著者
山崎 一夫 高倉 耕一 今井 長兵衛
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.173-175, 2010-07-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
14

オオタバコガの幼虫が大阪市の家屋内でパンを摂食しているところを見出された.この幼虫は偶然に人家,食料品店,あるいはパン製造所のいずれかに侵入し,パンを見つけて摂食にいたったものと考えられる.この幼虫はそのままパンを食餌にして飼育したが,蛹化せずに死亡した.本報告は大蛾類が加工穀物食品を加害した稀な報告例であり,本種のパン食の記録としては2例目である.本種は葉以外に花や果実などを好んで摂食する習性があり,鱗翅目幼虫を捕食することも知られている.本種において稀にパン食が見出されるのは,多食性とタンパク質を多く含む食物を選好する習性が原因なのかもしれない.
著者
田中 正弘
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1-2, pp.41-53, 1968-10-31 (Released:2017-08-10)

1.モンシロチョウPieris rapae crucivora BOISDUVALの胚子発生の全過程を22 stageに分け,それぞれのstageにおける胚子の形態について述べた. 2.胚子発生段階と温度との関係について述べた.胚子は9〜35℃の温度範囲で正常に発育し,30〜31℃における胚子日数は最短である.16〜31℃の温度範囲で,胚子日数と温度との間にはD=aT^2+bT+c,胚子の発育速度と温度との間にはV=aT+bの関係が成立する. 3.胚子の発育零点について述べた.孵化を基準とした胚子の発育零点は9℃であるが,8℃以下の低温でも胚子の発生は続けられる.胚子の発生を基準とした場合,真の発育零点は6℃以下である.
著者
Akio SEINO
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3-4, pp.121-125, 1981-02-20 (Released:2017-08-10)

The genus Bacotia was erected by TUTT (1899) for a single European species, Fumea sepium SPEYER. DIERL (1966) described a second species of this genus, B. nepalica DIERL, from Nepal. No further species have been known in the world. In this paper I will describe a third species from Japan, with brief notes on biology.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.215-228, 2000-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
10
被引用文献数
6

'Sleep' behavior of butterflies at night was observed in 46 individuals belonging to 13 species in 1999 at my house garden. The main sleeping place of Papilio xuthus receives little sunshine, having a high humidity, and is windless compared with the other areas. This species slept hanging from a twig of the tree or at the top of a grass stem 60-150cm high, and usually kept its wings closed. I observed two cases that seemed to be the same individual spending two nights on the same spot. Argyreus hyperbius slept with its wings closed and selected a twig 150-200cm high. This species probably spent two nights at the same spot like P. xuthus. Therefore, I believe that those species had an exact memory of the sleeping place of the previous night, hence they came back to sleep the next evening. Eurema hecabe always slept with its wings closed and hanging from the underside of a leaf of short grass. They preferred a rather dry and open place. Zizeeria maha always slept with both wings closed at the top of a short grass stem 40-50cm high.
著者
黄 国華 小林 茂樹 広渡 俊哉
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.261-266, 2008-09-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
10

クロスジキヒロズコガ Tineovertex melanochrysa (Meyrick, 1911)は,小型のヒロズコガ科の一種で,本州,四国,九州,国外では,台湾,インドに分布することが知られている.本種の成虫は昼間に活動し,発生時期には比較的多くの個体が見られる.本種の雌交尾器は特異で,第8背板にメディアンキール(median keel)をもつ,産卵器の先端が鋸歯状となるなど,マガリガ上科にみられるような「突き刺すタイプ」となっている.この特異な形態から,本種が生きた植物の組織内に卵を産み込むのではないかと推定されていたが,実際にどのような産卵習性をもつかは不明であった.また,幼生期の生態などについても不明な点が多かった.著者らは.2007年7月上-中旬に大阪府能勢町三草山,および採集した成虫の行動を実験室で観察した.野外での観察の結果,雌はシダ植物のシシガシラ Blechnum nipponicum (Kunze) Makinoの葉の裏面に産卵するのを観察することができた.また,室内での観察により,卵は成葉の複葉裏面の組織内に1個ずつ複数個が産み込まれること,孵化後に組織から脱出した幼虫は植物体を食べずに地面に落下し,ポータブルケースを作って,枯れ葉などを食べることが明らかになった.本種の生活史は原始的なヒゲナガガ科とよく似ており,生きた植物に産卵する習性をもつことはヒロズコガ科では例外的である.世界的に見るとフィリピンに分布するIschnuridia Sauber, 1902とインド-オーストラリアに分布するEctropoceros Diakonoff, 1955などの属の種が類似した雌交尾器の形態をしていることが知られているが,生態に関する情報は少なく,これらが単系統群であるかどうかについても今後の検討が必要である.本種はMeyrick (1911)によってインド産の標本をもとに記載され,その後,台湾と日本から記録された.大阪府大の所蔵標本を中心に調査した結果,日本国内では以下の府県での分布が確認された.成虫が採集されたデータによると,本州・四国・九升|では年1回,琉球列島(八重山諸島)では少なくとも年2回発生し,近畿では,3-4齢幼虫で越冬すると考えられる.分布:本州(大阪府),四国(高知県,愛媛県),九州(福岡県,鹿児島県),琉球列島(石垣島,西表島,与那国島);台湾;インド.
著者
有田 豊 GORBUNOV Oleg G. MOHAMED Maryati
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.131-142, 2003-03-30

ボルネオ島サバ州のマリアウベースン保護地域で第一著者の有田は2001年5月6-12日の短期間にスカシバガ科の調査を行った.スカシバガ科の調査は合成性フェロモンを用いて行ったが少数の個体が得られたのみであった.そのうちの2新属2新種と1新種を記載した.Bidentotinthia Arita&Gorbunov gen.nov.ヒメスカシバガ亜科のTinthiini族のTinthia Walker,1865,Microsphecia Bartel,1912,Zenodoxus Grote&Robinson,1868,Sophona Walker,1856諸属に外形が似ているが,♂ゲニタリアが異なるので新属を設けた.Bidentotinthia borneana Arita&Gorbunov sp.nov.(Figs 1,4,6a-d)Trichocerota brachythyra Hampson,1919にいくぶん似ているが,ラビアル・パルプス,脚,腹部などの色彩が異なることで区別される.合成性フェロモンに1雄のみ飛来した.Tarsotinthia Arita&Gorbunov gen.nov.V字型の横脈や長い後脚,♂ゲニタリアなどによってOsminiini族のAschistophleps Hampson,1893,Pyrophleps Arita&Gorbunov,2000両属と区別される.Tarsotinthia albogastra Arita&Gorbunov sp.nov.(Figs 2,5,7a-d)長い後脚と腹部裏面が白いことで他の種類と分離できる.合成性フェロモンに1雄のみ飛来したScoliokona hyalina Arita&Gorbunov sp.nov.(Figs 3,8a-d)S.tetrapora(Diakonoff,1968),S.heptapora Kallies&Arita,1998と似ているが,これら2種とは後翅に幅広い外縁帯がないことや♂ゲニタリアで区別される.合成性フェロモンに3雄のみ飛来した.
著者
杉 繁郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.115-118, 1994

タイ国産のEuhamsponiaの1新種を記載した.この新種は,ヒマラヤのE. niveiceps (Walker),台湾のE. formosana (Matsumura)シロズエグリシャチホコ,スンダランドのE. roepkei Hollowayと併せてこの群を構成する.雄交尾器の腹縁から側方に張出すフラップ状の構造は本種に固有である.中国本土の標本では,若干形状に差異があるが,本文では上記の新種に含めた.従来Euhampsonia gigantea (Druce)として扱われていた種をEuhampsoniaから分離し, Gangaridesに移した.
著者
那須 義次 富永 智
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.70-72, 2014

最近,著者の富永が沖縄島でテンニンカ(フトモモ科)の新葉を綴ったりあるいは葉を巻いたりしている見慣れない幼虫を採集した.羽化標本を検討したところ,日本新記録のテンニンカヒメハマキ(新称)Eccoptocera palmicola(Meyrick,1912)であることがわかった.本種は,スリランカから記載された種で,それ以外からの初めて記録となる.また寄主植物を明らかにし,♀交尾器を図示した.本種は前翅開張が9-11mmの小型のヒメハマキガで,♂触角の基部は浅く凹む.前翅は細長く,♂は細長い前縁ひだ(costal fold)をもつ.前翅の地色は白灰色で,前縁部は褐色がかる.肛上紋は白灰色で,中に3本の黒色短線を有する.♂後翅の内縁は伸長し,内縁ひだ(anal fold)をもつ.本種はバンジロウヒメハキStrepsicrates semicanella(Walker,1886)に類似するが,より小さいこと,前翅の地色がより白灰色であること,♂交尾器のソキウスが痕跡的であること,細長いバルバをもつこと,♀交尾器のパピラ・アナリスが大きいこと,コルプス・ブルサエの後方の壁が硬化すること,2個の角状のシグナをもつことで識別できる.バンジロウヒメハマキもテンニンカを摂食するが,本種の終齢幼虫は長さ12-14mmと大きく,体色も暗緑褐色であることで,テンニンカヒメハマキと区別できる.Eccoptocera属はハワイ,グアム,スリランカ,日本(沖縄島),オーストラリア(クイーンズランド)に分布し,6種が知られるが,ハワイには未記載種が9種いるという.本属の幼虫はフトモモ科,ウコギ科およびツツジ科植物を摂食するとされる.本属は,特徴的なウンクス,痕跡的なソキウスおよび前後翅とも翅脈が減少することで単系統性が支持されており,Spilonota,Strepsicrates,HolocolaおよびHermenias属に近縁であるとされる.
著者
原 聖樹 落合 弘典
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.97-101, 1980
被引用文献数
1

北アルプス姫川谷下流域および山形県最上川中流域のLuehdorfia属2種の混生地において,Luehdorfia japonica LEECHギフチョウとL.puziloi inexpecta SHELJUZHKOヒメギフチョウとの間の雑交個体が少なからず採集されている.これらはいずれも,ヒメギフチョウ♂によって形成された受胎嚢を腹端に付着させたギフチョウ♀であって,その逆の組合せ例は知られていない.一方,ハンド・ペアリングによる両種の種間雑種の第一世代の育成は,交配飼育技術が昨今長足の進歩・普及を遂げたこともあって,愛好家の間ではかなり普遍的なものになってきた.ただし,これは前記の組合せの雑交(♀はギフチョウ)に関してであって,逆の組合せ(♀はヒメギフチョウ)にはあてはまらない.もちろん,従来まったく逆の組合せのハンド・ペアリングがこころみられなかったというわけではなく,この場合,正常な産卵を見るところまでは成功している(高倉,1965,1973).けれども,その卵が孵化した例はなく,この組合せによる種間雑種は幼虫・蛹・成虫等については未知である.筆者らは,野外でギフチョウ♂によって形成された受胎嚢を付けたヒメギフチョウ♀を採集し,この母蝶に強制採卵をこころみ,種間雑種F_1の幼虫・蛹を見ることができたので,その概要を報告する.発表に当り,種々ご協力いただいた伊藤正宏・森井謙介・斉藤洋一の諸氏に謝意を表する.
著者
寺田 剛
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3-4, pp.43-47, 2021-12-31 (Released:2021-12-15)
参考文献数
4

A new species of the Stathmopoda pedella species group from Japan, S. chalcogramma n. sp. is described. This species was reported in Terada (2016) as two separate unidentified species. It was subsequently found that the specimens in question were conspecific following the examination of additional specimens detailed in this work. The external characteristics of the new species are similar to those of some other members of the species group (S. pedella, S. neohexatyla, S. atridorsalis, S. sericicola, S. centihasta and S. stimulata). The adult external characteristics, wing venation, and male and female genitalia of the new species are illustrated and compared with similar species.
著者
松井 悠樹 中 秀司
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3-4, pp.49-58, 2021-12-31 (Released:2021-12-15)
参考文献数
18

We found Pleuroptya harutai (Inoue) comprises two different species. The only host plant records so far known for Pl. harutai are in the Sapindaceae, but we found larvae similar to those of Pl. harutai rolling and feeding on the leaves of Styrax obassis (Styracaceae). We also collected larvae from Aesculus turbinata (Sapindaceae), and compared the morphology of adults and mitochondrial DNA sequences with those from S. obassis. Results show that the insects from the two different foodplants constitute separate species. Since the holotype has not been examined, we cannot yet establish which of the two strains is true Pl. harutai. Morphological and molecular differences between the two taxa corresponding to the difference of host plants are provided.
著者
Ekgachai JERATTHITIKUL Naratip CHANTARASAWAT 矢後 勝也 疋田 努
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.132-139, 2013-12-25 (Released:2017-08-10)

シジミチョウ科の幼虫は,アリと単なる共存から片利共生,相利共生,また共生の中でも特定のアリとしか結び付かない絶対的共生から多くの種のアリと関係する任意的共生,さらには寄生(アリ幼虫の捕食)に至るまでの広範な関係を持つことが知られる.一部ではアリと共生する半翅目を捕食したり,その分泌物を食して成育するものもいる.これらのアリに襲われずに共生等の関係を続けられる性質は好蟻性(myrmecophily)と呼ばれる.そしてアリとの相互関係を維持できる基盤には,アリの制御を可能とする化学的,音響的あるいは視覚的信号をつかさどる好蟻性器官(myrmecophilous ograns)の存在が重要となる.シジミチョウ科ヒメシジミ族に属するクロツバメシジミは,国内では東北地方を除く本州から四国,九州にかけて局地的に分布するシジミチョウ科の一種である.本種の幼虫もアリとの関連性がすでに知られているが,その好蟻性や好蟻性器官に関する詳しい情報はこれまであまり知られていない.2009年から2011年にかけて,筆者らは九州地方の9カ所において本種の調査を行い,幼生期を含む本種を観察,採集した他,幼虫の好蟻性や随伴するアリ類などに関するいくつかの知見も得た.採集した幼虫の体表に見られる好蟻性器官に関してSEMを用いて調べたところ,一般的な共生関係が知られるシジミチョウ科幼虫が持つ基本的な3つの好蟻性器官,すなわち蜜腺(DNO=dorsal nectary organ),伸縮突起(TOs=tentacle organs),PCOs(Pore cupola organs)が認められた.蜜腺は腹部第7節の背中域に見られる横長に開口した大きな器官で,ここからアリが好むアミノ酸や糖類を含む分泌物を多量に放出することが知られる.伸縮突起は腹部第8節の背側域に備える一対の伸縮可能な筒状器官で,本種では先端部周辺に20前後の羽毛状の突起を備えていた.この器官からアリの行動を制御する揮発性物質が放出されるとも言われるが,単に物理的(あるいは視覚的)に刺激をアリに与える器官かもしれず,詳しい機能は不明である.PCOsはドーム形または多少凹んだレンズ状の上部を備えた円柱形の微小器官で,体表全体に散在するが,特に本種では蜜腺と気門の周囲に多く見られた.本種のPCOsは側面上部に4〜8つの三角状の短い突起を有し,特にこの形状はツバメシジミ類の近縁種Cupido minimusと酷似し(Baylis and Kitching,1988),その類縁性がうかがえる.この器官の表面からアリの体表物質に類似した組成の炭化水素やアミノ酸などが検出されるために分泌器官の一つとされる.その他の好蟻性器官として樹状突起(dendritic setae)が認められた.樹状突起はDNOの周辺や気門の周囲,前胸背楯板上などによく生じるが,本種ではDNOの両側の周囲のみに限られていた.DNOやTOsを持たない好蟻性の種の体表上にも散見されることや,物理的な刺激に対する受容器として機能することなどから,アリを感知する重要な感覚毛とされる.好蟻性器官以外の注目すべき構造として,体表全体に散在する剌毛が通常の針状の他にやや扁平なしゃもじ状となるものも少なからず見られた.この形状は好蟻性との関連性によるものと考えられる.また,ソケットの多くは星形をしていたが,これはヒメシジミ族に広く見られる形状である.さらに今回の調査では,幼虫に随伴するアリとしてルリアリ,ヒゲナガケアリ,ハダカアリ,ツヤシリアゲアリ,ミナミオオズアリ,オオシワアリ,トビイロシワアリの7種を記録した.このうちトビイロシワアリを除く6種は,本種の共生アリとして初記録の可能性がある.このように複数種のアリ類との関連が確認された結果から,おそらくクロツバメシジミの好蟻性"任意的共生関係"と考えられるが,今後は九州以外の本州から四国にかけての他地域での好蟻性や共生アリなどの調査も必要であろう.
著者
J. N. ELIOT
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.201-225, 1990-12-20 (Released:2017-08-10)

ウラギンシジミ(Curetis)属に関する分類学的研究はHAPMAN(1915),FRUHSTORFER(1908),SEITZ(1924).CORBET(1937),EVANS(1954)などがあるが,総合的な研究はEVANS以来なされていない.本稿では雄交尾器の形態を中心にウラギンシジミ属の分類学的再検討を行い,大筋においてEVANS(1954)の体系を支持する結果を得るとともに若干の変更点を提唱した.ウラギンシジミ属はSHIROZU&YAMAMOTO(1957)のように,雄交尾器の詳細な研究から独立の科とされることもあるが,ここでは広義のシジミチョウ科の1亜科Curetinaeとして扱う.ただし,広義のシジミチョウ科とはこのウラギンシジミ亜科Curetinaeとシジミタテハ亜科Riodininae,キララシジミ亜科Poritiinae(Lipteninae:sensu ELIOT,1973を含む),アシナガシジミ亜科Miletinae(Lyphyrinae:sensu ELIOT,1973を含む),ベニシジミ亜科Lycaeninae(Theclinae,Lvcaeninae,Polyommatinae:sensu ELIOT,1973を含む)の5亜科からなるものである.本稿では新種の記載は含まれていないが,筆者が提唱する分類体系は本文末尾のリストに示したとおりである.EVANS(1954)ではウラギンシジミ属は13種であったが,その後に記載されたfreda ELIOT,1959と今回の変更点をあわせて18種を認めた.EVANS(1954)の体系からの主な変更点を以下に示す.(1)スリランカからソロモン諸島まで分布するとされていたthetisを真のthetis(スリランカとインドの半島部),saronis(アッサム〜スンダランド),"snnersnecies barsine"(スラウェシ〜ソロモン諸島)に分割した.さらに"superspecies barsine"をvenata(スラウェシ),nesophila(フィリピン),barsine(マルク〜ニューギニア,ソロモン諸島)の3種に分割した.(2)独立種とされていたdentataをacutaの亜種とした.(3)acutaの亜種nagaを独立種とした.(4)tonkinaの亜種として記載されたmetayeiをsperthisの亜種とした.EVANS(1954)は,本属をthetis sectionとbulls section(insularisを含む)の2群に分割したが,ここではinsularisを1つのグループとして認め,以下の3群に分割した.(1)thetis群(thetis,saronis,nesophila,venata,barsine,tagalica,regula)雄交尾器のphallusの末端は右側面が鋸歯状となることもあるが,背面の半膜質部はshuttle-pieceと呼ばれる骨片を常に有する;brachiaは曲がる;翅の裏面には微細な黒点が散布されず,前翅裏面の中室外側の条線(postdiscal striae)は外縁に平行に走る.(2)bulis群(sperthis,siva,felderi, santana,tonkina,bulis,acuta,nasa,brunnea)Phallusの末端は右側面が常に鋸歯状となる;brachiaは曲がる;翅の裏面全体に微細な黒点が散布される;前翅裏面の中室外側の条線は外縁とは平行でなく翅頂部に向かう.(3)insularis群(insularis,freda)Phallusは後半部が曲がっており,末端は鋸歯,shuttle-pieceのいずれも持たず1つの尖った突起となる;brachiaは直線状;翅の裏面は微細な黒点が散布されず,前翅の中室外側の条線に平行に連続に走る.

1 0 0 0 OA 他山の石(10)

著者
磐瀬 太郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3-4, pp.30-31, 1954-12-15 (Released:2017-08-10)
著者
Ulrich MASCHWITZ Wolfgang A. NASSIG Klaus DUMPERT Konrad FIEDLER
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.167-181, 1988-09-20 (Released:2017-08-10)

アシナガシジミ亜科の幼虫はすべて肉食であり,同翅亜目の昆虫およびその分泌物を食物としている.東南アジアのLogania,Miletus,Allotinusの3属の食性についてはほとんど知られていなかったが,我々の最近の研究で,これらの幼虫が肉食性であることが確認された.またアリの巣中での盗食寄生など,今まで知られなかった食性についての知見を得たので報告する.観察および実験は1986年から1987年にかけてクアラルンプールのMalaya大学Ulu Gombak野外研究センターとその付近で行われた.
著者
〓 良燮 朴 奎澤
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.75-82, 1992

韓国産Lobesia属(鱗翅目,ハマキガ科)についてはMicrolepidoptera of Korea(朴, 1983)において, L. coccophaga FalkovitshとL. permixtana Hubner (=reliquana Hubner)の2種が記録されていたにすぎない.今回,韓国の昆虫系統分類研究センターに所蔵されているものを中心に詳細な比較検討を行った結果,従来韓国から知られていた種以外に,3新記録種(virulenta Bae & Komai, yasudai Bae & Komai, aeolopa Meyrick), 1新種(pyriformis Bae & Park)を含む計6種を認めた. 1. Lobesia reliquana (Hubner)分布:韓国(江原, Gangweon Prov.);日本;ユーラシア大陸に広く分布する.寄主植物:モモ. 2. Lobesia virulenta Bae & Komai (韓国新記録種)分布:韓国(江原, Gangweon Prov., 京畿, Gyunggi Prov.,全南, Jeonnam Prov.);日本.寄主植物:韓国では不明.日本ではカラマツ,ナシ,エゴノネコアシアブラムシのゴールなど. 3. Lobesia yasudai Bae & Komai (韓国新記録種)分布:韓国(江原, Gangweon Prov.);日本.寄主植物:韓国では不明.日本ではノリウツギ,ハマナス,シュウリサクラが記録されている. 4. Lobesia pyriformis Bae & Park (新種)以上の3種とよく似ているが,本種の前翅は他種に比べて前縁がやや突出し,黄褐色の斑紋が明瞭に現れることにより他種から区別できる.雄交尾器では幅広いvalvaと短いcucullusをもち,雌交尾器はやや長いナシ形を呈することにより特徴づけられる.分布:韓国(京畿, Gyunggi Prov.).寄主植物:不明. 5. Lobesia aeolopa Meyrick (韓国新記録種)分布:韓国(済州島, Jeju Is.);日本;南アジアに広く分布する.寄主植物:韓国では不明.国外ではアキニレ,ビワ,ソメイヨシノ,ミカン属,ブドウ,チャ,カキなどが記録されている. 6. Lobesia coccophaga Falkovitsh 分布:韓国(京畿, Gyunggi Prov.);日本;沿海州.寄主植物:スイカズラ.
著者
長嶺 邦雄
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.30-34, 1962

筆者は1961年9月3日〜9月24日の21日間,琉球八重山群島の石垣,西表両島の昆虫,主に蝶類採集を行った.その間,台風20号,18号と二度も台風に見舞われ,また2人でテントをかついでの旅行とあって十分な採集も出来なかったが60種を目撃し,47種を採集することが出来た.また幼生期に関しても若干の新知見を得たのでここに報告したい.なお私の採集してない種でも同行の長嶺将昭氏の採集した種はこの報文に加えた.その際は氏の姓名の頭文字(M.N.)を文尾に附した.
著者
R. J. D. TILLEY J. N. ELIOT 吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.153-180, 2002-06-20 (Released:2017-08-10)
参考文献数
27

シジミチョウ科47種とシジミタテハ科7種について,緑,青,紫といった光沢を発する鱗粉の微細構造を調べた.構造色による虹様光沢には,Urania(ツバメガ)型とMorpho(モルフォチョウ)型が知られる.調べたシジミチョウのほとんどは,鱗粉表層部の多重層によるUrania型であったが,予期せぬことに,Lycaeninae(シジミチョウ亜科)のAphnaeini(キマダラルリツバメ族)と,Eumaeini(カラスシジミ族)の中のDeudorigina(トラフシジミ亜族)とHypolycaeninaのいくつかの種でMorpho型が観察された,シジミチョウ科のUrania型は,Eliot(1973)によって"pepper-pot"(胡椒入れ)型と名付けられたように,多重層に多かれ少なかれ穴の開いたやや複雑な微細構造を示すものが大部分であった.一方,シジミチョウ科のMorpho型は,鱗粉表面の縦隆起(ridge)の側面に生じる縦溝(flute)の作用によるもので(Morpho(flute)型),縦隆起側面のscuteによるシジミタテハ科,タテハチョウ科,シロチョウ科,アゲハチョウ科の,Morpho(scute)型とは全く異なっていた.系統や分類の分野では,鱗粉の形態は従来あまり用いられて来なかった.これは,類似した型のものが複数の科にまたがって現われるからである.しかし,シジミチョウ科の光沢鱗のほとんどが,蝶の他の科では見られないUrania(pepper-pot)型であることや,今回見つかったMorpho型がflute型であることは重要と考えられる.Morpho(flute)型は,例外的にアカエリトリバネアゲハの翅表の緑色鱗と裏面の青色鱗に認められる以外は,シジミチョウ科に特徴的と思われる.また,シジミタテハ科では,シジミチョウ科に現われる様々な型のどの1つも見られず,特に構造色鱗はタテハチョウ科で報告されているものと同じであった.シジミタテハ科については,従来,シジミチョウ科の1亜科として他のシジミチョウと姉妹群を成すという考えや,シジミチョウ科の姉妹群となる独立した科,またはタテハチョウ科の姉妹群となる科とする意見が提出されてきた.今回の観察は,シジミタテハ科とタテハチョウ科を姉妹群とする見解を支援する新しい情報を提供する.シジミチョウ科の中で,どちらの型の鱗粉が最初に獲得されたかを解くには,南米のシジミチョウ科を考慮する必要がある.南米は,北米経由のアンデス産のいくつかのPolyommatina(ヒメシジミ亜族)を別とすれば,亜族Eumaeinaのみが分布する.シジミチョウ科の起源は白亜期初期におけるローラシアのユーラシア域と信じられるが,ゴンドワナ大陸のアフリカ/南米陸塊へのシジミチョウ科の侵入は"ジブラルタル・ルート"であったろうとされ,白亜期中期前後の2つの大陸の分離時期には祖先的Eumaeiniのみが存在したとするのが論理的である(そうでなければ,今の南米にはEumaeini以外のシジミチョウ科も分布する筈である).亜族EumaeinaではUrania型の鱗粉のみが見られることから,シジミチョウ科の構造色鱗の起源はUrania型で,Morpho型は2つの大陸の分離後アフリカで進化したと推測できる.Urania型が先に現われたとする根拠は,それがPoritiinae(キララシジミ亜科)に見られることにもある.一般にシジミチョウ科の初期の分岐は,Poritiinae,Miletinae(アシナガシジミ亜科),Curetinae(ウラギンシジミ亜科)へと続く枝からのシジミチョウ亜科の分離を導いたと考えられるので,Urania型鱗粉はこの非常に早い段階で既に存在していたと推定される.Morpho(flute)型を有する3つのグループの内,亜族DeudoriginaとHypolycaeninaは,♂交尾器や翅脈から見て互いに近縁であり,また亜族Eumaeinaとも近縁である.DeudoriginaとHypolycaeninaはアフリカに分布の中心があり,恐らくインド大陸がアジアに衝突した後,東洋区や旧北区の東南縁に広がった.これは,.Morpho(flute)型がアフリカ大陸の分離後にアフリカで生じた考えをうまく説明できる.問題は残る1つのAphnaeini族である.この族はシジミチョウ亜科で最も早く分岐したグループと考えられ,ローラシアからゴンドワナ大陸に最初に入ったシジミチョウと考えられるが,そうであれば,この族が南米に産しないことは説明しづらい.この族の祖先が森林地域に適応できなかったというのがその説明になるかも知れないが,いずれにせよ,Aphnaeini族でのMorpho(flute)型の獲得は独自に起こったと考えるのが最もありうるように思われる.Morpho(flute)型鱗粉は,未分化(undifferentiated)鱗とUrania型鱗粉から別々に生じたように思われる.細部で高度に改変されたUrania型からの変形はやや想定しづらいかも知れないが,Chliaria属やSiderus属のいくつかの種では明らかに中間的な鱗粉が観察され,その変形過程の説明を可能とする.恐らく,多重層が単層になることで鱗粉表面の縦隆起(ridge)が高くなり,直立した縦溝(flute)も顕著となる.次いで単一の"pepper-pot"層も失われ,縦隆起の間隔が狭まるとともに,縦溝の傾斜が起き,最終的には鱗粉の表層下面と平行になるところまで傾斜が進んだと考えられる.