱った.Fruhstorfer(1913)によるSeitz,vol.9,pl.129,row bに図示されたagniformis♂がEuthalia acontheaと考えられるためである.塚田(1991)におけるpl.110,fig.1の♂はtinna型で,figs 2,3の♀はagnis型である.また南スマトラ産に新亜種名canensを与えた.10.Eliot(1992)Euthalia agnis paupera:Eliot,1992 Eliot(1992)はマレー産をpauperaとして記し,1♂1♀を図示した.このうち1♀はagnis型であるが,1♂は(やや写真の鮮明さに欠けるものの)tinna型と思われる.考案以上の変遷をみると,Fruhstorfer(1906,1913)はagnis群を種tinnaと種agnisの2種としたが,その後Corbet(1941)がagnisの1種として以来,この分類が一般的となっている.しかし今回までに筆者らが入手した標本,資料に基づき検討を加えたところ,本群はFruhstorfer(1906,1913)の分類に準じて2種に分けるのが以下のような理由から適当と考えられる.1)北部,西部スマトラよりtinna型♂の再発見従来より得られていたスマトラ産の個体はagniformisのタイプ標本を除いて全てagnis型(亜種modestaとされる)であった.この例外のagniformisの♀タイプ標本はtinna型(♂タイプ標本は不明)であり,Fruhstorferが1906年にスマトラより記載したものである.しかしその後agniformisの分類学的位置は曖昧のままとされてきた.今回筆者らはタイプの調査を行うとともに,agniformisに相当するtinna型の♂個体を初記録として北部,西部スマトラより入手できたため,同島に両型が分布することを確認できた,つまりmodestaは種agnisの亜種,agniformisは種tinnaの亜種として整理される.2)南タイ・ラノンよりtinna型♂の発見Fruhstorfer(1906)はマレー産pauperaをtinnaの亜種としているが,筆者らはマレー半島産のtinna型の標本をこれまで実見していなかった.ただし,Fleming(1975,1983),塚田(1991),Eliot(1992)での図示標本は♂は全てtinna型,♀はagnis型と考えられる.また宮下哲夫氏(東京)の私信では,彼のコレクションのマレー産1♂はtinna型であるとのことである.ところが筆者のひとり,横地の所有する1♂はagnis型であり,♀も現在までagnis型しか見ていない.前述のようにpauperaのタイプ標本は所在不明で,原記載には図示もなく,これが果たしてtinna型かagnis型かは不明である.しかし,後にFruhstorfer(1913)が本タクサをtinnaに分類していることから,pauperaがtinna型であることは間違いないと思われる.今回筆者らははじめてtinna型の♂を南タイから入手したことで,tinna型の♀は未知ではあるものの,マレー半島にも両型が分布することを確認できた.つまり真のpauperaは種tinnaの亜種,マレー半島産のagnis型は種agnisの新亜種(hiyamai ssp.nov.,図9-12)として整理するのが自然であろう(厳密に言えば,今回発見の♂個体はpauperaの基産地とは離れた産地に由来することも考えられ,亜種レベルで同一視できない可能性も残されているが,ここではpauperaに含めて扱うこととする).原記載以後agniformisに触れたのは,Fruhstorfer(1913)以外にはD'Abrera(1985)と塚田(1991)のみであり,それは独立種とされたりEuthalia aconthea puranaのシノニムとされたりしてきた.タイプシリーズ3♂1♀のうち,3♂は所在不明で実見できないが,Seitz vol.9に図示があり,この♂は種acontheaとみるべきと考える.実際,塚田(1991)も同様の扱いをしている.1♀はMNHNに保管されておりtinna型である.この1♀をレクトタイプに指定することで,agniformisの分類学的位置が明確になる.塚田(1991)はスマトラ亜種を北スマトラのmodestaと南スマトラのcanensに分けているが,両者を区別するのは困難であるため,ここではcanensをmodestaのシノニムとした.さらにボルネオ,西カリマンタンより種tinnaの♀が記録された.新亜種の可能性があるが,1♀のみの記録であるため,図示(図17-18)に留めておく.Euthalia (Euthalia)agnis(Snellen van Vollenhoven,1862)ssp.agnis(Snellen van Vollenhoven,1862)(図1-4)分布.W.Java,C.Java.ssp.modesta Fruhstorfer,1906(図5-8)=canens Tsukada,1991,syn.nov.分布.Sumatra.ssp.hiyamai Yokochi&Matsuda,ssp.nov.(図9-12)分布.W.Malaysia.Euthalia(Euthalia)tinna Fruhstorfer,1906,sp.rev.ssp.tinna Fruhstorfer,1906(図13-18)分布.Borneo.ssp.agniformis Fruhstorfer,1906,stat.rev.(図19-22)分布.N.Sumatra,W.Sumatra.ssp.paupera Fruhstorfer,1906,stat.rev.(図23-24)分布.W.Malaysia,S.Thailand.種agnisと種tinnaの形態学的差異1.翅斑♂(1)翅形はagnisの場合tinnaに比べ,前翅肛角の張り出しが強いのに対し,tinnaは後翅前角の張り出しが強い.(2)両種とも翅表の色調は黒茶色だが,agnisではやや紫がかり,濃淡のめりはりがはっきりしている.(3)両種とも前翅表の白斑列は一直線に並ぶが,図25で示す角度αがagnis<tinnaとなる.また,白斑個々の形はagnisでは個々の白斑の大きさがほぼ同一で類円形もしくは楔形となるのに対して,tinnaの場合横に細長くなり,第5室のものが最も大きくなる.(4)agnisは後翅表第7室を中心に藤紫色を呈するが,tinnaでは認めないか,もしくは非常にうすい.(5)翅裏は地色がagnisでは灰白色であるが,tinnaでは茶色である.♀(1)翅形はagnisの場合tinnaに比べ,前知外翅中央の凹みが強い.(2)翅表の地色はagnisでは黒茶色がとくに強く,濃淡の差があるが,tinnaの場合ほぼ均一の茶色.(3)翅裏の地色は両種とも茶色であるが,色調はagnisのほうが明るい.(4)前翅の白斑列はagnisでは消失するか薄くなるが,tinnaでは第1b室に明瞭である.(5)後翅はagnisでは第7室にわずかの白色部分を有するのみであるが,tinnaの場合大きく明瞭な白帯を有する2.パルピ両種とも同一形で,先端部に針状突起はない.3.アンテナ両種とも同一で,先端部の表面は黒色,裏面は褐色を呈する.4.♂ゲニタリア図26(E.agnis modesta,S.Sumatra),図27(E.tinna agniformis,N.Sumatra)に示すように,valvaの形状にやや差があるものの,両種に基本的な相違は見られない.まとめ筆者らが得た標本,各博物館の所蔵標本および文献に検討を加え,いわゆるEuthalia(Euthalia)agnis(Snellen van Vollenhoven,1862)(Rhopalocera,Nymphalidae)は種agnisと種tinnaの2種に分けるのが適当であるとした.
著者
加藤 義臣 矢田 脩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.171-183, 2005
参考文献数
31
被引用文献数
2

Brown and yellow types in the forewing fringe color in the so-called "Eurema hecabe (L.)" show sympatric distribution on Okinawajima Island in the Ryukyu Islands and occurrence of their characters is closely linked with seasonal wing morph expression and host plant use (Kato, 2000a, b). Further, these sympatric types are sexually isolated at the level of behavior (Kobayashi et al., 2001). In the present study, distribution pattern of these two types was investigated in southwestern Japan (16 sites) and Taiwan (3 sites) and their taxonomic status was reevaluated. In Amami-Oshima, Kuroshima, Kumejima, Taketomijima, Iriomotejima and Yonagunijima Islands, only the brown type was found while in Kagoshima-shi, and Okinoerabujima, Yoronjima and Tokashikijima Islands, only the yellow type was seen. Sympatric distribution of the two types was found in Tokunoshima, Okinawajima, Miyakojima, Ishigakijima and Haterumajima Islands, and Taiwan. The fringe color type was linked with seasonal wing morph expression and host plant use in all populations, as shown in previous papers (Kato, 2000a, b). These results strongly suggest that the two types have differentiated at the species level. The examination of the lectotype of Papilio hecabe Linnaeus, 1758 revealed that it was the brown type. Based on these, we here propose that the yellow type butterflies belong to a different species, Eurema sp.
著者
城本 啓子 櫻谷 保之
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.215-237, 2007-03-30

1990年から2006年まで各地で野外調査を行った結果,19科44種の植物が8種のヤママユガ科ガ類(シンジュサン,ヤママユ,ヒメヤママユ,クスサン,ウスタビガ,オナガミズアオ,オオミズアオ,エゾヨツメ)の餌植物として確認された.新たか餌植物として,カバノキ科のイヌシデでヤママユ,ヒメヤママユ,クスサン,ウスタビガ,エゾヨツメの幼虫が各地で確認され,ウバメガシではウスタビガとヒメヤママユの幼虫が確認された.また,ウスタビガではヤナギ科2種と植栽種であるハナミズキ,ヒメヤママユではネジキとオオバクロモジ,クロガネモチ,クマノミズキも餌植物として確認された.最も多くのヤママユガ科分類が利用していた餌植物はイヌシデとコナラで5種(ヤママユ,ヒメヤママユ,クスサン,ウスタビガ,エゾヨツメ),統いてクリで4種(ヤママユ,ヒメヤママユ,クスサン,ウスタビガ)の利用があった.また,日本におけるヤママユガ科ガ類の今回および既知食樹記録とヤママユガ科ガ類の系統の関係についても考察を行った.餌植物種によるクラスター解析では,地理的分布の狭いヤママユガ科ガ類3種(ヨナグニサン,ハグルマヤママユ,クロウスタビガ)の距離は短くなった.すなわち分布の狭い種は餌植種が少なくなっており,分有の広いシンジュサンは餌植物の科によるクラスター解析では距離が一番長くなった.ヤママユガ科ガ類間の餌植物種の類似度(Ochiai指数:OI)は,同じ属であるヒメヤママユとクスサンの間ではやや高かったが(07=0.425),他の種との類似度はあまり高くないことが示された.また,シンジュサンの餌植物種(24種)の約38% (9種)が羽状複葉を利用しているなど,植物の葉の形態によって選択している種もあると考えられた.ヤママユガ科ガ類の餌植物種は生息環境の植生や,クスサンのような集団発生する種においては餌植物の枯渇により周囲の植物への移動などにより多様化していったと考えられる.ウスタビガやオオミズアオの雌成虫がライトに誘引された際に建物の壁などへの産卵する現象が見られた.このような誤産卵やイヌシデのような他の鱗翅目幼虫があまり利用していない"空きギルド"を利用することなどにより,ヤママユガ科ガ類の餌植物種数はヤママユガ科種間同士の重複をある程度避けながら広がっていったと考えられる.